北海道札幌市のとある公園で、高校生くらいの少年がのんびりとハンバーガーを食べていたのだが……そんな彼の前にふと、妙な男が現れた。
「おいお前、そんな不味そうな食い物さっさと捨ててしまえ。代わりに俺がとびっきり美味いラーメンをご馳走してやる、ありがたく思え」
顔がラーメンのどんぶりのような形になっているその男は、どこか偉そうな態度でそう言い放ちつつ、おかもちから取り出したどんぶりを少年へと向けて差し出す……が、
「あ……あの、俺今日はハンバーガーが食いたいんでいいです、暑いし」
と、少年はあっさりと申し出を断ってしまった。すると……、
「なんだと……ラーメンよりも、そんな食い物のがいいと言うのか!許さんぞきさまぁ!!」
男は激しく怒り狂いだし、頭のドンブリからムチのように束ねられた麺を取り出すと、それを目にも止まらない速さでぶんぶんと振り回し、少年の体を何度も何度も打ちつけた。
「ぅぁ…………」
何がなんだかわからないまま、少年はベンチから転がり落ち……やがて意識を失った。
「貴様のようなやつは、俺が支配する世界には不要な存在だ」
男はそう言い捨てると、不機嫌そうな表情を浮かべながらその場を去っていった。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。実は未来予測によってあるダークネスの行動を察知する事ができました。皆さんにはそのダークネスを灼滅してもらいたいのです」
そう前置きした後、エクスブレインの少女は事件の詳細について語り始めた。
今回のターゲットはご当地怪人のラーメン男。現れたのは北海道の札幌市。
彼はその名の通りラーメンをこよなく愛するご当地怪人であり、出会った者にラーメンを食べるようにすすめ、断ったり無視したりした者に制裁を加える。
そうしてゆくゆくはいついかなる時であってもラーメンを食する事のできる、真のラーメン好きの者達だけの世界を作るのが彼の目的であるらしい。
「ダークネスは札幌市内のとある公園に現れ、園内にいる人達に片っ端からラーメンを食べるようにすすめらしいです」
目標はまず遊具ゾーンへとやってきて、ベンチに腰掛け食事ている少年に声をかけるようである。
よってその場所で待ち構えていれば確実に接触する事ができるだろう。
ラーメン男はその見た目に反して戦闘能力は高く、頭のどんぶりから麺を束ねて作り出したムチや、ナルトの形をした手裏剣を取り出し、それを武器にして戦うのだという。
「見た目や行動はマヌケであったとしても、ダークネスの戦闘力は侮れません。でも皆さんが協力し合えばきっと勝利する事ができるはずです。勝利の報告をお待ちしてますね」
参加者 | |
---|---|
幸祝・幸(不幸中の災い・d00040) |
天津・麻羅(神・d00345) |
鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932) |
米田・空子(ご当地メイド・d02362) |
安墨野・スサキ(そぞろすずろ・d03627) |
雲仙・雲雀(ふわふわ・d04739) |
荒川・小鳩(鋳物戦士タタライガー・d05369) |
釈迦堂・味昧(黒き流星の剣・d05832) |
●
エクスブレインの少女から報せを受けた8人の灼滅者達は、遠路遥々北海道札幌市のとある公園へとやってきた。
到着早々彼等は遊具が立ち並ぶエリアへと移動し、そこでベンチに座りながらハンバーガーを食べている少年を発見した。
十中八九、彼こそがご当地怪人に襲われる少年であると見てまず間違いないだろう。
