狂える野良猫の晩餐

    作者:猫御膳

     秋を肌で感じられる、少しだけ肌寒い季節。しかし本日は快晴となっており、ぽかぽかと温かい。
    「あらあら、今日は温かいのね。こういう日は……」
     着物姿の品の良いお婆さんが嬉しそうに笑い、小魚の煮干しと牛乳を盛りつけた皿を持って縁側へと移動する。
    「タマー? タマー? 今日も居るのでしょう? 出ておいでー?」
     縁側に座って、皿を地面へ置く。そうして柔らかく声を掛けて、猫を呼び出そうとするお婆さん。
    「みゃー」
     呼んで5分もせずに、後ろの片足を上げて3本足で歩いてくる白猫が茂みから現れる。そのまま餌まで近づき、匂いを嗅いだ後にお婆さんの膝へと跳躍して、跳び乗る。
    「あらあら、今日は機嫌が良いのね。初めてじゃないかしら、私の膝に乗ってくれたのは」
     少しだけ驚いた後に、本当に嬉しそうに笑うお婆さんの手に擦り寄るタマ。それがまた嬉しくて、お婆さんは毛並みを優しく撫でる。
    「あら? 今日はお友達も呼んだの?」
     ふと視線を外してみれば、5匹の野良猫達が座りながらお婆さんを見ていた。お婆さんの膝に乗った猫は、その5匹の猫へと毛並みを逆立てて威嚇し始める。
    「タマ、どうしたの? ご飯だったらちゃんと貴方にもあげるわよ?」
     お婆さんがタマへと視線を戻し、また毛並みを撫でようとする。しかし、タマはそれを避けて、膝から地面と跳び移って5匹の野良猫へと飛び掛かろうとするが、一際大きい1匹の黒猫に首を噛み付かれて派手に血飛沫を上げ、白い毛並みが赤く染まる。
    「タマ!?」
     そんなタマを助けようとお婆さんが慌てて駆け寄るが、1分も経たずにお婆さんも5匹の猫に喰い殺されるのだった。

    「皆さん、集まってくれてありがとうございます」
     灼滅者達が教室に集まると、そこには野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)が着物姿で出迎えてくれた。
    「原因は分かりませんが、ただの野良猫が眷属化して、事件を起こそうとしています。これを皆さんに阻止して頂きたいのです」
     迷宵は少し難しい顔をしたまま、説明を続ける。
    「時刻はお昼頃。場所はこちらの民家で起きようとしています。この民家には、お婆さんが1人暮らしをしており、事件が起きようとしてる日は、お婆さん以外は居りません。皆さんが着いた時には、既に眷属化した野良猫達が現れて居ます」
     着物を裾を揺らし、但し、と迷宵は付け加える。
    「野良猫達は全部で6匹居ますが、その中のお婆さんの膝に乗っている白猫だけは普通の野良猫なので、間違わないでください。その白猫以外が、眷属化した野良猫達です。この5匹の野良猫達の灼滅をお願い致します」
     この白い猫は、1人暮らしをしているお婆さんの心の支えなので注意してください、と真剣な顔で注意を呼び掛ける迷宵。
    「眷属化した野良猫達は、皆さんと比べたら弱いでしょう。攻撃方法と言えば、噛み付く事と、引っ掻くだけです。だけど、一際大きい1匹の黒猫だけは強さが別格です。この黒猫はビハインドと同じようなサイキックを使うので、注意してください」
     説明が終わり、迷宵が一息付いてから灼滅者達を改めて見る。
    「見た目は可愛いけど、気を付けてください。皆さんだったら、お婆さんも白猫も助けて無事に終わらせると、信じさせてね」
     私もあんな品が良いお婆ちゃんになれるかなー、と最後に微笑んで、迷宵は裾を翻すのだった。


    参加者
    クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)
    前田・光明(高校生神薙使い・d03420)
    栄・弥々子(砂漠のメリーゴーランド・d04767)
    ディアナ・ロードライト(暁に輝く紅玉・d05023)
    皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)
    海藤・俊輔(べひもす・d07111)
    響塚・落葉(祭囃子・d26561)
    藍原・琳太郎(小学生人狼・d27726)

