深夜の廃工場。普段ならば人気などないそこに、二つの人影があった。
それは、骸骨だ。超常の力で動く屍――スケルトンと呼ぶべき二体のアンデッドは工場の中で立ち止まる。そのまま、一体のスケルトンの手から一つの玉が転がり落ちた。
その『智』と書かれた玉を中心に、その場の重苦しい空気が渦巻きミシミシミシ……! と肉塊へと変貌していった。
『ア、アアア、ア――』
そして、肉塊が人に似たシルエットに変形していく。似た、というのも単純だ。胴や足は人のそれだが、頭や両腕が凶悪な形状の水晶によって作られた骸骨なのだ。その胸元に『智』の玉をはめた新たに生まれた屍の王は、頭と両腕と同じ水晶で形成された大鎌を手に、低い風音のような産声を上げた……。
「スキュラの犬士の霊玉は覚えてるっすか?」
湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は、そう話を切り出した。八犬士が集結しなかった場合に備えて生前の大淫魔スキュラの予備の犬士を創りだす仕掛けだ。
「ただ、今回は何でかその霊玉をアンデッドが所持してて、多くのダークネスが灼滅された戦場跡に現われるんす」
何故所持しているのか、理由は不明だ。ただ、戦場で灼滅されたダークネスの残骸を吸収した霊玉から現れるダークネスを放置することは出来ない。誕生後しばらくは力も弱いままだが、時間が経つにつれ、予備の犬士に相応しい能力を得ることになる。
「なので、肉塊から生まれた瞬間のダークネスを待ち構え、短期決戦で灼滅するしかないっす。戦いが長引いてしまったら、闇堕ちでもしない限り勝利することができないのは、普通のスキュラダークネスと同じっすね」
アンデッドが所持していた霊玉がノーライフキングになるのは、とある廃工場だ。時間は深夜、なので光源は必須となる。
「敵は生まれるノーライフキングとスケルトンのアンデッド二体っす。屍王の方は、ノーライフキングと咎人の大鎌のサイキックを、スケルトンはクルセイドソードのサイキックを使うっす」
アンデッドの戦闘能力は低く、ノーライフキングも通常のスキュラダークネスよりかは戦闘能力が多少低いのが救いだ。ノーライフキングが生まれた瞬間からの速度勝負だ、無策で挑んで可能な事ではない。
しかし、きちんと連携を取り、作戦を練れば不可能ではない。
「スキュラダークネスを利用して暗躍しようとする誰かがいるのかもしれないっすね。こんな強力な手駒を増やされても困るっす。それだけじゃなく、こんなのが野放しになっても問題っすからね」
ここが瀬戸際っす、と翠織は真剣な表情で締めくくった。
参加者 | |
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佐々木・侑(風・d00288) |
番鎧・長兎(罰兎暴ゐ・d01093) |
柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232) |
布都・迦月(幽界の赫き調律師・d07478) |
霧月・詩音(凍月・d13352) |
フィオル・ファミオール(蒼空に響く双曲を奏でる・d27116) |
鳴海・歩実(人好き一匹狼・d28296) |
愛島・鮮花(影医者・d30411) |
●
深夜の廃工場。建物の物陰で、霧月・詩音(凍月・d13352)は小さくため息をこぼした。
(「……スキュラの忘れ形見が、また面倒を引き起こしているようですね」)
暗闇の中、二体のスケルトンが歩いて来る姿に佐々木・侑(風・d00288)も目を細めて呟く。
「なんかきな臭くなってきたなぁ。面倒事になる前に解決したいところやねんけど……面倒くさいなぁホンマ。何も理由なしにこんな事件起こるはずないし、裏で手ぇ引いてるやつがおるんか? そうなるとそいつをぶちのめさんとアカンねんけどなぁ」
しかし、今できる事は目の前の面倒事を一つ一つ片付ける、それだけだ。目の前では、一体のスケルトンの手から一つの玉が転がり落ちる。『智』と書かれた玉を中心に、その場の重苦しい空気が渦巻きミシミシミシ……! と肉塊へと変貌していった。
