【九州調査行】HKT潜入ミッション

    作者:泰月

    ●とあるホテルにて
     サー……――。
    「~~♪ ふ~んふふ~ん♪」
     流れる水音に混じって、上機嫌な鼻歌が浴室に響く。
    「~~♪」
     湯気に隠れても判る豊かな肢体。仄かに上気して薄く色づいた肌の上を、流れ出た熱い湯が滑り落ちていく。
     髪に隠れた小悪魔の角と、背中の翼の上も。
     やがて鼻歌とシャワーの音が止まり、バスタオルを巻いただけの姿で浴室から出てきたのは、淫魔ラブリンスターであった。
     ラブリンスターは髪を乾かすといつものアイドル衣装に着替え、リボンをキュっと結んで浴室の外に。
    「それじゃ、頼みましたね♪」
     部屋にいたホストのような格好の男の耳元に顔を寄せ、甘い声で囁いてからラブリンスターはホテルの部屋から出て行く。
    「この俺が、再び、この服に袖を通す時がこようとは、な……」
     部屋に残された男の手には『HKT』と大きくプリントされた黄色いTシャツが握られていた。

    ●ラブリンスターからの提案
    「突然なんだけど、勢力立て直し中のラブリンスターから、最近仲間にしたHKT六六六に所属していたダークネスから得たって言う、興味深い情報が届いたわ」
     教室に集まった灼滅者達に、夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)はそう口火を切った。
    「九州で発生している事件について、なんだけど。話によると、HKT六六六に所属しているダークネスに対して『灼滅者が都市伝説と戦う為にやってくる』と言う情報が事前に察知されているらしいの」
     その情報源は『うずめ様』と呼ばれる羅刹である可能性が高い、とも。
    「でも、話にはまだ続きがあってね」
     柊子は一度、言葉を切って、話を続ける。
    「仲間にしたHKT六六六のダークネスをスパイとして九州に送り込むので、配下の強化一般人として、灼滅者を同行させることができるけれど、どうするか――というのが、ラブリンスターからの提案よ」
     唐突なスパイの提案に、灼滅者達も思わず息を飲む。
    「配下の強化一般人として敵の勢力圏に潜入するのは、危険な話だけど……」
     同行せずとも、何らかの情報を得る事は可能かもしれない。
     だが、同行する事でこちらが欲しい情報を、より詳細に得る事が出来るだろう。
     最近、九州の事件でエクスブレインが嫌な予感を感じ、実際にHKT六六六の襲撃を受けた事例もある。
    「試してみる価値はあると思うわ。行って貰える?」
     リスクはあっても、動くべき時かもしれない。
    「じゃあ、次は皆と一緒に潜入する元HKT六六六のダークネスについてね」
     頷いた灼滅者達に頷き返し、柊子は話の先を続ける。
    「名前は、宗像・左京。少し癖のある黒髪をオールバックにしている、六六六人衆よ。そう言う格好をしていれば、イケメンホスト風……って言えるんだと思うんだけど」
     HKTに潜入するのだから、服は黄色いHKTのTシャツで現れる。
    「使うサイキックは、殺人鬼と鋼糸のもの。あまり戦闘力は高くないわ。内面は、結構真面目で苦労性みたい」
    「真面目、ね。そいつが裏切ってHKTに戻ると言う事はないのか?」
     誰かが上げた疑問はもっともだ。もし、裏切られたら正体が露見してしまう。
    「ラブリンスターによると、絶対に自分を裏切らないように篭絡してあるから、信用して大丈夫との事よ」
     現状、ラブリンスターと学園は親密と言っていい関係が続いているので、この言葉は信じて良い。
    「九州に潜入した後は、HKT六六六の活動をしつつ、しばらく様子を見ることになると思うわ」
     例えば、九州のライブハウスを地上げしたり、ミスター宍戸に協力的では無い地元の有力者を脅したり、不良グループを制圧してHKTの傘下に組み込んだり、中洲の風俗店などの用心棒を行ったり、町の清掃活動を行ったり。
     組織の下っ端の強化一般人としてそれらしく働き、信用を得ながら情報を集める。
     一週間を目処に情報を集めた所で、それまでの情報を元にその後の活動を決めて、実行する事になるだろう。
    「難しい話だと思うけど、皆で考えればきっと出来る筈よ。気をつけて行って来てね。無事に帰ってきてくれるのを待ってるから」


