芸術の秋。
武蔵坂学園の秋を彩る芸術発表会に向けた準備が始まろうとしてた。
全8部門で芸術のなんたるかを競う芸術発表会は、対外的にも高い評価を得ており、武蔵坂学園のPTA向けパンフレットにも大きく紹介されている一大イベントである。
この一大イベントのために、11月の時間割は大きく変化している。
11月初頭から芸術発表会までの間、芸術科目の授業の全てと、特別学習の授業の多くが芸術発表会の準備にあてられ、ホームルームや部活動でも芸術発表会向けの特別活動に変更されているのだ。
……自習の授業が増えて教師が楽だとか、出席を取らない授業が多くて、いろいろ誤魔化せて便利とか、そう考える不届き者もいないでは無いが、多くの学生は、芸術の秋に青春の全てを捧げることだろう。
少なくとも、表向きは、そういうことになっている。
芸術発表会の部門は『創作料理』『詩(ポエム)』『創作ダンス』『人物画』『書道』『器楽』『服飾』『総合芸術』の8つ。
芸術発表会に参加する学生は、これらの芸術を磨き上げ、一つの作品を作りあげるのだ。
芸術発表会の優秀者を決定する、11月21日に向け、学生達はそれぞれの種目ごとに、それぞれの方法で芸術の火花を散らす。
それは、武蔵坂学園の秋の風物詩であった。
●芸術発表会2014
「芸術発表会……というものが、この学園にはあるそうですね」
西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)がどこかうきうきとした様子で灼滅者たちへと語り掛けた。
灼滅者たちが創作料理を作り、振る舞い、競い合う――料理を用いた競技、それが創作料理コンテストだ!
「私もお手伝いさせて頂く事になりましたので、概要をお聞きしたんですが……」
魔人生徒会より入手したのだろうか、レジュメへと視線を落として、アベルがその内容を読み上げる。
「まず、品評会の日時は11月21日。
グループで参加も可能ですが、提出する料理は1人1品なので、結局のところは個人競技のようですね……」
一緒の調理台で料理をする事は出来るが、友人同士で参加したとしても、互いに競い合うライバルということになる。
「午前中に調理をし、お昼に品評会が行われます。品評会は、コンテスト参加者さん以外の人も投票をするから、という名目で、審査員として参加できるようですね」
結果を決めるのはコンテスト参加者の料理の出来栄え、そして、投票に来た生徒たちの投票次第だ。
「そして、午後に集計の結果、入賞者が発表されます。最優秀者の料理は、後日PTAの方にも振る舞われるようですよ」
毎年PTAからも楽しみにされているという芸術発表会。若者たちのイマジネーション溢るる創作料理コンテストも、後日振る舞われると言う楽しみもあって、楽しみにしている父兄も多いらしい。
「どんな料理を皆さんが作るのか、私も楽しみです。皆さん、頑張って下さいね」
灼滅者たちを激励したアベルだったが、その後、ぽつりと、少し残念そうに呟いた。
「……出来れば、私も参加してみたかったですね」
彼は今回、裏方に回ると言う事で不参加なのだった。
●
芸術発表会、創作料理部門――各々が考えた創作料理で競い合う、食の祭典。
その準備が、家庭科室など各キャンパスのあちこちで行われていた。
(「今年こそは入賞してやるわよ!」)
新潟県は魚沼産のお米の良さを広めるべく、舞子は意気込む。一口サイズのお煎餅に、豚バラや目玉焼きを添えた【お煎餅弁当】は、お米の新たな可能性を見せてくれる作品に仕上がった。
もみじ饅頭用の鉄板を持ち込んで、來鯉がもみじ饅頭を作って行く。青葉、黄葉、紅葉。色を変えて行く葉に、飴細工の小鳥で飾った作品は、もはや絵画のようだった。
饅頭と言っても、和風の味付けばかりでは無い。小次郎が作るのは、ボルシチ饅頭とカスタード饅頭をセットにした、一風変わった紅白饅頭だ。
ビーフストロガノフに、鮮やかなパプリカを入れて色彩豊かにアレンジして。ロジオンの調理は順調に進んでいた。
「おや、花恋さんお手伝いでございますか?」
ロジオンを手伝って、鍋の火の番をしながら花恋はまだ見ぬロシアへ想いを馳せる。訪れるときは、彼のお嫁さんになっているだろうか?
