なぎ倒された樹々、荒れた土。
激しい戦いが行われたと推測される跡。その中央に伏せているのは白い狼――スサノオだった。
そこへ歩み寄る、踊り子のような姿をした女性。
インド風の衣装を纏った彼女の手が、ズッとスサノオの体内へ沈み、白い炎を抜き出す。
苦しげに身体を上下させているものの、まだ息のあるスサノオ。
女性はスサノオにそれ以上かまうことなく、白い炎を手に、暗闇の中へ姿を消した。
「白い炎はスサノオの命の源。それを抜き取られては、スサノオは生きてはいられません」
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が、集まった灼滅者たちに事件の経緯を説明する。このスサノオは、以前とある山中で、古の畏れを呼び出したことがある個体だ。
「スサノオはそれでも何とか生き延びようと、人里に降りてきて、人を襲い、食べてしまおうとしているんです」
人を貪り喰うことでスサノオが本当に生き延びられるのかはわからない。だが、このままでは多数の被害が出ることだけは間違いないだろう。
スサノオが人里に到達する前に灼滅を。姫子は依頼の目的を告げ、机の上に地図を開いた。
スサノオは山から渓谷にかかる橋を渡って人里にやってこようとしている。灼滅者たちがスサノオと接触するのは橋の途中だ。
「橋に到着するところまではちらほらと灯りがありますが、橋の上は真っ暗なのでご注意を。とはいえスサノオは白く光輝いているので、すぐわかると思いますが……」
橋の手前には民家があるため、橋を渡りきられてしまうことは避けたい。橋は戦闘に十分な幅と強度があるが、橋の向こう側――山側は開けた場所になっているので、念の為スサノオを誘導してそこで戦うという手もある。
「スサノオの命の灯火は消える寸前です。戦闘開始から15分たっても決着がつかなかった時には、スサノオは命を使い果たして消滅します。ですが消滅する直前に、スサノオの戦闘力は一時的に大きく上昇してしまうので、その前に灼滅してしまう方が良いかもしれません」
スサノオは人狼のものと、神薙刃、月光衝相当のサイキックを使ってくる。
「スサノオが誰に何の目的で命を削られたのかはわかりませんが、予知できた以上被害は防がなければ……」
みなさんよろしくお願いしますね、と姫子は頭を下げて灼滅者たちを送りだした。
参加者 | |
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真馳・空(スクリプトキディ・d02117) |
綾峰・セイナ(銀閃・d04572) |
高村・圭司(いつもニホンオオカミ・d06113) |
契葉・刹那(響震者・d15537) |
駿河・一鷹(迅雷銀牙ヴァーミリオン・d17774) |
渦紋・ザジ(高校生殺人鬼・d22310) |
丙・嵐(カミカゼ・d27452) |
日輪・水羽(汝は人狼なりや・d27523) |
●
「手負いのスサノオ……ですか。心苦しいですが、堕ちた同胞の凶行を止めるまたとない機会ですね」
目的の橋を目指す道中、人狼をルーツに持つ日輪・水羽(汝は人狼なりや・d27523)が言った。手元で戦闘時に暗闇を照らすためのランプが揺れている。
「核を抜かれたスサノオっていうのも珍しいッスね」
同じく人狼がルーツの丙・嵐(カミカゼ・d27452)が言う。
「スサノオの白炎引っこ抜くなんて、見方によっては俺たち人狼の天敵かもしれないッスし」
「いったい、スサノオになにがあったのでしょう……」
と言ったのは真馳・空(スクリプトキディ・d02117)。すぐ後ろにはビハインドを従えている。
「確かに手負いを攻撃だなんて、何だか可哀想になってしまいますが……」
契葉・刹那(響震者・d15537)が言うと、空は、
「……せめてらくにしてあげたいです」
「そうですね。被害が出るのも止めなければ」
スサノオ以外にも様々な動きが起こっている昨今。刹那も色々と思うところはあるが、
(「今は目の前のことに一つ一つ対処していきます」)
「消え逝くスサノオか……素直に消滅してくれればいいのだが、最後に迷惑な悪あがきだな。うむ」
高村・圭司(いつもニホンオオカミ・d06113)が言った。霊犬『護郎丸』は、主人より頼りがいがあって強い自分が主人を守らねばとばかり、圭司の前を鼻先を高く掲げて歩いている。
「経緯はどうあれ、人里に踏み込んで人を食べるってんなら阻止しなきゃね」
そう言って綾峰・セイナ(銀閃・d04572)は、ハンズフリーのLEDライトの調子を確かめた。
「他者を喰らってでも生きてェって、生への固執は嫌いじゃねーがな」
