「あたしが必要、って事?」
「ええ、貴女が良いのです! 超(チャウ)さん、そのお力をどうか貸してください!」
夜の公園にひっそりと交わされる会話。アイドルのような格好をした栗色の髪の女性が、無地のTシャツにジーンズという簡素な格好をした銀髪の髪の女性の両手を握って顔を寄せる。
「イノアって言ったっけ? あたしが良い、ね。……何処が良いの? てか、近い」
公園の外灯に照らされ、超と呼ばれた銀髪の女性は億劫そうに視線を逸らしながら呟く。
「それは勿論、お強いからですね! HKTから離れて、暇を持て余してるでしょうっ! 私達にお力を貸してくださいましたら、何でもします! ですから!」
イノアと呼ばれた栗色の髪の女性は、頬を染めながら更に顔を寄せて熱心に語り掛ける。
「ふーん……何でも、ね。じゃあ、1つ良いかな?」
「あ、はい! 何でも申してください! 私は女性も大丈夫です! 寧ろ女性が良いです! 出来る限りなら……ッ」
イノアが言う終わる前に、肩口に一筋の切り傷が出来る。イノアは驚愕に目を見開いて、慌てて距離を取る。
「な、何を……」
傷口に手を当てながら、イノアが身構える。その目の前には超が、車輪状の武器を片手に持ったまま億劫そうに歩き出す。
「何でも、とか言ったじゃん。欲求不満だったから、その命ちょうだい?」
「集まってくれて感謝する。ラブリンスターの配下の淫魔が、他のダークネスを勧誘してるという件を聞いているか? 今回もその件で、淫魔が殺されようとしている」
教卓に置いていたタブレットを胸に抱いて、曲直瀬・カナタ(糸を紡ぐエクスブレイン・dn0187)が教室に集まった灼滅者達を見渡す。
「サイキックアブソーバー強奪作戦で、減った戦力を回復させる為に淫魔達は動いている。その為に、HKTを抜けだした六六六人衆に声を掛けて勧誘をしたようだ。その結果、殺されるようだがな」
交渉相手が悪いのか、それとも交渉の内容が悪いのか分からないが、そういう事らしい。
「ダークネス同士のいざこざ。放っておいても仕方ないが、ラブリンスター勢力には借りを作っている。その事を考えれば、見殺しは……些か良心が痛むな。それにこのままだと、HKTに復帰するかもしれない六六六人衆を逃すのも問題だろ。あくまでもこれは私の意見なので、どうするかは、みんなに任せたい」
全く妙な事件だ、とカナタは密かに嘆息するのを灼滅者達は聞き逃さない。
「時間は夜の公園となり、公園内には人気は無い。みんなが接触出来る時は2つ。イノアという名の淫魔が攻撃を受ける直前か、イノアが倒された直後だ。直前だと助ける事になるが、イノアは武蔵坂学園に邪魔されて失敗した、と思うかもしれない。フォローするなら素早くフォローした方が良いな。後者だと、助けない事になる。後者を選んだとしても、それはそれで仕方ない事だ」
後者を選んだ場合だが、圧倒的に超という名の六六六人衆が勝つようなので、その後に六六六人衆と戦っても有利にはなるかは微妙だ、と付け加える。
「攻撃を受ける直前にイノアを助ければ、イノアは即座に逃げ出す事になるので連戦になる可能性は無い。そして超だが、殺人鬼と断罪輪とリングスラッシャーのサイキックに似た攻撃をするようだ。実力は、ダークネス故に強い。決して楽に勝てる相手では無いな」
その場所をタブレットに表示させて説明し終わり、カナタは1つ咳払いをする。
「繰り返す言うようだが、イノアという淫魔を助けるかどうかは、みんなに任せる。相手はダークネスだ。それよりもみんなが無事に帰って来る事を願う」
ちなみに超がHKTを抜けた理由は、あのTシャツの趣味が合わなかったらしい、というどうでも良い情報を最後に言い、カナタは灼滅者達を見送った。
参加者 | |
---|---|
芳賀・傑人(明けない夜の夢・d01130) |
本山・葵(緑色の香辛料・d02310) |
詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124) |
