紅き獣、白い炎

    作者:陵かなめ

     紅い獣の身体が容赦なく地面に打ち付けられた。首の豪奢な飾りが揺れ、しゃらしゃらと音をたてる。
     辺りの樹木はなぎ倒され、激しい戦いの様子が窺い知れた。
     紅い獣――スサノオは、ただ地に伏す。それが彼の敗北をありありと物語っている。
     それを行ったのは、インド風の衣装をまとった踊り子のような女性だった。
     女性は悠然とスサノオに近づき、その体内から『白い炎』を強引に抜き出す。
     苦しげに呻くスサノオを捨て置き、女性は闇に消えた。
     
    ●依頼
    「誰かに攻撃されて、死に瀕したスサノオが事件を起こそうとしているんだよ」
     千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)がそう切り出した。
     何者かとの戦闘に破れ、命の源を奪われたスサノオ。
     彼は、自らの死を回避すべく、人里に降りてきて人を貪り喰うと言うのだ。
    「人を食べることでスサノオが本当に生き延びられるのか、それは分からないんだ。でも、このままじゃ、沢山の死人が出ちゃうよ」
     太郎は怯えたようにくまのぬいぐるみを抱きしめた。
    「だから、みんなお願い。スサノオの移動経路の前に陣取って、人里に到着する前に灼滅して欲しい」
     続けて太郎はスサノオの詳細を述べる。
    「このスサノオはね、過去に生み出した古の畏れ達と似た技を使うよ」
     彼が生み出した古の畏れは、柳女、赤足、髪斬りだ。
    「戦う場所は、スサノオが移動する山の中がいいと思う。人里に続く獣道を移動しているから、開けた場所で待ち伏せしていれば良いよ」
     人里に出る前に、戦うには都合の良い開けた場所がある。
    「あとね、15分経過しても決着がつかなかった場合、スサノオは命を使い果たして消滅してしまうよ」
     と言う事は、勝利するだけならば15分耐え抜くだけで良いと言う事になる。
    「でも、消滅する直前には、スサノオの戦闘力は一時的に大きく上昇してしまうんだ。だから、その前に灼滅する方がいいかもしれないね」
     全てを話し終え、太郎は集まった皆を見た。
    「油断しなければ大丈夫だと思うけど、十分気をつけてね」


    参加者
    睦月・恵理(北の魔女・d00531)
    千条・サイ(ネクロフィリア・d02467)
    楠木・朱音(勲の詠手・d15137)
    狼久保・惟元(白の守人・d27459)
    葉真上・日々音(スーパーキュートを目指して・d27687)
    阿礼谷・千波(一殺多生・d28212)
    山瀬・流畏(高校生人狼・d28748)
    鴻上・廉也(高校生ダンピール・d29780)

