赤髪の剣士

    作者:のらむ


    「グ……オオオ…………」
     早朝。とある河川敷の橋の下。赤髪の女が、胸を抑えながら呻き声をあげている。
     その女はボロいジーンズを履き、胸にはサラシを巻いていた。
    「収まれ…………!!」
     胸元の赤いダイヤのマークが光り輝き、そこからドス黒い影のような物が吐き出されていた。
    「よし…………いい感じだ」
     ようやく落ち着いた様子で、女はコキコキと首を鳴らし、ボサボサの赤髪をかきあげた。そして女は両手に神経を集中させ、影のような物を纏わせていく。
    「ふむ……現実世界で戦うとなれば、この位が丁度いいだろうな…………」
     そして形成された2本の黒い曲剣をブンブンと振り回しながら、女は周囲を見渡す。
     すると女は遠目に、犬を連れて散歩している1人の老人を発見する。
    「肩慣らしにもならないが…………まあ、とりあえず今の力を試してみるとするか」
     女は獰猛な笑みを浮かべ、老人の元へと走りだした。


    「今回私が予知したのは、現実世界に現れた武闘派っぽいシャドウです。皆さんは現場へ向かい、これを灼滅して下さい」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)はそう言って赤いファイルを開き、事件の説明を始める。
    「現場はとある河川敷の、橋の下。シャドウは現実世界に現れた後しばらくその場に留まり、力の制御を行っていますが、その後河川敷を散歩していたお爺さんを殺してしまいます」
     灼滅者達はシャドウが老人の元に走りだした直後、シャドウと接触することとなる。
    「幸いにも河川敷とその周辺にはお爺さん1人しかいません。シャドウは特にそのお爺さんにこだわっているという訳でも無いので、皆さんが接触すればそのお爺さんの事はあっさり見逃すでしょう」
     後は適当なESPを使用すれば、他に人が訪れる危険性はない。
    「本来現実世界に現れたシャドウはかなりヤバイ戦闘能力を持っていますが、その代わり一定時間内にソウルボードに戻らなければならないという制約がありました。が、今回のシャドウはウンウン唸りながら力を制御したことにより、長時間の戦闘を行うことが可能になってしまったんですよ。これが」
     力を制御していたとしても、その力は並のダークネス以上。決して油断は出来ないとウィラは言う。
    「あとは、そうですね……今回のシャドウは赤髪の女の姿をしていて、2本の黒い曲剣を使って戦うようです。サイキックで言えば、シャドウハンターの物とサイキックソードの物を使います」
     能力は高い順から、神秘、術式、気魄となっており、特に術式と気魄の差が大きい。
    「ただでさえ攻撃力は高いですが、更にポジションはクラッシャーです。怪我しないで下さいね」
     そこまでの説明を終えるとウィラは赤いファイルをパタンと閉じた。
    「戦闘能力がかなり高い敵を相手取ることになります。危険な仕事ですが、皆さんが無事に返ってくる事を祈っています。お気をつけて」


    参加者
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    桐淵・荒蓮(殺闇鬼・d10261)
    犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)
    花衆・七音(デモンズソード・d23621)
    シフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278)