クラウィス・カルブンクルス(片翼無くした空飛べぬ黒蝶・d04879) |
樹宮・鈴(奏哭・d06617) |
乾・剣一(紅剣列火・d10909) |
グラジュ・メユパール(暗闇照らす花・d23798) |
真風・佳奈美(愛に踊る風・d26601) |
●淫魔アイドルの勧誘
「正直、ダークネスを助けるってのも複雑ではあるんだけどね。……まぁ借りは借りか……」
「ラブリン達に恩もあるし助けといた方が良いかもネ。という訳で助けようそうしよう」
乾・剣一(紅剣列火・d10909)が正直な心情を零し、樹宮・鈴(奏哭・d06617)が自分を納得させるように、早口で言い放つ。2人共、ダークネスである淫魔を助ける事に、微妙な心境になっているようだ。
「私、ここに来てまだそんなに経ってませんけど、ラブリンスターさんの話はよくいろんな所で聞きます」
またライブをして貰う為にも頑張ります、と真風・佳奈美(愛に踊る風・d26601)が意気込むのが見えて、灼滅者達は気合を入れ直す。
ラブリンスターの配下の淫魔アイドル、イノアを助ける。これが灼滅者達が選んだ選択肢。この選択肢は、先日の戦争のサイキックアブソーバー強奪作戦での借りを返す事に繋がるからだ。
「目の前で見殺しにするのも避けたい」
芳賀・傑人(明けない夜の夢・d01130)もまた呟くよう零したのをグラジュ・メユパール(暗闇照らす花・d23798)が聞いて、小さく頷く。
「既に2人が接触してるようですね」
公園の出入り口をの数と位置を確認し、詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)が仲間達に呼び掛ける。視線を向ければ、公園の隅に2人の女性が話してるのが聞こえる。
「ふーん……何でも、ね。じゃあ、1つ良いかな?」
気怠そうな銀髪の女性、超の声が不思議と夜の公園に響く。そして微かに発せられる殺意。
「あ、はい! 何でも申してください!」
その微かな殺意に栗色の髪の女性、淫魔アイドルのイノアは気付かない。寧ろ期待が込められたような声を上げ、顔を更に近付ける。そんなイノアの後ろには無数の車輪状の刃が浮いてるのが見えた時、灼滅者が動き出す。
「私は女性も大丈夫です! 寧ろ女性が良」
「助けに来たよ!」
「待てェい! その淫魔殺らせんぞぉ!」
イノアが何やら口走ろうとした矢先、グラジュが割り込みヴォイスを使用して声を届ける事によって、イノアが反射的に身を竦める。そして鈴が庇うように割って入り、そしてクラウィス・カルブンクルス(片翼無くした空飛べぬ黒蝶・d04879)がイノアを超から引き離すように突き飛ばしながら車輪状の刃を弾き、佳奈美が高い毒性を持つ死の光線を超へと放つ。それは牽制代わりしかならないが、超が軽々と避ける事によって距離は離される。
「ふぇっ?! だ、誰です、っ、灼滅者!?」
間抜けな声を上げながら無理やり距離を引き離されて膝を着いたイノアは、いつの間にか目の前の居る灼滅者達を驚いたように見上げていた。
●借りを返す為
「しゃ、灼滅者達が邪魔を……は、早く逃げっ」
「邪魔しに来たわけではありません」
イノアは自分が弱い事を自覚しているのか、灼滅者達に怯えたように離れようとした所をクラウィスが即座に否定する。
「無防備過ぎだぜ、そいつから殺気が出てんの気づいてねえのか」
「あの超とかいうのは、おとなしく籠絡どころかマトモに話を聞くタマでもねぇぜ?」
「……へ?」
本山・葵(緑色の香辛料・d02310)が超から目を離さず言えば、ありゃお前があと一歩進んでたら首筋狙ってくる程度にはイカれた相手だ、と剣一が付け加えるように言い放つ。そんな事を思いもしなかったのだろう、イノアは目を丸くする。
「超さんは仲間になる気が無いどころか、貴方の命を奪うつもりなのです」
沙月が更に言い重ね、イノアを守るように立ち塞がる。イノアはその灼滅者達の行動が、理解出来てないような顔を見せる。