灼滅者達は予め打ち合わせしておいたとおり、安墨野・スサキ(そぞろすずろ・d03627)のみが少年をこの場から引き離すために彼の元へと向かっていき、残る者達は物陰からその様子を見守る事とした。
この先自分に何が起こるかなど露知らず、のんびりとハンバーガーを頬張る少年であったが……そんな彼の前にふと、サングラスをかけ、スキンヘッドに袈裟姿という怪しい格好をした男が現れた。無論、その正体はスサキであるが。
「アナタハ、カミヲシンジマスカ?ワタシ、シンジマスヨ。ワタシノヘッドニ、カミナイデスケドネ、HAHAHA!」
「は、はぁ……?」
妙なテンションで語りかけてくるスサキに対し、あからさまな不信感を抱く少年。
「ヨカッタラ、ワタシト、カミニツイテカタリアイマセンカ?」
「あ……いいです、大丈夫です」
身の危険を感じた少年はそそくさとどこかへ去っていった。もっと大きな危険が迫っていた事など知りもしないまま……。
……それから十数分後……遂にやつが現れた。
ラーメンのどんぶりのような顔の形の妙な姿の男……そう、彼こそがご当地怪人、ラーメン男である。
彼はベンチに腰掛けて食事しているスサキの元へと近寄り、
「おいお前、そんな不味そうな食い物さっさと捨ててしまえ。代わりに俺がとびっきり美味いラーメンをご馳走してやる、ありがたく思え」
と、偉そうに言い放ちながらおかもちからラーメンを取り出そうとするが……その次の瞬間、
「……もらいました!」
物陰に隠れ機会をうかがっていた鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)がすかさずバスタービームを発射し……不意をつかれたラーメン男はその攻撃を避けきる事ができずもろに直撃を食らってしまう。
……が、さすがはダークネスというべきか、彼は何事もなかったかのようにピンピンしていた。
「誰だ、出てこい!」
ラーメン男がそう叫ぶやいなや、物陰に隠れていたスサキ以外の灼滅者達が一斉に彼の前へと姿を現した。
「な、なんだなんだお前達は!!」
突如として現れた灼滅者達を見て戸惑うラーメン男に対し、
「誰かと問われれば答えよう。鋳物の街、川口からやってきた誰より硬くて熱い奴。鋳物戦士タタライガー、札幌出張版でただいま参上!」
「わしの名は天津麻羅、高天原の神なのじゃ!この地の民を誑かす邪神めが、このわしが成敗してやるのじゃっ!!」
と、勇ましく名乗りをあげる荒川・小鳩(鋳物戦士タタライガー・d05369)と天津・麻羅(神・d00345)。
小さなヒーロー達の心は、悪を許さぬ正義の炎で燃えたぎっていた。
「チッ、俺の計画の邪魔をする気か……ならば痛い目にあってもらうぞ!!」
ラーメン男もようやく事態を把握したようであり、灼滅者達を鋭い眼光で睨みつけつつ戦闘態勢を整えた。
こうして北の大地北海道で、世界征服を企むラーメン男と、それを阻止するべくやってきた灼滅者達との戦いの火蓋が切って落とされたのであった。
●
先手を取ったのはラーメン男の方であった。
「俺にはいついかなる時であってもラーメンを食する事のできる、真のラーメン好きだけの理想郷を作るという崇高な使命があるのだ!貴様等などに負けるわけにはいかんのだ!」
と、彼は自らの野望を語りつつ頭のドンブリから麺を束ねて作り出したムチを取り出し、ぶんぶんと音をたてながらそれを縦横無尽に滅茶苦茶に振り回し、前衛へと配置についていたスサキ、小鳩、そして釈迦堂・味昧(黒き流星の剣・d05832)の体を何度も何度も叩きつけていく。
「くっ!」
「ぅ……」
妙な見た目に反し、ラーメン男の攻撃力は相当高い。このまま攻撃を食らい続ければ3人は数分と持たず倒されてしまうだろう。
「ラーメンは好きやけど、無理強いは良くないんよ!」
