
『ブヒブヒ……ブヒィィッ!!!』
紅葉が見頃な京都の山で鳴き声を上げるのは……凶暴な豚!?
わぁっ、大変だ!!
はぐれ眷属のバスターピッグ2匹が、この山に住みついてしまったようだ!
●
「京都の嵐山にほど近い山の中にバスターピッグ2体が住みついちゃったから、さくっと退治をお願いするねー。バスターライフル撃ってきたりするけど、すぐ倒せると思うからさー」
飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)はそう、予知した未来予測をさくっと説明し終えた後。
「それでさ、11月下旬頃から、京都の紅葉が見頃らしいよー! 事件現場から丁度、嵯峨野や嵐山が近いから、事件解決後に散策してきていいんじゃないかな!」
そう相変わらずお出掛け情報の収集にも余念なく、紅葉の色づき情報を抜かりなくチェックしつつ言って。
「ちょっ、また未来予測の説明行殺!? でも秋の京都か……いいな!」
集まった灼滅者のひとり、伊勢谷・カイザ(紫紺のあんちゃん・dn0189)も興味を示す。
そんな、話に乗ってきた灼滅者達に、遥河は京都ガイドブックの嵯峨野嵐山エリア特集ページを見せるのだった。
「まずは嵐山といえば、渡月橋かな。その渡月橋の近くにある嵐山公園を散策したりお弁当食べたりしながら、のんびり紅葉を観るのも良さそうだよねー」
嵐山のシンボルといえる渡月橋は、月が空を渡る様に似ていることから名付けられた橋で、橋を渡り周囲を見回せば、紅に染まった嵐山の絶景が臨める。そして近くの嵐山公園各所でも紅葉が楽しめ、お弁当持参で紅葉をのんびり観るも良し、展望台に上がれば、紅の渓谷の中、ゆっくりと保津川を下って来る船を眺めることもできるという。
そして昼と夜とでは、紅葉の印象もまた違ってくるだろう。
「お、このトロッコ列車にも乗ってみたいぜ!」
そしてカイザが見つけたのは、赤と黄色のレトロな旅情感溢れるトロッコ列車。
嵐山の名物であるこの列車は紅葉に染まった保津川沿いを走り、その風景は息を飲むほどの美しさで。しかも今の時期は、暗くなるとライトアップもされるのだという。
「あとはやっぱり京都といえば、定番の史跡とか観光名所とかもいっぱい巡りたいよね! 歩いて廻るのもいいし、渡月橋周辺には人力車とかレンタサイクルもあるから、利用してみるのもいいかもっ」
庫裏の達磨図や天井の雲龍図、庭園から眺める景色が素晴らしい世界遺産の天龍寺や。風情のある竹林の道に、縁結びや学問のご利益があるといわれている野宮神社。ひっそりと佇む草庵の茅葺き屋根が紅葉に染まる祇王寺で静かに京の秋を感じるのもいいだろうし。紅いトンネルを潜るような常寂光寺も、京都屈指の紅葉の名所である。
その他にもこのエリアには様々な史跡や名所があるので、はんなりと紅に染まった、お好みの場所を巡るのも良いだろう。
「あとはやっぱり、料理好き和風好きな俺としては、京都ならではなスイーツやグルメが堪能できる食べ歩きや、和小物などの買い物も欠かせないぜ」
「それだったら、長辻通には伝統的な割烹からおしゃれなカフェから土産物屋まで沢山あるみたいだし。散策中に京都らしい小物雑貨とかのお店を見つけて入ってみるのもいいかもね!」
京都のスイーツやグルメや割烹料理など、食べ歩く楽しみは勿論。
和の雑貨や小物、アクセサリーなどのお土産を買える店も賑やかに並んでいるので、買い物も存分に満喫できるし。ふらりと、散策中に見つけた店に入ってみるのも良いだろう。
「あとは、紅葉の自然美とスリルを満喫できる保津川下りに挑戦してみたりとか、嵐山に湧く温泉の足湯に浸かってみたりとか。本当に色々な楽しみ方ができるから。好みに合わせて、計画立ててみるといいんじゃないかな!」
お一人様でも良し、カップルや大勢で賑やかに待ち合わせするも良し。
他の人に迷惑などかけない常識の範疇であれば、事件解決後はそれぞれ好きなように、自由に嵯峨野嵐山の秋を満喫して欲しい。勿論、事件を解決した仲間で廻るのもいいのではないか。