    ■リプレイ

    ●接触
    「野良猫が突然眷属化する事例か……どうも、不自然だな」
     現場に急行してる時に、前田・光明(高校生神薙使い・d03420)が呟く。最近では、野良犬や野良猫が突如として眷属化するという事例が増えているという。それもその眷属化した動物が事件を起こしているという。
    「違和感を感じるが……」
    「猫さんどうしの喧嘩、なら、よくある可愛らしい風景、なんだけど……」
     彼の言葉に栄・弥々子(砂漠のメリーゴーランド・d04767)もまた、思案顔になる。いや、彼女の場合はこれから戦う眷属化した野良猫の事を考えてるのだろう。
    「野良猫さんを、……倒さなきゃいけない、の」
    「もふもふ♪ 猫♪ ……うぅ……すごく嫌な事件……」
     もふもふとした小動物が好きで、更に猫が好きだという皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)にとって、このような事件は心苦しいのだろう。彼女達2人揃って、表情がとても苦い。
    「けど、お婆さんと白猫を守らないと」
     今回は初めての実戦となるのか、少し緊張気味に藍原・琳太郎(小学生人狼・d27726)が気合を入れる。その言葉に、灼滅者全員が頷く。
    「心を鬼にしないとだよねー、っと、此処だなー」
     海藤・俊輔(べひもす・d07111)が立ち止まり、エクスブレインに教えられた通りの一軒家に辿り着く。1人で住むには大きな家であり、戦闘にも支障がないように感じられる。その家へ灼滅者達は難無く、人目に付かずに侵入する。
    「あらあら、今日は機嫌が良いのね。初めてじゃないかしら、私の膝に乗ってくれたのは」
     庭に侵入すれば、優しそうな、そして嬉しそうな声が聞こえてくる。声がする方を見れば1匹の白猫、タマが1人のお婆さんの膝に乗って甘えている姿が見える。そしてそのお婆さん達が気付いてないようだが、5匹の野良猫の姿も見えた。あれが眷属化してしまった、野良猫達である。
    「間に合ったようだぞ、諸君」
    「お婆さん達をなるたけ不安がらせたりしたくないしね。じゃあ始めようか」
     クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)が声を潜めて言えば、ディアナ・ロードライト(暁に輝く紅玉・d05023)が頷きながら答える。
    「あら? 今日はお友達も呼ん」
    「くろー! 待つのじゃー!」
    「黒猫さん、待って、なの……!」
     お婆さんが野良猫達に気付いて言い終わる前に、響塚・落葉(祭囃子・d26561)と弥々子が、元気いっぱいに声を上げながら茂みから飛び出す。この行動はお婆さんとタマ、そして野良猫達まで目を丸くさせる。見事に虚を突いたように、そのままお婆さん達と野良猫達の間を割って入るように陣取る事に成功する。
    「お庭に立ち入ってごめんなさい。……うちの猫が興奮して逃げてしまって」
     更に茂みから現れて謝るディアナの姿が、お婆さんにとって印象的だった。

