ハートのエース、心を一つに只今参上!

     ホビーショップ前で小学生くらいの子供達が言い争っている。どうやら、TCGで妹が引いたレアカードに勝負を申込み、勝利後アンティだったと強引にカードを取り上げた相手へ、兄が抗議しているようだ。
    「勝ってから言うなんて卑怯だ! それに、アンティ禁止って書いてあるぞ!」
    「店外で勝負したのさ。それに、妹さんが嘘をついていない証拠は?」
    「何だと!」
     直接妹を悪く言われ、相手の胸倉を掴む兄。
    「ぼ、暴力はダメだよ……」
    「男の勝負ってヤツ? 僕は構わないよ」
     思わず手が出そうな兄を妹が抑えるが、以外にも相手の少年は乗り気だ。
    「上等! いいか、お前はここで待ってるんだぞ」
    「だ、だけど喧嘩は……」
    「大丈夫、軽く実力差を示してやるだけさ。安心しろ、兄ちゃんこれでも主将だぞ?」
     でもと引き留める妹の頭を撫で、兄は店の裏へと回る。が、結果は酷いものだった。
    「お、大人のボディーガードとか反則だろ……」
    「お金の正しい使い方さ。で、どうするのかな?」
     相手の少年の家は、護衛を雇えるほどに裕福らしい。
    「何の! やってみるまで分からないさ!」
     果敢にも突撃する兄。護衛はそれを受け……そのまま吹き飛ばされて事切れる。
    「……は?」
    「へっ、大したことないな! 正義の心を一つに束ね、古の武にて悪を討つ。『ハートのエース』とは俺の事だ! さあ、妹のカードを返しやがれっ!」
     
     描写が終わり、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は決めポーズから姿勢を正し説明を続ける。
    「という流れだが、兄が護衛にボコボコにされた後ならともかく、この段階で闇落ちするのはどうも不自然だ……っと、兄妹の情報がまだだったな」
     兄の古武・心一(こたけ・しんいち)は空手スクールに通う小学6年生で、次の大会では主将を任されている。妹の心蕗(こころ)は大人しめの小学4年生で、TCG始めインドア系趣味を持つ。近所や学校では仲の良い兄妹だと知られている。
    「心一は完全なダークネスになり切っておらず、護衛を吹き飛ばしたのも火事場の馬鹿力か何かと考えている。今回の任務は、可能なら心一を救出、無理なら灼滅してほしい」
     心一への接触は、彼が突撃する時に割り込んでほしい。それより前の介入は、邪魔が入ったとお互い帰り闇落ちが後日にずれ、後では護衛が犠牲となる。無事に割り込めれば強敵の灼滅者達のみ狙うため、相手の少年や護衛をかばう必要は無い。
    「戦闘後はこの戦いにビビってカードを置いて逃げ出す。教育的指導の暇は無いだろうな」
     肝心の心一の説得だが、妹思いの点を突いたり、武道を心得る者ならばという方向が有効だ。心蕗を連れてきて一緒に説得すればほぼ確実に成功するが、心蕗自身へ何と説明するか考える手間は増える。
    「こういう趣味の子供だし、お兄ちゃんが悪い何かに乗っ取られたとかファンタジーな内容でも通じるのが救いだな」
     決め台詞を考えると、心一もファンタジー適正は高そうだ。
    「戦闘面だが、パラライズ、ドレイン付きの格闘攻撃2種に、抗雷撃とオーラキャノン。後は構えを取り回復しながら攻撃精度を上げてくる」
     キャスターで回避力も高いが、説得成功でポジション効果を相殺する程度に弱体化する。
    「後は今回の事件、既にいくつか話が出ている通り、ケツァールマスクだのシン・ライリーだのが関係している可能性がある」
     特に心一から情報を得られるわけではないが、何か気付いたことがあれば事件後にでも教えてほしいと締めくくり、ヤマトは教室を後にした。