「それにしても、本当にいっぱいやりたいことや観たいところがあるよな」
「色々なスポットあるから、その分計画するのも楽しいよね!」
そう思い思いに、紅葉に染まる嵐山での計画を練り始める皆に。
遥河はへらりと笑んで、改めて貴方を誘うのだった。
「ねぇ、さくっと豚退治してさ。よかったらその後、紅葉を観に、京都に行かない?」
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 千布里・采(夜藍空・d00110) |
![]() 一條・華丸(琴富伎屋・d02101) |
![]() 姫乃井・茶子(歴女de茶ガール・d02673) |
![]() 村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275) |
![]() 虹真・美夜(紅蝕・d10062) |
![]() 深海・水花(鮮血の使徒・d20595) |
![]() 鳥居・薫(影照らす光たれ・d27244) |
![]() 五十鈴・乙彦(和し晨風・d27294) |
●豚倒します
見事に真っ赤に染まった、秋の嵐山。
そしてそんな秋色に包まれた京都に、朝方から赴いた灼滅者達は。
「ごめんね、この辺りの人と……僕らの観光のために、さっさと沈んでよ」
『プギャアー!!』
『ブヒィィッ!!』
きっちり全力で、豚倒しました!
●美味しい秋の彩
無事に依頼を完遂した灼滅者達は、赤に染まった嵐山公園で解散。
あとは思い思い、京都を楽しむ時間。
「ほな、おしまいやね。行きましょか」
千布里・采(夜藍空・d00110)は、友人と合流したり観光に赴く仲間を見送りつつも。
「伊勢谷さん、携帯の番号聞いてもえぇ? あとで合流しましょ」
「おう、勿論! って、これから何か予定あるのか?」
霊犬をカードへと戻しながら、実家の面倒なのと会わなあかんのや、と。
ひとまずカイザや皆と別れて、嵐山の湯葉料理屋へ。
鳥居・薫(影照らす光たれ・d27244)も、待っていた雨の姿を見つけて。
「怪我、してない? 寒くなかった?」
「大丈夫、大した相手じゃなかったしな!」
嬉し気に笑んで駆け寄った――刹那。
「って、えっ!?」
掌に感じたのは、彼女の手の温もり。
「あ、そ、その……、ありがとな」
じわりと伝わる雨の体温に、薫は思わずドキッとするけれど。
彼と同じ様に、手を握る雨の顔も……紅葉みたいに、真っ赤。
そして。
「カイザくん! 行きたい場所はもうチェックした!?」
「そういやまだだな。千巻はどこ行くか決めたか?」
暢気に答えたカイザに、ずいっと渡されたのは。
「京都は待ってくれないよ! これ貸してあげるから!」
「お、サンキュー……って、付箋すごっ!?」
気合十分! 千巻チェックが入りまくったガイドブック!
そして彼女のこれからのプランは、湯豆腐の昼食に竹林の道。
おやつに抹茶スイーツを食べ、締めは渡月橋と――完璧です!
ということで!
「ねぇねぇ、どこに行こうか?」
「んー公園を散策しつつ、紅葉観ながら弁当食うか」
村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)とカイザは、レインと合流した深海・水花(鮮血の使徒・d20595)と一緒に。秋の景色の中、のんびりと歩き出す。
これからは――それぞれ思い思いの、京都散策のはじまり。
「おお、真っ赤だな!」
「京都なんて中学の頃ぶりだから、楽しみだなあ」
カイザや一樹の言葉に頷きながらも。
「秋の京都、一度は行ってみたいと思ってたんだよな」
秋色の道を散策するレインは、ふと視線をゼロへと向ければ。
「うちのギンとも仲良くしてあげて?」
わふっと鳴いた霊犬達は、紅葉踊る中、二匹一緒にキャッキャ遊び始めて。
「どちらも可愛すぎて幸せです……!」
白と黒のもふもふな戯れに、水花も参戦!?
