銀に閃く

    作者:鏡水面

    ●稽古風景
     アンブレイカブルたちの集まる町の一角にある、とある道場でのこと。
     ドタンッ!!!!!
     大きなものが倒れる音が、道場内に響き渡った。
    「く……拳だけならば、俺の方が上だ……!」
     尻もちを付き、荒々しく言い放つ男はアンブレイカブル。額に『気合』と書かれたハチマキを巻き、対戦相手を睨み上げている。相手は、男を見下ろし首を傾げた。
    「ん、負け惜しみかな?」
     にこりと強気に笑う、男を打ち倒した相手。落ち着いた黒髪に、涼しげな緑の目を覗かせる彼の顔付きは、少年のような幼さを残している。だが、剣道着を着こなし佇む姿は、熟練の武人を彷彿とさせた。彼の手には、銀色の太刀が握られている。彼もまた、アンブレイカブルだ。
    「刃物なんざ使いやがって……武人なら拳だけで殴り合……」
     ドゴオァッ!!!!
     言葉を言い終える前に、一撃がハチマキ男の顔に見舞われる。
    「はい、拳で殴ったよ」
    「ぶふ……っ」
    「君の拳を否定するわけじゃないけどね。ちょっと、パワーだけに頼り過ぎじゃない? それと……」
     少年は、ハチマキ男の目をまっすぐに見る。
    「自分にとってベストな装備で戦う。それが一番だと思うよ、俺はね。……で、今回は君のベストが俺のベストに及ばなかった。それだけの話じゃないか」
    「まだ……俺はまだ終わってない! この貧弱野郎……」
     刹那、きらりと光が瞬く。罵る男の額にあったはずのハチマキが、床にはらり。男の額に傷はない。寸断されたハチマキだけが、無残に落ちている。
    「俺のプレイスタイルを否定したいなら、その拳でこの刀を砕いてからにしな」
     刀を鞘におさめ、少年はさらりと告げた。明確な技量の差を見せつけられ、男は悔しさを押し殺し、唇を噛み締める。
    「……連殿。これは、失礼した……つい、頭に血が上ってしまい……」
    「気にしないで。これは稽古だし。……さて、一試合終わったし、お菓子たーべよ。あ、君も食べる? お気に入りのお店で、たくさん買ってきたんだ」
     連は道場の奥へ行き、大量の菓子が入った大きな袋を引っ張り出してくる。中には大福や羊羹、お団子など和菓子がぎっしり。ハチマキ男は、あからさまに嫌そうな顔をする。
    「……甘いものは好きではないので、遠慮しておく」
     素っ気なく言い捨てて、さっさと帰ってしまった。
    「なんだ、釣れないね。気悪くしちゃったかな……まあ、いいか」
     連は大福を頬張り、次に闘うであろうまだ見ぬ相手に期待を膨らませる。
    「次はどんな相手と稽古できるかな? どうせだから、探しに行こうかな……」

    ●武人の町へ
    「獄魔大将シン・ライリーによって集められたアンブレイカブル達が集まっている町が発見されたのは聞いているか?」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)はそう切り出す。今回は、この町に行き、アンブレイカブルとの稽古の後、情報を収集する任務となる。
     先日、この町に潜入した灼滅者達が、有力なアンブレイカブル、ケツァールマスクと接触した。結果、自由に稽古に参加して良いというお墨付きをもらったのだ。
    「つまり、稽古を名目とすれば、アンブレイカブルの町に自由に出入りできるということだ」
     稽古を行うためには、適当な稽古場に行くか、町を歩いていればアンブレイカブルの方から声を掛けてくるだろう。稽古は模擬戦の形になり、灼滅するのは不可となるが、戦闘自体は普通に行える。
    「稽古に来た事を伝えて模擬戦を行った後なら、アンブレイカブルと交流したり、町中で情報を集めたりもできる」
     獄魔覇獄の戦いについては、不明なことが多い。この機会に、対戦相手の情報を得ることができれば、今後有利に働くだろう。ただし、シン・ライリーの捜索については、そもそも町にいないようなので、接触は不可能と思われる。
    「アンブレイカブル達は、悪人というわけではないようだ。だが、ダークネスである事に変わりない。些細な事で殺傷沙汰に発展する可能性もあるから、慎重に行動してくれ」
     また、情報収集は町に入ってから24時間以内を目処にして、それまでに得られた情報をもって、戻ってくるようにとのことだ。
    「今回の任務、アンブレイカブル側にどんな印象を与えるかも、重要になるかもしれないな。少なくとも、あまり悪い印象を与えてしまうと、後々の戦局に差し支えが出るかもしれん」
     逆に、友好的な関係を築ければ、獄魔覇獄である程度の共闘も可能になるかもしれない。
    「ま……昨日の敵は今日の友ってな! 細かいことはお前らに任せるんで、頼んだぞ!」


