「鎮まれ……俺のサイキックエナジー……」
金網で覆われた高架下の一角で、1人の男がじっと何かに耐えていた。
短髪オールバック、冬も近いというのに上半身裸。そしてむき出しの背中にはダイヤのマーク。
フィールド内へ入ってきた少年は、男が気になる様子ながらも、まあ何かトレーニングでもしているのだろうと、スケートボードの練習を始める。
「よし……これくらいか……」
男はうなずくと、不意に少年の方へ向き直った。
「おい!」
ボードに両足を乗せたまま、少年が男の方を見る。体格は良いがそう大柄ではない男。しかし、
「……っ! 化け物……っ!?!」
その手足は人間のそれではなかった。叫んだ少年の顔がみるみるうちにひしゃげていく。
男は少年を一撃にコンクリートへ叩きつけると、鋼鉄の手についた血をそのままに、ガツン、ガツンと硬い音を立てながら歩き去った。
「ソウルボード内で活動するシャドウが、現実世界で事件を起こそうとしていることがわかりました」
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が言った。
「現れたシャドウは現実社会での行動を試したいらしく、模擬戦と称して、次々に一般人を殺害してしまいます」
今回現れたシャドウは、夜間高架下でスケートボードの練習を始めた少年を皮切りに殺戮を繰り返す。
「被害が出る前に、灼滅をお願いします」
灼滅者たちはシャドウが少年に声をかけたタイミングで駆けつけることになる。高架下のフィールドへの入り口は1つだが、その時点で少年は入り口よりに、シャドウは10メートル程離れたところにいるため、少年を安全に逃すことはそう難しくないだろう。
高架下のフィールドは広さ、明るさともに戦闘に支障はなく、他の一般人の介入や音を気にする必要もない。
「このシャドウは鋼鉄でできた手足を軽々と使って攻撃してきます。防御力、攻撃力ともに高く、相手からの攻撃は避けるより受け止めて反撃に出るスタイルのようですね」
シャドウが使用するサイキックは、シャドウハンターとバトルオーラ相当。ポジションはディフェンダーだ。
「現実社会に出現したシャドウは高い戦闘能力を持っているものの、一定期間にソウルボードに戻らなければならないという制約があることは、知っている方も多いでしょう。けれども今回のシャドウは、力をセーブすることで長期間の戦闘に耐える能力を得ているようなのです」
セーブしているとはいっても、その戦闘力は並のダークネス以上ですが、と姫子がつけ加える。
「手強い相手ですが、シャドウを灼滅するチャンスでもあります。みなさんよろしくお願いしますね」
最後に姫子は頭を下げ、灼滅者たちを送り出した。
参加者 | |
---|---|
水無月・礼(影人・d00994) |
二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780) |
祀火・大輔(迦具土神・d02337) |
皇樹・桜(家族を守る剣・d06215) |
竜崎・蛍(レアモンスター・d11208) |
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788) |
三園・小枝子(アムリタ・d18230) |
真波・悠(強くなりたいと頑張るココロ・d30523) |
●
「おい!」
「何をしようとしてる?」
シャドウの低い声のすぐ後に、エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)の声が高架下に響いた。灼滅者たちが少年とシャドウの間へ次々に飛び込む。
「リック、頼んだよっ!」
三園・小枝子(アムリタ・d18230)は霊犬のリックに、無事に避難が済むまで少年の側でのガードを命じた。
「チーム、寄りプリーズ」
「えっ」
竜崎・蛍(レアモンスター・d11208)と水無月・礼(影人・d00994)の目が合う。
「……おいチーム、寄り、寄りだよしっかりしろ」
「あ、はい」
蛍に若干とまどい気味の礼。蛍の何かにつけて人を煽る物言いは、ギャグのつもりか性格か。ゲーム好きの影響もあるのだろうか。