    ■リプレイ

    ●待ち構える場所にて
     狼久保・惟元(白の守人・d27459)は、腕時計に視線を落とした。
     時間は夕方前。山の中とは言え、日の光が届き視界は良いと言える。これからスサノオが来るのを待ち、迎え撃ったとしても光源無しで十分戦えるだろう。
    「これならライトは必要ないな」
     念のためにとライトを準備していた楠木・朱音(勲の詠手・d15137)が言う。
    「そのようですね」
     頷き返し、惟元はここに続く獣道の先を眺めた。
    「……気に食わないな」
     同じように獣道を眺めていた山瀬・流畏(高校生人狼・d28748)が呟く。
     人狼である流畏にとって、スサノオは宿敵だ。しかし、命の源だけを奪って放置、と言うやり方が何だかイラつくのだ。いや、哀れにすら思える。
    「スサノオなぁ……倒すべき敵ではあるんやけど……」
     葉真上・日々音(スーパーキュートを目指して・d27687)もまた、立場は同じだ。
    「まぁ、武士の情けや。せめて苦しまへんように……って見た目めっちゃ苦しそうなんやけど」
     と、自分にツッコミを入れながら言葉を続けた。
    「ほら、介錯っていうん? アレやアレ」
     日々音には個人的な恨みは無いけれど、せめてそれが自分に出来ることだと。
     鴻上・廉也(高校生ダンピール・d29780)も思うところはある。
     ダークネスの世界は、自然界と同じく弱肉強食なのだろう。戦いに敗れたことに同情はしない。けれども。
    「とどめを刺さずに放置とは趣味が悪い」
     出来る限り早く殺してやると、思った。
     時間の経過を待たず、即効で倒す。それが共通の認識だ。
    「消えるん哀れちゅうなら、生の最後の悪あがきまで受け止めてからきっちり消したりたいとこやけど」
     腰に装備したナイフをちらりと見て千条・サイ(ネクロフィリア・d02467)が言う。
    「短期決戦方針みたいやから、そっちでいけるよう頑張る」
     その時、遠くから草を踏み、樹木を分ける音が聞こえてきた。
     灼滅者達は表情を引き締め、音が近づいてくるのを静かに待つ。
     葉を踏みしめる音がひときわ大きくなった。
    「なんだか気乗りしないわね。この依頼」
     阿礼谷・千波(一殺多生・d28212)が刀を抜くのと、紅い獣が飛び込んでくるのとは、ほぼ同時だった。しゃらりと優雅な音をたてる豪奢な飾りが目に付く。間違いない、目の前に現れたのは、戦いに敗れ人間を喰らおうとするスサノオだ。
    「……ゥルル……」
     待ち構えていた者たちを見たスサノオは、足を止め低く唸った。
     戦いに敗れたばかりとは思えない威圧感を感じる。
    「何としても生き延びたい。その執念は共感できる。だが人間としても、ならばと食われてやるつもりは無いんでな」
     朱音が妖の槍をスサノオに向けた。
    「故にこいつは生存競争だ。俺達も生き延びる為、全力以上で行くぞ!」
     仲間達が、それぞれ戦いの位置を取る。
    「この先へは通せません」
     睦月・恵理(北の魔女・d00531)もまた、素早く武器を構えた。
    「……あなたが敵とはわかっていますし、どんな性格か詳しく判っているわけでもありませんが……」
     じりじりと、互いの距離を測る。
    「それでも、森の魔女はあなたにせめて誇りある最期を贈りたく思います。美しく荒々しい獣よ!」
     恵理の言葉を皮切りに、灼滅者達は一斉に攻撃を仕掛けた。

    ●猛攻
    「強化される前に倒しきる」
     まずは廉也が殺気を放った。
     これで、一般人が近づいてくることは無いだろう。
    「ここで囲い込んで行きましょう! 向こうは左右の木が邪魔になりますから!」
     恵理は仲間に声をかけながら踏み込んでいった。
     殴りつけ、同時に網状の霊力を放射する。スサノオを獣道の出口から出し切らず戦いたい。そうなれば、開けた場所で自由に動けるこちらが有利だ。
    「ルル……グ、ルル……」
     だが、スサノオは霊力に縛られていることもお構い無しに猛然とジャンプした。
     そして軽々と恵理の頭の上を飛び越え、開けた場所の真ん中に着地する。
    「悪いが、ここは通さないぜ」
     すぐに朱音の槍が敵の身体を穿った。
     この広場から、決して逃がさぬよう細心の注意を払う。
    「な、食ろて力つけるならエナジー少ない一般人よか、灼滅者8人の方がおいしい気がせえへん?」
     冷ややかな瞳のサイは、口元に笑みを浮かべ正面から殴りかかった。
    「どっちが消えるか全力で遊ぼや」
     それはただのフェイントで、スサノオが横に飛び退った瞬間オーラを飛ばして死角から斬りつける。
    「ッ、ル、グルルル」
     ダメージを受けたスサノオは、呻き声を上げて身体を反転させた。
    「獣の武器って言ったら牙や爪かしら?」
     そこへ、千波が立ちふさがる。
    「圧し折らせてもらうわ」
     構えていた刀を真っ直ぐに振り下ろし、重い一撃を放った。
    「……ゥ、ル、ルゥゥゥゥ」
     傷を受けた足を庇うように、スサノオが半歩下がろうとする。
     だが、千波の後ろから飛び出してきた流畏が、それを許さない。。
     首の後ろでまとめた髪を靡かせ、半獣化させた片腕を大きく振り上げる。
    「さーて、派手に戦ろうぜ」
     鋭い爪を相手の身体につきたて、有無を言わさず引き裂いた。そして、すぐさま飛び下がる。
    「ま、群狼の戦い方ってヤツだ」
     言いながら、流畏はニィ、と笑った。
     凄まじい連撃に、スサノオの身体がふらりとよろめく。
    「傷を癒すことも見逃すことも出来ません」
     その姿を見せ付けられるのは、やはり複雑な思いがある。
     それでも惟元は、己の片腕を半獣化させ、スサノオに向かっていった。
    「全力で、お相手願います」
     力を込め、幻狼銀爪撃を放つ。
    「ッ、ゥ、グルルルル」
     スサノオの身体が、横薙ぎに吹き飛ばされた。
     だが、スサノオは空中でくるりと舞い体勢を立て直して着地する。
     そしてその大きな前足の爪で前衛の仲間達を斬り裂いた。髪を斬ると言うよりは、皮膚から根こそぎ抉り取られる感覚。
    「強いな……。だが、そうでなくては」
     傷を受けた廉也が、口元に笑みを浮かべた。
     じくじくと自身を苛む毒に、前衛の仲間達が日々音を見る。
    「うちの役割はメディックやでー。衛生兵、衛生兵ー!」
     すぐさま、日々音が白き炎を放出する。
    「秘術、日々音ミラージュ!」
     その力で、仲間の傷を癒した。

