夢影より出ずる声と力

    作者:幾夜緋琉

    ●夢影より出ずる声と力
    『……く、は……はぁ……っ……!!』
     とある町の、照明が消えた地下下水道……そこに響くは、男が苦しむ声。
     その声の元に視線を向けると……影のようなものから、次第に姿を現し始めている、男。
     いや、男というかどうかは、正直なところ解らない。
     顔は鉄仮面のような物に覆われており、そしてヘッドマークはダイヤの様なマークがついている。
     そして明らかなのは、その野太い声と、彼の身体に立つ、殺気。
    『はぁ……っつ、静まれ、伊豆稀っ……俺の、サイキック、エナジーよ……破ァァッ!!』
     その声と共に、周囲に衝撃波の波動が放出……柱の一部の破片が、バラバラッ、と飛び散っていく。
    『……っ……よし、いい……ぞ……』
     纏う殺気は、先ほどまでの不安定な波動から、纏う瘴気へと変わる。
     ……そして、彼は。
    『……ク、クク……順調だ、順調……さぁ……この力、振るう時が来た様だな』
     と呟いた……ちょうど、その時。
    『な、なぁ……こっちから、なんか聞えなかったか?』
    『あ、ああ……なんだろうな……』
     おそるおそる、地下駐車場へとやってきたのは、若者二人。
     ……そんな二人を視界に捉えた瞬間、彼は。
    『ちょうど良い……模擬戦でもするとしよう』
     と呟き、二人の元へと駆けて行くのであった。
     
    「皆さん、お集まり頂けましたね? それでは、早速ではありますが、説明を始めさせて頂きますね」
     五十嵐・姫子は、集まった灼滅者達に真摯な表情で、依頼の説明を早速始める。
    「今回の依頼ですが……ソウルボード内で活動しているシャドウが、現実世界に現れ、事件を起こそうとしている様なのです。シャドウは深夜の人気の無い地下駐車場に現れ……そして模擬戦と言いつつ、偶然発見した者を殺そうとしている様です。皆さんには、このシャドウの動きを阻止してきて頂きたいのです」
     と、言うと姫子は、シャドウの詳細についての説明を続ける。
    「今までのシャドウとの戦いは、殆どがソウルボードの上での戦いでしたが……今回のシャドウは、現実世界に現れています。つまり、高い戦闘能力を持ちます。その引き替えに、一定時間以内にソウルボードに戻らなければならない……という特性がありました」
    「しかし……今回のシャドウは、その力をセーブする事により、長期間の戦闘に耐えうる能力を得ている様なのです。勿論、セーブしているとは言え、その戦闘能力は、今まで闘ってきたダークネス以上ですから、心しておいて欲しい所です」
    「彼の戦闘手段は、シャドウとして影を纏い、一気に近接して、強力な一撃を叩き込んでは離れる……という、ヒットアンドアウェイの戦闘手段になります。一撃ごとにかなりの体力を削られかねませんので、体力維持が大きなポイントになるかと思います。その辺り、皆さんよく相談して、隊列や作戦等はよく考えてみて下さい」
     そして、姫子は最後に皆を見渡してから。
    「何にせよ、かなり危険な任務であると思います。ですが、皆さんなら必ずやこなせるはず……そう、信じています。どうか、宜しくお願いします」
     と、深く頭を下げるのであった。


    参加者
    神薙・弥影(月喰み・d00714)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    月見里・无凱(深淵揺蕩う紅銀翼・d03837)
    空飛・空牙(影蝕の咎空・d05202)
    希・璃依(駆け出しグルメリポーター・d05890)
    乱獅子・紗矢(獅子心乙女・d13748)
    永星・にあ(紫氷・d24441)
    アルスメリア・シアリング(討滅の熾焔・d30117)