道々の灯りが心もとなくなってきたのに合わせ、渦紋・ザジ(高校生殺人鬼・d22310)も照明を点灯する。
「人に危害を加えるとなったら、見過ごすわけにもいかねェな」
「そもそも核がないのに人間を喰って生き延びられるなんて眉唾ものッスけどね」
嵐は肩をすくめた。と、その時、
「ここだね」
先頭を歩いていた駿河・一鷹(迅雷銀牙ヴァーミリオン・d17774)が、橋の手前で足を止める。それを合図にセイナが殺界形成を発動した。
「うむ。で、スサノオは……、」
圭司が言い終わるより早く、灼滅者たちは駆け出す。遠く光る白い炎を見つけたからだ。
「ライズ・アップ!」
一鷹はスレイヤーカードをかざし、赤と黒の強化服を瞬時に纏った。続けて聞こえた狼らしい遠吠えは、嵐の解除コードだ。
(「何はともあれまずはスサノオっす。野放しにはさせないッスよ」)
「Loading――」
空もスレイヤーカードを解放。灼滅者たちは戦闘に突入した。
●
バラバラっとまかれた嵐いわくの文明の利器、サイリウムが発光し、それぞれが持参した光源が戦場を照らし出す中、まさに決死の勢いでスサノオが突進してくる。スサノオを迎え撃つ配置につきながら、水羽、刹那、一鷹はタイムキープも開始した。
「スサノオ自体と出会うのは初めて、です、が……こんなにも綺麗な生物なのですね……」
刹那はサウンドシャッターを展開しつつ、スサノオの姿に感嘆する。
(「でも見惚れている暇なんてありません、」)
スサノオが初撃に振り上げた鋭い爪の攻撃から水羽をかばい、刹那の服が引き裂かれた。と、ほぼ同時、傷を逃れた水羽は『STORM RIDER』を走らせ、槍を構えた2つの影がひらり跳ぶ。
「全力で行くわよ!」
スサノオの背をセイナの槍が、脇腹をザジの槍が、どちらも激しい螺旋の捻りとともに貫いた。苦しみの咆哮をあげるスサノオ。身体に残る傷、いくらか精彩を欠くようにも感じる動き。命が大幅に削られている状態であることが見てとれる。
「誰にやられたんだか知らんが悪く思うなよ。見過ごすわけにはいかねェんでな!」
槍を引き抜き、ザジが飛び退いた。そこへ舞い降りる刹那の歌声。歌姫を思わせる神秘の響きが、スサノオを惑わせる。
(「スサノオを此処まで追い詰める相手……何者かは気になるけど、」)
一鷹は片腕を半獣化させ、スサノオ同様、銀爪を振りかぶった。
「今はお前を止める!」
一鷹の爪がざっくりとスサノオの毛皮を引き裂き、白が赤に染まる。その隙にスサノオと橋の間をすり抜け、サーヴァントたちが反対側へ回りこんだ。
「日輪一族太陽家、辰星の水羽、参ります」
前脚をぐっと張り、立ち上がりかけたスサノオを、炎を纏った水羽のハイカットスニーカーが蹴りあげる。燃え上がる毛には空の祈りを転写したディスクラベルが届き、スサノオを眠りに誘う。
(「なにかかわったところは……」)
次の攻撃を避けて走りながらも、少しでも原因をつかめれば、と空はスサノオを冷静に観察し続ける。
スサノオはふらつきながらも立ち上がり、唸り声とともに白炎を全身から噴き出した。勢いをつけて人里へ突っ切ろうとしたスサノオの正面には、ソードを構えた嵐が立つ。
「新しい白炎なら俺たち相手の方がいいんじゃないッスか?」
嵐は自分も白炎を身体から噴出し、ソードへ宿して待ち構える。
人里へ抜けることしか考えていないように見えるスサノオに、圭司の縛霊手が振り下ろされた。放出された霊力の網がスサノオをがんじがらめにしたところへ、嵐が炎を叩きつける。
スサノオが背を苦しげに上下させる。灼滅者たちの狙いは、早期の灼滅。息をつく暇はない。
●
「キャリバー!」
スサノオに後退する意志はないと判断した刹那が、ライドキャリバーを民家側へ呼び寄せた。
キャリバーとすれ違うようにセイナが放った詠唱圧縮された矢が、空気を斬り裂いてスサノオへ向かう。刹那はエアシューズでスサノオへ接近。ライドキャリバーも同様に突進する。
突如、スサノオから後衛に向け、まるで日本刀を一振りしたかのような斬撃が放たれた。
「お父様!」
射線に入った水羽と空のビハインドが消し飛ぶ。スサノオにセイナの魔法の矢が突き刺さり、空が放った鋼糸が重ねてスサノオの四肢の動きを封じたところを、刹那が流星の煌きを散らして重い蹴りを喰らわせ、キャリバーの突撃がスサノオの身体を引きちぎる。
ビハインドには声をかけない空。元々倒れるまで戦わせるという方針だった。道具としてのビハインドを正しく運用することは、空の道具に対する愛情表現だ。
(「取り逃がすわけには行かねェ、」)
万が一の退路を塞ぐように走りこんでいたザジが、マテリアルロッドを構えた。
(「犠牲者なんて出たら夢見が悪くなるんでね……、と」)