    参加者
    笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)
    戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)
    アストル・シュテラート(星の柩・d08011)
    須磨寺・榛名(報復艦・d18027)
    シグマ・コード(フォーマットメモリー・d18226)
    ヴィア・ラクテア(歩くような速さで・d23547)
    響塚・落葉(祭囃子・d26561)
    雨摘・天明(空魔法・d29865)

    ■リプレイ

    ●帰還は配下と共に
     その日、博多にあるHKT六六六の小拠点の1つに、しばらく姿を消していた宗像・左京が、以前と変わらぬ黄色いTシャツを着た姿で現れた。
     生きていたのか、と騒然となった空気は、しかしすぐに違う色のものになる。
    「皆、左京と同じTシャツだ。それ、僕も貰えるかな?」
     そう言って周囲を見回すアストル・シュテラート(星の柩・d08011)を先頭に、年齢性別バラバラの8人の男女が入って来たからだ。
    「俺が『仕込んだ』連中だ。東京で拾って来た」
     訝しむような空気になった周囲へ、左京は彼らが自分の強化一般人であると伝える。
    「やさぐれてた所を、左京さんに拾われたんすよ」
    「宗像様の強さに憧れまして」
     拾われた事を肯定する笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)に続いて、須磨寺・榛名(報復艦・d18027)も自らの着いて来た理由を口にする。
     ダークネスの力に魅入られた結果、強化一般人となるのは珍しい事ではない。
    「半分以上はこう言う連中だ。あと、孤児とか家出娘もいるな」
    「この力で、大人を見返したいのじゃ」
    「家出して絡まれてた所を、彼が絡んで来てた相手を殺してくれて……」
     左京の言葉に、響塚・落葉(祭囃子・d26561)は感謝を、雨摘・天明(空魔法・d29865)は好意を向けているような素振りと視線をそれぞれ向ける。
    「ガキもいるのか……っと」
     横から誰かの手がフードに伸びかけた所で、ヴィア・ラクテア(歩くような速さで・d23547)は、隠れるように左京の後ろに入った。
    「ああ、そいつはフード取るの嫌いでな。変なガキだが、俺の指示は聞くぜ」
    「自分の顔嫌いだから……」
     左京の言葉に、ヴィアは片手でフードを押さえたまま頷く。
     彼の口から出る紹介と灼滅者達の言葉に齟齬がないのは、九州までの道中で『強化一般人としての関係の設定』を摺り合わせておいたおかげだ。鐐と落葉が、ラブリンスターへ恩を感じている事を伝えたのも、良かったのかもしれない。
    「良く躾けてあるみたいだな」
    「自分で言うのもなんだが、中々使える連中だ」
    (「使える連中、ですか……或いは本音かもしれませんが、構いません」)
     部屋の奥で事態を見守っていた男――恐らく、六六六人衆――と左京の会話を聞きながら、戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)は胸中で呟いて、改めて腹を括る。
     例え目的の為の駒程度に思われているとしても、今は共通の目的を持った仲間として接すると。
    (「確かに、俺達の存在は左京にとってもプラスになってるみたいだな」)
     シグマ・コード(フォーマットメモリー・d18226)は『配下という手土産はあって困る事はない』と左京が言っていたのを思い出す。
     彼が灼滅者との潜入を良く思わないかも知れない、と思っていたがこの様子では少なくとも迷惑にはなっていないのだろう。
    (「それと……あの時の奴はここにいないみたいだな」)
     シグマにはもう1つ、別のHKTと少し前に対峙していると言う懸念があった。
     髪を染めて髪型も大きく変えて印象を変えてあるが、遭遇しないに越した事はない。
    「良さそうな土産だが、使える連中かどうかは、これからの働き次第だな」
     ともあれ、灼滅者達は、ラブリンスターの配下である左京と共に、HKTへの潜入の一歩を踏み出した。

