パーピュアの誘惑

    作者:本山創助


     夕刻。
     古びた教会に、透き通った歌声が響く。
     教会の扉が開き、三人の少女が入ってきた。
    「嫌っ! 放して! 帰してよ!」
     双子の少女が、メガネをかけた少女の両腕をつかみ、引きずるようにして祭壇の前に歩み寄る。無理矢理連れてこられたメガネの少女は、祭壇に腰掛けた歌声の主を見るなり、声を失った。
    「パーピュア様、申し訳ございません。霊玉の行方は依然、つかめておりません。代わりと言っては何ですが……」
    「この者は下僕の素質を備えているかと……」
     双子の少女は祭壇にひざまずき、頭を垂れた。
     連れてこられたメガネの少女は、感動に打ち震え、棒立ちになっている。
     そこに、天使が居たのだ。
     ステンドグラスから差し込んだ夕日に彩られ、キラキラと輝いている。
     紫色の長い髪に、豹を思わせる銀色の瞳。白い肌を包む黒いドレスが、繊細で女性的な身体をよりいっそう魅力的にしていた。
    「綺麗な子ね。少し似てるかしら……シキに」
     パーピュアと呼ばれた天使が、メガネの少女に微笑みかけた。
     たったそれだけで、メガネの少女は喜びで胸が一杯になり、瞳が潤んだ。
     パーピュアの黒い翼と黒い角はほんのりと紫がかっており、どこか不思議で、心が奪われる。とても美しくて、ずっと見つめていたいと思う。
    「私の下僕になってみないかしら?」
    「は……はい……喜んで……」
     メガネの少女は、さっとひざまずくと、パーピュアへの忠誠を誓った。


    「淫魔が一般人を虜にして自分の配下にする事件を予知したよ。この淫魔はおそらく、スキュラダークネスと戦って仲間を守るために闇堕ちした高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)だと思う」
     逢見・賢一(大学生エクスブレイン・dn0099)が説明を始めた。

     淫魔の名前はパーピュア。外見はメガネを外した高峰に見える。パーピュアは霊玉に興味があるらしく、配下を使ってこれを調査している。といっても、これはキミ達を釣る為の行動に見えなくもない。パーピュアが望んでいるのは、高峰と縁のある者を配下にすることだと思う。
     パーピュアの真意がどうあれ、一般人が巻き込まれるのを放置しておくわけには行かない。キミ達には、なんとか高峰を救出して貰いたいけど、それが無理なら灼滅するしかない。
     接触方法だけど、指定した日の夕方、パーピュアが居る教会を訪れて欲しい。人払いや明かりは必要ないよ。キミ達がすべき事は、魂の状態で耐えている高峰を勇気づけてあげることと、パーピュアをKOすることだ。
     パーピュアは三人の少女を従えている。三人ともディフェンダーで、サウンドソルジャー相当のサイキックを使ってくる。パーピュアはキャスターで、サウンドソルジャー、縛霊手、影業のサイキックの中から五つを使ってくる。
     パーピュアは高峰と縁のある者を配下にしようとするけど、縁のない者は殺そうとしてくるから注意してね。配下の三人は、パーピュアをKOすれば救出できるよ。
     今回助けられなければ、おそらく高峰の魂は消滅し、二度と助けられなくなると思う。そうならないためにも、万全の準備をして臨んで欲しい。
     それじゃ、頼んだよ! がんばってね!


    参加者
    天鈴・ウルスラ(踊る朔月・d00165)
    月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)
    呉羽・律希(凱歌継承者・d03629)
    空井・玉(野良猫・d03686)
    住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)
    成瀬・圭(静寂シンガロン・d04536)
    高峰・緋月(全身全霊の突撃娘・d09865)
    倉澤・紫苑(自称水着評論家・d10392)

