古びた社に、玻璃箱が置いてあるという噂があった。
その箱を開けると――その人の中に潜む悪、或いは醜い心が玻璃に映るのだという。
開けて、その悪や醜い自分に目を反らし、たまらず蓋を閉めてしまえば、唐突に降りかかる災厄に飲まれて死ぬ。
けれど――もしも。
からりと噂の社の扉が開く。入ってきたのは、高校生くらいの女の子。
「これが噂の……」
息を飲みながら、少女は玻璃箱の前に立つ。
そしておっかなびっくり箱の蓋に手を掛け、しばしの躊躇いの後、一気に開けた。
「……ひっ!」
玻璃に映るのは、醜い、ぶよぶよした肉塊の上に、ちょこんと乗った自分の頭。
『きひひひ、きひひひひ』
瞳孔の開いた眼で、そらおかしそうに笑いながら。心の中にしまっている嫉妬の醜い感情を、その口から吐き出していた。腐肉の様なものと一緒に。
「ひぃぃぃぃぃ!!?」
止まることのない醜い言葉。腹の中から吐き出し続ける腐肉のおぞましさ。箱の中から出てきそうなそれを押さえこむように、思わず乱暴に蓋を閉めた。
箱から弾かれるように離れて、ぜいぜいと肩で息をして。
ここに来た理由も全て忘れて。這いながら出口を目指そうとした時。玻璃箱からにゅっと手が伸び足を掴まれ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
彼女は、箱に喰われて死んだ。
もしもその醜い自分と向かい合い、何らかの決着を付ければ――希望が残る。そんな噂。
机の上に腰掛けて。紙の山に囲まれながら仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)は、鈍色の小さな箱を弄んでいた。
「自分の中の何かを覗きに行くかい?」
もちろんそれは本物じゃなく幻だけどね。そう言って、ぽんとその箱を灼滅者へと放って。
「鏡の都市伝説が現れたよ。まるで、パンドラの箱みたいなのがね」
出現場所は、とある僻地にある神社。宮司が近くに居るでもない、山中に小さな鳥居と社があるだけ。
社の扉を開ければ、都市伝説の箱があるという。
「一人で行けば、一つ。八人でいけば、八つ」
箱を開けると、己が闇が見えるという。
それは過去のトラウマか。
君が抱える罪なのか。
嫉妬や憎しみ、自分が嫌いになるような醜い自分か。
それとも、己が闇の人格――ダークネスを模したものか。
そしてそれは、君の心に圧力をかける。君の醜い心を笑ったり、罪を責めたり、トラウマを抉ったり――闇との対話は、決して楽ではないけれど。ただ乗り越えると希望が見えるという噂。たぶんきっと、単純に人間としての成長という希望だろうけれど――。
「玻璃箱の蓋を開けようとも、開けずにいたとしても、戦闘も必須になる。なんせ倒さないと、社から出られないからね」
そこは、そういう空間だ。自分自身としっかり向きあうという。
そして、君達の闇の形をしていようが、結局のところ都市伝説。ようはサイキックエナジーよって出来た、作りものである。
「相手は君のレベルよりちょっと劣るかな、という相手。心を圧迫されても打ち勝つ意思があれば勝てるよ。未来予知で、噂を頼りにやってきた女の子が、蓋を開けてしまう前に。君達が先に、パンドラの箱を開けて、君達にとっての希望を見つけてきてほしい」
よろしくね。
そう言って、沙汰は君達を送りだした。
参加者 | |
---|---|
彩瑠・さくらえ(暁闇桜・d02131) |
天埜・雪(リトルスノウ・d03567) |
月居・巴(ムーンチャイルド・d17082) |
フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889) |
レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883) |
久条・統弥(槍天鬼牙・d20758) |
ホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988) |
炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512) |
●箱
建て付けの悪い引き戸を開ければ、簡素な作りの箱が八つ。
触れた刹那、君の指先は鍵となる。
開ければ、空間は歪み、距離も時間も超越した。
●紅蓮地獄
紅に指を染め、嗤う声を聞いたのも、そう遠くはない過去。
「……っ」
彩瑠・さくらえ(暁闇桜・d02131)の息がつまる。手から滑り落ち、床に転がる蓋の音も、まるで遠い記憶を再生されたかのようで。むしろ、ゆらりと箱から出てきた赤い狂気を湛え、笑む姿のほうがよっぽど現実のようだった。
『サイ……』
堕ちた君がいた。
けれど自分を見つめる薄茶の色は懐かしく。緩やかな春の風の様に、柔らかに流れる髪もそのまま。
「……ゆすら」
かき抱くように胸元を押さえたあと――絞り出した。視線を反らすことなんて、出来るはずもなかった。
「キミに逢いたかった。どんな形であっても、もう一度だけ」
逃げ続けていたもの。
逃げても消えず在り続ける、もの。
『あなたの無意識の底にアタシの欠片が残るなら……アタシが最後に紡いだ言葉も、願った想いもきっとある』
その手を伸ばして、掴んで見せて?
