芸術発表会2014~芸術は超爆発だ!

    作者:波多野志郎

     芸術の秋。
     武蔵坂学園の秋を彩る芸術発表会に向けた準備が始まろうとしてた。
     全8部門で芸術のなんたるかを競う芸術発表会は、対外的にも高い評価を得ており、武蔵坂学園のPTA向けパンフレットにも大きく紹介されている一大イベントである。

     この一大イベントのために、11月の時間割は大きく変化している。
     11月初頭から芸術発表会までの間、芸術科目の授業の全てと、特別学習の授業の多くが芸術発表会の準備にあてられ、ホームルームや部活動でも芸術発表会向けの特別活動に変更されているのだ。
     ……自習の授業が増えて教師が楽だとか、出席を取らない授業が多くて、いろいろ誤魔化せて便利とか、そう考える不届き者もいないでは無いが、多くの学生は、芸術の秋に青春の全てを捧げることだろう。
     少なくとも、表向きは、そういうことになっている。

     芸術発表会の部門は『創作料理』『詩(ポエム)』『創作ダンス』『人物画』『書道』『器楽』『服飾』『総合芸術』の8つ。
     芸術発表会に参加する学生は、これらの芸術を磨き上げ、一つの作品を作りあげるのだ。

     芸術発表会の優秀者を決定する、11月21日に向け、学生達はそれぞれの種目ごとに、それぞれの方法で芸術の火花を散らす。
     それは、武蔵坂学園の秋の風物詩であった。

     芸術は爆発だ!
     これは今は亡き、偉大なる芸術家先生の言葉である!
     芸術とはなんだ? 作品とはなんだ?
     それはすなわちあなた自身! あなたの生き様! あなたの在り方!
     本来芸術に垣根などない!
     自由に、自らが信ずるもの、個性。
     それらを表現するんだ!

    「ふむ?」
     芸術発表会で賑わう武蔵坂学園。校庭の片隅にあるベンチに腰掛け、翠織は手元の資料に視線を走らせていた。ちなみに、「芸術は爆発だ!」からのくだりはパンフレットではなく、前年までの総合芸術部門での謳い文句である。
     まず七つ『創作料理』『詩(ポエム)』『創作ダンス』『人物画』『書道』『器楽』『服飾』――以上のそれぞれでは、すべき事が決定されている。人物画を描きながらダンスはしないし、創作料理をしながら書道は綴らないだろう。それぞれの目的にあった演目に対する技量とスキルが重要になるのが、七つの部門だ。
     だが、と翠織は眼鏡をくいっと押し上げながら、パンフレットに改めて視線を落とす。
    (「総合芸術部門は言わばバーリトゥード――『何でもあり』っす。そこには、一切の定石が存在しないっす」)
     ようは、書道をしながら楽器を演奏したり、料理をしながらダンスを踊ろうと『アリ』なのだ。 ルールは単純、公序良俗に反さない事。そして、発表するそれを胸を張って芸術だ、と叫べる事だ。
    「芸術は爆発だ、はそういう意味では適切な言葉っすね」
     芸術とは、幅広いものだ。広義で言えば、創作物によって人を感動させるのならばそれはすべからず芸術になる。そして、人類史を紐解いた時、芸術とはまさに『何でもあり』なのだ、とわかる。
     ようするに、総合芸術部門と他の部門の最大の違いは、ネタ出しの時点から芸術活動が始まっている、という点なのである。
    「グループによる参加はもちろん、個人の参加もあり。そもそも、ネタ枠が多いのが毎年の総合部門の特徴っすからねー」
     ぺらり、とパンフレットをめくり、翠織はため息をこぼした。ここ最近、武蔵坂学園に入学した、あるいは転入してきた生徒も多い。今年初めて、芸術発表会に参加する者もいるだろう。昨年までの総合芸術部門は、学園の資料で確認できる。探して参考にするのもいいだろう。
    「まぁ、結局はアレっすよね」
     翠織は、改めてパンフレットから視線を上げる。そこには、芸術発表会に向けて練習に励む生徒達の姿があった。まさに、お祭り騒ぎ――否、これは確かにお祭りそのものなのだ。
     人々を感動させ、楽しませる――そういう意味では、芸術発表会は既に始まっている。その空気を眺め、翠織はため息をこぼす。
    「まぁ、今年もガツーンと楽しみましょうって事っすね」
     そう、ツッコミ役こと翠織は笑顔で言った。


    ■リプレイ


    「この写真機もこんな使われ方するとは思ってもみなかったでしょうね」
     写真部門は総合芸術だけと聴いて、佐祐理は写真機を手に学園を駆け回る。練習する者、出し物の用意をする者、そういう生徒達を写真に映して回っているのだ。
    「ケツァールマスクを模倣したドロップキック、洗練された闘技の極地の」
    「芸術(物理)は禁止っすよ」
     注意を受けたリィザを見送り、佐祐理は歩き出す。お祭り騒ぎが、始まった。


