武人の町

    作者:のらむ


     とある場所にある、とある地方都市。
     その町には多くの格闘闘技場や、プロレス団体が色んな場所に存在し、そこに所属している者達は一心不乱に稽古を続けていた。
     ただし稽古をしているのは、普通の人間たちではない。稽古をつけている者、稽古を受けている者のその両方がダークネス、アンブレイカブルだった。
     格闘技道場の師範は、業大老配下のアンブレイカブル。そこで稽古をしているのは、最近闇堕ちしたらしい格闘少年少女達だ。
     そしてプロレス団体には、ケツァールマスク配下のアンブレイカブル。そしてここにも、最近闇堕ちした少年少女が入門しているようだ。
     ここで、この町の格闘技道場の一つの日常を見てみよう。
     
    「あと5分だ!! 気合入れろ!!」
    「はい! 師範!」
     ここは、この町にある格闘技道場の1つ。先程行った通り、業大老配下のアンブレイカブルの指導のもと、多数の闇堕ち格闘少年少女達が、一心不乱に組手を行っていた。
     もちろんアンブレイカブルが行う稽古はとても激しく、厳しい。だがそれでも少年少女達は、挫けることはない。
     互いに切磋琢磨し、楽しみながら、自分たちの力を確実に高めていく。最強の武を求めて。
    「よし!! 今日の稽古は終わりだ!! 全員着替えて、集合しろ!!」
    「はい! 師範!!」
     稽古が終わり、師範は稽古を付けていた少年少女を連れ、近場の定食屋へ入る。
    「今日は俺の奢りだ。今日は好きなだけ食え!! 絶対に遠慮するなよ!!」
    「ありがとうございます! 師範!」
     稽古の後の楽しみは、共に稽古した仲間たちと共に食べる食事だ。
     食欲旺盛なアンブレイカブル達の食事の光景は凄まじいもので、ガツガツバクバクモグモグと食いまくり、テーブルの上を埋め尽くす大量の器が、今にも床に零れそうだ。
     こうして皆で食事を取って英気を養い、明日の稽古に備えるのだ。
     
     この町には、こういった格闘技道場やプロレス団体がいくつもある。
     この町のアンブレイカブル達は特に大きな事件を起こすこともなく鍛錬を続け、楽しく暮らしているようだが……。 


     教室に集まった灼滅者達を確認し、神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、説明を始めた。
    「今回海堂さんが掴んできてくれた情報によると、かつて業大老配下のアンブレイカブル、葛折・つつじが活動していた地域の都市の1つに、多くのアンブレイカブル達が集まり、稽古をしているらしいです……あ、海堂さんは情報提供ありがとうございました」
     そう言って、ウィラは海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)に頭を下げた。
    「この町のアンブレイカブル達は特に事件を起こしているわけではないようですが……まあ、全く放置するって訳にはいかないでしょう。それに海堂さんの調査によると、今学園で話題になっているであろう獄魔大将、シン・ライリーが背後で動いている可能性があります。そんな訳でして、皆さんには調査を行っていただきたいのです」
     そう言って、ウィラは調査方法に関する説明に入る。
    「まず、この町にはアンブレイカブルがたくさん集まっているため、騒ぎを起こすのは得策ではありません。ただしアンブレイカブルは腕試しの試合を望んでいる場合ありますので、そういった方向性なら情報収集を行うことが出来ると思います」
     あるいは、アンブレイカブルに見つからないように隠れて情報収集を行い、彼らが集まっている目的や、首謀者の情報を探るという手もある。
    「またアンブレイカブル達は、この町の住民とも普通に交流しています。特に弁当屋や飲食店などでは、食欲旺盛なアンブレイカブル達はお得意様になっているようなので、住民側からの情報収集も可能かもしれません」
     資料をパラリとめくり、ウィラは説明を続ける。
    「今回は、調査が目的となります。アンブレイカブル達は悪人という訳ではないようですが、ダークネスである事には、違いありません。些細な事で殺傷沙汰に発展することも多いので、行動は慎重に行って下さい」
     また、情報収集は町に入ってから24時間以内を目処にして、それまでに得られた情報をもって、戻ってくるようにしてほしいとウィラは言う。
    「今回は、全員が無事に戻ってくることが依頼の成功条件となります。多くの情報を得られればもちろん良いですが、何よりも無事に帰還できることを優先して下さい。怪我にはお気をつけて。いってらっしゃい」


