壁ドンされたらフラグが立つ

    作者:夕狩こあら

    「マスター、お疲れさま」
    「RYO、今日も最高だったよ」
     とあるライブハウス。ライブを終えて楽屋から出た男は、扉向こうに聞こえる黄色い声に向かって歩き出す。
    「日増しにファンが増えてるな」
    「お陰様で」
     管理人に笑顔を返しながら、男はバンドの仲間達と共に通用路を歩く。
    「ファンには手を出すなよ~!」
     そんな冗談を背に扉を開くと、
    「感動しました!」
    「サインください!」
     出待ちのファンにすぐに囲まれてしまう。
    「来てくれて、ありがとう」
     男はファンに声を掛けながら、その中の一人、頬を赤らめ惚けている少女に目をつけた。
    「君……どこか具合が悪いの?」
     人だかりから少女を隅に連れると、片手を壁に付き、小首を傾げて可憐な顔を眺め見る。
    「あっ……あの……」
     声を掛けられた少女は緊張と興奮のあまり、倒れそうになる。
    「大丈夫? 駅まで送るよ」
     黄色い声が飛び交う中、男は少女を横抱きにしてその場を去った。
     
    「淫魔であるヴォーカリストのRYOは、楽屋の裏口をハーレムにするのが趣味のようです」
     集まった灼滅者達の呆れた表情を見回しながら、五十嵐・姫子が言った。
    「ファンの中から好みの者を選んで虜にした後は、自らのバンドの追っかけのように従え、ライブの度に観客や出待ち要員として侍らせています」
     自らの人気と魅力を公の場に顕示させたいのだろう、と姫子はつけ加える。
    「既に多くの方が彼の毒牙にかかり、ライブ後に楽屋裏で待っている人の殆どは彼の虜となっています」
     それでは自作自演だ、と呟く灼滅者達に、姫子も小さく頷いた。
    「RYOの嗜好は幅広く、美しい男女なら年齢を問わず誘惑してきます」
     美男美女が揃う灼滅者達は、彼にとっては絶品か。
    「ライブの開催日に裏口で待てば、見慣れぬ貴方達に声を掛けてくるでしょう」
     特別着飾る必要はない。ライブを観に来たような格好であれば、各々の自由だ。
    「気をつけるべきは、RYOの誘惑能力です」
     男女問わず好む、性欲旺盛な彼である。姫子は灼滅者達に注意を促した。
    「所謂『壁ドン』という行為により、相手の逃げ道を断った上で魅了してくるほか、懐に飛び込んだ者を絡めとって『姫抱っこ』にし、行動意欲を奪います」
     この時同時に放たれる、ロマンスを匂わせる台詞にも気をつけた方が良い。
    「バンドメンバーは強化一般人として改造されており、彼等はナイフを手に戦います」
     メンバーの2人は、RYOが相手を敵と見なした瞬間、彼を守る形で前衛に出る。
    「RYO自身は愛用のギターと、声を使っての攻撃……ヴォーカルらしいですね」
     アーティストとしても優れている淫魔。彼が奏でる音楽は背徳的で誘惑に満ちており、油断すれば催眠をかけられてしまう。
    「所謂『壁ドン』や『姫抱っこ』は恋愛フラグの典型です。彼の誘惑に打ち勝ち、人を弄ぶ淫魔を倒してきてください」
     姫子はそう言って、灼滅者達を見送った。


    参加者
    蒔絵・智(喪失万華鏡・d00227)
    巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)
    シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)
    佐倉・朔(宵闇に薫る華・d05839)
    新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)
    草壁・夜雲(中学生サウンドソルジャー・d22308)
    メソリア・モンペチール(戦場の泣き虫・d24659)
    オフィーリア・レーグネン(沈み征くローレライ・d26971)

