新入社員、秋山圭一

    作者:のらむ


     午前3時。とある喫茶店の中に、2人の男が向かい合わせに座っている。
     片方の男は、この喫茶店の奥から勝手に持ってきた甘いケーキやらパンを食べながら、向かい側に座っている男の話を聞いている。
     清潔な身なりをした、ぱっと見た感じ好青年風な男であるが、その背には巨大な太刀を背負っている。
     彼の名は秋山・圭一。六六六人衆序列五五一位。
     もう片方の男は仕立ての良いスーツを着た、サラリーマン風の男だ。
     もちろんこの男も、普通の人間ではない。人事部長と呼ばれる六六六人衆だ。
    「はあ……ヘッドハンティング、ですか」
     圭一はケーキを口いっぱいに頬張りながら、目の前の男に聞き返す。
    「ええ、あなたの様な優秀な人材はそういません。ぜひとも我が社に入社して頂けないでしょうか」
     人事部長は、そういってコーヒーを一口啜る。
    「もちろん、タダでとは言いません。秋山さんにはまず、我が社の社内食堂を永続的に無料で使用できる権利を差し上げます」
    「へえ…………」
     圭一は少し興味を惹かれた様子で、話の続きを促す。
    「更に秋山さんには、超特別待遇の社員寮も用意します。日常生活で一切不便をすることは無くなります……どうでしょうか」
     圭一は口元をハンカチで拭い、考え始める。
    「そうだな……食事の心配をする必要が無いってことは、それだけデザートを食べる時間が増えるってことですよね。それに………………分かりました。そのお誘い、お受けしましょう」
     爽やかな笑顔を浮かべ、圭一は片手を差し出す。
     軽く言ってるが、圭一の言うデザートとは、殺人の事だ。血の味が好きらしい。
    「それは本当に良かった。お互いにとって最も良い結論が出て、ホッとしましたよ」
     人事部長も手を差し出し、握手を交わす。
    「それじゃあ行きましょうか、圭一さん。会社まで案内します」
    「あ、途中でデザート食べていってもいいですか?」
     2人は喫茶店を後にし、何処かへと消えていく。
     この日、1人の厄介な六六六人衆が、厄介な組織の一員となってしまった。


    「就活中の人が闇堕ちする……ここの所そんな事件が多発していますが、その事件に、新しい動きがあったようです」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開くと、事件の説明を始める。
    「人事部長と呼ばれる超強力な六六六人衆が、各地の六六六人衆をヘッドハンティングして、配下に加えようとしているらしいです。彼らは獄魔覇獄に関係しているらしくて、このままヘッドハンティングが続けば強力なダークネス組織が出来上がってしまうでしょう」
     それを防ぐため、ヘッドハンティングされようとする六六六人衆を灼滅しなければならない。
    「ヘッドハンティングされるのは六六六人序列五五一位、秋山・圭一です。殺人をデザートと称する、いかにもな趣味を持った男です。過去に皆さんと戦った事もあります」
     ウィラは赤いファイルをパラリとめくる。
    「皆さんは人事部長と圭一の交渉が終わり立ち去ろうとした段階で接触することになります。戦闘場所の喫茶店に一般人が訪れる危険は無く、戦いに集中できます。人事部長は皆さんが現れた時点で即撤退するため、人事部長と戦うことは出来ません」
     圭一の能力は気魄・術式寄りで、かなり硬い。また前回の戦いでは、秋山は森羅万象断を主軸とし、確実に殺傷ダメージを積み重ねていく戦法を取ってきている。
    「圭一は、過去に皆さんと交戦経験のあるダークネスです。前回は状況的に灼滅はとても厳しかったですが、今回はこちらにも分があります。これを最後に、彼の凶行を終わらせて下さい」
     この戦いで圭一は撤退せず、灼滅者達が撤退した場合は、追撃をしてこない。
    「今回皆さんは人事部長と戦うことは出来ませんが、圭一を灼滅することで敵の戦力を大幅に下げることができるでしょう……どうかお気をつけて。皆さんが無事に、全員で帰ってくることを願っています」
     そう言って、ウィラは説明を締めくくった。


    参加者
    忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)
    安土・香艶(メルカバ・d06302)
    阿剛・桜花(背筋に鬼が宿ってる系お嬢様・d07132)
    廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)
    無常・拓馬(比翼恋理のツバサ・d10401)
    柴・観月(惑いの道・d12748)
    ジオッセル・ジジ(ジジ神様・d16810)
    天前・仁王(銀色不定系そしてショゴス・d25660)

    ■リプレイ


    「…………分かりました。そのお誘い、お受けしましょう」
     爽やかな笑顔を浮かべ、圭一は片手を差し出す。
    「それは本当に良かった。お互いにとって最も良い結論が出て、ホッとしましたよ」
     人事部長も手を差し出し、握手を交わす。
    「それじゃあ行きましょうか、圭一さん。会社まで…………」
     バァァァァン!!