    参加者
    海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)
    九条・雷(蒼雷・d01046)
    安曇野・乃亜(ノアールネージュ・d02186)
    鈴鹿・夜魅(紅闇鬼・d02847)
    十七条・法権(戦闘風紀委員長・d12153)
    志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)
    百合ヶ丘・リィザ(砕けえぬ拳を砕くもの・d27789)
    四波・宿儺(伽藍の化生・d27986)

    ■リプレイ


     現在の時刻は午前8時5分。
     アンブレイカブル達が集まっている武人の町。その一角にある小さな公園に集合した灼滅者達。
     事前に分担していた班に分かれ、それぞれの調査エリアを調べていく予定になっている。
    「じゃあ、打ち合わせ通りにね。14時にここで」
     九条・雷(蒼雷・d01046)の言葉に一同は頷き、散開していく。
     最後に公園を後にしたのは、四波・宿儺(伽藍の化生・d27986)と雷の班だ。
    「アンブレイカブルの町か。色々と興味は尽きぬが……まずは調査だな」
     宿儺がぽつりとそう呟く。
    「アンブレの町ってだけで、ぞくぞくしちゃう……戦わないって主張はしたけど、やっぱりやりあいたかったなァ……」
     雷が少し残念そうに呟き、雷と宿儺は町へ繰り出した。
     早朝なだけあってまだ人通りは少ないが、どこからか威勢の良い掛け声が聞こえる。何かの訓練の声なのだろう。
     道場やプロレス団体が多いというのは、本当の様だ。
     町中を歩いていると、雷と宿儺の前にとある屋台が現れた。
     雷が早速店のおじさんに声をかけた。
    「はァい、おじさん! 聞きたいことがあるんだけど、ちょっといい?」
     そう言って、雷はこの町にいつから道場が増えたかを尋ねる。
    「ああ……うーん、いつだったかなあ……前々からちょくちょくあったとも思うけど……」
     あまり芳しい答えが得られず、宿儺が更に質問する。
    「それでは、このあたりで一番強い武芸者を知らないか」
     宿儺の言葉に、おじさんは何か思い出したように宿儺の方を向く。
    「強いかどうかは分からないけど、よく出る名前ならあるよ。確かケツァールマスクって人とか、シ……シ……白井……」

    「シン・ライリーという名前を聞いたことはあるか?」
     十七条・法権(戦闘風紀委員長・d12153)が、とあるラーメン屋のおっさんにそう尋ねると、おっさんは顎に手を当てて考えこむ。
    「…………ああ、思い出した。この間来たムキムキの兄ちゃんが、そのシンなんちゃらとかいう奴に集められたって言ってたよ。別に聞いてないのに」
    「集められた……? やはり、戦力集めということなのか……」
     思考をめぐらせる法権をよそに、おっさんは話を続ける。
    「確か、何て言ったっけかな……ゴク……ゴク……ゴクゴクマゴクゴゴクマハゴ」
    「えっと……獄魔覇獄、ですか?」
     志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)の言葉に、おっさんは手を打つ。
    「それだ! そのゴク何とかを勝ち抜くために特訓してるとか言ってたな。これも聞いてなかったのに」
    「なるほど、そうなんですか…………それにしてもこの町のアンブレイカブル達は、情報を隠す気がないんでしょうか……」
     藍が、少し呆れたようにため息を吐いた。

    「お忙しいところ失礼、少し訪ねたいのですが」
     安曇野・乃亜(ノアールネージュ・d02186)が、定食屋のおばさんに話しかける。
    「ん? なんだいお二人さん」
    「実は僕は格闘に興味がありまして……少しこの町について知ってることをお聞かせ願えればと思いまして」
     海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)がおばさんの前に進み出る。
    「あ、私は彼の付き添いでして」
    「ああ、なるほどねえ」
     一瞬怪訝そうな表情を浮かべたおばさんだが、乃亜の言葉に納得したように頷いた。
     詠一郎がいくつかの質問を投げかけ、おばさんはしばしの間考えこむ。
    「そういえば……いつもこの店を贔屓にしてくれるガタイのいいお嬢ちゃんが、『本当に獄魔覇獄の決戦が楽しみだ…………我らが獄魔大将が帰還するまで、特訓を続けるのだ! フハハハハハハハ…………!!』って言ってたよ」
    「………………あ、そうですか」
     突然のおばさんのドギツイ声真似に、詠一郎が呆気を取られたように頷いていた。

