写真に収まるのは

    作者:猫御膳

     熊本県荒尾市にある遊園地の閉園時間が過ぎて、正社員とアルバイトも関係無く後片付けに追われている。その顔は疲れが目立つが、活き活きしているようにも見える。
    「超巨大迷路は中々好評だな。まあ、迷子とかが増えたのは仕方ない事だよな」
    「ハロウィンも好評です。来月の花火も楽しみという声も上がってますよー」
    「土曜、日曜、祝日だけでも仮装者は入園料半額、というのが効いてるのは嬉しい事だ」
    「その分、凄く忙しくなってますけどねぇ。みんなのフォローするのも大変です」
     4人の従業員達はお互いの失敗を笑い合い、手慣れた様子で片付けを進めて行く従業員達。やがて片付けも終わり、話題も移りゆく。
    「そういや園内で変な噂が流れてるんだが。それで苦情が来てたぞ?」
    「ああ、アレだろ? お化け屋敷の周辺だっけ? カメラを撮ったら、必ず幽霊が写るんだってさ」
    「それって幽霊の格好をした従業員じゃないですか?」
    「普通そう思いますよね。だからこそ、園内に苦情が来てるらしいです」
     それを聞いた1人が、何か思いついたように同僚へと振り向いて言う。
    「じゃあさ、今度俺達の休みの日にでも確かめてみようぜ。どうせお客さんの仮装だろうけど、訳が分からない苦情をされても困るだろ」
     その休みの日の境に、4人の従業員の姿を見る事は無かった。

    「こんな離れた場所を良く見つけたものだ」
    「こういうのがないかな、と思って探してたの」
     灼滅者達が教室に集まれば、そこには曲直瀬・カナタ(糸を紡ぐエクスブレイン・dn0187)と、リュネット・エトワール(針ナシ銀時計・d28269)がタブレットを操作しながら話していた。
    「あ、集まってくれてありがとうっ。九州にある遊園地で、カメラを撮ると必ず幽霊が写るという、心霊写真の都市伝説が現れるから、一緒に来て欲しいのよっ」
     灼滅者達が集まった事に気づいたリュネットが向き直りながら、ぐっ、と両手を握る。
    「では私が説明しよう。エトワールが都市伝説を見つけてくれたので、この都市伝説をみんなで灼滅して欲しい。詳しい場所は此方だ」
     タブレットに出された場所は、熊本県荒尾市にある遊園地が表示される。
    「この都市伝説は、この園内にあるお化け屋敷の周辺で、人を交えてカメラを撮れば現れる。カメラに写る都市伝説は、経帷子を着た30代ぐらいの女性だ。一般的な幽霊な格好、だと思えば良い。但し、撮るだけでは意味が無い。写真に小学生ぐらいの子供が交じると、この都市伝説は襲って来ないのだ。だから写るのは小学生に見えない人達であれば、都市伝説は実体化して襲って来るようだな。写る人達は『子供を返して』と言われながら狙われるので、注意してくれ」
     それは何故?という灼滅者達の視線を受け、カナタが小さく頷く。
    「詳しい理由は分からない。噂では子供と遊びに来た母親が目を離した時に、子供が不幸に遭った。お化け屋敷を出たら子供が居なくて、二度と会えなかった。遊園地の帰りに事故に遭った、等々だ。子供に会いたい母親という噂が、色々混じってこんな都市伝説が出来上がったかもしれないな」
     都市伝説とはそのようなものだ、とカナタは少し寂しそうに言う。
    「時間帯は閉園時間前の夕方じゃないと駄目のようだ。今から向かえば丁度夕方だから都合が良いだろう。数日後には、被害が出るので今回で灼滅して欲しい。それで肝心の都市伝説だが、縛霊手と影業に似たサイキックを使用してくる。都市伝説自体は強くないので、苦戦もしないだろう。だが、油断だけはしないように。先ほど言ったように、写真に収まる人達は集中的に狙われるからな」
     説明は以上だ、とカナタは言い終わると、リュネットが一歩前に出る。
    「写すのは携帯電話やスマートフォン、普通のカメラでも大丈夫っ。ステキな遊園地で悲しい想いをさせないよう、頑張りたいのっ。だから、力を貸して欲しいのよっ」
     そうやってリュネットは頭を下げる。その姿に灼滅者達は頷く。
    「エトワールと協力し、無事に解決してくれ。閉園時間もあるようだし、速やかに灼滅させて帰って来て欲しい。……何やら嫌な予感がする」
     良い報告を期待している、とカナタは彼女達を見送った。


