快活豪傑、大力無双!

    作者:志稲愛海

     ただひたすら鍛錬に明け暮れ、己の力を磨き上げる日々。
     この町に来てからの『彼』の毎日は、心から充実していた。
    「……おらあぁッ!!」
    「! ぐふぅっ!」
     十分逞しい少年の腹に、いとも容易く稲妻の如き鋭い拳をめりこませるのは、さらにガタイの良い男。
    「お? もう終わりか? 力加減ちょっと間違っちまったか、すまんすまん!」
     男は、悶絶し倒れた稽古相手を見下ろして豪快にガハガハと笑いながらも、腰につけていた瓢箪に口をつけ、グビグビと喉を潤す。
     無造作にひとつに纏めた長い黒髪に、顎に生えた髭。
     瓢箪の中の水分を豪快に呷るその姿は、まさにおっさん……の様に、見えるが。
    「今日も稽古に精がでるなぁ、来夢! てかおまえが俺と同じ高校生とか信じられねーぜっ。しかも極度の甘党とはなぁ……その瓢箪型の水筒の中身だって、激甘な砂糖水なんだってな」
    「って、来夢って言うなぁ!! 俺の名前はな、この町では『雷電(らいでん)』だって言ってるだろーがっ!!」
    「! ぐはぁっ!」
     来夢……いや、雷電と名乗った男は、そう声を掛けてきたまた別の少年の顎を、怪力を誇る腕から繰り出した強烈な拳で撃ち抜いて。
    「ぐ、この馬鹿力め……っ」
    「どうだ? 俺の拳はな、速くて重いんだ」
     カッカッと、愉快気に笑った後。
     瓢箪型の水筒を手に、ふと何処かへと歩き出し始めるのだった。
    「って雷電、どこ行くんだ? 師範がこの後、飯に連れてってくれるって言ってたぞ」
    「んあ? 風呂に決まってるだろーがっ。入れる時はな、1日5回は風呂入らねーと気が済まねーんだ、俺は! それにな、デザートにチョコパフェ20人前食いてーから、飯までには戻ってくるぜ!」
    「って、風呂とかチョコパフェとか、そんなガタイで女子っぽいな!?」
     ひらり手を振って道場を出て行く雷電の背中に、そうツッコミつつも。
    「あいつ、スイーツ好きの極度の甘党なだけじゃなくて、実は本名『流星院・来夢(りゅうせいいん・らいむ)』っていうんだぜ。そんなガタイに似合わないキラキラした名前と童顔な容姿が何気に悩みらしくてな、髪とか髭伸ばしてるのも、漢らしく思われたい所為なんだってよ」
    「でもまぁ、あんなガタイしてるけど稽古熱心で真面目だし、意外と試合巧者だしな……俺たちも負けずに鍛錬しなきゃだな!」
     他の少年たちはそう言うと、それぞれ再び稽古に励むのだった。
     そして来夢少年こと雷電は、行きつけの銭湯に向かいつつ。
    「師範の話じゃ、もうすぐ『試合』だって言うしよ。それまで、いろんな相手と手合わせしてぇな!」
     もう一度、ガハハッと豪快に笑うのだった。
     

    「なんか武人の町の人たちのエンゲル係数って、めちゃめちゃ高そうだよね」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、集まってくれてありがとーっと礼を言った後。今回の依頼内容を説明し始める。
    「獄魔大将シン・ライリーによって集められたアンブレイカブル達が集まっている町が発見されたことは、みんなも聞いてるよね。それで、この町に潜入した灼滅者のみんなが、有力なアンブレイカブル・ケツァールマスクと接触して、自由に稽古に参加していいよーっていうお墨付きをもらったんだ」
     つまり、稽古を名目とすれば、そのアンブレイカブルの町に、自由に出入りできるということなのだ。稽古は模擬戦の形になり、殺したり灼滅するのは不可となるが、戦闘自体は普通に行えるという。
    「稽古に来た事を伝えて模擬戦をした後だったら、アンブレイカブルと交流したり、町中で情報を集めるといったことができるんじゃないかな。獄魔覇獄の戦いがどういう戦いになるかは不明だけど、対戦相手の情報があることは有利に働くだろうしね。ただ、シン・ライリーは町にはいないみたいだから、接触することはできないと思うよ」
     そこまで説明した後、遥河はさらにこう続ける。
    「この町のアンブレイカブル達は、悪人というわけではないみたいだけど……ダークネスには違いないから。些細な事で殺傷沙汰に発展することも多いから、行動は慎重にね」
     アンブレイカブルの少年少女が集う、武人の町。
