顕現せし棘

    作者:菖蒲

    ●situation
     穏やかな気候を忘れ去りつつある11月の昼下がりは、何処か肌寒さを感じさせた。休日であるからか買い物客で賑わうアーケード街の一角で、響き渡った慟哭。その声に反応した客も数多く居た事だろう。
    「クッ……サイキックエナジーが暴走してしまいそうだな……」
     ぼそりと呟いた大男の頭には猛々しい角が生えている。身体を覆った棘も印象的な『影』の使徒は背にダイヤのマークを浮かべ、座り込んだ子供の眸を覗きこむ。
    「ふむ、丁度模擬戦にはいいではないか……!
     ワタシもまだこの『力』の抑え方には慣れては居ないのでな」
     独り言のように呟く彼に子どもはいやいやと首を振る。柔らかな陽光の射しこむスーパーマーケットの前、子供が目を見開くと同時、覆いかぶさる影が――
     
    ●introduction
     困り顔の不破・真鶴(中学生エクスブレイン・dn0213)は灼滅者を見るに「どうしましょう」と囁いた。傍らに置いたままのホットココアのカップを気に留めることなく悩ましげに眉を寄せ、「シャドウがね」と呟く。
    「あの、ソウルボード内で活動するシャドウが、現実世界に出てきたみたい……なの」
     普段であればソウルボード内で活動しているシャドウが実体化している。それだけでも不思議で仕方がない事例だ。顕現した以上何らかの目的が在るのだろうが真鶴は首を捻りっ放しである。
    「現場はお昼下がりのスーパーマーケット前。アーケードの一角ね。
     休日だし結構買い物のお客様が多いみたい……だけど、そこにシャドウの『エスピーナ』が現れたの」
     困り顔は面倒な所に出現したシャドウへの対処方法に迷っているのだと言う事だろう。ダークネスであるシャドウは強い。彼を相手にしながら避難誘導を行うと言うのも中々に骨が折れるのではないかというのが真鶴の心配事だ。
    「現実世界に出現したシャドウは高い戦闘能力を持つのは知っている……よね?
     それでも一定期間以内にソウルボードに戻らなければならないと言う制約があったの」
     でも、今回は違うのだと真鶴は困った様に金色の眸を細める。唇を尖らせて、悩ましげに言葉を選んだ後、「その制約は今回には適応されないみたい」と灼滅者へと告げる。
    「力をセーブすることで長時間の戦闘に耐える能力を得た、みたいなのね。セーブされてるっていっても……その戦闘力は並みのダークネス以上、危険なことには変わりないのよ」
     
    「で、そんな危ない奴のトコに行くのに周囲には一般人がいるんだっけ?」
     頷いた真鶴の隣で海島・汐(高校生殺人鬼・dn0214)が悩ましげに眉を寄せる。
    「戦闘中に手数を減らすのも得策とは言えない……よな。俺が避難誘導をしても良いかな」
    「ええと、汐先輩が避難誘導に当たるから皆には戦いに専念して欲しい、ってこと?」
     そういうこと、と頷いた汐は「皆の事頼りにしてるんだぜ」と笑みを浮かべた。
    「ハッピーエンドはみんなの手で、だものね。マナはここでお帰りを待ってるわ」
     どうぞ、頑張って、と激励するように真鶴は力強く告げた。


    参加者
    山城・竹緒(デイドリームワンダー・d00763)
    加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)
    ウェア・スクリーン(神景・d12666)
    ティルメア・エスパーダ(カラドリウスの雛・d16209)
    遠野森・信彦(蒼狼・d18583)
    石見・鈴莉(融翼の炎・d18988)
    雨時雨・煌理(南京ダイヤリスト・d25041)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)