    ■リプレイ


     ライブハウス裏の搬入口。機材の積み込みを終えた扉は固く閉ざされているが、隙間から漏れ聞こえる拍手や、鉄の扉を振るわせる歓声を聞くに、ステージは余程盛り上がっているのだろう。
    「これは相当な人気のようですねぇ」
    「デビュー前にしては……不自然な、くらい……」
     黄色い声が漏れ出る扉を眺めながら、柔らかい頬に手を添えてシャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)が呟くと、隣に居たオフィーリア・レーグネン(沈み征くローレライ・d26971)が彼女の言葉に頷きながら、囁くように答えた。
     勿論、二人はこのカラクリを知っている。結成して日も浅いバンドながら人気を集めているのは、淫魔であるヴォーカリストのRYOの罠によるものだ。
    「歌の力を……こんな、クダラナイ欲望の為に、使うなんて……許せない……」
     憂いを秘めたようなオフィーリアの青い瞳に暗い影が沈むのは、音楽を冒涜するかのような敵の行為に対し、謂わば『同業者』として怒りが湧くからだ。幼い時分から持ち前の美声によって活躍してきた彼女は、自らが愛する音楽を快楽の道具に利用される事が何より腹立たしい。
    「自作自演っていう所が恥ずかしいよね~」
     怒気を隠さぬ彼女の背後から、ゆっくりと近付いて言ったのは、佐倉・朔(宵闇に薫る華・d05839)。オフィーリアと同じくRYOの行動を否定しているが、その口調が軽やかなのは、老若男女をナンパして吸血を楽しんでいる自分と近しいものを感じるからか。
    「誰が誘われるかな。賭けてみる~?」
     ナンパするのも得意だが、される自信もある。朔が暢気な声で流し目に仲間を見やると、会場から一際大きな声援が響いて漏れ出た。
    「……最後の曲が終わったようだな」
     扉向こうより届く音に耳を済ませていた巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)が低く言い放つ。
    「ファンが出待ちに押し寄せてくるぞ」
     RYOを妄信的に崇拝しているが、彼等は一般人だ。苛烈な戦闘に巻き込まぬよう避難させるべく、冬崖は仲間に視線を送る。
    「あのぅ、冬崖さん」
    「? どうした?」
    「その格好、少し寒くないですかぁ?」
     大柄な体躯の冬崖の陰からひょっこりと姿を現したのは、メソリア・モンペチール(戦場の泣き虫・d24659)。彼はタンクトップとカーゴパンツというラフな服装の冬崖に、心配そうな瞳を注いでいる。
    「闘うのであれば、然程気にすることでもないな」
     流石は寒空にも半袖のユニフォームでフィールドを駆けるラガーマン。フッと微笑んで答えた冬崖の男気に感動したメソリアは、尊敬の眼差しで言を受け止めた。
    「……来た」
     そのメソリアと背を合わせ後方を見つめていた新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)が、落ち着いた声で言う。彼の静かな言と同時に、正面口より十数人のファンが足早に裏口へと回り込んできた。
    「凄い勢い……」
    「ま、お帰り頂きますか」
     迎え撃つように身体を動かしたのは、辰人と合わせて一般人の退避役を演じる蒔絵・智(喪失万華鏡・d00227)と草壁・夜雲(中学生サウンドソルジャー・d22308)。
    「えっと。今からここ、使いたいから、ちょーっと外してくれたりしない……カナ?」
     今しがたライブを終えて熱狂するファンに対し、その熱を冷ますように穏やかに、智が上目遣いにお願いする。胸元で細く白い手を合わせ、小首を傾げて頼む姿は愛らしく、
    「駅が見える所まで送るね?」
     彼女に魅了されたファンは強く頷いて追従した。
    「機材を回収する搬入車が入って来るから、ファンの皆は下がってて。危ないよ」
     智のラブフェロモンでの誘導を補完するように、辰人が王者の風を吹かせた。一斉して裏口へと押し寄せたファン等はこれにより折り返して各々の帰路を辿ることになる。
    (「新堂先輩、ナイス嘘……!」)
     特段の衝突もなく穏やかに去ったファンの背を眺め、内心安堵しながら夜雲が殺界形成を施して後続を断てば、準備は万全だ。
    「あとは、色男を張り倒すだけだね」
     夜雲の言葉に一同が頷いた時、裏口の扉が開いた。