「あれが話しに聞いていたスキュラダークネスですか、先日も廃墟で似たような事件がありましたね」
呟く愛島・鮮花(影医者・d30411)の眼前で、肉塊が人に似たシルエットに変形していく。胴や足は人のそれだが、頭や両腕が凶悪な形状の水晶によって作られた骸骨のそれだ。立ち上がろうとするノーライフキングに、スレイヤーカードを手にしたフィオル・ファミオール(蒼空に響く双曲を奏でる・d27116)が告げる。
「『蒼空に響く、双曲を奏でよう』……夜だけどね。いこう、シーザー!」
フィオルの呼びかけに、霊犬のシーザーが地面に降り立ち咆哮を上げた。それに、ノーライフキングとスケルトンが反応する。
『アア、ア、ア――』
「生まれたてのテメェに恨みはねぇが屍らしく土へ還れ。此処は日の本、火葬のの御国だ、クソ罰兎だが火葬してやるから有り難く灼滅されな」
気合いを込めて睨み付け、番鎧・長兎(罰兎暴ゐ・d01093)が言い放った。それに対するノーライフキングの反応は――笑いだ。
『ア、ア、ガ、ガガ、ガガガガガガガガガガガッ!!』
水晶の髑髏をカラカラと鳴らす呵呵大笑、それと同時に膨れ上がる殺気に鳴海・歩実(人好き一匹狼・d28296)が息を飲む。
戦うのは怖いし、痛いのは嫌だ。けどそれ以上に、自分と関わった人が傷つくのが嫌で、だから頑張る――歩実はそれを言葉にせず、表情にも出さないように努めた。出したら多分その気持ちに負けちゃいそうになるから……歩実は、別の強い言葉でその恐怖を押し殺した。
「――行きましょう」
「物凄く胡散臭さが漂うな……。まぁ、骨が折れそうだが、本気出して行くか」
布都・迦月(幽界の赫き調律師・d07478)が言い捨て、響霊杖【火燕】をシャンと振るう。同じように、ノーライフキングもようやく形成された水晶の大鎌を振るうと低い風音のような産声を上げた。
「ここで仕留めるぜ、ガゼル!」
柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)の言葉に応えライドキャリバーのガゼルがエンジン音を轟かせる。ノーライフキングが地面を蹴った瞬間、鮮花は腕時計のアラームをセットした。
「アラームセットしました」
『ガ、ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!』
奇怪な笑い声を上げ、ノーライフキングは水晶の大鎌を振り回す。直後、爆発するかのように広がった黒い衝撃が、廃工場を揺るがした。
●
ドォ!! と衝撃が、廃工場の壁を震わせる。巻き起こる砂塵の中から、一つの光が飛び出る――それは、リーゼント頭に仕込まれたハンズフリーライトの明かりだった。
「痛――くねぇ!!」
ノーライフキングの横を突っ切り、長兎の雷を宿した拳がスケルトンの顎を豪快に打ち抜いた。ガラン、とスケルトンの足が地面から引き剥がされる――そこへライドキャリバーのシェリーが突撃、壁へと吹き飛ばす!
「ナーイス、シェリーちゃん!」
ボォ! と内側から砂塵が弾け飛ぶ。侑の拡大させたシールド、ワイドガードが展開されたからだ。ノーライフキングは水晶の大鎌を引き戻そうとするが、その前に高明が死角へと回り込み黒鋼の刃を薙ぎ払った。
「任せたぜ!」
ノーライフキングの膝が揺れた瞬間、高明はStiefbruderを振り抜いた勢いのままその場を駆け抜ける。高明の言葉にうなずいた詩音が、すかさず足元の影に触れた。直後、音もなく膨れ上がった影がノーライフキングを飲み込んだ。
「……あなたには、暫く私と相手をして頂きます」
『グ、ガガガガガガガガガガガ、ガガガガガガガガガガガッ!!』
詩音の影喰らいをノーライフキングは水晶の大鎌を振るい、引き裂く。その間隙にガゼルの機銃が掃射された。ガガガガガガガガガガガガガガガッ! とスケルトン達へと降り注ぐ銃弾の雨、その中を歩実が駆け抜ける。
「繋ぎます……!」
歩実は半獣化させた鋭い銀爪をスケルトンへと振り下ろした。スケルトンはクルセイドソードで幻狼銀爪撃を受け止め――そのまま、鋭い爪撃を受け切れずに剣を弾かれる!