    参加者
    沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)
    黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)
    黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)
    八川・悟(人陰・d10373)
    樹・由乃(温故知森・d12219)
    鞍石・世陀(勇猛果敢クライシス・d21902)
    迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)
    蜷川・霊子(いつも全力投球よ・d27055)

    ■リプレイ

    ●門を叩く
     武人の町へと到着し、灼滅者たちは稽古の相手がいる道場へと向かう。
    「頼もう!オレ達に是非とも稽古を付けてはくれないか!」
    「たのもー! 腕試しができるって聞いてやってきたわ!」
     バァン! と門を開き、鞍石・世陀(勇猛果敢クライシス・d21902)と蜷川・霊子(いつも全力投球よ・d27055)が高らかに告げた。
    「んー? あっ、君たち稽古しに来たんだね!」
    「強い方と戦えると聞いて。お菓子おいしそうですね」
     団子を銜え現れた連に、樹・由乃(温故知森・d12219)が返す。
    「うん、おいしいよ。えっと、全員で八人?」
    「はい。8対1で稽古をお願いしてもよろしいですか」
     黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)は丁寧な口調で問う。
    「面白そうだね。いいよ」
    「ありがとう。よろしく頼む」
     快諾した連に、八川・悟(人陰・d10373)が礼を告げる。案内され、灼滅者たちは広い道場へと足を踏み入れた。
    「……お世話ンなります。よろしく」
     黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)は軽く一礼する。
    「こちらこそよろしく!」
     言葉を返し、太刀を構える連。迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)も、刀を握る。
    「ほな、いっちょ楽しもや!」
    「自分の力がどの程度なのか、確かめさせてもらうっす」
     気合十分に拳を構える沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)。準備万端の彼らに、連は口元を上げた。
    「君たち、灼滅者だろ? 俺、灼滅者と戦ったことないんだ。どんなものか見せてくれよ!」

