紅染の湯に足を浸して

    作者:瑞生

     古くより温泉は人々と共にありました。
     そして、古くより信仰もまた、人々と共にあります。
     どちらも人の身体や心の傷を癒し、平穏をもたらしてくれるもの。

     そして、秋を迎え、その二つが今、共に紅葉に包まれています。
     紅葉に包まれた寺の境内にある足湯で、ほっこりと紅葉を見ながら、一息つくのは如何でしょうか?

    ●紅染の湯に足を浸して
    「……っていうね、パンフレットがあったから、思わず貰って来たんだ」
     どこか浮足立った様子で、パンフレットを何度も開いては閉じ、開いては閉じしていた周・昴(中学生人狼・dn0212)が灼滅者たちへと語り掛けた。
     温泉街にある寺の境内には幾つもの足湯が設置されている。
     普段より、参拝客たちにひとときの安らぎを与え、温泉の客たちには、温泉とはまた違った、寺の境内という清浄な雰囲気の中で安らぐという機会を与えている。
    「……紅葉の時期だろう? 境内の紅葉は今、見頃らしいんだ」
     普段は寺が開いている日中しか足湯も開放されていないが、この時期だけは限定的に夜も足湯に浸かる事が出来る。そして、夜は紅葉のライトアップも行われるのだ。
    「昼間、紅葉を見ながら足湯に浸かるのも勿論良いけど……夜のさ、ライトアップされた紅葉を見ながら、足湯で一息つくのとか、素敵じゃない?」
     口調こそ穏やかながら、ぴこぴこ、ぱたぱた、と耳と尻尾を振るわせて、昴が力説した。
    「せっかくだからさ、皆で行こうよ」


    ■リプレイ

    ●青と紅
     澄み渡る蒼穹の下、紅葉舞い散る温泉寺の境内で、ふわりふわりと足湯から湯煙が立ち上る。
    「ほら、これ! ね、どう?」
     散策の途中、壱がぬいに見せたのは、緑から朱へと鮮やかに変わりゆくひとひらの紅葉だった。
    「これ、ぬいもすき!」
     壱の好きなその色にぬいも目を輝かせ、もっと紅葉を探そうと、紅葉の下を逍遥する。
     少し寒くても手を繋げば温かい。
    「あし湯じゃぶじゃぶしに行きたい!」
    「OK、じゃあ足湯のとこまで競争ね!」
     勝っても負けても温かなご褒美が待っているから、足湯へと向けてよーいどん!
     久しぶりのお出かけにはしゃいで疲れた紗里亜と龍一の足を、温かな湯が包み込む。
    「――♪」
     空の青に映える紅葉に、思い出すのは秋を歌った童謡。その一節を紗里亜が歌うと、龍一がその続きを鼻歌混じりに歌う。考えた事は同じ、それも何だか嬉しくて――二人、顔を見合わせて笑い、一緒に口ずさむ。まったりとした穏やかな、足湯のように温かな時間が過ぎてゆく。
     暖かな日差しと足湯、そして寄り添うぬくもりにまどろむきすいの髪を、皐臣ががそっと撫でた。優しい指先に目を開けて、二人で見上げた頭上には、去年観た銀杏とは違う鮮やかな紅。
    「かわいいー」
    「……そんなわけ、……っねぇだろ……」
     悪戯心で紅葉を髪に飾って遊ぶと、皐臣が拗ねてそっぽを向いた。そんな可愛らしい一面を見られるのも、重ねた想い出と去年よりも固い絆のおかげ。
     氷霧がふと見上げると、伊織の髪に紅葉が一枚。いお、と人前ではしない呼び名と共に紅葉を取りながら、ふと去年の景色を思い出す。
    「同じ紅葉やのに、去年よりも色鮮やかにみえるんは気のせいやろか?」
     それはきっと、想いが通じて初めて過ごす秋だから。
    「じゃあ来年は、もっと色鮮やかな紅葉が見れるんでしょうね?」
     何気ない一時を重ねて、世界は一層鮮やかになってゆくのだから。