     人事部長の言葉を遮り、喫茶店の入口のドアが開け放たれる。そして、灼滅者たちが一斉に突入する。
    「……予定外の事態ですが…………まあいい。圭一さん、あなたは我が社の社員となったのですから、この程度の灼滅者達位は蹴散らしてもらわなければ困ります。頼めますね?」
     人事部長はそう言って、喫茶店の窓をぶち破って店外に飛び出した。
    「あなたの顔は覚えたわよ。人事部長さん」
     忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)が人事部長にそう声をかけた。
    「いつかお前も、灼滅してやりますよ」
     柴・観月(惑いの道・d12748)もそう言って、人事部長の顔を見、覚えた。
     人事部長は2人の言葉には応えず、そのまま何処かへと走り去っていってしまった。
    「随分と人使いが荒いですね、この会社は…………」
     圭一はドーナツを頬張りながら立ち上がり、背負っていた太刀の柄を握る。
     それに合わせ、無常・拓馬(比翼恋理のツバサ・d10401)が剣を抜き、剣先を圭一に突きつけた。
    「我が名は無常拓馬! 貴様に殺された我が友、四季彩華の心の安らぎのため……ここでお前を必ず仕留める!」
    「え? 何? サイカ? 誰?」
     拓馬の言う彩華という人物は、過去に圭一と対峙したことのある灼滅者だ。ちなみに未だご健在である。
    「…………まあいいや。とにかく皆さんは、僕の事を殺しに来たわけですよね?」
     圭一はそう言って、ニコッと笑った。
    「殺人をデザートなんて…………ホントに悪趣味。でもその最悪なお食事も、今日で終わりだよ
     廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)が殲術道具を構え、圭一に突きつける。
    「その通り。同じ斬艦刀使いとして、殺しを甘味と称し人々を殺す貴様の蛮行、とうてい看過できぬ!!」
     燈の言葉に頷き、天前・仁王(銀色不定系そしてショゴス・d25660)が無敵斬艦刀を構えた。
    「私が来たからには、これ以上命を奪うなんて事はさせませんわよ!」
     阿剛・桜花(背筋に鬼が宿ってる系お嬢様・d07132)がビシッと指を突き出し、宣言した。
    「…………一応これも仕事なんでちゃんとやりますけど、出来ればさっさと帰ってくれませんか?」
     めんどくさそうな表情で、圭一は灼滅者達を見回す。
    「残念ながら、私達にもお仕事があるんですよ。貴方の様な物騒な人を灼滅する、という仕事が」
    「それじゃあ仕方がない」
     ジオッセル・ジジ(ジジ神様・d16810)の言葉に応え、灼滅者達と向き合う圭一。
    「殉職して頂くしか無いみたいですね」
    「いつまでも、そんな余裕たっぷりの態度を取れると思うなよ」
     安土・香艶(メルカバ・d06302)が耳の後ろに手をやって首をバキバキと鳴らし、言葉を続けた。
    「吠え面かかせてやるぜ」
    「それは楽しみですね」
     そう言って、圭一は笑った。
     灼滅者達が全員殲術道具を構え、秋山も太刀の刀身を抜き、灼滅者達に向ける。
     六六六人衆と灼滅者達の戦いが始まった。


    「小手先の術を使うは未熟の証左なれど、今はその誹りを甘んじて受けよう……」
     そう呟き、仁王は夜霧を前衛に放った。
     その霧が晴れた頃、仁王は少女の姿から、全身を鋼の装甲で覆った巨体へと変貌していた。
    「行くが良い武士(もののふ)達よ!!」
     仁王は斬艦刀を掲げ、仲間たちに呼びかけた。
     次に動いたのは玉緒。鍵を握り、祈るようにして殺意を開放した玉緒は、不意に拳を握り、指先に括りつけていた糸を引っ張る。
    「貴方の様な存在を……私は認めない。全て消し去ってやるわ」
     すると糸による斬撃が放たれ、圭一の背が深く切り裂かれた。
    「……あれ、いつの間に」
