小さな街灯がぼんやりと辺りを照らす。
真夜中の公園で、1人の男が色々な遊具を行ったり来たりしていた。
「はぁ……あッ。このブランコの動き、しっかりと見て避けるッ」
その言葉通り、自分で揺らしておいたブランコの間を縫って走る。滑り台を見つけて飛び乗り、防御の構えを取ったまま立ったまま滑り台を滑る。それからジャングルジムに走りこみ、腕の力だけで頂点へ登った。
大柄な男が、そこに腰を下ろす。
「ふぅ。狭い場所を想定した修行に、この公園は最適だな」
そう言って公園を見下ろし、満足げに頷いた。
「さて、もう少し続けるか」
男は呟き、再び公園内を走り始めた。
●依頼
「獄魔大将シン・ライリーによって集められたアンブレイカブル達が集まっている町が発見されたのは、みんな聞いてる?」
教室に現れた千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)がそう切り出した。
その町に潜入した灼滅者達が、有力なアンブレイカブル、ケツァールマスクと接触し、自由に稽古に参加して良いというお墨付きをもらったのだ。
「という事で、稽古を名目にすれば、アンブレイカブルの町に自由に出入りできるんだよ。稽古に来たって伝えて模擬戦をした後なら、アンブレイカブルと交流したり、町中で情報を集めたり出来るんだ」
稽古は模擬戦の形になり、殺したり灼滅するのは不可となるが、戦闘自体は普通に行える。
獄魔覇獄の戦いがどういう戦いになるかは不明だが、対戦相手の情報があることは有利に働くだろう。
「あ、でも、シン・ライリーは町にはいないみたいだから、接触する事は出来ないよ」
そこまで説明して、太郎はくまのぬいぐるみをぎゅっと握り締めた。
「アンブレイカブルは悪人と言うわけではないんだけど、ダークネスに変わりは無いから……、ちょっとした事で殺傷沙汰になるかもしれないんだよ。だから、行動は慎重にしてね」
そう言って、さらに次のような説明が加えられた。
情報収集は町に入ってから24時間以内を目処にすること。それまでに得られた情報を持って戻ってくるようにすること。
獄魔覇獄に関する情報を得ることができれば、有利になるかもしれないこと。
また、こちらが情報を得るだけではなく、アンブレイカブル側にどんな印象を与えるかも重要になるかもしれないこと。
「友好的な関係を築けたら、獄魔覇獄である程度の共闘も出来るかもしれないよね」
最後に太郎は皆を見回す。
「今回は、模擬戦をすることと調査をすることが目的だよ。油断せず、頑張ってきてね」
参加者 | |
---|---|
ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863) |
八坂・善四郎(万能一心・d12132) |
土岐・佐那子(夜鴉・d13371) |
塵屑・芥汰(お口にチャック・d13981) |
ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114) |
風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897) |
鴇硲・しで(夕昏少女・d22557) |
オズウェル・マクナルティ(まっすぐな槍使い・d26196) |
●アンブレイカブル、長業・練人
きいきいとブランコの鎖が軋む音が微かに響く。
真夜中の公園では、アンブレイカブルと灼滅者達が対面していた。
灼滅者達が各々名乗り、模擬戦を申し込んだところだ。
「おう。俺は長業・練人(ながなり・れんと)。そう言うことなら歓迎だぜ。んで? どうやって戦う?」
長業・練人と名乗ったアンブレイカブルは目を細め拳を握り締めた。
小さく構えを取った姿には隙が無く、高い技量を思わせる。
手筈通り、まずはルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)、土岐・佐那子(夜鴉・d13371)、ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)、オズウェル・マクナルティ(まっすぐな槍使い・d26196)が前へ出た。
佐那子はビハインドの八枷、ローゼマリーはビハインドのベルトーシカをそれぞれ従えている。
「は?」
灼滅者達が半分に分かれたのを見て、練人が首を傾げた。
「この公園で、みんなでの一斉戦闘は流石に狭いっす」