そんな様子に、お友達になれてよかったねと、レインはギンを撫で撫で。
そして。
「おーい、よかったら一緒にお昼食べないか?」
通りかかった彼らに声を掛けたのは、雨と弁当を食べようとしていた薫。
折角だから、皆で賑やかにお弁当タイム!
薫が作ってきたのは、見事な三角お稲荷さんとサラダロール。
カイザのお弁当は、やけに可愛い松花堂風キャラ弁。
「そのナノナノな湯葉てまり寿司、サラダロールと交換しないか?」
「おう、勿論! これ、具は牛しぐれに法蓮草に薄焼き卵、ハムと赤ピーマンか?」
「この煮物に添えてる赤い狐や紅葉、ゆでパプリカと人参なんだな」
雨は、話に花咲くそんな料理系男子達を見つつ、決意を。
「私も、今度はもうちょっと、がんばる……!」
そして薫がふと目に映したのは、彼女が用意したちょっぴり歪なウサギリンゴ。
指を切らなかったかなと、心配に思う反面。
「次も楽しみにしてるぜ、雨」
雨の頑張りに、嬉しさを感じる薫。
そして、何から食べよう……! と目移りしつつも。
薫のお稲荷さんをぱくりと一口食べた雨は、その美味しさに、目を輝かせ笑むのだった。
水花も、和風を意識して作った弁当を広げて。
「あ、水花のその卵焼きって……」
「はい、伊勢谷くんから教わった桜色の卵焼きです。橙色の卵焼きは、人参の擦りおろしを混ぜてみました」
「あ、そのおかず美味しそう。良かったら交換しない?」
「うん、美味しいね!」
みんなと美味しく和気藹々、おかずを交換こ。
それから水花が用意したデザートは。
「こういう物を食べながら紅葉を見ていると京都に来たと実感しますよね」
京都らしい、和菓子。
その美味しさに水花は、クラブのみんなにもお土産に買いましょう、とレインに提案して。
そしてゼロにお稲荷さんをあげていた薫は、カイザに雨との関係を聞かれて。
「うん、その……2ヶ月ほど前から付き合ってる彼女だ」
「おおっ、よかったな!」
「へへ、羨ましいだろ?」
照れ隠しに冗談っぽくのろけながらも、嬉しそうにはにかむ雨と、笑み合った後。
恋人の髪にひらり落ちた紅一葉を、その手に取ったのだった。
そして昼食後、薫と雨と別れて。
「女の子は可愛い和風の小物とか喜ぶかもしれませんね」
水花は、クラブの皆への土産の和菓子を店で探しつつも。
「男の子だと……格好良いキーホルダーとか? 本が好きな子なら栞とか、文房具なんかも良いかもしれません」
カイザの弟妹達の土産を、一緒に選んであげて。
お誘いの感謝を込めて。レインは水花に、買ったもみじのキーホルダーをプレゼント。
紅に染まった景色を一緒に見て回ってから。
虹真・美夜(紅蝕・d10062)が優志に差し出すのは、手製のお弁当。
互いに相手のお弁当を作る約束を、していたから。
……流石にちょっと可愛く作りすぎたかしら? なんて思いつつも。
つい、じーっと彼を見ている美夜が作ったその中身は。
可愛いタコさんやカニさんのウインナーに――。
「前から思ってたけど、俺の事小学生かなんかだと思って……!!」
そう、彼の視線を一瞬で釘付けにした、ペンギンさんおにぎり!
そして、なんだか食べるの勿体ないな……と、自然と零れる無邪気な笑み。
いつもは格好良いのに、でも、子供っぽい時は本当に子供で。
紅葉の様に染まった優志の表情を見れば……作戦成功は、一目瞭然。
それから今度は美夜が、彼のお弁当を口に運ぶ番。
「美味しいけど……美味しいんだけど……やっぱり優志って過保護よね」
相変わらず美味しい彼の料理は、彩りも栄養もばっちり!