    ■リプレイ

    ●シャドウの現身
     姫子が告げた、シャドウ討伐の、この依頼。
     今までに無い、ソウルボード上ではなく、現実世界に現れたという状況に……灼滅者達は、焦りを覚えていた。
    「シャドウの現実世界への顕現……とうとう長時間可能になったのね」
     神薙・弥影(月喰み・d00714)がぽつり、と呟いた言葉……それに月見里・无凱(深淵揺蕩う紅銀翼・d03837)が。
    「ああ。シャドウの実体化が長時間滞在可能に……考えられるのは歓喜の門、だろうか。何らかの形でシャドウの最後の一つ……ザ・ダイヤが関わっているのは確かだろうか……」
     軽く顎に手を当てながら考える天凱……そして弥影と天凱は、更に。
    「まぁ、現実世界に居続けるために、力を抑えているって姫子さんは言ってたわね……どうやって力を抑えているのかしらねぇ……?」
    「さぁな……唯でさえ、シャドウは雲を掴むような感じが否めないしな……これで少しでも情報を得られれば良いのだがな」
    「そうね……しっかり、気を引き締めていかなくちゃいけないわね」
     ……そんな二人の会話に対し、乱獅子・紗矢(獅子心乙女・d13748)と、空飛・空牙(影蝕の咎空・d05202)は。
    「まさかシャドウが現実世界に出てくるとは思わなかったぜ……なぁ?」
    「ああ。まさか現実にご登場とは恐れ入るよなー」
     けらけらと笑っている空牙、それに永星・にあ(紫氷・d24441)が。
    「んー……でも、今回の一件は思念体とは関係無いのかな? それにしても、一般の方相手に模擬戦とは……私には、ただの暴力に見えるのだけど……」
    「全くだぜ。その力の抑え方含め、誰から教わったのかは聞きたいところだが、まあいいか。シャドウはただ、狩るだけだ。なるようになるさ」
     さらに空牙は、にあにも笑い答える。そして希・璃依(駆け出しグルメリポーター・d05890)が。
    「何にせよ、現実世界でシャドウと戦うのは初めてだ。気を引き締めて行こう」
     と皆に言うと、ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)と、アルスメリア・シアリング(討滅の熾焔・d30117)も。
    「そうですね。色々聞いてみたいことはあるのですが、相手は格上、しかも一般人もいますし、気を引き締めていきましょう」
    「ああ。強力なダークネスであるシャドウとの戦い……でも、絶対に勝ってみせる。誰一人として、欠けさせたりはしない!!」
     と、気合いを込める。
     ……そして。
    「うっし……んじゃ行こうぜ、皆。自信過剰そうなシャドウに痛い一撃を叩き込んでやろうぜ!!」
     と空牙が皆にそう告げて、灼滅者達はいざ地下駐車場へと侵入するのであった。

