亡者誘う闇の思念

    作者:幾夜緋琉

    ●亡者誘う闇の思念
    『ウ、ウゥゥ……グ……ゥゥ……』
     大分県は別府市にある、鶴見岳。
     深夜にその山奥を、呻き声を上げながら歩き回っているのは……既に腐敗した身体のアンデッド。
     呻き、歩き、呻き、歩き……していると……そんな彼の周りには、禍々しい気配が漂い始める。
     ……その気配に、彼は。
    『ウ、ウググウゥ……』
     更に呻き声を上げて、立ち止まる。すると……その周りの瘴気が、ぐ、ぐぐぐ……と彼の手に集中していく。
     ……そして、その瘴気が次第に具現化し、気色悪い肉塊に変化し、そして……その肉塊の中から抜け出すように、恐ろしい気配を持つスキュラダークネスが現れるのであった。
     
    「皆さん、集まりましたね? それでは早速ですが、説明を始めさせて頂きますね」
     五十嵐・姫子が、集まった灼滅者を見渡すと共に、早速説明を始める。
    「灼滅された大淫魔スキュラ……彼女がやっかいな仕掛けを遺していたという話は、既に皆さんも聞いている事と思います」
    「でも、それはどうやら、八犬士が集結しなかった場合に備えて、生前の彼女が用意していた『予備の犬士』を創り出す仕掛けなのです。彼女の放った数十個の『犬士の霊玉』は、人間やダークネスの残骸を少しずつ集め、新たなるスキュラのダークネスを産み出すものの様なのです」
    「今回、その霊玉をアンデッドが所持し、多くのダークネスが灼滅された戦場跡に現れる、というのが発生しているのです。犬士の霊玉を何故アンデッドが所持しているのかは不明なのですが……戦場で灼滅されたダークネスの残骸を吸収した霊玉から現れるダークネスを放置する事は出来ません」
    「このダークネスは誕生後しばらくは力も弱いままですが、時間が経つにつれ『予備の犬士』に相応恣意能力を得ることになります。なので、肉塊から生まれた瞬間のダークネスを待ち構え、短期決戦で灼滅するしかありません」
    「もし……戦いが長引けば、闇堕ちでもしない限り勝利する事は難しいでしょう。素早く、確実に、この敵を灼滅為てきて欲しいのです」
     そして、姫子は詳しい状況について説明する。
    「このダークネスが現れるのは、大分県は別府市の鶴見岳。山中故に足場は悪く、また時間も深夜の刻……灯りもなく、暗闇に包まれている事でしょう」
    「そして生まれるスキュラダークネスですが……能力としては、ノーライフキングの力と共に、リングスラッシャーの力も組み合わせて使用してきます。幸い生まれたてなので、その力の使い方は荒削りなので、命中しづらいという点はあるようですが……体力はかなりあります」
    「しかしながら、先ほども言った通り、時間が掛かれば掛かるほど、スキュラダークネスとしての力に目覚めてきます。つまり、速攻で倒せなければ、ジリ貧になる可能性が高い様です」
    「また、スキュラダークネスの後ろには、アンデッドが一体居ます。アンデッド自体は攻撃力はかなり弱い部類に入りますが、体力だけはかなりあるようで……スキュラダークネスの盾となるものと思いますので……その対処手段を考える必要があると思います」
     そして、姫子は最後に皆を見渡しつつ。
    「このダークネス……スキュラによって、八犬士の空位を埋めるべく作られた存在かと思います。仮に力で八犬士に及ばなかったとしても、野に放てばどれ程の被害が出るか想像も出来ません……厳しい戦いになるかと思いますが、どうか宜しくお願いいたします」
     と、深く頭を下げるのであった。


    参加者
    夜空・大破(破滅を断つもの・d03552)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    小田切・真(ブラックナイツリーダー・d11348)
    狩家・利戈(無領無民の王・d15666)
    マナ・ルールー(ステラの謡巫女・d20938)
    セリス・ラルディル(澆薄蒼炎・d21830)
    韜狐・彩蝶(白銀の狐・d23555)
    斎宮・飛鳥(灰色の祓魔師・d30408)

