「偉大なる定礎……汝の元に集いしこの者達に礎石の如く揺るがぬ忠誠心と力を授けたまえ」
夜――奈良県某所、昭和後期に建てられたビルの一角。
南東に向かう定礎板の前に、数人の男女が集まり、何やら妖しげな儀式を執り行っていた。
「お、おい……一体なんなんだ、もう帰してくれ」
「私達を解放してよ」
彼らはどうやら意思に反してこの儀式に参加させられたらしく、怯えつつ解放を要求している。
「「グレート・テイソ! グレート・テイソ!」」
だが、頭部がペナントである三体の怪人は、彼らの要求を聞くこと無く儀式を続ける。
「も、もういや……帰りたい」
「そうだ、私には妻も娘も……うっ」
「え?」
「ぐ……ぐうう……」
「おじさん? おじさん、しっかりして!」
儀式がヒートアップし、熱が高まって行く中、解放を要求していた中年男性がうずくまって苦しみ始める。
「……」
「お、おじさん……?」
「ソ……テイ……」
「え、なに? どうしたの?」
「グレート……テイソ……」
「ひっ?!」
「グレート・テイソ! グレート・テイソ!」
苦しみ悶えていた男性の頭部は定礎石となり、やがてペナント怪人と共にシュプレヒコールを挙げ始めた。
「皆さんの介入によって、琵琶湖大橋の戦いが未然に防がれた訳ですが、それを受けて安土城怪人達が新たな作戦を開始したようですわ」
有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)の説明によると、滋賀県で浚われたごく普通の一般人が、都内某所のビルで妖しげな儀式に参加させられ、定礎怪人や強化一般人へと変身させられてしまうのだと言う。
当然看過出来る物では無い。速やかに阻止せねばならないだろう。
「儀式の前の時点で、敵の勢力はペナント怪人三体ですわ。戦闘開始から一定時間……10分以内に彼らを全滅させる事が出来れば、一般人が定礎怪人になってしまう事は避けられそうですわ」
10分が経過すると、二人の人質のうち一人が定礎怪人になってしまう。戦闘力もそれなりに高めだ。
また、戦闘前、戦闘中に一般人を逃がそうとすれば、ペナント怪人は彼らを優先的に攻撃する危険が高いと言う。
「彼らを逃がそうとしない限り、一般人が攻撃されると言う事は無いので、保護を考えるならペナント怪人を速やかに倒すと言うのが最も有効に思えますわ」
詰まるところ、時間との戦いになりそうだ。
「あなた達なら心配はないでしょうけれど、速やかなご帰還をお待ちしておりますわ」
そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
小坂・翠里(いつかの私にサヨナラを・d00229) |
石弓・矧(狂刃・d00299) |
玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882) |
ツェツィーリア・マカロワ(銀狼弾雨のアークティカ・d03888) |
炎導・淼(ー・d04945) |
榊原・和希(黄金週間後は毎年生ける屍・d14787) |
縹・三義(残夜・d24952) |
名無・九号(赤貧高校生・d25238) |
●
「「グレート・テイソ! グレート・テイソ!」」
奈良県某所。草木も眠る丑三つ時……ビルの一角に奇妙な集団の姿があった。
頭部が観光ペナントという奇怪な外見の怪人が三体。呪文のように繰返しながら、定礎石に祈りを捧げ始める。
「お、おい……一体なんなんだ、もう帰してくれ」
「私達を解放してよ」
そしてごく普通の外見をした中年男性と二十代の女性は、強制的にこの儀式に参加させられているらしく、頻りに解放を求めている。
「お取り込み中どうも、お邪魔さして貰います」