    「リヒターくん、セレナ、こっちへ」
     ギィに呼ばれて、写真よりも綺麗だ、と紅葉に見惚れていたリヒターが彼の隣で足湯に浸かる。反対側にセレーネが座り、睦月が膝の上に乗って、ギィはもはや両手に花どころじゃない状態だ。
     凄いね、と昴が驚いたような表情をするけれど、足湯と紅葉、身も心も癒される空間に、やがてその表情は緩んでいく。
    「あったかいのはお湯のせいだけじゃなくて、隣にギィ君がいるからですかね?」
     寄り添って温もりを感じるリヒターの言葉に、ギィの膝の上の睦月もはにかんだ。
    「えへ、幸せです……♪」
     人恋しくなる季節だからこそ、自分を包みこんでくれる温かな腕が心地良い。
     そんな光景をちょっとドキドキしながら、モカがカメラに収めてゆく。
    「赤音さん、紅葉似合うね♪ 素敵!」
     美少女と紅葉のショットもぉらい! と笑う和葉に、美少女かと首を傾げつつ赤音もスマホを取り出した。
    「あ、一緒に写真とろうぜ」
     摘まんだ紅葉と一緒にパチリ。
    「晴れやかな秋空の紅葉満ちる境内に仲間との足湯での語らい、風流ですねー」
     景色も仲間たちの笑顔も一つたりとも逃さないとばかりに、モカが何度もカメラを切った。
    「湯加減いかがで?」
     写真撮影に夢中なモカ、和葉、赤音へとギィが呼び掛けて、足湯を囲む輪が広がってゆく。
    (「……こんな事、スサノオだった時は考えもしなかったなあ」)
     こうして笑って、ゆっくりと過ごす事が出来るなんて。
     穏やかで幸せな一時がいつまでも続いた――祈りながら、セレーネがそっと瞳を閉じた。
    「なつきちゃんにひいかちゃんはこういう所は来た事があるの?」
     初めての足湯にほっと息を吐いてから、月子がの仲間たちへと尋ねた。
    「足湯は久しぶりかな。あたいの地元はたくさんあるよ」
     大分出身のひいかにとって湯は身近なもの。けれど、皆で浸かる心地良さは格別だ。
    「確かに足湯は何度かありますが……こうやって多人数だと初めてですね」
     結城がどこで足湯を体験したのかと言えば――。
    「学園祭でなんですけど、毎年足湯をしてますので気が向いたら来てくださいね」
     宣伝を忘れない結城に皆がくすりと笑えば、怪しいうさぎパーカー姿の義一が視界の端を横切った。
     足湯初体験のなつきは、熱くないのかと恐る恐る足を湯に浸す。
    「……わ、あったかーい」
     いつのまにか冷えていたらしい足が解れてゆく感覚が心地良い。
     【神木霊碑】の仲間と過ごす穏やかな時間。だからこそ、身も心も癒される。
     ふとさちこがキィンを見上げると、彼は柱に凭れて静かな寝息を立てていた。
    「……きーちゃん、『迎えにいく』の頑張ってたの、さちしってるから」
     大目に見よう、と悪戯は控えて、さちことちいさいおとーさんも、寄り添ううちにうつらうつら。
     少しして先に目を覚ましたキィンは、微かに笑い、小さな身体を支えながら考える。
     今年のクリスマスは何の遊びに誘おうか――。
     激動の一年の終わりも、あと少し。

