森羅の膝元にて

    作者:那珂川未来

    『うおおおおおおおおお!!!』
     ここは、先日判明した武人の町の、ちょっと離れた場所の森の中。
     そこに、咥え煙草に無精ひげのオヤジが鋭い走りを見せつけながら吠えていた。
     見た目、ドカタオヤジである。
     しかし、彼はアンブレイカブルであった。道場で仲間たちと切磋琢磨するよりは、自然の中で鍛え上げたいタイプらしい。
    『どっせぇぇぇぇい!!』
     森に入っては、間伐が必要そうな大木を蹴りの一つで引っこ抜き。
    『ふぉあぁぁぁぁぁ!!』
     それを担いで岩場を軽快に跳ねあがりながら、滝の上へと登くり上がり。
    『そいやぁぁぁぁぁ!!』
     そして大木を天高く放り投げたあと、手刀から迸る気の刃を解き放って、綺麗に均等に、薪の様に斬り分けたうえ、滝の流れに乗って滑り落ちてゆく残った野太い切り株部分へ向かって飛びおりながら、必殺のパンチを打ち込む。
     鋭い衝撃に、滝の流れそのものが割れて。滝壺が一瞬クリーンになるほどの拳圧。当然切り株など木っ端みじんである。
    『ふ、ここまで手刀の精度を高め、無手で大軍を薙ぎ払う技を習得するのも苦労したものよ』
     攻撃を撃ち終えた体勢のまま、蘇った滝の流れを全身に浴びながら、過去を回想して、口角2ミリ上げ笑むオヤジ。
    『来るべき日の為、一度誰かと手合わせしておきたいものよな』
     あまった木材を、まるでリフテングの様に爪先で小突き上げると、たったの一蹴りで真っ二つにして。
     オヤジは再び修業に明け暮れる。
     
     仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)は、机の上に座って。まずは、集まった灼滅者へ地図を手渡し。
    「獄魔大将のシン・ライリーによって集められたアンブレイカブル達がいる町の話は聞いているだろうか」
     来るべき大戦が予感される中、準備を進めている事は薄明。しかし、今のところ町民に迷惑をかけているわけだもなく。単純に己の武術を磨いているだけのようだ。 
     そんな町に潜入した灼滅者達が、有力なアンブレイカブルであるケツァールマスクから、自由に稽古に参加して良いという許可を貰って戻ってきた。
    「ようは、稽古を面目とすれば、町の出入りは容易だってことだね」
     稽古は模擬戦の形になり、殺したり灼滅するのは不可となるが、戦闘自体は普通に行える。
     稽古に来た事を伝えて、模擬戦を行った後ならば、アンブレイカブルと交流したり町中で情報を集めるといったことができるだろう。
    「獄魔覇獄の戦いがどういう戦いになるか、今のところわからないんだけど。ただ対戦相手の情報があることは、こちらにとっても有利に働くはず」
     だから出来る限り充実した模擬戦を行い、交流したり情報収集を行ってほしいと沙汰。
     ただ、シン・ライリーは町にはいないようなので、接触することはできないだろう。
    「んーと、町の人たちとの関係を見ても、ここに居るアンブレイカブル達は、悪人というわけじゃないみたいなんだけどね。ただダークネスである事に違いはないから、灼滅者相手と思えば些細な事で関係悪化や武力的排除も辞さないだろうし」
     行動は慎重に行ってねと、沙汰。
     情報収集は町に入ってから24時間以内を目処にしてほしい。それまでに得られた情報をもって、戻ってくること。
    「いいかい。今回は、模擬戦を行うことと、調査を行うのが目的だからね。獄魔覇獄に関する情報を得ることができれば、有利になるかもしれない。それに、こちらが情報を得るだけでなく、アンブレイカブル側にいい印象を与えれば、友好的な関係を築けるかもしれない」
     わかっているだけでも、たくさんの勢力が入り乱れることが予測される今回。獄魔覇獄である程度の共闘も可能になれば、武蔵坂にとってもよりよい結末を目指せるかもしれない。
    「色々気を使う事があって大変だろうけど、みんなよろしくね」