    ■リプレイ


     冴え冴えとした空を隔てるアーケードの中、買い物客で賑わう道で突如として上がった子供の泣き声に鼓膜を揺さぶられる。鴉の濡れ羽色の髪を揺らし、子供の前にどっしりとその巨体を向けていた筋骨隆々の男を指差した山城・竹緒(デイドリームワンダー・d00763)は「わぁ」と声を上げた。
    「すごいマッチョなシャドウさんだ!」
     天真爛漫な竹緒の唐突な一言に何事かと振り仰いだ男――シャドウ『エスピーナ』は突如として眼前へと迫る風が如き少女の姿に仰け反った。蝋細工を思わすエアシューズの車輪は焔を灯すが如く――風を纏うがごとに解けていくかのような錯覚を思わせる。
    「大丈夫? こっちだよ」
     座りこんだ子どもへと囁いた石見・鈴莉(融翼の炎・d18988)の声は何処までも力強い。速度へと執着する鈴莉が子供の身体をとん、と押す。突き飛ばしてでも良い、彼を護るための行為だと言い聞かせる様に鈴莉はその新緑の色の眸を細めた。
    「ダイヤのシャドウ……?」
    「そちらは灼滅者か、何、面白い」
     くつくつと咽喉で笑ったエスピーナの反応に茫とした瞳をつい、と向けた雨時雨・煌理(南京ダイヤリスト・d25041)が契約の指輪へ宛がわれた彼女の髪色と同じ宝石を唇でなぞる。煌理が学園で読んだ報告書のシャドウと余りに変わり映えしないエスピーナの様子は、まさに。
    「報告書を読んでも読んでも現実へ現れてくるシャドウは露出狂の変態ばかりか」
    「確かに……宿敵(アンブレイカブル)と似てる雰囲気?」
     煌理の言葉に小さく頷いた押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)は初めて眼にしたシャドウの様子を訝しむかの様に首を傾げる。子どもからすっかり意識を灼滅者に向けたエスピーナは両手を打ち合わせ、しかと灼滅者を見据えた。
    「それで力試しに協力してくれるとでも?」
    「協力? 現実世界に来てまで遣る事は弱い者イジメかい? デカい図体だったのにやることは米粒みたいに小さいんだな」
     午後の穏やかな空気を切り裂く様にハッキリと言い切った遠野森・信彦(蒼狼・d18583)が挑発的に焔を思わせる眸を細める。彼の肩をぽん、と叩いた誠士郎は小さく頷いて、信彦と逆方向へと走り出した。
    「俺達の分まで思う存分暴れてこい!」
    「勿論だ――その力、制御できずに闘える自信がないか? どっちにしても俺達が相手してやるよ」
     かかってきな、と信彦が吐き出す前にエスピーナがその逞しい腕を振り上げる。周囲の音を遮断し、シャドウの腕目掛けて放たれる魔法弾が鋭い勢いで跳びこんだ。
    「色々気になる事はあるけど、まずは目の前の事に集中……だね?」
    「はい……、さゆ、達ががんばる、ですよ」
     人好きする笑みを浮かべたティルメア・エスパーダ(カラドリウスの雛・d16209)の言葉にこくん、と加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)が頷いた。
     さっちゃん、と呼ばれたふんわりとした雪を思わす霊犬は主人を護る様に小さく、威嚇するが如く鳴いた。