     情報収集は町に入ってから24時間以内を目処にし、それまでに得られた情報をもって戻ってくるようにして欲しい。
    「今回は、模擬戦を行うことと、調査を行うのが目的なんだけど。情報を得るだけでなく、アンブレイカブル側にどんな印象をあたえるかも重要になるかもしれないよ。友好的な関係を築ければ、もしかしたら獄魔覇獄で、ある程度の共闘も可能になるかもしれないね」
     そして遥河は、集まった灼滅者達をぐるりと見回して。
     気をつけていってらっしゃい、と皆を見送るのだった。


    参加者
    遠藤・彩花(純情可憐な風紀委員・d00221)
    巴里・飴(砂糖漬けの禁断少女・d00471)
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    東谷・円(ミスティルプリズナー・d02468)
    ファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)
    小沢・真理(シュヴァルツシルト半径急接近・d11301)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    一色・紅染(料峭たる異風・d21025)

    ■リプレイ

    ●意気軒昂、武人の町
     8人が訪れたのは一見、長閑な町に見えるが。
    (「アンブレイカブルの集う街、ね……面白そうだし、見て回ろうか」)
     強者が集う、武人の町。
     東谷・円(ミスティルプリズナー・d02468)は、まずは模擬戦をするべく歩きながらも町を眺めてみて。
    (「武人の町か、楽しみだな」)
     笑顔を宿す居木・久良(ロケットハート・d18214)と同じ様に、ファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)もこの町に興味津々。
     アンブレイカブルは、最強の武を求める狂える種族。
     だがこの町の武人達は、悪人というわけではないようだが。
    (「ま、相手はアンブレイカブルだからね。慎重に動くとしましょうか」)
     鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)の思う様に、慎重に越した事はない。
     そして暫く町を歩いて。
    「ここにお邪魔してみましょうか」
     自身も空手道場の娘で有段者な遠藤・彩花(純情可憐な風紀委員・d00221)は、気合の入った声が響く一軒の道場を見つけて。
    「そうですね。稽古中の人がいそうですしね」
     小沢・真理(シュヴァルツシルト半径急接近・d11301)や皆も頷く。
     そして道場内には――数人の、アンブレイカブルの姿が。
    「ちょっと手合わせをお願いしたくて来たんだ」
     そうファリスが申し出た後。
    「ケツァールマスクさんから、稽古の許可は貰っています」
     巴里・飴(砂糖漬けの禁断少女・d00471)も自分達の目的を明確に伝えてから。
     猛者達を見回し、続けた。
    「おやつ前の軽い運動に、どうでしょう?」
    「なんか面白そうだな、俺がやるぜ!」
    「そうか、雷電」
     それに反応を示したのは、一際ガタイの良い髭面の男。
     師範らしきアンブレイカブルに『雷電』と呼ばれた、彼であった。
     改めて一色・紅染(料峭たる異風・d21025)は雷電に、正々堂々の勝負を申し込む。
    「是非、模擬戦の、相手を、して、欲しい、です」
    「おう、楽しませてくれよ!」
     すんなり話が通ったのは、この町でこういう出稽古が珍しくないからだろうか。
     そして久良は試合前に一礼し、構えを取って。
     仲間達と共に、いざ雷電へと挑む。

    ●雷轟電撃、交流試合
    「死なない程度に、お願いします」
    「勿論だぜ。元々模擬戦でとどめさすの禁止だしなぁ」
     念の為釘を刺した飴に、そう返す雷電。
     殺しあえば獄魔覇獄の戦力も減ってしまう為、禁止なのだろう。
     そして雷電は、ニッと笑んで。
    「まぁ殺しはしないけど、俺は力を加減するのが苦手だからよ」
     スッと構えを取った――刹那。
