『岩壁の騎士』カルクシュタイン

    作者:刑部

     都内某所、かって大作ファンタジーTCGを作成しようとして頓挫し、莫大な借金を作って廃業した会社カタパルトカンパニー。社長及び社員の幾人かが自殺した曰くのあるその会社のあったビルの近く。
     黄昏時の赤い夕陽に照らされた静かな路地裏に、奇妙な空気の流れが現れ、落ち葉や埃を舞い上げ、中央の空間に吸い込まれる様に渦を巻く。
     その中央に赤い閃光が瞬き、宙に1枚のカードが現れた。
     対角線上の角を軸とし、くるくると回転したカードが地に落ちると、中から象徴的な紅のラインの入った鎧を纏う騎士が大きな鎚と盾を手に現れる。

    「ぬ? ここは何処じゃ? 先程まで切り結んでいた敵は何処へ消えた?」
     タワーシールドはその全身を隠す程巨大であり、鎚は鉄板でも容易に曲げそうな程のサイズがある。それらを手にした紅のラインが入る仰々しいフルプレートに身を包んだ初老の騎士が、面甲を上げて訝しむ。
    「ぬ、そこに居ったか! 最強騎士国グレートナイトを攻める阿呆め。この岩壁の騎士カルクシュタインの守り突破できると思うな!」
     カルクシュタインと名乗った初老の騎士は、面甲を下すと巨大な鎚を軽々と振りまわして見せた。
    「……関わっちゃいけないタイプの人な気がするのは俺だけ?」
     灼滅者の一人が同意を求める様に仲間達を振り返るが、
    「さぁどうした! 掛って参れ!」
     カルクシュタインはそんな事はお構い無しに気勢と怒声を上げている。
     たとえ関わってはいけないタイプだとしても、一行がブレイズゲートの調査に来ており、敵が目の前に居る以上、これを排除するしか選択肢は無かったのだ。
    「ではお望み通りお相手しましょう」
    「おう、掛って参れ! この岩壁の騎士カルクシュタイン、逃げも隠れもせん!」
     灼滅者達が得物を構えると、カルクシュタインも鎚と盾を構える。
     こうして黄昏時の路地裏の空き地で、灼滅者とカルクシュタインの戦いの幕は、切って落とされたのである。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    式守・太郎(ブラウニー・d04726)
    黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)
    鷹嶺・征(炎の盾・d22564)
    西園寺・めりる(お花の道化師・d24319)
    朝霧・瑠理香(彷徨える戦いの亡者・d24668)
    海野・桔梗(鷹使いの死神・d26908)
    アルスメリア・シアリング(討滅の熾焔・d30117)

    ■リプレイ

    ●守勢の騎士
    「さぁ掛って参れ! この岩壁の騎士カルクシュタイン、逃げも隠れもせん!」
     身が隠れる程大きなタワーシールドを構え、カルクシュタインが吼える。
    「む、良く言ったじゃない。私達天剣絶刀が望み通りぶち抜いてやるわ!」
    「誉高き『岩壁の騎士』に敬意を表し、全力で戦う事を誓いましょう」
     アルスメリア・シアリング(討滅の熾焔・d30117)が、ムッとして言い返すと、祝福の姫剣を掲げた黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)が相手に向かってそう告げ、くるりと振り返り、
    「大丈夫、天剣絶刀の皆が力合わせ戦うならば、絶対に勝てます」
     と仲間達を鼓舞すると、足元にじゃれ付いていた霊犬の『絆』が、そうだそうだと同意する様に吠えた。
    「だな。最強騎士団とやらの実力、拝見しやしょう。殲具解放! 『カラブラン』ギィ・ラフィット、推して参る!」
    「天剣絶刀の新人、式守が相手になります」
     一団を率いるギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が、相手から近寄って来ないのを見て剥守割砕をゆっくりと構えると、式守・太郎(ブラウニー・d04726)も破魔の薙刀を一閃して小脇に構える。
    「あんな盾見たことないですよ。すっごく固そうで油断できないですー」
    「いくら堅牢であろうとも、今はもう守るものない盾です。打ち砕かせていただきましょう」
     ナノナノの『もこもこ』に語り掛ける西園寺・めりる(お花の道化師・d24319)の言葉に、鷹嶺・征(炎の盾・d22564)が応じて血色の瞳を細める。
    「小細工無しで戦おうっていうのは、何となく通じるところがある。鉄壁の守りを誇ると言うのなら、その守り天剣絶刀の皆が振るう刃で崩して見せようじゃないか……さあ、行こうか、凄絶に!」
     大きく息を吐いた朝霧・瑠理香(彷徨える戦いの亡者・d24668)が、腰を落として上体を屈めると、
    「なに言っとるかわからん! はよー掛ってこい!」
     カルクシュタインが鎚で自分の盾を叩きガンガンと音を鳴らす。
    「こういう馬鹿正直で頑固なのも嫌いじゃないが……話は聞いてほしいところだね」
     海野・桔梗(鷹使いの死神・d26908)が、苦笑しながらやれやれだというポーズをとり、
    「我が名はアルスメリア・シアリング! 岩壁の騎士カルクシュタイン、いざ―――尋常に勝負!」
    「してやるから来いっつんてんだ!」
     名乗りを上げたアルスメリアに、遂にキレたカルクシュタインが、面甲を上げ怒声を放つ。
    「たぶん、早く行かないと寿命が尽きるんっすよ。じゃあ疾くと行きましょうか」
     地面を蹴るギィに続き皆が駆け出すと、カルクシュタインは嬉しそうに笑い面甲を降ろしたのだった。

