ご飯じゃないのっ

    作者:聖山葵

    「あー、またご飯食べてる」
    「っ」
     突然声をかけられた少女の肩がビクンッと跳ねた。見つかるとは思っていなかったのかもしれない。
    「こ、これはご飯じゃないよ? 五平餅だもん」
    「ふぅん、けど間食って言うにはヘビー過ぎるでしょ、それ?」
     口元をタレで汚しながら振り返った少女の反論にジト目を向けたもう一人の少女は、食べかけの五平餅から振り返った拍子に激しく弾んだ何かに視線をスライドさせる。
    「そりゃ、そんなに食べてれば成長するよね。前より大きくなってるじゃん」
    「ちょっ、む、胸の話は」
    「ふっ、ざっ、けっ、ん、なぁぁぁぁ!」
     視線に気づいた少女は慌てて五平餅を持たない方の手で自分の豊かなソレを隠そうとするが、単に火へ油を注いだだけだった。
    「よこしなさいっ、それを食べてあたしも『ないすばでー』を手に入れるのよっ!」
    「やっ、ちょっ、和泉ちゃんやめ……あ」
     いきなり五平餅を奪おうと襲いかかってきた友人に少女は抵抗し、はずみで手から太い木の串がこぼれ。
    「あら、どこにやったのよ五平……って、え?」
     襲撃者は地面に降ろした足の違和感で、それに気づく。
    「嘘」
     たった今まで奪い取ろうとしていたものを、踏んづけてしまったことに。
    「五平……もち」
     呆然と立ちつくしたまま変わり果てたそれを見つめた少女は、次の瞬間ご当地怪人へと変貌したのだった。
     
    「見つけました、モッチアです」
    「今度は五平餅らしいが、一般人が闇もちぃしてダークネスになる事件が起ころうとしている訳だよ」
     一つ頷いて、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)の言葉を座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は補足する。
    「本来なら闇オチした時点でダークネスの意識に人の意識は消されてしまう。だが、今回のケースでは人の意識を残しているのだよ」
     いわば、ダークネスの力をもっちぃながらもダークネスになりきらないと言う訳だなとはるひは言う。
    「もっともこれは一時的なものと見るべきだ」
     放っておけば完全なダークネスとなってしまうことだろう。
    「君達にはもし彼女が灼滅者の素質を持つようなら、救出をお願いしたい」
     また、完全なダークネスになってしまうようならその前に灼滅を。
    「闇堕ちしかけている少女の名は、裳経・いちご(もへ・いちご)。中学三年の女子生徒だな」
     日頃大好きな五平餅をよく食べているからなのか、胸が大きく友人からは妬みの感情が動機でからかわれることも多いのだとか。
    「ご当地怪人に変貌する原因も、ある意味友人の嫉妬が原因のようだからな」
     ただ当人の方は友人の一人のような五平餅のような真っ平らな胸を羨んでいたりするのだが、世の中上手く行かないモノである。
    「話を戻そう。いちごがご当地怪人へ変貌を遂げるのは、とある民家の裏手にある空き地だ」
     友人から隠れてこっそり食べようとしていた五平餅を落とされ、踏まれたことが原因で、背中に巨大五平餅を背負いはっぴ姿にさらしとフンドシのみと言う姿のご当地怪人、五平モッチアへと変貌するのだとか。
    「当然ながら、ご当地怪人になっていちごは友人に襲いかかる。今まで弄られたりからかわれていたのもあるのだろうな」
     灼滅者がバベルの鎖に引っかかることなく介入出来るのは、ちょうどいちごがご当地怪人となって友人に襲いかかる直前。
    「君達の誰かが、割り込んでかわりに攻撃を受ければ友人は助けられる」
     むろん、ダメージは受けるが、その後いちごの友人にはESPなり何なりで逃げて貰えばいい。
    「もっとも、五平モッチアは逃げる友人を攻撃しかねないのでね、気を惹いておく必要がある」
     そう言ってはるひが君達に差し出したのは、五平餅だった。
    「これを差し出すといい。それで時間は稼げるはずだ」
     後は必要であれば説得し、戦ってKOするだけである。
    「人の意識に呼びかけることで弱体化させることが出来るのでね、説得してみる価値はあると思うが行うかは君達次第だ」
     思うところがあっても、相手は友人。殺してしまうのはどうか、とかそう言う方面で説得してみたらどうかとはるひは一例を挙げると更に付け加える。
    「尚、説得は男性が担うことをお勧めしておこう」
     恋愛経験0ながらも異性に興味はあるようで、男性が説得をすれば同性よりも効果が見込めるのだとか。
    「敢えて言わせて貰おう『ただしイケメンに限る』……とまでは行かないが、美形の方が効果は大きいだろうとも」
     ちなみに、戦闘になると五平モッチアはご当地ヒーローのモノだけでなく、背中の巨大五平餅を使ってハンマーのサイキックに似た攻撃で応戦してくるとのこと。
    「最後に、介入のタイミングは昼の13時頃で明かりは必要ないことを付け加えさせて貰おう」
     また、隠れて五平餅を食べようとしていただけあって、周囲に友人以外の一般人も居ないとのこと。
    「救える相手であれば私は救いたいと……私はそう思うのだよ」
     少女のことを頼むと頭を下げ、はるひは君達を送り出した。
     