一旦下がった八坂・善四郎(万能一心・d12132)が灼滅者達が2班に別れ、順番で対戦してはどうかと言うことを説明する。
「狭い場所での、一対多数を想定した稽古なんだよ。どうかな?」
ルリが説明を重ねると、アンブレイカブルは少しだけ考え頷いた。
「んー。まあ、俺はそれでもいいが……。よし、それじゃあ、お前達はそれでいいんだな?」
確認を取るように言って、練人の空気が変わる。
対峙していた灼滅者達も、すぐに戦う態勢を取った。
それが開始の瞬間だと、誰もが感じた。
「全力でいきますので、楽しんでいただけたら幸いです」
オズウェルは槍を構え、遊具をはさんで練人を見る。真正面からと言うよりも、遊具を遮蔽物にと言う考えだ。
「楽しんで、ねえ」
練人は口の端を持ち上げると、地面を蹴って跳躍した。遊具の上を軽々と飛び越え、一呼吸のうちにオズウェルとの距離を詰める。
「な――」
オズウェルはとっさに槍を繰り出しけん制するが、アンブレイカブルはそんな事お構い無しに低い位置から蹴りを繰り出してきた。
サイキックによる攻撃ではないが、足を取られオズウェルがたたらを踏む。
一瞬できた間に、激しい雷を宿した拳の突き上げを食らった。
ちかちかと目の端から光が飛び、身体が強引に吹き飛ばされたのを感じる。事実、オズウェルの身体はごろごろと地面を幾度も転がった。
攻撃の威力は凄まじく、静かな公園に粉塵が巻き上がる。
しかし、灼滅者達もただ黙ってやられるわけにはいかない。
練人が次の攻撃に移る前にルリが飛び込んで来た。
「全力で頑張るよ!」
ブランコの間を器用に縫って走り、炎を纏って蹴り付ける。
蹴りの勢いで練人がバランスを崩し、炎がその身体に纏わりつくのが見えた。
「私の積み上げた武をお見せします、良い戦いにしましょう」
続けて、佐那子が練人の正面に立つ。納刀している刀に手をかけ、流れるような動きで居合斬りを放った。
確かに肉を斬った感覚が手に伝わってくる。
追い討ちをかけるように、敵の死角から八枷が霊障波を飛ばした。
練人が一歩下がり、己の身体についた傷を眺める。
だが、敵を休ませないタイミングでローゼマリーが走るスピードを上げた。
「胸を借りるツモリで、行きマス」
そう言うと、ちょうど練人の真横にあるジャングルジムの上から急降下する。
エアシューズを煌かせ、大きく蹴りを放った。
畳み掛けるようにベルトーシカも霊撃で攻撃する。
「ぬ、ぅううぉぉ!」
ローゼマリー達の攻撃を身体で受け止めた練人は、勢いに押され後方に吹き飛んだ。
だが次の瞬間にはひょいと立ち上がり、大きく咆哮を上げる。
それから、首に手をあて笑った。
「なるほど。もう少し攻撃の手が多けりゃあ、危なかったかもなあ」
それからチラリとオズウェルに視線を移す。
「そら、誰か癒してやれよ。さすがにまだ終わりじゃねえよな?」
――強い。
対峙した4人は、頑丈な敵を見て表情を引き締めた。
●模擬戦
佐那子とローゼマリーに傷を癒され、オズウェルは再び槍を構えた。
「さて、馬なしで騎士とは格好がつきませんが……お相手願いましょう」
敵の攻撃は凄まじかったけれど、まだ攻撃に転じるだけの余力はある。
デモノイド寄生体を鎧の様に纏い、滑り台の下から練人の斜め後ろに位置を取る。
「ふん。ちょろちょろと、良く動く」
練人は面白そうに肩を揺らし、ステップを踏んで距離を作り出した。
「力で劣る我々が採れる作戦です。卑怯とは言わせません」
逃がさぬようにと一歩踏み出し、オズウェルは捻りを加えた突きを繰り出す。
槍の先端がアンブレイカブルの身体を抉った。
続けて、ジャングルジムをすり抜けるように走り込んで来たルリが閃光百裂拳を繰り出す。2体のビハインドも攻撃を続けた。
「うーん。いたた。今のは少し良かったぜ!」
抉られた箇所を押さえ、練人が口の端を上げる。確実にダメージを与えているけれど、致命傷や重傷を負わせるほどではないようだ。
だが、これはあくまでも模擬戦。
その後幾度か攻撃し合い、一撃ずつアンブレイカブルの攻撃を受けたところで一旦戦闘を終了させた。これ以上は回復が追いつかず、重傷を避けるためには致し方なかった。
次に、善四郎、塵屑・芥汰(お口にチャック・d13981)、風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)、鴇硲・しで(夕昏少女・d22557)が練人の前に立った。
芥汰はビハインドのラナを、しではビハインドの炫毘古を従えている。
