夜遅く、小学校の校門前をいくつかの小さな影が乗り越える。忍び込んだのはこの小学校の男子生徒数人で、少年達は昼間に鍵を開けておいた窓から後者に忍び込むと、ある部屋を目指す。
「ねえ、本当に効き目があるのかな? 引きちぎられるって噂もあるし……」
「心配無いって! 3組の田中がすげー伸びただろ? アレ、してもらったかららしいぜ」
「おい、早くしろよ。帰りが遅いとバレるだろ……」
注意され足を速める少年達が辿り着いたのは保健室。先生が施錠したのか扉は開けられないが、彼らが用があるのは保健室前の扉だった。
「スクスクさん、スクスクさん。お客様が来ました」
「スクスクさん、スクスクさん。僕達の足を伸ばしてください」
「スクスクさん、スクスクさん。僕達の背を伸ばしてください」
待つことしばし。特に何が起こるわけでもなく、少年達の溜息が廊下に響く。
「やっぱりガセじゃ……」
少年の1人が肩をすくめたその時、施錠されていたはずの保健室の扉が開いた。
「いらっしゃいませ。ようこそスクスク整体院へ……」
教室へ呼び出された灼滅者達が扉を開けると、片手で顔を覆うポーズを決めた神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が待ち構えていた。
「待っていたぞ! 今日も俺の脳に秘められた全能計算域(エクスマトリックス)が、お前達の生存経路を導き出す!」
「おう、今回もよろしくな」
お約束を軽く流し席へ着く灼滅者達へ、少し淋しげな視線を向けヤマトは説明を続ける。
「今回の相手は福岡の小学校に現れる都市伝説だ。何でも足を引きちぎるとかで、その名も……」
「『テケテケさん』か?」
灼滅者の1人が有名な都市伝説を口にするが、ヤマトは首を振る。
「いや、都市伝説の名前は『スクスクさん』だ」
元は鹿児島の辺りから出始めた噂で、保健室の前で呼ぶと子供の背を伸ばしてくれる整体師の話だったのだが、噂が北上するにつれ歪んでいったようだ。
「このままだとオリジナルの効果を信じた少年達の足が引きちぎられる。その前に都市伝説を灼滅してくれ」
夜の校舎へ入る必要があるが、少年達が忍び込むのとは別の日のため、鍵を開けておいたり隠れたりなど灼滅者達自身での工夫が必要だ。夜の学校に入れたら、保健室前で『背を伸ばしてほしい』と呼びかければ姿を現す。
「戦闘についてだが、スクスクさんは足を引きちぎる他、良い姿勢を強制しようと石化させたり、自分をマッサージして回復することができる」
更にポジションがメディックのため、攻撃にはブレイクが、回復にはキュア付く。
「このままだと本州にも噂が広まり被害が増えるかもしれない。今回の任務はそれを防ぐ意味もある。頼んだぞ」
灼滅者達に激励を送るヤマトだが、不安げな顔で最後に……と付け加える。
「ただ、今回の件は何か嫌な予感がするんだ。俺の全能計算域ですら全貌を掴めない何かが……。はっきりとしない予知ですまないが、敵はなるべく素早く倒し、灼滅後もすぐ学園に帰還するようにしてくれ」
状態異常に対策をとり、じっくり攻めれば勝利は難しくない相手だが、時間をかける過ぎると何が起きるか分からない。
「お前達ならこのような依頼にも対応できると信じている。頼んだぞ」
ヤマトの眼差しに見送られ、灼滅者達は福岡を目指す……。
参加者 | |
---|---|
風真・和弥(無能団長・d03497) |
護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128) |
六藤・薫(アングリーラビット・d11295) |
七峠・ホナミ(撥る少女・d12041) |
ウェア・スクリーン(神景・d12666) |
上土棚・美玖(高校生デモノイドヒューマン・d17317) |
御巫・夢羽(明日もいい日でありますように・d28238) |
奏森・雨(隅っこ大好き・d29037) |
●潜入、夜の小学校
夜の小学校。街灯の明かりの隙間を縫い、7つの影が校門を乗り越え内部に侵入する。
「分かった。校舎裏に回り込んですぐの窓だな」
「ああ、今んところ宿直が来る様子も無いし、早いとこ頼むぜ」
グラウンドを移動しながら、風真・和弥(無能団長・d03497)が予め校内に隠れていた六藤・薫(アングリーラビット・d11295)へ連絡を取ると、場所を確認した灼滅者達は警戒しながら校舎裏へ向かう。
(「HTK六六六。これまでの報告では、都市伝説を倒した後に来るって話だけど……」)