    ■リプレイ


     古びた教会が、夕日を背に長い影を落としていた。
     中からはパーピュアの歌声が漏れ聞こえてくる。紫姫と同じ声――しかし、優しさの欠落したその歌声は、月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)の胸を締め付けた。
     絶対に失敗できない。
     そう思えば、自然と足も震えてくる。
    (「……けれどそれ以上に、紫姫さんを取り戻したい」)
     決意を胸に、彩歌は一歩を踏み出した。
     空井・玉(野良猫・d03686)は携帯を取り出し、紫姫への言葉を綴ったファイルを見た。気持ちを上手く伝えられるか不安だった。だから、携帯にデータを入れてきた。しかし、玉はファイルを開くこともなく、それを削除した。
     下書きはいらない。本当に伝えたい言葉は、紫姫の顔を見ればきっと溢れてくる。
     倉澤・紫苑(自称水着評論家・d10392)が教会の扉に手をかけた。大きく、分厚い扉だ。
    (「高峰ちゃんを連れ去るなら、誰であろうと許さない。私の大切な人を連れて行かせたりなんてしない」)
     扉を開くなり、パーピュアの歌声がどっと溢れてきた。
    「ふふ、ずいぶんたくさん来てくれたのね。嬉しい」
     祭壇に腰掛けたパーピュアが、教会になだれ込んで来た灼滅者達を見て微笑んだ。パーピュアの前では、三人の少女が大勢の灼滅者達に驚いて呆気にとられている。
     双子の少女が、口を揃えて言った。
    「「あなた達は一体……何者?」」
    「家族よ!!」
     羽衣が叫んだ。
    「紫姫ちゃんは、ういの! 寮の! 大事な家族の一人なの! 朝、ういの髪のリボンを結んでくれる、優しいお姉ちゃんの一人なの! いなくなったらダメなの! 嫌なの! いま、すごくさみしいよぅ。一緒におうちに帰ろうよ。帰ろうよー」
     うわぁぁぁん、と泣き出す羽衣。
    「駄目よ。シキは私の奴隷なの。私の物よ……私が飽きるまではね」
     パーピュアが冷たく微笑んだ。
    「お姉ちゃんを返せ!」
     姉の形をした姉でないものを目の当たりにして、高峰・緋月(全身全霊の突撃娘・d09865)が叫んだ。勝手に涙が溢れそうになる。しかし、緋月はぎゅっと目を閉じて、歯を食いしばった。今はまだ、泣くわけにはいかない。
    「ずいぶんな言い方ね、ヒヅキ……私がアナタのお姉さんを助けてあげたのよ? まずお礼を言ったらどうかしら」
    「紫姫サン……久しぶり。ずいぶんお変わりのゴヨースだな」
     泣きじゃくる羽衣と高ぶる緋月をなだめながら、住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)が言った。
    「紫姫サン、暗殺ゲームの時はアリガトな。今度は俺が羽衣の……皆の前に立つよ。皆紫姫サンに言いたいコトいっぱいあるってさ。全員の声届けるまで俺は倒れない。紫姫サンも、こんな時きっとそうするんだろうから」
    「私はパーピュア。シキなら私の中で震えている。目を閉じ、耳を塞いで、ね」
     パーピュアが唇を歪め、愉悦の笑みを浮かべた。
     紫姫の顔がこんな残酷に歪むのは、誰も見たことがない。
    「シキ、聞こえるでゴザルか? 拙者でゴザル、ウルスラでゴザル」
     パーピュアの瞳の奥に向けて、天鈴・ウルスラ(踊る朔月・d00165)が語りかけた。
    「シキとは、寮に入って以来でゴザルから、もう丸二年近いでゴザルな……心配したり心配されたり、大変なときに相談したり……いろいろな事があったけれど、私は貴女に出会えてよかったと思うわ、シキ」
     ウルスラの口調は、自然と素に戻っていった。
    「シキ、私はシキを大事な友人だと思っている。だからダークネスに奪われるなど許さない」
     パーピュアは目を閉じて首を振る。
    「やめて、ウルスラ。そんなことよりも、私と一緒に楽しく暮らしてみてはどうかしら? そうすれば、シキも寂しくないでしょう?」
     パーピュアの言葉には耳を貸さず、ウルスラはバベルブレイカーを具現化した。
     それに反応し、三人の少女が両腕を広げて立ち塞がる。
    「「「パーピュア様には、指一本触れさせません!」」」
     三人とも声が震えていた。が、パーピュアを守る決意の固さは見て取れる。
     成瀬・圭(静寂シンガロン・d04536)は一歩前へ出ると、立ちはだかる三人を見据えて、言った。
    「悪いが、ちっとばかり痛くするぜ」
     その瞳が冷たく煌めくと同時に 灼滅者達のサイキックが三人の少女に殺到した。


