高校生じゃないです。中学生でもないです。

    ●闇堕ち
     新呂木・夜百合(にいろき・よゆり)は小学6年生の少女だ。しかし、よく高校生だと間違われる。理由は、彼女の体つきだ。
     夜百合の身長は小6では平均的なもの。ところが、胸のサイズは平均を大きく上回っているのだ。
     ブラのサイズはDカップ。Dカップとなると、大人であっても大きい方だ。小学生であれば、かなりの巨乳と言えるだろう。
    「……こんなに大きくなくていいのに……」
     小さい胸に悩む女性もいれば、大きな胸に悩む女性もいる。夜百合は後者だ。
     小さく見せようと思って、サイズの合わない小さなブラを着けていた時期もあった。しかし、痛かったので諦めた。
     その巨乳ゆえに、男子にはからかわれる。女子からは、嫉妬のような感情をぶつけられることがある。
     ひどい嫌がらせなどはないが、学校に行くのが嫌になっていた。最近は休みがちにもなっている。行ったところで、あまりいい気分ではいられない。
     夜百合は、性格面や成績では目立つタイプではない。しかし、その容姿は自然と視線を集めてしまう。
     胸の膨らみも目を惹く要因だが、彼女には母親譲りの美貌があった。もっとも、最近では胸元に視線が集まりがちではあったが。
     美少女な上にスタイルがいいとなると、周囲の女子が嫉妬するのは当然ではあった。
    「……大きくてもいいことなんてないし…………。ふつうがよかったのに…………」
     自分は普通じゃない──それが、彼女に疎外感を覚えさせていた。
    『ふつうじゃなくてもいいじゃない』
    「っ!?」
     女性の声が聞こえたような気がして、夜百合が周囲を見渡す。しかし、近くには誰もいなかった。
    「……空耳……かな……?」
    『あなたはステキな女の子よ』
    「だれ!? どこにいるのっ!?」
     しかし、夜百合の近くには誰もいない。
    「……つかれてるのかな……」
    『あなたなら、どんな男の子でも自分のものにできるわ』
    「え……?」
    『あなたはカワイイから、男の子はみんな、あなたのことをすきになるの。あなたは、カッコイイ男の子たちにアイされる。みんなが、あなたのことをすきになる。あなたは、みんなからアイされる。あなたのいばしょは、あなたが自分で作れるのよ』
    「……わたしの……いばしょ…………」
    『あなたのいばしょ、ほしいでしょう? アイされたいでしょう?』
    「……わたしは…………」
    『だいじょうぶ。あなたは、とってもステキな女の子よ。フフフ……フフフフフ……』
    「……!」
     そう言われた時──夜百合は、目の前が真っ暗になったように感じた。
     闇の中に放り込まれたかに思えた。
    「…………」
     周りを見ても、やはり誰もいなかった。
     しかし、彼女は気にすることなく歩き出した。
     どこか、妖艶な笑みを浮かべながら。

    「おい、どっちに行ったんだよ!?」
    「あっち……かな」
    「おれ、こっちに行くよ」
    「ケータイがつながらねぇ……。まさか、あいつら先に見つけちまったんじゃ……」
    「見つけたら連絡するって約束だっただろ!」
    「落ち着け。まだ見つかったとは限らねぇさ」
    「行くぞ!」
    「おうよ!」
    「……?」
     在原・八重香(おばあちゃん・d24767)が散歩をしていると、小学生から高校生までの大勢の少年が集まっているのを見かけた。
    「何かあったのじゃろうか?」
     彼らは、誰かを探しているような雰囲気だったが……。
     八重香は、近くにいる少年に訊いてみることに。走り回って疲れていたのか、少年は息切れをしながらも教えてくれた。
    「胸が大きくて、すごくかわいい女の子がいた……か」
     ただの美少女に、あそこまで少年たちを熱狂させることができるだろうか?