    参加者
    龍宮・神奈(殺戮龍姫・d00101)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)
    由井・京夜(道化の笑顔・d01650)
    神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)
    リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)
    水澄・海琴(かっとおふすたいる・d11791)
    七篠・零(旅人・d23315)

    ■リプレイ

    ●共に兄を助けよう!
     灼滅者達が目的の通りに着いた頃、ホビーショップ前で小学生くらいの子供達が言い争いを始めるのが目に入ってきた。
    「お、いたいた。あれだよな?」
    「そうみたいだな。なかなかに可愛い子達じゃないか」
    「おっとぉ、灼滅者の前に『おまわりさんここです』が必要かなー?」
     いち早く気付いた七篠・零(旅人・d23315)が足を止め仲間を促すと、怪しく目を輝かせた神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)の言葉に水澄・海琴(かっとおふすたいる・d11791)が突っ込みを入れる。
    「そろそろ時間ね。小話はこれくらいにしておきましょうか」
    「じゃ、俺達は近くで待機してますんで」
    「心蕗さんの説得、よろしくお願いしますね」
     淡々と龍宮・神奈(殺戮龍姫・d00101)が場を締めると、先に現場付近で待機する沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)やアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)を始めとした者達は、心蕗を説得する2人を残し路地の近くなどに身を潜める。
     やがて、心一と相手の少年が店の前を離れると、その背中を心配そうに見つめる心蕗へと近付き、由井・京夜(道化の笑顔・d01650)が声をかける。
    「こんにちは。心蕗ちゃん……だよね?」
    「え……? そ、そうだけど……。お兄ちゃん達、だれ?」
     話しかけてきた見知らぬ人物が、自分の名前を知っている状況に疑問を抱く心蕗に対し、リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)は目線を合わせ自分の名前を明かすと、優しく語りかける。
    「ボク達はお兄さんを助けに来たんだ。実はお兄さんは悪い力に操られていて、放っておくと大変なことになっちゃうんだよ」
    「お兄ちゃんが大変……。も、もしかして死んじゃう、とか……?」
     兄と同じで兄妹愛が強いことを差し引いても、あまりの信じ込みやすさに誘拐などが心配な反応だが、灼滅者にとっては都合がいい。
    「その逆……。このままだとお兄さんは人を死なせてしまう。それを防ぐためには君の力が必要なんだ。手伝ってくれないかな?」
    「わ、わたしは何をしたらいいの!?」
    「お兄さんに話しかけてあげて。悪い力に負けないで……大好きなお兄さんに戻ってって」
     真剣な眼差しを心蕗に向ける2人。語りかけた言葉は完全に真実だとは言えないないが、心一を救いたい気持ちは本物だ。
    「分かりました……。わたし、頑張ります!」
     そして、心蕗の気持ちももちろん本物だ。

