血塗れの就職活動

    作者:天木一

    「どうだった? 内定もらえたか?」
    「もち! バッチリだった!」
    「おめでとー!」
    「ねぇ、どんな感じだったの?」
     まだ着慣れぬ様子の真新しいスーツを身に纏った若者達。内定の決まったお祝いに、居酒屋でビールジョッキをぶつけて乾杯していた。
    「これで内定ってみんな出たのか?」
    「いや、後は石田の奴がまだだな」
    「あー石田なー。あいつはコミュ力足りねーからな」
     漸く内定が決まり安堵と共に笑みが浮かぶ。居酒屋に賑やかな笑い声が響いていた。そんな中、1人の客が入ってくる。
     くたびれたスーツ。頬がこけ、目の下には隈。虚ろな目には何も映っていない。
    「おー石田! こっちこっち!」
     その男に気付いた若者達の集団が手を振る。
    「生1つ追加でー! で、どうだった? 内定出たか?」
    「……もう少しで結果が出るんだけど。その為に手伝って欲しい事があるんだ……」
     石田はそう言いながら鞄を開ける。
    「石田はもうちょっとしゃっきり喋った方がいいぜ? んなだから大学でも彼女が出来なかったんだよ!」
    「もー、それはいくらなんでも酷いよ。ちょっと出会いが無かっただけだよねー」
     笑い合う若者達。石田は無反応のまま鞄からノコギリを取り出した。
    「あ?」
    「ちょっと、その首を貸して欲しいんだ」
     一振り。ノコギリが首に突き刺さる。
    「ぎぃっ」
    「きゃーーーーー!」
     石田がノコギリを引く。すると首がごとりと落ちた。
     続けて騒ぎ立てる友人達を襲い。4つの首を手に笑みを浮かべる。
    「これで内定がもらえるよ……ありがとう。持つべきものは友達だね……」
     軽い足取りで石田は店から立ち去った。後に残ったのは赤く染まった床と、首の無い死体だった。
     
    「どうやら最近、就職活動が上手くいっていない一般人が、六六六人衆に闇堕ちする事件が起きているようなんだよ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が教室に集まった灼滅者に説明を始める。
    「身近な人間の首を刎ねて、それを持って市街を歩いているみたいなんだ」
     何が目的かは分からないが、非常に危険な事態だ。
    「その六六六人衆は市街を移動するけど、自分から一般人を襲うような事はないよ。でも、邪魔する者には容赦はないみたいでね、声をかけた人は殺されてしまうんだ」
     夜の街中に首を持った男。怪しい人物と警察官がそれを呼び止め、殺されてしまうのだという。
    「これ以上の被害が出ないように、みんなにはこの六六六人衆を倒してもらいたいんだ」
     このままでは連鎖的に死者が増えるだろう。
    「敵が現われるのは繁華街だよ。人が多いから一般人を戦いに巻き込まないよう気をつけて」
     夜の繁華街だ。飲食店も多く大勢の人々がいる。
    「六六六人衆となった男の名前は、石田秀秋。まだダークネスになったばかりみたいでね、戦闘力は通常の六六六人衆より劣るよ」
     武器はノコギリを使う。全員で戦えば倒す事が可能だろう。
    「就職活動は大変だと聞くけど、人を殺すようなものじゃないよね。大人の仲間入りを果たす前にこんな事になるなんて酷い話だよ。これ以上悲劇が続かないようにして欲しい、お願いするね」
     誠一郎の言葉に、灼滅者達は任せておけと教室を後にした。


    参加者
    晦日乃・朔夜(死点撃ち・d01821)
    夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)
    皐月・詩乃(中学生神薙使い・d04795)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    雛本・裕介(早熟の雛・d12706)
    ナタリア・コルサコヴァ(スネグーラチカ・d13941)
    浦原・嫉美(リア充爆破魔法使い・d17149)
    菊水・靜(ディエスイレ・d19339)