    ●矛盾
    (「さーて、噂に聞くカードの騎士団っすね。シャドウにはタロットがいるみたいっすけど、こいつらはどんなものか……」)
     駆けながら値踏みしたギィが振るう剥守割砕の一閃。ドン! と地面に突き立てられたタワーシールドがその刃を受け、激しい金属音を響かせる。
    「……一歩も退きませんか。この方の頑固さは、このゲームに人生を掛けた人々の頑固さから、来ているのでしょうか?」
     ギィの一撃を見事に受け止めたカルクシュタインに、小首を傾げた征の背に焔の翼が広がる。
    「来たれ我が炎! 顕現せよ熾焔!」
     その征の横、赤いツインテールを風に靡かせ突っ込んだアルスメリアが、ギィの攻撃を盾で止めるカルクシュタインに逆側から斬り掛り一撃を叩き込む。
    「シアリング、上です」
     征の声に視線を上げたアルスメリアは、自身目掛けて振り下ろされる鎚を見ると、その腕を異形巨躯化させその鎚の鎚頭ではなく柄を払う。
    「ほぅ、やりおるな小娘!」
     鎚頭を払ったなら腕が潰されていたかもしれないが、柄を払った事で重心がズレ、鎚が空しく地面を叩くと、カルクシュタインが嬉しそうに歯を見せて笑い、その鎚を大きく薙いで踊り掛った霊犬の絆共々前衛陣を押し返す。
    「年をとっても元気なのはよいのですが、こういう元気は困りますね」
     征は老人とは思えぬその力倆に嘆息しつつ、影で出来た刃鎖を飛ばす。

    「悪党さんからもらった朝霧十三刀真打『蓮花翡翠』の強さを確かめる時がきたです!」
    「絆、まだ大丈夫でしょう? 皆様を護って」
     日本刀を掲げためりるが、ちらりと瑠理香の方を見た後、裂帛の気合と共に踊り掛り、押し返され尻尾を振りながら戻ってきた絆。その頭を撫でた空凛が飛ばした影の刃と共に、絆が駆けてゆく。
    「踏み込みが甘い、奇襲する気なら声を出さずに斬り掛れぃ!」
     前衛陣が周りを囲み波状攻撃を仕掛けるが、カルクシュタインは大きなタワーシールドと鎚を巧みに操り、稽古を付けるかの如く灼滅者達をあしらっている。
    「そらそらそら!」
     スピンするカルクシュタインの鎚にアルスメリアが弾き飛ばされ、もこもこが回復に動く。そのまま回転したカルクシュタインの、遠心力を加えた一撃を受けためりる。
    「くっ……うわっ!」
     クルセイドソードの背で鎚頭を受け堪えたが、次の瞬間、鎚を手放したカルクシュタインのタワーシールドをぶつけられその体が弾き飛ばされ、めりるの体が落ちるより早く鎚を拾い上げたカルクシュタインが地面を叩いて追撃を掛ける。
    「私が一歩を踏み出したこの仲間達を、倒される訳にはいかないのです」
     刀身に刻まれた祝福の言葉を開放し、仲間を回復した空凛は、瑠理香と桔梗の攻撃を盾で受けるカルクシュタインを、その紫の瞳で睨みつけた。