    「つい力入っちまったら……すまねぇッ!」
    「!!」
     大きなガタイとは思えぬ速さで、勢い良く地を蹴ると。雷纏いし拳を唸らせ、飴の身体目掛け、拳を突き上げるのだった。
     だが強烈な一撃を、敢えて避けずその身に受ける飴。
     生憎彼女も、「拳で語る」性格。それに頑丈なのが取り柄だから。
     倒れぬようしっかり地を踏みしめ、ぐっと、拳を握り締めて。
     交わす視線で察し避ける様子を見せぬ雷電へと、お返しの拳を叩き込む。
    「ふ、殴り合い上等だぜ!」
     そんな拳と拳の交わし合いに、雷電は楽し気な様子だ。
     そして飴に続き、エンジン音を鳴らし躍り出るデウカリオン。
     雷電とは逆に、ミストルティンを構える円は少し面倒臭そうではあるが。
    「さて、お手合わせ願おうか」
     その手に握ったトネリコの槍【Gungnir】で描き出したのは、まるで魔法にかかった大樹が枝を伸ばすかの様な、螺旋の軌道。
     さらに狙いを定め、閃く連打を雷電に叩き込むのはファリス。胸元の十字架を揺らす主人と共に動いたブラックナイトも皆の盾となって。
     見た目はすごく、ふわふわな尻尾だが。
    「!」
     続く紅染の一尾からも、穿つような鋭利な一撃が。
     そして、相手よりも早く強く、と。
    (「せっかくだし、真っ直ぐに戦おう。正々堂々と誠実に、精一杯力の勝負がしたいから」)
     蒸気機関の勢いで雷電の懐に飛び込んだ久良が振りかぶるのは、赤い文様刻まれし朝焼けの如きハンマー。
    「いきます」
     そう三つ編みを揺らし前へと出た彩花は盾を広げ、守りを固める。仲間を守り壁となる事が、彼女の戦い方だから。
     そして狭霧の戦闘スタイルは、白と黒の二つの刃を操るナイフコンバット。模擬戦とはいえ、手を抜いたらそれこそ相手に失礼。スピードを生かし、容赦なく雷電を斬り裂きにかかる。
     そしてへルツシュプルングを前に送りながらも真理が成した小光輪が、飴のダメージを軽減し彼女の盾となる。
     雷電は楽しげながらも、意外と冷静に灼滅者達の実力を確かめ、立ち回っていたが。
     飴が物言わなくなくなったのは、殴り殴られる拳の勝負に没頭している証拠。雷電もそれに応え、豪腕から放つ拳を浴びせて。
     番えたミストルティンから矢を撃ち出す円は相手の塩梅を窺いながらも、手加減はしない。
     そして戦場貫く円の一矢に導かれ、一斉に仕掛ける灼滅者達。
     パワーでは歯が立たない相手だからこそ、仲間との連携は大切。
     狭霧はそう判断し、隙を狙ったヒット&アウェイで果敢に攻め込んで。
     同時に動く、紅染と真理。紅染の一尾が再び鋭さを増し、真理の回復が仲間を支えて。雷電へ突撃するヘル君。
     さらに続いたファリスの拳の連打が叩き込まれ、ブラックナイトの射撃が敵を撃つ。
    「……っ」
     そんな猛攻に、微かに表情に変化が生じるも。
     一気に灼滅者達を蹴散らさんと、暴風を巻き起こす回し蹴りを繰り出す雷電。
     しかし咄嗟に仲間を庇ったのは、彩花。
    「この攻撃は通させません!」
     自らもその蹴りを受けつつも、盾となり雷電に食らいついて。
     日頃から磨いている拳に雷を宿し、彼へと拳を返したのだった。
     そんな灼滅者達に、雷電はさらに笑顔を宿して。
    「うおぉぉ、やるじゃねぇか!」
    「雷電君も中々やりますね、久しぶりに燃えてきました」 
     彩花は、彼との戦いを楽しみながらも思う。
    (「気持ちの良いアンブレカブルも居たものです」)
     これはダークネスに関する認識を改める良い機会なのかもしれない――と。
     そして。
    「ただ思い切りやるだけ、シンプルだ。戦いはこうでなくちゃね!」
     モーニング・グロウを全力で叩き込み続ける久良の表情は、普段の飄々としたものではなく。揺れるペンダントのように、決して消えない炎をその心に熱く宿し、一撃一撃に気持ちを込め、立ち向かっていく。
     それから、雷電も灼滅者も、最早戦術などどうでも良くなる程に。
    「まだ俺は倒れねぇ! だからおまえらも、まだ沈むんじゃねーぞ!」
    「いいわね、何だかこーゆー戦いは久々ね。段々興に乗ってきたわよ」