    「淫魔じゃろうか?」
     淫魔の少女であれば、少年たちを熱狂させることもできるだろう。
     そう考えた八重香は、武蔵坂学園に向けて歩き出す。
     淫魔ならば灼滅を、淫魔になりかけている少女ならば救出を──そう決意した表情で。

    ●教室にて
    「淫魔になりかけている小学6年生の女の子がいるんです。どうか、彼女の救出をお願いします」
     そう言って、バスケットボールプレイヤーの格好をした野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)が頭を下げた。
    「その女の子は新呂木夜百合ちゃん。お胸が大きいのを気にしていて、闇堕ちしてしまったようです」
     コンプレックスがあり、それが原因で闇堕ちする一般人は珍しくない。
     夜百合は、その大きな胸のせいで自身を卑下していた。そして、自分と他者との間に壁を作っていた。自身を孤独へと追い込んでしまった。
     そこを、彼女の魂に住み着いているダークネス──淫魔に付け込まれたのだ。
    「夜百合ちゃんがどこに姿を見せるのかは、八重香ちゃんの情報提供のおかげで判明しています。夜百合ちゃんは、ここにあるシャッター街にやって来ます」
     近くに大型ショッピングセンターができた頃に、そこはシャッター街と化した。
    「ここを通って、こちらのショッピングセンターへと向かうようですが、ショッピングセンターでの接触は難しいです」
     夜百合の体もバベルの鎖で覆われている。当然、未来を察知することもできる。
    「そのため、シャッター街で待ち伏せをして、彼女を救出してください」
     夜百合を救出するためには、まずは彼女の悩みを解消しなくてはならない。また、悩みを解消できても、彼女を倒すことができなければ救出には至らない。
     ただし──。
    「ご存知の通り、夜百合ちゃんを救出できるのは……夜百合ちゃんに灼滅者になる素質があった時だけです。もし、彼女を救出できそうにないのなら……その時は、彼女を灼滅してください」
     闇堕ちした一般人は、ある者はダークネスになり、ある者は灼滅され、ある者は灼滅者になる。
     人造灼滅者は例外だが、灼滅者になれるのは素質があったものだけだ。それは、闇堕ちした一般人の場合も同様である。
     素質があれば、夜百合は灼滅者になる可能性がある。
     素質があったならば、後は灼滅者たちの努力次第だ。説得を成功させて彼女を倒すことができれば、新たな仲間の誕生である。
    「夜百合ちゃんが使えるサイキックは、ディーヴァズメロディとパッショネイトダンスの2つです」
     夜百合は居場所を欲している。普通ではない自分を受け入れてくれる場所を。そして彼女は、救出されようとされまいと、普通の人間には戻れない。
     武蔵坂学園であれば、彼女の居場所になり得るはずだ。
    「彼女の未来が素敵なものになるように、みなさんの力を貸してあげてください。よろしくお願いします」


    参加者
    赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)
    外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)
    神楽坂・奏(ナインテイルトランサー・d22742)
    銀城・七星(銀月輝継・d23348)
    在原・八重香(おばあちゃん・d24767)
    天城・呉羽(蒼き鋼の聖女・d26855)
    照崎・瑞葉(死損ないのディベルティメント・d29367)
    伍伯・莱(葉剣士・d31102)

    ■リプレイ

    ●シャッター街にて
    「ふふ♪ まさか、こんなところで人に会うなんてね」
     淫魔になりかけている少女──新呂木・夜百合の目の前には、8人の灼滅者がいた。
    「ナインテイルトランサー、オンステージ! イッツ、ショータイム!」
     その1人──派手な衣装に身を包んだ神楽坂・奏(ナインテイルトランサー・d22742)が言った。
    「花園部員、神楽坂奏でっす☆ キラッ☆」
    「……あなたたち、何者?」
    「やふ~、こんちゃ。初めましてだぁよ」
     外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)が笑顔で話しかける。
    「おいらは外道黒武と言いますん」
    「……すん……?」
    「難しく一人で考え込むから、余計悩むんだよ。先ずは、その悩みを全部話してみたらどうだい?」
    「……」
    「安心しなされ。おいらは、妹と同じ悩みを抱え込む夜百合ちゃんの相談内容を笑ったり、バカにしたりはしませんよ。えぇ、絶対に」