    参加者
    天祢・皐(大学生ダンピール・d00808)
    夕永・緋織(風晶琳・d02007)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)
    中畑・壱琉(金色のコンフェクト・d16033)
    東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)
    辻・蓮菜(反魂パステルアーミー・d18703)
    高柳・一葉(ビビッドダーク・d20301)

    ■リプレイ

    ●閉園前の遊園地
    「えー? もっと遊びたいよー」
    「気持ちは分かるけど、今日はもう終わり。また次に遊びに来た時ね」
    「次はもっと遊ぼうな。だからほら、帰るぞ」
     閉園前の遊園地。どの遊具もアトラクションも、全てが夕日に照らされてオレンジ色に染め上げられていく。影だけが大きく伸びて、一組の家族連れの影が楽しく揺れる。普段は賑やかなBGMを奏でる遊園地も、今ではお客さんの帰りを促すようなのんびりとした曲が流れている。
    「悲しいですよね、子供と楽しい時間を過ごすつもりだったのに……」
     その家族連れの後ろ姿を見て、東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)が小さく呟く。その手には、今回の都市伝説に関する資料がある。此処まで来るに前に、彼女は噂の出処を1人で調べていた。勿論それだけでは無く、例の嫌な予感に関する物だ。しかし、残念ながら有力な情報は手に入らなかった。
    「……色んな噂が混ざったとはいえ……」
    「よくある話、噂だからこそ、都市伝説化しやすいのかもしれませんね」
     お子さんを探してずっと彷徨い続けるなんて……と、夕永・緋織(風晶琳・d02007)が淋しげに呟く。それに同意したかのように、天祢・皐(大学生ダンピール・d00808)も呟く。その声は冷静であるが、何処か声色が違うように聞こえる。
    「遊園地! お仕事だけどやっぱりわくわくするっすね!」
     閉園前と云えど、長いアトラクション以外はまだ稼働している遊具は多い。それを見て、自前のかぼちゃ猫帽子を被った辻・蓮菜(反魂パステルアーミー・d18703)が嬉しそうな声を上げる。ハロウィンのイベント期間だからか、そのような格好をしているお客さんの数は少なくない。
    「終わったら遊……べないっすね、残念」
     せめてお土産を買おうと考えたが、事態収拾に徹しなければと意気込む彼女を、一緒に来ている灼滅者が既にお化け屋敷周辺に集まっており、彼女をお呼び寄せる。
    「遊園地か~、来るの何年ぶりだろう……?」
     中畑・壱琉(金色のコンフェクト・d16033)は遊具を見て、感慨深く呟く。その瞳に奥は、今ではない昔を見ているようだった。
    「さっさと終わらせようぜ。時間はそんなにねぇしな」
    「そうね。出現条件も簡単で危険だし、一刻も早く退治しましょう」
     森田・供助(月桂杖・d03292)と黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)が促すように声を掛ける。摩那は純粋に今回の都市伝説の危険性に注意し、供助はその灼滅後の事を気に掛けていたようだった。
    「九州全体がやーな空気だ。此方が放置できないのを、解って襲撃が来てるような……」
    「HKTの動きですか。それが本当ならば、出会わぬ内に退いた方が良いでしょうね」
     警戒するように声を潜め、皐は今の所は何も感じませんね、と相槌を打つ。
    「あ、はい。では、使用しますよ?」
     八千華が頷き、仲間達に確認してから殺界形成を展開する。それによって、近くに歩いていた家族連れやカップル達は無意識に灼滅者達から遠ざかるように足を速める。
    「それじゃ、私も行こうかな」
     念には念を入れ、緋織もまたプラチナチケットを使用して遊園地の関係者だと思い込ませ、エプロンを着用してアルバイターを装って明るい声で一般人を誘導させる。こうして舞台を整えていく。

