銀華、月下に誘う

    作者:高遠しゅん

     星のない空に、針の先で掻いたような細い月がかかっている。
     その月のように、切れ長の目を細く細くしならせ、白銀の娘は忍び込んできた相手を見やった。
    「……それが、女の寝所に忍んでくる理由か」
    「そうだよ。あのアモンやハルファスの配下だった君の協力が得られれば、きっとラブリンスター様もお喜びになる」
    「妾に利は無いのぅ」
    「キミに心奪われたボクじゃ不満? 咲き誇る花のように麗しいひと」
     どこまでも白くどこまでも紅い、ソロモンの悪魔・白百合は。紅い瞳に静かに笑みをたたえた。紅を差した唇も笑みを形作れば、青年アイドル淫魔は妙に爽やかな微笑みで応える。
    「イエスと言ってくれるなら、ボクは全てをキミに捧げるよ」
    「ラブリンとやらは、淫魔の女あるじか。妾の居場所を、よう探したものよ」
    「ボクたち淫魔のスーパーアイドルさ。何でもお見通しなんだ」
    「妾の心までも見抜いたと」
     つと伸ばされた指先が、青年淫魔の顎を上げさせる。
    「……答えはイエス。そうだろう? プリンセス・リリー」
     とろりとした瞳で白百合を見上げる淫魔。その首が落とされようとしていることに、気付くことはなかった。


    「厄介な展開だ。それでも行動は起こさねばならない」
     櫻杜・伊月(大学生エクスブレイン・dn0050)は、あたたか~い缶コーヒーで指先を温めている。
    「『白百合』を覚えているか」
     これまでに数度、学園と接触を持ち戦った、ソロモンの悪魔の名。久々に耳にしたと灼滅者の一人が言えば、伊月は頷いた。
    「今年の春以来、動きが見えなかった。その間にラブリンスター配下の淫魔が居場所を掴み、接触を図ったようだ」
     サイキックアブソーバー強奪作戦は、ラブリンスターの戦力を大きく削った。失った戦力を回復させるため、各地に潜伏している残党と思しきダークネスを、陣営に引き込もうとしているらしい。しかし、すべてが順調にいくとは限らない。
    「交渉は決裂、淫魔は殺される。だが学園としては、サイキックアブソーバー強奪戦の借りがある。殺されるとわかっていて、放置するのもどうかと思われる。よって」
     この戦闘に介入する。
     伊月は言って、手帳を開いた。

     ラブリンスター配下の淫魔は、どうやら自分が白百合に攻撃され、殺されるということに全く気付いていないらしい。ソロモン得意の口八丁と、淫魔の色仕掛け。軍配はソロモンの悪魔に上がったようだ。
    「事をうまく運ばないと、逃げ帰った淫魔がラブリンスターに『武蔵坂に邪魔されて勧誘が失敗した』と報告される。学園にとって、まずい事態に発展しかねない」
     注意が必要だと伊月は言う。
     白百合は淫魔の青年を全力で殺しにかかる。現在の住処である山奥の屋敷の庭までは、何事もなかったように淫魔と二人で出てくるようだ。
    「君たちにはそこで、どうするかを決めてほしい」 
     解決策は二つある。
    「ひとつ、淫魔が殺されるのを待ち、白百合を灼滅する」
     淫魔もソロモンの悪魔もダークネスだ。この機に倒しておけば、後々の被害が無くなるかも知れない。
    「もうひとつは、白百合の邪魔をして、淫魔を助けて逃がすことだ」
     淫魔は自分が殺されそうになると知れば、必死で逃げ道を探す。学園の灼滅者が白百合の邪魔をして隙を作ってやれば、勝手に逃げ出すだろう。
     しかし、淫魔が納得する程度の説明がなければ、武蔵坂が交渉の邪魔をしたとラブリンスターに報告するだろう。
    「選択は君たちの思うままに」

     伊月は幾つかのファイルを提示した。
    「あれでもラブリンスターは、現在活動しているダークネスの中では最強クラスという噂もある。敵に回せば学園にどんな影響があるか、未知数だ」
     雲隠れしていた白百合の、真意は未だ掴めず。
    「……気をつけて、行ってきてほしい。全員での帰還報告を待っているよ」