負けませんよ、とロジオンが視線を送ったその先では、薫がラーメンを作っていた。
「何か私にできることあるかな…?」
助力を申し出る雨の言葉に、ぐっと我慢。一人薫はラーメン作りに挑む、その真剣な表情を近くで見られるのが、雨は嬉しい。やがて、野菜たっぷりポトフ風のラーメンに、カレーを包んだワンタンを載せて。味の変化を楽しめる一品が出来上がる。
「なんだか、新婚生活を垣間見ているみたい♪」
「ししし新婚さん!? 気が早いって!」
慌てる薫たちにくすくすと雛が笑う。カップルたちは彼女の目論見通り、親睦を深めているようだ。
さて、と視線を移したその先で、青いメイド服姿の直司が、小籠包のタネを皮に包んでいた。
「はい、あーん」
心配そうに見守っていたエステルへと、直司が小籠包を食べさせてあげる。だが、彼女が心配そうな顔をしたのも無理はない。審査に出すものはハバネロや納豆やキャラメルを混ぜたカオス仕様の小籠包なのだから。
「あー……」
それを発見してしまった雛が、すすすと調理台から離れてゆく。
「みぅ、雛ちゃん~……何で逃げるです、何で何で~~~」
不思議そうにエステルが、脱兎する雛の背中に呼び掛けた。
常ならば共に語らい、共に戦う仲間たちもこの場では敵同士。
(「や、やばいっ。今更ながら緊張してきたっ」)
緊張しながらアルコが作った【四季の色】。眼と舌で四季を楽しむパイ生地で包んだスープを見て、紫鳥が歓声を上げた。
「わ、アルコ君の、すごーい、綺麗で上手ですねー」
女子としては、料理上手な男子、というのはちょっと複雑な気分だ。けれど自分が作った和風パンケーキと、どちらも頬張れば、そんな気持ちも吹き飛んでいく。
ケーキ用のシートの内側にバターと粉砂糖を塗す。そんな地味な準備の作業が一番大事と、丁寧に侑希が作るのはチーズスフレ。一度口にしたのなら、スフレに塗られたアプリコットジャムが、チーズと共に口の中でしゅわしゅわと溶けてゆくだろう。
コトコトと小気味良い音を響かせ、香乃果が作るミネストローネ。海老と野菜を包み込むトマトソースにはとろみをつけて、味の調整にはコンソメと、隠し味にお味噌を少し。寒い日でもほっこりと心身を温めてくれるだろう。
(「何を作ろうかな」)
自分の腹と、皆の心を満たせるような料理、と考えた与四郎がオムライスを作り始めた。トマトやキュウリ、チーズを添えた黄色い星型のオムライスから、炒飯の香ばしい匂いがふわり、と上る。
「有り合せの食材で美味しく食べられるチャーハンはすばらしいわね」
チャーハン女、なんてあだ名がついている里美が作るは勿論チャーハンだ。必殺の文字が描かれたエプロン姿で、鼻歌混じりで手際よく中華風のスープチャーハンを作ってゆく。
「夢幻のオカンの意地、見せてやらァ!」
少々やけっぱちに叫んだ刑が、コロッケカレーを作って行く。肉の袋に、『牛』の文字だけ後付けのように書いたその肉は、果たして何の肉だったのだろう?