優志が用意したのは、身体を温める体質改善飯。
冷え症対策も万全! ……なのだけれども。
「別に……手が冷えても優志から体温分けて貰うからいいのに」
彼女をもっと過保護に芯からあたためるのは――彼自身の温もりだから。
そして紅茶やスイートポテトを楽しんだ後、夜に浮かぶ秋の彩りを眺めながら。
「なぁ、美夜。来年もまた、一緒に紅葉を見ような?」
そう紡がれた言葉に、美夜がわざと返したのは。
「……後悔しても知らないんだから」
二人の想いが通じ合ったあの時と――同じ返事。
そして大切なお姫さんの綺麗な黒髪へと、はらり舞い降りた紅葉を。
そっと摘まみ取った優志は、愛し気に笑む。
――後悔なんて、するはずないだろ? と。
●常寂光土に遊ぶ
溺れそうなほど真っ赤に色づいた、秋色の大海原。
小さな炎の如き紅葉の隙間から降る陽光は、静かで優しくて。
紅葉の神様がくれた彩りはまさに名の通り、常寂光土に遊ぶような風情がある。
「紅葉の名所と呼ばれるのは伊達ではないですね」
常寂光寺を訪れ、紅に埋まる視界に吃驚する柚羽は。
有名な紅葉の一首を思い諳んじつつも、ふとその手を伸ばせば。
ひらり、掴まえた紅き一葉が色褪せぬよう、開いた一冊に閉じ込める。
五十鈴・乙彦(和し晨風・d27294)が河野・美冬と訪れたのも、常寂光寺。
勿論、彼女の大親友、鈴も一緒に。
「……やはりこの時期だと人が多いな」
素晴らしい紅葉を愛でたいのは皆同じか。
乙彦ははぐれぬよう、美冬達の様子を窺うも。
仁王門を潜り広がった今だけの景色を前にすれば……人の多さも最早気にならぬ程に、目を奪われ感嘆する。
そして、押し寄せる紅の洪水に。
「すごい、すごいの。おとひこちゃん!」
後ろにひっくり返りそうになりながらも、美冬から上がった小さな歓声。
それを耳にした乙彦は密かに嬉しく思いながらも。
そういや以前も一緒に長い階段を登ったなと、ゆっくりと一緒に一段ずつ、歩みを進めていく。
その頃から時間を経た今、少しお互いの距離も縮まっただろうか、なんて思いながらも。
小さく揺れる鈴を見つめ、そっと笑む……共に過ごす仲間も増えたな、と。
紅に彩られた本堂や多宝塔、眼下に広がる嵯峨野の景観。
そんな景色を美しく飾る大紅葉の彩りは、まるで。
「あの紅葉の色、美冬の髪みたいな綺麗な赤だな」
指さした先に燃える少女の髪と、同じ色。
そして美冬は、その言の葉に紅葉した頬を隠すように、ふと屈んで。
「そうしたら、これはおとひこちゃんの色ね」
拾った一葉は――自分の姿を映す彼の瞳のような、橙に染まったいろは楓。
仄かに染まった互いの微笑みは、紅葉と共に降る木漏れ日のように、柔らかくて優しい。
それから紅の絨毯を踏みしめ、黄昏の空がより秋の色を濃く彩り始めた頃。
「……この後は和なスイーツを食べに行くんだよな」
「抹茶パフェ! みふゆ食べたことないの」
次の目的は、ガイドブックで見つけた、あの抹茶パフェ。
苔生した緑に積もる秋の彩り。
この常寂光土の観を、遥か昔、藤原定家も同じ様に眺めたのだろうか。
「百人一首が編纂された時雨亭の跡っていくつかあるんだ?」
姫乃井・茶子(歴女de茶ガール・d02673)の言う様に、伝承地は複数あるが。
今回は紅葉美しい、常寂光寺と二尊院へ。
藤原定家史跡めぐりを楽しむ一條・華丸(琴富伎屋・d02101)は、皆の視線を独り占めする紅葉に嫉妬するも。やはり瞳に映すは、華やかな暖色。陽光に煌く紅が染める錦絵に、心ときめかせて。
「そりゃあ鬼だって見物に出かけたくもなるってな」
「確かに更科姫が出て来そうだね?」
華丸に頷いた茶子だが。
「! 本堂は桃山城の客殿を移築したものなんだって!?」
歴史はまさにミルフィーユ状態!
