カミングスナイパー

    作者:森下映

    「静まれ……静まれ……、静まれ俺の……ッ、静まれってんだよ、クソ!」
     とあるビルの屋上で、何やら悪態をついている男が1人。
    「フウ……よし……これくらいか」
     男は満足気にうなずく。身長は180cm位だろうか。太い筋肉質の上腕にはダイヤのマーク。
    「さて……模擬戦といきたいところだが……おっ、アレがちょうどいいか」
     男は下を覗きこむと、右腕をゆっくりと上げた。確かに腕だが、その先は『手』ではない。
     ひじ下が変化した巨大な弓が構えられる。そしてビルの下を歩く一般人に向けて、矢が放たれた。

    「みんな、揃ったかな? じゃあ始めるね。今回の依頼では現実社会に現れたシャドウを灼滅してほしいんだ」
     通常はソウルボード内で活動するシャドウが、とあるビルの屋上に実体化し、模擬戦と称して次々に一般人を襲う、というのが須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が予知した内容だ。
    「そのビルの屋上は本来立ち入り禁止だけど、外階段から入ることができる。4階だから、そう大変でもないはずだよ」
     灼滅者たちは、男が一般人に狙いを定めたあたりで駆けつけることができるので、すぐに何らかの攻撃をしかけて気をひけば、被害を防ぐことが可能だ。
    「武闘派というか……いわゆる脳筋というやつみたいだから、みんななら注意をひきつけるのは難しくないと思う」
     屋上への一般人の介入はなく、音、明るさ、広さのいずれも戦闘に支障はない。
    「このシャドウの武器は巨大な弓の形をした右腕。命中率にはかなりの自信があるみたいだね」
     シャドウはシャドウハンターと天星弓相当のサイキックを使ってくる。ポジションはスナイパー。
    「現実社会に出現したシャドウは高い戦闘能力を持つけど、一定期間以内にソウルボードに戻らなければならないという制約があったよね? でも今回のシャドウは、力をセーブすることで長期間の戦闘に耐えることができるみたいなんだ」
     力をセーブしているとはいっても、その戦闘力は並のダークネス以上。心して欲しい、とまりんは言う。
    「強力な敵だけど、シャドウを灼滅できるまたとないチャンスだよね。みんなならやってくれるって信じてるよ! よろしくね!」


    参加者
    由津里・好弥(ギフテッド・d01879)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    ハイナ・アルバストル(持たざる者・d09743)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    鴻上・朱香(クリムゾンローズ・d16560)
    暁月・燈(白金の焔・d21236)
    天道・雛菊(天の光はすべて星・d22417)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)

    ■リプレイ


     灼滅者たちはビルの外階段を、前衛から順に全速力で駆け上がっていた。中衛のアリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)はちょうど真ん中にいる。
    (「デスギガスさん配下のダイヤのシャドウさんが、獄魔覇獄に参加する為に、一斉に実体化する活動を始めたみたいですね……私達がこれから戦うシャドウさんもその一人、なんですよね……」)
     シャドウの現実世界への出現について先日得られた情報については、すでに共有済だ。
    (「不思議、ね」)
     メディックの漣・静佳(黒水晶・d10904)は、最後尾を駆ける。
    (「現実世界で戦うのも、ようやく、なの、ね」)
     獄魔覇獄の為に模擬戦を行おうとしているシャドウ。静佳は戦いの最中にできる限り多くの情報が得られるよう、試みようと考えていた。
    (「シャドウっていうのは、僕の知る限りでは不思議ちゃんが多いけど、」)
     アリスの空色のエプロンドレスのすぐ後ろを走っているのは、ハイナ・アルバストル(持たざる者・d09743)。
    (「今回の敵は珍しくストレートな奴みたいだなァ」)
     しかも、目的のためとはいえ好き好んで現実に出てきている。階段もあと1階分となり、ハイナは『裂帛を冠する捻断』を手に握る。
    (「ま、夢でも現でも、」)
    「――僕は君らを狩るまで追い回すだけだ」
     バン、とドアが開く音がした。


