
ある日、服を買いに出かけた忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)はそこで信じられない光景を目にした。
「ちょっとそれ、オ……アタシのよー!」
「ダメ! ぼ……私が先に目つけてたんだから!」
などと押し合いへしあいしながら、大量の男子が可愛い女性用の服を奪い合っている光景を。
もう一度言うが、服を奪い合ってるのは全員男である。中にはウィッグをつけていたりメイクをしていたりするものもいたが、体格などから男と知れた。
(「な……なんなのこの人たち……)」
思わず入り口で立ちすくむ玉緒。応対する店員さん達も困惑している様子だ。そこに、可愛らしいワンピースを手にした男子の弾んだ声が聞こえてきた。
「これ着ればカオル様に気に入ってもらえるかな」
――カオル様。その単語に、玉緒の灼滅者としてのカンが囁く。
(「カオル様……何者かは分からないけれど、その人物が裏で糸を引いているとしたら」)
こうして男子が大挙して女性用の服を買い求めているのも、そのカオル様とやらのせいなのかもしれない。
「……これは調査の必要がありそうね」
急ぎ玉緒は報告のため、武蔵坂学園に向かう。
そのカオルとは……もしかして、淫魔なのではないか。そんな仮説を頭の中で組み立てながら。
「で、調べてみたら……ドンピシャ! やっぱり玉緒さんが聞いたカオル様って、淫魔だったよ!」
魔法少女風のコスプレをした野々宮・迷宵(dn0203)が興奮ぎみにステッキを振り回して言う。玉緒さんはありがとうね、と付け加えながら。
「このカオル様……淫魔は、とある男子校に潜り込んで、生徒達を魅了して女装させて……男の娘の楽園を築こうとしてるらしいんだよ!」
なんだよ男の娘の楽園って! と突っ込みたくなる淫魔である。
「男子校に現れたんだから、当然男の淫魔なんだけど……どうやら男の娘がとりわけ好きみたいだね? 淫魔の力で魅了した男の子達に、『可愛い女の子の服を着たらデートしてあげる』とか言って、女装を勧めて回ってるんだよ」
魅了されちゃった生徒達は、カオルの狙い通り彼とのデート権を賭けて日々女装に励み、今や学校中が男の娘で溢れかえっているらしい。学校を自分好みの男の娘で一杯にして完全に支配下に置くことこそが、カオルの目的。
変わった淫魔もいたものだが、ともかくこのまま放置しておくことはできないだろう。
「これ以上ダークネスの好きにさせるわけにはいかないもんね! 灼滅を、どうかよろしくお願いするね」
そう言うと迷宵はぴょこん、と頭を下げた。
さて、その淫魔のカオルだが、見つけ出すこと自体はそう難しくないらしい。
「何せ、今は学校中が女装した男の子で溢れてるからね~……その中で一人男の格好のままだから」
さらに詳しく言うと、胸元を開いて着崩した制服にピアス、流れるような金髪、細いチェーンのネックレス……そんなスカした格好がムカつくぐらい似合うイケメンである。こりゃ目立つ。
だが、だからといってそのまま突貫していってもバベルの鎖で察知され、対策をとられてしまうだけだ。お勧めはしない。
「ここはもう、学校が男の娘だらけなことと、淫魔が男の娘好きなことを利用して、男の娘作戦で行くしかないよね!」
元気よく言ってのける迷宵に、何人かの灼滅者(主に男子)が目を剥いた。なんですと。
「つーまーりー、こっちも男の娘として潜入して、淫魔とのデート権を確保して灼滅のチャンスを掴むんだよ!」
ステッキを振りながら、迷宵は詳しく作戦を解説する。
「学校には今男の娘がたくさんにいるから、女装して行けばまず怪しまれることはないよ。それに、わざわざ性別を確かめるわけじゃないからね。女の子も、胸が目立たないようにすれば大丈夫だと思うよ」
逆に言えば、潜入先は男子校とはいえ、男の格好をしているとかえって怪しまれてしまうということだ。どうしても女装が嫌! という人はそれ以外の何らかの方法を考える必要があるだろう。
潜入が済めば、後は淫魔に精一杯アピールして気に入ってもらい、彼とのデート権を手に入れるだけ。カオルは毎日放課後、気に入った男の娘達をとっかえひっかえしてデートを楽しんでいるようだから。
ちなみに、カオルは「可愛い男の子が自分のために、恥ずかしがりながらも頑張って女装してきてくれる」というシチュエーションがことのほか好きらしい。参考までに。
