突き出した拳

    作者:陵かなめ

    「いい加減にしてくださいっ、お姉さん、嫌がってます!!」
     駅構内の片隅で少女――中井谷・風叶(なかいたに・ふうか)が声を上げた。
     真っ直ぐ見据えるのは、怯える女性に絡んでいた男たちだ。
    「はぁ?! ガキは黙ってろや!」
    「ウゼーんだよ。俺ら、これからこの姉ちゃんとイイことして遊ぶんだ。へへ」
     派手な柄のシャツを身につけた男達は風叶の訴えを鼻で笑い、下卑た笑いを浮かべた。
     男たちに囲まれた女性は、恐怖で震え力なく首を振る。
    「らぁ、あっち行ってろや!」
     男の一人が、大きく腕を挙げ風叶を打とうとした。
     反射的にその手を払い、突きを繰り出す。それは幼少の頃から習っている空手の動きだ。
    「やっ」
     ただし、実際に殴るわけではない。風叶は、相手との距離を見て拳を寸止めしてみせた……つもりだった。
    「がっ……」
     ところが、突き出した拳の風圧で男の身体が派手に吹き飛んだのだ。
     男の身体は壁に激突し、その場に崩れ落ちる。
    「こいつ……やべぇ」
    「お、おい、人殺しじゃねぇのか?!」
     その光景を見て、ニヤニヤと笑っていた男達が騒ぎ始めた。
    「え?! わ、私は」
     風叶は戸惑い、呆然と辺りを見回した。
     
    ●依頼
    「あのね、中井谷・風叶ちゃんって言う小学生の女の子が、闇堕ちしてダークネスになろうとしているんだ」
    「やはり、事件が起きてしまったのですね」
     檜枝・夜詠(檜を奉る・d30076)が思案顔を見せる。夜詠の懸念していた事件だ。
    「そうなんだよ。風叶ちゃんは、元の人間としての意識を残していて、ダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない状況なんだ」
    「では、もし彼女が灼滅者の素質を持つのであれば、救い出すと言う訳ですね」
    「うん。それから、もし完全なダークネスになるんだったら、その前に灼滅をお願いするね」
     そう言い、太郎は具体的な説明に入った。
    「まず、事件が発生するのは駅構内の片隅だよ。時間は夕方。男の人達が女性に絡んでいて、そこに風叶ちゃんが通りかかるんだ。風叶ちゃんは、いきなり力が強くなってしまって、男の人を拳の風圧で吹き飛ばしてしまうんだよ。みんなは、その直後から、介入可能できるからね」
     話を聞いていた空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)が手を上げる。
    「夕方って事は、まだ電車も動いているだろうし、一般人も居るよね。女の人も避難させなくちゃ駄目だし、一応、絡んでいた男の人達も逃がしたほうがいいのかな」
     太郎が頷き返した。
    「もし戦いに一般人を巻き込んで殺してしまったら、風叶ちゃんは罪悪感から戻って来れなくなるかもしれない。そこだけは、気をつけてあげて欲しいんだ」
     元来、風叶は正義感の強い少女だ。それが、人殺しなどと罵られた事に酷く動揺している。その辺りを基本に説得すると、彼女の力を抑えることが出来るはずだ。
    「戦いになれば、風叶ちゃんは正拳突きや蹴り技 で攻撃してくるんだ」
     彼女を闇堕ちから救うには、戦ってKOする必要がある。
     上手く説得し、KOしてやるのが良いだろう。
    「理由の無い闇堕ち……、シン・ライリーが関わっていそうですね」
     夜詠の言葉に、太郎が頷く。
    「その可能性は捨てきれないと思う」
     ともあれ、突如闇堕ちしてしまった少女の救出を。
     太郎は皆を見回し、頭をぺこりと下げた。


    参加者
    鈴鳴・梓(修羅の花嫁・d00515)
    久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)
    棲天・チセ(ハルニレ・d01450)
    日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)
    伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)
    雨時雨・煌理(南京ダイヤリスト・d25041)
    檜枝・夜詠(檜を奉る・d30076)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)