    参加者
    白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)
    ヘキサ・ティリテス(火兎・d12401)
    焔野・秀煉(鮮血の焔・d17423)
    東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)
    天城・美冬(フリジットクレイドル・d28999)
    イルミア・エリオウス(ふぁいあぶらっど・d29065)

    ■リプレイ

    ●やらせはしない
    「五平餅がスゲー好きなのは分かるけど……闇もちぃしちまうとは」
    「なんつーか……不慮の事故というか。この程度で闇堕ちしてたらキリがねぇと思うんだが……」
     おそらくは、ヘキサ・ティリテス(火兎・d12401)の言葉に反応したのだろう。焔野・秀煉(鮮血の焔・d17423)がポツリと呟いた瞬間、東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)はもの凄い勢いであさっての方に顔を逸らした。
    「ん?」
    「え、えーと、もうそろそろモッチアが増えても驚かなくなってきたよね」
     多分話題も逸らそうとか、そう言うことなのだろう。
    「そうだよねぇ」
     桜花の口にした心境に小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)が頷いたのは、空気を読んだと言うよりも実際似通ったとまで言わなくても近いことを考えていたからか。
    「日頃の鬱憤が一気に爆発……って感じなんかね?」
    「とにかく元に戻してやらねーと!」
    「お、おう。そうだな」
     ともあれ、二人のやりとりに何かを察したのか、単にそれっぽい理由へ至ったからか、疑問系ながらも考えるのを止めて、ヘキサの言葉に秀煉は同意する。
    「うん、ちゃんと助けてあげないとね」
     つい今し方まで「五平餅が美味しいからそれを落とされる原因を作られちゃったら堕ちちゃうのも仕方ない」と「そんなことない」の狭間で揺れていたイルミア・エリオウス(ふぁいあぶらっど・d29065)もここぞとばかりに便乗し、向かうは視界に捉えた民家の裏手。
    「よこしなさいっ、それを食べてあたしも『ないすばでー』を手に入れるのよっ!」
    「やっ、ちょっ、和泉ちゃんやめ……あ」
     民家の向こうから聞こえてくる声は、介入タイミングが迫っていることを灼滅者達へと知らせ。
    「あら、どこにやったのよ五平……って、え?」
     民家の向こうで悲劇は生じた。
    「嫌ぁぁぁぁぁっ」
     距離と位置の関係から二人の会話全てが把握できたわけではない。ただ、上がった尋常ならざる悲鳴と前情報で、何が起こっているかは想像がつく。
    「っ、間に合えよっ!」
     駆けながらヘキサはきらきら光って変身し。
    「へ? 何、その格こ」
    「許さない、許さないもちぃぃぃ!」
     いきり立ったご当地怪人が巨大五平餅を振りかぶった直後。
    「もっちゃ」
    「それ以上はダメーッ!」
     桜花の叫び声と同時に割り込んできたライドキャリバー、サクラサイクロンのボディが弧を描いた五平餅の直撃を受けてひしゃげ、パーツをまき散らす。間一髪だった。
    「え、何がどうなっ」
    「お友達は私達が必ず助ける、だからあなたは逃げて!」
     まだ状況が呑み込めていない闇もちぃした少女の友人へ白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)は声をかけつつ手を引き、走らせる。
    「逃が」
    「落ち着いて欲しいです。せっかくですし五平餅食べるです?」
    「っ、五平餅?!」
     ご当地怪人も即座に追いかけようとするも、それは叶わない。天城・美冬(フリジットクレイドル・d28999)の差し出したソレを見てしまったから。
    「大好きな餅を台無しにされて怒る気持ちはわかるけど、まずは新しい餅食べて落ち着こう?」
    「これも、それも、どれも美味しいやつだよ……!」
    「も、もちぃ……」
     桜花とイルミアの加わった攻勢に抗えるはずもない。
    「さてと」
     更に白金・(魔法少女少年・d11361)が徐に歩き出し。
    「もちぃ?」
    「あの子も五平餅を食べようとしただけじゃないか」
     気配とドンっと言う頭上の音に闇もちぃした元少女が顔を上げた時、ジュンは既に空き地の塀に片手をついた姿勢で五平モッチアを至近距離から見つめていた。
    「食べようと、しただけ?」
     一瞬、頬を僅かに染めて呆けたご当地怪人の瞳にワンテンポ遅れてちらりと怒りの色が宿る。
    「っ、ちょっと不幸な事故が起きたけど落ち着いて」
    「不幸な事故?」
     説得の姿勢も顔もおそらく問題はないのだろうが、尽く地雷を踏んで言っているような気がするのは、きっと元少女の敵意を自分に集める為なのだろう。実際、友人の少女の姿などもはや意識から消えており。
    「その手を下してオレ達が買ってきた五平餅を食べないか?」
    「そ、そうもちぃ! 五平餅もちぃ」
     続けた言葉にはっとした五平モッチアの意識は、ジュンからも完全に逸れる。
    「食べたい? 食べる? 仕方ないなあ、味わって食べてね♪」
    「頂きますもちぃ」
     結果、仇を討つよりも、五平モッチアは目の前の五平餅に釣られてしまったのだった。