    ■リプレイ


    「ふむ……現実世界で戦うとなれば、この位が丁度いいだろうな…………」
     形成した2本の曲剣をブンブンと振り回しながら、女の形をしたシャドウは周囲を見渡す。
     すると女は遠目に、犬を連れて散歩している1人の老人を発見する。
    「肩慣らしにもならないが…………まあ、とりあえず今の力を試してみるとするか」
     女は獰猛な笑みを浮かべ、老人の元へと走り出す。
     両手の曲剣に黒い光を集め、女は曲剣を振りかぶった。
     バン!!
     その時、河川敷に銃声が響いた。どこからか放たれた銃弾は女の足元を掠め、女は動きを止めた。
     女が銃声の聞こえた方へ首を向けると、そこにはリボルバーを構えた居木・久良(ロケットハート・d18214)が立っていた。
    「動くな!! シャドウ!!」
    「…………あ?」
     不機嫌そうな表情を浮かべ、女は久良を睨みつける。直後、
    「影、踏んだッ」
     女の背中を思いきり蹴り飛ばしながら、シフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278)が現れた。同時に、他の灼滅者達も現れ、女を取り囲む。
     そして花衆・七音(デモンズソード・d23621)が、念の為に遠くにいた老人の避難誘導を行う。
    「お爺ちゃん、これからちょーっと喧嘩が始まるさかい、巻き込まれんよう離れとったほうがええで」
     七音の言葉に素直に従い、老人は犬を抱えてその場から立ち去っていった。
     そして一方では、老人の殺害を阻止するべく、灼滅者達が女を取り囲んでいた。
    「話には聞いてましたけど、こうも簡単に現実世界に出てこれちゃうもんなんですね」
     犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)がそう呟く。
    「カッコいいシャドウちゃん☆ でも私たちの敵なんだよね~、コワーイ! ネオンはか弱いから狙わないで~」
     うさ耳をピコピコさせながら、殺雨・音音(Love Beat!・d02611)が仲間の背に隠れる。でもしっかり殲術道具は構えていた。
    「…………誰だお前ら。私に殺されに来たのか?」
     女の問いかけに、桐淵・荒蓮(殺闇鬼・d10261)が答える。
    「俺は武蔵坂学園の灼滅者、霧淵荒蓮! シャドウめ、いますぐ成敗してくれるのでそこに直れッ!!」
    「直りはしないが…………成程、お前らは灼滅者か。どうやら、あんな老人相手に力を使う必要もなさそうだ」
     特に老人を狙った理由も無い。むしろ灼滅者相手の方が、力を試すには丁度いい。女はほくそ笑んだ。
    「私も名乗ってきましょう……私の名はユーリー・マニャーキン。ダイヤのお嬢さん、貴女の名をお聞かせ願えますかな」
     ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)に名を問われると、女は曲剣の柄を肩にトントンと当てながら、考えこむ。
    「名前ねえ……アン、クレア、エステル、ナタリア……いやちがうな……リズでいいか、語呂もいい。私の名はリズだ。そう呼べ」
     明らかに今適当に考えた名を名乗り、女あらためリズは曲剣を構え直した。
     そして明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)が、ライフルを肩に担ぎながら、リズに向けて問う。
    「……1つ聞きたいんだけど、あんたらシャドウはソウルボード内にいれば安全なのに、なんでわざわざ現実世界に現れたの? シャドウってそんなにヒマなワケ?」
     瑞穂に続き、シフォンが一枚のトランプを掲げ、リズに問う。
    「私からも1つ。こんなカードを使うシャドウに、何か心当たりはない?」
    「……お前らの質問に答える義理は無いな。それに答えたとしても、それが真実だとどうして分かる?……どの道お前らはもうすぐ死ぬんだ。真実を語った所で得られるものは何も無い。そうだろう?」
     リズは挑発的な視線を灼滅者達に投げかけ、灼滅者達は殲術道具を構える。
     シャドウと灼滅者達の戦いが始まった。