    ●追撃
     スサノオの力は強大だった。風の刃や巨大な爪で複数を攻撃し、弱った灼滅者を踏み潰す。獣の猛々しさと、培われた戦術で灼滅者達を追い詰める。
     だが、灼滅者達も負けてはいない。速攻撃破を目標に、それぞれが力強いサイキックを用意して来たのだ。
     恵理の足元でエアシューズが煌く。
    「行きます!」
     狙いを定めて跳び上がり、軽やかに蹴る。
     一呼吸置いて、その足跡に魔術印が展開した。
     流星の煌めきと重力を宿したその蹴りは、確実にスサノオの動きに制約を与える。
     続けて、廉也も跳んだ。
     攻撃を受け怒りの咆哮を上げるスサノオに、さらにスターゲイザーで追い討ちをかける。
    「これで、どうだ」
     体重を乗せた激しい蹴りで、スサノオの身体を吹き飛ばして見せた。
    「シャァアアアァァァ」
     スサノオの身体が地面を転がる。
     そこへ、惟元が飛び込んで行った。
    「僕も道を間違えれば厄災となる存在なのでしょう。貴方は彼は人の命を奪う畏れも呼び出した、罪がないとは言えません」
     両手にオーラを集め、凄まじい連打を繰り出す。
    「ですが……その力を利用する者が居るのならば、そのままには出来ません」
     最後の一撃で、スサノオの身体が宙を舞った。
     傷ついていく敵を見て惟元は思う。
    (「もしその力が別の争いの為に使われるなら……僕は……僕は、彼女を許せないかもしれない」)
     スサノオの身体は、地面に打ち付けられた。
    「ル、ル、ルルル……」
     だが、まだだ。
     スサノオは起き上がり、その足で近くにいた恵理を踏みつけてきた。
     咄嗟に、サイがそれを庇う。
    「間に合うたようやな」
     言いながら、ディフェンダーである自分でさえ、受けたダメージが大きいと感じる。
    「余所見しちゃダメよ」
     すぐさま、敵と仲間の距離を取らせようと、千波が攻撃を繰り出す。
     素早く正確な斬撃が、スサノオの身体をいくつも斬り裂いた。
    「すぐに、回復やでー!」
     皆の動きを見て、日々音が白炎蜃気楼でサイや周辺の仲間を回復させた。単体の攻撃に対応した回復の術があれば良かったのだが、今はそれを言ってもいられない。
    「足りん分は、俺も手伝うから」
     メディックを補佐するのは自分だと、サイもオーラで自身の傷を癒した。
    「回復はまかせたぜ」
     回復する仲間の横を、朱音がすり抜ける。
     未だに体勢を立て直せないスサノオを、異形巨大化させた腕で殴りつける。
    「燃え尽き方ってモノがあるよな。なあ?」
     『畏れ』を纏った流畏が鬼気迫る斬撃で、猛然と追撃した。
     2人の苛烈な攻撃に、スサノオの身体が再び地に打ち付けられる。
    「狂って人間喰らいながら死ぬより、討ち果たされた方が余程格好付くだろ」
     俺なりの情けだと、流畏が唸るスサノオを見下ろした。
     こちらも無傷ではないが、スサノオに与えたダメージも大きいはずだ。
     仲間達は終わりを予感し、武器を構え直した。