    ●そして説得へ
    「はむっ……んっ、胡桃やごまとかも悪くないもちぃね」
    (「う、いいなあ……私も食べたいけど我慢我慢……」)
     物欲しげにイルミアが五平餅を堪能するご当地怪人を見つめる視界の中で、次に動いたのは、秀煉だった。
    「身体特徴を指摘されりゃいい気分はしねぇのはわかるし、大事なものを踏まれりゃ怒りもするわな」
    「だよね、胸が大きい事を言われたり妬まれたりは正直大変で、あたしもすっごくよく気持ちはわかるもん!」
    「そ、そうもちぃよね?」
     理解を示してみせる秀煉へ桜花が援護射撃する形となり、賛同者を得たことで元少女は顔を綻ばせ、しきりに頷く。
    「けどさ、衝動で友達傷つけるより、一緒にお餅食べて仲直りする方がいいよね?」
    「だな。……それで誰かに危害を加えていい道理にはならねぇ。ましてや五平餅を理由にして危害を加えたんじゃハレのめでたい日に拵える五平餅に失礼じゃねぇのか?」
    「も、もちぃ……そ、それは」
     そして、認めて貰った相手の言葉だからこそ、説得は五平モッチア、ではなく、裳経・いちごに届いた。
    (「っ、心が痛ェ」)
     仲間達の説得に少女が怯む様を眺めながら、ヘキサは何故か感じる心の痛みに耐え、時を待つ。
    「いちごおねえちゃんは五平餅が好きなんだねぇ」
    「な、も、勿論そうもちぃよ?」
    「このままだとすきな友達のこと、忘れちゃうよ。それでもいいの?」
    「っ」
     不意をつくように声をかけた亜樹の問いに元少女の瞳が揺れるところまでは見届け、心の中で「ちくしょう」と悪態をつき。
    「ダチを殺しちまったらきっと悲しいし後悔するぜ……お前のそンな所、見たくねェよ」
    「え」
     再び不意打ちされた五平モッチアが目を見開く。長身、美形、髪サラサラ。
    「あ……」
    「お前のダチも悪気は無ェのさ。お前の魅力的な姿と五平餅を見たら、皆ヤキモチ焼いちまうからなァ……」
     呆ける元少女の前で更に言葉を重ねたヘキサは五平餅を片手に、何かをフィニッシュさせてしまいそうな顔で、告げて。
    (「うぐっ」)
     明らかに自分の説得が効果を示しているのはご当地怪人の威圧感が薄れたことから解るというのに、声には出さず呻く。『おれのかんがえたかっこいいおれ』はヘキサ自身にもダメージとなって返ってきたらしい。
    「ちくしょう、さっさと倒して解決してやらァ!」
     何かを振り切るように叫び。
    「雅」
    「ジュンくん」
     ジュンといつの間にか戻ってきた雅の二人は互いに視線を交わして頷き合うとスレイヤーカードを手にする。
    「マジピュア・ウェイクアップ!」
    「マジピュア・ライトアップ!」
     所謂、魔法少女的変身の時間であった。
    「希望の戦士ピュア・ホワイト!」
    「光の戦士 ピュア・ライト!」
     殲術道具を手にした二人がそれぞれポーズをとり。
    「「マジピュア・スターズ参上です!!」」
    「……えーと」
     声を揃えて名乗る所を目撃した元少女は解説を求めて周囲を見回す。
    「それじゃ、いくよ♪ マールート! ゴー!」
     だが、たまたま目があったイルミアは問答無用であった。
    「もっちゃぁぁぁっ」
     ライドキャリバーのマールートに跳ね飛ばされた五平モッチアが宙に舞い。更にイルミア自身の跳び蹴りがその軌道を変える。
    「みんな、今がチャンスよ」
    「あー、まぁ、チャンスって言えばチャンスか」
     戦いは始まった。