    「……わたしの名前だけじゃなくて、なやみまで知ってるんだ。本当に、何者なの?」
    「突然押しかけてすまぬな。少々お主と話がしたくてのう、夜百合殿」
     夜百合の視線が在原・八重香(おばあちゃん・d24767)に向く。
    「わしらは皆、同じ学校……『武蔵坂学園』の生徒なのじゃがの」
    「むさしざか学園?」
    「お主が居場所を探しておる、と聞き、こうしてお迎えに上がったのじゃよ」
    「……そんなことまで知ってるんだ。むさしざか学園……だっけ? ふつうの学校じゃなさそうだね」
    「武蔵坂学園は色んな意味でクセ強いから、ウチに来たら、アンタすげえ普通になるぜ?」
    「……!」
     銀城・七星(銀月輝継・d23348)の言葉に、夜百合が驚く。
    「……あなたたち、何でも知ってるんだね……。でも、ここにいる人たちがイケメンさんとキレイなお姉さんとカワイイ女の子ってことは、その学校なら、わたしもふつうなんだろうね。でもね、わたしはもうふつうの人間じゃない。それくらいのことは、わたしにもわかってるよ」
     そう言って、夜百合が小学生らしからぬ妖艶な笑みを見せた。
    「男の子たちが、わたしのことをカワイイって言ってくれる。ステキだよって言ってくれるの。多分、わたしがふつうじゃないから」
     夜百合が、一瞬だけ悲しげな表情になる。その後、淫魔らしく笑う。
    「ふふ♪ でも、それでもいいの」
     大きく膨らんだ胸に手を当てて、夜百合が言う。
    「……わたしはもう、仲間はずれにされない…………されなくていい」
    「胸が大きいのも良し悪し。特に、早熟は辛いよね」
    「……」
     夜百合が天城・呉羽(蒼き鋼の聖女・d26855)を見る。その胸元には、シスター服を大きく押し上げる双丘があった。
    「私も同じ様な苦労をしたから、わかるよ」
    「……そうなんだ」
     彼女はそう言うが、彼女がした苦労は──彼女が経験した血の惨劇は、とてつもない絶望だった。
    「ゆっくり……年齢に合わせて大きくなってくれればいいのにね」
    「それでも、わたしは仲間はずれになってたよ、きっと。わたしはカワイイから。あなたたちはちがうの? 他の人よりカッコいい人はきらわれる。キレイな人もきらわれる。出るくいは打たれる……わたしは、出るくいだった。ムネも出ちゃってるし、美人なママに似てるから」
    「夜百合ちゃん可愛いから、きっとお母さんもすごく綺麗なんだろうね」
     そう言ったのは、照崎・瑞葉(死損ないのディベルティメント・d29367)だ。
     彼女は、幼い頃に母親を亡くしている。ある事件が起きたことで。
    「夜百合ちゃんは、お母さんは嫌いかな?」
    「きらいじゃないよ! ママのことは好きだし……ママに似たのはうれしいよ。でも……学校にいる時はイヤ。学校には、わたしがいる場所なんてない……!」
    「普通じゃないから居場所がないなんて、そういう考え方は苦しいだけだと思います」
     伍伯・莱(葉剣士・d31102)が言うと、夜百合は「苦しい?」と訊き返した。
    「胸に限らず、身体の大きさとか性格とか趣味とか、誰でも普通じゃないところ、ありますから」
    「……」
     武蔵坂学園には、いろんな生徒がいる。その生まれや境遇もさまざまだ。
     例えば、莱は座敷牢に幽閉されていた身だ。
    「胸が大きいの気にしてるっぽいけど、そんなにじゃないんじゃないかな」
     夜百合の胸を見て、赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)が言った。
    「私達のいる学園の小学生でも、もっと大きい人とか普通にいるし。疑うなら、学園を実際に見にくるといいんじゃないかな」
    「やっぱり、ふつうの学校じゃないんだね。だって、わたしよりもオッパイが大きい小学生がふつうにいるのって、ふつうじゃないでしょ? ふふ♪ おかしな話。ふつうじゃなかったわたしは、ふつうの人間ですらなくなった。そしたら、ふつうじゃない学校の人たちと出会った。類は友をよぶ……ってことなのかな?」
     悲しげに目を伏せた夜百合だが、それもわずかな時間。小さく笑って言う。
    「もう、どうでもいいよ。わたしは自分のしたいようにする。わたしのジャマをしそうだから、あなたたちをやっつけちゃうことにするよ。ふふ♪」
     夜百合の言葉に、灼滅者が戦闘態勢に入る。
    「外なる世界を見て嗤うモノ」
     黒武が、スレイヤーカードの封印を解除する。
    「悩める子羊さん? を救うために小江戸から参上!」
     緋色は、小江戸──埼玉県川越市のご当地ヒーローだ。さらに、緋色はサウンドシャッターを使用する。
    「この身、一振りの凶器足れ」
