雨と傘とセーラー服

    作者:聖山葵

    「ちょっと待っていて下さいね、タオルと着替えを取って来ますので」
    「わ、悪い」
     少女は自宅に連れ込んだ濡れ鼠の同級生に告げると少年の声に送り出され玄関を後にし、自分の部屋へと戻った。
    「この分では、当分止みそうにありませんわね」
     窓の外はまだ雨が降り続いている。
    「あの方は着て下さるかしら?」
     クローゼットから一着の『着替え』を取り出すと、押し抱くようにして少女は呟いた。
    「いけない、濡れてるのに待たせてはいけませんね」
     我に返って自室を出た少女は、玄関に向かう途中、用意した着替えは居間に置いて、風呂場を経由しタオルだけを持って少年の元へと戻る。
    「お待たせしました、タオルです」
    「おっ、サンキュ。本当に悪いな、傘忘れちまって……こんなに降るとか想像して無かったわ、ホント助かった」
    「いえ、お役に立てたならわたくしは……その」
     良い雰囲気だった、まるで恋愛モノのワンシーンのように。
    「着替えはこちらに」
    「お、おう女の子の家にあがるとかちょっと緊ちょ……は?」
     そう、少女が少年を居間へと招き入れるまでは。
    「な、なぁ。これって……」
    「セーラー服ですわ」
     さび付いたかのようにぎこちない動作で用意された着替えを指さす少年に少女は即答すると、恥ずかしそうにしながら自分の身体をかき抱く。
    「わ、わたくし……セーラー服を着た方しか愛せなくて」
     とんでもないカミングアウトであった。
    「その、このセーラー服を着てわたくしと……してください」
    「変態だーっ」
     少年が逃げ出したのは、この数秒後。
    「そんな……ようやく、愛せる方が見つかったと思ったのに」
     少女が絶望から人ならざるモノに堕ちたのは、更に数分後のことだった。
     
    「趣向というのは人それぞれだと私は思う」
     自身も実は子供が好きだったりする座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は集まった君達を確認するなり、説明を始めた。
    「一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が起ころうとしている」
     と。
    「ただ、通常ならば闇堕ちした時点で人間の意識は消えてしまうはずなのだが、今回のケースでは意識を残したまま一時的に持ちこたえるようなのだよ」
     つまり、ダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない状態になるということらしい。
    「もっとも、それも一時的なモノ。最終的には完全なダークネスになってしまうと思われる」
     もし問題の一般人が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちからの救出を、そうでない時は完全なダークネスに鳴ってしまう前に灼滅を。それがはるひからの依頼だった。
    「少女の名は、御笠・セ-ラ(みかさ・せ-ら)。ちょっと特殊な趣向もちの美少女だな」
     美形でスタイルも良い高校一年生の彼女がそんな性癖を持つに至ったのにも事情はあるらしい。
    「野良犬に襲われたところ、セーラー服を着た人物に助けて貰ったと言うきっかけがあったようでな」
     刷り込みというか、何というか。
    「闇堕ちした一般人と接触し人の意識に呼びかけることが出来れば弱体化させることが出来るのは知っているかも知れないが、今回の場合説得だけなら簡単だ」
     男性がセーラー服を着て愛の告白をすればいい。
    「セーラが応じた場合、責任を取らないといけなくなるかも知れないが、先方が受け入れた後に口づけでもしてやればさらに効果は高くなる」
     闇堕ちした者を救うには戦ってKOする必要があるので、戦闘は避けられないがキスまで至っていればあっさりKO出来るだろうともはるひは言う。
    「君達がセーラに接触出来るのは、少年がセーラの家を飛び出した後だ」
     少年が飛び出していった時ドアを開けっ放しにした玄関から侵入し、居間に向かえばセーラとは接触出来るだろう。
    「戦闘になれば、セーラはサウンドソルジャーのサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
     戦場は当然御笠家の居間。
    「幸いにもセーラの両親は仕事で外出中だ、人避けの必要はない。ついでにセーラー服っぽいモノをよく着ている少年を呼んでおいた」
    「え、何その呼び出し理由?!」
     いつの間にか教室にいた鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)が引きつった顔をするが、和馬へのこういう扱いはいつものことである。
    「少年に男の役を頼むのは気が引けるのだがね。正体がばれたら一悶着ある可能性も否めない」
    「正体って何ーっ! オイラ男だから! 男の子だから」
    「はっーはっはっはは」
     いつものようにとある少年を女の子扱いしてがっくんがっくん揺さぶられつつ笑うエクスブレインは――。
    「ともあれ、救える者なら救いたいと私は思うのだよ。セーラの件宜しくお願いする」
     真剣な顔を作って君達へ頭を下げたのだった。