    ●眷属化
    「……あ、この猫達は貴女方の猫だったのね。ごめんなさい、てっきり私は野良猫なんて言って……」
     3人の少女が突如として現れた事に驚いていたが、お婆さんは上品に笑いながら優しく微笑む。お婆さんから見れば、落葉と弥々子は野良猫達相手をどうやって連れて帰るか苦戦しているように見えるのだろう。実際は、野良猫達相手に、お婆さん達を守っている事なのだが。
    「いえいえ、本当に……ごめんなさい」
    「え? あ、ら……」
     そう言いながら、ディアナが落葉に目配せする。そして2人は同時に魂鎮めの風とサウンドシャッターを発動させ、展開する。これによってお婆さんは縁側に座ったまま眠り、これから起きる戦場の音を外部に漏れないように遮断する。しかし懸念していたように、魂鎮めの風は動物であるタマには通用しない。
    「やはりのぅ……りーべる!」
    「ああ、みどもに任せて貰おう!」
     茂みから現れたクラリーベルは、持参したキャリーバックを広げて、落葉と一緒になってタマを捕まえて安全に運ぶためにと無理やり押し込めようとするが、今まで灼滅者達を警戒していた2匹の野良猫が、眠ったお婆さんや背中を見せるクラリーベルへと跳び掛かる。その動きは決して只の動物ではなく、死を伴う凶爪が届こうとする。
    「危ない!」
    「させるかー」
     その攻撃を琳太郎と俊輔が割り込むように、横から飛び出してクルセイドソードに破邪の輝きを纏わせた斬撃を放ち、闘気を雷へと変換させて纏う拳を跳ね上げるように打ち貫く。しかし、野良猫は全部で5匹。その隙へと、他の野良猫も一斉に動く。
    「頑張って守る、の」
    「お婆様には触れせないよ」
     初めから警戒していた弥々子が軽く妖の槍を旋回させたと思えば、螺旋のように凄まじい回転させた突きを放ち迎撃し、いつの間にか現れた光明が己の片腕を異形巨大化させ、凄まじい膂力で殴り飛ばす。
    「それで、やっぱり本命はあなたか」
     ボス格である黒猫が動き、お婆さんに向かって不可視の衝撃波を飛ばす。しかしそれを霊犬の刃が庇おうと割り込んで口に咥えた斬魔刀を振るい、ディアナが影業を足元から出現させて相殺する。
    「捕まえたぞ! 諸君、この場は暫し任せた!」
    「すぐに戻るのじゃ!」
     暴れるタマをキャリーバックに押し込め、それを落葉が抱える。そしてクラリーベルが怪力無双を発動させてお婆さんを軽々と抱き上げて、素早く2人はその場を離れる。
    「任されました! ……嫌な事だけど、頑張らないと」
     目の前には眷属化したとはいえ、野良猫達。それを見て桜は顔を曇らせるが、気持ちを切り替えるようにスレイヤーカードを掲げる。
    「さあ、狩りの時間だ!」
     スレイヤーカードを解放させて縛霊手から祭壇を展開し、結界を構築させて複数の野良猫達を閉じ込め、霊的因子を強制的に停止させるように痺れさせるのだった。

    ●黒猫
     弥々子は1匹の野良猫に狙いを定め、マテリアルロッドを押し付けて瞬時に魔力を流し込んで爆発させて吹き飛ばす。この攻撃によって、この野良猫は暫し痙攣して動かなくなる。
    「ぁ……ッ」
     それを見た彼女は、怯む。眷属化した野良猫達は放置は出来ない。今回を逃せば、お婆さんやタマじゃなくても被害は出るだろう。その事が分かってるからこそ、落ち着く為に少しだけ深呼吸する。そして、殲術道具を握り直して次の攻撃に備える。
    「雑魚は残り2匹ー。次はあの茶色っぽい猫だぜー」
    「ああ、分かった」
    「頑張ります!」
     俊輔が獣爪裂吼を両手に集中させ、そのオーラを解き放つように放出させて声を掛け合う。光明がその野良猫を組み伏せた思えば即効性のサイキック毒を注射して素早く離れ、琳太郎が影業で飲み込ませて二度と動かなくさせる。そして最後の1匹に野良猫に目を向ければ、炎を纏わせた斬撃が放たれ、幾つもの魔法の矢が撃ち込まれて吹き飛ぶ。
    「諸君、無事か!?」
    「待たせたの!」
     クラリーベルが青薔薇を構えて凛として声を掛け、落葉が八重歯を見せながら姿を見せる。2人の一撃で、後は黒猫だけとなる。
    「勿論!」
     2人に応えながら自身に分裂させた小光輪の盾を作り出して回復させ、刃は浄霊眼で他の前衛を回復させる。
    「フゥゥシャァーーッ!!」
    「ッッ、刃!」
     前衛達に、黒猫の威嚇が鳴り響く。それは黒猫の怨嗟。怨嗟のような塊が、前衛達に襲い掛かる。それをディアナと刃が仲間を庇い、その怨嗟に囚われる感覚に陥る。
    「そんなの、直ぐに消してみせる!」
     解体ナイフを構えて桜が夜霧を展開して前衛達を包み込み回復させ、力を高めると同時にトラウマを消し去る。
    「黒猫さん……、覚悟する、の」
    「いっくぜー」
     弥々子が渦巻く風を呼び起こし、逃がさないように風の刃を放つ。その風の中、俊輔が妖の槍を見えないほど旋回させながら妖気を氷柱へと変換させて射出する。風の刃に斬り裂かれ、氷柱に縫い止められるが、黒猫はまだ動こうとする。
    「楽にしてやるよ」
     黒猫へと光明が歩き、黒猫は向かってくる敵に牙を突き立てようとする。それを光明は最小限の動きで避け、逆に組み伏せて毒薬を注射する。黒猫は悲鳴を上げて不可視の衝撃波で、光明を吹き飛ばして逃げようとする。
    「逃がさない!」
    「そこ!」
     そこへ琳太郎が影業を黒猫の足元まで伸ばして影で飲み込もうとするが、黒猫は威嚇によって相殺する。しかしその隙に桜が踏み込んで素早くしゃがみ、脚に火を灯して刃と炎と共に黒猫に水面蹴りを放って蹴り飛ばして炎上させる。
    「みどもは猫も犬も好きなのだ。しかし、容赦はしない」
    「すまぬが……、人を襲う獣は排除せねばならぬ。……もう眠るが良い」
     クラリーベルは炎を纏わせた紅い軌跡を残す一閃が煌めいて斬り裂き、落葉は妖の槍を構えたまま突撃し、突き刺す瞬間に紅い雷を宿した螺旋のように抉り、穿つ。
    「元は普通の猫だって知ってはいるのだけれど……、人に害をなす存在になってしまった以上これしか救う方法がなくて」
     放っておいても、後は消えるだけの黒猫にディアナが歩み寄る。これ以上、苦しむ姿を見たくない彼女は、そっと手を添える。
    「……ごめんね」
     影業に黒猫を飲み込ませ、その存在を消滅させるのだった。

