アヤネル・チェリーのRockin Sweet

    作者:空白革命


    「ジャブからいくぜ、消し飛んでくれんなよ!?」
     少女は左右六門のバルカン砲を展開。ランドセルから引っ張り出した弾帯を翼のように広げ、猛烈な機関射撃を繰り出した。
     一体何人規模の軍隊を相手にしているのか。もしくは戦闘ヘリや戦車の列を相手にしているのか。
     否、どちらでもない。
     相手は一人。
     ツインテールのピンク髪。
     ピンクのフリルワンピース。
     両手にぴこぴこハンマーを携えた、小さな少女――たった一人であった。
    「あやねる、避けます!」
     少女はやや低い姿勢をとると、相手へ向かってダッシュ。ギラリとした眼光が稲妻のような奇跡を描き、大量の弾幕をかわしながら距離を詰めていく。
    「叩きます!」
     近接距離。ぴこハン有効射程で転身。身体をぐるりと回転させると、ダブルラリアットを延長したようなフォームで高速回転した。
     このとき少女を打ったハンマーの高度は、直撃したM61バルカン用20mm弾を紙細工のように叩きつぶすほどである。
     それが高速で叩き込まれたのだ。対する少女は六門全てのバルカン砲をパージ。
     すべてを瞬間解体すると、複雑にパーツを組み替えて両腕に装着。巨大な偽腕を作成すると、そのまま拳型に握り込んだ。
     少女のハンマーと少女の腕。その二つがぶつかり合い、破壊力と破壊力が異常にねじれた渦を作った。
     地面だけが大量に吹き飛び、大量に吹き上がった土砂が雨のように降り注いだ。
    「お見事です」
    「お前もな」
     ぴこハンのアンブレイカブル、アヤネル・チェリー。
     彼女は今、それぞれの目的のため『武人の町』に訪れていた。
     アンブレイカブルたちが互いを磨き合い、地域住民と平和に暮らす町。
     ここは新たな可能性が見える町。
     あとおいしいスイーツ店があるっぽい町。
     

    「『武人の町』の噂は聞きましたか? アンブレイカブルの獄魔大将シン・ライリーによってたくさんのアンブレイカブルたちが集まり、ケツァールマスクとはじめとする様々なアンブレイカブルとの自由稽古が認められた町です。この町では一般の地域住民とアンブレイカブルが仲良く平和に暮らしていて、住民にも好意的に認知されているようです」
     実際、町の噂を聞きつけた武蔵坂学園生徒たちが潜入したところ町はかなり平和で、接触したケツァールマスクとは軽くプロレスしたあと『稽古目的ならいつでもウェルカム』的なことを言われたようで、じゃあマジレスして行ってやんよというのが今回の依頼の趣旨である。
     ……言っちゃえば、半分以上観光目的である。
     
    「今回接触するのはアヤネル・チェリーというアンブレイカブルです。というより、『ここは良いところだから早く遊びにおいで』という旨の絵葉書が来ました」
     クレヨンで描いたと思しき絵葉書を、エクスブレインが提示した。何人かの灼滅者の名前が書いてあったが、ひらがなレベルで間違っているので判別が難しい。っていうかなんで届いたんだろう。気合いかな。
    「彼女は人間だった頃から今に至るまで『誰も殺したことが無い』という特徴を持っていて、かつて灼滅者たちが命がけで戦いを挑んだ際を除いては手加減攻撃しか使わずに来たという隠れ実力者です」
     ちなみに前回の接触時にはお互いマジだったこともあって真面目なんだか巫山戯てるんだかわからないカオスな状況になっていたが、今回は目的もハッキリしているので心配はいらなそうだ。
     どうも、軽く『バトルごっこ』をしたあとスイーツバイキングにいって一緒にご飯を食べようという、割とマジな遊びの誘いだったりもする。
    「彼女のいう『バトルごっこ』は手加減を抜いた途端人死にが出るレベルのものですので、ごっこにとどめておくとして……今回の交流で比較的善良なアンブレイカブル側たちとの関係を変えていくこともできるでしょう。場合によっては獄魔覇獄での共闘も不可能ではないかもしれません。ちょっとした親善大使気分で、遊びに行ってくださいね」


    参加者
    柳・真夜(自覚なき逸般人・d00798)
    夢月・にょろ(春霞・d01339)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    現世・戒那(紅天狼主三峰・d09099)
    来海・柚季(水面たゆたう海月姫・d14826)
    高嶺・円(餃子白狼・d27710)
    桜井・オメガ(オメガ様・d28019)
    杠・狐狗狸子(銀の刃の背に乗って・d28066)