「ここ――!」
がら空きになったスケルトンの胴に、鮮花は断罪輪を手に飛び込んだ。横回転によって得られる遠心力、断罪転輪斬によってスケルトンの肋骨を粉々に砕く。
カラン、とスケルトンが体勢を崩したそこへ迦月が駆けた。四瑞幻界を集中させた左腕を異形の怪腕へと変貌させ――渾身の力でスケルトンを文字通り粉砕した。
「まずは、一体」
「回復、いきます!」
フィオルが清めの風を吹かせ、シーザーもそれを浄霊眼によってフォローする。
『――――』
直後、クルセイドソードを振るったスケルトンがセイクリッドウインドの風によるノーライフキングを回復させた。それを見て、迦月は小さくこぼす。
「なるほど、回復役という事か」
「それなら、とっとと潰さんとあかんなぁ」
侑も身構え、そう言い捨てた。直後、ノーライフキングの背後に出現した無数の刃が、灼滅者達へ降り注いだ。
●
――アンデッドから倒す、その灼滅者達の判断は正しかった。もしもスケルトンを放置すれば、その分だけノーライフキングの回復を許す事となっただろう。その差は、後半になればなるほど大きく灼滅者達へと圧し掛かったはずである。
「ったく、罰兎だぜ。あんなアンデッドを用意するたぁ、性格の悪りぃ!」
長兎は吐き捨て、駆けた。手早くアンデッドを倒した、その事の意味を半分を超えた辺りで実感していたのだ。
「残り半分を切りました!」
『ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!』
八分経過、鮮花の宣言と同時にノーライフキングは輝ける十字架を降臨させる。そこから放たれる無数の光条――セイクリッドクロスが、灼滅者達を焼き尽くさんと荒れ狂った。
「シーザー!」
すかさず、フィオルがシーザーと共に仲間達へ回復を施す。その風に乗って、長兎はノーライフキングの眼前へと疾走した。キン、と親指で弾いた古銭、WOKシールドが大鳥居型のシールドを展開した直後、そのシールドをバベルブレイカーで叩き付ける!
「――お?」
だが、構わずにノーライフキングは長兎の足首を掴むと壁へと放り投げた。長兎は空中で体勢を入れ替え、ダン! と壁に着地する。
「強ぉなられたら面倒やからな。サクっと死んでもらうで」
ヴン! と侑の除霊結界を展開してノーライフキングを抑え込み、シェリーの機銃掃射がその足元に着弾していった。体勢を崩したノーライフキングへとガゼルが特攻、それに合わせて高明の影が敵を飲み込もうと――。
『ガ――ッ!!』
その影を、ノーライフキングは死の力を宿した水晶の大鎌で相殺、切り裂いた。その動きには、最初にはなかった術理がある――高明はその事に目敏く気付き、言い捨てる。
「確かに、あんまり強くなられるとたまらないね」
「そうなる前に、倒しましょう」
歩実は、自分を鼓舞するようにそう強く言い放つと妖冷弾を投擲した。ゴォ! と巨大な氷柱がノーライフキングの右肩を刺し貫く――直後、鮮花の射放った百億の星がノーライフキングへと降り注いだ。
「お願いします!」
鮮花の言葉に、迦月が疾走する。跳躍した足場から津波のように走った冥海波・影がノーライフキングを飲み込み、その身を切り刻んでいった。
「……生まれしは偽りの魂 されど、その命の楽譜は紡がれる事は無く、屍と共に、土へと還る――」
詩音の紡ぐディーヴァズメロディに、ノーライフキングは身悶えする。しかし、構わずにノーライフキングは地面を蹴り、ブラックウェイブの黒い衝撃を撒き散らした。
(「行けます!」)
強く、フィオルが心の中で念じる。それは、決して希望的観測ではない。後衛から回復役として観察した、その結論だ。
もしも、ノーライフキングのみに気を取られ、スケルトンを放置していれば――その結論にはいたらなかった。手早くスケルトンを処理し、回復手段を潰せた、それはとても大きいアドバンテージだ。その上で、ノーライフキングに集中する事ができたからこそ見えた光明だ。
だが、ノーライフキングは時間の経過で強さを増している。手数がイコールノーライフキングを削る手段に等しい。一人でも、一体でも脱落すればこの優位は大きく損なわれるのだ。だからこそ、回復役であるフィオルとシーザーの役割は大きかった。
そして、その支援を受けながらノーライフキングに挑んだ攻撃役達もまた、よく動いた。集中攻撃、それも強さが増している相手に加えなければいけないのだ。十二分の経過で、鮮花の言葉通りに回復からより攻撃にシフトする――その英断がなければ、あるいは……。
「ラスト、一分です! すみませんが、無茶させてもらいますね。ごめんなさい」
鮮花の宣言の直後、ノーライフキングがその水晶の大鎌を振るった。迦月を狙ったその一閃――しかし、シェリーがその身を盾に迦月を庇う!