「な、何者だ!?」
柔和な表情と口調で、そんな一団に歩み寄る青年――玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)に続き、七名の灼滅者達が彼らを取り囲むように姿を現す。
「お前ら……武神大戦獄魔覇獄の為に手駒集めてんのかよ!」
「むうっ……貴様ら、さては武蔵坂か! 毎度毎度、我らの邪魔立てばかりしおって!」
怪人達を見回しながら、悪事はお見通しだとばかりに言い放つ榊原・和希(黄金週間後は毎年生ける屍・d14787)。怪人らも、灼滅者が何者か察した様子で不快感をあらわにする。
「琵琶湖決戦みたいに走りまわされるのは御免だ! 全力で邪魔させてもらうぞ!」
腕時計のタイマーをスタートさせつつ、高らかに宣言する炎導・淼(ー・d04945)。
今回の戦いでは、一定時間内にペナント怪人を灼滅させられないと、一般人が定礎怪人と化してしまう条件つき。いわば時間との闘いだ。
「お、おのれ……神聖なる儀式を邪魔するとは不届き千万よ! 我々の命に替えても、この儀式は完成させてくれる!」
「こんないかにも怪しい儀式って始めてみた」
ぼそり呟く縹・三義(残夜・d24952)。サウンドシャッターを展開し、周囲の住人が姿を現さないように対処する。
彼の傍に控える霊犬のひとつもまた、油断なく身構える。
「ほざけ! 貴様らにはこの儀式の厳かさが解らんのか!」
「まぁ、何にせよ阻止するだけです」
興奮状態を隠す事も無く、わめき散らすペナント怪人。一方、笑顔を絶やす事無く静かに応じる石弓・矧(狂刃・d00299)。
――ヒュッ。
「ぬうっ?! 小賢しい!」
矧は、ゆるりと一歩を踏み出したかと思うと、目にも留まらぬ速度で怪人の間合いへと滑り込み、チェーンソー剣の刃を突き立てる。
「こっちも行くっすよ、蒼!」
小坂・翠里(いつかの私にサヨナラを・d00229)のガトリング砲から、魔力を籠めた無数の弾丸が凄まじい勢いで弾幕を形成する。と同時に、霊犬の蒼も咥えた斬魔刀をかざし、一気に肉薄する。
「うおおっ……儀式を中断させるな! 続行するんだ!」
集中砲火に晒されながら、しかしペナント怪人も退こうとはしない。時間さえ稼げば、戦況が有利になる事を知っているのだ。
「Lockn'load!」
上等だとばかり、スレイヤーカードを解放するツェツィーリア・マカロワ(銀狼弾雨のアークティカ・d03888)。多少の不安要素など、戦いをこよなく好む彼女にとっては、さしたる懸念でもないのだろう。
愛用のバベルブレイカー「鋼穿杭」を構えると、高速回転するその先端部を怪人の腹部へ叩き込む。
「い、一体何が……」
「隅っこで大人しくしているように」
「……ひっ!?」
名無・九号(赤貧高校生・d25238)は、何が起きたか良く解らないでいる一般人二人に対し、王者の風を纏いつつ告げる。
怯えた二人は、無言で数回頷き、定礎板の近くにうずくまる。下手に避難させようとすれば、怪人らに殺害されてしまう恐れがあるのだ。
かくして、閑静な住宅街の一角、それもマンションの定礎板の前で、激しい戦いの幕が切って落とされたのである。
●
「毎度毎度、貴様らに邪魔はさせん!」
硬く守りを固め、とにかく時間を稼ごうと言うペナント怪人。
「ほな参ります」
一浄は閃翼を握り直すと、静かに間合いを詰める。
――ヒュッ!
「ぐうっ!?」
繰り出される槍の穂先が、怪人の肩口を抉る。緩やかな動きに見えたにもかかわらず、怪人が攻撃を回避出来なかったのは、それが必要最小限の動きによって放たれた無駄の無い攻撃である事に起因する。
「おのれ……だが、まだ!」
「好きにさせっかよ!」
拳に闘気を集中させ、更なる追撃を仕掛ける和希。
――バキィッ!