    参加者
    月見里・都々(どんどん・d01729)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    山田・菜々(元中学生ストリートファイター・d12340)
    十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)
    周防・天嶺(狂飆・d24702)
    西桜院・飛鳥(男は娘なのよ・d27444)
    唯月・彼方(烏天狗始めました・d28605)
    汐月・雷華(孤独な魔方使い・d29834)

    ■リプレイ

    ●ある雨の日に
    「ぷに夫かわいいよー」
    「なのなの~」
     雨天だというのに、セーラ服を着せたナノナノのぷに夫を見つめる月見里・都々(どんどん・d01729)は上機嫌だった。
    「うわぁ……。なんだかものすごくキッツい依頼みたいだね」
     その様子にと言う訳ではないのだろう、ただ一同の目的をと救うべき少女が闇堕ちする経緯を知れば応援の灼滅者がそんなコメントを口にするのも無理からぬこと。
    「人の、趣味に、興味は、ないけど、変わってるね」
    「ああ。おれは人狼だからよく分からないが、人間には本当にいろんな奴がいるのだな」
     十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)の言葉へ同意しつつこの世の不思議をしみじみと感じた唯月・彼方(烏天狗始めました・d28605)は、この学園に来てからというもの新しい発見ばかりだと続けた。今回の件に関しては、発見して良かったのか疑問が残るが。
    「好きな人の、セーラー服、姿……うん、似合ってるかも」
    「フェチズムっていうんですか、ああいうの……」
     呟いた深月紅を横目に思わず西桜院・飛鳥(男は娘なのよ・d27444)が口にした単語へ、汐月・雷華(孤独な魔方使い・d29834)は思う。
    「自分の好きなものを誇るのは難しいわよね、理解はなかなかされないし」
     と。ただし、同時に自分の好きなものを誇れるのは凄いことだとも思った。趣味は人それぞれなのだから。
    「……まあ、何にしてもだ。人の性癖に口を出すものではないが。かと言って、このまま見過ごす訳にもいかんな」
     差した傘を叩く雨音を聞きながら、一部の仲間に顔を背けて周防・天嶺(狂飆・d24702)は言う。
    「そうっすね。さっさと救出するっすよ」
     セーラー服を着た仲間達のことに言及されたら、そちらをちらりと見て何とも言えない表情で「説得には必要だからな」と口にしたかも知れないが、実際返ってきたのは山田・菜々(元中学生ストリートファイター・d12340)の同意と、仲間達を促すような言葉のみ。
    (「セーラー服の男性が好きな婬魔なんて放っておいたら、おいらの恋人が襲われる可能性があるっすからね」)
     もっとも、菜々もいくらか胸中の言葉を省略していた訳だが、思い起こす女装した恋人の姿を含めて明かさぬが花と言ったところだったのだろう。
    「にゃぁ」
    (「……うん、頑張って助けよう……!!」)
     内情は知らず、ただ救うべき少女のことをいくらか理解した飛鳥は猫に変じた菜々へ頷きで応じ。
    「変態だーっ」
     屋外まで響く叫び声が灼滅者達の耳に届いたのは、この直後だった。
    「リベレイション!」
     叫び声に合わせる形で傘を持って跳ねた都々は封印を解くと、「囮は皆に任せた」とだけ告げて物陰に潜み。
    「うわぁぁぁぁぁっ」
     叫びながら雨の中を駆けて行く少年とすれ違う。
    「では、行きますか」
     ここまで沈黙を保ってきた紅羽・流希(挑戦者・d10975)は応援に駆けつけた後輩達を見ないよう前を見たまま、口を開くとちらりと同性の仲間達へ目をやった。
    (「まぁ、私が選ばれる可能性はないでしょうからねぇ……」)
    「これは少し動き辛いな」
     諦めているのか、ただの客観的な判断か。無言のままに開けっ放しのドアをくぐった背後でレインコートを脱ぐ彼方が呟いた。