そう笑う彼女へ最初に送るものは、ずっと告げられなかった言葉。
「……ごめんね」
今再び、この手でキミを壊してしまう罪にも。
「もう逃げない。受け入れる。そして」
ちゃんと前に進むから。
さくらえの手の中、涅槃は謳う。
断罪転輪斬に砕ける箱、降り注ぐプリズム。スローモーションのように世界に漂い、音は刹那の永久となって。
『サイ』
壊れた彼女が、さくらえの腕に落ちてゆく。
もう、苦しまなくていいよ。
ありがとう。そして、どうか、アタシの分まで。
幸せになって。
「……ありがとう」
胸に届く声受け止め、細く、深く、息を吐き、目を閉じれば、頬を滑る雫。
彼の腕から消えゆく幻、零れてゆく、君。
いや、零れてなんかいない。
さくらえの心の中、其処に――。
●鎮魂歌
『ねぇ人形。いつも、君は友達に助けられただろうから。今度は君が助けてみる?』
崖の上、天埜・雪(リトルスノウ・d03567)はラーベの姿を前にして。
「いつだってそうしたかった。誰かを身代わりに雪が助かったって、苦しいだけでちっとも嬉しくなかった」
誰かは誰かの特別な人で、その人にも特別がいて。
「パパだけが雪の特別だったのに。けどパパにとって雪は要らない子だった」
久方ぶりに震える声帯の感触より、本当の父親にさえ愛されず凍えるような痛みの方が鋭く。
「このセカイでひとりぼっち、嘘吐きのイラナイ子」
時辿る苦しみは、雪だけが知る。見送るだけしかできず、置いてけぼりになる不安と悔しさを、煽り、まるで誘うようなラーベの言葉が刺さりこんでいて、溶けなかったのに――。
『初見、何で雪を傷つけなかったのか疑問に思っていたようだけど。知りたいなら教えてあげようか? イラナイ子だというなら僕が貰ってあげようか? 僕の失った片翼になってみるかい?』
覚えがある流れに重なる、ラーベの手。
――可愛い雪や。妾の傍においで。
自分のせいで父親が殺されてゆく赤の刻。あの女が喉を掻っ切って死んで――嘘吐きの雪を赦すと優しく笑いかける淫魔の手を取らなかったのは、
「パパだけが、雪の希望なの」
今も、あの時も、雫がしっかりと雪の手を握ってくれているから。例えビハインドでも繋がれた手は光。
だから、今はまだ堕ちないよ。其処へは逝けないよ、と。
『そう。残念。じゃあ雪、次に会うときは……』
続く言葉は言伝と同じだったのか。影の中へと飲み込まれる大鴉。
(「本当は、パパに会いたかった。でも、きっと……」)
パパとよく似た漆黒の髪。能面のような顔。忘れないように見つめ、ひらり落ちる黒羽根と、雫の手を握りしめながら。
――おやすみなさい。
●月喰い
部分月食が浮かぶ。欠けるか、満ちるか。それは時が経てばわかること。春風に舞う桜はあの時にも似ている様な。しかし闇に浮かぶ仮面は、よく知っている。
月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)は、己がダークネス・憑織と向かい合っていた。
「思えばお前は僕と似ているくせして、気に入らないほど正反対だ」
『僕もだ。実に気に入らない』
月居の号哭が弧を描いて、空が鳴る。鮮やかに翻る憑織が放つ斬撃。隙間貫く様に、鋭い衝きが瞬いた。
刹那を瞬かせ、闇に映える仮面に浮かぶ深緋。鍔迫り合い。刃に映る仮面は誰のもの?