    ●お兄ちゃんを取り戻せ!
     心蕗の説得が成功した頃、店の裏では予知通りの展開を他の仲間が見守っていた。
    「で、どうするのかな?」
    「何の! やってみるまで分からないさ!」
     挑発と護衛にも怯まず突撃する心一。
    (「今ね……」)
     割り込むならこの瞬間しかない。建物の屋上で待機していた神奈は飛び降り割り込むと、心一の一撃を受ける。これを見て相手の少年と護衛が逃げ出せばと、わざと派手に吹き飛ぶ演出入りだ。
    「くっ……。構うかっ、もう一度だ!」
    「そうは問屋が卸さないぜ!」
     再び身構える心一の前に、海琴がビハインドの助手子と共に飛び出し、他の仲間も護衛を狙わせまいと間に立ち並ぶ。
    「護衛がぞろぞろと……」
    「いいえ、私達はその子の護衛じゃないわ」
     横に跳び回り込む心一の前に、華夜が霊犬の神命を割り込ませ進路を塞ぐ。
    「なら何者だ? 邪魔するなら力ずくで……」
    「まあ落着きなって。俺の名は七篠零、君は?」
     回復の光を神奈へ向けながら、零は会話で心一の気を引く。
    「俺は古武……いや、『力』が宿った今、名乗るは正義のヒーロー『ハートのエース』だ! そこを通してもらうぜ!」
     心一が突き出した気の塊が、零に直撃する。
    「お兄ちゃん……。今の、何……?」
     そこへ、説得役の2人に連れられた心蕗が現れた。
    「心蕗……。待ちきれなかったのか? 安心しろ、カードはすぐに取り返してやるからな」
    「でも喧嘩はしないって! 武道家はむやみに暴力を振るわないんじゃなかったの……?」
    「喧嘩……? いや、こんな卑怯な奴らにこそ『力』は振るわれるべきなんだ!」
     額に手をやり、一瞬迷う素振りを見せる心一。やはり心蕗の言葉は効果が高いようだ。
    「それはあなた本来の力じゃない。魂に眠るもう一人のあなた……ダークネスというものの力なの。このままだと、もう一人のあなたに取って代わられるわ」
    「悪い心に負けないで! お兄ちゃんなら絶対に勝てるよ!」
    「俺が乗っ取られる……? ぐっ……『力』を振るい強くならないと……! いや、心蕗に言ったじゃないか、喧嘩しないって……」
     アリスと心蕗の言葉に揺らぎ、心一は頭を抱え後ずさる。
    「大好きなお兄ちゃん……。いつも遊んでくれて、不安な時優しく頭を撫でてくれる……。だから今度はわたしが助ける番! 戻ってきて、お兄ちゃん!」
    「がぁぁぁぁぁぁっ!」
     叫び声に灼滅者達は一斉に身構えるが、心一は拳を震えさせるのみで向かってこない。
    「心蕗との約束は守りたいけど……。『力』が止められない……!」
    「だからボク達が来たんだ。あなたはこのまま、悪い力に流されないよう頑張って!」
    「君は必ず、僕達が助け出します」
     心一を励ましつつ、リリアナと京夜はそれぞれの武器を構える。
    「あ、あんまり痛い事は……」
    「お兄ちゃんを助けるには、悪い奴の力を出し切らせて倒すしかないっす。でも大丈夫。10分もすれば立てるようになるっすから」
     共に後ろへ下がり、虎次郎は不安げな心蕗を落ち着かせようと言葉をかける。
     さあ、偽りの正義の味方を、優しいお兄ちゃんに戻すのだ!

    ●偽りの心を打ち砕け!
     先手を取ったのは心一。身を翻し華夜へ電光回し蹴りを叩き込もうとするが、神命が主人の身代わりとなると、それを自身で回復する。
    「ごめんっ……! 俺の心がもっと強ければ……」
    「本当の『強い』ってのは、自分が守りたい人を最後まで守り抜く人のことよ。取り込まれなかった心一君は十分強い。後は、私達が全力で君を闇から救うわ!」
     一喝と共に叩き付けられたハンマーから衝撃波が飛び、着地直後の心一の足元をすくう。
    「だから、一度あなたを倒す。無事に妹さんと帰れるようにね」
    「ああ、君のような子をダークネスへ堕とすわけにはいかない」
     アリスの魔法弾に援護された京夜が、変化させた腕による一撃を繰り出すと、心一は雷を纏う拳で受け止める。
    「やるね、キミも。じゃあボクもいくよっ!」
    「一緒に突っ込むっすよ、流星号!」
     次にリリアナがバベルブレイカーを構え飛び込むと、再び回復をかける虎次郎に変わり、ライドキャリバーが後を追い突撃する。
    「君は力を制御出来るようにならなきゃいけない。名に恥じない男になるんだ!」
    「使い方を誤れば、その力は大切な者を傷つける刃になる。……私がそうだったから、ね。だから、君にはそうなって欲しくないの」
     零の援護を受けた神奈の乱舞が心一を削ると、助手子へ連携攻撃を命じた海琴が、自分に支援をかけつつ問いかける。
    「少年よ! 正義を名乗ったからには、その『力』の意味、そして真と理を! 何のため、誰のためのものなのかお聞かせ願おうか!」
    「小難しい言葉はよく分からないけど……。心蕗が笑ってくれるため。それは絶対だ!」
     問いに答え身構えると、心一の傷が癒えていく。心なしか動きもよくなったようだ。
    「傷が……。なあ、俺を倒さなきゃいけないんだろ? 遠慮なく全力で来てくれっ!」
     言われるまでもない。その心意気に応えるべく、灼滅者達は攻撃を続けていく。