     少し驚いたようにつぶやき、背をさする圭一。
    「あなた、最初から油断しすぎよ」
     圭一が灼滅者達と言葉を交わしている間に、玉緒は喫茶店内に糸を張り巡らせていたのだ。
    「今度は僕の番ですよ」
     圭一は太刀を大きく振りかぶり、前衛に突撃する。
     そして大きく薙ぎ払うと、灼滅者達の身体が切り裂かれる。
    「チッ……こんなんで怯むかよ!」
     香艶は身体を切り裂かれても後ろに下がらず、あえて前に飛び出した。
     そして足に闘気を纏わせ、雷に変換させる。
    「てめえだけは、絶対に灼滅してやるからな!!」
     そして放たれた蹴りは圭一の胸を打ち、電撃が圭一の全身を痺れ上がらせた。そして一瞬、圭一の身体がよろめいた。
    「フハハ馬鹿め!! 隙を見せたな秋山圭一!!」
     拓馬が拳にオーラを纏わせながら、秋山の横から強襲し、鳩尾をぶん殴った。
    「これは貴様に殺された彩華の分!」
     立て続けに拳を秋山の身体に放っていく拓馬。もう一回言っとくけど彩華は死んでない。
    「これも彩華の分! これも彩華の分! これもこれもこれもこれもこれも! 全て彩華の分だッ!」
    「ゲホッ! ……だから誰だよサイカって!!」
     見に覚えのあるはずもない架空の怨恨で殴られまくった圭一がややキレ気味に太刀で斬り上げ、拓馬の身体を斬りつけた。
    「ちょっとお待ちくださいませ、すぐに回復致しますわ!!」
     拓馬の傷を回復すべく、桜花がリングスラッシャーを展開する。
    「阿剛流……鉄壁光輪術!!」
     そして桜花が放った光の輪が拓馬の周囲を包み、その傷を癒した。
    「流石に攻撃力も高いね…………でも、こっちも負けてないよ!!」
     燈は杖を構え、杖の先に風を纏わせていく。
    「当たって!!」
     そして杖を思い切り振るうと、無数の風の刃が圭一へ向かい、全身を切り刻んでいく。
    「前に会った時よりも、大分強くなってるな…………」
     圭一は燈を睨みつけ、太刀を構えて突撃する。
     だが圭一の進行上に、観月のビハインドが立ち塞がり、圭一の斬撃を受け止めた。
    「その調子で、死ぬまで守って」
     観月はそうビハインドに声をかけ、縛霊手を構える。そして、秋山と相対する。
    「君を放っておけば、きっとこれからも沢山の人が殺される……君1人と他大多数の命、取る方なんか決まってるよね」
    「それは他大多数を取った方がいいと思いますよ。我ながら」
     観月の言葉に、圭一はそう返して笑った。
     そして観月が圭一に接近する。縛霊手の爪を圭一の肩に突き刺し、そのまま腕を引き裂いて切り飛ばした。
     血飛沫が舞い、喫茶店の壁を赤く汚した。
    「あー、痛い痛い。ほんと君たちと相手してるとロクな事になりませんよ」
     圭一が床に落ちた腕を拾い上げ、無理矢理元の場所にくっつけながら、自身の傷を癒す。
    「私達はそれ以上にあなたの事を嫌ってますから、それくらい我慢して下さい」
     ジオッセルはそう言いながら癒しの矢を引き絞り、味方に向けて放っていく。
     そしてジオッセルの霊犬、『ギエヌイ』が、斬魔刀を構えながら圭一に向けて走りだし、斬撃を放った。
     圭一が太刀でその一撃を受け止める。だがギエヌイはそこから圭一の太刀を踏み台にして高く跳び上がり、落下と同時に秋山の胸を斬りつけた。
    「今のは中々いい動きでしたよ」
     そう言ったジオッセルの元にギエヌイは走って戻り、圭一は胸を抑えながら苦笑いする。
    「僕ももっと嫌いになりましたよ……灼滅者と、犬が」


     戦いはまだ続く。
     圭一の攻撃のほとんどがクラッシャーの2人に向けられていたが、灼滅者達はディフェンダーを厚めにした編成にしてきたため、未だにクラッシャーは倒れていない。
     もしそうでなければクラッシャーは既に倒れていてもおかしくは無かった。しかしその代わり、ディフェンダー陣全員の体力はかなり削れてきている。