    ●稽古
    「それじゃお言葉に甘えて。結構、痛いですよ?」
     まずはブチ込んで、抉る。蓮司は駆け、槍を繰り出す。輝く螺旋を描きながら、槍は連の胸元へ。触れる寸前、連はひらりと避けた。
    「痛いんじゃなかったの?」
    「なんだ、外れですか。残念」
     煽る連に、蓮司は淡々と返す。直後、璃羽の光輪が放たれた。
    「逃がしませんよ」
     眩い光輪は、連を追うように飛翔する。
    「追ってくるのか。面倒だな……なら、弾く!」
     刀を振り、甲高い音と共に輪を弾いた。同時、炎次郎に直進する。
    「次は俺の番」
    「そない簡単には行かへんで!」
     斬撃を避け、炎次郎は刀を抜き放った。瞬時に抜かれたそれを、連は受け流す。動作の隙を狙うように、霊子が迫った。
    「私の力がどこまで通用するか、試させてもらうわ!」
     霊子は刃を鋭く閃かせ、剣を振り下ろす。
    「軌跡が目に見えるようだね」
     身を翻す連に、霊子はさらに前へと踏み込む。
    「まだよ!」
     振り上げられた返し刃は連の刀と激突し、激しい金属音を響かせた。
    「殺し合いのつもりで来ていいよ! ぬるすぎる」
    「試合に出れない体になってしまうかもしれませんよ。いいんですか」
     由乃と連、挑発の応酬が広げられる。無論、両者とも加減してこそすれ、真剣にやっていないわけではない。
    「そんな小さい体で、そこまでできるの?」
    「小さいからって甘くはありませんよ。試しに一撃、食らってみますか」
     握り締められた拳に、新緑色を帯びた光が集束する。繰り出された由乃の打撃が、連の体を揺らした。
    「まだまだ!」
     刀で衝撃を緩和し、連は飛び退く。直後、鋭い一閃が灼滅者たちを襲った。流星号の後方で攻撃をやり過ごし、虎次郎が連へと接近する。
    「これはどうっすか!」
     鍛え抜かれた拳の一撃が、連の構えた刀を打つ。
    「……硬い。けど、守りを砕くほどじゃない」
     連が体の位置を意図的にずらした。虎次郎の体が前に傾く。
    (「まず、っ……!」)
     バランスを崩す。虎次郎は予期した。間違いなくカウンターが来る。だが、避けられない。刹那、横から悟が飛び込んだ。虎次郎を斬るはずだった刀は狙いを変え、悟のシールドと交差する。
    「……見えてるよ?」
    「本当は防戦するのではなく、攻撃したかっただろう?」
     刀を受け止めながら、悟は静かに連を見据えた。
    「回復するぞ!」
     仲間を癒すため、世陀が断罪輪を掲げようとする。
    「回復しなくていいよ? 倒れない程度に相手してあげる」
     嫌味なほど、優しい声音。世陀は断罪輪を、腕の寄生体に飲み込ませた。瞳に宿るは、燃え立つ闘志だ。
    「そう言うのならば一撃受けるが良い! 後悔しても知らんぞ!」
     にいっと口元を上げ、腕を巨大な砲台へと変える。放たれた光線が、連が一秒前までいた場所を吹き飛ばした。
     灼滅者と連の応酬は、平行線を辿る。
    「やはり強いな……最高に燃えてきた!」
     瞳を輝かせる世陀に、虎次郎が頷いた。
    「ひたすら受け流されてる感じがするっす。実力差があるにしても、確実に当てたいところっすね」
    「複数で同時に攻撃すれば、受け流す余裕もなくなるかもしれません」
     璃羽が冷静に告げる。
    「いいじゃないですか、何とも私たちらしい戦い方です」
     由乃が賛同するように返した。蓮司も静かに頷く。
    「誤爆したら大惨事ですけど、やってみる価値はありますね」
    「やりましょう、せっかくの稽古だもの! 難しくとも、挑戦してみるものよ」
     やる気満々に言う霊子の目は、強い好奇心と向上心に溢れていた。
    「まずは、東坂の動きを一時的にでも封じたいものだが」
     思案するように瞳を細める悟。炎次郎は連を観察する。
    「せやな。どないしたら、動きを止められるやろか……」
     ふと、ある考えに思い至った。
    「来ないの? なら、俺から行くよ!」
     連が炎次郎に迫る。炎次郎は刀を握り直した。相手は殺す気で来ていない。ならば、一撃なら。
    (「耐える!」)
    「俺が止めたる!」
     ズブ、と鈍い音がした。炎次郎の腹に、連の刀が食い込む。
    「! 君、わざと……」
     目を見開く連。炎次郎は連の手首を強く掴んだ。
    (「なるほど。んじゃ、削ぎますかね」)
     炎次郎の意図を瞬時に理解し、蓮司が疾走する。
    「足元がお留守ですよ」
     蓮司の鋭い斬撃が、連の脚部に深く刻まれた。
    「やってくれるね!」
     炎次郎から刀を強引に抜き、連は退くも膝を付く。霊犬ミナカタが炎次郎の傷を癒す中、灼滅者たちは武器を手に連へと走った。
    「さて、やりますか。うまくできるといいですが」
     淡々と紡ぐ璃羽からは黒い影が伸び、刃を形成する。
    「ともあれ、遠慮なくぶちかましましょう。その方が楽しいです」
     檸檬色の魔力光を宿す杖を、由乃は振り翳した。
    「そうだな。相手もそれをお望みのようだし」
     悟は上段の構えから、重い斬撃を振り下ろす。璃羽の高速の斬撃、由乃の杖による打撃、悟の研ぎ澄まされた剣撃が前方から連に直撃した。
    「っ!」
     刀で受け止めるも撥ね飛ばされる連に、追い打ちが迫る。
    「今度こそ、その身に受けてもらうぞ!」
     世陀は超硬度の拳を握り締めた。
    「果たして耐えられるかしら!」
     霊子の拳に、激しいオーラの奔流が渦巻く。
    「もうぬるいなんて言わせないっすよ!」
     虎次郎は雷撃に包まれた拳を繰り出した。正面から、三人同時の打撃が炸裂する。
     ギイン!!!
     甲高い音と共に連の刀が宙を舞い、床に落ちた。刀は折れただろうかと、視線を移しかけた、その時。
    「……加減の仕方を、間違ったかな」
     連の纏う空気が、急激に重さを増した。思わず気を取られるも、それは一瞬で消える。気付けば刀を拾った連が、平然と立っていた。
    「稽古は終わりだ。……集団なのに一体感のある動き。それが君たちの戦い方、なのかな」
     傷の入った刀を鞘におさめ、連は静かに問う。
    「……連、お前に一つ問題出すわ。『握るだけで強くなれる物』って何か知っとるか?」
     逆に問う炎次郎に、連は首を傾げた。
    「? 刀かな」
    「いーや、握るだけで強くなれる物は『仲間の手』や!」
    「……、それが君たちの強さなんだな」
     静かに返す連に、炎次郎は手を差し出す。その手を、連は不思議そうに見た。
    「握手。これで俺らも友達や。楽しい試合をおおきにな。また勝負しよや!」
    「ワン!」
     ミナカタが嬉しそうに吼える。連は驚いたように目を瞬かせるも、次には表情を和らげて、炎次郎の手を握り返すのだった。