「誰も口にしたことのない至高の料理をお見せしましょう!」
自信満々な模糊の食材は……段ボール。その発想に、周囲の出場者たちも度肝を抜かれていた。
「……ウム、いい感じだ。」
クリームソースにチーズを加え、コショウでアクセントをつけて。味を確かめて、アインが満足げに頷いた。クリームソースのパスタは、幾度となく味の調整が行われ、深みのある味わいに仕上がっている。
ラテアートに挑戦するのは、【バリスタ学部】の面々だ。
「ふっ、このためにさんざん練習したのよ」
自信満々にラテアートを作っていたリズリットが沈黙し、カフェオレをぐびぐびと飲み干した。失敗を繰り返すうちに、うさぎがカップから入り出て行くまでを表現した、愛らしいラテアートが出来上がる。
「やっとそれっぽい形になったな……」
やっと武蔵坂学園の校章を象ったラテアートが出来上がり、シュヴァルツがふう、と息を吐く。徐々に形になってゆく、その達成感が心地良い。
「できたー! 題して、【巨大ラテアートinナノナノ温泉】ですー!」
万歳したリオンが用意した大き目マグカップに、ナノナノ温泉ラテが出来上がる。
しかし、作るのは個人参加の作品だけでは無い。個人作品にめどがついたバリスタ学部の学生が、今度は全員で何かを作り始めた。
そして、ナノナノはこちらにも。菜々乃が作ったフルーツいっぱいのケーキの上では、メレンゲ菓子で様々なポーズを取るナノナノが飾られている。まるで花畑の中でナノナノが遊んでいるような光景に、見る者は目も舌も癒される事だろう。
●
柿に見立てた和洋折衷のデザートは、翔のセンスが遺憾なく発揮された一品だ。色彩豊かな練り餡で表面を作るだけで無く、種に見立てたアーモンドまで入れる完成度は、食べるのが勿体無い程だ。
円が作る、紅白餃子鍋。豆乳ベースのスープの中、赤餃子と白餃子が浮かぶ、縁起の良い色彩の鍋は、食べたら元気を取り戻せそうだ。
「旬の南瓜と蓮根は甘いんですよ~」
黄色い南瓜色のケーキはは、銀杏並木の色彩にも似た秋らしいいろ。油や牛乳もヘルシーなものにして、食べる人の健康を気遣っている。
カレーとオムライスととんかつ。それらを全部一度に楽しめるカツカレーオムライスは、誰もが一度は憧れそうなメニューだ。レッサーパンダの形に仕上げると……食べるのが勿体無くなる可愛らしさだ。
「深呼吸、深呼吸、リラックスしていこうね」
安寿が笑いかけると、すまない、と陽己が深呼吸し、志歩乃も照れていた表情を引き締める。【料理研究同好会】として参加した3人にとって、ここはまさに腕の見せ所。
「甘さは弱いくらい、かなー。これでいい感じっ」
おばあちゃんのアドバイスを思い出しながら、志歩乃が南瓜の甘みが優しい、秋らしい汁粉をつくってゆく。
「花蕾……か」
そう名付けた陽己の冷静ぜんざいは、他の物を食べた後でも食べられる、さっぱりとした甘さ。白い山茶花を思わせる、盛り付けはとても繊細で美しい。
安寿の鍋は、さつま芋の豆乳シチュー。まろやかで上品な甘さのシチューを、塩茹でしたかぶの葉の緑が引き立て、目にも鮮やかだ。
(「美味しく食べてもらえますように」)
その想いが、食べた人へと届く事を願って。
小食の想希が色んな味を楽しめるように。そう願って悟が作ったのは量は少ないが種類豊富な色とりどりのご飯におかず。その気遣いが嬉しいと、手を振る彼に振り返し、想希が挑むのはフォンダンショコラ。果物沢山なそれは、まるできらきらと華やかな夢の宝箱。
「美味いもんおおきに」
そう、互いに感謝し合える幸福な時間を想う事。それが何よりのスパイスだった。
ズワイガニをまるごと茹でて、甲羅も身もカニミソも活かした沙雪の『丸ごとカニクリームパスタ』。カニの味わいを、炒めたニンニクトマトが引き立てる。食べればその濃厚な味わいに、舌がとろけてしまいそう。
流希が作るのは大きく派手なケーキ。学園全員を祝うバースデーケーキに、素敵な一年になるように、と祈りを込めて。