「がはぁっ!」
一浄の攻撃から立ち直る暇もなく、ペナント怪人の頭部に雷を帯びた拳が直撃する。
「こ、この程度の攻撃で……やられはせんぞぉっ!」
少なからずダメージを受けたペナント怪人だが、気合を入れて自身の体力を回復する。
「言ったはずだぜ? 全力だってな!」
マテリアルロッドに膨大な魔力を籠め、殴りつける淼。
――バシュンッ!
インパクトの瞬間、炸裂した魔力が眩い光となって周囲を昼間の如く明るく照らす。
「じ、邪魔をするなと言っている! こいつらとて、つまらぬ人間で居るより定礎怪人になった方が良いに決まっているわ!」
「愛の押し売りはいけないね。いや愛じゃないのかもしれないけど」
勝手な理屈を並べ立てる怪人に対し、三義の足下の影が、鋭利な黒い刃となって襲い懸かる。と同時、ひとつも無数の六文銭を合わせて放つ。
「いきます。一気にトドメを」
「同胞を守れ! 礎石の如き固い結束を見せてくれるわ!」
怪人一体に時間を掛けすぎるわけにはいかない。シールドを構えて肉薄する九号に呼応し、更なる波状攻撃を仕掛ける灼滅者達。対する怪人らも、前衛の怪人を落とされてなるものかとラインを上げる。
両者は必然的に、乱戦とも言えるインファイトに突入してゆく。
●
「援護するっすよ!」
再び翠里のガトリングが火を噴く。
灼滅者は苛烈な集中攻撃によって前衛の怪人を攻め立てたが、それは敵も承知の上。徹底的に彼を延命させるべく固い守りを見せていた。
「では、そろそろ……」
「倒れて貰わんとかなわんなぁ」
矧の目配せに頷いた一浄。二人は僅かな時間差をつけて前衛怪人へと肉薄してゆく。
「くっ!? 来るがいい! 貴様らの攻撃など……!」
矢面で灼滅者の攻撃に耐え続けた怪人も、もはや満身創痍。頭部のペナントも所々ほつれ、既にボロボロの状態だ。
――ギィィィン!
「ぐうぅっ……!」
高速回転する刃が、風を切り裂きながら怪人の脚部をなぎ払う。
バランスを失い大きく傾いた怪人の眼前には、クルセイドソードを振り上げた一浄。
「お、おのれ……ここで私が倒れる訳には……」
「御役目は此方も一緒。文句は何時か彼岸で聞きますよって」
――ザシュッ。
頭部と胴体を両断された怪人は、地面に突っ伏すとやがて跡形も無く消え去った。
「無駄に硬ぇ野郎だったな。次はどいつがやられたいんだ?」
ツェツィーリアは不敵な笑みを湛えたまま、動揺を隠せない怪人達を交互に見遣る。
「そうか、じゃあ俺が選んでやるよ!」
地面を蹴るが早いか、鋼穿杭から吐き出されるジェットが彼女を加速させる。
「ぐ、ううっ?!」
火の玉と化したツェツィーリアのバベルインパクトが直撃し、苦悶の声を上げてよろめくペナント怪人。
――ピピピピピッ。
と、唐突に鳴り響く電子音。
「5分だ!」
和希が時計に目を落とすことも無く、皆に告げる。
「思ったよりは手こずらせてくれるじゃねぇか」
吐き捨てるように言う淼。しかしそう言いながらも、二人は互いに連携しつつ怪人との間合いを詰める。
時間が差し迫れば差し迫るほど、攻撃の手を緩めている暇は無いのだ。
「食らいなっ!」
――ギュィィンッ!
「ぐ、ぬううっ!! もう少し……もう少しなのだ! ここで倒れるわけには!」
火花を散らしながら、淼のチェーンソー剣が怪人の身体を削り斬ってゆく。間髪を入れず、閃光放つ無数の打撃を叩き込む和希。
「やらせんっ!」
もう一人の怪人もまた、集中攻撃を浴びる仲間を援護すべく反撃を試みる。
――バキッ!