    ■リプレイ

    ●生首
     ネオンに彩られた賑やかな夜。飲んで出来上がったサラリーマン達が愚痴りながらも楽しそうに道を歩く。
     そんな華やかな場所に似合わぬ、陰鬱な空気を振り撒く男が堂々と道を歩いていた。
    「これで……内定がもらえる……ふ、ふふ。ようやくみんなに追いつけたよ……」
     ぶつぶつと独り言を呟く真新しいスーツの男。その手にはぶらりとまるで買い物袋のように4つの人の頭部を持っていた。血が垂れ流され、まだそれが新しいものだと主張している。
    「君! ちょっと待ちなさい。その手に持っているものは何だ?」
     そこへ制服を着た警察官4名が近づこうとする。
    「首狩り内定とは、次から次へと妙な事を……」
     無表情に西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)がその間に割り込む。そして周囲に思念波を放ち警察官や人々の思考を乱した。
    「これ以上罪を重ねさせはしません、私達が相手になります」
     その隣でナタリア・コルサコヴァ(スネグーラチカ・d13941)も、取り囲もうとしていた警察官を邪魔するように間に入る。
    「なんですかあなた達、そんな怖い顔をして……まさか! 俺の内定を邪魔しにきたのか! そうなんだな! 畜生ッせっかく決まったんだぞっ。絶対に内定を消させたりはしないぞっ……邪魔する奴はみんな殺してやる!」
     思い詰めたように、男はどこからともなく血に濡れたノコギリを取り出した。右手にノコギリ、左手に生首を持って灼滅者と向き合う。
    「ク、ク……ヒハハ……面白い、我等が怨敵なれば是非もない」
     眼光は鋭いまま、織久は口元を喜色に歪ませて哂う。
    「そっ首叩き斬ってくれるわ」
     そう言い放ち、柄と刃が一体と化した黒い大鎌を構えた。
    「異常者には近づかず、周囲の封鎖等に回ったほうが良い」
     仲間が対峙している間に、雛本・裕介(早熟の雛・d12706)は警察官に呼びかける。
    「ここは私達に任せて下さい。大丈夫、そういう訓練は受けています」
     ナタリアもそう言葉を続けた。すると警察官は疑問に思うことなく状況に流され、分かったと頷きそのまま離れていった。
    「あちらに逃げろ!」
     喧騒の中に声が響く。夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)の言葉はまるですぐ傍から発せられたように、しっかりと人々の耳に届く。
    「ここは危ないの、早く逃げるの!」
     晦日乃・朔夜(死点撃ち・d01821)も男と反対の方向を指差し、戸惑う周囲の人々に呼びかける。一般人達は訳も分からぬまま不安に煽られて示された方向へ逃げ出した。
    「ここに留まっている貴方がどうなるかは……あれの持っているものを見てわかりませんか?」
     酔って座り込む老人に近づき、皐月・詩乃(中学生神薙使い・d04795)は指差す。その示す先には人の首を持った男が立っていた。
    「貴方の為です、即座に立ち去って下さい」
     厳しい声に、がくがくと震えた老人は足をもつらせながら慌てて逃げ出す。それを最後に周囲から一般人は居なくなった。
    「内定の為に、死んでくれよぉ!」
     口から唾を飛ばしながら石田はノコギリを振り上げる。
    「内定貰うのに友人の首が必要とかブラック企業不可避ね! 鍵島コーポレーションといい、ダークネスの会社はロクでも無くて嫉妬すらできないわ! 必ず阻止よ!」
     そこへ横から飛び出した浦原・嫉美(リア充爆破魔法使い・d17149)は、縛霊手でその脇腹を殴りつけた。霊糸が放たれ石田の体を縛る。
    「就職活動の難儀さは同情するが、人を殺めて良いことには成らぬ」
     動きを封じたところで菊水・靜(ディエスイレ・d19339)は黒塗りの槍を突き入れ、石田の腹に白く輝く刃を刺して捻ると傷口を抉った。