    「なんでこんなことになったんだろうな」
     しみじみと呟き、奈落は仲間達を見た。
    「細かいあれこれと技術を教えるよりはそれぞれの魅力を出して行こう。楽しんだ者勝ちさ!」
     サーカスに所属していたアルルの指導の元、フィオルと奏樹は笑顔を輝かせてうなずいた。
    「見てくれた皆が笑顔になってくれる舞台にするため、頑張ろう!」
    「ボクししょーに習った拳舞しかできないけど。武闘は武闘に通じてるってししょーも言ってたし、だいじょーぶだよね!」
     ミュージカル風の歌とダンス、その練習の光景だけでも彼等の熱の入れ様が奈落には伝わった。美冬も衣装と演出係として大満足だ。
    「みんなでやるのはきっと楽しいですから」
    (「舞台に上がる事は無い筈だ、無いよな?」)
     その疑念は現実のものとなる。フィオルと奏樹、アルルに壊れた奈落は、本番で華やかなステージをより盛り上げるダンスを披露した。

     恵理はさまざまな英国風の食べ物と英国の血と祖母から継いだ紅茶の淹れ方で丹念に紅茶を淹れると、紗月へと振舞った。
    「落ち着く為にもスコーンをお一つってあわわ」
     スコーンをお手玉する紗月に、恵理は微笑んだ。
    「うーん、いつも通りなのでしょうか?」
    「あら、私嘘なんか描いてませんよ?可愛らしくて嬉しそうな食べ方じゃないですか、ふふっ」
     日常の光景を絵に描いていく恵理と、笑った瞬間の恵理を写真に撮る紗月。穏やかな時間という芸実が、そこにはあった。

    「ククク、ついに我が居城の最強の門番を造る時がきたぞ!」
     ラクエルの前にあるのが関節の動くガーゴイル像、フィギュアだ。
    「魔王様はどのようなものをお付けになられますのでしょうか」
    「このメカナノナノフェイス、強さと愛らしさを備えて最強に見えるのじゃ」
    「私が持ってきた装備品はこちらでございます! ご照覧あれエ!」
    「さて、どないしよかなっと。うぇっへっへ、皆色んなん持ってきてんなぁ」
    「うむ、電柱にこの角のある髑髏」
     問いかけるみくるにラクエルは得意満面に答え、ラクエルの服を模した際どい魔王ドレスを手に恭乃が絶叫、鞄の中から持参したパーツをアリアは取り出し、白金は電柱を持った白骨の手を握り悦に入った。
     かくして、出来上がったのは左肩に電柱を持った白骨の手、頭部に角の生えた骸骨と角が突き刺さり、無数の頭を装着。際どい魔王ドレスと杖。両手首にドリルアームに、メカっぽいナノナノの顔をした胸部装甲……ガーゴイル? が爆誕した。
    「あ、こいつもや」
     爆笑しながら、アリアはやたら豪華な黒い羽根のコートを被せて完成させた。みくるもその勇姿に、しみじみとこぼした。
    「何やらお素晴らしいお姿になられました」
     ラクエルも、満足げにうなずいた。
    「正式名称も決めてやらんといかんのう」
     魔王城のメンバーは、新たな『仲間』の名前を考えるのだった。

     校庭の片隅。三樹は丸太の前でナイフを片手に舞うようにステップした。
    「爆発的な芸術。そうね、前衛的な何かをすればいいのよねたぶん」
     その答えが、丸太をナイフで踊りながら刻んで彫刻だ。
    「お姉さまアレをやるわよ。よろしくってよ。だいたいそんな感じよ」
     三樹は舞い、丸太を前衛芸術的に掘っていった。

     これは、加具土につけられたカメラが撮ったPVだ。クロ助が「ふぃにくすのいちにち」と書かれた紙を咥え、カメラの前を横切る。
    「お嬢様、本日のお薦めはローズティーでございます」
     声を低くして執事服に袖を通した昭乃がお嬢様に告げた。カメラはしっかりと昭乃の表情から、女性の顔へと映った。
    「良い香りね、何か軽食も頂けるかしら」
     そう文字通り低い声で、秋色の上品なドレスと栗色ロングウェーブの鬘装着でお嬢様風に女装した靱が言った。それに答えたのは、やけくそ気味のフリフリエプロンメイドの恢と髪を撫でつけた執事服姿のメデューナだ。
    「それでは当店自慢の《萌えv萌え オムライス》は如何ですか☆?」
    「スコーンも御座います。蜂蜜をたっぷりつけてお召し上がりください」
     スコーンの乗った皿を届けるのは、ロングスカートの黒髪のカツラをかぶったクラシカルなメイド服姿の実だ。
    「こちらはサービスになっております。……コーヒーはどのようにしていれるんだしたっけ?」
    「それは豆が焦げるミルクが匂うっ!?」
    「火傷にお気をつけ下さいませ」
     小声のやり取りが、マイクが拾ってしまうのもご愛嬌だ。バリスタ服で豪快に豆を引く織姫に、純白肩出しメイド服、金髪ロールのウィッグという勇弥が戦慄、涼子がフォロー。
    「ア、アタシが一緒に歌ったげるわよっ」
     必死な裏声の勇弥に、加具土を誘導していた猫、さくらえが転げまわる。歌声が響き渡る喫茶店、それは忘れられないPVとなった、あらゆる意味で。