    ●最初の一歩
    「おはようございます」
     箒で落ち葉を掃きながら、街を行く人々に挨拶をする蔵乃祐の姿があった。
     他の仲間達も、それぞれに箒やゴミ袋を手にしている。
     HKTとしての最初の活動は、街の清掃だった。
    「なぜ我がこんなことを……じゃがHKTの為になるなら……」
     ぶつぶつと小声で文句を言いながら、落葉はそれでも箒を動かす。
    「つまんねぇなぁ……」
     シグマもつまらなさそうに呟き、空き缶を拾い上げる。
    「お前達、見極めがいるのを忘れるな」
     そんな2人に、左京が真面目に落ち葉を掃きながら小声で囁く。
    「試されている……いや、もしかしたら俺達の事は既にばれているのかもしれん。こんな所でボロを出すわけには――」
    「今はあまり気にせず、清掃に専念しましょう」
    「う、うむ。そうだな。おい、燃えるゴミと燃えないゴミは分けとけよ」
     あのままだと勝手に心配を膨らませて要らない事まで口走りそうだった左京を、天明が背中を少し突いて止める。
    (「とは言え、このまま掃除ばかりとは行かないでしょうね」)
     足元に溜まった落ち葉の山を見下ろし、榛名が胸中で呟いた、次の瞬間。
    「オー、オー、精がでるなー! これも捨てとけや」
     そんな声と同時に落ち葉の山が蹴散らされ、ゴミの入ったビニール袋が1つ、2つと投げ捨てられた。
    「お仕事増やしてやってんだ、俺らってヤサシーよなぁ」
    「帰りもゴミ持って来てやんよ、ギャッハッハッハ」
     次々にゴミを投げ捨てた学生服にツッパリヘアの集団は、口々に言って去って行く。
    「……なに? 今のバカっぽいの」
    「不良……って奴かな?」
    「近場の廃倉庫にたむろしてるグループの連中だな」
     思わず箒の手を止めたヴィアとアストルに答えたのは、観察役のHKTの男だった。
    「大した害はないと放っておいたが、図に乗ってるようだ。規模も膨れて、頃合か。明日はあいつらの掃除だ」
     男は酷薄な笑みを浮かべて、そう告げた。

    ●掃除と説得(どっちも物理)
     で、その翌日。
    「ハァ? たった10人で俺達を潰すだぁ? ナメた口きいてんじゃねぇぞぉ!」
     灼滅者達はキンキンと喚き散らす大勢の不良に囲まれ、メンチ切られていた。
     不良の制圧。この荒事を強化一般人として振舞ったまま乗り切れるかどうかに、これからが掛かっていると言って良い。
     容易いが、大事な一手だ。
    「8人だ。左京、お前は手を出すな。こいつらだけで、やらせろ」
    「だ、そうだ。お前達、例の玩具も使って良い。制圧しろ」
     そんな灼滅者達の内心を知ってか知らずか、左京は着いて来たHKTの言葉に頷くと、そう促して来る。
    (「ここで殲術道具を使ってみせろ、ですか?」)
     それを聞いた蔵乃祐は、内心で少し驚きを感じていた。
    「判りました。誠心誠意、貴方の手足となりましょう」
     感じはしたが、その驚きを表に出すことはなく、光を纏い不良の1人を加減して張り倒す。
    (「……じーちゃん、少しだけ約束破る、ね」)
     左京と同じTシャツを着たアストルは、心の中で養祖父に詫びながら、光を纏った拳を加減してぶつける。
    「なんだ。弱いじゃん」
     今は為すべき事の為。昏倒した不良を見下ろし、残酷な笑みを浮かべてみせる。
    「こう言うのを待ってたぜ!」
    「……あはっ。よわっちい癖に左京さんに逆らうなんてばっかみたい」
     シグマは楽しげにナイフの柄を不良の首筋に軽く叩きつけ、ヴィアは無邪気に黒く細長いものを操り不良達を縛り上げる。
    (「出来れば暴力活動はしたくなかったけど……仕方ないよね……」)
     望まない、とは言っていられない。天明も加減した攻撃で不良を叩き伏せる。
    「なんじゃ、もう終わりか?歯応えのない」
     倒れた不良を足元に、無邪気な笑みを浮かべて見回す落葉。
     ものの数分で不良の半数は地べたに這い蹲り、残りは腰を抜かして戦意喪失している状態になっていた。
    「さて、HKTの傘下になりますか? それとも、まだやりますか?」
     仰向けで倒れる不良を笑顔で見下ろし、上から詰め寄る榛名。
    「あれは、お前が持たせたのか?」
    「そんな所だ。試しに使わせてみた。様になってるだろ?」
     後ろの方で見ていたHKTと左京は、そんな会話をしている。
     今回、灼滅者達が持つ殲術道具は『左京が溜め込んでいたモノを与えた』と言う体裁になっている。
     左京は殲術道具それ自体や使い方で灼滅者とばれる心配はないと言ったが、危惧した蔵乃祐とアストルが彼と話し合った結果だ。
    「誰も殺してないようだな?」
    「"使う"かもしれないから殺すなと聞いてます。殺るんですか?」
     HKTの言葉に、鐐は不良の襟首を掴んで持ち上げたまま、振り向いて答える。
    「ふん、本当に良く躾けているな。後は任せる。誓約書を書かせて、戻って来い」
     その答えに満足したのか、HKTの男は先に戻って行った。

