平日の公園でベンチに座り、溜息をつく男が1人。
「はぁ……。外道丸さんがいなくなっちまったら、一体誰が俺を必要としてくれるってんだ……」
男は外道丸を慕っていた羅刹だが、忠義の対象を失った喪失感から抜け出せずにいた。
「ちょっと、なに辛気臭い顔してんのよ!」
「……何だおめぇ?」
男に話しかけたのはツインテールの美少女。戦力補充に各地を回る淫魔の1人だ。
「べ、別に何だっていいでしょ! それより、ヒマなら私が面倒見てあげてもいいわよ!」
「面倒、か……。おめぇ、俺を必要としてくれるのか?」
期待の目にイケると思った淫魔だが、ここからがいけなかった。
「か、勘違いしないでよね! 別にアンタじゃなくても、私達の戦力を立て直せればいいんだからねっ!」
「あ? 誰でもいいから声かけましたってか? ちきしょう、せっかく『俺』を必要としてくれると思ったのに!」
突然キレ出す羅刹に驚き後ずさる淫魔。
「もう誰にも期待しねぇっ! 全勢力に喧嘩売って花咲かせてやる! まずはてめぇからだっ!」
「ちょっ、話が違いますよプロデューサァァァッ!」
世の中には属性というものがある。姉に妹、ロングにショート、メガネにつるぺたアホの子ボクっ娘と種類は様々だが、中でも有名なものにツンデレという属性がある。
「でも、いくら有名だからって万人に効果があるわけじゃないよね」
今回須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が予知したのは、先日のサイキックアブソーバー強奪作戦で減った戦力を補充しようとする淫魔が勧誘に失敗し、相手のダークネスに殺されてしまうというものだ。ツンデレキャラで交渉させるなというツッコミはさておき、まりんは説明を続ける。
「作戦の時は助けてもらったし、放っておくのも何だよね」
それに、自暴自棄となった羅刹をそのままにもしておけない。
「接触するタイミングだけど、淫魔が攻撃を受ける直前になるよ」
羅刹の座るベンチは公園の噴水近くにあるものだ。2人とも目立つ風貌のため、付近を見渡せばすぐに見つけられるだろう。後は距離を開けたり隠れたりして介入のタイミングを伺えばいい。他に気にする必要があるのは人払い程度だ。
淫魔は失敗を察すると、学園の介入をこれ幸いにと逃げ出すので共闘とはならない。淫魔が倒された後に介入を考える者もいるかもしれないが、羅刹は戦闘後すぐにその場を立ち去るため逃げられてしまう。また、淫魔を倒した後も羅刹は大して消耗していないため、淫魔を上手く使えば……ということを考えても効果はない。淫魔に対して出来るのは、逃げる時に声をかける程度だろう。
「羅刹が使うのは、鬼神変と神薙刃に、バトルオーラと同じサイキックだね。ポジションはクラッシャーだよ」
こんな精神状態でもダークネス。淫魔に圧勝する実力者でもあるため注意が必要だ。
「ダークネスを助けに行くってことに色々感じる人もいるかもしれないけど、せっかくの友好関係。維持しておくに越したことはないよね」
灼滅者の宿命として最後は袂を分かつのかもしれないが、少なくとも今はその時ではない。淫魔もまとめて灼滅とかも駄目だからねと注意を受けた灼滅者達は、作戦会議に入るのだった。
参加者 | |
---|---|
蓮華・優希(かなでるもの・d01003) |
香祭・悠花(ファルセット・d01386) |
李白・御理(玩具修理者・d02346) |
天峰・結城(全方位戦術師・d02939) |
神木・璃音(アルキバ・d08970) |
華槻・奏一郎(抱翼・d12820) |
頃呼・ロコ(コロコロニンジャ・d16308) |
端城・うさぎ(リンゲンブルーメ・d24346) |
●外見は教科書通り
秋晴れの昼下がり、休日なら散歩やジョギング、待ち合わせなどで人も多そうな雰囲気だが、平日の公園は外回りのサラリーマンが時々見える程度だ。
「でも、少しは人、いますね」
「予知の通りだな。じゃ、俺達は人払いに行ってくるから、見つけたら連絡頼むぜ」