「彼の闇を焼き祓え、火之迦具土神!」
祀火・大輔(迦具土神・d02337)の解除コード。
「どいてないと怪我するっすよ!」
大輔が少年に声をかける。が、少年は突然のことに呆然としていた。
「危ないから早く逃げて!」
このほうが早いだろうと小枝子が王者の風を使って一喝する。少年は気力を失いながらも出口へ向かった。
「あっ、これ忘れてるよ!」
手ぶらで逃げようとした少年に、真波・悠(強くなりたいと頑張るココロ・d30523)がスケートボードを手渡す。展開された殺気の効果もあり、少年はのろのろとした調子ながら、リックにガードされつつ無事フィールドを出ていった。
居合い斬りと同時に放たれる大輔の風の斬撃。次いでキインと耳を割くような金属音。シャドウが鋼鉄の腕で斬撃を弾いていた。
「……なんだ……お前たちは……」
その手足の見た目のように、重々しいシャドウの口調。
「……シャドウと戦うのは初めてなんだよね」
そう言って、皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)が前に出る。
「何……?」
シャドウの表情が変化した。
「戦う……? 貴様らがか……?」
「そうだよ♪ まさか……逃げたりしないよね?」
「……フン、」
シャドウが鼻で笑う。しかし直後、
「!……ム、」
左腕に傷が入っていることに気がついたシャドウは、今度ははっきり口元で笑い、言った。
「……なるほど……模擬戦の相手にはちょうどいいということか……」
シャドウの両の拳が握られる。
「initiate!!」
蛍がスレイヤーカードを解放し、手元のナイフから夜霧を発生させた。シャドウの目を眩ませる霧の裏から、弧を描き摩擦を得ながらエアンがエアシューズで走り出る。
(「相手は格上だ……それに力をセーブしているなら尚更、気は抜けないな」)
長期戦の覚悟をしながら駆けるエアンの足元が、熱に燃え上がった。
(「さて、久しぶりの宿敵相手、か」)
霧に紛れ、二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)は攻撃に最適な位置を『演算』する。
(「しばらく音沙汰のなかったシャドウ共が何をしようとしているのか。その演算の解を導かせてもらうとしよう」)
「……之より灼滅演算を開始する。目的解は、鋼鉄のシャドウの灼滅。――Get Ready?」
雪紗は自らの深層に潜む暗い想いを、手にした『ジェミニ・バタフライ カストル』のように黒い弾丸へと変えた。
(「並のダークネスより強いって聞いたから楽しみなんだよね……殺しがいがあるといいな」)
「さあ、狩りの時間だ!」
「ヌ!」
シャドウが目を見開く。
淡い桜光を放つ槍を構えた桜が、すでにシャドウのすぐ側にいた。
●
「……ク!」
『桜光の聖槍』が、激しい螺旋の捻りを伴ってシャドウへ向かった。ガキンと1度右腕にぶつかったものの、勢いをのせた槍の先はシャドウの生身の胸まで届く。
「……速いな」
シャドウのもらした声に薄っすら微笑む桜。その微笑みは普段の天真爛漫な彼女からは想像できない種類のものだ。
「……だが逃がさん」
シャドウが桜の背を追いかけるように、オーラに光る左脚を回転させて振り上げた。が、
「うわ、おもったいなー!!」
かばいに入っていた悠が鋼鉄の脚を受け止める。
(「……でも、まだやれる!」)
「回復するよっ!」
小枝子の声とともに、悠の周りにいくつもの光輪が現れた。その間にシャドウの左腕には雪紗の放っていた漆黒の弾丸が命中。悠はできた隙を利用して、シャドウの脚の下を抜けながらソードを構える。
(「黒毒の弾丸は鋼鉄を貫き得ぬかもしれない。……が、その毒は鋼鉄さえ蝕み、やがて。腐食した金属が脆くなるように、容易く射抜く」)
「……そうだろう?」
浮かべる笑みも『解』の1つ。雪紗は狙撃はあえて相手の鋼鉄の四肢へと集中させるつもりだ。自身に染み透る毒気にシャドウが眉をしかめたところを、すかさずリックの刀が斬りつけた。