    「ミスター宍戸ぉ? 知らねえなぁ、そんな奴」
    「どこのガキ共か知らんが、怪我したくなきゃ回れ右して帰れ」
     2日ほど不良グループを制圧して回った8人と左京は、この日、福岡の一角にあるビルを訪れていた。
     表向きはただの雑居ビルだが、中はとある組のヤクザの巣窟である。
     制圧した不良グループの1つを資金的に援助し配下に置いていたのが、ここのヤクザ達だと判ったのだ。
     配下を横取りされたヤクザが、大人しくしているとは思えない。
     ミスター宍戸との関係も良好でない組であった為、先手を取って脅して傘下にしてしまおう、と言う訳だ。
    「おい、帰れつってんだ――」
    「ゴミは黙っててよ」
     語気を荒げようとした組員を、ヴィアが軽々と昏倒させて、扉を開く。
    「な、なんだてめえら――うごっ」
    「邪魔! 怪我したくなかったら引っ込んでるんだね」
     ビルに入ってすぐに出てきた組員も、アストルがあっさりと気絶させる。
     不良よりも危険なものを持っているとは言え、一般人など敵ではない。
     あっさりと最上階に辿り着いた8人は、組長室のドアを悠々と開け放った。
     中にいたのは、3人。
    「なっ……バカな。30人はいた筈だぞ」
    「皆、疲れてたんだろ。仲良くお寝んねしてるぜ」
     驚愕を浮かべた小太りの男に、シグマが冷たい笑みを浮かべて言い放つ。
    「やっちまえ!」
     その両側に控える組員が飛びかかるより早く、光が放たれた。
    「おや、狙いが外れてしもうた……良かったのう?」
    「あまりイラつかせないで下さいね? 殺しちゃいますから」
     落葉の放った光弾は誰にも当たらなかったものの壁を撃ち抜いて風穴を開け、天明の投じた光輪によって、長ドスと壁に掛かった絵画が真っ二つに。
    「宍戸さんに逆らうたぁ、腹は決まってんだろうな?」
    「言葉で嬲るのも、なかなか楽しいんですよ?」
     それに2人が驚いている隙に、嗜虐的な笑みを浮かべた鐐が詰め寄り、榛名も弓を使って組み敷いて、上から笑顔で告げる。
    「組長さん、ですよね。折り入ってお話が――」
     残った小太りの男に蔵乃祐が詰め寄り、ミスター宍戸に全面協力させる旨を了承させるのだった。