『月居は、この桜吹雪が美しいとは思わないのか?』
はらり、はらり、散る桜。乱れる様に繰り出される斬撃の中、まるで幾千の「色」の花弁が散っているそれと変わらないと嘯く仮面。
「お前の詭弁と桜を一緒にするのはナンセンスだ。ひとつずつこの手で流す赤い花こそ、何よりも緻密で素晴らしいのに」
むやみに散らす赤い花は、けして美しくなどならない。丁寧に摘み取ってこそ損なわれない美しさ、瞬間的永遠を紡ぎだす。
「僕はお前の血の芸術を認めない。月居巴という存在は、この世界にただ一人、この僕だ。役者、演出家気取りは、闇に帰るがいい」
刃描く残像は霜降る夜の月虹のような。
割れる仮面。浮かぶ素顔より早く、羽ばたくは大鴉。
死角から来る――咄嗟、迎え撃つ。背中合わせ、急所に添えられた矛と、羽根の刃。
「連戦とは、聞いてない」
『違うよ。無様に死ぬはずだった君を迎えに来たんだけど……無駄足だったみたい』
「ラーベ。僕は、お前も嫌いだ。徒に命を散らすお前も、反吐が出そうだった」
『そう。なら、月居は生きなくちゃならないね。僕に笑われないように』
消えゆく鴉へ、言われなくても、と夜空見上げれば。白い仮面は月明かりに照らされた。
●女皇
「やはり、な」
フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889)の目の前には、たっぷりの嘲笑を浮かべているロード・ナインライヴス。
『愚かな奴よな。自ら私を呼び、再び闇に這いつくばりに来るとは……。しかし実験の成果を直に確認する良い機会だ』
「私にとってもアレは拭いきれぬ過去だ! 貴様を相手に乗り越えさせてもらうぞ!」
目の前のロードが企てた謀略が、今や世界の情勢に大きくかかわっている。だからこそ表裏に繋がる業の始末を、自ら付けたい気持ちは何よりも強いのだろう。
『くっくっく、我の器如きが吠える吠える。再びその身に絶望を映し、その身体を明け渡してもらおうぞ』
蒼と蒼がうねる中、フィナレは大胆に踏み込み、しかし精密な狙いは九龍の如くロードへと噛みついた。
『ダークネスとはその魂に宿る別人格、だが我らデモノイドは、ロードは果たしていかような存在なのか? 悪の心で支配する? なればそれはお前自身の闇と同義ではないか!』
「なるほど、人が善なる存在であれば、貴様たちが何故生まれ出たのか、その存在意義自体が揺らぐものな。だがそれは否定せん」
ロードの刃が突き上がり、フィナレの頬に血が浮いた。問いへ、闇へ、返す刃は同じく蒼。
「確かにお前はもう一人の私に近いものなのだろうよ。だが私とお前は決定的に違う!」
出会い、培ったもの。振るう一太刀に込めるものは、人の強さ。
「私はフィナレ・ナインライヴスだ! どれだけ策を講じようとロード、いやそう呼ぶのさえ失礼だな。紛い物の貴様になど負ける同義がない!」
迷いなく放つ、ロードの仮面ど真ん中を狙って。
ぐにゃり、歪む虚像。
『まぁ良い。次を楽しみにするとしよう』
「次など、紛い物に訪れる事はあるまいよ」
粉々の玻璃箱を一瞥して、フィナレは身を翻す。
●からの闇
「己の闇ってなんだろ、全然思い浮かばないけど……」
レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)は、額に指当て考えてみたけれど。人生のひとつひとつの出来事を前向きに受け止めていたから。この瞬間になっても、思い当たるものは何一つなくて。
「むしろ思い浮かばないからこそちょっと楽しみかなぁ、どんなのが僕の闇なのか見てみたいもん!」
もしも何も出なかったら、それはそれで面白い。
「さあ、くるならこーい!」
勢いよく箱のふたを弾けば。巡る、放浪の景色。変わる、乾いた色へ。
砂塵吹き荒び、やせ細った世界から湧き上がるもの。
オナカスイタ――。
見たことのあるような輪郭。理性なく貪るだけの、骨と皮で出来た無頭の鬼。同時に訪れる飢餓感。
「うわぁ、こういうのも心の闇って扱いなんだ……確かにトラウマかもしれない」
そういえばあの時どうしようもない食糧不足で色々な限界を見出した思い出を回想して。自分の味覚が色々死んでいるのは、これも原因かもーと、ちょっとだけ遠い目。
「でも、でも今はこんな心配ないもんね。恐れるに足らないよっ! トラウマなんか、粉砕して、逆に残さず食べちゃうよ!」
喉に閊える渇きだって、お腹と背中がくっつく様な苦しみだって、全部乗り越えて今が在る。
裂けそうな口で喰いついてきた餓鬼を、ひらり、春風のように柔らかく。或いは突風の様に鋭く。赤紫の髪を靡かせ、鬼神の拳が砕いて潰す。
胃袋を握りつぶされるような感覚の中であろうとも。風は気まぐれに速度を変えて。
「僕は自由だよ、誰にもどこにも囚われないの。だからね――」
玻璃に風が映らないのと同じ。
噴き上がる影が、飢餓ごと全てを噛み砕いた。
●縹渺幻想
『久しぶりだね、どうだ? 悪魔になる覚悟ができたか?』
何処からともなく吹く風に黒髪を揺らしながら、それは能面の様な笑みを浮かべていた。
久条・統弥(槍天鬼牙・d20758)と、双子の様にそっくりな顔。唯の違いは髪の色。
それが『誰なのか』と言われれば曖昧な記憶。しかし、すべてを奪った、いずれ倒さなければならぬ相手だということは、わかる。
『……ふむ、その様子だと私の事をまだ思い出せてないね。がっかりだよ、もう少し純粋な悪意を向けてくれればよかったに』
やれやれと頭を振る男は、統弥を物のようなものとして見ているのが明らかで。感情の起伏が薄いとはいえ、浮かべるものは妙なカリスマを含んでいるから性質が悪い。
『折角彼女を統弥に殺すように仕向けさせたのにこのざまか……やっぱり統弥は失敗作だったんだね』
「くっ……!」
その声に掘り返されるように、大切な人を殺めた感触、感情が、噴出しようと底から突き上げてくる。
「憎しみはある」
肩揺らし、呟く。消えてゆく温もりを見送るしかできなかった自分と、それを仕組んだ者へ。けれど。
「でも飲まれるわけにはいかない。守りたい仲間ができたんだ……乗り越えてボクは強くなって見せる!」
振り払い、走りゆくのは蒼き光。
『仲間が、守るべきものが在るから。弱き者ほどこそ、愚かな幻想を抱きたがる』
くだらないと一蹴して、迎え撃つそれは悪魔のよう。躊躇いなく霊刀・陽華の刃を振るい続け―― 鏡のような刃に砕けるそれは、最後まで嘲笑いながら消えてゆく。
手に残った重み。それは記憶の欠片?