    「さて……模擬戦といきたいところだが……おっ、アレがちょうどいいか」
    「待て!」
     先頭を走っていた鴻上・朱香(クリムゾンローズ・d16560)が、両肘を身に寄せた攻撃的防御の構えから左手でシャドウを指さし、間合いを詰めるとともに漆黒の弾丸を放った。
    「……アア?」
     シャドウがこちらを振り返る。天道・雛菊(天の光はすべて星・d22417)が愛用の刀『星椿(2代目星椿:雛星)』を抜いて蝶を思わせる黒弾を撃ち出し、暁月・燈(白金の焔・d21236)は天星弓から彗星の如き強烈な一矢を放った。
    「ッ、……ウワ、きったねーな!!」
     弓の腕で防御しつつも、刺さる矢の勢いに弾丸をまともに喰らったシャドウは、広がる毒気に苛立ちを見せる。
    「貴方のお相手は、私達です……! 無力な一般の方を襲うなんて、模擬戦とはいわないです……!」
     朱香が身体を返し、雛菊が外へ抜け、燈が地を蹴って射線を開けたところを、今度はアリスの撃ちだした暗き想念の弾丸が通り抜けた。
    「気づいてない人に不意打ちするのは、模擬戦じゃないよ!」
     背なに黒蝶の羽。イメージカラーの血色が基調の魔法戦士姿の黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)は、炎獣の尾の名を持つ真紅の長剣『クリムゾンテイル』を手に、魔導書から魔力の光線を発射した。
    「おいおい、なんなのお前ら……、ツ!」
     再び巨大な弓を揺らして防御をはかったシャドウだったが、左腕に炸裂したアリスの弾丸から再び毒が浸透し、柘榴の光線は防御を貫き胸元へ届く。
    「模擬戦って……それはむしろ試し撃ちですよね」
     おかっぱ頭に金の瞳。穂先が稲妻を思わせる『ブリッツシュトース』を構え、由津里・好弥(ギフテッド・d01879)が言った。
    「模擬の部分も戦の部分もなさそうです」
    「そうだよ、ボクもクラブで時々模擬戦してるけど、こんなんじゃないよ!」
     柘榴も怒りをあらわにする。
    「……まぁ、私達が来たからには模擬戦ならぬ実戦に付き合ってもらいますが」
     好弥の手元に風が渦巻き始めた。
    「ハ? 実戦? 何寝ぼけてやが、」
    「アンドDie!」
     好弥が槍を掲げるとともに、風の刃がシャドウへ向かう。さらに、風が風を呼び寄せたかのように屋上に吹き起こる強風。静佳がナイフの呪いを変化させた毒の風を、竜巻にして放った。
    「チッ、うぜエッッッ!!!」
     煽り合って勢いを増しているかのようにも見える2つの風の攻撃に、巻き込まれまいとシャドウが外角へ走る。風の刃を蹴りとばし、竜巻をかすめ、ダメージを最小限にとどめたかに見えたシャドウだったが、
    「グ」
    「模擬戦は終わりだよ。早速ですまないが実戦の時間だ」
     位置を見極めていたハイナの巨大な鬼の腕が、シャドウの右肩をグシャリと潰した。
    「あなたが優先して狙うべきは、あなたの命を脅かす相手です。違いますか?」
     燈が言う。
    「……ヘぇ?」
     シャドウは口元の血を左手でぬぐい、
    「それがお前たちだってか。ッ、クソこれじゃ俺の弓使えねーじゃねえかよ!」
     悪態をつきながら、胸元にダイヤのマークを具現化させた。崩れた肩がみるみるうちに元通りになる。シャドウは何度か弓を上下させて調子を確かめると、
    「オッケぇー。 じゃ、これ使って本気で行こうかあ?」
     つがえた弓の先をペロリと舐め、灼滅者たちを見回した。
    (「強敵であることは重々承知」)
     弓の威力を見せられるのはこれから。燈はすぐに仲間をかばいに走ることができるよう神経を研ぎ澄ませ、霊犬のプラチナにも同じ役目を命じる。
    (「だからこそ見過ごすことは出来ない……ここで確実な灼滅を」)
    「夢の中から出て来て早々ですが、後悔しながら退場して頂きましょう」
     