     シャドウは力の制御のための練習相手に手当たり次第に相手を探して居るのだそうだ。その度に無用な犠牲が出る事を看過できないとウェア・スクリーン(神景・d12666)は真白の髪を揺らし瞬く。
    「シャドウなのに現実に拘って居る様ですが、『歓喜のデスギガス』さんの思惑でしょうか……? どちらであれど、エスピーナさん、悪いですが――邪魔、させて頂きます……」
     淡々と告げるウェアの声に面白いと唇を歪めるエスピーナは何も答えない。強大な敵であるシャドウたる彼にとって灼滅者も『よい力試し』の相手なのであろう。
     オーラを拳に収束させ、殴りつけんとするエスピーナの動きを避ける様に身体を逸らす煌理が至近距離から弾丸を打ち出した。魔力を収束させたソレに仰け反り、避ける動きを見せたエスピーナの横面へまっすぐ槍を勢いよく突き刺す竹緒が楽しげに眸を細める。
    「慌てず、騒がず、それでいてスムーズに誘導おねがい!」
     びしっとポーズを決めた竹緒に「了解!」と頷いた海島・汐(高校生殺人鬼・dn0214)が子どもの手を取りアーケードの外へと走り出す。殺気を放ち周囲から一般人を遠ざけんとする鈴莉の傍らで、流れ弾なら任せて下さいとウィンク一つ見せた璃理が男性を手招いた。
    「……絶対、逃がしたら面倒くさそう」
    「それは同感、かな。現実に出てこられる様に力を抑えるやり方、誰に教えて貰ったの?」
     にぃ、と唇を釣り上げたティルメアは戦場に置いても笑みを崩さない。鈴莉の言葉に困った様に笑った笑顔の裏――怯えた様な仕草が見えたのは、彼が彼なりに強さを探究した結果なのかもしれない。
     エスピーナは「言って何になるのだ」と曖昧な言葉しか返さない。いまいち掴みどころのない『角ハゲ』に信彦が何処か遣り辛そうに拳を固めた。
    「イマイチパッとしない奴だな……まぁ、いいか……。
     俺がお前に力だけじゃ越えられないもん、見せてやるよ!」
     地面を踏みしめる。信彦の拳を覆ったのは蒼い焔を思わせる彼の強い意志(ほのお)。
     信彦に続き、手にした武器を構えた祠神威・鉤爪に煌理はちらりと視線を向けた。言葉はいらないと唇が小さく揺れる。宝石を誂えた指輪が煌めき、唇に軽く触れた。
     拳を受けとめ出来た隙へ、真っ直ぐに飛び込んだ弾丸にエスピーナが怯む――其の隙を、彼女のビハインドは見逃さない。霊撃が煌理が図ったタイミングでエスピーナの腹へと飛び込んだ。
    「そこな変態。言え、懺悔とは聖職者について嘘偽りなく吐露することだ」
    「言葉にせずとも気付け、お前さんよ。ワタシは無駄な言葉よりもこの拳をぶつけ合いたい」
     瞬きに、ハリマは「どすこーいっ!」と気張り雷撃をまっすぐにエスピーナの体へとぶつける。巨体のハリマは日々精進し、磨く技を確かめる様に一つ一つ目の前のシャドウへとぶつけていく。
    「その力、暴走する程にあり余ってるの? どこから、手に入れたのかは教えて貰えないのかな」
    「考えろ、そして感じろ!」
     無茶な事を言うもののエスピーナの『拳』とて黙っては居ない。喉をぐるぐると鳴らした円が注意深くシャドウの行動を見詰めている中、前衛に立つ竹緒目掛けて精神に潜むトラウマを引き摺り出すかのように影の拳を振り下ろした。
    「お願いね、さっちゃん……!」
     薄氷を思わす眸へ憂いを乗せて、彩雪は両手でしっかりとクルセイドソードを握りしめた。
     両親や兄たちが居らぬこの現場で、幼い彼女が不安を抱くのは仕方がない。それでも傍らにさっちゃんが居るだけで勇気づけられるのだと、小さな少女は懸命に仲間達を支援する様にと霊犬へと願った。
    「……貴方の対戦相手は、さゆ、です……!」
     精一杯に張り上げた声。懸命に振るった刃を弾く様にエスピーナが身体に力を入れる。唇を尖らせた彩雪が地面を蹴り、癒す様に両手を組み合わせたウェアが「簡単に、倒れさせません……」と柔らかく囁いた。
     地面に付いた掌へ力を込めて、まるで翼を得た様にエアシューズの車輪を回転させた鈴莉が結い上げた髪を揺らし、手にしたシールドで殴りつける。
    (「もっと早く――もっと走らなきゃ、ここで止まったら、あたしは壊される……!」)
     風を纏い少女は、只、跳ね上がった。