茶ガール道を邁進する歴女の心は、一気に戦国時代へ!?
そんな幼馴染に華丸は笑って。
「今日は平安にしとけよ?」
「心は平安だから大丈夫だろ」
余計に混ぜっ返し笑む、千早。
そして千早が二人と見る秋の彩りは、特別で。墨絵の如き普段の静寂に、はらり紅葉降り積もれば――目を奪われるほど色鮮やかな蒔絵が、そこに。
「定家は此処で百首を選定したのか……」
「ここで定家が歌を選んでたかもなんだよ? 浪漫だねー♪」
目の前に佇む時雨亭で百首が選定されたと思うと、まさに浪漫。
秋の歌を好んだ定家の想いを偲び、千早もより感慨深く感じて。
そして見つけた歌碑に刻まれし貞信公の紅葉の一首は、華丸も好きな歌。
3人は貞信公が詠んだ、小倉山の峰のもみじ葉を眺めながらも。
「偉大な先達に返歌と洒落込もうか」
「良いねー! 皆で来た記念にもなるね♪」
いざ、それぞれの言の葉を染め上げる。
永久の秋ぞ巡れる小倉山 錦織りなす 君が言の葉――まずは茶子がそう返歌すれば。
君おおふ金色燃ゆる天蓋に 忍びにたえぬ 心知るべし――華丸が思い出すのは、友人の為に銘を打った鼈甲の撥。思い入れ深い「みゆき」の響きに懐かしさを感じつつも、一首したためて。
あじきなき山も心も紅に 染める紅葉葉 友あればこそ――定家の時代から、誰かと見る紅葉は特別だっただろうと、思う千早。
そして自分にとっての「誰か」は、今一緒に紅葉を眺める友で。
改めて千早は、やはり和歌は素晴らしいとそう思う。歌でなら、言えるから。
それから3人は、有名すぎる紅葉の名所・二尊院へ。
「このお寺の門は伏見城の薬医門だったんだ!? 今は無いお城の門が観られるって何か嬉しいね♪」
紅葉の馬場は何だか今にも武士が現れそうな風情だと言う茶子に並んで、華丸もワクワクと心躍らせる。
門から時を潜って、違う時代へ行くことだって、出来そうだから。
そして最後に立ち寄ったのは、有名な座布団屋さん。
「とっても座り良いんだよ☆ 殿、部室に置いちゃわない?」
「部室に置くのを何枚か買っていこうか。あ、楽屋にも欲しいな」
選んだのは勿論、3人で愛でた彩りと同じ――紅葉色のもの。
●嵐山に燃ゆる秋
昼食を取った後、一樹は【お茶会部】の皆と合流して。
嵐山を染める紅葉を眺めながら楽しむのは、クラブ名通り、お茶や甘味!
「近頃は肌寒いからね……生姜紅茶、持ってきたよ」
紳士的で穏やかな口調で提供するのは、肌寒い季節でもぽかぽか温まれる紅茶。
「あまりやったことはないが、うまくできているだろうか?」
響もそう手作りクッキーを差し出しながら。
一樹から受け取った紅茶にジャムを多めに入れて、甘いロシアンティーに。
のんびり紅葉を見る翔也が持参したのは、手製のお団子。
「これ、名前とか忘れたけど今の季節の和菓子だそうですよ」
久良が途中で買った甘味は、京都らしい和菓子。
「色とかきれいだし、いろいろこってる気がするな」
そう言うのってあんまりわからないんだけどね、と笑む彼に。
ひとつ貰うね、と一樹は断ってから。
「そうだ、折角京都まで来たんだから、後で八つ橋を買って帰ろうか」
京都名物・八つ橋を土産に提案!