    「友に力を、星の力を」
     戦闘開始直後、荒蓮が前衛に癒しの矢を放ち、仲間の力を高めていく。
    「なんだお前。さっきは成敗がどうとか言っていたじゃないか」
     ユリアが軽く馬鹿にしたように笑うが、荒蓮は特に意に介した様子もなく、
    「何が悲しゅうて一人だけでやらねばならんのだ。俺達はお前らダークネスとは違うんだよ」
     そう言って、刀を構える。
    「行くぞ、シャドウ」
     真正面からリズに向かっていく荒蓮はおもむろに刀身を抜くと一気に振り下ろす。
     リズが曲剣で防ぐ間も無く、リズの身体はまっすぐと斬りつけられた。
    「ほう、まあまあの腕は立つようだな」
     そう呟き、曲剣に黒い光を集めるリズ。
    「隙は与えない!」
     リズが攻撃するよりも早く、久良がリボルバーで速射する。
    「さっきから喧しい……」
     銃撃をスレスレの所で避けたリズが曲剣を振り、黒い光の刃を久良に向けて放つ。
     咄嗟に横に跳び、光の刃を避ける。そして同時に、リボルバーに弾を装填させる。
    「弾はまだまだ用意してある。お前が倒れるまで、何度でも撃ち続けてやる」
     その言葉通り、久良はファニングしてリズに向けて発砲し、銃弾の一発がリズの脇腹を貫通した。
    「クッ……」
     脇腹を抑えながら後ろに下がるリズ。そのリズに、美紗緒が追撃を仕掛ける。
     美紗緒は脇腹をはこの地に眠る畏れを掻き集めると、両足に集束させる。
    「行くよ、こま」
     自身のビハインド『こま』を引き連れ、美紗緒はリズに向かって跳躍する。
     そして足を振り上げ、一気に振り下ろす。鋭い蹴りがリズの方に叩きこまれた。
     リズは方に痛みを感じると同時に、背中が熱くなる。
     いつの間にかリズの背後に回りこんでいたこまが、リズの背中に短剣を突き立てたのだ。
    「……離れろ!!」
     美紗緒とこまを振り払い、リズは曲剣を掲げる。
     そこから発せられた黒い光が爆発し、前衛を襲う。
    「ケホケホッ、も~、やめてよね!」
     軽く咳き込みながら、音音が爆煙の中から飛び出してくる。その手には、鋭い爪が付いた縛霊手がしっかりと嵌められていた。
    「ねえねえ、そんなに現実に出てきたかったの? ネオン達灼滅者達に倒されちゃうかもって思わなかった?」
    「お前らに殺される? フン、考えたこともなかったな」
     音音の問いに鼻で笑って返し、リズは音音に向けて曲剣を振り下ろす。
    「ぷんぷん! そんな風にザコ認識されたらネオン、怒っちゃうぞ☆」
     全然怒ってる風には見えなかったが、音音の動きは素早い。
     曲剣を縛霊手で受け流すと、そのまま爪をリズの心臓に突き立てる。
     そして力を込めて引き裂くと、鮮血が辺りに飛び散った。
    「チッ……小癪な……」
     舌打ち一つして、リズは自身の胸にダイヤのスートを具現化させる。
     あっという間にリズの全身の傷が塞がっていく。
    「さて、次は誰だ?」
     リズはそう言って笑い、頰に飛び散った血を拭った。