キッと表情を引き締め、毅然とした態度でそう言い放つ幸祝・幸(不幸中の災い・d00040)であったが、
「でも、この戦いが終わったら私、塩バターコーンラーメン食べにいくんや……えへへ」
ついつい戦いとは関係ない事が頭に思い浮かんでしまい、気持ちと表情が緩んでしまう。
「は、いかんね、依頼できたんやし、まじめにやらへんと!」
そう自分に言い聞かせつつ幸は気を引き締め直し、天使のような透き通った歌声を辺りに響かせ始める。
その歌は深く傷ついた仲間達の体に癒しを与え、徐々に彼等の体力を回復させていく。
「何をしようと無駄だぁ!」
幸の頑張りを無に帰すべく、再びムチを構えるラーメン男であったが、
「そうはさせぬのじゃ!必殺!神ビ~~ムッ!!」
麻羅がきつい目つき……と本人は思っているのだが、実際にはとても可愛らしい目つきでラーメン男を睨みつけつつ、彼目がけてご当地の力を宿した必殺ビームを照射し、攻撃を阻んだ。
「ラーメン男!あなたの悪事もこれまでですっ!」
続く米田・空子(ご当地メイド・d02362)はおもむろに取り出した鋼糸を手足の如く自在に操ってラーメン男の体にぐるぐると巻きつけ……力いっぱいそれを引っ張って締め上げて体に食い込ませ、同時に彼を捕縛した。
「白玉ちゃん!」
更に空子のナノナノが竜巻を発生させてラーメン男の体を切り裂き、さらなるダメージを与える。
「ラーメンが好きなのは分かります、ただ好物は十人十色ですよね」
ぽつりそう呟きつつ蒼香はバスターライフルの銃口をラーメン男へと向け、自らの心の底に潜む暗き想念を集めて作り出した漆黒の弾丸を撃ちだし……見事目標へと命中させ、彼の体を撃ち貫いた。
「いっぱい回復するのです~♪」
仲間達が敵の注意をひきつけている隙に、雲仙・雲雀(ふわふわ・d04739)は自らの周囲に対空していた光輪を分裂させて小光輪を作り出し、それを傷ついた仲間の盾として展開させた。
「真のラーメンとは、無理やり食べさせる必要などない。夜食にズルッと、ライスと一緒にモグッと、お菓子にしてポリっと。文明が大河の傍に生まれたように、人は自ずと、ラーメンという黄金色の流れを求める……その、大いなる流れを無視したお前を許すわけにはいかん!」
ラーメンに対する熱き想いを口にしながらスサキはラーメン男に跳びかかり、彼の顔面目がけて渾身の力を込めた鉄拳をお見舞いし、その瞬間自らの魔力を相手の体内へと注ぎこみ、彼の体を内側から破壊していく。
間髪いれず、小鳩が危険を恐れず勇猛果敢にラーメン男の懐へと飛び込むと、その小さな体からは想像も出来ないほどのパワーで彼の体を頭上へと持ち上げた。
「な、何をするつもりだこのガキがぁ!」
「この鋳物戦士タタライガーが、真のご当地愛とは何たるかを叩き込んであげるよ!時計台ダイナミィィック!!」
この北の大地に宿るパワーを味方につけた小鳩は、ラーメン男を力いっぱい地面へと叩きつけ……その瞬間彼を中心とした大爆発が巻き起こった。
「ヌゥ……」
爆煙の中から再び姿を現すラーメン男であったが……そんな彼をすぐに次なる刺客が襲った。味昧である。
彼は超重武器である無敵斬艦刀を軽々と振り回し、ラーメン男の頭部目がけそれを目にも止まらない速さで振り下ろし、超弩級の威力をもった斬撃……というよりは打撃を繰り出し……その直後、ガキン、という鈍い音が響いた。
「グゥッ!」
なんとか無敵斬艦刀を払いのけるラーメン男ではあったが……彼の顔面には、ほんの僅かではあるがぴしっとヒビが入っていた。
●
「ええいうるさいガキンチョどもめ!!」
完全に頭に血が上ったラーメン男は、頭のドンブリからナルト型の手裏剣を取り出すと、麻羅目がけてそれを次々と投げ飛ばす。