    ●そして
     HKT加入、5日目。
     9人は、また路上で箒を持って清掃活動に勤しんでいた。
    「またかよ……」
    「何故こうなったのじゃ……」
     シグマと落葉はつまらなさそうにしているが、残る不良達の制圧や地上げ等は他のチームで人手は充分だと言われたのだ。
    「張り切りすぎたか。いや、出戻りの俺が信用を得るには、あのくらいするしか……しかしこのままでは……」
    「まあまあ。あたし、掃除は掃除で良いと思いますよ」
     苦虫を噛み潰すような表情でぶつぶつと言い出した左京を、苦笑を浮かべた天明が止めに入る。今までに左京が口を滑らせたことはないが、念の為だ。
    「でも確かに、もしこのまま掃除が続くようだと……」
    「何か、考えなきゃいけなくなるよね?」
     蔵乃祐のもらした呟きに、アストルが反応する。
     街の清掃は気楽な反面、情報収集からは最も縁遠そうな役割だからだ。
     とは言え、ここで焦って動いて、今まで得た信用を無に帰すような真似はせず、灼滅者達はしっかりと街を掃除して、寝泊りしている拠点に戻った。
    「あーあ。俺、もっと強い相手と遊びたいです」
    「何だお前達。暇なら追加の仕事でもやるか?」
     わざと聞こえるように言った榛名の言葉に、左京の上役が反応して声をかけて来る。
    「何でも言って下さいよ! 左京さんのお仲間ってことは俺の恩人です!」
    「随分とやる気だな」
    「これで左京さんが出世すれば俺達も一緒に、という算段で……」
     にやりと笑って打算を露わにする鐐に、男はにやりと笑みを返し。
    「よし、中州に行け。人手が足りない店がある。今夜は寝られると思うなよ」
     なにやら、不穏な事を言ってきた。

     それから2日後の早朝。
     9人は朝もやの漂う博多の街を歩いていた。
    「むぅ。小学生の年齢を朝まで働かせるとは……容赦ないのう」
    「HKTって、結構ブラック……?」
     落葉とヴィアが半眼で呟くのも、無理はない。
     この2日間、昼間に街の清掃をこなした上で、夜は中州の風俗店の用心棒に借り出されていたからだ。
     用心棒と言っても、従業員もいかがわしい事担当も、殆どはHKTの強化一般人。
     やる事は出禁の客を追い払い、ツケで済まそうとする客を脅し、たまに配膳も手伝わされ、閉店後の後片付けまで手伝って……と荒事も雑用もこなす下働き状態だった。
    「ハードな割りに収穫は少なかったね、この役目」
    「まだまだ足りないよな……」
     共に欠伸を噛み殺し、アストルと鐐が顔を見合わせる。まだこれと言った新しい情報は得られていないのが実情だ。
     尤も、成果がゼロと言うわけではない。
    「ま、信頼は得られたんじゃねえか? 俺らだけで動ける時間も増えてるし」
     シグマの言う通り、当初は付いていた見極めと称した監視も、もういない。
     今の様に移動中など、9人で相談できる場所と機会を選ぶのも難しくなくなった。
    「いずれにせよ、そろそろ今後の事を考えないと、ね……」
    「そうですね。今日で一週間になりますし」
    「お前達。その辺にしろ。もう拠点の近くだぞ」
     天明と榛名が今後の方針を話題にしかけた所で、左京から制止が入る。
     言うほど近くではないが、念を入れても良い位置ではある。
     続きは仮眠を取ってからどこかで、として一行は拠点へと戻り――。
    「喜べ、出世したぞ」
     そこで待ち受けていた、朝帰りの張本人たるHKT六六六の男が、そう告げてきた。
    「ええと……どういう事ですか?」
    「お前達の様な良く働く強化一般人を使っているのは見所がある……だそうだ」
     突然の話に驚きつつ蔵乃祐が聞き返すと、男はそう話を続けて来た。
    「掃除だろうが店の雑用だろうが昼夜連続だろうが愚直にこなし、そこそこの戦力にもなる強化一般人が必要な場所があるとさ。すぐに荷物を纏めて、港に向かえ」
     一体、何処に行かされると言うのか。
     次の瞬間、そんな疑問も眠気も吹き飛ぶ名前を、聞く事となる。
    「お前達の次の役目は、『うずめ様の身辺警護』だ」
     この一週間、怪しまれる事なくHKTの活動を続けた結果、彼らの潜入調査は恐らくは最高の機会になるであろう、次のステージへと進む事になった。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 27/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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