    「なぁ、俺センス皆無なんだけど」
     大丈夫だよね、とあさきは唸った。墨に達磨筆を用いて豪快に筆を走らせ、寂蓮は笑う。
    「絵画の中でこれほど「何でもあり」という言葉が似合う物はないよな」
    「せっかくのクラスの思い出だから楽しまないと」
     誓護も水色の絵の具で大きめの絵筆で文字を綴っていく。
    「はは、愉快痛快ってのはこの事だな」
     水色の絵の具の入った水鉄砲で、気の向くままに色を落として凉衛は笑う。
    「しかし、こう言っては何ですが、こういうのも良いですよね。きっと良い思い出になりそうです」
    「そうだね!」
     黄色いペンキをつけた星型の型をつけていくシャリンに、わざと傷だらけにした小さめのローラー刷毛で思いっきりオレンジ色の道を描き、歩良は笑う。
     最後に全員の手形をつけ、境南町キャンパス高校2年5組有志のアクションペインティングは完成した。

     用意したのは都市のミニチュアセット。高圧送電線や東京タワーも再現。ビルや街並みも忠実に、その前でまぐろは叫んだ。
    「さあ、みんな怪獣の着ぐるみは着たかしら? 思いっきり暴れて壊して最後は爆発して楽しみましょう!」
     怪獣のきぐるみ姿でまぐろが叫ぶと、トゲとか牙とかついた派手で強そうな怪獣姿の武流が、遠慮なくビルを破壊する。
    「んわーっ」
     普段出さないような大声で、怪獣となったいるかも大暴れ。この物を壊す爽快感は、癖になりそうだ。
    「この街を壊させはしないよ!」
     怪獣へ蹂躙される街を救いに現われたのは、髪はピンクに染めたマスクオフのボディスーツのあるなだ。武流が巨大ヒロインのあるなへと襲い掛かる。ビルごとなぎ払う一撃に、あるなは素早く反応。息のあった攻防だ。
    「って、トゲがスーツに引っかかってる! 破けちゃう! 武流くん、ストップ!」
     スーツの下が見えてしまう、そう思った瞬間、セットが大爆発を起こした。
    「火薬ちょっと多すぎないか?」
     が、大迫力の画像がそこにあった。燃える都市に、怪獣とヒロインの影が激しく戦う姿が、カメラに収められた。

    「そいやっさー!」
     シンプルなビキニ水着でお互いにペンキを掛け合い、股旅館の面々はマーブルカラー色となる。
    「そうれぃ!」
    「さ、さすがにちょっと寒いかも」
     舞姫と華月は、豊州丸を抱きしめて暖を取っていた。秋空に、水着姿は寒いので当然だ。しかし、そのまま地面に引いた巨大な紙へと倒れこんでいく。
    「あ、誰かここに横棒よろしくっすよ!」
    「ちょ、そこもうちょっと角度欲しいって、だめ」
     虎次郎の言葉に、ひらりは悲鳴を上げながらも応える。チームワーク良く、紙には大きく人文字で『家族』の文字が描かれた。
    「これこそが股旅流大爆発芸術である!!」
    「上手に出来ましたー」
     くるりの言葉に、華月も拍手する。
    「もしかして人拓にも鳥肌の痕が残ってたりしませんよね?」
     安寿のそんな言葉に、笑い声が上がった。みんなで笑いあえる、家族の姿がそこにはあった。