    ●覚醒、その名はやはりハートのエース!?
     戦闘中も心一へ語りかけ、彼をダークネスから救うべく奮闘する灼滅者達。
    「はぁ……はぁ……。結構痛いな……。でも、もう少しって感じだ。頑張ってくれ!」
     対して心一も、自分の体が何の攻撃をしそうなのかや残りの体力などを灼滅者達に伝え、少しでも戦闘が有利に運ぶよう彼なりの戦いをしてくれている。
    「わかったわ。皆、ここで一気に決めるわよ!」
    「好機、逃しはしないわ」
    「スリーカウント狙っていくよ!」
     オーラを撃ち出すアリスに続き、神奈とリリアナが駆ける。しかし、心一は神奈の斧には叩き斬られるも、リリアナの拳を紙一重で回避する。
    「外したっ!?」
    「なら、これで動きを封じる!」
    「こっちは命中上げていくぜ!」
     仲間の攻撃に備えようと、京夜は心一に鋼糸を巻き付け、零は更に支援を重ねる。
    「力に溺れずよく頑張ったっす! これで最後っすよ!」
    「体の張りっぷり、グッドだったよ!」
    「行きなさい、神命!」
     流星号が機銃で援護する中、助手子の一撃が心一を叩き上げると、神命の斬魔刀が一閃。更に連携は続き、虎次郎と海琴の蹴りが落ちてくる心一を横にぶっ飛ばす。待ち構えるは、ハンマーを握り締める華夜。
    「激しいの、いくわよ……」
     点火され唸りを上げるハンマーが振り抜かれ、心一を地面へと叩き付けた……。

     そして10分後、心一が気付くと灼滅者達は本当の事情を説明する。そう、彼は心に潜むダークネスを抑え込んだのだ。
    「2人共、よく頑張ったよ!」
    「無事に終わったわね。心一君、大丈夫?」
     リリアナが兄妹を賞賛し、アリスが心一の体を気遣う。
    「大丈夫だ。『お兄ちゃん』ならこの程度できないとな。つつっ……」
    「痛むのお兄ちゃん? お医者さん行かなくていい?」
     心蕗にも説明しないわけにいかなかったが、それは仕方がないだろう。なお、カードを奪った少年は、戦いの最中にガタガタ震えていたかと思うと、心一が気絶した後にカードを置いて逃げ出した。カードには道着を纏う格闘家の姿が描かれている。
    「お、イメージと違うね」
    「まあ、このカードは渡せないよね」
    「ここでも妹を守ってるってことかしら?」
     天使や人魚などを予想していた海琴が感想を述べ、隣で京夜や神奈が頷いている。
    「健気ね……。いいわぁ……」
    「手ぇ出しちゃ駄目っすよ。次堕ちられたら勝てるかどうか……」
     熱視線を注ぐ華夜を虎次郎がたしなめる。万一の場合本当に堕ちかねないところが怖い。
    「で、灼滅者だっけ? それが集まってる学校がある、と」
    「ああ、灼滅者として身を寄せる場所が必要なら、武蔵坂学園へ来ると良いよ」
    「お兄ちゃん、転校するの?」
     零が学園の話をすると心一は興味を示す。が、心蕗は学校が分かれることが不安らしい。
    「……中学からでいいか? 元々中学からは同じ学校に通えて1年。それまでは、さ……」
     今ひと時、兄妹としての時を2人に……。

    作者:チョコミント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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