     圭、ラピスティリア、チェーロのフリージングデスが三人を凍り付かせ、ウルスラと娑婆蔵のドス黒い殺気が凍り付いた三人を悶えさせた。間髪入れず、三つに分かれた灼滅者達がそれぞれの少女にサイキックを叩き込む。
     灼滅者達の怒濤の攻撃はパーピュアの癒しの歌を圧倒し、三人の少女をあっという間にKOした。
    「ほのかちゃん、三人を外へ! お願いします!」
     呉羽・律希(凱歌継承者・d03629)が叫んだ。
    「分かった!」
     ほのかは倒れた三人を運び出そうとする。が、一人で出来るはずもなく。
    「大丈夫よ、私達に任せて」
     千波耶がほのかに声をかけた。葉、眠兎、雪、焔迅も駆けつけ、三人を介抱する。
    (「高峰さん、帰って来て」)
    (「優しい紫姫お姉さん、きっと負けないと信じています」)
     雪と焔迅は祈るようにパーピュアを振り返ると、双子の少女を外へと運び出した。
    「手荒なマネしてわりぃな。今、安全な場所に連れてってやる」
     葉はメガネの少女を抱き抱えると、扉へ向かって走った。
    「その子から離れて!」
     パーピュアの影が猫科の大型肉食獣のシルエットとなって立ち上がった。
     弾けたように走り、葉に飛びかかる。
    「ここは通さねェ!」
     その前に立ちはだかったのは、葉の相棒、錠である。押し倒され、肩口をガブリと噛まれながらも、視線はパーピュアから外さない。
    「高峰、またライブに来いよ。次はど真ん中で、一番愉しい場所へ連れてってやるからよ!」
    「ふふ、ありがとう。でも、シキはここでお留守番したいって」
     パーピュアが、手を胸にやって微笑む。
    「貴様には聞いていない。ボクらは紫姫くんと話をしているんだ」
     煉火が、目の笑ってない笑顔で一蹴した。
    「紫姫くん。キミのお陰でヴァンパイアから皆が守られた事は知っている。いつも守ってくれている事も知っている。だから、これからもそういう紫姫くんであってくれ。お願いだ」
     煉火は、紫姫に声が届くよう切に願った。
    「要救助者三人、救出完了! これで助けるのはあと一人……高峰嬢だけです!」
     扉の向こうから、正流の声がした。
    「……あのメガネの子、お気に入りだったのに」
     パーピュアがため息混じりに呟き、紫苑を見つめた。
    「ねえ、シオン。私と一緒に暮らさない?」
     翼をはためかせ、優雅な所作で紫苑の前に降り立つ。
    「アナタと私なら、きっと上手くやれる――」
     紫苑の頬に手を伸ばすパーピュア。
    「触らないで」
     その手を、紫苑は払いのけた。
    「淫魔と暮らす? 冗談にも程があるわね。私が求めてるのは貴女じゃない」
     紫苑の影が鎌首をもたげる。
    「貴女じゃ私を満たせない」


     羽ばたく音と風を切る音が同時にした。
     黒い羽が舞い散る中、紫苑の影業がパーピュアが居た場所で幾重ものハサミに形を変えている。
    「高峰ちゃん、一緒に色んなことしようって話したよね。覚えてるかな?」
     紫苑がパーピュアの瞳の奥に語りかけた。
    「お買い物行ったり、ケーキ食べに行ったり。去年はクリスマスライブ行ったよね。今年もどこか行けたらなって思ってるんだよ。でも、私一人じゃ、一緒には行けないんだよ。高峰ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌なの! 他の誰にだって渡したくないくらい、高峰ちゃんのことが大好きだから! そばにいたいから! だから、どっか行っちゃわないでよ!」
     バックステップで距離をとりながら、パーピュアが狂気を帯びた笑みを浮かべた。必死に叫ぶ紫苑を、パーピュアは冷たく見下ろす。
    「クヒヒ……残念ね、シキの大好きなシオンを傷つけなければならないなんて」
    「この、クソ淫魔。絶対後悔させてやる。私の親友を奪ったことを!」
    「紫姫さんを返して下さい! 皆でハロウィンパーティーをするんです!」
     リステアとセレスティがパーピュアに飛びかかった。青い炎を宿したリステアの大鎌は板張りの床に深々と突き刺さり、セレスティのロッドは空を切った。
     パーピュアは、トン、トン、と地に足を着ける度に急角度で方向を転換しながら、灼滅者達の攻撃を次々と躱していく。
    「成瀬の兄貴ィ! ブチかましてやって下せえ!」
     娑婆蔵が、空に向けて三本の癒しの矢を放った。
    「何してるの、シャバゾー……?!」
     見上げれば、圭がパーピュアめがけて急降下していた。矢に射抜かれた圭の瞳が、獲物を狙う鷹の様に鋭く輝く。
    「そいつを返して貰うぜ、パーピュア。オレがやってるラジオに昔から来てくれてる古参リスナーなんだよ」
     正確無比な跳び蹴りがパーピュアの肩に炸裂。パーピュアは真横に吹っ飛んだ。間髪入れずに、智と由良が追撃する。
    「戻って来て、紫姫さん。ハイヒール皆で買いに行く約束、まだ守ってないじゃない!」
    「また皆で一緒に沢山お喋りをしましょう? これからもまだまだ一緒に沢山の思い出を作りたいと思っていますの。そこに紫姫さんは絶対に必要なんですわ!」
     二人が繰り出す槍とサイキックソードがパーピュアに迫る。
    「ふふ、シキは『ごめんなさい』だって」
     翼をバッと広げ体勢を整えるパーピュア。その表情が曇った。翼に違和感。
     一瞬の隙を逃さず、二人の攻撃がパーピュアの翼にさらなる傷を負わせた。
    「生意気ね……」
     パーピュアの左腕が、みるみるうちに黒い翼へと変わっていく。
    「もう一度、悲鳴を聴いてみようかしら」
     パーピュアが妖しく微笑んだ。