「ただ、一日にデートするのは最大2人まで、って決めてるみたい。選ばれなかった人は尾行するとかして後で合流するしかないね。尤もデート中は淫魔も気が緩んでるから、よっぽどのヘマをしない限りは尾行しても気付かれないと思うよ」
戦闘場所だが、カオルがデートの際に必ず立ち寄る公園があるので、そこで戦いを仕掛けるのが良いだろう。そこなら広さも十分だ。ただ人払いは忘れずに。
なお、わざわざ学校に潜入なんかしなくてもその公園に潜んでいればいいじゃないかと思う人もいるだろうが、残念ながらそうした行動をとるとバベルの鎖に引っ掛かってしまうらしい。あしからず。
「戦闘では、カオルはサウンドソルジャーの皆と同じサイキックと、影業のサイキックを使ってくるよ。敵はカオル一人だけど、一人で皆を十分相手できるくらい強いから油断しないでね」
あとね、と迷宵は付け加える。
「男の娘役で潜入する人はくれぐれも気をつけてね。カオルは可愛い男の娘にはときどきセクハラしてくるみたいだから」
……ダメだこの淫魔早くなんとかしないと。
| 参加者 | |
|---|---|
蒼夜藝・瑠璃鵺(聳弧のロベリア・d00928) |
![]() 忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774) |
![]() 白神・柚理(自由に駆ける金陽・d06661) |
![]() 阿剛・桜花(背筋に鬼が宿ってる系お嬢様・d07132) |
![]() 城戸崎・葵(素馨の奏・d11355) |
![]() 廣羽・杏理(ソワレリエーブル・d16834) |
![]() ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055) |
![]() アガーテ・ゼット(光合成・d26080) |
●男
「ウィッグはロングか……ツインテールも良いですわね♪ 腰に大きなリボンもどうかしら~?」
「そうそう、ここをこうして……見ろ桜花、俺達の最高傑作だ」
阿剛・桜花(背筋に鬼が宿ってる系お嬢様・d07132)と蒼夜藝・瑠璃鵺(聳弧のロベリア・d00928)が、ノリノリで仲間達を男の娘に……もとい、お洒落に変身させていく。女性は胸を目立たなくすることも忘れずに。忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)もリボンやヘアアクセなど私物を提供し、おめかしは順調だ。
「カオルは初々しい女装スタイルが好みのようだ。私も普段の女装とは一味違った装いで挑むとしよう」
女装経験のあるユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)も髪はポニーテールに、服はブレザータイプの女子制服に。
一方、フェミニンな格好に不慣れな人もいる。
「……眉は敢えてそのままで良いかしら。私の顔の中で元々男っぽい印象を与えられるパーツだし……」
アガーテ・ゼット(光合成・d26080)は真剣な表情で鏡を覗き込み、
「普段はこんな服とかまず着ないからなあ……落ち着かないよ……」
ふりふりのスカートを翻し、白神・柚理(自由に駆ける金陽・d06661)はぼやく。しかし落ち着かない通り越して、もはや目も心も死んでいるのがウェーブのロングヘア(ウィッグ)にミニスカートの城戸崎・葵(素馨の奏・d11355)だ。今回、主に変態淫魔にアピールする役だし。
「今回はいつになく気が重いよ……けれど、依頼成功の為なら……あぁ、僕のキャラが崩壊していく……」
沈鬱に語る葵に同情するように、同じくアピール役の廣羽・杏理(ソワレリエーブル・d16834)も頷く。葵とは逆に清楚なロングスカート姿だが、気が進まないのは一緒。
(「可愛い仕草とかあざとい仕草はまあ専門なんですが……何で好みでも恋人でもない男に媚売らなきゃいけないんでしょうね……」)
内心でため息をつく。
「……なんだか男性陣の目が死んでる気がするわね。ええと、頑張って?」
主役を引き立たせるため、あえて自身はシンプルにブラウスとスカートで決めた玉緒が励ます。頑張ってとしか言えない。一般人を守るために!