    参加者
    最上川・耕平(若き昇竜・d00987)
    五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)
    西明・叡(石蕗之媛・d08775)
    木嶋・央(禍刻黒疾・d11342)
    佐島・マギ(滑走路・d16793)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    水無月・詩乃(大いなる和は子を撫でるが如く・d25132)
    綱司・厳治(真実の求道者・d30563)

    ■リプレイ

    ●楓路の先
     楓に色付いた砂利道登れば。細く伸びる枝葉の向こうから、滝落ちる音が、耳に届く。
    『ふん! 破ぁッ!!』
     無心に突きを繰り出して、離れた滝へと打ち込み続けている。ただ流れだけが風圧で穴を開けてゆく様を、邪魔しない距離で、西明・叡(石蕗之媛・d08775)は眺めていた。
    (「見た目の無骨さとは反して技巧派ね。根っからの職人気質なのかもしれないわね。何処まで通用するか判らないけど、気を抜いて良い相手じゃないわよね」)
     いつも柔らかな顔つきの叡も、この清流の冷たさと同じく引き締まっている。
     牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)も、ただ懐かしい山間の雰囲気に紛れながら、静かに話しかける機会を待っていた。
     ひと段落ついたアンブレイカブルオヤジ・檀弓は、岩場に置いてあるタオルで汗を拭きつつ、
    『何用か、若人達よ』
     敵意はない。ただ純粋に。けれど、灼滅者であることは理解している目だった。バベルの鎖のせいだろうか、一般人ではないな、と。
    「おはようございますですよ。そしてはじめましてなのですっ。佐島・マギといいます」
     佐島・マギ(滑走路・d16793)がペコリと挨拶した後、
    「修行のさなか、申し訳ございません。私達は、武蔵坂学園のものです」
     水無月・詩乃(大いなる和は子を撫でるが如く・d25132)は淑やかにお辞儀して、何処の何者かを正確に伝えて不信を生まぬよう。
    「ケツァールマスクから聞いているだろうか? この町に滞在しているアンブレイカブルとなら、模擬戦を申し込んでもいいと許可を貰ったので、是非手合わせ願いたい」
    「力の差は承知の上、一つ、手合わせ願います」
     五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)と最上川・耕平(若き昇竜・d00987)は目を見て丁寧に申し出る。場合によっては、地面に手をつく覚悟も、そう在り得る現実も、理解している顔付きだ。
     それ故に。強者との戦い――例え腕試しとはいえ、約束を、自身の志を、守るために必要なモノを手にする為に。彼の現実に在って然るべきものを追い続ける木嶋・央(禍刻黒疾・d11342)の、滲み出る意欲。
    『灼滅者といえど骨のありそうな。俺でよければ是非手合わせ願おう!』
     檀弓も敬意を返すように。拳を胸に当て、一礼したあとに迸る気。気圧されないように、綱司・厳治(真実の求道者・d30563)はしかと前を見据え。
     相容れぬ相手との模擬戦に、感情鎮め結ぶ唇。複雑な想い、苦悶となって薄く滲むそれ。故にそこから得る真実は、厳治に何をもたらすのだろうか。
     じりりと踏みしめた朽ち葉、拳圧に舞いあがる――。