    参加者
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    三条・美潮(大学生サウンドソルジャー・d03943)
    斉藤・キリカ(闇色子守唄・d04749)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    月原・煌介(白砂月炎・d07908)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)
    クラウディオ・ヴラディスラウス(ドラキュリア・d16529)

    ■リプレイ


     冷たい風に、紅葉も散りおちた庭木が揺れる。
     エクスブレインの示す地図を頼りに道無き道を行き、辿り着いたのは山奥に不似合いな広い和風建築の屋敷。門は閉まっているが衛兵はおらず、飛び超えられぬ高さでもない。
     音もなく塀を駆け上がり、灼滅者たちは庭の端に降り立つ。
     見えたのは山茶花の生け垣。色の乏しい冬の庭に、赤の花弁が彩りを添えている。紅葉する木々の葉はほぼ落ちきっているが、数本の木がまだ赤と黄の葉を舞わせている。
    「……いました」
     声を潜めるのは星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)。庭木の茂みからこそりと身を乗り出し、縁側で仲むつまじく手を取り合う青年と、銀糸の髪もつ白無垢の娘の様子を捉える。
     もっとも、まだ灯りを付けていないので、細かいところまでは見て取れない。
    「こんばんは? お邪魔します、だわよー」
     ただ潜んでいるだけでは間に合わない。淫魔が殺される前に行動を起こす。
     斉藤・キリカ(闇色子守唄・d04749)が、綾から渡されたカンテラを持ち顔を出した。隠れていてもここは白百合の領域、いずれ見つかる。誰何される前に出て行く方が得策。
    「お邪魔だったかしら、ごめんなさい、ね」
     クラウディオ・ヴラディスラウス(ドラキュリア・d16529)もまた、歩み出た。キリカのビハインドやクラウディオの霊犬は、まだカードの中だ。全員武装はしているが、剣は鞘に収め、その他の武器は見せていない。
     その声に、妙にキラキラした青年アイドル淫魔と、その手に手を重ねる白百合が振り返る。ほんの一瞬、紅珠の瞳が険しく光るのが見て取れた。
    「こんばんは。一年ぶりね、白百合」
     漣・静佳(黒水晶・d10904)は、カンテラを掲げ白百合をまっすぐに見た。
     『病院』戦で顔を合わせて以来、探し続けていた相手だ。その思いを視線に乗せる。
    「ほぅ、屍王の娘か。久しいのぅ。したが思い出話をするにはちと、観客が多すぎる」
     次々と姿を現す灼滅者たちがここに何をしに来たか。言外に白百合は問う。
    「合理主義者の貴方が、利のない淫魔との同盟を結ぶ筈がない。違いますか?」
     仙道・司(オウルバロン・d00813)は、真摯な瞳を白百合に向けた。この言葉には青年淫魔がキラキラしながら反論した。
    「おいおいキミたち、ボクたち淫魔にはラブリンスター様の加護がある。いくらラブリンスター様お気に入りの灼滅者だからといって、利がない同盟だなんて言っていいことと悪いことがあるだろう?」
     無駄にキラキラした青年淫魔は、最後にさらりと前髪を払った。まったくもって無駄なポーズだった。
     ふと、白百合が淫魔の背に怯えるように隠れた。肩に添える指先は、かすかに震えている。青年淫魔の庇護欲をそそる演技だった。
    「妾は、灼滅者が恐ろしゅうてならぬ。なりふり構わぬ、無粋な輩よ」
    「怯えないで、ボクのプリンセス」
     あっさりころっと騙される青年淫魔、その手をそっと握り返し、姫を守る騎士の気分で庇う姿勢。キラキラは知性のきらめきではない事が、はっきり分かる光景だった。
    「武蔵坂の灼滅者は、ラブリンスター様の協力者だ。キミがボクら淫魔に協力してくれるなら、彼らはキミに手を出せないよ」
    「恋をよく遊ぶにゃ女を楽しませろよ」
     青年淫魔の歯の浮くセリフに、三条・美潮(大学生サウンドソルジャー・d03943)は苦く笑った。
    「逢い引きの途中で、別の女褒めちゃいけねーや」
    「彼女は協力を約束してくれたよ。キミたちこそ出しゃばるのはやめてくれないか」
    「勧誘も大事だが、それ以上にお前が居なくなれば、ラブリンスターにとって大きな痛手だ」
     文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)が声を上げる。
     白百合は淫魔から見えない位置から、弓のように目を細めて咲哉を見た。篝火に照らされたあの夜の出来事を、思い出しているのかも知れない。
    「白百合には不穏な動きがある。俺たちはそれを察知してここに来た」
     咲哉は青年淫魔に訴える。
    (「灼滅者とダークネス。お互い喰い合う、世界の理。だけどこのひとと、話がしたい」)
     ひそりと月原・煌介(白砂月炎・d07908)は思う。銀の瞳を細め、心を読み解くように赤の視線と合わせる。
     そこに空気を読めないキラキラ淫魔が手を振り上げた。
    「ボクがいなくなる? ラブリンスター様直々の命令を、キミたちはどう――」
     青年淫魔が言葉を切る。口元から、どす黒い血がこぼれ落ちた。
    「……?」
     力の抜けていく体に、信じられないという表情で淫魔は膝をついた。
    「淫魔が灼滅者を唆しているとは初耳じゃの。危うく力を貸す羽目になるところであった。礼を言うぞ」
     鈴を転がすような白百合の笑い声。
    「おぬしが灼滅者をここまで案内したのじゃな。せっかく面倒事から離れておったというに、これですべてが台無しじゃ。妾の苦労も、儚きものであったのう」
     縁側から地面に落ちる青年淫魔の背に、銀の燐光纏う針のような矢が数本突き刺さっていた。白百合が背後から放った、零距離の魔力の矢だ。
     色々足りてないキラキラ淫魔でもダークネス、耐久力は灼滅者の数倍はある。一撃で命を散らすほどではないが、体勢を立て直し、現状を把握するまでにしばらく時間がかかりそうだった。
    「誤解だよ、プリンセス。ボクは……」
    「白百合さんは、淫魔さんに興味が無いのですかね。名も聞いてないなんて」
     綾が呟けば、白百合は弓のように唇を笑みの形にしならせた。
    「もとより消す相手の名を聞くほど、無駄なこともあるまいて」
    「……淫魔さん。そこまで殺されそうになっても、まだ信じてるんですか」
     青年淫魔はアイドルオーラもどこへやら、庭を這いずっている。
     ぱん、と白百合が扇を鳴らせば、篝火が煌々と燃え上がった。
     照らし出された庭園には、強化一般人の部下達がどこからか音もなく集い、白百合の左右と前を固める。巨大な剣を片手で扱う紫袴の男は、白百合のもっとも近くにいた。
    「よりによって淫魔にたぶらかされるとは、可笑しやのぅ、灼滅者」
     いかにもといった表情で笑い、白百合は空に指を遊ばせる。
    「さあ、本気でゆくぞ。その同胞とやら、守ってみせるがいい」
     ごう、と冷気が地表を覆った。


