場所は博多、時間は深夜。二人のサラリーマンが酔っぱらいながら歩いている。
「知ってるか、豚じゃなくて人間の骨でダシをとるラーメン屋があるらしいぞ」
「聞いたことあるなぁ。俺も福岡来たときはビビったなぁ」
千鳥足の彼らは気付かない。背後の閉店したはずのラーメン屋に、光が灯っていたことを……。
教室の空気は重い。当然といえば当然だが。それをあえて無視する形で、口日・目は(中学生エクスブレイン・dn0077)は切り出した。
「集まってくれてありがとう。博多にまた都市伝説が現れるわ」
都市伝説の内容は『人骨をダシに使うラーメン屋がある』というものだ。具体的には、鉈を持ったラーメン屋の姿で現れる。廃業したはずの店で客を待ち受け、訪れた人を惨殺してラーメンの材料にしてしまう。幸い、まだ犠牲者は出ていない。
「ラーメン屋は手に持った鉈で攻撃してくる。一体だけだけど、戦闘能力は侮れないわ」
使うサイキックは竜砕斧と基本戦闘術に準じる。攻撃力が非常に高いが、その分耐久力は低いようだ。
「あと、今回も嫌な予感を感じるわ。早く撤収しないと、また何か現れるかもしれない。…………何にしても無理はしないでね」
悩んだ末に、目はそれだけ付け加えた。選択するのは常に灼滅者だ。エクスブレインは予知を提供し、それを手助けするだけなのだ。
「博多から帰還した龍造先輩が、この噂を提供してくれたわ」
目が視線を向けると、龍造・戒理(哭翔龍・d17171)はそれに応じる。
「前回のHKTの襲撃だが、俺は羅刹『うずめ様』の関与を疑っている。情報が欲しいところだが……これはまだ可能性でしかない。まずは都市伝説を確実に倒すことを考えよう」
表情を見せないことが多い戒理だが、さすがに疲れが見える。しかし、瞳には強い決意が宿る。
エクスブレインからの依頼は、都市伝説の撃破のみ。それ以上のことは、灼滅者の決断と覚悟に委ねられている。
参加者 | |
---|---|
武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222) |
龍造・戒理(哭翔龍・d17171) |
ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872) |
黒鐵・徹(オールライト・d19056) |
津島・陽太(ダイヤの原石・d20788) |
矢矧・小笠(蒼穹翔ける天狗少女・d28354) |
大和・猛(蒼炎番長・d28761) |
水無瀬・涼太(狂奔・d31160) |
●来店、灼滅者!
「いらっしゃい! でも材料を切らしててねぇ。せっかくだからあんちゃん達がラーメンになってよ!」
灼滅者達が閉店したラーメン屋に足を踏み入れるなり、陽気な声が響いた。声の主は当然、都市伝説だ。見た目は気のよさそうなラーメン屋そのものだが、しかし手にした鉈からは狂気と殺意が滲み出ている。
「まずは外道の灼滅だな」
呟き、巨大な斬艦刀を構える武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)。もしかすると、HKTの諸事件の情報を得られるかもしれない。そのためにはまず目の前の敵を倒さねば。いや、そうでなくとも人に仇なすものを放っておくわけにはいかない。
「人骨ラーメンなんか食えっかよ」
水無瀬・涼太(狂奔・d31160)が武装を開放するのと同時、ライドキャリバーが現れる。人間を食料にするなど、不気味極まりない。ある意味では、都市伝説らしいともいえるだろうが。
「おう! さっさと退場願おうかのう」
まだ中学生とは思えぬ巨体が立ちはだかる。大和・猛(蒼炎番長・d28761)だ。ここで都市伝説を倒しておかねば、遠くないうちに犠牲者が出るだろう。それを防ぐのも灼滅者の、そして番長の使命なのだ。
「変身! カラフルキャンディ!」
日本を訪れ、すっかりヒーローに感化されてしまったソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)。スレイヤーカードが入ったカードケースを掲げ、休日の朝ばりに変身する。さらに主と同様にカラフルに彩られたライドキャリバーが出現。
「九州でも、夜は寒いですね。熱々のラーメンが食べたいところですが」
と黒鐵・徹(オールライト・d19056)。だが、いくら寒くても、お腹が空いていても、人骨ラーメンなどごめんである。都市伝説を倒して、情報収集もして。しかし大事なのはみんなで帰還すること。でなくては、どんなに美味しいラーメンも価値はない。
「前菜というには、さすがにヘビーですね」
エクスブレインが話した嫌な予感。津島・陽太(ダイヤの原石・d20788)を含め、灼滅者達はHKTの襲撃だと考えている。その前に早く倒してしまいたいが、そう容易い相手でもないようだ。