    ●就職活動
    「お前らもかぁ! お前らも俺の就職を邪魔するのか! 何で邪魔するんだよぉつ」
     刺さった穂先を手で掴んで引き抜くと、ノコギリを振り下ろして靜の首を狙う。
    「邪魔するに決まってるだろ、首提げて入るとかどんなブラックだよ」
     割り込む治胡がギターを振り回してノコギリの刃を止めた。
    「このぉっ就職できればいいんだよ! 就職できあきゃ学校だって卒業できねぇんだぞ! 卒業したら新卒じゃなくなっちまう!」
     力を込めて押し切ろうとする石田の背後から、織久が大鎌を振るった。
    「クク……ならば邪魔してやろう。貴様の望みは何一つ叶えさせん。全て撃ち砕いてくれる」
     刃が袈裟斬りに背中を傷つける。
    「退職したくないなら、私たちを倒すしかないの」
     朔夜が正面から駆け抜け、擦れ違いざまに剣を振り脚に斬りつける。
    「嫌だ嫌だイヤだ! もう就職活動なんて二度とするもんか! 何が趣味はないのだ! 何が志望理由だ!」
     逆上した石田は脚の痛みも無視して駆け出すと、勢いのままに全力でノコギリを振るい、剣で受ける朔夜を力任せに薙ぎ払った。更にノコギリを振りかぶる。
    「貴方にこれ以上罪を重ねさせるわけには参りません」
     だからここで止めてみせると、詩乃は横からその顔面に鬼の如く巨大化した腕を振り抜く。拳が頬を捉えて石田の体はボールのように吹き飛んだ。
    「ぐぇっ……痛い、けど、痛みがなんだっ! 就活の精神的苦痛に比べたらこんなもの……!」
     自動販売機にぶつかり尻餅をつくと、頭を振って石田は立ち上がる。
    「如何なる理由が在ろうとも、闇に堕ち人を殺めた段階で滅されるべき存在よ」
     許せぬと裕介の周囲から風が渦を巻き、幾つもの刃となって石田の体を切り裂いていく。
    「未来を革命する力を!」
     力強い言葉と共にナタリアがカードを解放し剣を抜き打つ。真っ直ぐにスーツを切り裂き赤い線が胸に奔る。
    「調子に乗るなぁ!」
     ナタリアの首を狙ってノコギリを振り抜く。その一撃をビハインドのジェドがステッキで受け止めた。
    「なんなんだよっ、なんでこんな酷いことするんだよ!」
     ノコギリを引くとステッキが削れていく。そのまま両断して押し切ろうとした時。横から邪魔が入る。
    「はいはーい! 秀秋さんストーップ! 邪魔するわよ!」
     嫉美が縛霊手でボディを殴りつける。衝撃に肋骨が折れて霊糸に絡まれ、石田の動きが鈍った。
    「非道はそちらの方であろう。その所業、捨て置けぬ」
     そこへ靜が青い細身杖を振り抜く。青き魔力を纏い放たれた一撃を石田は左腕で受け止める。鈍い音と共に骨が砕けた。だが掴んだ生首達を放さずに耐える。
    「づぁあああ!」
     力任せに霊糸を引き千切り、反撃にノコギリを振り下ろす。靜は杖で受け止めるが、そのまま押し切られて吹き飛ばされる。
    「その程度じゃあ就職は無理なの。ダークネスに就職したなら、私たちに勝てなきゃ話にもならないの」
     仲間との距離が開いたところで、朔夜がガトリングの銃口を向けた。撃ち出される炎の弾丸が石田のスーツに火を点ける。
    「あぢっあぢぢぃっ」
     叫びながら転がって火を消すと、そこへ駆け寄った治胡が炎を纏った足で蹴り上げた。
    「悪いね、また燃やしちまったよ」
    「あちぃ! 畜生畜生! こんなちょっと燃えたくらいで怯むようなら、就職活動は勤まらないんだよ!」
     燃える上着を破り捨てて火を払いながら石田は咆える。
    「ならば骨の髄まで燃やし尽くしてくれる……ク、カカ」
     哂いを押し殺すようにしながら、織久は血色の炎を纏った大鎌を振り下ろす。石田が防ごうと掲げたノコギリとぶつかり合う。織久が体重を乗せて押し込むと、大鎌の燃える刃が腕に食い込み肉の焼ける音がする。織久は狂気を孕んだ笑みを口元に浮かべた。
    「うあああああ!」
     石田は黒い殺気を放って織久を呑み込み侵食する。
    「友の首を以て得る内定がそれ程に良いものか。そこまでして内定を得て、それでどうする?」
     疑問を口にしながら裕介が腕を伸ばし、縛霊手から光を放つ。光が殺気とぶつかり打ち消し合う。
    「友達だからだ! どうしてだ! ゼミでも俺が一番真面目に勉強してた! レポートだって見せてやった! なのにどうして俺だけ就職が決まらないんだよ! そんなのおかしいだろ!? 何で勉強が出来てた俺が一番ダメなんだよぉ!」
     目を血走らせて石田は苦しそうに叫び、ノコギリを持って駆け出した。
    「なんともやるせないですね……」
     切羽詰り心が弱ったところを悪意によって堕とされ、友人をも手に掛けてしまった姿に、詩乃は言葉を詰まらせる。
    「私達が真に討つべきは秀秋さんではないのでしょうけれど……」
     だが止めなくてはならないと駆け出し、飛び蹴りを胸に打ち込んで尻餅をつかせる。
    「未内定時の世間からの重圧を脚に込めて!」
     跳躍した嫉美が起き上がろうとした石田へ、更に飛び蹴りを放って薙ぎ倒す。
    「ぐぇっげほっ……思い出させるなぁ! 会う度にまだ内定決まってないのってどいつもこいつも聞きやがって、決まってたらこっちから言うに決まってるだろぉ!? 死ねよボケがっ!」
     倒れた状態から跳ね上がるように嫉美を狙って襲い掛かる。振り下ろされるノコギリに合わせ、靜が橙色のオーラを纏わせた拳を打ち込む。まるで金属のように拳がノコギリとぶつかり止めた。
    「それでは、こちらの番だ」
     靜はノコギリを弾き、拳の連打を浴びせる。だが石田も負けじとノコギリをがむしゃらに振り回す。
    「靜さん、援護します!」
     ナタリアがそのノコギリを蹴り上げた。腕が上へと伸ばされ隙だらけとなる。
    「喰ろうて見よ」
     踏み込んだ靜の拳が鳩尾を抉り、前屈みになったところへ眉間を打ち抜き、ふらりとよろめく体に拳の連打で滅多打ちにした。