●の
変装を終え、灼滅者達はいざ、男の娘の園へと突入する。どこ向いても女装男子、なんとも凄い光景だが、ユーリーにとってはパラダイス。
「なんと素晴ら……いや、危険な計画を企てる淫魔なんだ……我々の手で早く解決せねば、第二・第三の楽園が生まれるやもしれん」
ガン見しながら、顔だけはシリアスに呟くユーリー。同志桜花も真剣に頷く……足がウキウキと弾んでいるのは隠せなかったが。
ともかく一刻も早く淫魔を見つけるため、玉緒は目撃情報を収集するが、廊下の一角に人だかりができていたのですぐに分かった。「カオル様ー!」という黄色い声も聞こえるし。
「……淫魔も色々いるのね。なんだか頭が痛いわ。でも、あれはあれで人生を狂わせている訳だから灼滅しておかないと」
こめかみに手を当て、玉緒は呟く。柚理も頷いた。
「なかなか面白そうなことを考えるけど、一般人に手を出させるわけにはいかないよね」
というわけで、まずはカオルに張り付いている一般生徒を剥がしにかかる。一番手はアガーテ!
「きゃぁ☆」
慣れないハイヒールに躓いたフリで無理矢理割って入り(あわてんぼ☆)、
「カオル様の前で、恥ずかしい……! こ、こっち見ないで!」
真っ赤になった頬を押さえて直ぐ離脱(超シャイ☆)。声は低めにぼそぼそっと。そうして視線を集めたところで、今度は柚理がおずおずと割って入る。
「あ、あの人達もお話したいみたいですけど……」
恥ずかしげに俯きながら、仲間(主に男性陣)の方を指差す。これでも離れない生徒には最終手段!
「ごめんあそばせ!」
花柄ワンピースに身を包み、声を低く押さえた桜花が、自慢の縦ロールをアピール! しながら割りこみ、視線を遮る。その隙にユーリーがすかさず
「ほら、二人とももじもじしてないで、行ってきなさい!」
と葵と杏理の背中を押した。さながらお節介役のお姉さんのように。
(「敢えて女装経験の少ない城戸崎さんと廣羽さんを後押しして、ダイヤの原石を磨くとは……さすが同志ユーリーさん!」)
桜花が見守りつつサムズアップ! 玉緒も何かあってもいけないからと見物する。澄んだ目で。
(「貴方達の雄姿、決して忘れないわ」)
と。柚理とアガーテも
(「頑張って!」)
と視線を送りながら右に倣う。見守る仲間達がどこか楽しそうに見えるのは気のせいか。何か言いたい気持ちはこらえ、葵は金髪イケメンの前に進み出る!
「あ、あの……私、こんな身長だけど、今日は、貴方の為に普段は穿かないミニスカート履いてみたの。そ、その……似合うかな?」
淡く茉莉華の香り漂わせ、目は眼鏡ごしにうるうる。気恥ずかしげに目を伏せ、頬は赤く染めて。自分好みの男の娘に、カオルは目を輝かせる。
「素晴らしい……! 高身長とミニスカートのコラボレーションとは。大丈夫、とても似合っているよ……」
優しく囁きながら……さりげなく尻を撫でるな。杏理も負けじと、そうっとカオルの袖を引いてみる……内緒話するみたいに。このままだと葵が可哀想だし。
「あのね、カオルくん……この服、友達にこっそりお願いして選んでもらったんだけど……似合いますか? ミニスカートの方が可愛いって言われたけど、どうしても恥ずかしくって……だって、学校へ着てくると他の人にも見られちゃうから……」
伏目がちに袖とか気にしながら、それでも一生懸命目を合わせたいように。控えめで清楚な杏理もまた、カオルの心を動かしたよう。
「ロングスカートの男の娘……! これもまたいいね。奥ゆかしくて……隠れてる部分にも興味をそそられる」
言いながらスカートの中に手を滑り込ませ……どこ触ってるんですかアナタ。とは言わずに、
「こ、こんなとこじゃ駄目……」
頬を紅潮させ、恥ずかしげにスカートを押さえてみせる。二人のアピールは上々、しかし弾数は多い方が良いだろうと瑠璃鵺も突撃!
「カオル様、俺を見て……!」
上目遣いで腕を引く。エイティーンで年齢クリア、胸元はリボンで隠し、姫袖ブラウス、ミニスカハイソで絶対領域確保。ふわりと薔薇の香り漂う、見よこの圧倒的女子力!