『ガ、ガガ!?』
クラッシャーであった迦月が生き残るか否か、それは危うい境界線を大きく動かしただろう。だからこそ、侑はその愛機の想いに応えた。跳躍からの跳び蹴り――スターゲイザーの重圧が、ノーライフキングの動きを鈍らせる!
「お前も勝手に作られて、いきなり殺されるっつーんは可哀想ではあるけど、ま、運がなかったと思って諦めてくれや。死んだ後に念仏ぐらいは適当に上げたるからまぁ勘弁してくれや」
侑の言葉と同時、フィオルとシーザーが駆けた。異形の怪腕によるフィオルの鬼神変が、ノーライフキングの胴を強打する――そして、その腕にシーザーが着地した。
「私たちは二つで一つの『蒼曲』だからねっ」
命中したフィオルの鬼の腕を駆け抜け、シーザーは斬魔刀を突き刺す! ノーライフキングはそれをフィオルごと水晶の大鎌で薙ぎ払おうとしたが、それをガゼルが許さない。横合いから突撃し、ノーライフキングの巨体が宙を舞った。
「おおっと、了解!」
急かされるようにガゼルのエンジン音が鳴り響くと、高明は非実体化したStiefbruderを空中でノーライフキングへと突き刺した。ドォ! と轟音を立てて地面に落下、だが、ノーライフキングはその巨体をすかさず起こす。
「合わせます」
「――はい」
そこに、鮮花と歩実の姿があった。両手に集中させたオーラを、コンビネーションでノーライフキングへと叩き込んでいく。上から下へ、右から左へ、動きを合わせた鮮花と歩実の閃光百裂拳が、ノーライフキングを壁へと叩き付けた。
『ガ、ア――!!』
壁から離れようとしたノーライフキングが、不意に動きを止める。壁から伸びる無数の影――詩音の影縛りだ。
「……逃がしません」
その宣言に、ノーライフキングは抵抗を試みる。しかし、それよりも早く二つの人影がそこへ迫った。
「仕舞いだ」
「蹂躙すんぞ、おらぁ!!」
しゃん、と音を鳴らして迦月は響霊杖【火燕】を振り抜き、長兎はジェット噴射で加速したバベルブレイカーを繰り出す。ノーライフキングは水晶の大鎌でそれを迎え撃つが、その名のごとく燕のような軌道で迦月のフォースブレイクは掻い潜り、長兎は兎のように跳躍してその鎌の一閃を飛び越えた。
『ガガガガガガ、ア、アアアアア、アアアアアアアアアアアア――ッ!』
バキン! とすんだ破壊音と共に、ノーライフキングが砕け散る。それは、壮絶な戦いの末、勝利を得た瞬間だった……。
●
「戦場跡らしいしダークネス以外のも出るかもな。お憑かれさまでしたってな」
最後の一撃まで気を抜かず、長兎はそう言い捨てる。終わった、その実感は疲労と安堵となって灼滅者達を襲った。
「お疲れ様」
歩実は、ほっと安堵の息と共に労いの言葉を口にする。そして、帰ったら寝よう――そう本音も覗かせた。
(「痕跡は、なしか」)
迦月は、スケルトン達が残した痕跡はないかと調べていたが、そう結論を出す。事件の根は深い、これがどこに繋がるのか? 今はまだ、知る者はいないのだ。
「ま、何にせよコツコツと、やな」
「ですね」
念仏を唱え終えた侑の言葉に、鮮花もそううなずく。目の前の戦い、その一つ一つをこなしていく――それこそが地道であっても、もっとも確実な方法なのだから……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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