その目にも止まらない早業の前に麻羅はなす術がなく、腕や足にいくつものナルト手裏剣が突き刺さり体力が大幅に低下してしまう……が、
「くらえ、神キック!」
そんな状況であっても麻羅は引き下がろうとはせず、タンと地面を蹴って跳びあがり、トーキック気味のご当地キックをラーメン男の腹部へと炸裂させる。
彼女は信じていた。どれだけ体力が減ろうとも仲間達が必ずサポートしてくれると。
その想いに答えるため、幸は心を込めて必死に癒しの歌を歌い続け、雲雀もまたシールドリングを展開し、麻羅の防御力を高める。
「まだまだこちらの攻撃は終わりませんよ」
そう言って蒼香がバスターライフルから撃ちだしたのは弾丸ではなく、高純度に詠唱圧縮された魔法の矢。
それは先程の漆黒の弾丸に勝るとも劣らぬ速さで直進し、ラーメン男の胸部にグサリと突き刺さった。
「グゥ……おのれぇ、あっちこっちからチマチマとぉ!」
思うように事が運べず、次第に焦り出すラーメン男。
そんな彼に対し、
「ところで、ひとつ質問なのですが……ラーメン男さんは何ラーメンがお好きなんですか?」
と、落ち着いたトーンでそんな質問を投げかける空子。
「フン、愚問だな!俺はラーメン男だ!味噌も醤油も塩も全て平等に愛しているに決まっているだろう!ハーッハッハッハ!」
ラーメン男の方も律儀というべきか間抜けというべきか、素直にそれに応じる……が、彼が高笑いを浮かべている隙に、空子は鋼糸によってすばやく結界を張り巡らせていた。
「みなさん、今ですっ!」
今こそ決着をつける時であると判断した空子は、仲間達に大きな声でそう呼びかけ、
「OK!安墨野センパイ、釈迦堂センパイ、いくよ!」
「わかった」
「おう!」
小鳩、味昧、スサキの3人はタイミングを合わせてほぼ同時に空高く跳びあがり……そして、
「今こそ喰らえ!必殺の!」
「「トリプル!ラーメン!キイイイイイイィィィッッック!!!!」」
彼等はそれぞれ片足を突き出しながら、凄まじい速度でラーメン男目がけて落下していき、彼の顔面にトリプルキックを炸裂させた。
「ぐぉぁぁぁぁぁぁ……!」
なんとか踏みとどまろうとするラーメン男であったが、3人の凄まじいパワーに押しきられそのまま後方に吹き飛ばされ、仰向けに地面へと激突した。
「バカな……俺の夢が、俺の野望が……潰えるだと…………そんなバカなぁぁぁぁぁ!!」
断末魔の雄たけびをあげながら、ラーメン男は凄まじい大爆発を巻き起こし、跡形もなく木っ端微塵に吹き飛んだ。
●
戦いは終わった……灼滅者達の勝利によって。
彼等は無事、この北の大地北海道に平和な時を取り戻したのである。
「……せっかく来たんだしお土産ぐらい買ってもいいですよね?」
仲間達の顔色を伺うようにして、そんな質問を投げかける蒼香に対し、
「うん、私も倶楽部の皆にお土産買おうと思ってたし」
と、笑顔で答える幸。
彼女はストラップを買ってきてほしいと頼まれてきたらしい。
「お土産選びが終わったら、みんなでラーメンを食べに行きませんか?」
「ええね、私も塩バターコーンラーメン食べたいと思ってたんや」
「そうだね、みんなで行こうか。ラーメン男に敬意を表す意味でもね」
空子の提案に喜んで応じる幸や小鳩達。
共に北の大地で戦い、共に北の大地で楽しい時を過ごした思い出は、きっといつまでも彼等の心の中に残り続ける事だろう。
作者:光輝心 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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