    ■リプレイ

    ●ピコハンあやねる・改
     たん、たん、たん。
     つま先で地面を踏み踏み、リズムをとった。
     アヤネル・チェリーは目を瞑り、その時を待っていた。
     風が吹く。暴風だ。嵐の到来もかくやと、彼女のツインテールが後ろへ靡く。
     だん、と足を踏み込む音がした。
     インファイト。それも拳の距離だ。
     現世・戒那(紅天狼主三峰・d09099)が利き足を踏み込み、ねじり込むようなパンチを繰り出す、そんなタイミングと距離である。
     風にあおられる柳の葉がそうであるように、アヤネルは戒那の拳からくる風圧にそって自転、公転。戒那の側面へスウェーすると、後頭部にピコハンを叩き付けた。
     ぽきゅうという気の抜けた音と共に、戒那の後頭部に爆発的なエネルギーが発生。パンチの勢いもあいまって思い切り転倒――すると見せかけて彼女もまた反転。コンパクトな回転からラリアットまがいのフックパンチを繰り出し、それがアヤネルの鼻っ面に直撃した。
    「んみゃ!」
     ぽーんと撥ね飛ばされたアヤネルめがけ、空中へ飛び上がる文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)。
    「いくぞ! 着ぐるみダイナミック!」
    「んみゃー!」
     ミサイルのように飛んできた直哉にホールドされ、地面に突っ込むアヤネル。
     そこへ餃子型の弓を引いた高嶺・円(餃子白狼・d27710)がギョウザキャノンを乱射。
     アヤネルの落下地点を中心に大量の土煙が上がる……が、一秒とたたずに中からアヤネルがまっすぐ飛び出してきた。口には円の放ったニラっぽい矢がくわえられている。
     二人の間にスライドインしてくる来海・柚季(水面たゆたう海月姫・d14826)。
    「いきます……っ」
     バッティングセンターでバットを降るのとほぼ同じフォームでロッドをスイング。
     が、そのロッドがアヤネルのピコハンと相殺。もきゅうという気の抜ける音と共にエネルギーが蒸気のように排出される。
    「しめたっ、準備はいいよね百目鬼!」
     拮抗状態の中、側面から斬りかかる円。
     それもまたもう一本のピコハンで相殺。エネルギーを排出。
     が、そこに柚希が狙い澄ましたように異形腕によるパンチを繰り出した。
     腹に直撃。
     地面から足が浮き、空中を泳ぐアヤネル。
    「よっしゃー、たたっこむぞ!」
    「はいっ!」
     桜井・オメガ(オメガ様・d28019)と杠・狐狗狸子(銀の刃の背に乗って・d28066)の目が同時にギラリと光り、場が急に暗転した。
     空間に突如裂け目が生まれ、アヤネルを切り裂く。裂け目は幾重にも重なり、五重になったところでようやく狐狗狸子がナイフを振りきった姿勢で姿を現わした。
     アヤネルの胸が裂け、どぱっと血が飛び散る。
    「アヤネルー!」
     そこへ、高高度で発射態勢に入ったオメガがオーラをジェット噴射。流星のような蹴りをアヤネルへと叩き込んだ。
     地面に一度突っ込み、余った衝撃でおおきくバウンド。
     着地地点にあたる場所で、夢月・にょろ(春霞・d01339)が刀を顕現。腰をひねるように構えると、アヤネルの着地と同時に抜刀、更に斬撃。
     アヤネルの腕が見事に切断され、陸に上がった魚のように跳ねながら転がっていった。
     片腕でむくりと起き上がるアヤネルに、両腕をゆるく組んだ状態で駆け寄る柳・真夜(自覚なき逸般人・d00798)。上半身はぴったり固定されているのに足の動きは常人の肉眼でとらえられない速度で動いていた。
     十数メートルを一秒足らずで詰めると、真夜はスピンキックを繰り出した。
     彼女の足は見事にアヤネルの顔面をとらえた……はずだが、接触する一センチ手前の所で強制的に固定されていた。
    「や――」
     やばい、と誰かが言おうとした。その言葉が声になるかならないかの刹那、アヤネルの姿は真夜の視線よりやや上にあった。
     そのとき、彼女の目は開いていた。
     逆に言えば。
     それまでずっと、閉じていたのだ。
     彼女はくるんと身をひねると、真夜の肩に膝蹴りを繰り出した。
     ぱちん。
     というよく分からない音がした。
     それが真夜の肩を中心とした肉体が円形に、かつ一瞬で喪失した音だとは、まさか。
    「――!?」
     声にならない。発声そのものができない。
     が、その時一番叫んだのはアヤネルの方だった。
    「わー! うわー! ストップストップ! 真夜さんが怪我してるですようわあああ血がっ! 血が出てるぅー! メディーックメーディーック!」
     地面に落ちた真夜を抱え上げ、空に向かって誰か助けてくださーいと叫び散らした。
     何の中心だよと思ったが、慌てて駆け寄ったにょろたちがよってたかって回復することで真夜の身体は元通りになった。
     しかしアヤネルは納得できないようで、両腕で意味不明のジェスチャーをしながらわめいた。
    「あああああ甘い物っ! 甘い物とるですよ! 女の子は甘い物でできてるですから、ですからー!」