警戒しておくに越したことは無いと、上土棚・美玖(高校生デモノイドヒューマン・d17317)はDSKノーズで周囲を探る。エクスブレインより『嫌な予感』を告げられた依頼において、都市伝説の撃破後にHTK六六六の襲撃を受けたという報告を聞いていた灼滅者達は、事前に対応を考え現地へ赴いていた。
(「とはいえまずは都市伝説に集中……ですが、いかにも何か『出そう』ですねい……」)
校舎裏の窓から仲間と共に廊下へ入り込む灼滅者達。護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128)は夜の校舎独特の雰囲気に少し怖くなるも、そういえば自分達は『出る』からこそ来たのだと気を取り直しヘッドライトを点ける。
「これが小学校……」
警戒よりも好奇心が前に出そうになるが、それではいけないと奏森・雨(隅っこ大好き・d29037)は気を引き締める。学園の灼滅者には、ダークネスとの因縁を始め諸事情により小学校への通学経験が無い者もいるが、雨もその1人だった。
「殺界形成も起動したし、後は保健室へ行くだけね。夢羽、着いたら頼むわよ」
腰のライトとESPをオンにした七峠・ホナミ(撥る少女・d12041)が御巫・夢羽(明日もいい日でありますように・d28238)に声を掛ける。夢羽は小柄な自分が良いのではないかと、都市伝説を呼び出す役を引き受けていた。
「は、はい。頑張ります! 背に悩む心を弄ぶなんて許せないですよね!」
「ええ。成長は自然に健やかにが一番。スクスクさんは必ず倒しましょう」
身長に悩む当事者として心を燃やす仲間の姿を見て、都市伝説撃破への決意を新たにするウェア・スクリーン(神景・d12666)だったが、当の夢羽は『本当に伸ばしてくれたら……』と思わずにいられなかったりする。努力で解決できない事柄だけに、背の悩みとは業が深いのだろう。
そうこうしている内に準備を終えた灼滅者達は、保健室の場所を下見しておいたという薫に先導され、保健室へと向かった。
●開店、スクスク整体院
保健室に着いた灼滅者達が、スレイヤーカードを起動させて陣形を整えると、夢羽が前に出て都市伝説へと呼びかける。
「スクスクさん、スクスクさん。お客様が来ました。私の背を伸ばしてください……!」
少女の切なる願いが夜の廊下に吸い込まれ、しん……と辺りが静まり返る。そのまま10秒ほど経ったその時、保健室の扉が開き中年男性が姿を現した。
「いらっしゃいませ。ようこそスクスク整体院へ……。早速施術を始めましょう……」
「悪いけど、施術はキャンセルさせてもらうわ」
伸ばされた手から仲間をかばうと、美玖は間合いを広げようと槍を突き出し、夢羽は腕を巨大化させて殴りかかる。
「申し訳ございませんが、当院はキャンセルを受付ておりません。スクスク整体院の名に懸けて、必ずや背を伸ばしていただきます」
対してスクスクさんは否定しながら美玖へと詰め寄り、受ける槍の勢いを逸らし迫る腕を回避する。
「今宵は背丈ではなく、あなたにのびて貰いましょうか……。お覚悟を」
「背が伸びたら嬉しいけど……。足を千切られてまで伸びたいなんて、誰も、思わない。だから……さよなら」
同じく巨大化させた腕を叩き込むウェアと雨。今度はどちらの攻撃も命中し、スクスクさんの体を拳の形にへこませる。
「今日はお客様が大勢でございます。皆様はその腕に見合う背丈をご所望ですか? これは伸ばし甲斐がありそうでございますね」
そんな状態でも、張り付いた笑顔のままで『診察』をするスクスクさんの目が、鬼神変を使った3人へと向けられる。
「伸ばすと言いますけれども、足が千切れたら身長は低くなりますねい」
「短足どころか無足ってわけか。笑えないな」
サクラコが4番手となる巨腕を振るい、和弥の霧がそれを援護するも、これを普通は曲がらない方向へ体を折り曲げかわすスクスクさん。
「キモっ! ってかその避け方した方がダメージあるんじゃねぇ!?」
「まあ、大丈夫だからしてるんでしょうね。でも、その姿勢から更に避けられるかしら?」
光輪で回復と援護を行う薫の隣からホナミの影が飛び出すと、不自然な体勢のスクスクさんを切り刻む。が、スクスクさんが自分で自分の体を揉み解すと、たちまちの内に、傷も、服も、姿勢も元通りになる。
「いかがですかお客様。これが私の『スクスク整体術』でございます」
やはり笑顔を崩さず語りかけるスクスクさん。どうやら即灼滅とはいかないようだ。
●断絶、スクスク整体術
保健室前での戦いは、ディフェンダーを多く配置し、キュアやブレイクに重きを置いた戦術で、灼滅者達が順調に削り勝っていた。
「ううむ。もう少し大人しくしていただかないと、施術ができないのですが……」
「間に合ってるっつってんだろ! こちとら成長痛の毎日だ!」