握りしめる。共に歩き続けると。
●眩めく刻
口の中に仄かに残る味は、家族からの愛。
ホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988)が見つめる先には、狂気浮かべる父の顔。衣服に咲き乱れるは紅の花。剣から滴る血も生々しく。
愛する者たちの血を吸ったその剣は今、自身の手に。
「あの時の我輩は無力な子供でしたが、今は違う。友が、新しい家族が……何より心から愛しいと思える最愛の女性がいる!」
潰すような、空を劈く剣圧。しかと受け流し、ホテルスは鬼神の拳を解き放つ。
『はは、はははは! 此れが闇堕ちしたのは貴様を守る為。故郷が滅びたのは貴様の所為。そんな貴様に幸せ等許されない』
瞳孔の開ききった目で嘲笑浮かべ、滑る様に間合いを詰める父親。
酷い勢いで回想される過去。視界、眩めく。
「くっ!」
斬撃がホテルスを引き裂いたが、まだまだ光は潰えない。命の恩人であり、師でもあるあの方に賜った精神と、鋭い風の力を振るう。
「今度こそ守り抜く為に、絶対に乗り越えて見せる!」
その忌まわしいミミングスの剣で立ち向かうのは。トラウマを乗り越えるという決意。
何一つ抵抗できず。母を、妹を、そして幼なじみで初恋の少女を。失うことしかできなかった自分自身に打ち克つ為に。
『お前は誰も守れない、あの餓鬼に庇われた時のように』
父親が必殺の斬撃を振るってきた。刹那、目隠しの様に現れる背中。
幻だ。愛した故の。
「過去に囚われるな。我輩は死ねない! 惚れた女を泣かせてたまるか!」
姑息な一撃を紙一重にかわし、振るう。嘗ての父のように騎士として、今度こそ大切な者を守り抜く為。指に輝くサードオニキスの誓いと共に、全力の一撃を。
「こんな形で父越えしたくありませんでしたよ、父上……」
消えてゆく父親へ。ホルテスは瞑目すると顔を伏せた。
●凶炎の獣
箱を開ければ広がったのは、無限の闇。
「単純に暗闇というのなら笑わせてくれるが……いや、これは」
何処かで感じたそれを理解したかどうかの刹那、炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)は目を見開いて。
途端押し寄せる、混濁たる記憶達。襲いかかるそれに、軛は潰される――。
ふと……軛は感じ取る。幾つもの瞳に宿る悲しみ、脈々と受け継がれる血潮の継承者たち、家族。
しかし動けない。去ってゆくのを感じるだけで、指一つ動かせぬ身には何ができようか。
ただ、何故、何故! と。
苛立ち、悲しみ、絶望。巡る、巡る、何も為せぬまま朽ちる恐怖。
――識っている。
軛は、生きる為にするべきことを識っている。
――だのに何故わたしだけ。
連綿と刻まれた『本能』と、それを許さぬ不条理。
瞬間、ざわりと総毛立つ思いを感じた。
突如輝くもの。たなびく炎を目で追う事も出来ず。紅は混沌としていた。
――これがわたしの。
軛は闇を自覚した。そして理解する、刹那は繰り返すのだ、と。
ただもがく。何度も我武者羅に揺り暴れ。漏らせぬ唸りに苛立ちは加速して。延々と巡る切り取られた時間。あの時確かに目覚められた筈なのに。何故此処に居るのか、思い出せないほどに。
解けない。動けない。血に受け継がれた本能を全うしようとしてもそれが出来ないこの地獄から、助けてくれる者など居ない。
そう今回は自分だけ。
嘲笑うそれ。それは獅子か、大鷲か。炎の中曖昧な輪郭は掴めずとも、軛は十字傷を見る。
炎獣の何かに突き動かされるように。
解けないのではない、動けないわけがない。解く、追え、動ける。わたしは、動けるのだ。
「――逃げるのか! わたし達の、敵!」
鎖引きちぎられる様な、砕ける音が世界を揺るがす。
――今度ハ自ラノ力デ砕イタカ。
そう言わんげな、真赤な瞳を見た時。世界は、白炎と共に蘇る。
●残
気が付けば、そこに箱が在った。
蓋の閉じてない箱は、未だ君の前に在る。
災厄消えて、その箱の底に何を見たのか。
それは君のみぞ知る。
作者:那珂川未来 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年11月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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