    ●ブラック企業
    「ぐべっぇええおえっ」
     石田は地面に手をつき口から血を吐く。それでも片手には首を離さずに持っていた。
    「そこまで思いつめる理由は分からなくもないけれど、好きにやらせるわけにもいかないの」
     朔夜は剣に畏れを纏わせると、横に一閃する。石田は身を投げ出すように避けようとするが、切っ先が左肩を深く抉った。
    「ク……ククク、もう貴様は就職を気にする必要もない。ここで死ぬのだからな……ハハハハ!」
     影のように忍び寄った織久が、黒い杖を背中に叩き付ける。
    「げぇっ」
     声を漏らし仰け反るように吹き飛ばされ、石田は壁にぶつかった。
    「そのような内定を貰って何の意味がある。入社してもまともな仕事ではあるまい。胸を張って就職したと親に報告できるのか?」
     続けて裕介が縛霊手を背中に叩き込み、霊糸で壁ごと縛り付ける。
    「ここで討たせてもらいます……」
     詩乃が悲しそうな顔で光の剣を振るう。光刃が飛び、石田の体を斬り裂いた。腰から肩へと真っ赤な傷が刻まれる。
    「嫌だ嫌だ嫌だ! 絶対に就職するんだ! それで親を安心させてやるんだっ奨学金だって返さないといけないんだぞ!」
     石田はノコギリを振り回し、壁を切り裂いて戒めを破り、錯乱したように周囲を切り刻んでいく。
    「半ば自棄……じゃないか。狂った『会社』しか道無く、縋る思いで選ばざる得なかったんだろう」
     そんな人間を利用するなんて反吐が出ると、治胡は苦々しく顔をしかめた。
    「自分で止まれないなら、俺が止めてやる」
    「夜鷹さん、私達で止めましょう!」
     ナタリアが剣で振り回すノコギリを受け止める。だが石田は体当たりするようにナタリアを押し退け、首を狙ってノコギリを突き出す。それをジェドが横から弾き軌道を逸らした。
     石田の上半身が泳いだ隙に、治胡は蹴り上げて石田の体を宙に浮かせた。
    「嫉妬の炎で焼くわ! その胸に宿す嫉妬と共に燃え尽きるのよ!」
     嫉美は跳躍し、オーバーヘッドキックのように逆さになって、炎を纏った蹴りで石田を打ち落とした。
    「これで、詰みだ……!」
     裂帛の気合を持って靜は槍を振るい、穂先から放たれた氷柱が石田の足を凍らせ、動きを鈍らせた。
    「就活は戦争なんだよ……勝つ為なら、なんでもするんだ。なんだってするんだよ!」
     石田は足を引きずり一般人の逃げた方向へ向かおうとする。
    「ここは通しません!」
     ナタリアが立ち塞がり剣を構える。
    「邪魔するなよぉ!」
     石田は生首を振り回す。思わずナタリアが引いたところを通り抜けようとすると、その前にはジェドが待ち構えていた。
    「――通さないと言いました!」
     背後からナタリアが飛び蹴りを当てた。槍の柄を杖のようにして石田は踏み止まる。
    「もうこれで終わりなの」
     そこへ朔夜が銃撃を浴びせる。石田は腕をクロスして防ぐ。だがその体には幾つも穴が開き炎がシャツに燃え移る。
    「こんなところで終わってたまるかぁ! 就職して社会人としてやっていくんだ!」
    「もう楽にしてやる」
     治胡が縛霊手でその顔を殴りつけた。霊糸が絡まり石田の自由を奪う。
    「申し訳ありません、せめてあちらで罪を償った後に安らかに……」
     心臓を突こうとした詩乃の光の剣が、逃げようとした石田の右胸を貫いた。
    「ヒヒ、その首を置いていけ!」
     織久の大鎌が首を狙う。だが石田はそれを左腕で受け止めた。ぼとりと腕が落ちた、同時に生首が地面に転がる。
    「あああああ! 大事な首がぁ! 集めないと、就職できなくなっちゃうよぉ」
     必死に首を拾おうとする石田に、裕介は風の刃を叩き込んだ。
    「憐れな……」
     よろめきながらも、石田は首に向かって手を伸ばす。
    「これで終わりにするわよ! 必殺! 不況ダイナミック!」
     その隙に、嫉美が石田を背後から抱きかかえ、持ち上げると地面に投げ落とした。
    「ぐはっ」
    「さらばだ……」
     靜の槍が倒れた石田の胸を貫き、地面に縫い付けた。
    「あ……あ………就職……決まっ……」
     うわ言のように呟き、石田は首に手を伸ばしたまま動きを止めた。