    ●森羅武闘
     前に四人とサーヴァント三体。数の利を生かし、攻撃と防御、厚めの布陣で。
     緑光の衝撃を最初に受けたのは、庇い入ったマギだ。
    「折れない心は腕っ節から! いくですよ!」
     真っ向勝負で受け止めたあと、爪先を軸にして。流星の様な勢いの踵にも、ビクともしない檀弓へと連なるのは、耕平の唸るような鬼神の腕。しかし、さっと飛びのく檀弓。詩乃が淑やかに、したたかに、回す雨紫光の鋭さすら難なくと。気魄属性に鋭い反応を見せつけている。
     鋭く脇へと切り込んでいった麻耶の矛先。一閃が天を衝く様に走り、次いで香の足が、脛を打つ。
     ぶつかり合う衝撃に、ばらりと無造作に噴く山吹。そんな刹那の色彩の上、渡るのは流星のように流れる炎尾。
     駆けゆく霊犬・ましゅまろの刃を紙一重でかわした危さを突く、央の踵落とし。蒼雷の残光が朱を弾く。
     ヴンと低い周波数の音を感じたのも一瞬。
    『うおおおおお、受けてみよ灼滅者ぁ!!』
     気合いに吠える檀弓の、野太い手刀が大気を割った。
     瞬間、前衛陣へと等しく襲いかかる斬撃。ざくりと刻まれ、血を散らす、灼滅者たちの腕や足。
     鋭く、早い。そして、精度の良さ。
    「大丈夫?」
    「むしろワクワクしてるですよ!」
     即座に叡より放たれた、白蛇のように艶やかな円環を受けながら、マギは流れた血を払うなり間合いを詰めて。央も、ましゅまろの除霊眼を背に。
    「力でこちらが負けているのは承知の上だ」
     トレードマークの様な、己が首元に映える純白のマフラーの位置を正しつつ、Revive:Fenrirから、駒から蒼雷を散らして。
    (「檀弓にはない、連携で勝負――!」)
     ざっと地を蹴ったのは同時。
     翻りながらたなびくは、青い炎と純白。滑りこむマギの爪先が、央と一緒に檀弓の前後を挟むように。
     しかも、頭上からも来る気配を察知した檀弓。
    『そう来るか若人!』
    「気概だけは負けるつもりは無いですから」
     瞬くほどの間に数多の拳を解き放つ耕平。
     地を踏みしめ、左腕に耕平の閃光百裂拳を受けるのも辞さぬ勢い。央のグラインドファイアをかわすことに精いっぱいで、マギから受けた炎燻らせつる檀弓に、初めて笑み零れ。
    「集団戦の強みを発揮しなければ相手にならん事は、わかり切っているからな」
     香がクールに言ってのけると、滑り込んだ懐から、爪先が鮮やかに宙へと弧を描く。仲間たちの勢いに、極まった集中力で攻撃を合わせてくる厳治の影が、檀弓の腕の肉をかすめ取った。
    『やりおるな!』
     自軍一の未熟者と自身を評価するからこそ、全力を賭す厳治の姿勢に好感示す檀弓の視線を、厳治は只真っ直ぐと受けとめながら、マギの放つ彗星の様な足技に、制約の弾丸を合わせてゆく。
     しかしこの程度では戒めにもならんと言わんばかりに。紙一重でそれらを避けた檀弓は、野太い腕に筋を浮かせながら、必殺と彼自身が謳う鋼鉄の拳を、詩乃へと突き出す――刹那、咄嗟飛び上がったのは、指示に乗る霊犬・菊之助。
     一撃で、岩壁まで吹っ飛ばされる拳圧。
    「菊、まだやれるわよね?」
     震える足で地面を掴むと、戦線へと舞い戻ってくる姿を見ながら、叡は息を付きつつ癒しを紡ぎ。キントキの除霊眼、ビハインド・常晴とましゅまろは牽制を打って、前線を維持するように。
     瞬間的な脚力の低下を見定めて。詩乃が目聡く大木を利用するなどして、多角的に死角を狙ってゆこうと。
     雨紫光を翻し。フォースブレイクの魔力弾けて打突に咲く紫。檀弓の手より放たれたオーラの波動に浮かんだ山吹の雨の中を走り抜け、次なる手は火炎の波紋。
     だが――気魄系は、未だ紙一重で抜けられる。
     刹那、檀弓の手が揺らめいたのが力の圧縮だと気付いたのは、厳治。
     くる――注意喚起すると同時。研ぎ澄まされた気の刃が無数に放たれた。
     劈く音に混じる、朱の欠片。
     菊之助が散り、ましゅまろの状態も芳しくないのは、相手が神秘に弱いディフェンダーの霊犬二体を早く減らして、こちらの連携を崩そうとしているのだろう。
    (「そろそろディフェンダー陣も厳しいはずだ」)
     崩れれば、負ける可能性もありえるのだと、耕平はクラッシャーを担う者として予感した。列攻撃も、確実に全ての刃を当ててこられれば、一人頭のダメージとエフェクトは減衰しようとも、トータルダメージは最大値のそれである。そして列攻撃が全て決まった時の恐ろしさは、単体攻撃の威力を遥かに凌駕している点。自身の体力的なものに若干の余裕を感じるという事は、当然その疲弊を受け持っているのは彼らだ。
     耕平の拳とマギの脚が交差する。儚き一片のような鮮烈な一撃が、檀弓の肌の上に弾けたあと、詩乃が薙げは翻る袂。藤散るような力の飛散に砕ける二の腕。
     気合いと共に放たれる檀弓の拳が、とうとうましゅまろを淡雪のように消えてしまった。
     相手が強敵であるが故か、殆んどの攻撃を当ててくるということが本当に――。
    「憎たらしいほどね」
    「……ん。こーゆー敵無暗に増やすのは確かに面倒くさいっすよ」
     叡はそう漏らすと、円環を飛ばし。次第に溜まってゆく、ディフェンダーのダメージを目算しながら。麻耶はエアシューズに炎燻らせ早期終焉目指し。模擬戦という平和的解決で穏便に終わるならいいと本気で思う。
    『さあこい! 俺が膝を突くのはまだ先ぞ!』
    「言われなくても! どんどん行くよ!」
     破裂したかのような耕平の連打が、檀弓の肩から血を咲かせ。低く滑り込んだマギの爪先に間合いを取った檀弓へと、央の一撃が的確に狙い付け。
     スターゲイザーに穿たれた瞬間、詩乃が滑る様に迫って、雨紫光に炎躍らせ振るう――だが。
    『惜しい、詰めが甘いぞ、娘!』
    「はっ……!?」
     詩乃の脳裏に、資料の内容が鮮明に浮いた。相手が気神系である。ということは、相手の得意属性ばかりにサイキックが偏っているという事を、今更ながらに。更に、感情活性せず意識的に繋げていなかった故に、どうしても生じる間を、逆に突かれた形だ。
     死角や動作を逐一見定めようとする、詩乃の集中力に感心しながらも、容赦なく打ち込むのは鋼鉄拳。細かく受けていた手刀のダメージも相まって、地に伏せる。
     奥歯を噛む叡は、癒し手を担うがこそ。
     舞い散る山吹色の扇の上を、麻耶は滑りながら檀弓の背後から蹴りを入れ、頬に筋残す朱をそのままに、央の蒼紫を走らせる。
     打つ足と受ける足がぶつかり合い、凛と世界を奔る雷光の向こう、互いに宿る脈動に触れながら、央も自分の中のストリートファイターのルーツを色濃く感じ。耕平も、心躍るその様を表わすかのような、火炎の月の輝きは際立った。
     檀弓の手刀が奔りぬき、とうとう常晴の存在をかき消し、ディフェンダーへの壁が心もとなく。
    「いくですよ!」
     その危さの中、懐へと飛び込むマギ。振るう星屑朽ち葉に弾け、詰める間合いを生めるような拳圧に沈むも、悔しさは滲むことなく。
     無駄な動きを削ぎ落しながら、耕平は央と共にサイキックを解き放つ。鳳仙花の様に、血肉弾け炎食い込むが。鋭く狙ってきた拳圧に、落ち葉の波が吹き上がる。
     ぱらり。
     ぱらり。
     降り散る中。
     受け止めたのは香。
    『娘……ディフェンダーに回っておったか』
    「言っただろう? 集団戦の強みで勝負だと」
     ディフェンダーの厚みを取り戻すため、先程香が移動していて。強打に顔を歪めたのも一瞬、すぐに蹴りかかる香の一撃を受け止めながら。いつの間にか肩揺らしていた檀弓から、笑み消えることはない。
    「昇竜炎舞!」
     耕平の爪先から迸る炎と、央の流星の尾を引く様な一閃。拳と絡む様な激しい打ち合いの中。厳治が檀弓のオーラの弾丸に打ち抜かれたその時、三日月の様な残光が横切って。檀弓がふっと目を向いた後、くつくつと肩を震わせ。
    『……こんな者達と戦える獄魔覇獄に参加できる栄誉、心底楽しみになってきたわ!』
     そのまま満足そうに後ろへ大の字にぶっ倒れた、檀弓を見下ろし。麻耶は息をついた。