    ●甘味バイキング『パラダイスイーツ』にて
    「やー、やっぱり『痛くない手加減』は難しいですねー。テンション上がっちゃうとどうしてもぶっ込んじゃうっていうか」
     マンガかってくらいの速度で、アヤネルは大量のプチシュークリームを平らげていた。
     時と場所は流れて、スイーツバイキングのお店でのことである。
     かなり余計な情報ではあるが、このお店は電話帳にも載っている普通の店で、予約や席の確保もアヤネルがやっておいてくれたそうだ。最近この町はものを食う人がやたら増えているので予約は必須とのことである。
     その辺は真夜たちがやろうとしたっぽいが、アヤネルにも招待側としてのマナーみたいなものがあるらしい。ちなみに予約時間まではコイバナしたりプリ○ラとったりした。日常系漫画かよ。
    「大丈夫ですか、もう痛くないですか?」
    「え、ええ、まあ」
     何かと『アイアム一般人』ゆーて天然の突っ込み待ちをはかる真夜ではあるが、この町ではホントに一般人扱いをされるのだなと実感した。
     スイーツ店のおっさんなど『最近の若いのは腕くらいとれても大丈夫らしい』といった雰囲気である。
     真夜は盛大なコレジャナイ感覚を味わいつつ、一緒に季節のモンブランなぞ味わいつつ、アヤネルに質問してみることにした。
    「アヤネルさん。前の接触から三ヶ月ほどですけど、ここでは良い稽古相手は見つかりましたか?」
    「んー……そーですねー。アンブレさんは強いのはいいんですけど異常に硬いですから、やっぱり練習相手は灼滅者さんがイチバンなとこありますねー。アヤネルには」
    「そうなんですか?」
    「避ける技術や受ける技術ばっかり上がって、これはこれでいいんですけどね」
    「受けると言えば」
     柚希がアヤネルのシュークリームや真夜のモンブランと自分のケーキを交換しつつ、話題に入ってきた。
    「私の打撃をピコハンで受けたのもその一環ですか?」
    「ですね。あれはアヤネルの『手加減しますよモチーフ』だったんですけど、意外と盾になるっていうか」
    「そのモチーフなんだけど、確か闇堕ち時の武勇伝にも関係してるんだっけ?」
     直哉がトレーに色々載せてテーブルに戻ってきた。
     二人テーブルを無理矢理四つくらいくっつけて使っているので、わりとぎゅうぎゅうだったりもする。
     でも入店時に『お客様そのキグルミはちょっと』と言われないあたり、店もさすがに変人慣れしていた。
    「当時のこと、詳しく聞いても?」
    「カラーギャングの抗争を一人で鎮圧したんだっけ」
     山盛りにしたカレーをもりもり食べつつ振り返る戒那。
    「それは話長くなるですから。そのうちってことでいいです?」
    「ま、そだね。ボクも獄魔覇獄やシン・ライリーのこと聞きたいし」
    「今聞いてくれてもいーですよ?」
     オメガにプチ大福を大量に『あーん』されながら器用に喋るアヤネル。
     会話の流れをかなりぶった切ってくる子である。
    「ボクが聞きたいのはねぇ、『そもそも獄魔覇獄とは何か知っているか?』『共闘、ないし協力関係を築くことは可能か?』の二つなんだけど」
    「シンちゃんに聞いた方がよくないです?」
    「そうなの?」
    「アヤネル含めて皆細かいこと考えてないですし、シンちゃんは獄魔覇獄の不思議パワーで大将扱いになってますから、立場を決めるのは結局シンちゃんでしょ。たぶんだけど。あっでも、今シンちゃん町にいないから、帰ってきてから聞くしかないですよね」
    「ふーん」
     戒那はジュースをストローでずごごーってやった。
     それまで大福の『ガトリングあーん』をしていたオメガが手を止める。
    「そーいやアヤネル、獄魔覇獄出るのか?」
    「えっヤですよアヤネル喧嘩とかよくないと思いますし」
    「よくないと思うんだ!?」
     かなり、かなり希なケースだが、闘争本能はあっても闘争そのものは嫌いというアンブレイカブルもいるにはいる。アヤネルもまた一人なのだ。
    「まーでも喧嘩が好きな人も沢山いますから、仲良くお友達っていうのはムリあるですよねー」