    ●座談
     道場の床にはテーブルが置かれ、茶や和菓子が広げられている。稽古の後、灼滅者たちは、連のおやつタイムの誘い受けることにした。
    「稽古のお礼と言ってはなんですが、これどーぞ」
    「俺からも。お気に入りの店の塩大福っす」
     蓮司と虎次郎が、和菓子の入った箱を差し出す。
    「美味しそうなお菓子だね、ありがとう!」
     貰い物を大切に抱える連とテーブルを見やり、霊子はにこりと微笑んだ。
    「本当に和菓子が好きなのね。 どれも美味しそうだわ!」
    「うん。和菓子は心の癒しなんだ」
     オススメの和菓子屋の話など世間話をしつつ、まったりと時間が進む。
    「しかし、お強いのですね。それだけ強いと稽古の相手もなかなかいないのでは。誰か戦ってみたい人はいないのですか」
     雑談の最中、璃羽はさりげなく問う。
    「俺より強い奴はたくさんいるよ。戦ってみたい相手、ね……とにかく、たくさんだな!」
    「……どっかライバル視してる勢力とか、ないんですか?」
     大雑把な返答に内心呆れつつ、蓮司が聞き返した。
    「特別視してるのはいないな。みんな同等にライバルだし」
    「なるほどな……」
     連の言葉に悟は頷く。特定の名前を聞き出すのは難しそうだ。
    「今から戦うのが楽しみだよ! 優れた刀剣使いにも会ってみたいね」
    「まだ会ったことがないんやな」
     炎次郎の言葉に、連は寂しげに息を付く。
    「いそうなものなんだけど、なかなか出会えなくて」
    「想うほど会えないというやつですか、切ないですね。あ、よもぎもちいただきます」
     よもぎもちを頬張りつつ、由乃はストレートに質問を投げた。
    「そういえば、最近急に力をつけてきている方などはおりますでしょうか」
    「隣の隣にある道場の連中が、最近強くなってるみたいだな。きっと俺の知らないところでも、力を付けてるやつがたくさんいるだろうね」
    「東坂、もう一つ質問していいだろうか! ライバルの動向を知る事も勝利への道だからな!」
     ビッとまっすぐに手を上げ、世陀が問う。
    「良い心掛けだね。いいよ!」
    「稽古に混ざる一般人は居ないのか?」
     質問に、連は顎に手を当てた。
    「んー、見たことないな。まあ、稽古に混ざったとしても、鍛練に付いていけないと思う」
     言いながら、お茶をごくり。
    「はあ、和菓子と茶の組み合わせは最高だねぇ……」
    「そうっすね。連は漉し餡と粒餡、どっちが好みっすか?」
     稽古後の甘味を美味しくいただきつつ、虎次郎が問う。
    「どちらも好きだから、選びがたいなー。おはぎなら漉し餡のが好きかな?」
    「因みに私は辛い物が好きなのですが……激辛煎餅、お一つどうですか」
     璃羽が真っ赤な煎餅を取り出した。連は一瞬目を見張るも、頷く。
    「一つ、いただこうかな」
     受け取り、一口食べる。直後、噴き出す汗。
    「ちょ、顔青いっすよ! お茶、お茶のんで!」
     虎次郎が慌てて連の口に茶を運んだ。霊子は咳込む連を、意外そうに見つめる。
    「東坂君って、辛いもの苦手なのね。それなら無理して食べなくても……」
    「いひゃ、勧められたのだし、少しくらい、大丈夫かと……」
     舌足らずになりつつ連は返した。そんなこんなでおやつタイムは進み、お開きの時間となる。
    「この辺でお暇しようか。あまり居座っても悪いだろう」
     頃合いを見計らい、悟が立ち上がる。道場の外に出た灼滅者たちを、連は見送った。
    「今度会ったときは、稽古抜きでやり合おう。今よりもっと、強くなっていてね」
    「お前もな。またな、連!」
     炎次郎は友人にするように手を振る。それに対し、連も手を振り返すのだった。