     ドン、と重い音がした。繊細な体から繰り出されたとは思えないほどの一撃が、智に振り下ろされていた。
     それを受け止めたのは、割って入った玉だ。黒い翼が玉の肩口にめり込んでいる。それでも玉は、悲鳴を上げない。
    「この程度の痛みで、悲鳴を上げるものか」
    「ケヒヒヒヒ! ヒカルには聞こえなかったようね。シキの悲鳴が!」
     玉は、ハッとしてパーピュアを見上げた。
    「シキを壊すなんて、簡単な事なのよ。私がアナタ達を傷つければ、シキはそれ以上に、ずっと深く自分を傷つける。分かるでしょう? アナタ達が私を攻撃するなら、私も応戦する。たとえアナタ達が私に勝ったとしても、シキは戻らない。決着が付く頃には、シキの魂は自責の念でズタズタになっているでしょう」
     パーピュアが勝ち誇ったように言った。
    「だから、アナタ達は私の下僕になるべきだと言っているの。シキを失いたくないならね。ケヒヒヒヒヒヒヒッ!」
     静まりかえった教会に、パーピュアの狂った笑いが響きわたった。
    「私がシキの声を伝えてあげる。それで良いでしょう? さあ、リツキ、私の下僕になりなさい」
     パーピュアが自信に満ちた表情で律希に手を伸ばした。
     律希はパーピュアの言葉を疑わなかった。誰も傷つけたくない一心で自分が盾になる――紫姫はそういう人だ。その紫姫が、大切な人々を自分の手で傷つけるのはどんなに苦しい事だろう。パーピュアがここにいる誰かを攻撃する度に、心が張り裂けそうになるに違いない。
     しかし――。
    「……嫌です!」
     律希は弓に矢をつがえ、玉を射抜いた。その矢に備わった力が、玉の傷を癒す。
    「体についた傷くらい、私が全部治して見せます! 姉さん、どうか目を開けて。どうか耳を塞がないで。私達の声を聴いて下さい。大好きな紫姫姉さん!」
    「そう、リツキも私を拒むのね」
    「私は胸を張って言えますよ! 姉さんは自分の思っている以上に愛されています! 私は姉さんを連れて帰るためなら、どんな痛みにだって耐えられます! ここにいる全員が同じ気持ちです! 皆、姉さんのことが好きだからです!」
     パーピュアが、胸を押さえて顔をしかめた。
    「紫姫ちゃん、信じてくれ。君の友達を、君が好きだという人たちを」
     鏡が言った。
    「高峰! 煉火泣かせたら高峰でも承知しねーかんな! 高峰が居なくなると、お前の声がなくなると、皆スゲー傷付くんだっつーの!」
     煉火の隣で、譲が必死に語りかける。
    「高峰先輩の大事な人は、私が癒やし、護ります。先輩が傷つかないように」
     チェーロが言った。
    「迎えに来た人がこんなにいるんです。姉さんは優しいからそれを拒むなんてできないって知ってますよ! さぁ帰りますよ、大好きな紫姫姉さん!」
     律希の言葉に、パーピュアは首を振った。
    「紫姫さん、一番大切な事だけ、言うよ」
     玉がパーピュアに歩み寄る。
    「まだ話したいことがあるんだ。待ってる人がいるんだ。紫姫の事好きだからさ。今、凄く寂しいんだよ。だから」
     パーピュアの両肩をつかむ玉。
    「いつまでもそんな所に沈んでないで早く出てこいってんだよこのバカ!」
     玉の影がツタのように立ち昇り、パーピュアの体に巻き付いた。
    「くっ」
     パーピュアは玉の手を振り解き、翼をはためかせて距離をとった。
    「シキが死んでもいいのね。せっかく良い声で鳴いてくれるのに、残念」
     パーピュアがため息をついた。
    「なら、存分に戦いましょう。返り討ちにしてあげる」