     逆にオメガへ『バルカンあーん』を繰り出すアヤネル。
     口をクリームだらけにしてもっくもっくするバルカ。その口をナプキンでぬぐいつつ、狐狗狸子は振り返った。
    「ねね、じゃあさ、連絡先教えてよ。おもしろい戦いとか、ケーキ屋さんのお誘いとかしたいからさぁ」
    「え、んー」
     アヤネルは暫く考えた後、天井を見ながら言った。
    「アヤネルお家無いんで、連絡貰うの無理そうなんですよね」
    「そ、そうなんだ」
     いきなりヘビーだな。と思いつつアヤネルの口もナプキンでぬぐってやる狐狗狸子。
    「え、じゃあ。どうやってこの町に来たの? 招待されたにしても、連絡つかないわけだし」
     クレープ生地で生クリームをアレしたやつをもぐもぐしつつ、円が話題に加わってきた。
     余談だが、テーブル四つの中央くらいにアヤネルが座り、話題の先が変わるたびに正座したアヤネルがぐるぐる回転する仕組みになっている。
    「アヤネルは人づてに聞いたカンジですね。ダークネスの話題が伝播しずらいっても、これだけいると分かる人には分かりますし」
    「ってことは、アンブレイカブル以外のダークネスが居る可能性もあるよね」
    「まああるんじゃないですか? アヤネルは見てないですけど」
    「そっか」
     ふむふむ言いながらメモる直哉。
    「じゃあ、アヤネルはこの町についてどう思う? 活気があって、笑顔があって、いい町だなって俺は思うんだけど」
    「はー、そうですねー」
     シフォンケーキを丸ごと頬張ってもぐもぐごっくんするアヤネル。
     と、その途端。急に場の空気が冷えた。
    「永久に『このまま』だったらアリですけど。こういう場所って必ず誰かが何かに利用しようとしますから……きっとどっかで弾けちゃうでしょうね。みんながみんな変な方向にひっぱって、ぱちーんって」
     アヤネルの手の中で、大福が千切れた。
    「みなさん、この町の利用法なんて、ちょっとは考えちゃってません?」
    「さあ……ね」
     場の空気が悪い。にょろは慌ててアヤネルの口にプリンを突っ込んだ。
    「はむっ」
    「アヤネルさん、お菓子好きなんですね。自分でも作ったりするんですか?」
    「むまむむむむまむ」
    「食べてから……」
    「んごく。アヤネルは食べる専門ですからぁ」
    「ですかぁ」
     ほんわか微笑み会う二人。再び暖かくなる空気。
     にょろはポケットからプリペイド式の携帯電話を取り出すと、アヤネルに突きだした。
    「よかったらどうですか。これで連絡つきますよ」
    「えっいいんですかー。悪いですねー」
     アヤネルは電話に手を伸ばし、指が触れた途端、サッとその手を引いた。
    「……どうしました?」
    「あ、いや、携帯電話はその、ちょっとヤな思い出があるので。公衆電話とかからでいいですか? 電話番号メモるですから」
    「あ、ああ、それなら」
     それから彼女たちは、電話番号を一方的に交換しーのプ○クラとりーのコイバナしーのと日常系漫画さながらの『さい☆ふぁー』したあと、ふつうにバイバイした。
     途中で軽い握手会になったり、円が地元のお菓子を渡したりアヤネルが地元でもないのにひよこのまんじゅうくれたり色々あったが、それはそれ。
     遠くの友達と久しぶりに会って遊ぶのと、さして変わらない空気のままお開きとなった、のだが。
     戒那は深く息を吸い込み、大きくはいた。
    「アヤネル。あいつ、この短期間でかなりパワーが成長してた。やっぱ、環境なのかねえ」
     なんとなくの呟きを残して、彼女たちは町を後にしたのだった。
     アヤネルと次に会うのは、いつになるだろうか。
     そのとき彼女は、どうなっているのだろうか。
     今のところ誰にも、分からない。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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