    「シン・ライリーは、今この町にいないのですか?」
     百合ヶ丘・リィザ(砕けえぬ拳を砕くもの・d27789)が、弁当屋のおばはんに尋ねる。
    「わたしは部外者だからよく分かんないけど、修行中だとか何とか言ってたわねぇ」
    「修行中、ですか…………そのシン・ライリーが、今どこにいるかご存知ですか?」
     リィザの問いに、おばはんは突然何かを思い出した様で、唐突に笑い出す。
    「あっはははは……そういえば思い出したよ。この間来たむさ苦しい男が、そのらいりーとかいう人の居場所に関する事で、意味分かんない事を言ってたわぁ」
    「知ってることがあるなら何でも教えてほしいぜ、おばはん。その男は何て?」
     鈴鹿・夜魅(紅闇鬼・d02847)がズイッと身体を前にだす。するとおばはんも負けじと身体をズイズイッと出す。
    「ここだけの話だけど………………………………」
     おばはんが、ものすごい間をおく。
    「…………………そのらいりーって人、海の底にいる達人に稽古つけてもらってるんですって!! あはははは!!」
     おばはんが1人で大爆笑してる中、夜魅は真剣に考えこむ。
    「海の底、か…………」

     現在の時刻は午後2時。集合場所の公園に、灼滅者達は全員集合していた。
     各自が手に入れた情報を確認し合い、今後の方針を定めていく。
    「それなりに、情報は得られたみたいね」
     乃亜がこれからの行動について考える。
     手合わせを望んでいるアンブレイカブルについても聞いてまわっていたが、ここはアンブレイカブルの町。
     適当に声をかければいくらでもいるだろうというのが、一般人達の回答だった。
     また、この町に有力なアンブレイカブルはいないか。という聞き込みも行ったが、シン・ライリー、ケツァールマスクというかなりの有名所はともかくとして、それ以外の特定の個人名を聞き出すには至らなかった。
     灼滅者達は、これからどこかの道場に向かい、直接アンブレイカブルから聞き込みを行うか、撤収するかを話し合っていたの、だが…………。
    「よう、お前らいい所に。ちょーっと私の稽古に付き合ってもらえるかな? というか、付き合え」
    「なぜ、お前が…………」
     法権が心底驚いたように呟く。
     灼滅者達の前に突然現れたのは、プロレス団体を運営している強大なアンブレイカブル、ケツァールマスクだった。