「勧誘が失敗して殺される前に助けに来ました、貴女方には以前の戦いでの借りがありますので」
「ラブリンスターには大きな恩があるからな。それを果たす、ということだ」
クラウィスが立ち上がりながら言い、傑人がサウンドシャッターを展開しながら冷静に理由を述べる。その言葉に全員が頷く。
「コイツは私らが何とかしてやっから、お前はとっとと帰りな!」
「あと、どんな理由があれ、女性同士でのそういった関係はいけないことだと思います! あ、でも愛しているのなら……」
イノアを庇った時に腕を負傷したのか血を流しながらも、感謝は親分にしやがれください、とぶっきらぼうに言う鈴。そして少しだけ咳払いをして、殺界形成を展開する佳奈美。
「………」
イノアは超と灼滅者達を少しだけ迷う素振りを見せたが、背中を見せて駆け出す。その時、灼滅者達を警戒していた超が腕を素早く振るったと思えば、硬い金属音が響く。
「させねぇよ」
超がイノアに目掛けて車輪状の刃を放つと逸早く察知した葵が、鋼のように鍛えた拳を超へと放ち、超がそれを受け止めたのだ。
「じゃあな、気を付けて帰れよ」
そして逃げるイノアに、優しい声色で声を掛ける葵。その言葉に、超が首を傾げる。
「灼滅者が淫魔を助けるの?」
「ラブリンスターにはお世話になったから、その借りをお返しに、だよ!」
不思議そうに言う超に、グラジュが言い返す。
「それは聞いたから。あー……、じゃあアンタ等で良いや」
気怠そうながらも、殺気を強めて行く超。その殺気に、灼滅者達が素早く距離を取って布陣を整える。
「超と言ったか。僕らが相手になろう……Game Start」
傑人達がスレイヤーカードを解放すると、超が車輪状の刃と光輪を周囲に展開するのだった。
●元HKT
「覚悟せぇ!」
鈴が千翩万華のエネルギー障壁を展開しながら、突撃して超の身体を弾き飛ばす。だが、超は当たる瞬間に後方へと跳んだ事と、無数の車輪状の刃と光輪によってダメージは受けていないように見える。
「あー、何で淫魔助けにゃならんねん! この憤り、全部アンタにぶつけてやる!」
理由は分かってるんだけど!と、憤りながらも再度突撃しようとするが、超は光輪を放って追撃を許さない。
「私は左から。右は任せました」
「任された!」
クラウィスが冷静に一言だけ声を掛けるだけで、2本の角を生やしたグラジュが素直に応える。二人が同時に踏み込み、左から妖の槍が螺旋状のような抉る突きを見せ、右からエアシューズに火を灯した炎の蹴撃が炸裂する。しかし、これを左右に展開した車輪状の刃と光輪で衝撃を削る超。
「オベロン」
「ダークネス同士の殺し合いとか……まぁ、今回は仕方ない」
ライドキャリバー、オベロンに素早く指示を出しながら傑人が駆け出す。オベロンの機銃掃射で足止めし、破邪の白光を放つと同時に自身も白い輝きを身に纏う。そこへ剣一が至近距離から、己の片腕を異形巨大化させて凄まじい勢いで殴り飛ばす。
「そう言うなって。こないだの借りは返せるし、HKTの復帰も阻止できるし一石二鳥だな」
超が吹き飛ばされた先へと葵が笑いながら接近し、マテリアルロッドを振るう。超はその事が分かっていたのか、軽く身を伏せてから死角へと回り込み、足を斬り裂いて血飛沫を上げさせる。
「詩夜さん!」
「分かってます、止血を」
心を覆う慈愛を両手に集中させ、オーラを超へと放出させる佳奈美。超は真横に避けて距離を取るが、このオーラは追尾する。それに舌打ちする超は、足を止めてオーラを真下から斬り上げて霧散させる。その隙に沙月は蒼色の護符を葵へと飛ばし、守護するように淡い光を灯して傷を癒やす。
「勘弁して欲しいなぁ。別に私は戦いが好きな脳筋達とは違うんだよ? でも、さ」
灼滅者達の攻撃を避け、または弾いても限度がある。サイキックが直撃しても尚、超は億劫そうな態度を止めない。しかし、その瞳には殺意が底知れぬ殺意だけが高まっていく。
「全員とは言わないけど、2、3人ぐらい殺さないと、気が済まないよね」