     咲哉が地を蹴って低く跳ぶ。転がったままの淫魔の襟首を掴み、後方へ押しやった。すかさず煌介が星図を模した盾を広げ、仲間ごと淫魔に護りをつける。
    「今は退き時、俺達を盾にしてでも逃げ延びてくれ」
    「……早く行く、すよ」
    「でも、プリンセスが。ラブリンスター様が……」
    「いつまで何を信じてるのですか。白百合さんは淫魔さんと同盟を結びません。騙されたんですよ」
     綾がシールドリングを飛ばして癒しを送れば、やっと淫魔はその顔に焦りを浮かべた。
    「ボクは……彼女に遊ばれていたのか!?」
    「まあ、ある意味間違っちゃいねえけどな。イイ男は失敗を認めるモンさ、なあ色男?」
     斬りかかってきた浅葱袴たちが、美潮の繰る魔導書の禁呪に身を焼かれる。元から手加減する気もない。本気の戦闘で立ち向かうのみ。
    「そうだったのか……名も知れぬ灼滅者諸君、ボクは危うく」
    「早くここから去ると、いいわ。貴方はここで、消えるほどつまらない人では、ないでしょう」
     言葉を遮って、クラウディオがカードから霊犬のシュビドゥビを喚び出す。浄霊眼の癒しが淫魔の困惑まで消し去った訳ではないが、ようやく淫魔は立ち上がった。
    「この恩は決して忘れない。キミたちのおおっ!?」
     淫魔の耳の脇を、恐ろしい勢いでリングスラッシャーが躍った。キリカのビハインド、イヴァンが身を盾にして白百合の攻撃を逸らしたのだ。
    「ほら急いで、あんたになんかあったらラブリン困るっしょ?」
     長口上になりそうなところを再度遮り、内心の葛藤をおくびにも出さず、キリカが急かす。淫魔など、ダークネスなど本当は助けたくない。けれど本音は本音、建前は建前。
    「助けられた恩を返させてくれ」
     背を押すような咲哉の言葉に頷くと、今度こそ淫魔は背を向けた。篝火の明かりから逃れるように駆け、そして闇に消えた。
    「彼に手出しはさせません。もし敵対するなら戦いましょうっ!」
     司が叫び、鬼腕を大きく振り上げる。交差するのは巨大な剣、紫袴の斬艦刀の男。
     白百合は館の縁側から動いていない。
     やがて、
    「退け」
     地表が凍てつき、最前に立つ灼滅者達の足を一瞬止める。その僅かな隙に、配下達は白百合の傍らまで下がった。
     盾となり守る姿勢は崩さないが、攻撃の気配が消えた。
     白銀の髪を揺らし、心底呆れ果てたと白百合は長い溜息をつく。
    「なンだ、もう終わりかよ白百合?」
     本気で戦うつもりだった美潮が、抜き身の刀を手に不満げに声を上げる。
     淫魔を逃がすことだけに注力する戦いは、逆に白百合の戦意を削いだようだ。
     これから追ったとしても、灼滅者が邪魔をする。逃げる相手もダークネス、数分も経たぬうちに、既に闇に紛れて逃げおおせている頃。
     ならば、戦い続けても消耗戦、意味はないと割り切ったようだ。
    「賢しい小鼠と思っておったが」
     淫魔と灼滅者との関係を知った白百合は、ひどく複雑な様子だった。
    「違う。あなたが思うような関係ではないわ、白百合」
     静佳が声を上げる。誤解だと伝えたかった。しかし、適切な言葉を選ぶことができない。
     学園の灼滅者たちは、戦争で力を貸してくれた淫魔を見殺しにできない。その事を伝えるには、何故淫魔が力を貸すに至ったかまで、遡って説明する必要がある。ただ『助けられた』では納得しない相手に、更に情報を与えてしまうことになる。
     悲しい。言葉が、噛み合わない。
    「淫魔に籠絡されたか、灼滅者」
     失望したと、白銀の娘は呟くのだった。