    ●白猫
     戦闘後、時間を掛けずに野良猫達を弔った後、なるべく戦いの痕跡を消し終わってから一息付く一同。
    「お婆様と白猫は無事か?」
    「無論だ。この通りぐっすり寝ておられる」
     光明が声を掛けると、クラリーベルがお婆さんを抱き上げたまま答え、ゆっくりと縁側に寝かせる。
    「だけど、白猫は……こんな感じだね」
     キャリーバッグの中では、未だに騒いでいるタマ。これは開けて大丈夫だろうか?という考えが、琳太郎の頭を横切る。
    「だけど……開けないと、駄目なの、よ?」
     そう言って弥々子が開けてみれば、タマが跳び出して辺りをキョロキョロし始め、お婆さんの姿を見れば何度も鳴きながら擦り寄る。そして灼滅者を見ればお婆さんの前に立ち、毛を逆立てて威嚇をする。
    「ふむ、己の身を顧みずに守るもののために戦う……見上げたものじゃの!」
     落葉は威嚇されようが、寧ろ褒めて笑う。タマはそんな彼女の姿に、更に威嚇する。
    「む? お主、怪我をしておるな? これ、噛み付くでない!」
     無造作にタマを捕まえてサイキックを使って回復させようとするが、タマは必死に抵抗を続けて噛みながら両手で引っ掻く。それを見て弥々子があたふたしてるのが何とも微笑ましい。
    「ついでにこれも飲むが良い。病気しておったら老婆も悲しむであろう?」
     そうやって薬も飲ますと、我慢の限界なのかタマは腕から抜け出して、威嚇しようとする。だが、自分の後ろ足が治ってる事に気付き、その場で不思議そうにくるくると回る。
    「もう大丈夫だよ♪」
    「お騒がせしてごめんね……。もう静かな日常に戻ったから安心してね」
     桜が自然に抱き上げてタマの白い毛並みを撫で、ディアナはタマをそっと撫でてからお婆さんに上着を掛けて立ち上がる。
    「それじゃ帰るかー」
    「目覚めた時に俺達が居たら何事、と思われるだろうからな」
     俊輔が大きく伸びをして、帰りを促す。光明は頷く。
    「猫缶の差し入れぐらいしたかったけどな……」
    「みどもも、それはしたかったな」
     タマの顎を撫でてから微かに笑いながら立ち上がると、クラリーベルも頷きながら立ち上がる。
    「白猫さん、おばあさんを守ってあげて、ね」
     最後に弥々子がタマにそう言うと、タマは灼滅者達に一声だけ鳴いたのだった。

    作者:猫御膳 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