    ●写真に収まるのは
    「よーし、キャリバーの出番だね!」
     ライドキャリバーのキャリーカート君を呼び出した高柳・一葉(ビビッドダーク・d20301)が、クッキーを齧りながらノリノリで等身大の人形(案山子?)を取り出して、偽装させようとする。
     今回の都市伝説は、化け屋敷の周辺で写真を撮る事によって出現する。しかしそのカメラに写るのは、小学生が混じったら駄目なのだ。そこで彼女は人形にグラサンにライダースーツで偽装し、キャリーカート君に乗せる。
    「これできっと騙せ……るかなあ?」
     一葉自身にとっても疑問系になっているが、キャリーカート君は意外にエンジンを吹かせてノリノリのように見える。灼滅者達は特に反対も無く、苦笑して見守るのだった。
     カメラに撮られるのはディフェンダーである供助、壱琉、キャリーカート君という2人と1機だ。この都市伝説は写った小学生以外の人物を優先的に襲うようになっていると聞いた灼滅者は、それを利用しようとしているのだった。
    「はーい、いい笑顔してくださーい!撮るっすよー!」
    「バッチリよろしく!」
    「よっしゃ、辻。撮影は頼んだ! 中畑、ピースだピース! キャリーカート君も男前に写っとけ!」
     都市伝説を誘き寄せるとはいえ、折角の遊園地だから笑顔で!という考えの蓮菜の声が、遊園地のBGMに負けない程に響く。スレイヤーカードを解放した壱琉と供助も、それに負けじと楽しそうに応えながら満面な笑顔でピースする。どうせならば、という考えは共通してるようだ。そんな姿を少しだけ緊張を抜いたように、他の灼滅者達は微笑ましく見守る。
    「そこはもっと中央へ寄って寄って! それではいくっすよー!」
     やけに手慣れた様子で、蓮菜はカメラのシャッターを切る。次の瞬間、お化け屋敷の周辺が世界から切り取られたように、雰囲気が一変する。
    『……子供を返して』
     声がしたと思えば、2人の背後から薄い影が覆い結界のように閉じ込めようとする。しかし狙われるという事は、分かっていた事。
    「中畑!」
    「分かってるって!」
     2人は示し合わせたかのように振り向き、全く同じようにWOKシールドのエネルギー障壁を大きく展開して影の侵蝕を防ぎながら、距離を取って身構える。その視線の先には、経帷子を着た30代ぐらいの女性が生気のない顔を見せ、現れていた。
    『子供を、返してよ……』
     この女性こそが都市伝説。都市伝説は灼滅者達に向けて手を伸ばす。視線は定まっておらず、瞳をぎらつかせるだけで余計に恐怖心を煽る。
    「あなたを放置すると、被害が出るの」
     しかし都市伝説に恐怖する灼滅者は居らず、逸早く摩耶はスレイヤーカードを解放し、サウンドシャッターを展開して戦場内の音を遮断し、万全な戦場を整える。
    「だから一刻も早く退治するわ」
     夕日を照らし返し、穂先に様々な模様が浮かぶ黒檀の槍を構えたと思えば瞬時に間合いを入り、自分の力を高めると同時に都市伝説へ螺旋を描く突きを放ち穿つ。悲鳴を上げて仰け反り、都市伝説は呻きを溢す。
    「……さ、悲しい都市伝説にはお帰り願うよ!」
     暫し都市伝説を注意深く観察していたが、八千華は自身に活を入れるように声を上げてトランプのマークを胸元に具現化させ、魂を一時的に闇堕ちへと傾ける事によって力を高める。その行動に合わせ、残った灼滅者達も一斉にサイキックを発動させるのだった。