薫から不規則に伸びる影を、これまた不規則に体を捻じり回避すると、スクスクさんが声を張り上げる。
「成長期でございますね。そのような時こそ正しい姿勢が大切です。さあ、背筋を伸ばして! 猫背はいけませんよ!」
強制的に良い姿勢のまま石化させようとする呪いの言葉が後衛へかけられるが、回復役を潰されまいと、ホナミと夢羽が呪いを引き受ける。
「言われるまでもないわね。私の背筋はいつだって伸びてるわ!」
「それだけで背が伸びたら苦労はしませんっ!」
反撃の矢と風が、いつのまにかやたらと背筋を伸ばしていたスクスクさんを切り裂くと、クラブの紋章入りジャケットをなびかせ、和弥が廊下を駆け抜ける。
「刻め……。風牙一閃っ!」
二刀が交差し、スクスクさんの武器……施術に使う腕を切り裂いていく。
「これはこれは……。ですが、スクスク整体術ならば……」
「そうは問屋が卸しませんねい」
「回復される前に倒すわよ!」
サクラコの魔法弾に対し体を折り曲げるスクスクさんだが、ダメージに動きが鈍り弾幕を避けきることができない。そして、弾丸が撃ち込まれた傷に美玖が炎を蹴り入れる。
「私の整体術は火傷にも効果が……」
「それ、整体ではどうにもならいよね……?」
まだ自身の整体術の素晴らしさを語るスクスクさんを、雨の鋭いツッコミと斬撃が遮ると、その後ろからロッドを振り被ったウェアが現れる。
「申し訳ありませんが、此方はのんびりと整体講座を聞いている暇は無いのです。受けよ、粉砕する魔力の崩撃……!」
全霊と魔力を込めた一撃がスクスクさんの腰を打ち砕くと、そこからサラサラと砂が流れるように全身が消えていく。
「ああ……。まだ伸ばさなければ。声に応えなければ……。私の整体術を世に広め……」
最期まで己の整体術を語り、スクスクさんは消えていく。
こうして都市伝説に勝利した灼滅者達だったが、彼らは撤退せずに更なる行動を予定していた。むしろ、ここからが彼らの考える本番とも言えるだろう。灼滅者達は今まで以上に警戒しつつ、保健室へと入っていく……。
●開講、HTKの解剖実習?
都市伝説を倒した灼滅者達が、予定していた作業のためしばらく保健室を探索していたその時、美玖は急速に接近する『業』を感じ取り声を上げようとした。
「みんなっ! HTKが……」
「おっとぉっ! ちゃんといやがるぜ。今日は大当たりじゃねぇか!」
が、忠告を飛ばすよりも先に保健室の扉が開き、例のTシャツを着た3人の若者が現れた。HTK六六六だ!
「ちっ、時間切れか! さっさと逃げるぞ!」
万が一を考え、保健室からグラウンドへの扉を開けておいた薫がいち早く離脱すると、他の仲間達も撤退を開始する。が、HTK六六六も折角の獲物を逃がすまいと追撃をかける。
「保健室で解剖実習だ!」
「今日のテーマは『灼滅者の体の中身』についてでぇーす!」
ナイフを手に死角から切り込んでくる2人のHTK六六六に対し、仲間を逃がすためにとサクラコとホナミが立ち塞がる。
「皆様は早く逃げてくださいねい……!」
「後輩だけに体を張らせるわけにはいかないわ!」
都市伝説よりも数段重い一撃を何とか耐え凌ぐ2人を背に、雨と夢羽が扉を抜ける。
「早く……、みんなも早く逃げて……」
「後で絶対合流ですからね!」
「おいおい、実験動物が逃げちゃダメだろうっ!」
後ろに控えていたHTK六六六が殺気を迸らせるが、灼滅者達は気合で耐えると、傷の深いサクラコとホナミ、続いてウェアが外へ出る。
「お二人とも早くっ!」
「ちょこまかすんなっよ灼滅者っ!」
「こりゃあ、逃げられないようにピンで刺しとかないとな!」
HTK六六六の前衛が斬りかかるが、残る美玖と和弥は倒れることなく受けきった。美玖はディフェンダーであることが、和弥は都市伝説戦でほぼ無傷だったことが功を奏したのだろう。
「まさかこのまま堕ちて殿に、とか考えてないわよね?」
「このまま逃げ切れるならその必要はないさ……。行くぞ!」
攻撃の合間を縫い外へと飛び出す2人。一旦バラバラに逃げ出しさえすれば、格上とはいえ3人で8人を捉えるのは難しい。何とかHTK六六六の追撃を振り切った灼滅者達は、ホテルで合流し体を休め、翌日無事に学園へと帰還することができたのだった。
作者:チョコミント |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年11月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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