交差させた腕を下げ、刀を受け止めるシャドウ。空いた背中を逃さず、エアンの炎を纏ったエアシューズが狙う。
(「……ダイヤのマーク、」)
背中に刻まれたそれを一瞥し、エアンが蹴りを放った。身体を返し弾き飛ばそうとしたシャドウだったが、ねじった脇腹へ悠がソードから繰り出した白光の斬撃が炸裂。さらに礼の放っていた詠唱圧縮された魔法の矢が刺さり、シャドウはエアンに触れることが叶わないまま体勢を崩す。
「薩摩が守人が一人、示現流・祀火大輔。押して参るっす!」
大輔が『薩摩刀 布都御魂』をシャドウの頭上へ振り下ろした。シャドウはそれを片腕で受ける。
「……さて、」
相打ち上等。ギリギリとシャドウの腕を削る大輔。
「態々アウェーにまで出向いて来てお兄さんは何をしようとしてるんすか? 良ければ目的を教えて欲しいんですけどねぇ」
「……答える必要はないな……」
「っ!」
ガキンと『薩摩刀 布都御魂』が腕の一部を粉砕した瞬間、シャドウの身体を包むオーラの勢いが増し、シャドウを燃やしていた炎の勢いが弱くなった。
(「現実世界に滞在できるようになったシャドウっすか……」)
大輔が素早く間合いを抜ける。
(「夢の中から出て来てこれだけ動けるとなると、今までのヤツよりも上位種って事っすかねぇ……?」)
強敵との戦いは、始まったばかり。
●
「……ディフェンダーへ」
「狙うから合わせて」
一歩引いたポジションから全体を見渡す雪紗の声に、蛍が天星弓を構え、癒しを与え感覚を呼び覚ます矢を放った。礼は黒い瞳にバベルの鎖を集中させ、雪紗は光のように白いライフル『ジェミニ・バタフライ ポルクス』を手に、自らの傷を癒しながら脳の演算能力を最適化する。
(「ディフェンダーでダメージが通りづらいとはいえ、バッドステータスによるダメージは軽減できまい」)
序盤からシャドウへバッドステータスを畳み掛けてきたことは、灼滅者たち全員が、シャドウが「攻撃を受け止める戦闘スタイル」であることを十分に理解していたために他ならない。また傷を負いやすく若干HPと命中率が低めのディフェンダーのサポートとして、蛍が撃ちまくっている癒しの矢は成果を出しており、スナイパーが自己回復を行うことによって高い攻撃力と命中率を持ち合わせるクラッシャーの2人が常時攻撃に専念できていることも、灼滅者側にチャンスをもたらしている。
「ボクの攻撃当たるか心配だったけど……」
何度目かの蛍の矢にタイミングを合わせ感覚を研ぎ澄ませた悠が、愛用のエアシューズで真正面から切り込む。
「これならちゃんと受け止めてもらえるかな! いくよ!」
シャドウの目前に流星の煌きが散った。蹴りに蹴りを当て、シャドウは相殺を狙う。しかし、
「まだまだ楽しませてね」
気配を殺して接近していた桜が、開いた体側を『桜光の杖』で殴りつけた。悠のエアシューズがシャドウの左脚と押し合う。流星の重力にも互角に張り合える強靭な四肢。が、
「……クッ、」
桜の注ぎ込んだ魔力が爆発。防御も緩まざるを得ない。
「現実はどう? ソウルボードの方が動きやすい?」
煽るように蛍が言った。それには答えずシャドウは、振り上げていた脚をそのまま移動に使い、蛍へ真っ直ぐ拳を向ける。
「リック!」
小枝子の相棒が勇敢に飛び込んだ。拳を受けても消滅せずに踏みとどまったリックだったが、残された体力は少ない。
(「強い……正直ちょっと怖い、でも!」)
「こんなところですくんでちゃヒーローに追いつけないもんね!」
小枝子のヒーロー、――兄に追いつくためには。
小枝子がエアシューズで前衛へ駆け出た。そして代わりにリックを後衛へ下がらせる。
「……行くよ」
「OKっす」
小枝子と交差する形でエアンがエアシューズを走らせる。合図に答えて『迦具土神之焔』を集束させ始める大輔。シャドウの視線は3方向へ散った。が、瞬時に接近の早いエアンへ自ら間合いを詰め、攻撃的防御を狙う。
「……しつこい奴らだ」
「それはお互い様だろう。こちらも被害を出す訳にはいかないのでね」
シャドウの鼻先、エアンが地面を蹴って跳び上がった。長い滞空。こちらが先かとシャドウが大輔の位置を視界にいれる。しかし大輔はまだ刀を持つ腕を引いていた。切先に気を集中させながら、大輔がニッと口角をあげた瞬間、