(「俺が戦うんは他の調理者やない。食べてもらう人に笑顔になってもらうためや!」)
あえて奇はてらわず、柚貴が作る筑前煮。心配してくれていた有愛に手伝ってもらい、問題無く作って行くも、緊張や不安はそれでもあった。時に動きが硬くなる柚貴を、有愛が笑顔で励まし、作品が完成する。
灼滅者たちが腕によりを掛けた創作料理たち――いよいよ、審査員たちへと振る舞われる時が訪れた。
●
「秋田県の郷土料理で今が旬のハタハタという魚を使った鍋です」
宥氣が作ったハタハタ鍋は、隠し味のショウガが味の決め手だ。つゆを飲み込めば、身体の芯からほかほかと暖まってゆく。
「……んん。うまい」
煮込まれたハタハタの味に、直人もシンプルな、そして最大限の賛辞を送る。
「さぁ、おあがりよ? なんてな」
ちょっと気取った台詞を言いながら和正が振る舞う『カズマ流牛丼』は、タマネギを駆使して肉を柔らかくする、手の込んだ一品だ。口の中で肉の旨味と脂が広がれば、こちらまで溶けてしまいそう。
「どれも美味しそうだなー」
見た目が綺麗……というより面白いものを見て、へーと矢宵が感心する。珈琲店の娘としては、料理を見る目は厳しいのだ。一緒に来たブレイブはと言えば。肉料理に目が釘付けにされて立ち止まる。目が釘付けにされている。大事な事なので以下略。
「いただくでござるよ!」
欲望に正直に料理を堪能した後は、知己の応援も欠かさない。
「リクエストがあればお答えしますよ」
普通のラテアートでも簡単な図柄であれば作れる。真墨がラテアートの実演をしていると、そこに矢宵とブレイブが駆け寄った。
「やっほーアニ、応援に来たよ!」
投票は公平にするけどね、と矢宵が笑う。ブレイブも、バリスタ学部のラテアートに目を輝かせていた。
「まぁ見て行ってくれ」
実演しているのはただのラテアートでは無い、高度な3Dラテアートだ。真墨やイオは兎変身したクラスメイトをモチーフに。蓮曄と勇弥は自分の霊犬をモチーフにしていた。
「バリスタ学部の皆と練習した立体ラテアートになります」
きめ細かい泡での一発勝負。行程を丁寧に紹介する勇弥の解説に、ほうほう、と人々の視線が集まり、輪が出来てゆく。
「日本人が世界で初めて平面だったラテアートを立体にしたんだ」
今にも跳ね出しそうなうさぎのラテアートを作り、優輝が説明する。
「味もですが、まずは目でお楽しみください」
日本人の想像力、そして技術の粋である。人々がそれに頷いて兎を観察する――会場の中でここだけが、まるで喫茶店のようなゆっくりとした空気が流れていた。
洋食の定番、オムライス。けれど、そこにどんなアレンジを加えるかは人それぞれだ。
虎鉄が作るのは、親子丼風オムライス。ライスも和風の味付けにし、鶏肉も焼き鳥風にかりっと焼き。卵で包んだ後のアクセントは刻み海苔。外国料理も美味しくアレンジする日本人らしい拘り方だ。
三樹のオムライスはチキンライスに粉チーズを、オムレツの卵にはマヨネーズを混ぜ、より一層クリーミーな味付けになっている。
「どれも美味しい……」
どちらのオムライスも絶品だし、それ以外の料理もおいしいものばかり。文音は目移りし、色んな料理を少しずつ食べてゆく。色んな料理をちょっとずつ食べた結果、後悔する事になったかどうかは彼女しか知らない。
●
凍矢が振る舞う、『スープ・ド・ポワソン・スパゲティ』。パスタにはエビの殻を砕き練り込んでおり、色鮮やかに、そして風味を増している。けれど、濃厚な海老と魚介の風味をくどくないように抑えた、バランスの取れた一品に拍手が起きた。
「カレー団子’s、完成だ!二種類の食感を味わいなぁ!」
餅の生地とパン生地による異なる食感のおかげで飽きが来ない、三成のカレー団子は好評を博し、来場者たちの手が次々と伸びて行く。
「カレー香るコンソメスープです。好みの具材はありますか?」