     七星の足元には、猫とカラスの形をした影──ユウラとヤミ。
    「ふむ、袖振り合うも多生の縁。夜百合殿、救いたいものよな」
     八重香は殺界形成を使用した。
    「本当にふつうじゃないんだね。あなたたちも、わたしも、ふつうじゃない──」

    ●歌
     夜百合が歌う。
     その歌が、攻撃となって呉羽に襲いかかる。
    「……今のじゃダメか。強いんだね、お姉さん」
    「これでもシスターだし、迷える子羊は救うよ」
     呉羽が、縛霊手を装着した手に霊力の光を灯す。その光で、自らを癒していく。
    「普通がいいってのもわかる。けど、普通よりいい物をもらったんだって思おう」
    「お姉さんはオッパイ大きいし、大変でしょ? ふつうサイズがよかったのにーって、思ったりしない?」
    「自分を受け入れれば、それが自分にとっての普通になるんだよ」
    「……」
    「親から貰った身体だもの、好きになるのが1番だよ」
     そう言う呉羽は、幼くして両親を亡くしている。
    「急がなくてもいい。そう思える様になるまでは、私達の所においで? そこならきっと、夜百合が普通でいられる様になるよ」
    「ふつうじゃなくてもいいよ。わたしはもう……ふつうじゃなくていい」
    「皆と違うから普通じゃない。これはね、別に変な事じゃないさ」
     オーラを纏った黒武の拳が、夜百合に叩き込まれる。
    「寧ろ、違うからこそ普通なのさ」
     黒武は、この場で最年長──夜百合とは最も年齢が離れている。
    「夜百合ちゃんとおいら、同じに見えるかい?」
    「お兄さんは男の人だし、年もずっと上。同じに見えるはずないよ」
    「そうだね。居場所もさ、皆が最初から同じ所に居る訳じゃないんだよ」
    「……」
    「けどね? ある事をすると、あら不思議。皆と同じ場所に近づく事が出来るんだよ。何だと思う?」
    「? 何だろ?」
    「それはね。人と話して、その人と友達になる事さ」
    「……友だち?」
    「そして、友達の数を増やせば増やす程、いつの間にかその居場所の仲間入りと言う訳ですよ。ま、なんで。先ずは練習がてら、おいら達とお友達になりませんかねぇ? と。お誘いしておきますん」
    「…………」
    「ここにいるみんなは、灼滅者って言って普通の人間じゃないし、それに、灼滅者は普通にいるんだよ」
    「スレイヤー?」
     花柄の装飾とちりめん模様が特徴的な槍──華槍を手に、緋色が駆け出す。
    「ひっさつ!」
     螺旋の回転とともに、槍を突き出した。
    「……スレイヤー、ね。スレイヤー……か」
    「『普通がよかった』って言うけど、アンタが言う『普通』が今の日常の中でってのを指すんなら、悪ぃけどもうムリだ」
    「……」
     七星が放った殺気が、夜百合を飲み込む。
    「心の中のその囁きに乗ろうが乗らまいが、もう日常の中で『普通』は手に入らねえ」
    「そうだろうね。わたしにも、それくらいはわかる。だって、ふつうの女の子が、こんなに戦えるわけがないもんね」
    「だけど、『普通』なんてのは環境によって左右されるんだし、アンタがウチの学校に来るなら、きっとそれが『普通』になって『居場所』も見つかる……もしくはアンタ自身が『居場所』になって、アンタみてえな人と一緒になれる。……と思う」
    「……わたしが……だれかのいばしょに……?」
    「わしらの学園は……そうじゃなぁ。普通でない生徒たちが大勢おる。ちょっと吃驚するくらいおる」
    「……ふつうじゃない生徒…………」
     八重香の斬撃が、夜百合の急所を狙う。
    「ここだけの話、わしも少々普通ではない。そして、そんな者共が普通に過ごしておるのが『普通』の場所じゃて。武蔵坂学園はの」
    「……スレイヤー……だっけ? あなたたちみたいな人が、いっぱいいるんだね。その学校には」
    「あなたは、どんな自分を見せたいのかな?」
     奏が問う。
    「見せ方によって、人から見られる姿や色は変わるんだよ。あなたの目に、私はどう映ってるのかな?」
    「……さぁね」
    「武蔵坂だと、同じ悩みを持った巨乳の女の子は一杯いるし、友達たくさんできるかもよ? なりたい自分にもなれるかもね☆」
     そう言った奏は、夜百合がしたように、神秘的な声で歌う。
    「……このこうげき、わたしの歌と同じ……?」
    「Don’t worry、Everything is gonna happy☆」
    「?」
    「心配ないって、全部上手く行くよ☆」
    「前向きな人だね、お姉さんは」
    「真剣勝負です」
     莱の手には全長約50センチの片刃の剣──山賊刀。新緑色の光を帯びたその剣で、夜百合に斬りかかる。