    「ナーゼンに続き、あなたも倒させて頂きます」
     振り回される鎚に前衛陣が押される中、身を低く保ち白いマフラーを棚引かせその下を掻い潜った太郎が、雷を纏った拳を叩き込む。カルクシュタインの意識が太郎に向くと、
    「いい加減、ジジイは隠居の時間だぜ!」
     更にその顔目掛け、影を纏った得物を一閃させたのは桔梗。
    「ちょこまかと……」
     懐に入られての連続攻撃に忌々しげな声を出すカルクシュタイン。
    「正面ばかりじゃないよ、搦め手からもいかせてもらうよ」
     その後ろから瑠理香。影で出来た触手が伸びその脚を絡め取るが、
    「それなりにやる様じゃな」
     カルクシュタインは鉄壁の構えを取って受けた傷を癒し、付け入る隙を見せないでいる。
     灼滅者側も空凛の回復により体勢を立て直すと、ギィが再度突っ込み皆が続く。
    「むっ!」
     幾人かの攻撃を受け止めたタワーシールド。その左右に見え隠れする瑠璃香に気を取られたカルクシュタイン。その為、仲間の背を足場にそのシールド上から飛び出した桔梗に、完全に不意を突かれた。
    「はっ! 頭も固ぇなら体も堅いってか!」
     言葉と共に振るわれた飛び蹴りが、辛うじて身をよじったカルクシュタインの兜を弾き飛ばし、年相応の白髪交じりの頭が露わになり、
    「その厳格さ嫌いではないです」
    「守りばかりじゃ、こいつは防げないぜ!」
     露わになった顔に剣術家の爺を思い出したのか、太郎が僅かに目を細めて破魔の薙刀を捻り穿ち、死角に飛び込んだ瑠理香が日本刀で斬り上げると、桔梗が太郎の振るった薙刀の柄を蹴って跳び退き、体勢を整える。