     ジャッ、とエアシューズのローラー音が2方向へ弧を描く。一方はハイナの『たかが一歩の決断』、もう一方はアリスの『バンダースナッチの黒のリボン』だ。
    「ちょこまかよく動くねえ」
     ハイナに狙いを定めようとするシャドウだったが、ストップアンドゴー、さらにフェイントと、なかなかチャンスを与えない。
    「ま、それでも俺の矢は当たるけどな! ンで、死ね!!!!!!」
     仁王立ちになったシャドウが右腕の弓を天に向けた。後衛の頭上に大量の矢が降り注ぐ。しかし灼滅者側はディフェンダー3名と1匹の布陣。次々にダメージを肩代わりする。
    「回復しますね!」
     燈の銀の髪をかきわけるように、炎の翼が顕現した。前衛の矢傷を不死鳥の癒しが治し、破魔の力をも与え、プラチナがさらに回復の補助をする。
    「貴方を、獄魔覇獄に参加させる訳にはいきません……!」
     黒いリボン靴に炎を纏わせアリスが跳んだ。童話の世界から現実に迷いこんだようなアリスの姿が炎と踊り、先にハートのスートを具現化させることによって得ておいたエンチャントの元、シャドウがとっさに防御に使った左腕を蹴り上げる。
    「……っ、」
     一方、ディフェンダーの後ろから抜けた朱香は、ソードを抜こうとして一瞬ためらった。が、
    「……使わせてもらうね……――ちゃん……エメラルドソード!」
     心を決め、腰に下げていた鞘から引きぬいたソードを非物質化させた朱香がシャドウへ斬りかかる。真っ向から相殺しようと弓を構えるシャドウ。しかし、後ろ側へ回りこんでいたハイナが煌きをこぼすエアシューズで地を蹴った。名前の通りの重さを伴い『たかが一歩の決断』がシャドウの弓側の背中を蹴り潰し、軌道が狂った矢は朱香の黒髪をかすめたのみ。そのまま朱香のソードがシャドウの霊魂を断つ。
    「クッソおおおおおおおおお!!!」
     射る瞬間に攻撃を受けたせいとはいえ、矢を外したことにシャドウは悔しさを隠さない。
    「わ」
     ガシンと右腕の弓を自分で額に打ち付けたシャドウをみて、好弥が思わず声をあげた。
    (「1回でも避けたら、テンション下がって泣きながら爆発でもしてくれないかと思っていましたけど、」)
     額からダラダラ血を流し、ニヤリと笑うシャドウのテンションはむしろ上がっているように見えなくもない。
    (「とにかくこちらも当てなくては」)
     回復サイキックを持つシャドウ。好弥や柘榴はそのことを考慮して、殺傷率の高い攻撃サイキックを揃えてきている。そしてもう1つ好弥が懸念しているのは、シャドウが最後に『力をセーブしてない』攻撃をしてくるのではないかということ。
    (「それはさすがに歓迎できませんし、やめてくださいね……」)
     その万が一に備えては、一撃でKOされないだけのHPの確保を。実際好弥の考え通り、灼滅者たちの回復連携は非常にうまくいっていた。シャドウのエンチャントを確実にブレイクし、ディフェンダーが守り、ジャマーとスナイパーが確実にバッドステータスを積む。穴といえるような穴もなく、バランスの良い布陣。強敵相手に着実に押していく。
    「それにしても、面白い、形、ね」
     静佳がシャドウの右腕を見る。淡々と的確に戦場を把握。回復は不要と判断した静佳は、鋭い裁きの光条をシャドウに向かって放った。
    「名前、教えて、くださる? 獄魔覇獄へ、貴方も、参加する、の、でしょう?」
    「うるせえよ!!! 喋ることなんざねえ!」
     善なる者にとっては救いとなる放射状の光の筋。対してシャドウは弓を射る。が、『ブリッツシュトース』を手に死角へ回りこんでいた好弥に腱を断たれ、シャドウはその場に片膝をついた。重なるダメージ。シャドウは焦りを移すかのように影を右腕の弓に宿すと、立ち上がって接近していた柘榴へ振り上げた。
    「私が!」 
     礼儀正しく丁寧な物腰、その実、受け継がれるヴァイキングの血がそうさせるのか、戦闘ではアグレッシブ。飛び込んだ燈が弓を受け止める。白い服に飛び散る鮮血。攻撃を肩代わりした燈にはトラウマが出現したが、すぐにプラチナが消滅させた。それを見て雛菊は、
    (「返礼というわけではないが、」)
     と、自分も星椿に影を宿す。そして目前を横切って駆ける柘榴の背中を見つめ、合わせて星椿を構えた。
    「守護を引き裂き蹂躙せよ! ティアーズリッパー!」