    ●都市伝説
     残念ながら、カメラに写ったキャリーカート君は対象と入らなかったようだ。だが、活躍しない訳では無い。都市伝説が前衛達を結界に閉じ込めて、悲鳴を音波のようにぶつける。
    「あぁ、感謝します」
     皐の前にキャリーカート君が割り込み、自身の身体を軋ませながら庇う。その事に皐が礼を言い、雷を纏わせながら闇狩ノ影を犬の形にさせる。その黒い犬は都市伝説に襲い掛かり、組み伏せながら牙を突き立てる。
    『返して……お願いだから……』
    「子供なんか取ってなんかいないし!」
     その恨み事は全く持って心当たりは無い。それでも返して、と悲しく囁き続ける都市伝説へと一葉が言い返す。
    「あなたが悲しむ子供を増やすかもって考えは、出来ないのかなー」
    「ママが暴れてたら、会いたくても出てこれないっすよ!」
     ほんのり苦いチョコレート板を割るように食べ、都市伝説の死角へと潜り込んで獣の噛じり後のように急所を抉る一葉。そんな都市伝説に注意しながら、蓮菜が巨大なオーラの法陣を展開し、前衛の傷を癒やしながら力を高める。
    「子供を返して? うーん、どうゆうことなんだろう?」
    「……誰に対して言ってるのじゃないと思う。……苦しいよね」
     壱琉の疑問に緋織が答える。きっと、この都市伝説は誰に対して恨むのでは無くて、只々子供を喪った悲しみしか無いのではないかと。それでも手を緩めず、緋織は護符を飛ばして前衛の守りを高める。
    「……そっかー」
     そこへ合わすようにクルセイドソードに破邪の白光を纏わせて、斬撃を放つ壱琉。
    「幽霊にも事情があるんだろうけど、他の人までそっちに引き込んだらダメですよね」
    「同感だな」
     摩那は冷静に言い放ち、供助ぶっきらぼうに短く同意する。そして2人はエアシューズの摩擦熱で火を灯し、靭やかに蹴り上げ、力任せに叩き付けるように蹴り落として炎上させる。
    『返して……私の子供を』
     炎に包まれながらも尚、都市伝説は壊れたように囁き続けて足元から影を放出させる。狙いはカメラに写った、壱琉。
    「遊園地とは楽しむものです!」
     そうはさせないと、八千華がガトリングガンの弾丸を爆炎の魔力を込めた弾丸へと換装し一斉掃射して攻撃に割り込む。大量の弾丸の前に、身体や存在を削り取られていく都市伝説は、影を幾重に編み込んで巨大な両手を作り出して最後の悪足掻きをする。
    『……私の、子供……』
    「もう彷徨うことは無いでしょう」
     誰かに攻撃を向けられる前に、皐が無敵斬艦刀でその巨大な両手を上段から叩き落とし、そのまま跳ね上げるように逆袈裟斬りで身体を断つ。
    「此処には……お前の子供はいねぇよ。悪いな」
    「……貴女の子は此処には居ないから、逢えるだろう所へ、行こう?」
     まだ消えてない都市伝説の上半身へと、天つ風を両手に纏わせた供助が連打を叩き込んで殴り飛ばし、緋織の影業が鳥の形となって都市伝説を包み込むように消滅させるのだった。

    ●無事な帰路
    「いつかきっと逢えるから……それまで、ゆっくりおやすみなさい」
     戦闘が終わり、緋織が静かに冥福を祈る。しかし、祈る途中でもまだ警戒を解かない。彼女だけじゃなく、灼滅者全員がだ。
    「これで依頼は完了、ですね! ……あとは……何かが起こらないうちに……」
    「嫌な予感、ってカナタちゃんが言ってたっすね。名残惜しいけど帰るっすか」
     あの都市伝説は、今まで報告がある都市伝説と特別変わった所は無い。それでも八千華は神経を尖らせて周囲を警戒する。一方、蓮菜は早く帰ろうと提案して出口へと歩き出す。
    「そうだね~、名残惜しいけど帰ろうか。勿論みんな揃ってね」
    「危うきに近寄らず、よね」
     壱琉と摩那がその後に続いて歩き出すのを見て、全員が出口へと歩き出す。
    「閉園時間もありますから、早々に退散しましょう」
    「良し、帰るか。学園に戻るまでが依頼ってな」
     皐は戦いの痕跡をなるべく消そうと考えていたが、此処は撤退した方が良いと考えて後に続く。供助はもしもの事を考えたら、と今でも備えている。
    「ちょっと残念、かな。確証が無ければ仕方ないか」
     もしも万全であれば、等と考えていた一葉がクッキーを食べながら呟く。
    「そういえば写真はどんな風に取れたの?」
    「どんな風に……まあ、これは都市伝説のせいっすよ! 大丈夫っす!」
    「ちょっと待て。気になる台詞が聞こえた」
     こうして灼滅者達はエクスブレインの言ったように、速やかに帰還する事を選ぶ。もしもあの場に残っていれば何か起きていたかもしれないが、それはあくまでも可能性である。こうして悲しい都市伝説の事件は、無事に幕を降ろすのだった。

    作者:猫御膳 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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