     一方の灼滅者達の攻撃も、スナイパー2人の確実な足止めの効果もあり、それなりに命中していた。
     しかし圭一自身の体力も多く、シャウトによる回復量が半端ではないため、未だ倒れてはいない。
     その表情からは、余裕が消えてはいたが。
    「…………ハァッ!!」
     圭一が高速で太刀を何度も振り下ろし、前衛陣を切り裂いていく。
     この一撃からクラッシャー2人をかばい、観月とジオッセルのサーヴァントの体力がなくなり消え去ってしまった。
     攻撃を終えた圭一に、拓馬が槍を構えて接近する。
    「この一撃は、彩華の怒りと知れ!!」
     拓馬が突き出した槍は圭一の心臓を突き破り、貫いた。
    「グッ……!!」
     槍を抑えながら呻き、口から血を流す圭一。
    「苦しいか……? しかし我が友彩華は、お前よりももっと苦しい思いをしながら死んでいったんだぞ! マジで!!」
    「だからサイカって誰だっつってんだろうが!!」
     拓馬にだけは口調が荒々しい圭一が槍を無理矢理引き抜き、後ろに下がる。
     そして太刀を構え、割と恐い顔で拓馬に狙いを定めていた。戦術的な意味で。
    「まずいな…………」
     香艶がそう呟く。ディフェンダー陣が庇ってきてはいたものの、クラッシャー陣の体力も割と限界に近い。
     そして秋山の気を引こうと、香艶が秋山に声をかけた。
    「そういえば、お前この3ヶ月の間序列も動かさねーで何してたの? 実は灼滅者が怖くて影に隠れて震えてた? ぷっ。だっせぇ」
     圭一は眉間に皺よ寄せ、殺気を込めた視線で香艶を睨みつける。そして、香艶に向けて太刀を振り下ろした。
    「ひっかかったな…………俺が立っている間は、誰も倒れさせはしねぇよ!!」
     香艶は身体から血を流しながら、拳を大きく振りかぶる。
     そして手中に隠した杖を圭一の顔面に叩きつけ、体内で爆発させた。
    「ゲホゲホッ!! ……クソ、本格的にまずいな……」
     血を吐き、灼滅者達を睨みつける圭一。
    「畳み掛けるよ!!」
     そして香艶に続き、燈が蒼く刀身が光るナイフを構え、圭一の背後に回りこむ。
    「クソッ!!」
     咄嗟に振り返ろうとした圭一だが、間に合わない。
    「……アナタにはもう、人を殺させない。私達は絶対にアナタを灼滅するまで、絶対に諦めない!!」
     燈がナイフを素早く振り、圭一の首筋を鋭く斬り裂いた。
    「………………」
     圭一は無言で、身体から膨大な殺気を、前衛に向けて放った。
    「クッ…………」
     苦しげに膝を付く灼滅者たちに向けて、桜花が清めの風を放った。
    「皆さんガンバですわ! もう少しだけ持ちこたえて下さいまし!」
     そう言って、弓を構える桜花。矢を引き絞り、狙いを定める。
    「喰らうがいいですわ!!」
     そして放たれた矢が圭一の左肩を貫通し、壁に繋ぎ止める。
    「まだだ…………そう簡単に死ねるか…………」
     圭一が肩に突き刺さった矢に手をかけた。
     だがそれを引き抜くよりも早く、ジオッセルが攻撃を仕掛ける。
    「矢を取りたいんだったら、手伝ってあげますよ」
     デモノイド寄生体を全身に迸らせ、片腕に収束させる。
     巨大な砲台となったそれを圭一に向け、ジオッセルは銃口を圭一に向ける。
    「ついでに肩も取れるかもしれないけど、あまり気にしないでください」
     そして放たれた光線が圭一の左肩を焼き、矢ごとボロボロにした。
    「おかしいな……こんな筈じゃ、無かったんだけどな…………言っててなんだけど、よくある台詞だ」
     自嘲気味に笑った圭一が横に跳び、一旦灼滅者たちとの距離を取るが、その圭一の前に観月が立つ。
    「自業自得だよ。今までお前1人のせいで、数人数十人と、多くの人間が死んでいった……可笑しいだろ?」