    ●末路
    「就職活動とは怖ろしいものなの」
     朔夜は就活が生み出した怖ろしい事件だったと淡々と呟く。
    「ヒ、ハハ……死んで楽になれただろう。もう就職に頭を悩ます必要はない……」
     織久は狂気から醒めるように、顔を押さえて頭を振るった。
    「就職活動に行き詰ってというには余りに凄惨な事件です……」
     ナタリアはやるせない気持ちで、首を振った。
    「どんな会社知らないけど、ブラック企業であることは確定ね!」
     嫉美は事件の発端である会社がどんなものなのかと想像していた。
    「死ねて良かったと思うかい。そんなアンタにした世界が、俺は悲しい」
     治胡が火を放つ。石田の体は燃え、塵となって消えて行く。
    「ココは少し、眩しいな」
     見上げれば、遠く暗闇に閉ざされた空に、明るい星が浮かんでいた。
    「あの世で友に詫びるといいのじゃ」
     裕介が炎に消え逝く石田を見下ろした。
    「このような所業を課す会社を放ってはおけんな」
     いずれ元凶の会社を叩く必要があると、靜は静かに炎を眺める。
    「……この場で出来ることはやりました。帰りましょう……」
     黙祷していた詩乃が振り返る。このような事件を巻き起こした存在を許しはしないと、胸に強い想いを秘めて歩み去る。
     今もどこかで就職活動に苦しむ人々が居る。そんな人々の未来が拓けるようにと、願わずにはいられなかった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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