     現在の時刻は午後2時40分。場所は、とあるプロレスリングの上。
     灼滅者達は、ケツァールマスクの誘いを受けた。というか受けなければ本気で殺されそうな勢いだったので、受けざるを得なかった。
     稽古という形ならば、ケツァールマスクが人を殺すことはしないだろう。
    「大変なことになったな…………」
     宿儺が殲術道具を構えながら呟く。
     アンブレイカブルと戦う予定はしていたが、プロレスラーか。ケツァールマスクか。
    「これは……久々に本当に不利な戦いになりそうですわ」
     だが、戦わなければならないというのなら、戦うまで。
     リィザは覚悟を決めた。
    「これは稽古だが、お前らは全力で来い!! 私はお前らの攻撃を受けきり、叩き潰してやろう!!」
     ケツァールマスクの身体から、膨大な闘気が発せられる。
     その闘気を浴びた瞬間、灼滅者達は本能的に理解した。
     目の前にいるダークネスは、たかだか8人がかりで勝てる相手では、絶対にないと。
    「安心しろ、殺しはしない………………さあ、来い!! 灼滅者!!」
     ケツァールマスクが受けの体勢を取る。先に攻撃してこいという事なのだろう。
    「それじゃあ、あたしから行くわよ!!」
     雷は全身から蒼い雷の様な闘気を発し、拳に集束させていく。
    「あたしの電撃を喰らいなさい!!」
     雷が放った電撃の拳によって、ローブ際まで身体が弾き飛ばされたケツァールマスクがニヤリと笑う。
     ロープの反動を利用し、ケツァールマスクが雷にラリアットを放つと、雷は一瞬で意識を失った。
    「防御がまだまだ甘いな。次!!」
    「行くぜ!! ケツァールマスク!!」
     夜魅は腕に嵌めた縛霊手に炎を纏わせると、ケツァールマスクの死角から飛びかかる。
     炎が纏った爪が、ケツァールマスクの背中に突き刺さり、焼き焦がす。
     ケツァールマスクは表情1つ変えず、滞空していた夜魅の身体を掴み上げ、リングに叩き落とす。
     夜魅もまた、意識を失った。
    「こうなったら、当たって砕けろ、ですわ!!」
     リィザは言葉を発すると同時に気合を高め、両拳にオーラを纏わせていく。
     そして、機銃の様な激しい連打で拳を放っていく。
     ケツァールマスクはある程度の所まで攻撃を受け続けると、余裕の表情で後ろに跳び、リィザの攻撃範囲から逃れる。
     そしてリィザに向けて跳び、強烈なドロップキックを浴びせる。コーナーポストに叩きつけられ、リィザは気を失った。
    「…………やるしか、ありませんね」
     藍は右足に炎を纏わせ、ケツァールマスクに接近する。
     鋭い蹴りを鳩尾に放ち、痛みと熱を与える。
     しかしすぐさまケツァールマスクは反撃のため地獄突きを鳩尾に放ち、藍はリングに崩れ落ちた。
    「どうした、前衛陣は全て倒したぞ!! お前らの力をもっと見せてみろ!!」
    「望む所だ…………!!」
     宿儺は右腕を異形化させると、大きく振りかぶる。
     強烈な一撃が、ケツァールマスクに叩き込まれた。
     ケツァールマスク一旦後ろに下がると、素早い動作で宿儺の背後に回りこみ、身体を掴み上げる。
     そしてジャーマンスープレックスを放つと、宿儺の身体はリングに沈んだ。
    「本当にすごい迫力だ……どうすればここまで強くなれるのか」
     乃亜は2本のレイピアを構え、ケツァールマスクと対峙する。
     2本のレイピアを勢い良く突き出すと、ケツァールマスクの鳩尾に突き刺さった。
     ケツァールマスクはレイピアの切っ先を掴むと、無理やり引き抜く。
     そして乃亜の頭を抱え込んでヘッドロックを仕掛け、乃亜は苦しげに意識を失っていった。
    「……かかってこいというのならば、私は全力で向かうのみだ」
     法権はケツァールマスクへ肉薄すると、真っ直ぐな拳を撃ちだしていく。
     全力の拳を受け止め、ケツァールマスクの身体がほんの少し揺れた。
     ケツァールマスクは正面から法権に組みかかり、ブレーンバスターを放つ。
     法権は耐えきろうと力を込めたが、その攻撃に耐え切ることは出来なかった。
    「僕が最後ですね…………行きます!!」 
     詠一郎は剣に緋色のオーラを纏わせ、ケツァールマスクに斬りかかる。
     脇腹を切り裂き、血が飛び散った。
     ケツァールマスクはその攻撃を受け止めると、詠一郎の身体をリング上に引き倒す。
     そして一瞬でコーナーポストに登ると、ダイビング・ボディ・プレスを放ち、詠一郎の身体を押しつぶした。
     当然のように気を失う詠一郎。
     こうして、灼滅者達はケツァールマスクに思いっきり叩きのめされたのだった。
     稽古を終え、ケツァールマスクが満足そうに頷く。
    「うーん。順調順調。大事な試合の前だから殺し合いは出来ないけど、稽古に参加したいならいつでもきな、相手してやるよ」
     意識を取り戻していた灼滅者達にそう告げると、ケツァールマスクは灼滅者達の返事も聞かず、さっさと何処かへ去っていくのだった。


     ケツァールマスクとの稽古の後、その後の連戦は不可能と判断した灼滅者達は、帰路に着いていた。
    「あー、イタタタタ……本当に強かったね、ケツァールマスク。何かすごくパワーアップしてたみたい」
     雷が、ケツァールマスクにぶん殴られたところを擦りながら歩いていた。
     8人の灼滅者達を圧倒したケツァールマスクだが、あの状態でもかなり手加減していた感は否めない。
     ケツァールマスクが本気を出せば、一体どれ程の力を発揮する事になるだろうか。
    「まあかなりのアクシデントはあったものの、全体の調査の成果は中々の物でしたわね」
     リィザがそう仲間に呼びかける。
     確かにこの町の住民からは、興味深い情報が聞けた。
    「えーと、海の底にいる達人……だったな。これは業大老のことだろうが……シン・ライリー、業大老の門下にでもなったのか?」
     夜魅が首を傾げながら考えこむ。
    「それにしてもこの町、稽古と言えばいつでも潜入できそうですね…………」
     詠一郎が町の方を振り返り、呟いた。
     何にせよ、全員が無事のまま調査を終えることが出来た。
     学園に帰還し、得られた情報を皆に伝えるとしよう。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 18/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