「おう。次はおめーらか! いや、別にみんなで向かってきても良かったんだぜ?」
先ほどの模擬戦で負った傷など何事でもないと言うように、練人は笑う。
「うっし、じゃあ行くっすよ!」
まずは善四郎が距離を詰めた。
片腕を巨大異形化させ、目一杯殴りつける。
「周辺を認識しそれを活用しようと鍛錬する。あなたのその勝利への貪欲さを学ばせて下さい」
続けて、後方から優歌が飛び込んできた。全身を回転させ、幾度も相手を斬り付ける。
「っ、ち――」
アンブレイカブルは小さく舌打ちをし、腕を振り上げた。
だが、後衛に位置する優歌には攻撃が届かない。
そこへ、しでが激しい雷をぶつけた。
「なるべく、遠いところから、ね」
身体のバランスを崩しながら、練人がしでを見る。
滑り台の上に立つしでにも、やはり敵の攻撃は届かない。
「こっちからも、行こうか」
芥汰の声に合わせ、傍に控えていたラナが霊障波を飛ばす。
続けて、適度に相手と距離を取りながら芥汰が影の先端を鋭い刃に変えた。
「ぬ……」
練人は急所を庇うように防御の姿勢を取ったが、その前に影の刃が襲い掛かる。
影の刃はいくつかの箇所を斬りつけ、アンブレイカブルにダメージを負わせた。
「今度は遠くからの攻撃か! これは……、確かにイラつく!」
傷を庇いながら練人が走る。
どうやら、敵の足を止めるほどのダメージは与えていない様子だ。
「さっきと違う戦い方は、どうっすか?」
声をかけながら、善四郎は滑り台に駆け上り、アンブレイカブルが走る先へと駆け下りていく。
走りながらマテリアルロッドを大きく振りかぶり、力の限り殴りつけた。
「ああ、確かに、面白いな!」
ところが、一瞬早く練人は足を止め、善四郎の武器を裏拳で受け止めて見せる。
そのまま拳を武器に滑らすようにして前へ進み、善四郎を痛烈な裏拳で打った。
すぐに優歌が巨大なオーラの法陣を展開し、吹き飛んだ善四郎の傷を癒す。
まずは前衛に位置する者に的を絞ったのか、その後アンブレイカブルは善四郎とビハインド達を狙い攻撃を繰り返した。灼滅者達も応戦するが、なかなか決定的な一撃が与える事が出来なかった。
その後、ビハインド達が消えた時点で模擬戦を終了した。
●模擬戦終わって
「ふう。正直、全員でかかってきてくれた方がまだそれなりに戦えると思ったが、コレはコレでなかなか楽しかったな!」
ブランコに腰掛け、練人が満足気に頷いた。
彼はそれほど巨体というわけではないけれど、大柄の男がブランコにちょこんと座る姿はどこかユーモラスが感じられた。
「少し、お尋ねしたいコトがあるのデスが」
互いに落ち着いてから、ローゼマリーが切り出した。
「んー。何だ?」
しばらく稽古を中断する様子で、練人はのんびりとローゼマリーに顔を向ける。
「アンブレイカブルの皆サンの間で、禁則事項はアリマセンか?」
「あー? 禁則事項って、しちゃ駄目なことか。まあ、模擬戦で止めをさすのは禁止だな」
だからこそ、今夜も皆無事だったのだと練人が胸を張る。
「ソウデスカ。デハ、私達は行きマスが……、皆サンが集まる場所はアルデショウカ?」
「ははは。その辺歩いてみろ。そこらじゅうに居るからよ! 皆、強ぇーぜ?」
ひらひらと手を振る練人に礼を言い、ローゼマリーとオズウェルは連れ立って公園を離れていった。
ルリと佐那子、善四郎としでも、それぞれ別の方角へ歩いていく。
まだ公園に残っている優歌と芥汰に、何か用があるのかと練人が視線を投げかけた。
「私1人ではまだまだ障害物を活用できません」
優歌は自らの未熟さを認めながら、真剣な表情を練人に向ける。これからも、もっと学びたいのだと。
「そのために、獄魔覇獄で共闘し戦いを見せていただけませんか?」
「共闘?」
「はい。いつか一人でもあなたに挑めるようになりたいんです」
それを聞いて、練人は笑った。
「おう。まあ、戦場で会ったらお前に手ぐらい振ってやるぜ!」
そして、ブランコから立ち上がる。
「ふあー。さ、今日の稽古は仕舞いだ。じゃあな」
公園に残った2人に手を振り、練人はどこかへ去って行った。
「彼は遊具を破壊せずに動いていましたね。驚きました」
アンブレイカブルというのは、障害物があればそれ後と破壊して戦うのが一般的だと思っていたのだ。
練人を見送ったあと、優歌が言う。
「ああいう奴も、居るってコトだよな」
時計を確認し、芥汰が頷いた。
「じゃあ、俺たちも行きますか。まずは暗がりの路地裏ってコトで」
「そうですね」
頷き、優歌も時間を確認する。町への侵入から22時間後、この公園で仲間達と落ち合う算段だ。