    ●影より出ずる力
     そして、シャドウの居る地下駐車場へと足を踏み入れる灼滅者達。
     ……営業時間も終わり、静寂に包まれている筈な所なのだが……。
    『う……が……ああ……』
     苦しい呻き声が、聞えてくる。
     そして、その呻き声に対し。
    『……ふん、模擬戦と言ったが、この程度では力試しにもならないではないか』
    『し、知るか、よぉ……』
     ぐぎぎ、と呻き声を更に上げる男……それに気づいた灼滅者達が急ぎ、その声の元へと急行。
     壁に男をたたきつけているシャドウ……そんなシャドウに対し、即座に璃依が殺界形成を展開。
    『……ん?』
     と、視線を後方に向けて……灼滅者達を視認すると。
    『……なんだ、お前達は?』
     シャドウはこちらに興味を持ったようで、一般人の胸ぐらを掴んだ手を放す……そのまま地面に落下し、ゲホ、ゲホと咳をしている彼に。
    「トリック・オア・トリート……じゃなかった。死にたくなかったら立ち去れ!!」
    「……邪魔。死にたくなければ、さっさと帰りなさい」
    「そうですよ。危険ですから、あちらに避難して下さい」
    『ひ、ひぃぃ……!!』
     天凱のパニックテレパスに、アルスメリアの言葉と更なる殺界形成が彼を恐怖に包む。
     そして方向を指示するヴァン……取る者取らず、這うようにしながらその場を後にする彼。
     彼が退避した後に、ヴァンが灯りを点灯すると共にサウンドシャッターで、その場から一般人を総て排除する。
     ……そして、灼滅者達が間に割り込むように対峙すると……シャドウは。
    『……灼滅者か。毎度毎度、邪魔をしてくる奴らか』
    「……禍々しい瘴気を纏う者よ! 力無き者を狙うなんて許せない! どうしてもその力を振るいたいというのなら……私達が相手になるわ、シャドウ!!」
     びしっ、と指を差して宣戦布告するアルスメリア。それにほぅ……と、口端を釣り上げるシャドウ。
    『そうか……愉しませてくれる、と言うのだな? それほど、お前達は実力に自信がある、という事か?』
    「そうよ……ほら」
     とアルスメリアがスレイヤーカードを解放……そしてヴァンも静かに眼鏡を外し、鋭くシャドウを見据える。
     ……そんな灼滅者達の力自慢に、シャドウも……乗り気になった様で。
    『面白い……先ほどの男では模擬戦にもならなかったからな。少しは楽しませてくれるんであろうな?』
    「ああ……少なくとも、な。しかし力を制限して活動時間を延ばす……それ、歓喜にでも習ったか? デスギガスってのが歓喜なのか?」
    『……』
     静かに、視線を向けるシャドウ……それに、更に紗矢、璃依が。
    「なんで外に出てきたんだ? デスギガスとか言う奴の命令か?」
    「デスギガスってのは、ダイヤのシャドウか? お前も……ダイヤのスートを持っている様だからな? もしかして力をセーブして現実で活動しろちうのも、そいつの指示か?」
     そんな二人の言葉に、シャドウは。
    『……お前達に言う必要は無い』
     静かに、瘴気を燃え上がらせるシャドウ。それに空牙と璃依が更に。
    「それ、歓喜にでも習ったのか? デスギガスってのが歓喜なんだろ? そもそもお前等シャドウは何がしたいんだ? 他と違ってやる事バラバラすぎんぜ?」
    「そうだ。歓喜の門ってなんだ? まさかアブソーバー? それともソウルボードとの境界がなくなるって事か?」
     と、問いただしていく……が、シャドウは、更に瘴気を燃え上がらせ、先手の一手を喰らわせる。が……その攻撃は、璃依がディフェンダーの力で受け止めながら、己にワイドガード。
     そして……空牙が。
    「そうか、話さないなら……お前に用は無い。今ここでその存在を狩らせてもらうぜ」
     ニヤリと笑みを浮かべる空牙に、天凱、弥影、にあにアルスメリアが。
    「総てを皇帝し抗い続ける。Endless Waltz」
    「喰らい尽くそう……かげろう」
    「Et occidam ventus」
    「来たれ、我が炎! 顕現せよ熾焔!」
     と、次々にスレイヤーカードを解放、戦闘態勢を整える……そして、シャドウの攻撃を受けた璃依は。
    「仲間が傷つく姿は見たくない。さあ、やられた分はやり返そう」
    『ナノ!!』
     と皆に声を掛け、そして彼女のナノナノ、王子がふわふわハートで彼女を回復。
     ……そして、まず動くはジャマーの紗矢。
    「さぁ、これでも喰らっとけ!」
     と夜霧隠れを先陣切って仕掛ければ、スナイパーのアルメリア、メディックのヴァンがレーヴァテインと、制約の弾丸を続けて叩き込む。
     何にせよ、まずはバッドステータスを続けて叩き込むことで、彼の動きを制限していく。
     そして制限された中、クラッシャーの弥影、天凱、空牙も鬼神変、螺旋槍、幻狼銀爪撃で、一気にシャドウの体力を削る。
     ……そしてにあはドーピングニトロで自分にEN破壊を付与し、シャドウの攻撃を受ける耐性を整える。
     1ターン目が終わり、2ターン目。
     ジャマーの紗矢がクラッシャー陣の弥影、天凱、空牙に一つずつ闇の契約を付けていく……そしてアルスメリアが鬼神変で攻撃。
     ……それに対し、璃依とにあの二人へ、シャドウは確実に攻撃を叩き込む。
     一撃一撃が、超強力な攻撃……でも、その攻撃を受けながらも。
    「リィシールドは鉄壁だぞっ、オマエに屈したりはしないっ」
    「ええ……それにしても、シャドウが態々、ソウルボードから外へ……ですか。何故、外で出歩く必要があるんです?」
     と声を上げる。
     勿論シャドウは、それに対し何か答えるという事は、無い。
     むしろ、灼滅者達との戦闘を、楽しんでいるようにも思える。
     そんな重い攻撃を横目で見ながら、弥影、空牙が。
    「しかしこの重い攻撃……まともに受けてられないわね」
    「ああ……だが、殺し合いなら望むところだ……狩り殺してやる」
     と、クラッシャー陣二人も声を上げる。
     ……そして、そんな中。
    「本当……何故、貴方はシャドウでありながら、長時間の滞在が何故可能なのか……そんな術があるのか?」
     と、声を掛けて、更なる情報を引き出そうとする……が、シャドウは決して口を割ることは無い。
    「……何も言わないというのなら……倒すだけ」
     にあの言葉。
     勿論、シャドウは熾烈な攻撃で、灼滅者達の体力を削り続ける。
     でも、それを。
    「援護します」
    『ナノ!』
     王子とヴァンが確りと回復し、重傷にはどうにか陥らせないように動き回り……そして、十数ターン経過。
     ジリジリと、シャドウの体力を削り続け……がくっ、と片膝崩れ落ちるシャドウ。
    『っ……く!』
    「……シャドウ。力は誰かを傷つける為にあるんじゃない! 誰かの大切なものを守る為にある! それを知らないオマエに……負ける訳にはいかない!!」
     アルスメリアの宣言、そして渾身のレーヴァテインの一撃を叩き込むと……空牙が。
    「自由はやらん。ここで果てろ」
     その宣告と共に、胸に畏れ斬りの一撃を叩き込み……シャドウは、絶叫と共に、灼滅されるのであった」