    「全てのダークネスが敵だとは、僕は思いません。学園の味方になってくれた淫魔さんもいると聞きましたし」
    「……?」
    「でも、夜百合さんは闇堕ちしちゃいけない。闇堕ちしたら、夜百合さんは救われないと思います」
    「……やみおち……?」
    「夜百合さんを受け入れてくれる人と場所は、必ずある。僕達がその一つになれたら、きっとお互いに楽しいですよ」
    「…………あなたたち、おかしいよ。ふつうじゃないよ。初めて会ったわたしに、どうしてそんなに優しくするの?」
    「貴女は、とても優しい子だ」
    「え……?」
     瑞葉の予想外の言葉に、夜百合が驚愕する。そして、困惑する。
    「何を……言って……?」
    「私は胸小さいから、夜百合ちゃんの悩みはわからない。でも、辛かったんだなっていうのは……見れば分かるよ」
    「……」
    「自分をからかう男の子とか、自分に嫉妬する女の子と一緒にいるのが嫌で──でも、貴女は皆を責めなかったんだね」
    「……!」
    「自分が我慢しようとして、でも辛くて、我慢できなくなっちゃったんだね」
    「……わたしは……」
    「貴女は、とても優しい子だ」
    「っ!」
    「自分に嫌な思いをさせてきた皆を、それでも責めなかった。自分の胸のせいだって、皆は悪くないんだって」
    「…………」
    「貴女は、とても優しい子だ。──そんな貴女が、私は大好きだ」
    「──っ!」
     夜百合が膝を突く。
     彼女の両手が、顔を覆った。
     涙が、掌からこぼれ落ちていく。
    「友達になろうよ。だからさ、こっちにおいで」
     瑞葉が差し出した手を、夜百合が掴もうとする。
     涙で濡れた手を伸ばして──その手が、胸を押さえた。
    『あなたのいばしょは、そっちじゃない』
    「うああああああああああああああああああァァァァァァァァッッッッッッッッ!!!」
     灼滅者たちが彼女の異変に気付く。
     灼滅者たちの脳裏に浮かんだのは──闇堕ち。
    『あなたのいばしょは、そっちじゃないのよ』
    「………………わたしは……あっちがいい……!」
     夜百合が抗う。
     しかし、自分1人の力では打ち勝てない。
     そして彼女は、1人ではない──。
    「今、助けるから──!」
     瑞葉の足元から影が伸びる。その影が、夜百合の体に巻き付いた。
    『これは……!』
    「……わたしは、あの人たちといっしょに行くよ」
    『どうせまた、ひとりぼっちになるだけよ。あなたのいばしょは、あなたが作るのよ。あなたには、そのための力がある!』
    「そんな力、いらない!」
    『どうして!?』
    「そんな力があっても、わたしはひとりぼっちのままだから!」
    『何を言っているの!? あなたの力なら──』
    「わたしは!」
    『っ!』
    「わたしは……あの人たちのところに行きたい」
    『……どうして?』
    「わたしと、お友だちになりたいって言ってくれた……。わたしのことを、好きだって言ってくれた!」
    『そんなの……ウソかもしれないじゃない』
    「ウソじゃないよ、きっと」
    『……どうして、そう思うの?』
    「いっぱい、男の子に『好きだよ』って言われたけど……わたしが言わせた『好き』とは、ちがったから」
    『……!』
    「だいじょうぶだよ」
    『え……?』
    「新しい学校は──きっと楽しいから」
    『…………こうかいするわよ』
    「だいじょうぶだよ。楽しいよ、きっと」
    『…………』
    「お姉さん、おねがいします」
    「今度一緒に、歌でも歌おうZE☆」
    「はい!」
     夜百合に巻き付いていた影が、その力を増す。
    『ぐああああああああああァァァァァァッッッッ! ぐっ……おぼえてなさい……! あなたがまたひとりぼっちになった時、わたしがあなたの体をのっとってあげる!』
    「──さようなら、もう1人のわたし」
    『アアアアアアァァァァァァァァァッッッッッッッッ!!!』
     影がほどけると、夜百合の体が支えを失ったように崩れ落ちる。
     その体を、瑞葉が抱きしめた。
    「……お姉さん…………みんな……ありがとう」
     そして、夜百合が笑顔を見せる。
    「わたしにも、いばしょができた──」

    作者:Kirariha 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 16/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