「つむじ風とともに!」
風がうなり、矢矧・小笠(蒼穹翔ける天狗少女・d28354)の髪をあおる。いつの間にか顔には天狗の面を着けていた。天狗に扮し、風を操り戦うのが彼女のヒーローとしてのスタイルであった。たとえ狭い店内であろうと、風を、天狗を捉えることなど能わず、と。
「残念だが今度のラーメン屋も早々に店仕舞いだ。……お前ごときには、何もやらん」
以前戦った都市伝説もラーメン屋であった。前回は仲間と引き換えに帰還できた。だが、今回は誰も犠牲にはしない。龍造・戒理(哭翔龍・d17171)の暗い瞳には、しかし強い火が宿る。
「ラーメンラーメンラーメン……♪」
ふんふんと鼻歌を歌いながら、鉈を振り上げるラーメン屋。楽しそうな表情が、かえって狂気を際立たせていた。
●下ごしらえ
鉈を構えたラーメン屋は、流れるような動きで前衛に斬り込む。老舗というわけでもないだろうに、慣れた手つきだった。精度、威力ともに灼滅者のそれを大きく上回る。
「聞いた通りの力だな」
仲間の分も攻撃を受けながらも、勇也には動じたところはない。日ごろの訓練の賜物だろう。斬戦刀、否、剣というにはあまりにも武骨なそれに炎を纏わせ、横から叩きつける。対し、ラーメン屋は身を沈めて回避。
「人骨ラーメンなんて、食べるのもなるのもごめんです!」
店内は広くはない。だが、そんなことで灼滅者の動きが妨げられることはない。壁を蹴り、柱を蹴り、背後から襲いかかる。陽太は槍で螺旋を描き、身体ごとぶつかっていく。鉈で弾こうとするが、しかしそれより速い。
「てんぐ様の御業なるぞ!」
面の下から、少しくぐもった声。からん、と高下駄の音を残しながら高速移動する小笠。ラーメン屋の死角と思われる位置から、渦巻く風を伴ったビームを放つ。が、鉈がビームを両断した。
「喰らえ」
戒理の片腕が寄生体に包まれ、異形へと変わる。先端から強酸が発射され、ラーメン屋の防御力を下げる。この後のことを考えれば、できるだけ早く片付けたいが、そうもいかない。
「お客さん、困るなぁ。早くラーメンになってくれないと」
閉まらない笑みを浮かべ、ラーメン屋は鉈を振り上げた。その笑みは客に向けるそれではなく、むしろ食材を見ているかのようだった。いや、そもそもラーメン屋には灼滅者達は食材にしか映らないのだろう。
「っ! させねぇっ!」
仲間への攻撃を、涼太がかばう。守りを固めていても、鉈の鋭さはその上をいく。
斬撃を受けた肩からは鮮血が吹き出し、天井に届かんくらいだ。それでも、涼太はラーメン屋を強く睨んで一歩も引かない。
「ようやった! わしが支えるから、がつんとかましてくれい!」
後衛の猛から光の輪が飛ぶ。光輪は素早く傷を癒やし。血を止める。当然、一対一なら勝ち目はないだろう。だが、灼滅者が団結し、お互いの役割を果たすことで戦闘能力は人数以上のものになるのだ。
「隙あり、です」
徹の光剣がラーメン屋の調理服を焦がす。よほど効いたのか、苦痛に歪む。けれど笑みは崩さず、かえって不気味だ。ダメージを負っても殺意は衰えないらしい。警戒しつつ距離をとる。
「ブラン、アタック!」
主の号令に従い、ライドキャリバーのブランが機銃を掃射する。自身の色と同じ、カラフルな光弾がラーメン屋に殺到する。同時、ソフィも彗星の蹴りを見舞った。
吹き飛ばされ、床をごろごろ転がるラーメン屋。それでもやはり、食材に向ける狂気じみた笑みは消えないのだった。
●閉店ソールドアウト
にたり、と笑う顔には血が滴っていた。
「美味しいラーメンを作るのが俺の生き甲斐でねぇ……」
聞かれてもいないことを答え、鉈を振り回す。もはやラーメン屋というよりも、解体機である。
「思い通りにはさせん!」
再度、小笠がビームを放つ。近距離攻撃しか持たないラーメン屋の注意を後衛の自信に向けさせることで、攻撃を阻害する狙いだ。うまくいくかは、運次第のところおあるが、果たして。
「彩り鮮やかは無限の正義!」
キラキラした、目に悪そうなビームが飛ぶ。さらにソフィもラーメン屋の意識を奪おうとする。それに合わせ、ブランも突撃。ビームの色を反射し、いっそう派手に輝いていた。
「蓮華」
戒理がその名を呼ぶと、ビハインドもこくりと頷く。蓮華は霊波でラーメン屋の右半身を汚染し、戒理は氷の弾丸で左半身を氷漬けにする。ダメージはかなり蓄積されているらしく、その動きがみるみる鈍っていく。
「そろそろお終いですね」
寄生体が殲術道具ごと徹の腕を飲み込み、巨大な刃と化した。小さな体に似合わぬ大剣を力任せにぶつける。衝撃で吹き飛び、天井に叩きつけられるラーメン屋。その落下地点に、陽太が回り込む。
「くたばれ、エセラーメン屋!」
陽太の拳を赤いオーラが包み、加速させる。一、十、百。数え切れぬ連打は機関銃じみた速度でラーメン屋の全身を打ちつける。