     こっちへ、と手を伸ばすアルスメリアに「ひなんゆうどうするです」と頷いた瑠乃鴉が尻尾を揺らし走り出す。混沌としたアーケードでの避難誘導を懸命に手伝う亞羽は滲んだ汗を拭いエスピーナへと視線を移した。
     尻尾を揺らす霊犬の花の頭をくしゃりと撫でた汐が誠士郎と共に一般人を保護するのをしかと見守りながらウェアは小さく頷く。
    「そんな薄着で寒くありませんか……?」
     冷気を纏った妖気を放つ彼女は誰かを失う事無い様にとサポートに徹していた。閉じた瞳の色は覗けない。何か祈る様に伏せたままの瞼は、彼女が望む美しい景色を見ているかのように頑なに閉じたままだ。
    「命あってのものだねだから」
     頷く様に避難誘導をちらりと見遣ったハリマもサポートを続けている。撤退の条件も考えた上で、彼は負けぬ様にと仲間達を『守護』する形を整えた。
    (「……なんで実体化したんだろ。わざわざ力を抑えてまで現実でやりたいことがあったのかな」)
     悩ましげに唇を尖らせたティルメアの胸元でリボンタイが揺れる。笑顔で居れば辛いのも痛いのも『こわく』なんてないのだと、踏み出す一歩。
     エスピーナの身体を包み込む棘が眼前に迫りくることに気付いた刹那、
    「ティルメア、さん……!」
     は、と息を飲んだ彩雪が「さっちゃん、回復を……!」と直ぐ様に要請する。彼女の反応に気付いた様に癒しを送ったハリマも「円、お願いね」とティルメアへの癒しを促した。
    「大丈夫、だから――笑って」
     柔らかに。傷を負っても笑みを崩さぬティルメアが翼のモチーフを刻んだエアシューズでアスファルトの上を駆けた。
     ほっと息を吐いた彩雪が華奢な両手で握りしめた重たい刃。今度は弾かれる事が無い様、狙いを定めたのはエスピーナの尖った棘。
     視界に入るシャドウのダイヤのマーク。牛を思わす角が何とも高圧的な雰囲気を持っていても、彩雪は挫けないと唇を噛み締めた。
    「さゆは、……強く、なりたい」
     それはたった独り、言葉にするとその想いが大きくなっていく。護られるだけではなくなった小さな少女は、ゆっくり、恐る恐るも踏み出した。その、意志を力に代えて、振り下ろす切っ先をエスピーナが受けとめる。
    「まだまだだよ? 見た目通り凄いパワーしてるんだね。でも、私達だって負けないんだから!」
     笑みを崩さないのは竹緒だって同じだった。まるで友人が如く話しかける竹緒は己のリズムを崩さぬ様に戦線を支え続ける。ふと、疑問が浮かんだからだろうか、首をこてんと傾げた彼女は悪びれる仕草もなく「あのね、」とクラスメイトへ問い掛ける様にエスピーナへ話しかけた。
    「ダイヤのシャドウさんたちはぶしん大戦ごくま……なんとかのために現実で動ける様に頑張ってるんだよね?
     ひょっとしてひょっとしたらエスピーナさんがシャドウの大将さんだったりするの?」
    「気に入ったぞ、少女よ。ワタシを其処まで評価してくれるとはな! 残念だが答えはノーだ」
     急にテンションの上がったエスピーナに思わず笑みを固まらせるティルメア。ふわり、と浮かび上がり蹴りを放つ彼がまるで鳥の様に身体を捻り上げる。彼の体の下、滑り込む様に飛び込んだ竹緒が「どかん!」とフルスイングを一つ。合わせる様に雷撃を放ったハリマも「どすこい!」と竹緒の合図に声を乗せた。魔力を流し込むその一撃に思わず呻いたエスピーナの許にできたのは大きな『隙』。
    「何処見てんだよ、角ハゲ!」
     唇を釣り上げて、焔を纏ったままに蹴り飛ばす信彦。頬から垂れた血を拭い、瞳は戦闘を楽しむかのように爛々と輝いた。虚を衝かれたエスピーナが「お、」と声を漏らす。じゃらりとアクセサリーを揺らした煌理が破邪の剣を手に飛び込めばシャドウは油断ならぬと独りごちた。
    「『ケンカ』で余所見か……良い度胸だな?」
     打ち合わせた拳。にぃ、と浮かんだ笑みは昔の激情を拳に乗せた日々を思い返すかのような、そんな淡いもの。しかし、暴力を暴力として肯定するだけではない。信彦にとっての力は『誰かを護る』意味のある物に昇華されたのだから。
    「意味のある暴力、お見舞いして遣るよ!」
    「面白い! 見せてみろ、灼滅者!」
     エスピーナによる影の暴力が無尽蔵に襲い来る。静まり返りつつあるアーケードに響くのは息を切らし強敵と相対する灼滅者の声と、遠巻きに避難誘導を続ける灼滅者達の呼び声だけ。
    「……負け、ません、です」
     きゅ、と涼手で握りしめた刃の意味を確かめる様に彩雪が走り寄る。彼女の剣を受けとめて、しかし裂傷に蹲ったシャドウが雄叫びを上げ振るい上げた拳の傷をウェアは器用に槍で受けとめる。
    「そちらの棘とこちらの槍、どちらが鋭いでしょうか?」
    「言うな……!」
     貫き、そして通す――!
     口数さえ少なくなったシャドウの横面を焔を纏い殴りつけた信彦が唇を釣り上げた。危うきを感じながら傷を癒すハリマとウェアによる戦線の安定は大きな力となっている。
    「――この……!」
     吼える様に叫声を上げたエスピーナの眼前で聖職者は笑う。茫とした瞳に宿したいろの意味を、彼女の他に、誰も知らない。
    「囀るな」
     淡々と告げられた言葉と共に、聖職者から下された『断罪』は煌理の力を得て初めて稼働したかのような剣による一撃。
     地面を踏みしめる。戦いによる歓喜をエスピーナが抱いていたのではないかと悩ましげであったハリマの日常を取り戻すかのように。
     掌で挟んだシャドウの顔。そのまま一気に捻り倒したその衝撃に呻くエスピーナが「貴様……!」と吐き出した。
     地面を踏みしめた鈴莉の眸がエスピーナと克ち合った。「あなたは、」と続ける言葉を聞く事は無く、シャドウの身体は崩れ去る。
     それは、風が砂を攫うかのように――さらさらと消え去った。