     上半身裸の黒子を意識した和装の錠が和太鼓ドラムを叩く。練習とはいえ最終調整だ。熱の入れようは本番同然だ。双調の三味線と千波耶の篠笛による旋律が和太鼓の音と共に和のテイストを味付けし、それに葉月のギターと朋恵のベース、そして歌声がロックな響きを融合させる。『テケテケ』を題材としたオリジナル曲。夜中に留守番をする子供のもとへ、妖怪が次々と現れてお守りをしていくが……終いに子供には妖怪が見えなくなる、そんな物語が音楽のみではなく、葉と時生、葵の手によるサンドアートが演出する。
    「今回、こんなに上手くいったのだから、本番もこの調子で頑張って行こうか」
    「とってもすてきになりそうなのです!」
     葵の言葉に、市松模様の着物姿の朋恵が笑う。
    「本番は今よりもっと爆発させてこーぜ」
    「お前らマジ最高だぜ! 本番もこの調子でブチかましてやろうな!!」
    「けいおん、ファイ、オー!」
     そう、武蔵坂軽音部の心が一つになった。

     箒に乗った「イカれた帽子屋」が空へと浮かぶ、真琴だ。そこにはアリスの巨大なモニュメントが製作中だ。白いウサギの耳を付けたシルクハットに黒いスーツ姿の厳治が呟く。
    「時間がない、時間がない、もっと急ぐべきだ」
    「ジングルベール、ジングルベール、あははっ、ちょっと気が早いかな!」
     シマシマの服を着て猫耳としっぽつけたチェシャ猫ことプラチナは、トランプ兵士人形をアリスへ貼り付けていった。
     そして、当日。完成したアリス像の前へ影人形を引きつれ、豪奢な扇子で口元を隠しながらゆったりとした歩調でハートの女王姿の架月が姿を現わす。
    「芸術発表会へ御集りの皆様方、ようこそ魔法使いたちによるワンダーランドへ。我らがアリスの誘われる不思議の国を、どうか存分にお楽しみください」
     最後にもう一度優雅な一礼した架月の後ろで、めりるが歓声を上げた。
    「芸術は超爆発ですーっ!!」
     厳治が背負っていた時計をセット、タイマーとなったそれは爆発した。


    「般若波羅蜜多――!」
     アリスがスコップを三味線に、栓抜きを撥に見立てたスコップ三味線で般若心教をハードコアに熱唱。それを彩るのは、裁と菖蒲の殺陣。見事な攻防、その間に行なわれる椅子や机やバケツや鍋や鍋の蓋を叩いて鳴らすリズムが、その熱を加速させていった。
    「波羅僧羯帝 菩提 僧莎訶 般若心経!!」
     アリスの高まる歌声に、デッキブラシを打ち合わせながら裁と菖蒲は盛り上げる。蒼汁同盟の歌に、笑いと喝采が上がった。

    「ダンス衣装なんて初めてですが、変じゃないでしょうか?」
    「大丈夫、お綺麗ですよ」
     赤面するフォルケに、瑠璃は微笑む。黒地に白や金のレースが付いたモダンドレスのフォルケと、華美な瑠璃色に金の装飾が入ったボレロと黒いインナー・パンツ姿の瑠璃が音楽に合わせて二人で舞い始める。リードするのは、一つにまとめた黒い髪を躍らせる瑠璃だ。
     徐々にテンポを速くなっていく。ただのダンスではない、踊りながら小道具の陰に隠していたものや衣装に潜ませていた武器を使って音を加速させていく――やがて、そこは武闘場と化した。
     最後に二人が決めポーズを取った瞬間、花火が大爆破した。それに、観客も喝采を送った。

     ステージの上で、アシュが構えた。その手にあるのは銃ではない、トランプの束だ。
     ペットボトルに集中して、アシュは、トランプを投擲。52枚のトランプ投げ終え、アシュは無傷のペットボトルへと歩み寄る。
    「うん。いい千切りが出来た」
     ペットボトルは無理だ、と判断したアユはネギに目標を変えていたのだ。それに、総ツッコミが入る。
    『ペットボトルの意味ねぇ!』

    「あの日きみと  歌い始めた
     きみとふたり  旅してきた
     星降る海を渡り 黄金の夢を目指して

     辿り着いたのは 英雄の船
     きみとふたり  闇を払うため 
     歌い続けよう  黄金の夢を目指して」
     アリエスがエレキギターをかき鳴らし歌い上げ、イーリスがナノナノのハルピュイアと共にステージで舞い踊る。おそろいの衣装を身にまとったアリエスとイーリスは、2人で故郷から旅してきて武蔵坂の仲間に――その想いをアルゴノーツの神話に重ね歌い上げた。

     智優利が九音の笛の音に合わせて、ゆったりと舞う。足を運ぶ、手を添える、傘を回し、扇を回し。ゆらりと舞う蝶になる、華になる。その舞を彩るのは笛の音だけではない。月夜の影業が、季節の移ろいを演出していた。月から少しずつ炎を分離させ、紅葉型の炎。炎の月を爆発四散させ、火花の雪。地面に積もった炎を利用した植物の芽吹き。
    「これが遊郭風料亭、夢幻蝶舞の魅せる夢。業となります」
     舞と笛と影、その三つが折りなす季節の情景に、割れんばかりの拍手が舞い起こった。
     