    ■リプレイ

    ●過去の影
     姫子の話を聞いた灼滅者達。
     大分県は別府市、鶴見岳に現れようとしているスキュラダークネス。
     そしてスキュラダークネスを産み出そうとしているのは、腐敗せし身体のアンデッド。
    「……スキュラダークネスですか。もうスキュラはいないというのに……いったいいつまでこの残滓は残っているのでしょうね?」
    「ああ、全くだ。なんとまあきな臭ぇ依頼だよな。裏で糸引いてるダークネスの臭いがプンプンしやがるぜ」
     夜空・大破(破滅を断つもの・d03552)と、狩家・利戈(無領無民の王・d15666)の言葉。
     既に灼滅された大淫魔スキュラ……その力はかなりの脅威であったが、その力により産み出されようとしているスキュラダークネスが、今、過去に大戦のあったこの地に生まれようとしているのだ。
    「しかし……生まれたときから既に役割がない……であれば、新たに役割を与えられる前に、この世との繋がりを絶つしかないですね」
    「うん、そうだねー! スキュラダークネスとやるのは二度目だけど、とりあえずアンデッド全部倒せばいいよね?」
    「そうだね。まぁ、アンデッドがどうやって、スキュラダークネスを産み出しているかは知りたい所ではあるけど……でも時間が掛かればスキュラダークネスを倒せなくなってしまうからね」
    「ああ。ノーライフキング……! 段々強くなっていく変わった相手だが、絶対に野放しにはさせない、ぞ」
     大破に韜狐・彩蝶(白銀の狐・d23555)、四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)、セリス・ラルディル(澆薄蒼炎・d21830)が言葉を口々に紡ぐと、思い出したようにマナ・ルールー(ステラの謡巫女・d20938)が。
    「でも、一体どなたがスキュラの力を利用しようとしてるのかしらん? むむむー……アンデッドってゆったら真っ先にセイメイさまが出てくるのだけども、ここってガイオウガさまの眠る場所だし……なにか因果があるのかしら」
    「……さぁ、どうなのでしょう。でも、今、私達が出来る事は……スキュラダークネスが、本当の力を取り戻す前に、倒す事です」
    「そういえば、アンデッドもアンデッドで、何を目的に動いているのか気になる所ですね……まぁ、聞いた所で答えるようなものでもないでしょうし、倒せるときに倒しておくべきでしょうね。分かり合えないものは分かり合えないでしょう……何にせよ、危険な芽は早めに摘んでおきたいですしね」
    「ええ……何にせよ、時間勝負なのは間違いありません。気を引き締め、確実に止めを刺す事としましょう」
     斎宮・飛鳥(灰色の祓魔師・d30408)に大破と小田切・真(ブラックナイツリーダー・d11348)が頷く。
     そして、足元をしっかりとした靴で固め、ハンズフリーのライトなどを頭や腰に装着し、灯りを確保。
     総ての準備が整えば、急ぎ、スキュラダークネスの出現する山中へと急ぐのであった。