月明かりと公園の街灯に照らされた彼女は、ゆっくりと蛇のように笑みを見せる。その笑みに気圧されないように灼滅者達は構え直す。
●六六六・超
「ほらほら、そんな攻撃だと私には当たらないよ?」
「ッ、何でそんなに命を粗末にできるんですか? どんな形であれ、折角、好意的に話してくれている人に向かって……」
鼻先が触れるぐらいの距離まで、超が佳奈美に接近する。それを心を覆う慈愛を手足に纏った佳奈美が凄まじい連打で迎撃しようとするが、素人の動きだからか車輪状の刃と光輪と超自身の刃に全て弾かれ、押し切られるように防具ごと斬り裂かれる。
「何でって、私は殺さないと生きられないからだよ。欲求不満ってやつ?」
返り血を拭いながら銀色の髪を揺らし、気怠そうに答える超。その超に、傑人とグラジュが2人が、攻撃を仕掛ける。
「凍らせる!」
「援護、する」
赤い瞳を輝かせながら妖の槍の妖力から氷柱を幾つも作り出して放ち、その攻撃を避けさせまいと影業が超の足元から飲み込むように、出現する。
「甘いよ」
この2人の連携も見切っていたのか、車輪状の刃と光輪で迎撃しようとしながら跳び退こうとする超。
「甘いのはそっちだ! 確かにお前の方が速いけど、簡単には避けさせねーぜ!」
「何っ!?」
跳躍する超の背面へと、いつの間にか剣一が流星の煌めき宿した跳び蹴りを放って直撃させ、重力を掛ける。そこへ氷柱と影が超へと殺到するように降り注ぎ、飲み込む。
「どうもやばいなぁ……」
超が倒したのはオベロンのみ。決して灼滅者達も無傷とは言えないが、超が此処で無理して戦っても、良くて1人か2人しか道連れは出来ない。そう悟った彼女は、公園の入口へと目を向ける。
「逃すと思うか?」
「前衛は更に詰めてください。後衛はその援護を」
しかし葵が吠えるように自身を回復させて不敵に笑って立ち塞がり、沙月が的確な指示を出しながら誰1人と倒れないように回復させて、前衛を維持する。
「回復は必要ですか?」
「必要ねぇ!」
挑発等で攻撃を誘った鈴は見た目だけなら満身創痍。しかし、自身や仲間の回復で今も立っている。その姿を見たクラウィスが頷き、暴風のような回し蹴りを放って超の守りの要の光輪を破壊して薙ぎ払う。その回し蹴りが終われば、今度は鈴が炎を脚に纏わせて、炎と共に蹴り上げて炎上させる。
「ああもう、割が合わないなぁ……! 離れろ!」
苛立ちが混じる声色で、初めて鋭い声を上げる超。周囲には今まで以上の大きさの7つの光輪が展開されて、前衛達を薙ぎ払う。それを庇い合い、武器で防御して持ち堪え、結果誰も倒れない。
「命を粗末するような人は御仕置をします」
「こんな強い敵、そのままにしちゃ、おけないよ!」
傷口から菫色の炎を吹き出す佳奈美が激しくバイオレンスギターをかき鳴らし、グラジュが縛霊手で拳を握って殴り飛ばし、音波と網状の霊力が超の身体を蝕む。
「っ、かはッ。……やって、られない、なぁ……」
超は口から血を吐き出し、その場に崩れ落ちるように倒れる。そんな彼女が二度と動く事は無いのを確認し、やっと灼滅者達は構えを解いて力を抜く。
「はー……、勝ってもなんかまだムカムカする」
「いい加減HKTも何とかしないとキリないよな」
互いに労いながら回復をし合う灼滅者達。今回の事件は事件だけに微妙だったのか、晴れ晴れとした顔の者は居ない。
「……あ、帰りに何処か寄って帰りませんか?」
「良いね、ソレ。皆なんか美味しいもの食べて帰ろ!」
あ、だけど奢りは無理だかんね!という言葉で、やっと何人かは笑顔を見せる。そんな中、沙月だけが静かに超の冥福を祈るのだった。
作者:猫御膳 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年11月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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