    「あなたが、天の使いであろうが、地の底からきた魔のものであろうが、あたしの妹を渡すわけにはいかないわ!」
     怪獣を前に、縦巻きのウィッグとドレス姿の流希はとうとうと告げた。「月光戦隊 ムーンサイド」――TG研の性別逆転劇だ。
    「お嬢さん、あなたは惑わされてるだけです。それとも、怪獣に洗脳されたのですか?」
     ブルーこと清美の言葉に、怪獣であるラハブは重々しく告げた。
    「生きとし生ける者すべてに自由がある。汝、為したいように為すがよい」
    「お姉様。この方は私に大切な事を教えてくれました。自由という何よりも尊い宝物。そして、自分の意思で決めるという武器を。私はもうお姉様の人形ではありません。そしてムーンサイドの方々、私は自分の意思でここにいます。彼を愛しているので」
     黒髪ロングのカツラに質素なドレス姿の登は、訴えた。
    「そんな馬鹿な!人間と怪獣が愛し合えるはずが……」
    「お仕事だしー。怪獣やっつけてさっさと帰ろうよお」
     KY発言するイエロー、良太にラハブはその翼をはためかせる。それに戦隊達はなぎ払われていった。
    「そうか、これが……愛、か。俺たちの出る幕は、無かっ……」
     ブラックこと遥香はシークレットブーツで豪快に転び、ニヒルに倒れた。ラハブは登をお姫様抱っこすると、その場から去る。怪獣とお姫様の禁断の恋に、観客もやいやと喝采を送った。
    (「にしてもカオスな内容だなぁ。脚本これ誰が書いたんだろ」)
     スモークを焚きながら、裏方で夕月はそうしみじみと思った。

     アクション映画で使われるようなアップテンポの洋楽。それに合わせて、高明と桜花が戦いを繰り広げる。格闘技とダンスを組み合わせたエクストリームマーシャルアーツだ。黒ガスマスクに黒マント、黒い甲冑のダークヒーロー姿で色紙をつけた竹刀で、桜花は高明を追い込んでいく。息を飲む観客、しかし、次第に観客は気付く。二人の動きが、争うものから息を合わせていく、と。
     見えない周囲の敵を二人がなぎ払っていく。その息のあった共闘に、二人が決めポーズを取った時、観客が喝采を送った。

     ラブリンスターのステージ衣装っぽい服装で、めぐみはピアノを弾き語る。お子様体型はごまかし様がないので、バストはパッドましましなのはご愛嬌だ。飛び出せ初恋ハンターを、めぐみはいっぱい練習して弾いてのけた。
     いつか、彼女と同じステージに立てたら――その想いを込めて、めぐみは弾き語りきった。

    『みんなー! ヴェニヴァーナを呼ぼう! せーの!』
    『ヴェニヴァーナ!!』
     中庭、そのヒーローショーでお姉さんをノリノリで翠織は務めていた。そして、その呼びかけにヒーローは答える。
    「これ以上の悪事は許しません!」
     呼びかけに答えて現われたのは、花笠を目深に被った赤い着物姿のヒーローヴェニヴァーナこと、紅華だ。
     雑魚を切り伏せていくヴェニヴァーナ、しかし、ボスとの激しい戦いで刀が折れてしまう。
    『ああ、危ない! みんな、せーの!』
    『がんばれ、ヴェニヴァーナ!!』
     観客の声援に、ヒーローは答える。アルティメットモードで見事に力を覚醒させた風のヴェニヴァーナは、不屈の闘志でボスへと挑みかかった。
    「花笠……ダイナミック!」
     その掛け声と共に、巨大なボスのハリボテが爆発。観客のヒーローを称える喝采が鳴り響いた。

    「さぁ、頑張るよ!」
     乗馬服を着こみ、織姫は馬へと乗る。白くなった芦毛の仔だ、たてがみを綺麗に編んで、尾はしっかりブラシで綺麗に整えた馬は、織姫を乗せるとその手綱に従って加速。障害物を飛び越えると、観客から拍手があがった。馬は、織姫の動きをよく理解して合わせてくれる。いくつもの障害物を軽々と潜りぬけ、最後の直線を加速した。
    (「ここからリンスラ流鏑馬!」)
     蹄鉄型のリングスラッシャーが的へと飛び、真っ二つに切り裂いた。その光景に、観客が感嘆の声を漏らした。