     ふと凄惨な笑みを浮かべた狭霧も皆と共に。
     イチかバチか、正面から小細工抜きの真っ向勝負を。
     立ち上がる灼滅者をまた殴り倒す雷電、そしてまた立ち上がる灼滅者。
     ずっとバトルを楽しみたい雷電との稽古は、延々と終わりそうにない。
     それにこれ以上続ければ、重傷者も出かねないと。
    「……さすがにすげぇ強いな、参ったわ」
    「今日はこのくらいにしておきませんか」
     そう判断したのは、円と飴であった。
    「ん? 仕方ねーな……でもまぁ楽しめたしな!」
     その言葉に、雷電は残念そうながらも素直に応じて。
    「ありがとうございました」
     全力で彼と殴り合った灼滅者達は、まるで緊張の糸が切れたかのように。
     道場へと豪快に倒れこんだのだった。

    ●快活豪傑、町散策
    「ありがとう、楽しかったよ」
     稽古の後、そう笑顔で言った久良や、きちんとストレッチする飴に。
     また殴り合おうぜ! と笑う雷電。
     そんな彼に。
    「この後は何か予定あるのかな? 問題なければついて町を観光してみたいんだけど」
     そう声をかけるファリス。
    「宜しければ一緒に甘味等如何でしょうか」
     彩花も彼を、甘味巡りに誘ってみる。
     この気持ちの良い漢との交流を純粋に楽しみたくて。
     雷電はそんな申し出に首を傾けるも。
    「いいけどよ、その前に風呂入りに行きてぇな」
    「僕も、一緒に、お風呂、付いて、行っても、いい、ですか?」
    「じゃあ行くやつは一緒に行こうぜ!」
     素直にそう言うと歩き出す。
     そして彼と銭湯に向かうファリスは武人の町を興味深く歩きつつ、自分が日本に来たばかりの頃を思い出して。
     魔法瓶で持参した熱々で甘めなお汁粉を、雷電へと差し出した紅染は。
    「お、美味そうだな! あちっ!?」
     豪快に口に運んで熱がる雷電を見つつ、寒くなりはじめた町を歩きながら。
    (「仲良くできるなら、仲良くするのが一番、です」)
     ふと、雷電くらい鍛えてたら寒さも全然平気なのかな、と首を傾げるのだった。
     それからファリスと久良と紅染は、彼と銭湯の湯船に浸かりつつも。
    「銭湯はいいね。日本に来て初めて触れた文化だったりするよ。始めてきた時は上がり時が分からずにのぼせそうになった記憶が……」
    「少し前に山の中で修行したけど、山奥の温泉にも行きたいな」
    「ここではのぼせんなよ? って、山奥の露天風呂いいな!」
    「お風呂、あったかくて、好き、です」
     ガハガハ笑う彼と、早速交流を。
     そして、夏の日みたいに晴れやかでいたいと常々思う久良は。
     豪快で快活でスカッと裏表がない彼と仲良くなるべく、会話を交わして。
     ご機嫌な彼に、さり気にファリスは尋ねる。
    「雷電さんは呼ばれてここに来たの? それとも自分の足で辿り着いたの?」
    「強いやつ探してて、辿り着いた感じだな」
    「俺も、もっと強くなりたいな。強いってどういうことなのかな」
    「んー何が強さかは、人それぞれ違うのかもなぁ」
     久良にそう返した雷電に、さらに質問してみる紅染。
    「雷電、は、この町、で、気になってる、人、います、か? いるなら、僕も、会って、みたい、な」
     雷電はその問いに、少し考えてから答える。
    「ケツァールマスクの道場に、強ぇヤツいるって聞いたけどよ。確か、チャリオット……なんとかってヤツ。まだ俺も会ったことねぇんだ。あとマブダチなのは、檀弓のオヤジだな。この間の手合わせは熱かったぜ!」
     チャリオットなんとかという、彼いわく強ぇヤツの存在。
     そして檀弓という相手は、もしかしたら別に訪れた灼滅者達と稽古しているかもしれない。
     それから、風呂を満喫した後は。
    「やっぱ、これだな!」
     みんなで定番のコーヒー牛乳一気飲み!
     そして今度は女性陣も一緒に、甘味巡りを。
     人で賑わう町で逸れぬようにと握られた真理の手に、雷電は少しオタオタするも。
    「あっ、握るの強すぎちまったか? 悪ィ! 俺は力を加減するのが、苦手だからよ」
     満更でも、なさそう?