    ■リプレイ

    ●真っ直ぐな声
     夕日の差し込む駅構内、一般人の姿もちらほら見えていた。
     柱の陰で待機しながら若桜・和弥(山桜花・d31076)は思う。正直、初の仕事がこれだとは思っていなかった。
     自分も同じ目にあった。それも昨日の今日だ。他人事ではないと。
     すぐそばには、棲天・チセ(ハルニレ・d01450)の姿がある。
    「何も分からないまま闇堕ちなんかさせないんよ!」
     原因は分からないけれど、ダークネスの思うようにはさせないと。霊犬のシキテを傍らに置き、思いを秘めた瞳を現場へ向ける。
    「本人の意図しない闇落ちは、絶対に防がないと、ですねっ!」
     日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)が自分も同じ意見だと言うように頷いた。
    「懸念したことが起こってしまいましたね……なんとか救出したいです」
     周囲を確認品しながら、檜枝・夜詠(檜を奉る・d30076)がそっと目を伏せる。
     そんな仲間の様子を見て、和弥は色々なことに気付いていた。
     少し、緊張している。
    「大丈夫。やるべき事を、やろう」
     自分は1人じゃないと、感じられるから。
     和弥の周りには、少女を助けようと志を同じくする、頼もしい仲間達が居るのだから。
    「では、紺子ちゃんも避難誘導をお願いしますね」
    「オッケーだよ。みんなも居るし、何とかなりそうだね」
     久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)と空色・紺子(高校生魔法使い・dn0105)は避難について確認しあっていた。サポートに駆けつけてくれた仲間達を見る。皆、互いを確認するように頷き合った。
    「大抵、転機は場を弁えずして訪れるというがまさにそれだな」
     駅構内の片隅に、雨時雨・煌理(南京ダイヤリスト・d25041)が視線を延ばす。
     ニヤニヤ下品な笑いを浮かべた男たちが、怯える女性を取り囲み始めた。
    「来るとわかれば心の持ちようもあるというのだが」
     無用なトラブルに巻き込まれたくないという風に、見て見ぬふりで立ち去る大人たち。
     その中でただ1人、小さな少女が男達の傍で声を張り上げた。
    「いい加減にしてくださいっ、お姉さん、嫌がってます!!」
     真っ直ぐな声は、はっきりと駅構内に響いた。
    「あれが、そうだな」
     確認するように、伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)が仲間に問う。
    「間違いないわね」
     皆を代表して鈴鳴・梓(修羅の花嫁・d00515)が答えた。
     男たちと少女の言い合う声が聞こえる。
     あれこそが、中井谷・風叶だ。灼滅者達は、そう確信した。
    「らぁ、あっち行ってろや!」
     やがて1人の男が腕を振り上げる。
    「やっ」
     その手を払いのけ、風叶が鋭い突きを繰り出した。
     寸止めしたと分かったが、男の身体はその拳の風圧だけで吹き飛ばされる。
    「行こう!」
    「そうだな」
     それを見て、チセと煌理がいち早く走り出した。
     派手な音を立て、男の身体が柱に打ち付けられる。
     呆然とする風叶を気遣いながら、他の仲間達も一斉に行動を開始した。