     とある教室、八重香は創作昔話『さいがたろう』を読み上げていた。それを見ているのは、水飴と塩煎餅を手にした子供達だ。
    「むかしむかし、あるところに、さいがたろうと……なに? 「むかしむかし」とはいつのことで、「あるところ」ってどこ、じゃと? それはじゃな、「むかしむかし」で「あるところ」じゃよ! そこは気にしたら負けなのじゃ、良いか、良いな!?」
     八重香はツッコミに答えると、先を読む。
    「さいがたろうはツッコミとリアクション芸が得意な金髪の忍者で、趣味はナンパ……って、待つのじゃ皆、最後まで見てゆくのじゃよ!」

    「因みに、芸術とエロティズム……性的表現も、切り離せないとか。えーっと詰まり、おっぱい爆弾でも作ったらウケ狙えっかな!?」
     有杜の言葉に、海飛は首をかしげる。とにかく爆発すればいいのだろう、うん。その証拠に、目の前の三十七階――の1/10スケールで組み上げられた超タワーの上に、六玖の姿があった。
    「さあ盛大に爆――」
     六玖が言い切る前に、超タワーが爆発!
    「儚い命は感動を生むのだ」
    「なるほど」
     飛んで行く六玖のいい笑顔に海飛は納得、続くように有杜と共に豪快に爆発する。そして、六玖は物陰から待ってましたと飛び出した麦と紅虎が板へと人型を開けた。
    「お! 来たッオーライ! はいッ! ご愁傷サマ」
    「おお! 良い感じのが手に入った!」
     麦と紅虎とハイタッチ。「爆コレ2014 in 武蔵坂」と名づけ、人の爆発による吹き飛んだ人型を採集する二人は、合掌した後に次の作品を求めて去っていった。

    「針金のライドキャリバー!」
     殊亜は満面の笑みで自分の作品を見た。幾重にも編みこむようにしたまさに針金の布で、ライドキャリバーをつくってのけたのだ。そのクオリティは高く、小さい子供なら実際に乗っても大丈夫な頑強さだった。
    「爆発っていったらエンジンだし、エンジンっていったらライドキャリバーだよね」
     作品に乗っていく子供達の笑顔に、殊亜は微笑んだ。

    「皆で『アートな着ぐるミステリー』を制作したぜ!」
    「こうだな。『学園の平和な日常を覆し、立て続けに起こった着ぐるみ誘拐事件と爆破事件。そして二つの事件の裏に見え隠れする白衣の青年。彼は一体何者なのか? 現場に残された暗号を解き、真犯人へと迫る探偵達。残された時間はあと僅か、連れ去られた着ぐるみを無事に救い出す事が出来るのか!?』」
     総監督の直哉は、助手の咲哉の言葉に首肯。観客参加型の推理劇だ。目の前で始まっている推理ショーの成功を、彼らは信じていた。
    「くんくん、なんだかほんのりと火薬の匂いがするんだよ!」
     警察犬のように鼻を鳴らした金色の狼の着ぐるみ姿の毬衣は言った。観客は、聞き逃さないように耳を傾ける。毬衣は鼻を動かしながら続けた。
    「柔軟剤の匂い……着ぐるみの匂い? ハッ、まさか犯人は着ぐるみに爆弾を巻きつけて! おのれ犯人! ところで、爆発する人ってリア充だから爆発させられるんだよ? あれ、こんなところにメモが「りあじゅうばくはつしろ?」」
     がぅー? と首を傾げる毬衣。
    「果たして、君達の推理はそれで合ってますかねー? 私が犯人だという証拠でも?」
    「白衣の青年と見せかけて、実はレミちゃんの変装。そう、これは白いモモンガの飛膜っす!」
     ヒントを出す役の仲次郎とレミ、そのやり取りの最中に爆発が起きた。遠隔操作で爆発をやってのけた藍は密かにどや顔した。
    (「さー私を捕まえられるかな?」)
    「つか、大丈夫なの? これ」
     大道具の将太は、観客の阿鼻叫喚に思った。

    「『ウサミミ捕物帳~花吹雪はお江戸の金饅頭』! 涙あり笑いありの感動巨編だよーっ♪」
     ミカエラの呼び込みに、客が何事かと覗き込む。そこでは、悪代官の心桜が帯をグルグルと回していた。
    「よいではないかよいではないか~♪」
    「あーれえぇー♪」
     写真を撮りながら回る杏子。バーのマスターである夜斗が言った。
    「いらっしゃい、ゆっくりな~」
     町娘の危機に、現われたのは浪人侍の脇差だ。
    「仕官の道は遠かれど、目にした悪事は見過ごせぬ。この町に涙の雨は似合わねぇぜ。助けたら、今月のツケ見逃してくれるんだよな?」
    「何やら騒がしいと思えば、見つけたぞ、悪代官。覚悟!」
     ポニーテールなびかせて男の着物姿の輝乃も姿を現わした。
    「待ったあ!」
     そこに舞い降りる人影、明莉だ。後光背負い、明莉は薔薇を舞い散らせてマキシミン猫と共にくるっとターン。
    「どう? この悪☆代官に完徹で習ったアタシのセクシーダンス!」
    「にゃあ!」
     始まる大立ち回り。悪は倒れた、輝乃は静かに告げた。
    「殺しはせぬ。うさみみつけて、反省しな。ところで、おやっさん。ここでのチャンバラの迷惑料はこいつら持ちかい?」
    「召し上がったものの御代と壊したものの弁償金、しっかり払えよ?」
    「さあ、アタシの出す水(1万円也)が飲めないってのかオラァ」
     どう見ても、ボッタクリバーである。
    「それはおかしくないですか?!」
     お庭番の理利の言葉も、虚しく響き渡った。