     だが急に吠えた犬にびっくりしてキャアッとしがみついた真理の行動には、耳まで真っ赤に。
     真理は相手が強力なダークネスだと忘れるくらい楽しみながらも。
    「あの建物はなんですか? あっちやこっちにも同じ感じの建物ありますけど」
    「ん? 全部道場だな」
     町案内をして貰いつつ、ダークネスとの初交流に興味津々。好奇心のまま、彼に色々尋ねて歩く。
     そんな雷電や皆についていきながらも、周囲を見回すのは飴。
     飴が特に注目する点は、どの程度のダークネスがいるか、だが。
     アンブレイカブルらしき存在が、それなりの数確認できる。
     そして訪れたのは、甘味処。
     彼の様に20人前は無理だが。
    「どんな鍛錬をしているか、同じ武人として参考に伺いたいなと」
     彩花はパフェ1人前を食べつつ、彼に尋ねてみて。
    「日々の体力作りと、強いヤツととにかく戦って倒したり倒されたりする事だな。おまえは?」
    「毎日自分宅の道場で朝稽古をしていますね」
     メモを取りつつ、素直にそう返す彩花。
     そして久良も、カラッと笑いながら続く。
    「俺も強くなりたいけど、背が低いことがコンプレックスなんだ。雷電はそういうのあるかい?」
    「こいつ、本名『流星院・来夢』なんだぜ」
    「そ、それ言うな!!」
     話に割り込んできた隣の席からの声に、雷電は顔を真っ赤にさせるも。
    「人間ってのは所詮生まれた時から不平等だからね。時代や環境、性別や容姿なんかは自分で選べないし。重要なのは、いかにしてに己に忠実に生きるか、なんじゃない?」
     それを諌めたのは狭霧の言葉。
     紅染も、甘い物を堪能しながらも。
    「名は、体を、表す、って、言います、けど……逆も、また、然り、なんじゃ、ない、かな。強く、大きく、なって、いけば……きっと、来夢、って、名前、にも、男らしさ、滲み出て、くる、よ」
     応援してると、彼にエールを。
    「それに、雷電って名前はなかなかイカしてるわよ。二つ名とか真の名前っぽくてカッコいいじゃん?」
    「だろ? かっこいいだろ!」
     そして狭霧に頷きご機嫌な雷電に、訊いてみるファリス。
    「この町には普通の人間もいたりするの?」
     雷電はぺろりと20人前のパフェを平らげて。
    「おまえらも見ただろ、普通に沢山いるぜ」
    「それにしてもホント、よく食べるわねぇ……大した健啖家っぷりだわ」
     さらりと答えた彼に、狭霧は改めてそう呟くのだった。
     そして、宿敵との試合は死ぬほど好きだか、こんなに素直に歓迎されて良いものかと思いつつも。
    (「ケツァールマスクが好敵手を望む八方美人なら、この町のダークネスはアンブレイカブルの他にもいるんじゃないでしょうか」)
     甘味処を出た後も、引き続き周囲を観察する飴。
     だが今回は、そういう存在との遭遇は、なかったのだった。
     そして同じ頃――町の人々に聞き込みをする円。
     まず聞くのは、自分達が知る者以外で有力なダークネスの事。
    「悪魔に魂を売ったとか、鬼の様な強さみてぇな? あと、一番伸びしろがあるヤツは誰かとか」
    「悪魔とか鬼は知らねえけど。有力なヤツは……ケツァールマスクんとこの、なんちゃらレディって聞いたぜ」
     他種族の情報は得られなかったが。有力だと言われている存在はいるようだ。
     そしてふと遠くで始まったのは、アンブレイカブル同士の小競り合い。
    「この街ではこういう時、どんな方法で決着つけてンの?」
     円は隣の見物人にそう聞いてみるも。
    「見てりゃわかるよ、ほら」
     すぐさま二人の師匠らしきアンブレイカブルがぶん殴って、強引に事態を収拾。獄魔覇獄に向け、戦力を減らさぬようしているらしい。
     そしてそこまで情報収集した円は時計を見て。他の皆と連絡を取り、合流するのだった。
    「それじゃ、また、お元気で!」
     久良は道場へ戻る雷電に、もう一度礼をして。
     またな! と笑って去る彼を、名残惜し気に見送る彩花。
     真理も、彼と次会う時は戦場で敵同士かもしれない事に、寂しさを感じつつも。
    「お土産でも買いましょうか」
    「この町で流行ってるのは、運動後のデザートにいい『レモンの蜂蜜漬け』とか、スタミナ抜群『ダブルトンカツヤマモリ弁当』らしいな」
     円は、調査した武人の町の流行りものを真理に教えつつも。
     日が暮れるその前に――仲間達と、町を後にするのだった。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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