    ●産まれ悪魔へ
     そして山中を歩き、過去の戦場跡へと向かう灼滅者達。
     空はすっかり暗闇に包まれており、視界は殆ど無い……それぞれのハンズフリーライトだけが、その視界の頼り。
     ……そして、暫く歩いていくと……。
    『ウ、ウグゥゥゥ……』
     と聞えてくる、呻き声。
     その呻き声の場所に急ぐ……そして……。
    『……グ、ア……ウゥ……』
     ちょうど、アンデッドが立ち止まったその時。
     辺りの瘴気がぐぐぐ、と集まり始め……そして、気色悪い肉塊に集まり始める。
     ……それを見て、マナが。
    「んんん……マナ、初めてスキュラさまの遺産ってゆーのを見たのだけど……なんだか気味が悪いねい。誰がどんな意図を持っているかは知らないのだけれど、好き勝手にはさせないんだから! いきますよう、ケレーヴちゃん!!」
    『ワウウ!!』
     マナの言葉に、声高らかに吼える霊犬、ケレーヴ。
     そして合わせるように彩蝶、マナが。
    「さぁ、灼き尽くせ」
    「そうだね! マジかる・ショータイム!!」
     と、スレイヤーカードを解放すると、他の仲間達も一挙にスレイヤーカードを解放。
     ……そして解放していくと共に、いろは、彩蝶共に時間経過が解るようにアラームが鳴るようにした時計をセット。
     そして、アンデッドと、産まれつつあるスキュラダークネスに向かって一気に間合いを詰める。
     そして……アンデッドに対して、特攻するなり、タックルをかまし、捕まえる利戈。
    「っしゃー! 捕まえた!!」
    『ガ、ウ、ガァア……!!』
     どうにか引きはがそうとするアンデッドだが、利戈は決して離れない。いや、むしろ……。
    「ひゃっはー! テメェの相手はこの俺だー! よそ見すんじゃねーよ!」
    「さぁ、そっちは任せたぜー!!」
     と利戈は叫びながら、アンデッドもろとも、そのまま転がり、坂を下って言ってしまう。
     ……そして、つまりそこにいるのは、産み出されたばかりのスキュラダークネスのみ……肉塊から抜け出すように、禍々しい気配を持ったスキュラダークネス。
    『……グ、ウウ……』
     そんな呻き声と共に、すっ、と立ち上がり……そして、初撃、その手のリングスラッシャーの様な物を、投げつけるようにして一撃。
     ……生まれたてで、力の制御が出来ていない筈であろうが、それでも……かなり痛い一撃。
     真がディフェンダーの効果で、仲間への攻撃を代わりに受け止めるが、その一撃で体力の三割近くを削っていくのだ。
    「っ……」
     その一撃をうけた真、対してはすぐにシールドバッシュでスキュラダークネスに怒りを付与し、攻撃をこちらに引きつけるようにすると……ケレーヴも、同じポジションにて、仲間の護衛へつく。
     ……そして、ジャマーのセリスが縛霊撃、スナイパーのマナが。
    「さぁさぁ、マナの魔法、とくと御覧あれ!」
     と、螺旋槍で攻撃を喰らわせる。
     ……そんな灼滅者達の攻撃を、スキュラダークネスは、そのまま受ける。
    「余り……効いてないか」
     彩蝶が言うとおり、スキュラダークネスは、怯んでいる様には全く見えない。
    「かなり強敵なのは間違いない……でも、時間が掛けられないですし、一気に全力で行くよ」
    「うん」
     大破にいろはがこくりと頷く……そして、大破が鬼神変、いろはが。
    「あいにくだけど、キミが生まれるのを祝福してくれそうなお姫様はもう居ないんだよ。さっさと、眠っちゃいなよ!」
     と言いながら螺旋槍。彩蝶も、クルセイドスラッシュの一撃を食らわせる。
     そして、仲間達を補助するように飛鳥が天魔降臨陣で回復と、EN破壊を付与していく。
     ……そして2ターン目。
     アンデッドと共に転がっていった利戈は、アンデッドと僅かに間合いを取ってから。
    「さてと、後はアンデッドとタイマンするだけのカンタンなお仕事ってか!」
    『グ、ウゥゥ……』
    「睨んでも何もねーぜ? 潰し、穿ち、ぶち壊す! 我が拳に砕けぬものなど何も亡い! 死人はちゃんと死んどけや!!」
     1対1のタイマン勝負となり、生き生きと拳を振るう利戈、そして対するアンデッド。
     ……その対峙に対して、スキュラダークネスと対峙する他の仲間達。
    『グ……ア、ゥゥ……』
     瘴気を纏い、揺らめく中……先ほどのターンに比べれば、確実に攻撃力は上がっており、その動きも、先ほどに比べ鋭い。
    「これは……時間を掛けるのは、かなり不味い事になりそうですね……そこで今、私が出来る事は……」
     飛鳥は静かに、敵の攻撃を見極めて……攻撃を食らった仲間にヒーリングライトで回復。
     そして、セリスがスターゲイザー、マナがフォースブレイクで更にバッドステータスを追加していくと、真とケレーヴのディフェンダーが、スキュラダークネスとの距離を詰め、彼の動きを更に制限。
     そして大破、いろは、彩蝶のクラッシャー陣が、制約の弾丸、黒死斬、閃光百列拳で、確実に攻撃を命中させてダメージを蓄積していく。
     ……しかしながら、2ターン、3ターン、4ターン……と続いて行くも、目立っての被害は見えない。
     そして、5ターン目。
    『ピィィッ』
     と、時計のアラームが鳴り響く。
    「五分、か……どうかな?」
     いろはが確認する様に聞くと、飛鳥が。
    「まだ、押せている状態かな……でも、確実に押し返されつつあるね」
    「そう……でも、油断は禁物だね。さぁ、気を緩めずにいくよ」
     飛鳥にいろはは皆に声を大にして言い……更に、戦うのである。