辺りを見回す端城・うさぎ(リンゲンブルーメ・d24346)の声に答えると、華槻・奏一郎(抱翼・d12820)を始めとした数名が噴水へ繋がる道の封鎖へと向かい、残りの者達は噴水付近の様子を探りに歩き始める。
「しかし、こんな所を外道丸さんの仲間がぶらついているなんて意外ですね」
「ただ、それじゃあ普段は何をしているのかと言われると、それも謎ですけど」
目的地までの世間話。李白・御理(玩具修理者・d02346)の言葉に考えを巡らす香祭・悠花(ファルセット・d01386)だが、ダークネスである以前に推定無職なゴロツキの日常は、女子高生には縁遠いことこの上無い。
「むっ! あれに見えるは目標補足ではないですかー?」
歩くことしばらく。ガタイのいい男が噴水近くのベンチに腰かけているのを頃呼・ロコ(コロコロニンジャ・d16308)が発見するも、いるのはその男1人だ。
「どうやら淫魔はまだのようですね。今の内に人払い組へ連絡を取っておきましょう」
蓮華・優希(かなでるもの・d01003)が携帯を取り出し仲間へとメールを送る。その頃、人払いに出た者達も着々と作業を進めていた。
「ひとまずはこんなもんかなー。そっちはどうです?」
「こちらも滞りなく。これにESPを組み合わせれば万全でしょう。……ん?」
人払いの首尾を訪ねる神木・璃音(アルキバ・d08970)に答えた際、天峰・結城(全方位戦術師・d02939)の携帯がメールの着信を知らせる。
「……ふむ。羅刹が見つかったようですね」
「じゃあ、反対側の華槻先輩と合流して戻るとしますか」
噴水手前で集合した灼滅者達は、それぞれに木立の陰や別のベンチで『たまたま公園に来ていた人』のフリに入る。
10分ほど待っただろうか、男の座るベンチへ近づく少女が現れる。ステージならともかく普段着にはどうかという衣服に身を包む、つり目でツインテール……ツンデレの見本をそのまま召喚したかのような美少女だ。
●内面はまだ勉強中
美少女が男に話しかけると、二言三言と交わした後に男が立ち上がり声を張り上げる。
「もう誰にも期待しねぇっ! 全勢力に喧嘩売って花咲かせてやる! まずはてめぇからだっ!」
「ちょっ、話が違いますよプロデューサァァァッ!」
男が羅刹の本性を剥き出し淫魔へ殴りかかろうとしたその時、小さな影が割り込んだ。
「あいやまたれよ! この戦、ロコたちが預かったでござるなのです!」
シールドを構えたロコが羅刹へ殴りかかると、他の灼滅者達がその周りを取り囲む。
「えっ? 一体何ごとっ!?」
「ご安心ください。我々は味方です」
結城が霧を振り撒き援護すると、次々に仲間が駆け込んでくる。
「助けに、来ました」
「戦争の時はありがとな。ラブリンスターにも伝えておいてくれ」
シールドを叩き付けてうさぎが気を引くと、奏一郎が追撃をかけ羅刹を押し戻す。
「アンタ達は学園の灼滅者ね! それじゃあ、ここはありがたく逃げ……じゃなかった。か、勘違いしないでよっ! アンタ達がどうしてもって言うから逃げるんだからねっ!」
キャラ付けの指示が出されているのか、この状況でも淫魔はしっかりツンデレる。
「早く行った行った。後、女の子は少しくらい素直な方が可愛いと思いますよ?」
「偽りの自分で事を成していては、いずれ命を散らすことにもなる……。もっと素直に生きられることをお勧めします」
淫魔への道を塞ぎながら璃音が斬り付け、その後ろから走り込んだ優希が腕を振るうと、淫魔は『絶対キャラ替えしてもらうんだからっ!』と言い残し走り去って行く。
「ははっ! 灼滅者共の学園ってこたあ外道丸さんをヤった奴らか! こりゃあ幸先いい。てめぇら全員ぶちのめして、死体を学園とやらに送り付けてやるぜっ!」
気合と共に構えを取ると、羅刹はうさぎに拳の雨を降らせる。その間にも淫魔は距離を離しており、羅刹の台詞からももう狙われることは無いだろう。
「前向きになるのはいいですが、死体にされるわけにはいきません」
「それじゃま、きっちりお仕事しましょうか! イッツ、ショータイム♪」
御理が槍を突き出し悠花がステップを踏み始めると、霊犬のコセイが主人のリズムに合わせ斬りかかる。
淫魔は逃げ切りESPも起動し舞台は整った。残るは羅刹を倒すのみ……!