    ●紅の獣の最後
     スサノオは、立ち上がった。既に受けた傷で身体はボロボロで、癒す力だけでは足りないと見て取れる。
     だが、それでも、スサノオは風を呼んだ。
    「グォオオオオオオ」
     風は鋭く舞い、刃となって前衛の仲間に襲い掛かる。
    「あともうちょっとやー! 頑張ろなー!」
     もう幾度目か、白き炎を放出し日々音が必死に仲間を癒した。
    「せやな。したら、俺も攻撃させてもらうわ」
     1人を癒すよりも、攻撃を畳み掛けたほうが良いとサイは判断する。
     言うなり、走り出した。
    「ここだな」
     廉也も同じ意見だ。
     仲間の動きを見て、次に繋がるように冷気のつららを撃ち出す。
     それを見て、恵理が縛霊撃を繰り出した。
     続けて流畏がスターゲイザーでスサノオの動きを抑え込む。
    「ゥゥゥ」
     唸るスサノオの死角からサイが姿を現す。
     幾度も斬撃を放つと、スサノオが今までに無く苦しげな呻き声を上げた。
     まさに後一押し、後一撃だと、朱音がマテリアルロッド・双金冠白鋼棍を旋回させ後手に構える。
    「幕だな……っは、あっ」
     そして全力で地面を蹴った。
     目一杯の力を込め、フォースブレイクを叩き込む。
     続けて、反対側から惟元もフォースブレイクを放った。飛び散る紅い体毛と血しぶきが、攻撃の凄まじさを物語っていた。
    「ォ、ア、アアア、ァッ」
     スサノオの咆哮が、激しい苦痛を訴える。
    「できれば全力のアナタと戦いたかったわ」
     その正面に、千波が立った。
     呼吸を整え、 裂帛の気合いと共に一閃する。
    「……さようなら」
     スサノオの身体がゆっくりと倒れていった。豪奢な首の飾りまでも、綺麗に消え去っていく。
     その姿に背を向けて、千波は静かに納刀する。
     戦いで巻き起こった粉塵が、ちらちらと地に戻っていった。

    「全て消えた、か」
     消え行くスサノオの姿を見て、廉也がポツリと呟いた。
    「さて……と、ちょっと可哀想だったけど片付いたわね」
     千波は気合を入れなおし、スサノオが通ってきた獣道に目を向けた。情報や遺留品が少しでもあるだろうか?
    「一応、なんか手がかり見つかったらラッキーやし」
     ふっさふさの黒いわんこ……のようなニホンオオカミに姿を変え、日々音も後を追うつもりだ。
    「大地から来たものは大地に……安らかにお眠りなさい」
     消え去ったスサノオに、恵理が弔いの言葉を投げる。
    「こういうのも、人の傲慢って奴なんだろうが……」
     朱音は小さな白菊を一輪、こっそり供え手を合わせた。
     隣では、惟元が数珠を取り出して合掌している。
    「僕にとってスサノオは宿敵であり、遠い親戚のようなものですから」
     言い終え、捜索に向かった仲間の後を追った。
    「墓標は要らないよな。俺達は自然に帰る、それだけだ」
     周囲を警戒しながら、流畏は言う。
    「踊り子のねーちゃんは強いちゅうなら見てみたかったけど。今んトコあんま興味ないから皆に任せるわ」
     そんな仲間を見て、サイが1つ伸びをした。
     ともあれ、人を喰らう脅威が1つ消えたのだから。
     灼滅者達はそれぞれ、戦いの終わりを思った。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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