    「……あれ、?」
     恍惚に染まった馴染みの顔がいないと思ったRYOは、一瞬戸惑ったような表情を見せたが、それも直ぐ頬笑に変わる。
    「初めて見る子ばかりだけど……ライブ、来てくれた?」
     何せいつものファンより数段も美しい顔貌ばかり揃っているのだ。彼は薄く微笑んで上玉を見つめながら、彼等が己に羨望と憧憬の眼差しを注いでいる事に密かに優越感を抱く。
     中でも目を惹いたのは、美少年を絵に描いたような朔だ。彼の艶を含んだ金の瞳が煌々と輝いて己を映す姿は、心の闇に蠢く支配欲を滾らせる。
    「俺もRYOみたいになりたいって思ったんだ」
     形良い両唇から紡がれる科白も魅惑的で、
    「ねえ、もっと話……聞きたいな。……二人きりで」
     誘われるのも悪くない。
    「そうだね。あと……もう1輪、愛でる花が欲しいかな?」
     朔の微笑を受け止めたRYOは、居並ぶ灼滅者達を見回すと、
    「今日は欲張りになってもいい?」
    (「ボ、ボクじゃないよね……っ?」)
     涼しげな瞳で近付いてくるRYOに後ずさりしたのは、夜雲。しかし後退も間に合わず、壁に追い詰められた彼は困惑のうちに肩口に伸びた手を許してしまう。
    「ご、ごめんなさいぃ……」
    「何で謝るの? 謝るのは俺の方なのに」
     壁に手を付かれ、逃げ場を失った夜雲は赤らめた顔を伏せて断ったが、身を屈めたRYOは、夜雲の耳元近くで囁くように言った。
    「今夜……君の時間を、全部貰うから」
    「ボク、男の子だよ……」
     可憐な顔立ちをしているが、夜雲は心身共に健全な男だ。
    「俺はどっちでも。大した問題じゃないさ」
    (「ひ、ひぃー!」)
     温い吐息に全身の毛を逆立てた夜雲が僅かに目蓋を開くと、
    「ジョーダンじゃないっつーの! 純情乙女なめんじゃないよ!」
    「おブッ……!」
     RYOの脇腹に異形化した智の片腕が炸裂した。至近距離で夜雲を口説いていた彼は、強烈な不意打ちに大きく仰け反る。
    「女の子にとっちゃ、ちょっと嬉し恥ずかしなイベント……耽美に壊すなっ!」
     年頃ガールの智の瞳には、美男が美男を口説く絵は刺激的だったかもしれない。密かに憧れる乙女のシチュエーションを踏み躙られた怒りが、RYOに痛撃を齎す。
    「……ッ! どうやら君達は俺のファンじゃなさそうだね」
     答えは沈黙のうちに返ってくる。灼滅者達の闘志漲る瞳が示すは、是。
    「それなら飼い慣らして、直ぐに従えてみせるさ!」
     RYOの言葉と同時に、彼の仲間がナイフを取り出して立ちはだかった。
    「仕掛けますっ!」
     敵の刃が妖しく光を放った瞬間、躍り出たのはシャルリーナ。身に纏った白衣が空を斬る羽の如く翻ったかと思えば、標的の死角へと回り込んだ彼女の脚は敵の腱を狙って切り裂く。
     裂傷に呻いたベースのSINが、鮮血を噴き出す足を強引に踏み出して襲い掛かった。
    「おっ、と……先輩に不埒は働かせられないな」
     SINの禍々しい刃を防いだのは、冬崖のWOKシールド。昂ぶる狂気のままに切先を振り回す敵に凝視された冬崖は、凶悪な瞳に映される自身に潜むダークネスが触発されるような感覚に襲われ、脳内を疾走する痛みに顔を顰める。
    「無粋だが、無理にでも邪魔させてもらおうか……!」
     それは眼前で殺気を暴走させる敵に対してか、己の奥底に蠢く闇に対しての科白かは分からない。ただ冬崖はシールドバッシュでSINを蹴散らすと、痛みを振り払うように胸元に手を当て、短く息を吐いた。
    「君達は忠実な犬になるより、一筋縄にはいかない……気紛れな猫でも構わないさ」
     灼滅者の戦いぶりに何処か納得したような笑みを見せたRYOは、愛用のギターを指で弾き、流麗たる旋律を奏で始めた。伸びやかな声は儚げで優しく、紡ぐ音は妖しさを含んで耳に届く。
    「こ、れは……っ!」
     流石は淫魔。神秘に包まれた音楽は母の腕に抱かれたように心地良く、本人の意識とは無関係に目蓋を重く落としていく。
     KENが放った毒気を含んだ竜巻を回避し、ソニックビートにて反撃へと転じたオフィーリアは、聡い耳に侵入する魔の旋律に奥歯を噛み締めた。
    「安心して眠って、子猫ちゃん。俺が撫でてあげるよ」
    「やっぱり……好きじゃないわ……アーティストとしても、男と、しても……!」
     彼女の長い金の睫毛が震えるのは、睡魔に飲み込まれそうになる本能と、それを拒む理性との闘争によってか。
    「君の可愛い寝顔、見せてくれ」
     RYOの薄い微笑を凛然と睨みながら、オフィーリアの膝が地に落ちていこうとした。