    ●コーヒーブレイク
    「滝を拳で割るってのはロマンがあるよな」
     終ったあとの檀弓は、とっても上機嫌で。缶コーヒーを頂きながら、香がそう言えば。
    『女のくせにそのロマンがわかるとは粋よな! ここまで来るのにな。あの頂まで走り込み、あの谷と谷を反復横とびして……』
     どうでもいい話で盛り上がりそうなので、香は、
    「修行に打ち込む前は、やっぱ職人的な仕事をしていたのか」
    『うむ。俺はトンネルの作業員をしていてな。重機を操り、発破を駆使し、山に道を通す仕事に誇りを持っていた』
     しみじみ語る檀弓。
    『そしてある日……俺はこの拳で、この山を突き破ることが出来たならというロマンを抱き――』
     長くなりそうなので、適度なところで香は、
    「そうやって修行している他に、私達以外の種族ともこの町で手合わせしたりしたことはあるのか?」
    『いや。おらぬな。この町には我らアンブレイカブル以外は見たことはない』
     共闘関係にある組織も居ないらしいことに、あるとしたら武蔵坂学園がそうなる可能性もあるのか、と厳治は分析しつつ、
    「獄魔覇獄で戦いたい相手は誰かいるのだろうか」
    『強い相手なら、どこでも。というより何処が出てくるか俺も知らん』
     獄魔覇獄の事に関しては、それこそ大将が知っているだろうと。
    「そう。なら、シン・ライリーには会ったことあるのね?」
    『ある。一度だけな』
     叡の問いに関しては、詳しい事はわからんが強い奴だとわかる、という程度。
    「彼と同じ、紋章とか、他のアンブレイカブル達と比べて、特異なモノを身につけたりしている人もいたりするのかしら?」
     叡は他のアンブレイカブル達と比べて変わった点を持つ者がいるか尋ねてみたけれど。
    『変わった点とな……いや特にない……強い奴は沢山いるがな』
    「その、檀弓さんもほれぼれする様な強い人って誰です? 強い人はかっこいいです! 会うと胸キュンするですよ」
     是非是非教えてくださいと目をキラキラさせるマギ。
    『マッスルマグマや、若人のくせに、なかなか骨のある雷電という奴も面白い』
     その雷電の本名は、流星院・来夢っていうギンギラギンな名前なんだぜ、と歯を光らせるオヤジ。確か、別の灼滅者が手合わせにいったはずの名だ。
     その後も、色々檀弓と話をしてみたものの――獄魔覇獄に関する重要な話は得られそうになかった。
    「あの、檀弓さん。ケツァールマスクさんを御存じでしょうか?」
     詩乃が尋ねれば、檀弓はうむと頷いて。
    「どちらに居らっしゃるか、知ってますでしょうか?」
    『あの方も、お忙しくてな』
     要は、何処に居るかわからないとのこと。
     コーヒーを飲み終わる頃には、日はとても高くなっていた。