    ●朱と紅
     茜色の空の下で紅葉が揺れる。夕刻になり頬に当たる風は冷たいけれど、だからこそ足湯の温かさが心地良い。
    「……何か、付いている?」
     アヒルのおもちゃと一緒に足湯に浸かっていたサズヤは、傍らの巳桜の視線に顔を上げた。
    「な、何でもないわ」
     慌てて視線を逸らして、巳桜が足でお湯を軽く蹴る。楽しんでくれれば良いけれど――無表情な彼の感情は窺えない。
     けれど、使う? とタオルを差し出してくれる彼の気遣いが嬉しくて。ありがとう、と巳桜はふわりと笑い、タオルを受け取った。
     初めての紅葉と足湯に、おお、とサルバドールとアプリコットが感嘆の声を漏らす。温泉に馴染み深い碧や銭湯も楽しむ明からすると、その新鮮な反応が楽しく、そして嬉しい。世の中にはもっと様々な湯があると知れば、二人はもっと驚くだろうか。
    「足湯は実際、健康にも良いんだよな。むくみも取れるし、美脚効果もあるそうだぞ?」
     女性陣には嬉しい効果じゃないか、と明が言うと、アプリコットが首を傾げる。
    「……ビキャクって何ですか?」
    「足が綺麗になるってことよ。それで男の子を誘惑……なんてね」
     くすりと笑って碧が説明すると、サルバドールが手を叩く。
    「アオイもレンもリコも美人さんだけど、もっと美人になるんだ? いいネ!」
     それなら今度は温泉に。他の皆と一緒に行くのも良いだろう。皆で歩けば、日本はまた新たな顔を見せてくれるから。
    「き、気持ちのいいお湯ですねっ!」
    「うん、とっても、あったかいね……」
     足湯も、彼から貰ったマフラーも暖かい。微笑む彩の手に、真っ赤な顔の文具の手が少しずつ重ねられてゆく。
    「……彩さん――」
     緊張が解れたせいか、うとうとする文具が寝言で呼んだ名前。どんな夢を見てるのか、気になりつつも起こさないように。募る愛しさに、彩がそっと肩に凭れ掛かる文具の髪を撫でた。
     ゼロが麗夢に尋ねたのは、どんな恋人が理想かという事。
     曰く、強気で引っ張ってくれる、甘えたいときには甘えさせてくれる。甘えても良いけどヘタレはダメ。
    「僕も、積極的にデートのお誘いとかしましょうか?」
     麗無の肩に頭を預けるゼロを、可愛いなぁと抱きしめて、麗夢が微笑んだ。
    「無理に背伸びしなくてもいいわよ」
     今一緒にいる彼が、一番好きなのだから。
     互いの腕と、湯の中の足を絡ませて。
     足湯の温もりは闇から離れ、日常に帰って来た事を実感させてくれる。足が絡む程に寄り添い足湯に浸かって、クリスが拾い上げた紅葉を桃夜の瞳に近付けた。同じ色、とクリスが笑えば、クリスとも一緒だと桃夜が頷く。
    「これからもずっと一緒にいようね」
    「うん。ずっと君のそばにいるよ」
     紅葉色の視線を絡ませて笑い、二人は誓う。来年もこうして一緒に紅葉を、見よう。
     境内を散歩しはしゃぐ夜深の手を芥汰が握り、揉みながら温める。解されて暖まったその手はまるで紅葉のようだ、と赤い世界で対照的な青の瞳を覗きこむ。
    「我、我、は。あくたん、近付クと、色付ク、のヨ?」
     なんて、と茶化しつつも、どうしたら芥汰は色づくの。そう夜深は問う。
    「……今まさに赤く色付くところデスよ」
     頬が熱いのは、きっと気の所為じゃない。
    「この空の色、だいすき……」
    「俺もこの空の色と、狭間の時間帯が好きだよ」
     仰いだ天は紅と朱、そして少しずつ滲んでゆく夜の藍。吸い込まれそうな感覚を覚えた百花の足が揺れ、跳ね上がる水音に、堕ちかけていたエアンの意識も戻って来る。
     どんな不安も、この腕があれば大丈夫。寄り添う二人の足の間を、紅葉がゆらりと流れていった。
     ご縁と五円を最初に掛けた人はどんな願掛けをしたのだろう。ふと思いながらも、流希が五円玉を賽銭箱に放り込む。
    「皆さんでいつまでも仲良く楽しくやってゆけますように」
     永遠に会えなくなる別れなど訪れない事を願い、そっと手を合わせた。