     その時である。
    「俺の演奏もイイでしょ~♪」
     朔の奏でたリバイブメロディが彼女を包んで支えた。虹色の音階が睡魔よりオフィーリアを守ると、次に辰人の足元より伸びた暗黒の触手がRYOをギターごと縛り上げる。
    「クッ……、演奏を止めるなんて悪い子だね」
    「……」
     辰人は溜息がちに吐いた彼の言葉には応えず、背後より襲い掛かったSINの刃には同じジグザグスラッシュを見舞って応酬した。
    「成程。素直じゃないね……」
     ツンデレってやつか、と灼滅者達を見渡すRYO。この淫魔、どこまでもポジティブシンキング。愛されない自分などは想像だにしない。
    「前向きすぎで怖いよぅ!」
     辰人の斬撃に合わせ、メソリアがSINへレガリアスサイクロンを放つ。小柄な体躯ながら巻き起こした暴風は強烈で、同列のKENをも巻き込んで薙ぎ払った。
     体勢を崩したRYOの防護壁に、夜雲とシャルリーナがグラインドファイアを叩き込む。折良く放たれた猛火は天へと突き上がり、SINとKENの呼吸する空気をも奪って焼き尽くす。
    (「……やった、……?」)
     敵の壁を貫いたかと見留めた智は、その身体がフワリと浮き上がった事に気付くのが、僅かに――遅れた。
    「わっ……!」
    「凄く強いけど、やっぱ軽いな。普通の女の子だ」
     仲間が壮絶な炎に呑まれる様を傍らにしながら、RYOは智を横抱きにして彼女の佳顔を熱っぽく見つめる。
    「そのカワイイ瞳に、俺を映しても良い?」
    「智さん! 強い心で抵抗してっ!」
     シャルリーナの声が遠く耳を掠めたが、薄い微笑みを浮かべる美形の眼差しは息を呑む程甘美で切なく、純粋な乙女が直視できよう筈がない。
    「な……なんだよ、やめろよ……ばか」
    (「デレたーーッッッ!!」)
     フイ、と目線を逸らして彼の情熱を拒んだものの、智の頬は桃色に染め上がっている。誰ともない仲間達のツッコミで、張り詰めた戦場が密かに緩んだ。
    「ちょっと揶揄いすぎたかな、また後でね」
     クスリと笑みを溢したRYOは智をゆっくり降ろすと、彼女の黒髪を優しく撫でて離れる。その後も熱冷めやらず、上気した頬に手を当てたままの智を見た朔は、
    「こりゃ見事にやられちゃったね……」
     蕩ける表情も悪くないと思いながら癒しを施した。RYOが学園の生徒なら、話が合うなと関心さえ湧いてくる。
    「なんて強力な誘惑……! こんな人を弄ぶ行為、許せません!」
     雷光の如き冴えた青白光を脚に纏い、RYOへと飛び込んだシャルリーナは、己の攻撃を甘受するどころか、体躯もろとも絡め取った敵の仕草に驚いて身を硬くした。
    「ねぇ、その眼鏡……俺の前だけで取って見せて」
    「なっ……」
    「綺麗な色してるんでしょ?」
     その性欲、まさに無双。
     壁際に追い詰めてないながら、舞い込んだ獲物を腕という檻に閉じ込めて誘惑を掛ける様は、謂わば『エアー壁ドン』というところか。
    「あの……これは、ですね……っ」
     彼の懐に囚われたシャルリーナは、どぎまぎと言葉を詰まらせながら抗うが、声は戸惑いに滲んで弱弱しい。
    「完全に向こうのペースだ……やりにくいな」
    「彼の……好きに、させては……だめよ……」
     助け舟を出したのは、中衛に構える辰人とオフィーリア。トラウナックルでRYOの横っ面を強かに殴打した辰人に続き、オフィーリアがハープ型のギター『Toten arie』を弾いて眠りを誘うと、衝撃と旋律に緩んだ手元からシャルリーナを引き剥がした。
    「はい、リセット、リセット~♪」
     頬を染めた彼女を迎えるように、またも朔が回復を施す。
    「僕は普通だから、きっとへっちゃらだよねぇ……?」
    「メソリアッ!」
     冬崖が危険を叫んだが、遅い。無垢な彼は『フラグ』を踏んだ。
     黒死斬を放とうと敵の死角へ回ったメソリアは、RYOの長い指が弾いた音波に捕まって反撃を受けると、
    「……目が合っちゃったね。俺が怖い?」
    (「ドキドキしちゃったら、どうしよう……!」)
    「ふえええええ……んっ!」
     敵の熱い視線を受けたメソリアの瞳に、涙が滲んだ。