    ●町にて
     八人は手分けして情報収集を開始する。
     炎次郎と霊子は、中華料理店でアンブレイカブルを発見した。道着を来た男が、皿に山盛りの肉まんを積み上げている。
    「随分頼んだわね。ここの肉まん、おいしいの?」
     向かいの席にごく自然に腰掛け、霊子は気さくに話し掛ける。
    「ヤケ食いだ! くっそ、酷い負け方をした……」
     きっと稽古でボコボコにされたのだろう。
    「まあ、そういう日もあるもんやで」
    「ワン、ワン!」
     炎次郎とミナカタが横から男を励ます。
    「そうよ。悔しさを糧に頑張れば、きっと次は勝てるわ」
    「お前ら、いい奴らだな……」
     ミナカタを撫で、男は心癒されたようだ。二人は男と談笑しつつ質問を投げる。ただ、ここでもシン以外の強者について特定の名は得られず、町にもとくに変わったことはない、との返答だった。
     他方、世陀と由乃も町を歩き回り、観察する。
    「道場が立ち並ぶ光景というのは壮観だな!」
     世陀が周囲をぐるりと見渡し、楽しげに話す。
    「ええ。しかし、異常なエネルギーなどはとくに感じませんね」
     見渡すかぎり道場、道場、道場。この光景自体が奇妙とも言える。
    「秘密基地的なものがあれば面白かったんだが、こうも堂々と構えられていては、その気配すらないな」
    「そうですね……お菓子を買って帰るしかなさそうです」
     由乃は缶のミルクティーで手を温めつつ息を付いた。11月の風は、とても冷たい。
     虎次郎と蓮司は、町内の公園を見て回る。
    「あそこにいるの、アンブレイカブルじゃないっすか?」
     シーソーの上で腹筋する男を見つけ、虎次郎が指さした。蓮司は歩み寄り、声を掛けてみる。
    「すんません、稽古に参加したいんですけど、この街で格闘家が一番集まる場所、知りませんか」
    「大きなッ、道場、ならばッ、たくさんッ、いるッ、フンッ、フンッ!」
     あくまで筋トレに集中しているようだ。それ以上の答えはない。
    「具体的な場所は聞き出せなさそうっすね」
     流星号に寄り掛かりつつ、虎次郎は男を眺める。
    「これ以上質問できるような空気でもないし、他当たりますか」
     蓮司は静かに息を付き、虎次郎と共にその場をあとにした。一方、璃羽と悟も別の公園に赴き、鍛練中のアンブレイカブルと接触する。
    「気合が入っていますね。それだけの稽古量。近々何かの試合でも?」
     璃羽の問いに、走り込みをしていた女が足を止めた。
    「さあね。そのうち通達でもあるんじゃないのかい」
     淡白に告げ、トレーニングを再開する。
    「細かい日程は知らないのだろうか」
    「そのようですね」
     悟の呟きに、頷く璃羽。そのとき、彼女の携帯が『にゃー』と鳴いた。同時、悟の携帯にもメールが届く。
    「和菓子屋前で、たまたま合流したようだな。これから集合場所に向かうらしい。俺たちも向かった方がいいだろう」
     悟は最後に、公園とその周辺をくまなく見渡す。建物や人の出入りなど、気になる点はない。
     集合場所に向かいつつ、璃羽はぼんやりと考える。
    (「正直、獄魔覇獄とか面倒な事は止めて貰いたいものですが……やるのでしょうね……」)
     この後も灼滅者たちは、21時まで調査を行い、帰途に着くのだった。
     奇妙な武人の町、そして獄魔覇獄。果たして、これからどうなっていくのだろうか。

    作者:鏡水面 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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