ありふれた食材も、ひと手間加えれば至高の味に変わる。悠花が振る舞うコンソメスープは、カレーのスパイスの味が何とも香ばしく、更に食欲をそそっていく。
洋食を食べると、今度は和食が恋しくもなってくる。
「純和風の食と癒しのくーかんへようこそー♪」
割烹着と三角巾姿で向日葵が審査員を出迎える。肉じゃがに鮭、ご飯に味噌汁、きんぴらごぼう。彼女の作った馴染み深い和食メニューは、帰って来たような安心感を齎してくれた。
朝恵が提供したショウガ豚汁の特筆すべき点は、野菜や肉の柔らかさだ。
「炒めたあとにお味噌を絡めてから煮るとね、お野菜もお肉も、やわらかくなるの!」
近所のおばちゃん提供の知恵は実に偉大であった。
寒くなったので、巧が作るあんかけうどんは大好評だ。
「火傷には注意して下さいね」
小さな器で提供していると、アリッサが瞳を輝かせて詰め寄って来た。
「これ美味しいね! お持ち帰りとかないの?」
もっと食べたい。そんな言葉は、最大の賛辞だ。嬉しげに笑って、巧がおかわりを器に注いだ。
「沢山食べたいぞ!」
マイナイフ、マイフォーク持参で会場を彷徨う百合が、鼻孔をくすぐる香ばしい匂いに足を止めた。
「良かったらどうかな?」
串焼き肉を木の船に載せて差し出し、さらにうちわでパタパタと仰げば、それはもうテロと言っても過言では無かった。
メイニーヒルトの『ローストビーフうに醤油添え』をじっくりと味わい、飲み込んで。武流がおお、と感嘆の声を漏らした。
「ど、どう……?」
心配そうなメイニーヒルトに、ぐっと親指を立てて、武流が笑う。
「匠の技、見せてもらったぜ。ご馳走様!」
味付けも、そして切り方にも拘った丁寧な仕事だ。
恋人のその言葉に、メイニーヒルトがこの会場の誰よりも幸せそうにはにかんだ。
織兎と都璃、料理をしない、得手ではない二人にとっては、予想もしない様々な料理が振る舞われていた。そこに込められた想いも人それぞれ。
「どれもうまかったな!」
みんなに票を入れたいという織兎の言葉に、都璃も頷く。
「確かに、美味しかったものは全部投票したくなるな」
一つを選ぶなんて難しい。けれど、それだけ美味しかった料理がたくさんあるからこその、幸福な悩みのひとときだった。
「ニンゲンさんがいっぱいで、こ、こわいよぉ……」
まだ人に不慣れな白雪は、怯えつつも好奇心に負けて会場をうろついていた。ふと、目に止まったのは屋台だ。
「最高のラーメンだよ!」
自信満々に呼び掛けた玖栗のラーメンはいつもと変わらない、今日も最高の出来栄えだ。
『食べてくれてありがとう!』
すいすいと箸が進み空になった器の底には、感謝の言葉が綴られていて、白雪が強張っていた表情を緩ませた。
作る者にも食べる者にも訪れる幸せ。会場内には幸福な空気が漂っていた。
●
「団長である烈光さんをモチーフに創作クッキーをつくってみましたぁ」
自身の霊犬をモチーフにした亜綾のクッキーは、部位ごとに味が違うというこだわりよう。
あまりの可愛さに、ららがパチリとスマホのカメラで撮影してからクッキーを齧り。
「美味しかったよ。ごちそうさま~!」
ぱくぱくとたくさん食べる彼女へと、ナノナノのキャロラインがちょっと呆れた視線を向けていた。
「あ、稗田さん。これ凄く美味しいですよ♪」
どんな風に考えたらこれほど絶品の創作料理を作れるのだろう、と感嘆の息を漏らしつつ、望が瑞穂に串焼き肉を渡す。肉料理が好物とあって、望の表情はとても幸せそうに緩んでいた。
「本当。季節感があって、良いですね」
フルーツソースに目を丸くした瑞穂が、次はと視線を移した先にあったのは。
「名付けて『秋野菜の三色唐揚げ』です!」
嘉月特製、ゴボウ、にんじん、サツマイモの唐揚げだ。クラブのふぁーむで育てた自身の野菜に、最後にすだちを絞れば、香ばしさと深い味わいとが口に広がってゆく。
「みんな、ぜひ食べていってね♪」