     観月は圭一に向けて跳び、足に渾身の力を込める。
    「だから、今度はお前が死ね」
     観月の蹴りが圭一の腹を抉り、圭一は血やら何やらを吐き出しながら、飛ばされた。
     そして壁に衝突する直前、玉緒は糸を操り、仕掛けていた糸で圭一の身体を絡めとり、強く縛り付けた。
    「はは、容赦無いね…………」
     圭一は糸を操っている玉緒の方を向き、軽く笑った。
    「貴方に容赦なんて、する訳がないでしょう?」
     更に玉緒は足に炎を纏わせ、圭一の鳩尾に鋭く熱い飛び蹴りをくらわせた。
    「あはは、そりゃそうだ……」
     強い衝撃によって、圭一の身体を縛っていた糸が切れ、圭一は全身から血を流しながら床を転がった。
    「あー、ゲホゲホッ!! これは死ぬな…………ゲホッ」
     圭一は再び自身に回復を施すが、最初の頃ほど肉体は修復されず、全身には無数の傷が刻まれたままだ。
    「貴様の太刀筋は本当に素晴らしかった……出来れば、このような場でまみえたくはなかったぞ」
     仁王が鋼の大腕で斬艦刀を構え、圭一に突きつける。
    「僕も、二度とあなた達には会いたくないと思ってましたよ……」
     軽口を言う圭一だが、最早立っているのもやっとだと言う様子で、ふらふらと太刀を構えた。
    「殺しているのだ。殺されもする……最期の甘味だ。介錯は、いらぬな?」
    「僕に、安らかに死んでいく権利なんかある筈もない」
     仁王の言葉にそう応え、圭一は前衛に向けて突っ込む。
     だがそれよりも早く、灼滅者達が一斉に攻撃を仕掛けた。
     燈が異形化した腕で圭一の腹を殴り飛ばし、
     香艶が杖を再び顔面に叩き込み、魔力を流しこむ。
     桜花が電撃を纏わせた拳で顎を打ち、
     観月が炎の蹴りを後頭部に叩きこむ。
     ジオッセルが放った光線が身体を貫き、
     拓馬が剣で圭一の全身を何度も切り刻む。
     玉緒が圭一の胸を抉るように蹴り、
     仁王が斬艦刀を大きく振り上げ、圭一の急所に狙いを定める。
    「斬艦刀、桜花散華!!」
     力強く斬艦刀を振り下ろし、仁王は圭一の身体を斬った。
     太刀を落とし、声もなく倒れる圭一。
    「その闇、我が糧とする。逝き迷うなよ」
     そう言って、仁王は斬艦刀を鞘に納めた。
    「殉職するのは、あなたの方だったようですね」
     ジオッセルは殲術道具をしまい、倒れた圭一にそう投げかけた。
    「……負けましたよ。あなた達のしつこさには」
     圭一が天井を仰ぎながら、ぽつりと呟いた。
    「あなたが人の道を外れていなければ、こうならなかったかもしれないわね」
     張り巡らせていた糸を手に集め、玉緒は圭一を見下ろす。
    「あなたは、何か知りませんか?あの人事部長についてとか」
     燈の言葉に首を横に振る圭一が、目をとじる。
    「もし真人間として生まれ変わったなら、阿剛重工で雇ってもよろしくてよ? 圭一さん」
     桜花の言葉に軽く笑い、
    「…………真人間の僕は、僕じゃないですよ」 
     その言葉を最後に、圭一は二度と目を開けることは無かった。
    「終わった、か…………随分とタフな奴だったぜ」
     戦いが終わり、香艶がほっと息を吐いた。
    「終わったよ、彩華……。どうか安らかに眠ってくれ」
     拓馬がそう言って剣を鞘に戻し、遠い目で窓の外を見た。
     そこには亡き友の幻影が見えるような気がしないでもなかったが、そもそも亡き友なんかいなかった。
    「帰ろう。もうここには、用がない」
     観月がそう呼びかけ、灼滅者達は仲間と共に、全員で学園に帰還するのだった。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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