「ッ!」
「たのむよチーム」
死角に回りこんでいた蛍がシャドウの急所を断つ。蛍の黒髪が1度大きく舞い上がって去るとともに、シャドウの身体が大きくぐらついた。そこをエアンの重い蹴りが踏み潰していく。
「グ……ッ」
体勢を戻す勢いを利用して、エアンを蹴り落とそうとシャドウが片脚を振りかぶった。そこへ、
「お待たせっす」
全身のバネを使って撃ちだされた大輔のオーラ。『蒼の焔』がシャドウとぶつかり爆音をあげる。
灼滅するならこの機を置いてない。そう判断した雪紗は『地を蹂躙する切り株』の名を持つ重厚なエアシューズで駈け出した。その軌道を追いかけるように、礼の影がシャドウへ伸びる。
「……じっとしていて下さいね」
礼の影が触手となって、シャドウへ絡みつく。それを振り切ろうとするように、シャドウが礼へ漆黒の弾丸を撃ちだした。が、その射線には小枝子が立ちふさがっている。
「みんなを守る! 傷つけさせないよ! そのためなら自分の怪我はへっちゃらだ!」
間髪いれずに接近をはかるシャドウに向けて、小枝子が回し蹴りから暴風を放った。後ずさるシャドウ。そして、
「……演算通りだ」
位置を見極め、燃え上がる雪紗の『アタッチメント ランドスタッブ』が襲いかかる。キャタピラのような駆動部がシャドウを蹴りあげた。防御の薄くなった腹を目がけては、血のように赤黒い『闇の羽衣』を集束させた桜の拳が連打を叩き込む。
(「イロイロ聞きたかったんだよなー、ダイヤのマークのこととか、なんでたくさんこっちにでてきてるのかー、とか、」)
連携の合図を確認し、走りながら悠は闘気を雷に変換した。逆側にはエアン。シャドウの目的が気になっているのはエアンも同じだ。
(「まあ、聞いても答えてはくれないか」)
エアンの手元で、杭が高速で回転する。
自慢の防御を削られても、シャドウは逃走の意志を見せない。このまま負けるつもりなどないのだろう。唸りをあげて向かってくるエアンの杭へ、いまだオーラの輝く拳を突き出した。
拳と杭が接触する。ギギギギギと苦しげな音をたてて競り合う拳と杭。ガシン、と音をたてて金属の破片が散ったところへ、悠が飛び込み、雷を宿した拳でシャドウの顎を撃ちぬいた。顎が砕け、すでに肩は崩れ、腹は破け。それでも鋼鉄の拳が引かれることはない。しかし、
「!」
非物質化された大輔の『薩摩刀 天之尾羽張』がシャドウに残されていた霊的防御と魂を一刀に落とす。エアンの杭が拳をバリバリと砕き、ねじきられたシャドウの身体は、低いうめき声とともに消滅していった。
●
「うーん、何も残ってないねー」
悠が言った。
「結局質問もできなかったし……」
「強敵でしたし、仕方ないですよ」
礼が眼鏡の奥の目を柔らかく細めて言う。
「現実世界の方が不便でも好きなのかなー? それともちょっと早いけどみんなで集まって忘年会でもするのかなー?」
シャドウとの戦いが初めてだった悠。無邪気な疑問を耳にして、リックをねぎらっていた小枝子が微笑んだ。
「やっぱりソウルボードのほうが動きやすそうな感じしたな」
質問の答えはきけなかったけど、と蛍が言う。
「一体現実世界で何をしようとしているのか……厄介な事にならなければいいのだけどね」
エアンが言った。
「……特に片付ける物もないな。帰るか」
「そうっすね」
雪紗に、大輔が同意する。
「ね♪ ご飯食べて帰らない?」
桜の提案に賛成の声があがった。
最後にフィールドを出たエアンが金網を静かに閉める。仲間といたわり合ったら家に帰ろう。彼女と仔猫が待っている。
がらんどうとなった高架下。冷たいアスファルトだけが後に残された。
作者:森下映 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年11月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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