「恥ずかしいっ、でもカオル様のためなら俺……いや、わたし、頑張るっ!」
頬染め涙目でもじもじしながら、手作りハートクッキー渡し。巧みにスカートを閃かせ、生脚をちらりと見せ付ける。
(「俺は恋する男の娘……!」)
そう自己暗示をかけて。今こそ幼馴染に仕掛けてるハニートラップの成果を魅せる時! カオルも感嘆する。
「なんてレベルが高いんだ……! こんな男の娘がいるなんて……君もとても可愛いね」
耳元で囁きながら、太腿に指を這わせる。びくんと反応、腰砕けそう。耳赤く、ドキドキと上擦った声を漏らす。
「や、だめですっ皆が見てる……っ」
こんな事が出来るのは幼馴染に脳内変換してるから。でなきゃこんな残念淫魔など。
ともあれ、一通りアピール(とセクハラ)が終わり。カオルは嘆息する。
「ああ……今日の男の娘達はとりわけ良いね。誰とデートしようか……」
真剣に悩み、
「嗚呼、どうして俺は一日にデートするのは二人までなんて枷を課してしまったのだろう! 選べないよ! しかし、選ばなくては……」
と苦悩する。しかし、ややあって、すっと面を上げた。
「……よし。決めた。今日は……君と君にしよう」
葵と杏理を指し、
「ゴメンね、君ともデートしたかったのだけど」
残念そうに瑠璃鵺の頭を撫でる。少しだけあざと過ぎたらしい。
「……そ、そんな……」
表面だけはうなだれてみせる瑠璃鵺。けれど、これで一般人が誘われることは阻止できた。ユーリーは安堵して
「この子たちのこと、よろしくお願いしますね」
と礼を述べる。
「わ……わたしも本当はカオルくんとデートしてみたかったけど……私じゃ……」
なんて恥らいながら。そんな彼の肩をカオルは抱いた。
「そんなことはない。君もとても可愛いよ。また今度デートしよう」
と囁いて。だが、カオルに次の機会などない!
●娘
そして放課後、デートタイム。尤も、デートといってもたいしたことはしてない。クレープを分け合って食べたり、露店を冷やかしたりしてるだけだ。カオルが度々、二人の尻やら太腿やら撫でまわしてることを除けば……。
二人とも何とか笑顔を保っているが、内心ドン引き。そんな彼らを、仲間達は密かに尾行する。
「イケメンのセクハラに照れながら耐える女装男子達……まったく男の娘は最高ですわ!」
桜花は腐敗オーラを出しながら。
「ああ、やはりイケメンとデートするのは可愛い男の娘に限る!」
女装姿のまま、ユーリーも力強く頷く。瑠璃鵺は両手に花状態激写してるし。
(「強く生きて……二人とも」)
思わずそう願ってしまうアガーテであった。
そんなこんなで公園着。カオルは二人に向かって腕を広げる。
「さぁ、ここで愛を語り合おう!」
「それはちょっと遠慮する!」
すかさず葵はカードを開放し、サウンドシャッターを展開。傍らにジョルジュが寄り添う。
「そもそも好みじゃないんです」
杏理も本心を告白し、カード解除。駆けつけた仲間も次々に封印を解く!
「もう思いっきり暴れちゃってもいいんだよね?」
柚理は生き生きと拳で掌を打つ。桜花が殺界形成を発動させ、玉緒は鍵を握り、祈るように殺意を解放した。
「……まさか」
カオルも気付いたらしい、険しい表情になる。そこに瑠璃鵺の放った影が絡みついた。ビハインド 「琅瓏黎」が霊撃で続く。エイティーン解除で谷間晒し、彼女は妖艶に笑った。
「男の娘だと思った? だが俺は女だ……灼滅してやる」
「な、なんてことだ……俺としたことが……男の娘地雷に引っかかる寸前だったのかー!?」
カオルが雷に打たれたような顔になる……実際雷に打たれたんである。桜花の抗雷撃で。続けてユーリーも炎を纏った激しい蹴りを放つ。メカメカしい外見の霊犬 「チェムノータ」も斬魔刀銜えて飛び掛った。
「くっ……裏切ったね!」
カオルもただやられているばかりではない。こちらを睨みつけると、後衛目掛けて踊りながら攻撃を仕掛けてきた。
「もも!」
ここからでは回復は届かないため、柚理はナノナノに命じて瑠璃鵺を回復させる。自身もシールドを広げ、葵もワイドガードで守りを固めた。ジョルジュが続けて攻撃し、杏理も癒しの光条を放つ。その最中、カオルは救いを求めるように玉緒を見た。
「ああ……君、君は男の娘だよね?」
「え?」
スレンダー体型により間違えられたらしい。複雑な心境になりつつ、
「……悪いけど、私も女よ」
封縛糸で自由を奪う。カオルはまた悶絶した。
「と、いうか今回女性の方が多いんだけど……」
アガーテが死角からの斬撃と共に突っ込みを入れる。残酷な真実にカオルの心は崩壊寸前。
「まさか、デートした二人まで地雷なんてことは……!」
震えながらとりあえず葵を影で切り裂いてみる……きわどいところ斬らないで!