     そして……二回目のアラームが鳴る、10ターン目。
     ……傍目から見れば、少しは疲弊してきているのは分かるが……でも、まだまだなのは間違いないし、次第にスキュラダークネスに押されている様にもなってきている。
    「……流石に、もう残された時間は殆ど無いかな? 巻きで行くよ」
     と、いろはが言うと、彩蝶が。
    「ああ」
     と、至近接近の彗星撃ちで、敵エンチャントブレイクを行い、いろはもグラインドファイアの浴びせ蹴り。
     大破自身がフォースブレイク……身体を使った渾身の一撃を叩き込む。
     大きな傷跡を抉るように切り裂いた一撃……スキュラダークネスがガガァ、と大きな悲鳴のような声を上げ、そして、その身体を引き離すように、彼女の身体を吹き飛ばす。
     樹にめり込む身体……一寸、呼吸困難になるも、飛鳥がすぐに彼女の元へと飛んで行き、ヒーリングライトで回復。
    「大丈夫?」
    「う、うん……なんとか、ね。ありがとう」
     と大破は短く飛鳥にお礼し、すぐに戦線復帰。
     そしてセリスが。
    「駆けろッ! 蒼炎!」
     と、グラインドファイアで、マナもフォースブレイクで攻撃。
     ……その一撃が、スキュラダークネスの片腕を、吹き飛ばす。
    『ガ、ガア、アアアア!!!』
     ……痛みを認識しているかどうかはわからないが、少なくとも、その叫び声は……救いを求める様に、大声を上げる。
     そしてスキュラダークネスは、強力な攻撃力をもち、狂気の儘に暴れ回る……近くに居るもの、総てを、その今日ろくな攻撃力で……たたきつぶすが如く。
    「っ……!」
     唇を噛みしめながら、真とケレーヴがその攻撃を受ける……もう、一撃、一撃が即重傷に繋がりかねないダメージである。
     でも、飛鳥に加えてマナも回復を行う事で……スキュラダークネスが一体だけだから、どうにか対応出来る状態。
     とは言え……それでもかなりの綱渡り……むしろ、スキュラダークネスが、本当の実力を取り戻せば、押し切られるのは間違いない。
    「く……ギリギリ、か」
     と、真が唇を噛みしめるのに、セリスが。
    「……そうだな……あいつも、かなりギリギリの様だ……先に、どちらが倒れるか、だな」
    「ああ……だが、負けられん」
     セリスの言葉に真は、じっとスキュラダークネスを見据える……そして。
    「……ッ!」
     14ターン目……いろはが繰り出した、グラインドファイアの一撃。
     その一撃は、深く、スキュラダークネスの胸元を抉り、貫く。
    『ガ、アアア……!!!』
     胸を抑え、叫ぶスキュラダークネスに、彩蝶が。
    「……トドメだ」
     と、渾身の彗星撃ちをたたき込む……そして、スキュラダークネスは、断末魔の悲鳴と共に、崩落していくのであった。

    ●寸前の光
    「……ふぅぅ、何とかおわったねぇー……みんな、お疲れ様-!!」
     大きく息を吐き、大型狐姿から獣人姿に戻る彩蝶。
     ここまでに時間の制約があり、そして……緊張した戦いは、精神的にかなり疲弊させてくれた。
     ……と、ちょうどその時、3回目のアラームが鳴る。
     と言う事は……15分間もの間、戦っていたという事。それだけ、生まれたてのスキュラダークネスであっても、強い、という事なのだろう。
    「……アンデッドとスキュラダークネス合わせて15分……やはりスキュラダークネスは厳しい相手であるのは間違いないな」
    「そうだね。それに……最近、ダークネスとの大規模な戦いがあった所には事欠かないし……まだ、続きはありそうだよね」
    「……あ、利戈は大丈夫、かな?」
     とセリスが思い出すように言い、彼女がアンデッドと共に落ちていった先を確認。
    「おー、おわったかー。こっちもどーにかおわったぜー!」
     ぶんぶんと手を振る利戈……まぁ、結構服もぼろぼろになっているし、アンデッド一体に対してタイマンを張るわけだから、それはかなり負荷の高い仕事。
     でもまぁ……こうして元気で手を振ってるからこそ、こちらも安堵出来る訳で、そんな彼女の手を引っ張り上げてあげる。
    「あー、ったく、服が汚れちまったぜー。でもよ、みんなちゃーんとスキュラダークネス倒せたんだな?
    「しかし鶴見ヶ岳……なにか変化、あったりしないかしらん?」
     とマナが周りを見渡すが……目立った物は何も無い。
    「まぁ……他の昔戦場だった所でも色々発生している様だしね。一つ一つ調べれば何か解るかもしれないけど……そんなに時間は無いかな?」
    「そうですね……」
     いろはに頷く飛鳥。
     ……何にせよ、まだしばらくは、気が休まる暇はなさそうである。
     そして灼滅者達は、朝に灼けつつある空を見上げながら、山を下り始めるのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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