    「お菓子の家ってロマンだよね。お菓子の家にそのまま住み着きたい」
     るりかの呟きどおりのものが目の前にあった。
    「イメージあった方がいいんじゃ。どう? 悟」
    「設計図は悟忍者めが用意済やで、にんにん」
     総大将に任命された想希の問いに、悟もノリノリで答えた。
    「若宮総大将、雪副将、指揮よろしゅうに!」
    「俺はとにかく冷やす係り!」
     支持に従う枢に、凍らせ係の要。ビスケットで柱。カステラ炙りラスク漆喰の壁を水飴やアイシングで繋ぎ、クッキー貼り補強。バニシ焼きメレンゲマカロン瓦に混ぜ、ホットケーキ畳敷き――そして出来上がったのが、1/1御菓子の屋敷のである。
    「ここは悟さんの出番だ」
    「おお! ファイヤぁ! 点火」
     締めは、お菓子の屋敷の爆破である。
    「たーまやーですぅ、幸せの天気雨ですぅ」
    「ってわー悟!?
     はしゃぐ雪に、想希は笑いながら吹き飛んだ悟を追いかけ走り出した。観客ともども、大きな笑いと拍手にその場が包まれた。

    (「俺が義姉だと? 決まったものは仕方が無い。徹底的にやってやるさ」)
     長良は、シンデレラの義姉役が決まった日から役作りに徹してきた。いろいろなものを失ったが、些細な事だ。
    「シンデレラ。掃除しなさーい。塵、芥一片たりともこの家の中にあってはなりませんよ!」
    「ナノ!」
     継母役のみつると蒲公英、長良の迫真過ぎるいじめシーン。シンデレラ役の統弥は語った。
    「継母たちからの嫌がらせを受けて心身ともに毎日ボロボロ。心をいやしてくれるのは私の友達のネズミだけ。でも気にしない。夢を見ていればいつか叶うって信じてるんだもの! もうすぐある武闘会で下剋上して、必ず幸せになって見せますね、お父様!」
     現代版シンデレラはアグレッシブだった。統弥の台詞に合わせ、音響の夢羽が荘厳な音楽を流す。
    「泣くのはおよし、統……じゃなかった、シンデレラよ。私の魔法で素敵な衣装を着せてあげましょう。それっ!」
    「家族の嫌がらせによって心身ともに傷ついているシンデレラ、なんて不憫な。そんなシンデレラの為に、武闘会ではシンデレラの力になろう」
     魔法使い役の愛華の合図に、ドレスアップしたシンデレラとガトリングガンを構えた鼠役の作楽。武闘会へとたどりつくと、王子様である蓮は告げた。
    「よく来たな、シンデレラとその他一行! 城の財宝と街の平和が欲しければ、私を倒すがいい!」
     まさに、大立ち回り。銀都のナレーションが盛り上げる中、道具係だった奏一郎は満足げに笑う。現代風シンデレラは、豪快な結末で観客を沸かせた。

    「ルールは簡単! よりパフォーマンスの高いやり方で美を追求し、未来予知の権化ことエクスブレイン湾野・翠織をより驚愕させたものの勝ちだよ!」
    「アッハイ」
     人のテンションの高さに、翠織は素直にうなずいた。処世術である。
    「くちゅんっ!! すっごく寒いですが、風邪なのか寒いだけなのか全然わかりません。でもトランペット吹かなきゃです」
     器楽で当日風邪をひく、というクジを引いたアイスバーンはくしゃみしながらトランペットを必死で吹く。
    「アフロ×反復横跳び24時間、どうやら拙者が本気を出す刻が来た様でござるな」
    「この日のために用意した特注アフロ!! ボクの髪色そっくりのこれをつけて、フィーバー!!」
     アフロが二人、木菟とオリキアがテンション高く叫ぶ。
    「行くぞォ!! 大 変 身!!!」
    「いいよーおりたんいいよ!」
     紫廉が局部のみ光らせ裸体で、人も反復横飛びしながらオリキアを描くものだから、オリキアも反復横飛びを開始。そんな四人を、翠織は渡されていた自爆装置で爆破した。
    「真面目に頑張った、あなたの真面目さに驚いたっす」
     そう、翠織はアイスバーンの肩を叩き、勝者を決定した。