    ●救う為になすべきこと
    「うぐっ、何をす」
    「そのままだと、五平餅をもう美味しくは食べれないですよ」
     身を起こしかけた元少女へ捻りを加えた突きを放つのは、ダークネス形態に変じた美冬。
    「今度はキミのおススメの五平餅の店を聞きたいな」
     だが、ご当地怪人が気にしなくてはいけないのは眼前の氷の竜だけではない。呼びかけながらエアシューズを駆って肉薄してきたジュンの足が迫っていたのだ。
    「も、もちっ」
     美冬達二人の内どちらの攻撃へ先に対処するかという一瞬の迷い。
    「ジュンくん、あわせるわよ!」
     縛霊手で握り拳を作った雅までタイミングを合わせて攻撃をしかけていたことを鑑みると、致命的と言わないまでも判断の遅れは拙かった。
    「もぢゃぁぁぁっ」
     結局の所美冬達三人の連係攻撃を喰らう形になった五平モッチアは、突かれ蹴られ殴られて吹っ飛び、空き地の地面え跳ねて転がる。
    「うくっ」
    「あ、今治すよ」
     網状の霊力に絡みとられつつも即座に身を起こすが、灼滅者達の攻撃はまだ終わらない。亜樹がオーラを癒しの力に転換させ巨大五平餅の一撃を受けて凹んだサクラサイクロンの損傷を修復している間に、秀煉が殲術道具に炎を宿して地を蹴っていたのだから。
    「出番だ、黒王号。霊撃と霊障波を交互に……って、ライドキャリバーにゃ無茶ぶりだったな」
    「もっちゃぁぁぁっ」
    「逃がすかよっ」
     秀煉の自己ツッコミをさらりと流して急加速した黒王号が元少女を跳ね飛ばし、悲鳴をあげ放物線を描くご当地怪人へ秀煉自身も追いすがり。
    「えっと、色々ゴメンね? 守りは任せたよ、サクラサイクロン!」
     自身の嫌な記憶でも投影したのか、少し申し訳なさそうにしつつ続いて桜花が集中攻撃に参戦する。
    「ふざけるなもちぃぃぃべばっ!」
     灼滅者達からすれば元少女救う為だかフルボッコにされてるご当地怪人からすれば受け入れられるはずもない。激昂して叫んだところに跳び蹴りを食らってもんどりをうち、おまけのようにサクラサイクロンの機銃から掃射される銃弾が五平モッチアと地面を穿って行く。
    「くううっ」
     むろんそれで倒れてしまうほど元少女は弱くなかった、ただ。
    「よくもやったもちぃね、この――」
    「火兎の華麗な足技に酔いなッ!」
     反撃に転じようとしたところで突っ込んでくるヘキサと目が合い、動きが止まったのだ。
    「あ……」
     足技と言いつつも閃光百裂拳を放とうとする体勢にツッコもうとした訳ではないと思う。呆けつつも頬を染め。
    「もぢゃ、べっがっ、ぐぅ、きゃぁぁぁぁ」
     無防備になったところをひたすら殴られ、錐もみ回転しつつ吹き飛んだ。『おれのかんがえたかっこいいおれ』の効果は健在だったらしい。
    「何だか隙だらけだったです」
    「くっ、だったら別の」
     不思議そうに氷の竜な美冬が首を傾げる中、五平モッチアは標的を変えて反撃を繰り出す。
    「焦げ目が目立つくらい、じっくり強火で焼かねェとな!」
    「もちゃゃぁぁっ?!」
     攻防は続いた。
    「っまだ、やれる……もちぃ」
     約一名の攻撃の時だけ何故か隙が出来てクリーンヒットを貰っていたご当地怪人だったが、弱体化して尚、二本の足で立ち元少女は灼滅者達と対峙していた。
    「どっちにしても、そろそろ終わりか」
     ただ、誰の目で見ても解るほどの満身創痍で足は震えていて。決着はほぼ着いていた。
    「つぇぁぁぁぁぁっ」
     ボロボロの身体に鞭打って五平モッチアは巨大な得物を振り回す。
    「見せてやるぜ、火兎の牙ァ!」
     呼応するように指を咬み、エアシューズのホイールに血を垂らしたヘキサが飛び出して。
    「あたし達も行くよ、サクラサイクロン」
    「ジュンくん」
     桜花が、雅が呼びかけて、走り出す。
    「コンガリ焼き五平餅、喰い千切るッッ!!」
     足を包み始めた炎の色が『牙』の如き純白へと近づいて。
    「「マジピュア・ツインフィニッシュ!!」」
     手を繋いだ雅とジュンも同時に攻撃を繰り出した。
    「もっちぁぁぁぁぁっ!」
     殺到する攻撃を迎え撃とうとするように、元少女は武器を振るい。
    「桜餅ぃ――」
     灼滅者達がご当地怪人とすれ違って行く中で、桜花は叩き付けるべくその豊満な肢体へと飛びつこうとし。
    「かふっ」
    「うみゃああっ」
     ワンテンポ早く少女が倒れ伏し、すり抜けて転んだ。戦いは終わったのだ。