    ●震える身体
     激しい激突音が響いたにもかかわらず、その場は一瞬妙な沈黙の時間が訪れた。
     皆、拳を突き出した風叶でさえ、ずるずると落ちていく吹き飛ばされた男の様子を黙って見ている。
     しかしそれも一瞬のこと。
    「こいつ……やべぇ」
    「お、おい、人殺しじゃねぇのか?!」
     無事だった男たちが異様な光景を見たまま口にする。
    「え?! わ、私は」
     風叶がはっと顔を上げた。
    「唐突に混乱中本当に申し訳ないが私達の話を聞いてほしい」
     流石に吹き飛ばされた男を庇うことはできなかったけれど、煌理がその中に割って入った。
    「大丈夫、さきほどの方は大丈夫です……必ず助けます」
     翠が真摯な眼差しで風叶を見る。
    「思ったより力出てびっくりしちゃったかな? でも大丈夫。それは制御できるし傷付けるだけの物じゃない」
     チセもすぐに風叶に声をかけた。
    「さぁ。向うへ行きましょうね~」
     同時に、集まってきた野次馬や付近の通行人に撫子が声をかけ始めた。撫子の声を聞いた一般人たちは、その声に促されるまま避難を始める
    「上手くESPが効いたようですね。紺子ちゃん、お願いします」
    「はいはいっ。皆さん、こちらです」
     紺子やサポートのメンバーがその声を受け避難の指示を出し始めた。
    「なあ、あれって映画の撮影? 違う? まさか、本当に人殺し……」
    「馬鹿なことを言う前に、今は避難が先ですよ?」
     風叶を指差そうとしていた一般人を飛良が黙らせる。
    「はあ? いきなり、何を」
     その様子を見ていた男の1人が食って掛かる。女性を囲んでいた男のうちの1人だ。
    「邪魔です、さっさと何処かへ行きなさい」
     すぐに夜詠がぴしゃりと男を黙らせた。冷ややかな対応に何かを感じたのか、男はおずおずと引き下がった。
    「危ないのでちょっと離れていてくださいね?」
     夜詠は囲まれていた女性には優しい手を差し伸べる。
     女性は頷き、辛い体験から解放される予感からか、ほっと安堵の表情を浮かべた。
     ある程度はなれた場所で、意識を失った男を回復させてやった。
    「今治療していますが……この怪我ならば命に関わるような事にはなりませんよ!」
     声を張り、皆に聞こえるようにはっきりと夜詠が言う。
     その頃、蓮太郎は現場へ近づいてくる一般人を遠ざけようと誘導していた。
    「この先、緊急で工事をしておりますので、近づかぬようお願い致します」
     警備関係者を装い、誰も立ち入らないよう仕向ける。
     また、別の場所ではサポートの仲間が同様に動いていた。
    「何か暴れてけが人も出ているらしい。兎に角、此処から離れろ」
    「酔っぱらいのトラブルみたいだし、巻き込まれたくなければ近付かない方が良いよ」
     舟護といろはが上手く別の場所へ誘導していく。
     皆の動く様を見て、和弥は思った。
    (「あの時に感じたよりも、遥かに多くの面で助けられていたんだ」)
     そして、呆然と拳を見つめる風叶と、あの時の自分を重ねてまた思う。
    (「多分私は、自分で思ってたより酷い顔をしていたんだろう」)
     これからやっていく事は、そんなに軽くないんだとも思った。
     けれども、だからこそ自分に出来ることをする。
     最後に和弥が殺気を立ち上らせると、周囲に一般人の姿は見えなくなった。
     治療や避難の手は十分足りている。
     ならばと、梓は風叶に語りかけた。
    「どんな力であっても使い方を間違えれば人を傷つけてしまう、あなたは今、そんな力を手に入れようとしているの」
    「あ、私は……」
     風叶の小さな身体が震えている。それは、ただひたすら恐怖からか、それとも湧き上がる力を制御できないからなのか。
     1つ言えるのは、風叶が拳を再び握り締めたと言うこと。
    「怖いかもしれない、悲しいかもしれない、でもその力と向き合うために、今はそれを私に向けてみなさい?」
     優しく諭すように、梓は言葉を続けた。
    「全力で受け止めてあげるから」
    「う、あ……」
     灼滅者達は、風叶から力が溢れてくるのを感じた。