    ●切迫の中
    「……ふぅ……どうにか、終わった様だな……」
    「ええ……お疲れ様、でした」
     璃依とヴァンがが武器を降ろし、深く、静かに息を吐く。
     どうにか、無事シャドウを灼滅。
     何とか、皆立っている。
     ほっと一息つける状態ではあるものの……。
    「そう……ね……と、皆、無事!?」
    「怪我の具合は如何ですか?」
     と、アルスメリアとヴァンがが心配そうに、皆の怪我の状況を確認し、ひどい怪我は取りあえず包帯を使って応急手当をしていく。
     とは言え、個々の体力はもはや限界近く……数人は、立っているのもやっと、といったレベル。
     それほどまでにシャドウは、力を制限していたとは言え、強力なダークネスであるのは間違いない。
    「さすがに皆さんボロボロみたいですね……」
    「ええ……流石、シャドウ……といった所……ですね」
     こくりこくり、とにあが頷く。
     こんな強力なダークネス……本気を出したら、どれ程の強さなのだろうか……想像するだけで、鳥肌が立つ。
     ……しかし、そういった強力なダークネスとも、今後は戦っていかなければならないのだろう……そう思うと、気持ちに重くのし掛る。
    「……守る為の力、それが本当の強さだって思う。ううん、そう……信じたい……」
     と、ぐっと拳を握りしめるアルスメリア、その言葉ににかっ、と笑いながら空牙が。
    「おーし、皆お疲れさん。さぁてと、帰ったら情報整理かな?」
    「ああ、そうだな……少なくとも、シャドウ事件は他にも数件、発生しているようだし……それらの情報を纏めれば、何か解るかもしれないな」
    「ああ、そうだな……何が解るかは解らないが、情報を集める必要はあるだろう」
     にあに璃依も頷き、そしてアルスメリアが。
    「そうだね……さぁ、帰ろう!!」
     と、元気よく声を上げて、そして灼滅者達は地下駐車場を後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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