紅茶を飲みながら、クッキーにお団子に和菓子にと、楽しく舌鼓。
そしてそれは勿論、一樹だけでなく皆も同じで。
戦いの日々をほんのひと時だけ忘れることにしようかねと、翔也は色づく紅葉を眺めて。
「お菓子もおいしいし、紅葉もきれいだし、来て良かったかな」
「紅葉が綺麗だとは話には聞いていたが、話に聞いた以上に綺麗だな。やっぱり足を運んで正解だった」
「ふふ、今日は皆と来られて良かったよ」
そう微笑む久良や響に、一樹は満足気に頷くも。
「しかし我ながら……京の都を歩くのにこれは、ミスマッチだったかなあ……」
流石に芸者の格好で歩くのはハードルが高い気がするけど、と呟く。
でも……こうやって気の合う仲間達と、紅葉を愛でる心があれば。
服装はきっと、無問題!
まずはお約束、鼻先と尻尾でご挨拶し合って。
早速もふもふ戯れる霊犬達に笑みながら。
「紅葉もえぇし、夕焼けも綺麗やし、ほんまにえぇ季節やねぇ」
「京都は寒いって聞くけどな」
「もうちょっとしたらあっちゅう間に風が冷たなりますよって」
采とカイザは渡月橋から大堰川沿いをのんびりと散策。
只でさえ綺麗な紅葉を、更に夕陽が紅く染め上げる中。
主人達を後目に、キャッキャじゃれ合う霊犬達。
舞い踊る紅葉目掛け、飛び上がったり。くるくる一緒に舞い遊んだり。
夢中になりすぎて、もふもふ二匹絡まったりも。
そして紅葉の赤と、青と紫を帯びる二匹の炎が仲良く混ざれば……不思議で美しい色に。
そんな様子を眺める采は、ふと夜明色の瞳を細めて。
「今度は面白い都市伝説依頼でもご一緒できたらえぇわぁ」
「じゃあ遥河に予知して貰わないとな」
カイザも楽し気に、そう笑み返す。
そして更に川を辿った先、渓流沿いを走るのは、トロッコ列車。
窓がない一番前の車両に乗り込んだ天城・美冬は。
「結構寒いけれど、大丈夫?」
だいじょぶですよ! と隣の陽太に返すも。
「でも、コートありがとうです」
貸りたコートの襟を合わせ、うずまる様に着て。
列車が走り出し、秋風が吹いても――彼の温もりがじわりと残る上着は、暖かい。
そして、流れる景色を染めているのは。
「うわぁー! 紅だけじゃなくて黄色や緑もあって色彩豊かだねっ!」
「そですね、秋はこんなにも色がいっぱいあるですね」
二人で発見した、沢山の秋の色。
それをもっと見たくて。美月は身を乗り出そうとするも。
「間近で見てみたい気もするけど、転んだら渓流まで落ちちゃうから流石にためらわれるねー」
「傍でも見てみたいですが、今度の楽しみにしておくです」
くつくつ笑む彼に頷く。きっと、またある機会の為に。
そして思い出と紅色が褪せぬ様、拾った紅葉を押し葉にする彼女を見つめ、陽太は思う。
いつかこの紅葉ぐらい、いろんな色の顔を見せてくれる日が来るといいなぁ……と。
夜の闇にさえ浮かぶほど鮮やかな、秋の彩りを背景に。
――またヤツに会えるだろうか。
渡月橋のその名の通り、橋を渡らんと姿を見せた月を、ただぼんやりと見上げて。
葉は一瞬、心を誘われかけるも……それを引き止めたのは、目が覚める様な紅。
とめどなく闇に堕ちて舞うその色は、血潮にとてもよく似た真紅で。
あの世の入口の様にも見える橋の欄干に手を掛けた錠は、その一葉に、ぐっと手を伸ばす。
そして間一髪掴み振り返れば、予想通りの葉の呆れ顔が。
「たかが葉っぱ一枚にアホか」
「俺はこの一葉が欲しかったんだよ」
でも、そう得意気に笑い素直に手を伸ばせる錠が、葉には少し羨ましくも思えて。
この橋を渡り切ったら、ちゃんといつもの俺に戻るから――それまで隣に居たい、と。
そう紡いだ錠と共に、まだ橋を渡り終えていない月に背を向けて。
「傍にいるのも離れるのも、好きにしろよ」
はらり紅が堕ち続ける中。
葉は帰る前に、錠リクエストのお勧めな湯葉の店へと向かうのだった。
| 作者:志稲愛海 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2014年11月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 5
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