    「ちゃんと避難できたみたいでよかったー。みんなありがとね!」
     にんまりと浮かべた竹緒の裏表ない笑顔に避難誘導を買って出た灼滅者達が柔らかに笑みを浮かべる。
     ウェアや彩雪がほっと一息吐いたのは無用な被害が出ずに済んだからだろう。己が闇に飲まれる事さえも覚悟していた鈴莉は強敵を倒し切った事を実感するかのように掌をじ、っと見つめる。
    (「歓喜のデスギガスとかそういうのがトップだったはずだよね?
      歓喜……『歓喜の門』? 灼滅者とダークネスを分かつもの。もしも、デスギガスの最終目的が、それにちょっかいを与える事とかなら……ぞっと、しないね」)
     不安が胸中渦巻くのも致し方ない。暗闇を手探りに歩み続けるかのような足元の覚束なさを感じているのだ。そして、先程のシャドウ――強敵が、目の前に居たのだから。だが、今は一つも命が失われなかった事に感謝しようと柔らかに息を吐いて。
    「初任務、無事終わったな、お疲れさん!」
     にか、と笑った信彦に瞬いた汐は恥ずかしそうに頬を掻いて「ありがとなー」とへらりと笑う。気づかってくれて嬉しいと浮かべた照れ笑いに岬が可笑しそうに手を揺らす。
     初めての戦いに安堵した様に息を吐いたハリマに「お疲れ」と笑いかけた汐は彼の「ウッス」という体育会系の返事に虚を衝かれた様に瞬いた。
    「……本当に、何したかったのかな」
    「何も言葉にしなくては、推し測ることも出来ないからな。――一体誰が術を教えたのか」
     聖職者は独り悩む。思い感じた事を口にして、判断一つ下せぬ己を思い返すかのように欺瞞に満ちたシャドウが消えた場所を眺める眸をそっと伏せた。
     痩身を飾るアクセサリーが反射したのはアーケードを彩る柔らかな光、只、それだけ。

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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