     ダークネスに強い憎悪を持つ柘榴。殺意を切先にのせ、シャドウの身体を斬り裂いたところを、雛菊が横向きになぎ払うように星椿を操る。
    (「蝶の響宴……か」)
     漆黒の蝶が翔び立つような影の残滓。一回り大きな蝶も舞う。軽やかに柘榴が走り抜け、雛菊もまた次の攻撃へ備える。
    「ヴォーパルの剣戟――鋭き真理の剣で、貴方を断ちます……!」
     空色の光焔を纏ったアリスの『ヴォーパルソード』から、白く輝く光の斬撃が放たれた。光と戯れるように好弥と柘榴が走り込み、燈が縛霊手を振りかぶる。
    「チイッ、」
     炎に焼かれ、毒に冒され。無数の傷は命を削る。現実世界でなお強力な力を持つシャドウであっても、予知に基づいて練られた戦略と灼滅者たちの連携に、今まさに追い詰められている。
     矢を放っても、弓で防いでも、8人と1匹から身を守るには足りない部分ができる。燈の縛霊手が振り下ろされ、霊力の網がシャドウの身体を捕らえると同時、白光が激しくシャドウを突き飛ばした。続けて好弥の波打つ槍の先がシャドウの傷をさらに増やし、
    「死への誘い……黒死斬!」
     柘榴が確実にシャドウの脚の自由を奪う。
    「ねえ芋砂って知ってる?」
     ほぼ動きを封じられたシャドウの正面で、血の滴り続ける枝の槍を構えたハイナが言った。肩を上下させて息をするシャドウ。返すだけの気力がないのか、体力を惜しんでいるのか、まだ弱まっていない眼光以外に返答はない。
    「ちょうど今の君みたいな感じの……役に立たないスナイパーのことを指すんだけど」
    「ッ!」
    「おっと」
     脚をひきずりながらもシャドウが放った一矢を、ハイナが槍の穂先でわずかに逸らす。
    「!」
     シャドウが目を見開いた時、すでにハイナは片脚で跳び、その視界から消えていた。代わりにガードを固めながら一気に近づいていたのは朱香。闘気を雷と変え、宿した拳がシャドウの顎を殴りつける。
     シャドウの下顎から鼻が大きく砕けた。シャドウは衝撃に身体を大きく反らせながらも、矢のつがえられた弓を朱香の喉へ当てる。朱香が息をのんだ。が、
    「アアアアアアア!!」
     シャドウが痛みに叫び声をあげ、矢の先がガクンと下を向く。右腕の付け根を、ハイナの『裂帛を冠する捻断』がねじ切っていた。
    「どんな大将、なのか、知りたかった、わ」
     静佳が語りかける。
    「でも残念、ね ここで、終わり、よ」
     静佳は詠唱圧縮された魔法の矢を撃ち出した。矢を追いかけるように雛菊が走り込む。
     ダン、とシャドウの胸に矢が突き刺さった。両膝が地につき、呆然とする間もない。かろうじて掲げた右腕の弓ごと、雛菊の重い斬撃がシャドウを真っ二つに断ち切った。
    「良い獲物だったな、星椿よ」
     霧と散り消えていくシャドウ。雛菊は自分の信じる天命をまた1つ果たせたことを、愛刀への言葉に表した。


    「撫でても、いい、かしら」
     燈の手当を終え、静佳がたずねる。
    「はい、もちろんです」
     燈が答えた。かつて自分を受け止めてくれたものたちのことを思いながら、静佳はそっとプラチナを撫でる。
    「ダイヤのシャドウ……たしか『歓喜』のだったかな。随分とまあ重役出勤じゃあないか」 
     四大シャドウのうち、ダイヤが最後に現れたことを指してハイナが言った。
    「シャドウなんてソウルボードに引きこもってればいいのに……でも、灼滅するチャンスにはなったね」
     と、柘榴。言いながら思い浮かべているのは、彼女の仇敵のことだろうか。
    「そういえば……パンタソスさんが仰ってましたけど……歓喜のデスギガスさんの配下に獄魔大将の方がいらっしゃるんですよね……その方とも……いずれは戦う事になるのでしょうか……」
     アリスが言う。その問いに予感はあっても、はっきり答えられるものはまだいない。
    「そろそろ戻りましょうか」
     好弥が言った。
    「……帰りは走らなくて済むな」
     つぶやく朱香。雛菊は微笑んで空を見上げる。
     屋上から見る秋の空は遠く高く。澄み渡って広がっていた。

    作者:森下映 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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