桃子特製『チーズの水餃子』。チェダーチーズ、味をミルクソースで整えれば、合挽肉の味わいがいっそう深くなる。
「イチゴはハートみたいだから、ささやかなハートのデザートになるようにつくってみたよ!」
【吉祥寺キャンパス小学5年薔薇組】。エニシアが作ったストロベリーパフェ。赤と白の鮮やかな色の塔の上に載せられたちょこんとハートのイチゴがとにもかくにも愛らしい。
クラスメイトもここではライバルだ。彩はキノコと鶏肉のふわとろオムカレーの皿を配って回る。
「冷めないうちに食べてねっ!」
オムライスにカレー、子供の大好きなメニューは若年齢層に大人気だ。
一方、文具が卓の上に広げたのはお弁当。宝箱の見た目のお弁当箱の中に、一口サイズのおにぎりが20個程。色とりどりの宝石が入った宝箱のようなお弁当に、子供たちから歓声が上がる。
「このプリン、なんと! 丸ごと食べられるよ!」
かぼちゃをくり抜いて器にし、その器自体もかぼちゃプリンと一緒に蒸している。まるごと食べられる豪快なかぼちゃプリンは贅沢の極みだ。
かぼちゃ以外にも、秋といえばサツマイモ。裏ごしした安納芋と紫芋とを交互に挟んだミルクレープ。
「審査員さん、お味はどうかな?」
鮮やかな色と優しい甘みが、ほっこりと食べた人の心を癒してくれる。
真魔が作ったゼリーは正に海の結晶。金箔などで月や星、泡を模したゼリーの海でパンナコッタが泳ぐ。時と共に変わる海の色と味の違いに、人々の口から感嘆の息が零れて行く。
光影の更に載せられた、手のひらサイズのホワイトチョコのムースタルト。4種のベリーがチョコレートの甘みを引き締めてくれて、ちょっと大人の味わいに仕上がっていた。
ゴンザレスが作ったのは杏仁豆腐。
「美味いもんを食って心と体、両方を豊かにするのが一番大事なことだからなぁー!」
たくさん食べて回れるように一口でも満足できるようにレンゲで食べ切れるサイズに抑えた、実に紳士的な配慮である。
「『タダ飯』。いい響きだよなぁ~」
食わないと損! とがつがつと食べる十四行に、楽しそうで何より、と雛姫が微笑む。彼女がどんな反応をするかが気になって、こんな食べ方をしてみせる……我ながらめんどくさい奴だ、と十四行が苦笑したその時だった。
品評会終了のアナウンスが鳴り響く。
この激闘を戦い抜き、美味しい食事を作ってくれた参加者たちへ、雛姫が手を合わせ、頭を下げた。
「ごちそうさま」
●
品評会の時間も終わり、暫しの休憩の後、いよいよ発表が始まった。
「まずは第3位! 丹下・小次郎さん!!」
小次郎の作った紅白饅頭。ボルシチとカスタードという選択は、これまで戦った敵たちがモチーフだ。過去の歴史を思い出させる、壮大な作品である。
「第2位は、アルコ・ジェラルドさんだーっ!」
【四季の色】と名付けられた彼の料理は、カボチャスープを包んだパイ生地に、食紅で猪鹿蝶と紅葉を描き、頂きに焼きプリンを載せて、レモンソースをかけた、四季を感じさせる作品だった。
『そして栄えあるグランプリは……ッ!!』
ドラムロールが鳴り、じゃんっ! と一際派手な音と共に鳴り止んだ。
『優勝は、四月一日・いろはさんです!』
季節感ある肉料理として実に評価が高かった、旬の果物を使った甘辛いソースに付け込んだ串焼き肉は、多国籍な学園関係者たちの為に、肉の種類も多数用意されていた。その心遣いが何より喜ばれたという。
これにて、創作料理コンテストは閉幕する。
想いを込めた料理を介して、たくさんの幸せを生み出しながら――。
作者:瑞生 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年11月21日
難度:簡単
参加:80人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 11
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