     今まで誘惑を優先していたパーピュアだが、一転して攻勢に出た。灼滅者達は、パーピュアがパッショネイトダンスを踊る度に、あるいは、その影が誰かを食らう度に、紫姫の魂がボロボロと崩れていくように感じた。
    「シキ! 抗うのを止めてはいけません!」
     ウルスラが叫ぶ。
    「私は……『守る』というのは、自分も無事に家に帰るまでが守る事だと思うから……シキ、貴女は大切なものを守りたいんでしょう? 貴女が守護者である為に、シキの積み上げてきたことを無にしない為に、そっち側に行ってはいけないんです! Fa-la-laの皆も待って居ます! 帰ってきてください、シキ!」
     ウルスラの振り抜いた槍が、パーピュアの乗った祭壇をたたき壊した。
     翼を広げ、後ろに飛ぶパーピュア。その足首から流れた血が、空に弧を描く。
    「シキ、お前がいねえとな、一枠足りねえんだ。曲のリクエストもオレが読むお便りの枠も、電波を通したその先に、お前がいないのが凄く寂しい」
     ローラーダッシュでパーピュアを追走しながら、圭が言った。
    「帰って来いよシキ! ハッピーエンド以外はお断りだぜ!」
     炎を吹いた圭のエアシューズ『FreQuency』が、唸りをあげてパーピュアに迫る。
     パーピュアは両腕でこれをガード。しかし、ダメージを殺ぐ事は出来ない。
     吹っ飛び、よろめいたパーピュアの懐に、彩歌が鋭く踏み込んだ。
    「紫姫さんとは、色々なお話をしましたね。他愛もない事から重いお話まで色々」
     パーピュアは華麗なステップで彩歌を躱そうとする。が、その動きに以前ほどの精彩はない。彩歌も同じようにステップを踏みながら、パーピュアの動きにピタリついて行った。
    「今だから言いますけれど、紫姫さんって引っ込み思案な私が自分からお友達になりたいって声をかけた始めての人なんですよね。優しそうな人だからっていうのがその理由だとずっと思ってました……でも、違うんですよね。話してるうちによくわかったけれど、似てるんです、私達。ホントに、いろんな所」
    「ふふ、そうね」
     パーピュアは、彩歌を振り払おうとしながらも、彩歌の言葉に耳を傾けている。
    「そうそう、いるものじゃないと思います、そんな相手って。だから、絶対に失いたくない。まだまだ色々な話したいんですもの……! だから、戻ってきてください!」
     パーピュアを教会の隅に追いつめた所で、彩歌の日本刀が一閃。
     黒い羽が舞い散った。
     そこに振り下ろされるのは、真っ赤に燃えた慧樹の縛霊手。
    「耐えてくれよ、紫姫サン!」
     パーピュアは翼で体を覆い、これをガード。しかし、慧樹はそのガードごとパーピュアを吹っ飛ばした。
     パーピュアの体に、慧樹の炎が燃え移る。
    「クヒヒ……シキ……ああ、私の愛しいシキ……彼女はもういない。声が聞こえないもの」
     ボロボロになりながらも、パーピュアは余裕の笑みを崩さずに立ち上がった。
    「うそ……! お姉ちゃん!」
     緋月が叫んだ。
    「どうせ、また自分だけで抱え込んでいるんでしょ? 私が知らないって思ったら大間違いだよ! 笑ってごまかさないでよ! 目をそらさないでよ! 私にはまだまだお姉ちゃんが必要なんだから……お姉ちゃんじゃなきゃダメなんだから!」
     緋月は銀に輝く小剣を構えた。震える切っ先をパーピュアに突きつける。
    「帰ってきてよ! いつもそばで笑っていてよ! 私を抱きしめてよ! 勝手に……」
     緋月の小剣が、緋色の輝きを帯びた。
    「勝手にいなくならないでよ!」
     緋色が閃き、パーピュアが静かに倒れた。


     目を開くと、涙をためた緋月がそこにいた。
    「お姉ちゃん? お姉ちゃぁぁぁん!」
     紫姫は緋月にぎゅっと抱きしめられた。
    「紫姫ちゃん、さみしかったよぅー!」
     さらに、羽衣も飛び込んでくる。
     泣きじゃくる二人をきつく抱きしめながら、紫姫はあたりを見渡した。
     紫苑がへたり込んで大泣きしている。沢山の友達が、紫姫を囲んで喜び合っている。中には知らない人も居た。
    「あの……」
     様々な感情が去来するも、伝えたい事が多すぎて言葉にならなかった。

     だが、慌てなくていい。
     今日からまた、いつもどおりの学園生活が再開するのだから。

    作者:本山創助 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 6
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