     例えば。六六六人衆は殺戮の技を、アンブレイカブルや羅刹は戦闘力を、ソロモンの悪魔は知略を、淫魔は色欲を以て存在を示す。
    「それらに何ら違いはない。持って生まれた性(さが)に従うまでじゃ」
     だが、灼滅者は同じ力を持っていても、違う。
    「おぬしらは、何故仇敵を守り戦える?」
    「協力しあえるなら、学園はダークネスと手を組むのも肯定します」
     たとえ殺し合っていた相手だとしても。訴える司は、平和を望んでいる。ダークネスとも戦わない、そんな未来を望む。そのためになら、ダークネスと手を組むことは手段の一つに過ぎない。
    「手を組んだ相手が牙を剥くとは、欠片も考えぬのか」
    「学園の灼滅者だけでも、色々な考えの奴が居るしな」
     咲哉が知っている限りでも。平和を望む者、ダークネスを憎む者、その中間でバランスを取りつつ共存を望む者、十人いれば十人、百人いれば百人の考えがある。
     それは理解できると白百合は言う。ダークネスとてそれぞれの思惑など、その数だけあるだろうと。
    「おぬしらは、本当に灼滅者が人間と共存できると信じておるのか」
     揶揄する口調ではない。白百合の、これは真の問いかけなのだろう。
    「あんたが人間好きなのは聞いてる。でも、強化して僕にするのは『共存』って言わないわよ」
     キリカの言葉に、白百合は軽く笑みを投げた。
    「少なくとも妾は、望む者しか僕にはしておらぬ」
    「……まさか、人間のままの配下もいるってこと?」
     ソロモンの悪魔の知性に魅了され、崇拝する一般人勢力が存在するという。ならば、白百合に惹かれ従う人間もまた、存在するのか。
     咲哉の胸裏に、以前の戦いの時、手を伸ばしても救えなかった一般人達の姿がよぎる。
    「貴女は人間を、信頼しているの、かしら。白百合?」
     顔の半分を覆う仮面に触れながら、クラウディオが問う。盲信や狂信ではなく、信頼で結ばれた主従の関係なのだろうか。そんな絆が、ダークネスと人間との間に生まれ得るのか。
    「おぬしらこそ、人間を信じておるのか。否、己を信じられるのか」
     唐突な問いかけに、灼滅者達は顔を見合わせる。
     自分を、仲間を信じて戦ってきた。ダークネスであっても信じ、力を合わせ戦ってきた。それを、信じられるかと問う意味は。
    「どういう意味か、教えてくださる? あなたの心を、知りたいの」
     静佳が問う。様々な表情を見せていた白百合、弓のように目を細め笑う姿は印象的だったが、今は表情から何も読み取れない。
    「おぬしらが『平和』や『信念』とやらのために戦っていること、妾は以前聞いたことがある。各々言葉は違っても、そうであると理解した」
     だが、望む平和の妨げになるのは、灼滅者そのものの存在ではないのか。
    「それは、どういう意味ですか。白百合さん」
     綾は首を傾げる。ダークネスが人類の支配から退いたなら、戦う必要はなくなる。単純に物事は進まないかも知れないけれど。
    「ダークネスと灼滅者は協定を結んだ。互いに戦わず、人間を殺さず、めでたしめでたし。じゃがのぅ」
     ――灼滅者は、ダークネスを殺さねばいずれ闇に堕ちる。
    「人間たちは我らが唆さずとも闇に堕ちる。だが、おぬしらはどうする。殺さず戦わずの『平和』のなかで、己が堕ちるとなれば」
     堕ちるをそのまま受け入れ、ダークネスとして生きるか。
     灼滅者のままでありたいと願うなら、
    「仲間同士で喰いあうか?」
     灼滅者こそが、この世界を不安定にする危険な存在ではないのか。