    「去年も参加しましたが今年もやりますよ、モチロン火力はマシマシですが!」
    「去年はほかのクラブにクラッシュしたでゴザルが今年もチャレンジでゴザル!」
     砲門の前で仁王立ちする蒼香に、カメラを頭につけた砲弾、もといアンディが高らかに笑った。
    「カメラ設置完了しました」
    「去年はただのお星様にしかなれませんでした。今年は流れ星として学園の敷地ぎりぎりを狙ってやりますよ! 鬼城さん、どーんとやってください」
     結城の言葉を受けて、七波が合図を送る。それに、蒼香はうなずいた。
    「方角良し! 角度良し! てぇー!」
    「拙者は今風に、一筋の星になるでゴザル!」
     盛大な砲声と共に、アンディが打ち上げられた。見事な放物線を描き、アンディは校庭へと見事に突き刺さった。

    「何で俺は早速簀巻き状態なんだろうな!?」
    「王子様、私の王子様よ!」
     大砲から逃げようとする簀巻き状態の和志。既に催眠術にかかって浮遊する喫茶店に取り残された花嫁姿に女装した紫桜はユイの用意したカンペを熱演する。
    「皆さん大変です! あの中に花嫁が取り残されてしまっています。早く助けてあげないと! でも大丈夫。私達にはあの和志さんがいるのだから♪」
    「今! 必殺の! ダァァブル! ナントカキィィィィック!!」
     麗夢の言葉に、和志は逃げようとするが、刀真と明の蹴りが問答無用に大砲へと叩き込んだ。それに、測定していた仙花が言った。
    「出力上昇を確認しました! 角度、威力共に問題ありません!」
    「今年も例年通りだよ、ジョニー。畜生、こうなりゃとことんやってやらぁ!」
    「Good Luck!」
     アフロの和志へ、ダーヅはサムズアップ。喫茶店を浮かせた水面も満面の笑顔だ。
    「それじゃあ逝ってみよー!」
    「皆さん一緒にカウントをお願いしますね♪ 5・4・3・2・1・発射~♪」
     麗夢のカウントと同時、大砲が爆音を立てて和志を射出した。ハっと正気に戻った紫桜が吼える。
    「あかん、なんでコレはいてきたんや俺……ていうか、うん、今年もこうなるのかよおおお!」
    「ここで爆発する。良し、タイミングバッチリだ!」
    「これで任務完了っと」
     烈也の台詞に、御凛が爆破スイッチを押した。同時、着弾点に爆破が巻き起こった。
    「がんばって つくった」
     パールは一生懸命作成した大砲の威力にご満悦だ。やみぴの仕込んだ「リア充(?)爆発したね~」の布切れが虚しく宙を舞った。
    「無茶しやがって」
     オリシアが、藤恵が、有栖が、仲間達が二人のずたぼろの帰還に敬意を表して敬礼した。

    「柚澄ちゃん、がんばろ~ね♪」
    「楽しくやろうね、お姉ちゃん♪」
     夜の屋上。くるみは、勇気の翼にのってを歌う。その感情をこめた歌に合わせて、柚澄は一生懸命に筆を動かした。1m四方位の透明のアクリル板の上に、アクリル絵の具を塗り重ねていく。くるみの歌が静かに終えると、観客の前で柚澄は見晴らしの良い屋上のフェンスにアクリル板を裏表ひっくり返した。
     そこには、星空で歌う聖歌隊の絵があった。あがる拍手に、くるみは感涙を浮かべながら言った。
    「素敵だね、ありがとう柚澄ちゃん」
    「ありがと、お姉ちゃん」
     そこへ、丁度花火が上がった。『武蔵坂学園芸術発表会2014』の文字の花火だ、奇しくもコラボしたその花火と絵に、より拍手があがる。
     屋上の拍手の音に気付き、校庭の片隅でユーキは笑った。


    「いやぁ、おかげで小遣いスッカラカンだヨ……」
     苦笑しながら、梟はイベントの写真で作った武蔵坂学園の校章を眺めた。特に武の字は、この芸術発表会の写真で出来ている。女生徒が多いのはご愛嬌だが、全てのイベントが終わったからこそ、梟の作品は今、完成したのだ。
    「うん、綺麗になりましたね」
     文具もまた、その作品の前で笑顔になった。文具の作品はこの綺麗に磨き上げられた武蔵坂学園の校舎だ。文具の日ごろの感謝と熱意のこもった芸術作品だった。

     芸術は爆発だ。芸術よ、永遠なれ。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月21日
    難度:簡単
    参加:146人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 14
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