「俺は、俺はただラーメンが作りたいだけなんだよ……」
へへ、とまた締まらない笑み。ラーメン屋は全身を砕かれてもまだ立ち上がった。都市伝説ゆえにそれ以外の選択はない。だが、その妄念は恐ろしい。もし一般人が相手なら、その数だけ殺してしまうだろう。
「じゃかあしい! おどれのラーメン作りももう終わりじゃあ!」
もう回復も必要ないと判断したのだろう、猛が吠えた。零距離まで迫り、剣で一息に突き刺す。
「後がつかえてんだ。とっととくたばんな」
ライドキャリバーと並走する涼太が言う。キャリバーの突撃に合わせ、鋼の拳がラーメン屋を見舞う。速度と体重とを乗せた一撃は容易くその身体を吹き飛ばした。
「これで終止符だ」
と勇也。動きは最小、威力は最大。重みを活かして振りかぶり、自身を中心に、円を描くように振り抜く。斬艦刀は重量を感じさせないほど速く鋭く、ラーメン屋を両断した。
分かたれた両半身は床に落ちることなく、空中で消滅。文字通り、都市伝説は跡形もなく消え去ったのだった。
●営業時間が過ぎて
都市伝説の消滅を確認した灼滅者達は、店の内外に分かれて姿を隠した。
(「このままでは九州で身動きが取れなくなるだろう。何かつかめればいいが」)
戒理は蛇変身を用いてパイプに潜む。見付かる心配はないが、しかしこちらからの視界も悪い。懸念が現実にならなければいいが、しかし考えるほど悪い想像は現実味を帯びていく。
いくら時が経ったろうか。やがて、ふたつの影が姿を現す。
「えぇー、灼滅者いないじゃん」
「猫舌のくせに替え玉なんか食うからだ」
「キエンさんもおかわりしてたじゃないっすかー」
片方は、HKTのTシャツを着た少女。手足に車輪、ホットパンツ。以前にも現れた六六六人衆だ。もう片方は、黄色いパーカーを羽織った人物。背格好からして男だろうか。顔は見えないが、フードから突き出た角は羅刹であることを意味している。
「さっきまでいたようだな」
戦場を見下ろし、男が呟いた。都市伝説との戦いの痕跡は消してはいない。反応を期待してだが、男は気にした様子はない。
「うずめ様がトチったんじゃないすかー」
少女はけらけら笑う。軽い冗談のつもりだったのだろう。しかし、男は違う。目には黄色い炎が燃え、手にはガンナイフが握られている。
「灼滅者を逃したのは、貴様らHKTが不甲斐ないからだ。……うずめ様を愚弄するなら、ただではおかんぞ」
大きな手が少女をつかみ上げ、額に銃剣を向ける。焼けた刃が白い肌に焦げ跡がつくっていく。男の怒りは熱となり、離れているはずの灼滅者にさえ伝わってくる。
「いたいたいあっつ!? ちょ、やだ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーーー!?」
「泣いてごめんが通じるか!」
喚くのも構わず、男は火だるまになった少女をつかんで夜の街を駆けていく。その動きは縦横無尽。並び立つビルを蹴り、あっという間に黄色い炎は小さくなっていく。
「なんだったんだ、あれは……」
これ以上、情報は得られないだろう。用意していた機材もたいして役には立たなかったか。勇也が現場に戻ってくる。
「あまり情報は得られませんでしたね。ですが……」
猫変身を解除。顎に手を当て、難しい顔になる陽太の言葉を、涼太が継ぐ。
「『うずめ様』。そう言ってやがったな」
「うずめ様っちゅうと、刺青羅刹じゃったか」
ううん、と猛は首をひねる。うずめ様といえば、強化一般人を生み出す『彫師』を配下とする刺青羅刹だ。HKTとの協力関係は以前から確認されている。
「都市伝説の事件にも、関わっているんでしょうか……」
人の姿に戻ったソフィの青の瞳にどんよりとした夜空が映る。すぐには降ってこないだろうが、しかし月は見えない。
「そろそろ戻りましょうか。さすがにさむ……くしゅんっ」
熱気が去り、冷たい風が戻ってくる。徹は小さな肩を震わせた。
「……そうだね」
小笠が踵を返すと、仲間もそれに続く。風は時間を経るだけ冷たくなっていく。まるで、この土地から出ていけと言わんばかりに。
一連の事件に、うずめ様が関わっていることは確かだろう。しかし、それ以上のことは分からない。虎穴に入らずんば、という言葉もあるが、闇堕ちという形で犠牲も出ている以上、仕方ないことだろう。後ろ髪を引かれながら、灼滅者達は博多の街を後にした。
作者:灰紫黄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年11月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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