    ●藍と紅
     昼から夜へと転じれば、境内はその姿を変える。
     漆黒の空の下、闇に解け込まんとしていた紅葉を、無数の明かりが照らしてゆけば――光と闇、そして紅葉が織りなす幻想的な光景が広がってゆく。
     風変りね、と逢紗が微笑むと、レニーも深く頷いた。
     清澄な空気、足元の熱。鮮やかな色彩。そのどれもが心を潤わせてくれるよう。
    「もっとそばに寄りなよ」
     逢紗の肩に手をまわして引き寄せる。驚くものの、彼女も抵抗せずに抱きつき、頭を預けた。
    「ん……それじゃ、お言葉に甘えるわ……ね」
     いつもより気を張らずに過ごせるのも、きっとこの静穏な時間のおかげ。
    「足湯に浸かって眺める夜の紅葉って、格別に風流ですね」
     フウリュウとはどんな意味かと尋ね、リュネットが首を傾げたので、上品で趣がある事――そう音雪が教える。
    「ニホンのアキ、キレイやステキがいっぱいで。とてもとってもフウリュウ、ねっ」
     足湯、夜の紅葉。友との語らいはとても風流。
     真似っこしたリュネットの言葉に、今度はリュネちゃんの国の事も教えて、と音雪が笑った。
     大浴場は無理だというさくらえも、足湯なら気軽に楽しめる。良かった、とほっと笑った勇弥へと、さくらえが手を伸ばした。
    「肩もんであげよーか?」
     気遣い屋な彼を、軽口を叩きつつも労わって――ぐっと肩のツボを押す。
    「……あ、そこ、もうちょい右」
     苦労性じゃないって、と反論するも、思わず零れた言葉に勇弥自身が笑い、それにつられてさくらえもくつくつと笑った。
     昼から紅葉を見ていた昴と黒斗も、足湯に浸かり一息つく。冷えた身体に湯のぬくもりが心地良い。
    「何時もありがとうな」
     他愛無い雑談を経て、昴が黒斗を見つめて零す。黒斗に支えられている、と言う彼に、黒斗も己の事を語る。辛い事、悩む事もたくさんあったけれど――。
    「昴と居るだけで、そういうのが少しだけ楽になる気がするんだ」
     互いに支えになっている。その関係が心地良く、そして嬉しい。
     足湯は何故流行るのか? そんなエウロペアの疑問に、湯冷めも湯当たりもし辛く、手軽に暖まるんだと式夜が答えた。
     実際に暖まり、欠伸を零した式夜の頭を誘導し、エウロペアが膝枕をしてあげる。
    「いやぁ、特等席から見る紅葉はよきかなよきかな」
     式夜の視線がこちらを向いているのには照れくさいので気付かない振りをして。逸らした視線の先で、エイジアが伏せをしたお藤を撫でていた。
    「なんだか足は暖かいですが、手が冷えて来てしまいました……」
     足湯に浸かってもまだ手は冷たい、と。勇気を出して、ティナが重五の手を握る。
    「ああ、そうだな……」
     握った少女の手は思ったよりは熱かったが、不思議と悪い気はしなかった。
     隣にいる人と両想いになれるように。
     また来年、彼女と共に此処に来られたら。
     その願いが届く日は――そう遠くは無いのかもしれない。
     飴を奪ってみたりと歩きながら戯れていた悟と想希は、足湯で一休憩しほっと息を吐く。抱き寄せてその温もりを感じながら、片手で悟は紅葉を掴んだ。
    「この手は真っ赤やけど、未来を掴む手やから」
    「ずっと、側にいますから」
     伸ばされた手に手を重ねるようにして紅葉を受け取り、想希も頷く。戦いの中掴んだ未来を、どうか二人共に。
     紅葉が降り注ぐ境内に、微かに響く流水の音が情緒的だ。清浄な空間を堪能しつつも、足湯の温かさのせいで余計に感じる外気の冷たさに、直人が身を震わせた。
    「……さむい」
     ぴとっと寄り添って来るその肩に、貴明がそっと上着を掛けてやる。
     周囲の視線が外れた瞬間に、貴明がそっと直人へと口づけて。
     足湯の所為か、それともこうして二人、寄り添い合っているからだろうか。気付けば寒さなんて忘れてしまっていた。
     寄り添いながら落葉した紅葉につられたように、マイスが識の肩に触れる程、身を寄せた。
    「あ、足湯って気持ちよいですね」
     高鳴る鼓動。声が裏返ってなかっただろうかとどきどきする識に、マイスが頷く。
    「夜はやっぱり風が冷たいな」
     風邪を引かないで、と気遣ってくれるマイスの優しさが、識を包みこみ、温めてくれる。
     そんな二人を見守るように、2枚の紅葉がゆらゆら、水面で揺れていた。