     涙目のメソリアの前に立ち、冬崖と夜雲が盾となる。
    「俺は全力で拒む!」
    「そう言われるほど燃えるんだけど。もしかして、誘ってる?」
    「~~~~ッ!」
    「巨勢先輩、しっかり!」
     夜雲の激励に冷静を保ちながら、冬崖が幻狼銀爪撃を放ち、これに夜雲が零距離格闘を以て続く。
    「か、ハッ……!」
    「喋らせないのが……最良、ね……」
     苦渋の声も断つように、オフィーリアの殺人注射が敵の喉を襲った。RYOは衝撃に声を絞りながら、手は愛用のギターへと伸びて魔曲を奏でようとしたが、
    「お前を、切り裂いてやる」
     彼は辰人がその両腕に裂傷を走らせていった事に気付いただろうか。稲妻の如くジグザグに疾走する傷口より鮮血が吹き出ると、RYOはいよいよ絶叫する。
    「あなたのライブもそこまでです!」
     麗顔を血の朱に染めて慄く彼の腱を、シャルリーナの黒死斬が捕えた。ステージで光を浴びて立っていたカリスマの姿はなく、醜い淫魔が地を這う。
     灼滅者は、今際の科白すら許さない。
    「乙女の純情弄ぶ奴撃退キーック!」
    「が、フ……ッ……ッッッ!」
     死の鉄槌を見舞ったのは、智のスターゲイザー。彼女は流星の尾を引く如く光を散りばめて蹴りを放つと、空へ飛ばされたRYOは散り散りになって消滅した。
    「こ……怖かったよおぉ……」
     ホーッと息を吐いて肩を落としたメソリアに、
    「俺は似たもの同士でやり易かったけど?」
     朔が笑って返したことで、戦闘を終えた一同に漸く安堵が訪れる。
    「すっかり敵の誘惑に翻弄されてしまいましたねぇ」
     普段の間延びした穏やかな口調に戻って戦闘を振り返るシャルリーナに、冬崖が冗談っぽく答えた。
    「俺もイケメンに習って壁ドンを使ってみるか、なんてな」
     これにメンバーが笑みを返した陰では、
    「ボクも一度でいいから壁ドンしてみたいなぁ……」
     夜雲が小さく呟いていたが、彼がその側に回る日は来るだろうか。
     戦闘後の穏やかな勝利を攫ったのは、辰人の科白。
    「いや、俺が思ってた壁ドンと違ってて驚いたよ」
    「え?」
    「ほら、隣の部屋が煩くて、壁を叩いて苦情を言う――」
    「先輩……恋に疎すぎ」
     辰人の真顔に呆れながら、一同は破顔のうちに戦場を後にした。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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