    「ヤメヤメ、堅苦しいお話し合いはこれくらいにしようぜ、白百合」
     張り詰めた空気を、美潮がかき乱した。息を詰め固まっていた灼滅者達も、また我を取り戻す。
    「仲良くしましょの繰り言は言われ飽きただろ? 空気替えようぜ」
    「そうじゃな、妾も喋りすぎた。所詮はこれも繰り言じゃ」
     ぱたりと扇を開けば、篝火が消える。
    「いつか会うとき、妾を心から愉しませたなら」
     おぬしらに、殺されてやろうぞ。
    「し、白百合さんっ!」
     司は咄嗟に声を上げた。自分の理想が、真っ向から否定されたに等しい。
     囁きを残し、白銀の娘は配下を連れ姿を消していた。
     屋敷の片隅から炎が上がる。みるみるうちにそれは燃え広がり、屋敷全体を轟々と包み込んだ。白百合はこの拠点を廃棄したのだろう。
    「言葉は……大切なものを隠し零す、な」
     銀の瞳に萌える炎を映し出し、煌介が呟く。
     滑稽で諍いと過ちばかり繰り返す、灼滅者とダークネスの関係。どこかで共通点が見つけられたなら、世界の理も変えられるかもしれない。
     白百合は、他の悪魔と違うと思っていた。
     でも、自分たちが灼滅者の総代でないように、白百合もまた数多いる悪魔の一人にすぎない。いずれは正面から殺し合うことが定められているのだろう。

     屋敷が炎の中に崩れていく。
     灼滅者達は言葉も交わさず、立ちつくしていた。

    作者:高遠しゅん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 13
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