●信じて尽くすはただ1人
先制攻撃を成功させた灼滅者達だが、これだけで優勢に立てるほど相手も甘くは無い。
「風に切り刻まれるのですよー!」
「遅ぇ遅ぇ! 本物の技ってのはこういうのを言うんだよっ!」
ロコの神薙刃を半歩ずれて回避すると、羅刹は同じ技を撃ち返す。技は同種でも、威力も精度もダークネスである羅刹が上手。こちらは狙い違わず命中し、ロコの体を切り刻む。
「戦線を維持しないと……。コセイ、フォローに入って!」
コセイを間に割り込ませ、自身は回復を行う悠花。羅刹は単体への攻撃しかできないが、ポジションの効果も相まって威力が高い。回復役は1人で足りるが、回復できない程の傷を負う前に灼滅できるかが鍵となるだろう。
「牽制します。上手く隙を狙ってください」
「よろこんでー。さぁて鬼さん。手の鳴る方へ行くっすよ……」
死角から懐へ飛び込んできた結城に対し、羅刹は後ろへ跳んでで間合いを取ろうとするも間に合わない。続いて、結城へ意識が向いた隙を狙い、璃音が炎を宿した刃で斬り付ける。
「まだまだぁっ! 見ててください外道丸さんっ! 俺が仇を取りますよっ!」
「死んだ相手に対し、まだ自分を求めてもらおうとするのですね」
「忠義心は立派だが……。誰かに率いてもらわないと、お前さんは何もできないんだな」
挑発しながら畳み掛ける優希と奏一郎だが、羅刹は優希の魔力へと身をさらしながらも、威力の高い奏一郎の攻撃は回避する。
「求めてほしくて何が悪い! 率いてもらって何が悪い! 俺だからと選んでくれた漢を奪った奴らが、偉そうな口を利くんじゃねぇ!」
「それなら選ぶ側になればいい。外道丸のような特別を目指せばいいじゃないですか」
本当に目指されては困るのですけどと心の中で続けると、御理はロッドをフルスイング。そして、それを受け止めようと姿勢が固まったところへ、うさぎは回し蹴りを繰り出した。
「固い……。けど、向こうも痛い、はず」
「痛い? 灼滅者の攻撃なんざ屁でもねぇんだよ!」
叫ぶ羅刹だが、本当に軽い負傷のみというわけではない。その身を焼き続ける炎に加え、見るからに深手という傷もある。
羅刹の意地と灼滅者達の意志、上回った方がこの戦いの勝者となるだろう。
●黄泉路の果てでも共を望む
戦いが始まってから数分後、意地と意志の鍔迫り合いが遂に動きを見せる。
「いい加減に倒れろやぁっ!」
お互いに傷を増やした灼滅者達と羅刹だが、攻撃を受ける機会の多いディフェンダー陣の傷は特に深い。そこへきて、怒りに任せた羅刹の巨腕がうさぎへと迫る。
(「間に合わ、ない……!?」)
このまま拳に打たれるかと覚悟を決めたが、その瞬間は訪れない。身代わりに羅刹の拳を受けたのはコセイ。この一撃で限界を超えたのか、吹き飛ばされるとそのまま消滅する。
「ちっ、犬コロが邪魔すんじゃねぇってんだ!」
「なんですって!」
愛犬を罵倒され声を荒げると、悠花は足元から伸びた影で羅刹を縛り上げる。
「この程度、すぐに振りほどいてやる!」
「その『すぐ』が過ぎるまでの時があれば、じゅーぶんなのでござるですよ!」
「ああ、次はちゃんと味わってもらうよ」
ロコと奏一郎が一度はかわされた攻撃を繰り出すと、今度はどちらも命中させる。
「ほどくと言うなら、しっかり結び直させてもらいます」
「では、ボクは強化を外すとしましょう」
結城のナイフが羅刹を刻むと、そこから新たな戒めや炎が広がり、次に振るわれた優希の剣戟が羅刹の強化を打ち消していく。
「くそっ! このままじゃ……このままじゃ終われねぇっ!」
「申し訳ありませんが、ここで終わりです」
「これでさようなら、なの」
焦り叫び声を上げる羅刹へ、御理の乱れ打ちとうさぎの炎を纏う蹴りが撃ち込まれると、続けて刀を収めた璃音が突撃する。
「じゃあな。向こうで外道丸に会えるよう祈って逝きな」
抜き放たれた一閃は、羅刹の腰を切り裂いた。
「な、情けなねぇなぁ……。これじゃあ、あの世でどやされちまう……ぜ……」
羅刹は天を仰ぎながら倒れると、体がゆっくり塵となり消えていく。灼滅者達の意志が、羅刹の意地を上回ったのだ。
「うむ、此度の戦いもしょぎょーむじょーでござった……」
「それ、意味分かって使ってる?」
羅刹が倒れていた地面を見つめ呟くロコに御理が突っ込む。少なくとも小学4年生が習う内容では無い。
「コセイが戻るまで後9分……」
「戻ったらお礼言いたい、です」
こちらではサーヴァントが戻る時間を気にし、悠花とうさぎが時計を見つめている。
「それでは、人払いの細工を片付けてきます」
「あ、手伝うっすよ」
「となると俺はまた1人?」
準備と同様に結城と璃音が組むと、反対側へ向かうのは奏一郎だけとなる。
「ボクが手伝おう。後は、残りの4人にもお願いしたいところだね」
優希の提案により、二手に分かれ後始末を終えた灼滅者達は公園を後にする。人影のない公園を、秋の日差しが照らしていた。
作者:チョコミント |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年11月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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