    ●黒と紅
    「いつもと違う雰囲気を楽しめて綺麗で素敵だな……」
     見上げた紅葉は昼間見るのとは全く違った深い紅。歓声を上げたソフィアの横で、日向がしみじみと息を吐く。
    「足湯って……そんなに入ったことないのだけど……いいわね」
     紅葉饅頭も良いね、なんて他愛無い話に花を咲かせながらも、新鮮な驚きに笑みを零す二人が天を仰ぐと、 きらきらと煌めきながら、緋色が夜の闇に揺れていた。
     お湯を足に掛けて遊べば、悪戯っ子なその足をカニのように挟んで仕返しを。そんな風にじゃれあって過ごしているうちに、夕眞の瞼が重くなる。
    「膝枕するか?!」
     妙にテンションの高い藍の膝に頭を載せると、視界いっぱいに光り輝く紅葉が広がる。
    「オレ今スッゴい幸せ」
     満足げに夕眞の頭を撫でた藍が零した言葉に、ゆるりと夕眞も頷きを返す。
    「……ん、俺もしあわせかも」
     胸の奥まで、ほわりと幸福に温まる。
    「いやあお寺巡りって初めてでしたけど意外と楽しいですね」
     つい御朱印帳とか買っちゃいました、と神社出身の遥音、お寺巡りを参拝した炯。
    「良かったです。僕だけ楽しんでいたらどうしようかと……」
     足湯に浸かりつつ昼間のお寺巡りの話に花を咲かせる二人とは対照的に、ヴォルペは苦い表情を浮かべていた。
    「おや、ヴォルペさん。疲れ切ってますね」
    「しっかり」
     疲れ切ったその様子に気付いた遥音と炯に、重く深い溜息が零れ落ちる。
    「足湯で美しいおみ足を眺めようと思ってたのに! 古臭いお寺しか記憶にないよ!」
     おみ足! と嘆くヴォルペに、破廉恥だというツッコミが入ったそうな。
     黒のビロードに緋が映える。綺麗だ、と溜息をついた悠の言葉に、保が頷く。置いて行かれないようにと姉の服の裾を掴んでいると、その手をぐいっと取られた。
    「わ……ごめん」
     謝ると、ふわりと抱き締められる。
    「なんじゃね、寒いのなら寒いとはよう言えばよいじゃろうに」
     その姉の言葉に、抱き締め返して。温かいから、だから言わない。あの葉は悠の瞳の色だった、なんて。
     漆黒に描かれた蒔絵のような光景に、過るのは在原業平の和歌。
    「寒くて紅葉の赤が反射して顔が赤くなりそうですね?!」
     その訳を思い出して、宇介が慌てて詠子の手を引いた。
    「こんなに鮮やかだと移ってしまいそうですわね?」
     頷く詠子の頭に思い浮かぶのは別の訳。顔が火照るのは、心臓が跳ねるのは、この紅葉のせいだろうか。
     他方の手が、少し寂しく感じるくらいに、繋いだその手は温かかった。
     かつて命を狙い、狙われる関係であったクインとアルジェント。こうして共に足湯に浸かるなど過去の自分たちが見たら驚く事だろう。けれど、喪失が怖いくらいに幸せで贅沢な時間だった。
     ぎゅっと寄り添って来る寒がりな恋人を引き寄せ、クインはその手を握る。
    「熱いくらいが丁度いい、ですよね?」
     温もりに解れて、いつもより素直になって。アルジェントがクインの肩に頭を預けた。
    「もみじて、この時しか見れな色なんデスヨネ。特別なカンジ、ちょとシマス」
     イローナが歓声を上げて紅葉を拾い上げる。その反応が楽しくて、隣を歩く皆無もその表情を穏やかに緩ませた。
    「夜も寒くなってきましたし、帰りに温泉街にでも寄って何か温かいものでも食べてから帰りますか?」
    「ハイ! おいしーもの食べるも思い出なるデスシネー」
     温かい名物でもあるだろうか、そんな事を話しながら、二人は温泉街へと向かってゆく。
    「お二人ともブランケット使いま……っ」
     ゆまが立ち上がろうとして――つる、と足を滑らせた。
    「っと、ホント危なっかしい人ですねぇ」
     何とかそれを支えて、龍之介が苦笑する。そんな二人のやりとりを、ペーニャが穏やかに見守り天を仰いだ。
     夜空の下、深紅の天井を、鏤められた星のような明かりが照らす。
     一日のお土産にと、紅葉を拾い上げ、ゆまが笑う。
    「天婦羅にして皆で食べましょう!」
    「って食べるんかい!」
     龍之介がびしっと突っ込むとペーニャが笑って手を叩いた。
    「またこうよう……ですね」
     紅葉と『来よう』を掛けて。――また、こうして穏やかな一日を過ごそう。

     深まる秋。灼滅者たちの休日は、どこまでもゆっくりと穏やかに過ぎてゆく。

    作者:瑞生 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月19日
    難度:簡単
    参加:75人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 9
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