    ●波涛
     打ち合う事数合。脳天砕きを受けた太郎と征もなんとか戦線に復帰し、互いに肩で息をし、相手から視線を外さない。
    「一気に行くしかないっすね」
     鉄壁の構えをとるカルクシュタインを前に、仕切り直しの様に一旦攻撃の手が止まると、ギィが言葉と共に大きく息を吐き仲間達とアイコンタクトを交す。
    「騎士の旦那、あんたが護りたいものってなんすか? 誰の為に、何の為に、その槌を振るってるんで?」
    「しれた事、我が国、我が矜持を護る為よ」
     言の葉の間隙。問うて答えるカルクシュタインに向かってギィが一直線に斬り掛る。
     ガッ!
    「バカの一つ覚えではわしを抜けんぞ!」
     その一閃を大きな音を立てたタワーシールドが受け、カルクシュタインが鎚を振る。
     今度はギィが盾を打った剥守割砕を翻して地面に突き立て、その刃に足を添え体重を掛け衝撃を堪える。
    「そろそろ仕舞いにしましょうや、『岩壁の騎士』カルクシュタイン卿! メリア!」
     再び響く衝突音と共にギィが吼える。
    「ふん、中々やるじゃないギィ! 戦闘『では』頼りになるね!」
     呼ばれたアルスメリアが現れたのはギィの下。股の下をくぐっての一閃は、
    「鉄壁の守りだって? ……上等! 僕らの力でその守りごと粉々に砕いてやるよ、めりるちゃん!」
    「はい、悪党さん」
     とギィの左右からカルクシュタインに踊り掛った瑠理香とめりるの動きと、
    「……と見せかけて、上から、だろ!」
     一房だけ赤い髪を揺らしてギィの上から強襲した桔梗に、カルクシュタインが反応した事もあり、完全に虚を突かれたカルクシュタインの膝に強烈な一撃を見舞う。
    「ぐぉ、下……だと……」
    「これで倒れないって、強いねカルクシュタイン! でも……私達は8人だから! 1人のお前には負けやしない!」
     下げたカルクシュタインの視線と見上げたアルスメリアの視線が交錯する。
     ……が、それも一瞬、
    「あなたの生き方、嫌いではないですよ」
     距離を詰めた征がカルクシュタインの腕を薙ぎ、ギィとめりる、太郎がタイミングを合わせて攻撃した為、初老の騎士は舌打ちして跳びずさるのを、
    「逃がさないよ」
     瑠理香がタイミングを合わせて跳ぶ。
    「なめるなよ小娘!」
     なんとカルクシュタインは跳躍中にも拘らず、その鎚を振るう。
     踏ん張れないので普通にバランスを崩すだけと思われたが、唸りを上げて自分の頭目掛けて振り下ろされる鎚に、
    「なっ……」
     絶句した瑠理香がその目を見開く。
     次の瞬間、絆が瑠理香に体当たりし鎚は瑠理香の肩と絆を強かに打つ。
    「絆、瑠理香様!」
     消滅する絆、左肩の骨が砕かれたのか、押さえながら地面を転がる瑠理香に空凛が回復を飛ばす。
    「てめぇ、調子乗りやがって、落とし前つける覚悟はできてんのか!」
     カルクシュタインの方には怒気も露わな桔梗が襲い掛かり、その糸が鎧に絡みつく。
    「これが俺の全力の拳です」
     その糸によりカルクシュタインの動きが一瞬止まったタイミングで太郎。
     収束したオーラを纏った拳が連続で叩き込まれ、カルクシュタインの鎧がいびつに歪み、その内の一発が肩を打ちタワーシールドを取り落とした。
    「ここが画竜点睛です」
    「回復は頼みました。皆様、一気に押しましょう」
     そのタワーシールドを蹴り飛ばした征が、炎を宿してカルクシュタインを薙ぎ、起き上がった瑠理香の回復をもこもこに任せた空凛も、ここが要諦と攻撃に切り替える。
    「所詮は、作り物の騎士道。闇は闇に、虚は虚に、還してやるのがせめてもの情けっす」
     ギィの一閃がカルクシュタインの鎚を弾き飛ばし、くるくると回転した鎚が離れた所に落ちると、めりるとアルスメリアそして、
    「どうだ? 鉄壁の守り穿ってやったよ」
     瑠理香、3人の刃がカルクシュタインの体を貫いた。
    「見事だ若人達よ……」
     そう言って笑ったカルクシュタインの口から鮮血が溢れ、3人が刃を抜くと、繋ぎ止めていたものを失ったのか、膝から崩れ落ち大地に身を投げ出し、カルクシュタインの体は、霞となってその武具共々掻き消えたのだった。

    ●讃歌
    「天剣絶刀の勝利! うん!」
    「皆様、お疲れさまでした」
     アルスメリアが声を上げると、空凛がそう言って頭を下げ張り詰めていた緊張の糸がほぐされる。
    「消えてしまいましたが、弔いぐらいはしてあげるのですー」
     めりるがカルクシュタインの消えた辺りに花を供え、なむなむと手を合わせると、皆もそれに倣う。
    「カルクシュタインにグレートナイトですか……どうしてご本人の名前はドイツ語なのに、国の名前は英語なんでしょう?」
    「カードを作った奴がバカなんだろう」
     首を傾げる征に対し、取り付く島も無い返答をする桔梗に、
    「前に戦ったナーゼンシュライムも鼻水という意味でしたし、海野の言う事は案外当たっているかも」
     前に同じグレートナイトの騎士の一人と戦った太郎が、納得顔でちゃちゃを入れた。
    「バカだから潰れたのかもなこの会社……」
     そう言って瑠理香が、ブレイズゲートの中心付近にある『カタパルトカンパニー』の廃屋を見上げた。
    「また出るなら虚に還してやるだけっすよ。……じゃあ、かえるっすか」
     ギィが仲間達を振りかえり、大きく伸びをして笑顔を見せた。
     こうしてカードの騎士を屠った天剣絶刀の一行は、一人も欠ける事無くお互いを戦果を讃え合うと、激戦の地を後にしたのであった。

    作者:刑部 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