色んな意味でダメージが深刻なので、桜花は超硬度の拳でカオルの態勢を崩す。ユーリーも除霊結界で動きを封じ、チェムが浄霊眼で癒す。放つ柚理のグラインドファイア、もものしゃぼん玉。葵もスターゲイザーで立ち向かった。
「実はそんな女装趣味なんてないし……僕にはもう心に決めた人がいるんだ!」
杏理も流星の煌めきを宿した飛び蹴りをお見舞いする。スカートのまま。下着見えようが全く気にせず。
「僕の好みは黒髪だから染めて出直してきて」
手厳しいこと言いながら。
「ちょ、いくら男の娘でも恥じらいのないパンチラなんて……!」
スカートの中身はガン見しながら(ド変態)、カオルは喚いた。
「イケメンは好きだが変態はお断りだよ」
スナイパーなのをいいことに顔面狙いで、瑠璃鵺はフォースブレイクを放つ。琅瓏黎が後に続いた。
「男の娘好きは変態じゃない!」
言い返し、カオルは催眠をもたらす歌を紡ぐ。すかさず杏理がキュアし、アガーテが螺穿槍でカオルを穿つ。
「他人の嗜好に口出しする気はないわ。単にあなたが淫魔で人を惑わせているから、それを止めに来ただけよ」
そう、淡々と言いながら。
「そもそも、男の娘の何が良いの?」
死角に回り込み切り裂きながら、玉緒は問うてみた。戦闘の集中力を削げないかなって。それを聞き、カオルは急に生き生きとする。
「可愛いのに女じゃないというギャップ! そこに尽きる! そこはかとなく漂う背徳感もたまらない! さらに恥じらいというスパイスで女にはない可愛さと美しさが生まれ……」
カオルの講釈は長かった。飽きたので、柚理は鋼鉄拳をめり込ませた。
「ごめん! 男の娘好きなのはよく分かったけど、もういいや!」
それを皮切りのように、灼滅者達は次々に攻撃を浴びせる。互いに感情を結び合い、コンビネーションを発生させる彼らに死角はない。
「君とは違う出会い方をしていれば、同じ道を願う盟友となっていたに違いない」
残念そうにユーリーが神霊剣で斬り、
「そうですわ、惜しい人を亡くしますわね……」
嘆息しつつも桜花は閃光百裂拳で苛烈に攻め、
「他人に迷惑さえかけなければ良かったんだけどね」
アガーテが凄まじい連打で追い詰める。
「く、俺の野望は、まだこれから……!」
カオルは必死で天上の歌声を紡ぐが間に合わない。凄艶な微笑を浮かべた瑠璃鵺が、吸命鎌【ライフスティーラー】を手に迫る。
「セクハラの代償は高いよ? その首で勘弁してあげる……」
断罪の刃を振り下ろし、その命を刈り取った。
●愛
玉緒が鍵を握り、祈るようにして殺意を鎮める。そして仲間に向き直った。
「皆、お疲れ様。特に城戸崎先輩と廣羽君はね。あ、でも、労をねぎらう前に、折角だから写真を撮らせて頂戴ね?」
「そうだな、今日という日の記念にぜひ」
「撮りましょう! さぁ今回の功労者のお二人、カモン!」
ユーリーと桜花も乗り気で二人を手招きする。
「あー……うん、別に、いいですけど……」
どこか遠くを見つめながら、杏理はとりあえずスカートを直す。ジョルジュに慰めてもらおうと駆け寄った葵の目は再び死んだ。
「……またあの服装で?」
「まぁ、可愛かったし、いいんじゃないかな……」
アガーテは葵の肩をポンと叩く。強い反対意見もなかったので、最後は皆で潜入時の服装で記念撮影と相成った。
「……たまにはこういう服装もいいかな?」
スカートの裾を摘み、柚理は呟く。
「……これはこれで可愛い楽園だね」
撮影しながら、瑠璃鵺は満足げに微笑む。これもきっと、貴重な青春の1ページとなるだろう。
……それが良い思い出になるか、悪い思い出になるかはともかく。
| 作者:ライ麦 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2014年11月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 5
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