一拍。天星弓を引き絞っている圭司の意図に気づいたザジは、ロッドを振り下ろすタイミングをずらす。護郎丸が六文銭を射撃。次いで、ザジに圭司の放った癒しの矢が降り注ぐ。命中率を高めた上で、あらためてザジはスサノオにロッドを叩きつけた。
ザジがロッドをスサノオから離し、大きく後ろへ身体を返した空きへ、一鷹が飛び込む。
「たとえお前が瀕死でも……人の命を奪うなら!」
一鷹のサイキックソードがスサノオの胴体と、防御の加護を薙ぎ払った瞬間、ザジがスサノオの体内に注ぎ込んでいた魔力が爆発した。
水羽が縛霊手の指先に集めた霊力を撃ち出す。癒しの光を受け取りながら、嵐は地面から沸き上がってくる有形無形の『畏れ』を纏い、斬撃を放った。
ギャウンと苦悶の声をあげ、スサノオは再び白炎で回復を試みる。
灼滅者側には、全体的な命中率の低さ、スサノオが消滅する15分経過より前に灼滅の意志は統一されていたものの、具体的に何分での灼滅を目指すのかが曖昧、といった問題があった。しかし命中率についてはスナイパーを2人おくことと、圭司によるエンチャントの付与でカバー、さらに命中率の高いセイナがクラッシャーポジションの高い攻撃力を持って攻撃に専念できたこと、サーヴァントたちのディフェンダーとしての働きも加わり、10分前後での灼滅が見えてきている。
タイムキーパーの1人である刹那は、12分が『境目』だと考えていたが、
(「この調子なら……!」)
「10分経過!」
刹那のアラームが鳴り、一鷹が叫んだ。
「押し切るぞ!」
「うむ」
ザジが言い、圭司がうなずく。
と、渦巻く風の刃が一鷹を襲い、装甲から火花が散った。
「っと……!」
両足で踏ん張るも、すぐにマテリアルロッドを握りしめ、体勢低く駆け出す。
「……やれやれ、手負いのスサノオはコワいね!」
押し切るつもりなのはスサノオも同じか。
「通さんよ!」
突進してくるスサノオを喰い止めるように、圭司がエアシューズで蹴りかかった。流星の重力ほどの重い蹴りがスサノオの頭を砕くとともに、護郎丸の斬魔刀が後ろ足を断つ。
「いっきにいきます!」
「倒しきるっス!」
まだ圭司のスターゲイザーによる煌きが残る中、のけぞったスサノオの喉元で2方向からオーラがぶつかった。空と嵐の放ったオーラキャノンだ。喉をえぐりとられ、牙の隙間からがぼりと血を吐くスサノオだったが、それでも膝をつこうとはしない。
「そろそろ観念してね!」
たん、と地面を蹴る音。銀の髪が揺れ、スサノオの斜め上からセイナがしなやかにロッドを振り下ろし、正面からはがっしりと構えた一鷹がスサノオを殴りつけた。
「悪いが、アンタには此処で消えてもらうぜ」
「あなたの狂気もここで終わりです。覚悟なさい」
ザジが拳にオーラを集束させ、水羽は片腕を獣のそれに変化させた。
スサノオの白い輝きが弱まるにつれ、より明るく感じられる月灯りの下、刹那の渾身の歌声も響く。
「成仏してくれ」
ザジが拳で連打を叩き込んだ。跳ねとばされた身体へ水羽の銀爪がざっくりと食い込み、そして、
――ドン。
スサノオの体内を満たしていたセイナと一鷹の魔力が一気に爆発。スサノオの身体は千切れ飛び、細かい肉片から順に、消滅していった。
スサノオが消え去っても、刹那の歌声はまだ続いている。
(「せめて子守唄で、安らかに眠ってくれたなら」)
そう願いながら歌い続ける刹那の声を聞きながら、水羽は消えゆく同胞のために祈りを捧げた。
●
「どう? 空ちゃん。何かあった?」
セイナが、何かスサノオが瀕死になった痕跡が残っていないかと、橋の山側を調べていた空にたずねる。
「いえ、なにものこっていませんでした……」
空は立ち上がり、橋へ戻ってくる。
「手がかりがないのは残念だけど、ともあれ無事灼滅できてよかったよ」
一鷹が言った。ザジは軽く伸びをすると、
「んじゃ、さっさと帰るか」
「うむ。長居は無用だな」
言うなり圭司はニホンオオカミの姿になり、護郎丸と並んでとっとっ、と駆け出す。
「サイリウム、拾いながら参りましょうか」
「そうっスね」
水羽と嵐も歩き出した。
灼滅者たちはサイリウムやランプを回収しながら、民家側に戻る。
「一体、スサノオを傷つけた相手は何処にいるのでしょう……」
最後に橋を振り返り、刹那が言った。
たくさんの仲間たちが事件と謎の解決に挑んでいる。
いつか、謎が明らかになる日もくるだろう。
作者:森下映 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年10月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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