    「それにしても……何やその姿。無駄が多すぎやないか。剣士名乗るんやったらこのくらいせんと!」
     リズにそう言った七音の身体は、闇が滴り落ちる黒い魔剣そのものとなっている。
    「足の数が2本の方が動きやすいんだよ」
     そう言って、リズは七音に向けて曲剣を振り上げる。
    「おっといきなりやな…………力試しとか言う取ったけど、剣技ならうち負けへんで!」
     七音は身体の剣を振るい、リズの曲剣を捌いていく。
     そしておもむろに距離を取ると、七音は自身の身体の刀身を鋸状に変形させ、リズに向けて突進する。
    「骨の数本くらい、我慢せえや!」
     激しい轟音と共に刃が震え、リズの身体に食い込んでいく。
     ゴリゴリとリズの骨が削られ、リズは七音を睨みつけながら後ろへ下がる。
    「ゲボッ、全く、訳の分からない攻撃を……」
     血を吐きながら膝をつくリズに、追撃を仕掛ける者がいた。
    「はいは~い、ちょっとそのまま動かないでよ~、弾が外れるから」
     瑞穂がライフルを構え、リズの脳天に狙いを定める。
    「チッ」
     リズは身体を翻し、瑞穂の放つビームをスレスレの所で避けていく。
    「全くチョロチョロと……しょうが無いわね」
     瑞穂は次弾を装填しながら、リズに向けて走りだす。
     そしてリズの髪を掴み上げると、一気に地面に引き倒した。
    「なにを…………!!」
     リズの眼前に銃口が突きつけられ、身体は瑞穂の足がしっかりと抑えこんである。
    「今度こそ動かないでくれるかしら、動いたとしてももう遅いでしょうけど」
     そして放たれたビームが、リズの目を貫通し、地面まで突き刺さった。
    「グ……オオオオ!!」
     地面を転がり、立ち上がったリズの右目から、ドロドロと黒い影が溢れだしている。
    「苦しんでる所悪いけど、全く全然容赦する気は無いよっ!!」
     兎の意匠が施されたチェーンソーを構え、シフォンがリズに攻撃を仕掛ける。
    「……私がお前らごときに負ける筈は無い!!」
     リズは黒い直検で、チェーンソーの刃を受け止める。
    「ウググググ…………!!」
     刃と刃がぶつかり合い、辺りには火花が飛び散った。
     シフォンとリズの2人は一歩も退かず、膠着状態が続いた。
     不意にシフォンがスッと力を抜き、姿勢を低くする。黒い刃の下をくぐり、シフォンはリズの背後に回り込んだ。
    「これは痛いよ!!」
     シフォンはチェーンソーをとにかく振り回しまくり、リズの背中をズタズタに斬り裂いていった。
    「チィッ!!」
     リズがシフォンに向けて、曲剣を突き出した。
     だが刃はシフォンではなく、間に割り込んだユーリーの身体を貫いていた。
    「……大丈夫か、シフォン」
     ユーリーが身体から刃を引き抜くと、霊犬の『チェムノータ』がすぐさまユーリーの傷を癒した。
     リズの全身を観察し、ユーリーが口を開く。
    「リズ殿、どうやらこの戦いに、終わりが近づいているようだ」
    「何だと?」
     リズ本人には見えなかったかもしれないが、蓄積されたダメージによってリズの身体はあちこちが剥がれ落ち、そこからドス黒い影が流れ出してるという有り様だった。
     灼滅者たちにもそれなりのダメージは蓄積していたが、ディフェンダーの数を確保しつつ、攻撃寄りの編成だったため、割と短期決戦に持ち込むことが出来た。
    「これで終わりだ……最後まで、全力で相手させてもらおう!」
     ユーリーの言葉を切欠に、灼滅者達が一斉に攻撃を仕掛ける。
     久良が振り下ろしたハンマーが、リズの肩を砕き、
     荒蓮の放った袈裟斬りが、脇腹を切り裂く。
     音音の放った炎の蹴りが顎を砕き、
     瑞穂の放ったビームが左目を砕く。
     シフォンのチェーンソーが腹を抉り、
     美紗緒の獣化させた爪が、更に傷口を広げた。
     七音が身体の剣で、リズを真一門に斬りつけると、
     ユーリーが剣を構え、その刀身を非物質化させる。
    「君のスート。ここで断たせていただく」
     そして真っ直ぐと振り下ろす。
     その刃は肉体に触れることさえ無かったが、その魂を切り、真っ二つにした。
    「ウウウ……グオオオオオオオ…………!!」
     己の魂と同じく、リズの身体が真っ二つに分かれていく。
     身体中から無尽蔵に影が吐き出され、溢れた影はリズ自身を包み込んでいく。
    「この私が……灼滅者なんかに…………ウオオオオオオ!!」
     全身が影に飲まれ最早形が無くなったリズの身体は、影とともに一瞬で霧散していった。
     リズと名乗ったシャドウは、こうして灼滅された。


    「ふむ……何とか勝てたな」
     戦いが終わり、荒蓮はそう呟いて刀の刀身を鞘に納めた。
    「いやー、良かった良かった。あいつの攻撃、ホンマに痛かったからなー」
     七音は自身の身体を元の形に戻し、うーんと背伸びしていた。
    「誰も大怪我はしてなくて、本当に良かった。みんな無事に帰るのが一番だからね」
     久良もほっと胸をなでおろしていた。
    「結局何の情報も得られなかったけど……ま、しょうがないよね。シャドウはいくらでもいるわけだし、次に期待しよっと」
     シフォンはそう呟きながら、トランプのカードを弄んでいた。
    「手掛かりになるモン……って言っても、そんなモン無いわよねぇ」
     情報が得られず、瑞穂は若干残念そうな様子だった。
    「それにしても、シャドウ……奴らはとうとうこちらの世界に進撃してくるか」
     ユーリーが呟くと、音音がそれに続く。
    「これからシャドウちゃん達は何するつもりなのかな~、怖いにゃ~?」
     音音がウサ耳をぴょこぴょこさせながら考えこんでいた。
    「シャドウが武神大戦獄魔覇獄に参加するための前準備……ってとこなのかな?」
     美紗緒の考えも、可能性の1つとしては十分に考えられるだろう。
     何にせよ、ここで調べられるものは特に無い。
     今はとりあえず学園に帰還し、戦いの傷を癒やそう。
     何かを考えるにしても、それからでも遅くはないだろう。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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