    ●町の中
     三班に分かれて。自分たちの目で、アンブレイカブル以外のダークネスや別所属の灼滅者がいないか、町の中を注意深く見て回る。
     一般人の流れの中に、時折すれ違うアンブレイカブル。相手も、模擬戦として訪れている灼滅者へは、意味もないアクションは起こしてくることはない。
     機嫌の良さそうなアンブレイカブルを見つけては、失礼にならないように会話を繰り返すものの。檀弓から聞いた以上の話で見込めたものは、強いアンブレイカブルに、チャリオットレディという名も挙がった事。それ以上は見込めず。
     出来る限り焦点を絞っていたものの、狙う情報を得る為、話を聞く以外の着眼点も必要だったのだろうか。
    「ケツァールマスクさんにも、出会う事はできませんでしたね」
     別のアプローチが必要なのでしょうか。それとも単純に町にいらっしゃらなかったのでしょうか――詩乃はとても残念そうに溜息。
     獄魔覇獄に関わるのかどうかは定かではないけれど、もしもジークフリートの情報を知ることができたら、何かの真実に辿りつけたかもしれない、そんな期待もあったから。
    「そろそろ行くっすか。長居も良くないみたいっすしね」
     麻耶はそう皆を促して。
     ふわりと、冷たい風が吹く。央はマフラーの位置を正しつつ、
    「次に会うのは、獄魔覇獄か……それとも」
     檀弓のいた山を一瞥すると、枯葉敷き詰められた田舎道、帰りを急いだ。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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