    ●訪問
    「お邪魔するよ」
     玄関口で天嶺がかけた声に反応はなかった。無理もない、事前情報通りなら少年に逃げられ、絶望に打ちひしがれている筈なのだから。
    「すまない、雨宿りをさせて貰えるだろうか?」
    「え? すみ」
     ただ、直接姿を見せて告げれば別だった。反射的に顔を上げ、少女のおそらく「すみませんが」とでも続けようとしたが声途絶える。
    「夢……かしら?」
     大きく目を見開いた瞳に映るのは、少女ことセーラからすれば信じられない光景であった。最初に目へ飛び込んできた頭に狼の耳を生やしたセーラー服の少年だけでも驚きだというのに、見知らぬ訪問者の半数以上がセーラー服姿だったのだのだから、現実かどうかを疑ったとしても無理はない。
    「ええと、その……雨宿り、でしたわね? 今タオルを――」
     だから、闇堕ちしかけていることも踏まえれば数秒で我に返って即座に常識的な対応をとろうとしたのはまさに驚異的だったとも言えよう。
    「待って下さい」
     ただ、タオルをとりに去ろうとしたセーラの腕は飛鳥の伸ばした腕に掴まれる。
    「え」
    「あの……貴女のセーラー愛に惹かれました……好きです!」
     告白は、突然だった。
    (「告白から始まる恋も……あり……だよね?」)
     お付き合いとかまだよくわからないやと、躊躇いかけた己を「いやだめだ!」と否定し、真剣に告白しなきゃ彼女を救えないと自分に言い聞かせようやく実行に移した飛鳥からすれば、突然どころか葛藤の末の告白だったのだが。
    「わ、わたくし……わたくしを?」
     想定外の事態に少女は狼狽え、そこへ更に進み出た者が居る、流希だ。
    「貴方は、少し急ぎすぎたのですよ……」
    「えっ」
    「誰でも、変わるのには時間がかかります……。ただ、同じような考えの人なら、あなたを受け入れられると思いますよ……。丁度、私のように、ね……」
     三度目となる驚きの声を上げた少女の前で、流希は言葉を続け、更に問う。
    「私の隣で一緒にいてくれませんか……? あなたがよろしければ、ですが……」
    「わ、わたくしは……その、え、ええっと」
     一人の少年に逃げられ、絶望の淵に立ち闇堕ちしかけていた所で出会った二人の求愛者。
    「流希兄ちゃん選んで貰えるかな?」
    「……彼女にしたいならもっとガツンと行きやがれ。この根性なしが。見てるこっちが面白くないんだよ。自己主張していけ! たまにはねじ伏せて見やがれ!」
    「にゃー」
     許容量を超えた事態にあたふたし始めた少女を含む告白者と被告白者を眺めるのは、支援に足を運んだ灼滅者の頭で居間の入り口に出来たトーテムポールと、未だ猫の姿のままでその光景を楽しんでいる菜々。
    「えーと、オイラ、今回は見てるだけで良さそうだね」
     見事にほぼ空気の鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)。
    「ど、どうすれば……」
     ただ、闇堕ちしかけた少女にとって、外野のことを気に出来る状況ではない。二者からの告白とは、選択を強いられているに等しい。
    「セーラー服か。おれは膝下5cmくらいがいいと思う」
     だから、人生発の経験に尚もまごつく少女へと近寄り、彼方が口を開いたのは、話題変更という形でセーラへの助け船を出したようにも見えた。実際には、真顔でボケる特性が発揮されたというか、仲間達が接触したのを見て、自分も動こうとした結果なのだろうが。
    「ひ、膝下5cmですか。そうですわね、わたくしは――」
    「それから、飛鳥が頑張ると言っているから、おれは飛鳥を応援する」
    「は?」
     故に、そうとは知らずに話題変更に縋った少女は、前触れもなく話題を引き戻されて固まった。
    「ちょっと待って下さい! でしたら僕達は紅羽部長のサポートです。紅羽部長を応援しますよ」
     だが、告白されたセーラを置き去りにしたまま、呼応するように入り口のトーテムポールが発言する。
    「私も……サポートとして参加させて頂いた立場上、紅羽先輩を応援させて頂きたいと」
    「え、え、ええっ?!」
     もう何だか支援の灼滅者と一人の灼滅者による応援者同士の戦いになってしまいそうな混沌の到来であった。
    「何だか妙な流れになってきたわね」
    「……だね」
    「なの~」
     雷華の呟きへ都々は相づちを打ち、一声鳴いた傍らのぷに夫共々傍観者へ戻る。
    (「でも、セーラー服姿の女装男子が好きってマニアックすぎるよ」)
     内心では「どうしてこうなったの」とか「てか、助けた奴誰なの。すげぇ気になる」とか考えながら。