2人は仲間と捜索場所が被らないよう注意しながら暗がりの裏路地などを探し始めた。
「ウーン。怪しいと言えば怪しいけど、普通の怪しさだよね?」
「そうですね。暗い路地は普通に生活していても怪しく感じますし」
あまり不自然にならないよう気を配りながら、芥汰はいくつ目かになる路地を覗き込んだ。
優歌も同じように見てみるが、特筆するほど何かが起こっているわけではない様子だ。
まだ少し時間に余裕がある。
2人は次の路地を目指し、また歩き始めた。
●掴んだ情報
「あの料理屋なんかは、どうですか?」
アンブレイカブルが集まっていそうな人気の料理屋を探していたオズウェルは、昔ながらの大衆食堂のような料理屋を指差した。
真夜中の模擬戦から時間は過ぎ、すでに朝日が昇っている。
その料理屋は営業中の看板を出しており、中からは威勢の良い声が聞こえてきた。
「入ってみまショウ」
ローゼマリーは頷き、2人連れ立って料理屋の扉を引いた。
「らっしゃーませー! 2名様ごらいてーん! 注文決まったら声掛けてくださーい!」
店の中はたいそう賑わっており、恰幅の良い中年の女性がきびきびと料理を運んでいる姿が見える。
メニューはありふれた、しかし基本を大切にした定食が中心だった。
さばの味噌煮定食。豚のしょうが焼き定食。鮭定食などなど。どれも味噌汁付き、白米はお変わりオーケーの大盤振る舞いだ。
2人は、周囲の客と敵対的な行動を取らぬ様十分注意しながら、メニューを注文した。
「ズイブン繁盛してイマスネ」
「そーなんだよー! 何だかマスクさん達が来てから大繁盛さ!」
ローゼマリーの言葉に、中年の女性がニコニコと頷く。
「マスクさん……。こちらのお店には、特に貫禄ある人物なども来るのでしょうか?」
「さーねぇ! あたし達にしてみりゃあ、みぃんな強そうで格好いいねー」
オズウェルもいくつか質問してみたが、それ以上の情報は知ることが出来なかった。
「善四郎さんも食べる? 美味しいよ」
しでは懐から取り出したバナナを善四郎に勧めた。
「じゃあ、いただくっす」
善四郎が受け取り、2人並んでバナナを食べながら町の様子を見て回る。
やはり、気になるのは町の雰囲気だ。これだけダークネスが居るとなると、抗争の1つでも起きてそうで怖い。善四郎は、そう考え注意して町中を歩いてみた。
「うーん。何と言うか、何もないっすねー」
「そうだね」
しでは食べ終わったバナナの皮をゴミ袋に入れ、辺りを見回した。
2人が歩いて回った場所は、至って平穏な様子だ。
「お。ごみは持ち帰りっすか」
「うん。友好的姿勢だね。さて、時間通りに公園に戻ろうか」
善四郎としでの2人は、町の雰囲気を確かめながら公園へと戻った。
「アンブレイカブルと町の人たちが共存しているは、とても良いことだとは思うんだけど……」
ルリはきょろきょろと辺りを見回した。
その共存に何か理由があるのだろうか。
「ラグナロクの可能性ですか?」
手元のメモを中断し、佐那子が顔を上げた。
「うん。この町全体がラグナロクを闇堕ちさせるための舞台として準備されたものじゃないかな? って、思うんだよ」
だから、もしかしたらラグナロクが居る可能性があるのではないだろうか。
ルリはそう考え、アンブレイカブル達がそれとなく見守っている雰囲気の人物や建物が無いかと捜索しているのだ。
だが。
「それらしい者は、居なかったような気がしますね」
「そうだねー」
時間内に2人で回れる場所は少なかったけれど、どうにもそう言う人物や場所は見なかったように思う。
時間が来て、灼滅者達は公園に再び集まった。
アンブレイカブル達の禁則事項として、模擬戦での止め禁止があること。
オズウェル達の見つけた料理屋は、定食がとても美味しかったこと。
アンブレイカブル達がそれとなく見守っている雰囲気の人物や建物は無かったような気がすると言うこと。
など、持ち寄った情報を確認し合う。
「んじゃあ、帰りますか」
その情報を無事持ち帰るまでが仕事だ。
芥汰が声をかけると、皆が頷く。
灼滅者達はいくつかの情報を持ち、学園に帰って行った。
作者:陵かなめ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年11月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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