    ●終わりと始まり
    「……そんな」
     誰かのエイティーンが解けた時、きっと少女の初恋は終わったのだと思う。
    「あー、何だ。騙した訳じゃねーンだけどな、悪ぃ」
    「ううん、良いんだよ。初恋は実らないモノだって誰か言ってた気がするし……」
     若干の気まずさと割り込んではいけないような空気の中で、二人のやりとりは終わりを向かえ。
    「ええと、ドンマイですよ?」
    「うん、ありがとう」
     美冬のかけた一言へ力ない微笑を作っていちごは礼を口にした。
    「あと、お帰りなさいです。せっかくだから五平餅またたべるですよ」
    「わぁ、ありがとう」
     元気づける為も兼ねてか、美冬が続けた言葉に再び感謝しながら差し出された五平餅受け取ると、一口囓り。
    「おかえり、いちご」
    「ええと、ただいま?」
     桜花の声に首を傾げつつ応じた少女が事情を説明されたのは、その後だった。
    「さっきは、手荒な真似をしてごめん。キミを一度戦って落ち着かせる必要が有ったんだ」
    「そもそも、あのままダークネスになってた可能性もあったっすよ」
    「ダークネス?」
     ジュンや雅を始めとした面々に事情を説明され、話はいちごへの勧誘へと移る。
    「良ければオレ達と一緒に来てくれないか」
    「餅仲間はいつでも歓迎だよっ」
    「えっと……」
     武蔵坂学園のことも語り、自身に向けられた誘いの言葉に少女が迷ったのは、一瞬。
    「助けてくれたんだもん。私……あ、わわわっ」
     一歩進み出た先。地面から顔を出した石ころに躓いたいちごは、歓迎するように両手を広げた桜花向かって倒れ込む。
    「え」
     呆然とした表情の誰かが履いたスカートを咄嗟に掴んで引きづり下ろしながら。
    「にゃあああぁぁぁ?!」
     下半身が涼しくなった桜花が事態へ理解が及び悲鳴をあげるまでに約一秒。
    「え、あ、ごめ」
    「いいから、放し……あ」
     ずり下ろされたスカートを上げようとしゃがみ込んだ桜花がスカートに足を取られて傾いだのはその直後。
    「うみゃぁぁぁぁ?! またぁ?!」
    「ところで残ってる五平餅は貰ってもいいんだよね?」
     再び周囲に響いた悲鳴の中、イルミアが確認したのは周囲の注意を逸らしてくれたのだと思いたい。
    「ぼくも五平餅食べたいなー。これからたべに行こっか」
     亜樹も乗っかる形で希望を口にし。
    「ヘヘッ、これからは隠ねーで堂々と食えばいーさ」
     ヘキサも折り重なってとんでもないことになってる元モッチア二人を見ないように空を仰ぎながら言った。
    「ともあれ、また、五平餅食べれるように、もどってこられてよかったです」
    「好きなものは好き、それでいいじゃねーか。隠そうとするからヤキモチ焼かれンだぜ?」
     明らかにシメに入るヘキサと美冬の後ろで、二人の少女が起きあがれたのはそれから約二分後のことだった。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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