    ●重要なのはどちらと付き合うか。
    「少々特殊な趣味という自覚はあるのですよね。それでしたら、いきなり見せてしまうのは問題です」
    「は、はぁ……」
    「趣味が合わないというのは、良くあることです。好きな相手と趣味が合わないのは悲しいかもしれませんが、押し付けるのは良く無いですよ。ゆっくりと話し合って理解してもらうか、趣味が合う人を探すか――」
     気づけば、説得に回っていたのは、流希の支援者達だった。
    「これは、流石に予想外というか……」
     支援されるはずのがあちゃあ、とでも言わんがばかりに顔を掌で覆ってしまっていたりもするのだが、一応説得には効果があったのかセーラから漂う威圧感は大きく減少していた。
    「その嗜好のせいで難儀しているようだが、絶望するにはまだ早い。此処にセーラー服を着てくれる男もいるだろう」
     無論、応援だけでなく天嶺もまた説得の輪に加わり、主に告白した約二名を示していたこともそれなりに大きい。
    「あとは、あの子が告白のどちらかを受け入れれば良いのよね? まったく……」
     表面上は無愛想だが、実のところは、それなりに少女のことをきにかけてでも居たのか、上手くいきそうだと雷華は密かに胸をなで下ろし。
    「私達、見守る、しかない」
     こくこく頷きつつ、深月紅もスレイヤーカードを手に成り行きを見守る。
    「日本で女子の制服になったのは、海軍の払い下げの制服を使用したからだよ。男子が詰襟なのも、陸軍の払い下げだったからね。だから、セーラー服を着た男子が好きなのはおかしく無いよ。だけどね……」
    「確かにセーラの趣向は変わっているのかもしれない。だが、見ろ。ここにも変わり者がこんなに集まってしまった。お前が絶望するにはまだ早すぎる」
     そして「絶望する前に決めなくてはいけないことがあるはずだ」とも彼方は言った。要するに、飛鳥と流希のどちらを選ぶかという最終決定である。
    「わ、わたくし……」
     セーラの瞳が、二人の男性の前で揺れた。
    「あ、あの……ぼ、ぼく」
     飛鳥はもう一押しすべく、足を前に踏み出し。
    「うあっ」
    「え?」
     逃げ出した少年に着せるべくセーラが用意していたセーラー服を踏んづけてバランスを崩すと前のめりに倒れ込む。こう、思いっきり少女を押し倒す様な形で。
    「きゃぁぁぁぁっ」
    「わ、わぁ、ごめんなさ……い?」
     飛鳥からすれば、女性と接す時に良く起こるお約束だった、だから何処かで気にしていたというのに、左の掌からは柔らかさと弾力を感じて、恐る恐るそちらへと目をやった。
    「あ」
     豊かな何かが、鷲掴みにされる事件が起きていた。
    「嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ」
     再び居間へと響く乙女の悲鳴。
    「紅羽部長!」
    「あ、だ、大丈夫ですか?」
     結果的に言うなら、飛鳥の起こしたアクシデントと部員に促され、声をかけたことが決定打になった。
    「あ……は、はい。あ、あの先程のお話しですけれど、わたくしで良いなら……その」
     差し出される手をとり、飛鳥が上から退いて身を起こした少女は、流希を受け入れる。
    「んっ」
     唇と唇が重なり、セーラの身体からがくんと力が抜けて。
    「っ、騙されるんじゃないよっセーラっ!」
     直後に少女が豹変した。大幅に力を刮ぎ落とされる格好になったダークネスが焦って表に出てきたのだろう。
    「どうやらお仕事開始のようっすね、いやぁご馳走様っす」
     菜々は猫から人の姿に戻り。
    「四肢を、掲げて、息、絶え、眠れ」
    「邪魔しないで」
     深月紅と雷華もスレイヤーカードの封印を解く。
    「いいかい、セーラー服を好んで着る男なんて居」
    「セーラー服なら男子の奴だったらいそうだけどね、いやうち学校なら普通に女装でいるか。とりあえず、うちの学校おいでよ」
     人間人格に言い聞かせようとする言葉を遮るようにして都々はセーラを勧誘しつつ室内の狭い空間を上手く使って、人の壁の一部となるように移動する。
    「うぐっ、も、もう少しの所だったって言うのに」
     セーラの内のダークネスから見れば、力が半減している上応援の灼滅者まで入れれば敵は過剰とも言えるほどの戦力。もう戦う前から勝機はほぼゼロだ。
    「さてと、しっかりと救うとするかな」
     顔を歪ませ、恨めしげにこちらを見てくる少女の前で殲術道具を手にした流希は水兵の方のセーラ服を身に纏い、苦笑する。
    「うぐ……」
     思わず少女が後ずさったのは、灼滅者達の布陣にか、自分の力を削いでくれた男の変わり様を見てか。
    「しかし、何だな。告白した人間と一戦交えることになるとはな。灼滅者ってな因果な存在だぜ。まったく、よ」
     納刀した堀川国広の鍔を慣らし、抜刀の構えを流希がとれば。
    「服装を見て愛してるとか言ってるうちはまだまだっすね。んじゃ、こっちも行くっすよ?」
     エアシューズを駆って菜々が距離を詰め。
    「さっさと灼滅されなさい」
     瞳と髪の色を逆転させた雷華が半獣化した腕を振り下ろす。
    「ちょ、ちょっ」
    「問答、無用だ」
     残虐映像というか、完全に一方的だった。反撃を許すような隙さえない。殺到する攻撃に顔を引きつらせてセーラのあげた声は深月紅左目から緋色の涙を流す深月紅へ破邪の白光を放つ斬撃で一刀両断されて。
    「世の中案外捨てたもんじゃない。君の嗜好に合う人間もいる筈だ。諦めるな」
     生命維持用の薬物をを片手に天嶺も少女へ呼びかけると、攻撃の輪に加り。
    「ぎゃぁぁぁぁぁっ」
     結果、ダークネスとしての悲鳴と灼滅者達の勝利だけが残された。