「っ……」
必死の反撃は九号の頬を強かに打つが、衝撃に僅か顔をしかめた九号は、何事も無かったかの様に手負いの怪人へ攻撃を続行する。
「ひとつ」
三義は、ひとつに彼の傷を癒やさせながら、自身は九号を援護すべく影を走らせる。
「ぐ……このままでは……っ……!」
前衛に攻撃を集中させた灼滅者に対し、その前衛を少しでも生きながらえさせようと防御に徹した怪人達。頼みの綱とも言える前衛怪人が落とされた今、彼らは無限にも似た5分間を堪え忍ぶしかないのだ。
「これで、どうっすか!」
戦いを楽しむ者や、達観して淡々と任務を遂行する者、正義の為に勝利を疑わぬ者。そうした灼滅者達と違い、翠里の心の奥底には戦う事への恐れが存在する。それは多くの戦いを経験した今も、完全に消える事は無い。
「ぐっ!?」
だが、そんな恐怖心を振り払うようにして放たれた翠里の影は、正確に怪人の胸部を貫く。力無くふらついた怪人の頭部を、蒼の斬魔刀が切り落として引導を渡した。
――ピピピピピッ。
二体目の怪人が霧散するとほぼ同時、鳴り響く二度目のアラーム。
「8分! ぜってぇ倒す!」
気合を入れ直した和希が、再びの抗雷撃を最後のペナント怪人へ叩き込む。
「全力でいきます」
「ここからは攻撃で」
槍の穂先に集中させた冷気を鋭い氷柱へ変えて放つ九号。完全に攻勢へ転じた三義も、ひとつと共に斬影刃と六文銭の集中砲火を浴びせる。
「あと……僅かだと言うのに……グレート・テイソよ!」
「どうした、まだ時間はあるんだろ? さァ、踊ろうぜ!」
――ドシュッ!
「が、はっ……」
「こいつで終わりだ!」
再び高速回転させた鋼穿杭を、飛びかかる様にして怪人へ叩きつけるツェツィーリア。間を置かず、怪人の身体を掴んだ淼は、遠心力を付けてその身体を天高く投げ飛ばす。
「グレート・テイソ……永遠なれ……!」
空中で膨張したペナント怪人の身体は、爆散して跡形も無く掻き消えた。
「残り16秒弱……まぁまぁってとこか」
ふうっと深く息をついた和希は、皆を見回して笑顔を見せると、最後のアラームが鳴る前にそれを解除した。
●
「お疲れー! 流石にさみぃな……」
戦いが終わり、激しく動いていなければ、夜の風は容赦無く身体を冷やす。和希はひとつ身震いしつつ、皆にねぎらいの言葉を掛ける。
「怪我はない?」
「あ、あぁ……大丈夫だ」
ひとつの頭を撫でてやりつつ尋ねる三義に、中年男性が応える。
「皆無事で何よりっす。名無さんも大丈夫っすか?」
「大事ありません」
安堵の表情で胸をなで下ろす翠里。問いかけられた九号も、相変わらずの調子で頷く。
「と、ところであなた達は……」
「大変やったなぁ。早う忘れて、どうぞ息災で」
一般人の問いかけに対し、穏やかな笑顔と有無を言わさぬ口調で告げる一浄。
「それじゃ、とっとと帰ろうか」
「賛成だ」
ツェツィーリアの提案に頷く淼。他の灼滅者達も同意見だ。
かくして一行は、一般人が定礎怪人へ変えられてしまう事態を未然に防ぎ、ペナント怪人を灼滅する事に成功したのである。
(「定礎、礎石、石か。……まさかね」)
敵方の思惑を推測しつつ、礎石を見遣る矧。しかし程なく、きびすを返す。
一つの戦いは終わったが、それも来たるべき大きな戦いの序章に過ぎないのかも知れない。
作者:小茄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年11月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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