    ●溢れる力
    「この、力は、私……ッ」
     風叶が突然地面を蹴る。その拳からは、強大な力が溢れ出しているかのようだった。
    「あああ、はあぁっ」
     ただ力任せの、しかし恐ろしく強烈な一撃だ。
     それを梓が受け止めた。その勢いは凄まじく、姿勢が知らず崩れる。衝撃とダメージが傷みとなり、身体中を駆け巡った。
     だが、倒れるわけにはいかない。
     気を集め回復しながら、梓は叱るように声をかけた。
    「そんな打ち込みじゃ駄目よ? もっと気持ちを入れて打ちなさい」
    「だって!! 私は、もう、この力で、あの人を……死なせてしまった……?」
     風叶の声がかすれる。
    「大丈夫、殺してなんていませんよ。殺そうなんて思ってない事も、分かってます」
     それは和弥の経験から出る、真実味を帯びた言葉だった。言いながら和弥はティアーズリッパーを放つ。
    「でも、傷つけてしまった!! この、私の拳でっ」
     風叶が首を振る。
    「さきほどのは『事故』です」
     戦いが始まっても、翠は声をかけ続けた。
    「でもこのままですと、いつか事故でなくなる日がくるかもしれません」
    「そんな、私は、ただ、助けたかっただけなのに!!」
     再び、風叶の跳躍。
     繰り出されたのは、前衛の仲間を巻き込む回し蹴りだ。
    「その力をなんとかしたいと思うのなら、わたしたちが力になります」
     急いで翠が癒しの風を呼び起こす。ディフェンダーは兎も角、クラッシャーである自身には厳しい一撃だった。
    「だから、まずは気持ちで負けないでくださいですっ」
     まだまだ声は届いていない。そう感じたからこそ、翠は再び声を上げた。
     仲間に傷を癒してもらいながら、チセも武器を構えた。
    「チーも力を初めて手にした時は驚いた」
     シキテを呼び、斬魔刀で攻撃させる。
    「けど学園で色んな人に会って、誰かを助ける為の力になる事を知って、素敵な相棒も出来たんよ」
     続けてバベルブレイカーの杭を思い切り突き刺した。
    「学園……? 相棒……?」
     苦痛に顔を歪めながら、風叶がチセとシキテを凝視する。
     その視線に答えるように、チセがはっきりと頷いて見せた。
    「信じられないだろうが、風叶は今達人を超えるような力を持ってしまった。でもそれは風叶だけじゃない」
     煌理のビハインド、祠神威・鉤爪が霊撃を放つ。
     同時に、煌理は風叶に声をかけながら前衛の仲間を祭霊光で癒した。
    「私達とて過去にそのような経験の元、今ここでこうしている」
    「あなた、達も……?」
     風叶が始めて戸惑うような表情を浮かべる。
    「大丈夫、さっきの人を殺めては居ませんよ」
     その時、十文字鎌槍を手に撫子が飛び込んできた。炎を纏わせ、勢い良く叩き付ける。舞い散る炎の残滓は桜の花弁の様で、撫子のステップは花の中で舞い踊っているようにも見えた。
    「ころして、いないの?」
     風叶が震える声で皆を見る。
     避難誘導に当たっていた仲間が戻ってきたのだ。
    「それに、私達は貴女が彼らを傷つけようとした訳ではないことは分かっていますよ」
     夜詠が縛霊撃を放った。
     あなたは殺していない。そのつもりが無いことも分かっている。
     幾度も同じ言葉を投げかけ、幾度でも答える。
     重ねて繰り返す灼滅者の言葉に、ようやく風叶が動きを止めた。
    「突然妙な力を得てしまい、驚いたことだろう。だが、恐れることはない」
     改めて、蓮太郎が言う。
    「力は、ただ力としてそこにあるだけ。その力をどう扱うかは、全てお前次第だ」
     しかし、風叶はまだ構えを解かない。
     そんな彼女の真正面から、蓮太郎は走りこんでいった。
     エアシューズを煌かせ、地面を蹴り、鋭く蹴り上げる。
    「わたし、しだい」
     吹き飛びながらも、皆の言葉をかみ締める風叶の声を聞いた。