    ●きっと明日は
    「学園に来るっすか? セーラー服を着てる男子もいっぱいいるっすよ」
     一応、菜々も誘いはしたのだ。
    「うん。学園へ、来ない?」
     深月紅も。だが、答えなどもう聞く必要だって無かったと思う。
    「とりあえず、手当の必要そうな怪我はなさそうね。あれだけやっておいて何だけど」
     ぼそりと呟いた雷華は、肩をすくめた。助け出した少女の負傷状態について深月紅と共に確かめてみたが、何の問題もなかったのだ。
    「じゃ、後はあの二人次第っすか?」
    「そ、そうなんじゃないの。菜々がそう思うなら」
     相変わらずニヤニヤしつつ誕生したカップルを見つめていた菜々は返ってきた問いにそっすかと漏らすと回答者からカップルの方へと視線を戻す。
    「服装に関係なく好きって言えるようになれるといいっすね」
     続けた言葉は、きっと向けられた人間には聞こえない。
    「……ええと、改めでですが武蔵坂学園に来ては頂けないでしょうかねぇ?」
     ちょうどお相手から話しかけられた所だったから。
    「……はぁ」
    「まぁ、西桜院君も元気出すっすよ?」
     かわりに落ち込む飛鳥へ声をかけ。
    「あ、ありがとうございます……その、桜餅食べますか?」
     お礼にと差し出された持参してきたらしいそれを見ながら「気持ちだけ頂いておくっす」と返す。
    「ええと、何にしても一件落着で良いのかな?」
     その後、応援の灼滅者が「助けてもらったときにお返しだ」と称して流希へお祝いに殴りかかってくる事態が発生したりもしたらしいが、少女が救われたのは紛れもない事実。
    「ああ。だが……俺は普通がいい」
     何とも言えない表情で誰にとも言わず問うた和馬の声に無表情で頷くと、天嶺はちらりと玄関の方を見やる。
    「雨、止んでるといいな」
    「あ、うん」
     後は帰るだけならば、空は晴れていた方が良い。
    「じゃ、帰ろうぷに夫?」
    「なのなの~」
     同意して和馬が居間の入り口の方を見れば、ちょうど都々がナノナノと手を繋いで立ち去ろうとするところだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
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