    ●そして強い意思
    「それは制御できる力。すぐ元のように、正しい事に使えるようになります」
     呼びかけ、和弥が幾度も拳を突き出した。
     その攻撃で風叶の身体がぐらりと揺れる。確実にダメージを与えていることを感じた。
    「正しい、ことにっ。でも、私は、あの人を……」
     風叶はぐっと顔をゆがめる。
     ――殺してはいない。けれど、傷つけてしまった。
     その思いに、未だ囚われている様だ。
    「今回は偶然傷つけただけだ」
     煌理は言う。
    「偶然の無い人生などあるか?」
    「それは……」
     返事を言い淀む風叶に、祠神威・鉤爪が霊障波を放った。その後ろからするりと煌理が躍り出る。
     肩の方から鍵が外れていき、掌から発光した。
     煌理の除霊結界が、風叶の動きを鈍らせる。
    「……傷つけるつもりでしたらら、それこそ寸止めなどせず殴り飛ばしていたでしょう?」
     むしろ、あの不良達に臆せず向かった貴女は賞賛されて然るべきと夜詠も声をかける。
    「彼も大事にも至っておりませんし、気にする必要はありませんよ」
    「私は、傷つけたく、無かった!! 本当に、そうだったの!!」
     縛霊撃が風叶を縛り付けた。
    「傷付けることを望まないのなら、そのようにすればよい」
     続けて、蓮太郎が走りこんでいく。
    「そのように、する……?」
     風叶は完全に立ち止まり、防御の構えのまま蓮太郎を見ていた。
    「他の誰でもない、お前自身の力だ。できないわけはない」
     オーラを拳に集め、蓮太郎が閃光百裂拳を打ち込む。
     現に、自分たちもお前と似たような力を持っているが、それぞれの意思で力を振るっている。その思いをしっかりと伝えるために。
    「見ず知らずの方のピンチを助けたいと思う、その正義の心は間違いではありません」
     撫子が再び舞うように足を運ぶ。
    「だから。何も心配しなくても良いんです。その力の使い方は私達が教えますから」
     鋭く斬り付け、それを見せた。
    「武蔵坂には、こんな力を持った人がたくさんいるのですよ」
     言いながら、翠が雷を呼び起こす。
     反撃もせず、避けることもせず、風叶はただ灼滅者達の有様を見ていた。
    「この力をみんなのために使いたいって思うなら、来てみるのもいいと思うのですっ」
     翠の激しい雷が風叶の身体を撃つ。
    「あ、ぅ、ぁ……」
     苦しげな息遣いが聞こえた。声は届いていて、攻撃も通っている。皆が感じた。
    「風叶ちゃんが強く在りたい、誰かを守りたいと願うなら、チー達の仲間になって欲しいな」
     チセもまた、オーラを集めた拳で閃光百裂拳を放った。
     自分達も同じ力を持った仲間だ。だから、一緒に乗り越えようと。
     力を示し、優しく声をかけ、風叶を思う心は皆本物だ。
    「くっ」
     よろめきながらも、風叶が一歩退いた。
     そして、灼滅者達を真正面に見据え構えを取る。
    「私は、この力を、……あなた達のように、使いたいッ」
     一つ一つ言葉を区切り、その思いを口にした。
     彼女の表情は真剣で、溢れる力に混乱していたときとはまるで違う。
    「は……あっ」
     風叶が地面を蹴った。
     幼い頃から鍛錬してきた、自分の型だ。
     体重を乗せ、スピードを乗せ、ただ真っ直ぐに拳を突き出す。
     渾身の正拳突きを梓が受け止めた。
     最初の一撃に比べ、受けたダメージは少ない。
    「いい攻撃よ」
     だが梓は、はっきりと意思を持って動いた風叶を褒めた。
     そして、反撃の構えを取る。
     鍛えぬかれた超硬度の拳で風叶の身体を撃ちぬいた。
    「さぁ。一度眠りなさい。目覚めたら新しい自分を始めましょう」
     最後に撫子が炎をぶつけると、風叶は小さく頷きその場に沈んだ。

     しばらく後、風叶は目を覚ました。
     周りには、灼滅者達の姿がある。
    「あ、私」
     風叶が辺りを見回し、拳を握り締めた。
     その表情に、もはや戸惑いは無い。
    「がんばったわね」
     梓は優しく風叶の頭を撫で、微笑みかける。
    「風叶ちゃん、私たちの学園について説明しますね」
     膝を折り、目線をあわせ、撫子が学園のあらましを説明した。
    「興味があるなら、武蔵坂学園に来るがいい」
     蓮太郎が言うと、風叶は思案顔で近くにいた梓の袖をぎゅっと握る。
    「私達と共に正しく使わないか?」
    「貴女の力がこれから必要になるでしょう。私達に力を貸してくれませんか?」
     煌理と夜詠も、風叶の様子を覗き込んだ。
    「いっしょに武蔵坂にきてもらえると嬉しいですよっ」
     翠が微笑みかける。
    「どうかな?」
    「どうでしょうか?」
     チセや和弥の問いかけに、風叶は再び灼滅者達を見回して、それからしっかりと頷いた。
    「はい。私、頑張りますっ」
     こうして灼滅者達は、風叶を伴い学園に帰還した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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