●埼玉県某所
とても治安が悪く、頻繁に放火魔が出没していた地域があった。
この辺りでは、毎週のように民家や倉庫、工場などが放火され、多大な被害が出ていたらしい。
しかし、犯人は見つからず、動機も不明。
その頃から、夜な夜な全身火達磨になった人間が走り回っているという都市伝説が、実しやかに囁かれ始めたようである。
「サイキックアブソーバーが俺を呼んでいる……時が、来たようだな!」
格好良くポーズを決め、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明し始めた。
最早、相手の反応など関係ない。
ドン引きされても、続ける事が大事である。
今回倒すべき相手は、炎を纏った都市伝説だ。
こいつは夜な夜な走り回り、家や工場を全焼させてしまう事もあったらしい。
まあ、狭い地域で度々放火があったから、大抵は大事になる前に鎮火しているが、そのたび力を付けているようだ。
もしかすると、まわりの人間が『今度は一軒じゃ、済まねえかも』、『この様子じゃ、もっと凄い事になるぞ』って噂しているせいかも知れないが……。
おそらく、お前達が行く頃には、家が一軒燃えている頃だろう。
『まだローンが残っているのに! せっかく建てたマイホームが!』、『こ、子供がまだ家の中に』って事になっているから救助を優先してほしい。
もちろん、都市伝説が逃げてしまう前に、必ず倒してくれよ。
都市伝説は全身に纏った炎を飛ばしたり、体当たりして攻撃をしてくるから、大火傷を負わないように気を付けなければならない。
まあ、お前達なら大丈夫だと思うから、頑張ってくれ!
参加者 | |
---|---|
ガム・モルダバイト(ジャスティスフォックス・d00060) |
銀嶺・炎斗(シルバーフレイム・d00329) |
峰・清香(中学生ファイアブラッド・d01705) |
黒洲・叡智(迅雷風烈・d01763) |
桜庭・晴彦(インテリと呼ばせないメガネ・d01855) |
杳坂・彦冶(影の煩い・d03270) |
百目鬼・はじめ(氷炎界を統べし魔王という設定・d06945) |
リーンハルト・リーチェル(魔砲使いの弟子・d07672) |
●炎に包まれて
「おーお、燃えてる。しかも、こんなに野次が……。人間の抑圧した心ってのは、恐ろしいね」
都市伝説の確認された現場に向かい、杳坂・彦冶(影の煩い・d03270)がしみじみとした表情を浮かべる。
既に現場は火の海。
辺りには、野次馬達がワラワラと集まっており、『まだ家が建ったばかりなのにねぇ』、『40年ローンだってさ』、『火災保険に入っていなかったんだって』と噂話に花を咲かせていた。
おそらく、同情しているのは表面上だけで、心の中では『ザマアミロ』と思っているのだろう。
人間の黒い部分を目の当たりにしたような感覚に襲われ、都市伝説よりも野次馬達の方が違う意味で恐ろしく思えた。
だからと言って、このまま都市伝説を放っておくわけにはいかない。
念のため、仲間達と携帯電話の番号を好感した後、野次馬に紛れるようにして都市伝説を探し始めた。
「一体、どこに……」
警戒した様子で辺りを見回しながら、峰・清香(中学生ファイアブラッド・d01705)が炎に包まれた家に視線を送る。
一瞬……、何か黒い影が横切った。
それが都市伝説だったのか分からない。
どちらにしても、家の中に誰かがいる事は間違いなさそうだ。
「中にお子さんが居るんですね? 直前に見た場所を落ち着いて話して貰えませんか?」
すぐさま桜庭・晴彦(インテリと呼ばせないメガネ・d01855)が家の主と思しき男性に駆け寄り、プラチナチケットを使って付近の消防団を装うと、詳しい話を聞くため声を掛けた。
「あ、ああ……。確か、家の中に! そんな事より、家のローンが! そ、そうだ。せめて家宝の壺だけでも! あれは、とてもイイモノなのだ。先祖代々伝わるモノで、300万以上の価値がある。子供を助けに行くなら、ついでに……。ほ、本当についででいいんだが、ほ、ほら、壺の傍にいるかも知れないし」
酷く動揺した様子で、屋敷の主が壺のある場所を指差した。
「とにかく、ここは任せてください」
嫌悪感をあらわにしながら、晴彦がバケツの水を頭から被る。
おそらく、こんな親だったせいで、子供は家の中に置き去りにされてしまったのだろう。
母親らしき女性も『ブランド物のバックが、貴金属がっ!』と叫び、子供の事は二の次のようだった。
「人助けは柄じゃないんだけど……」
この人達と同じようにはなりたくないと思いつつ、黒洲・叡智(迅雷風烈・d01763)があらかじめ燃えやすいものを外しておく。
二人とも人間としてどうかと思うレベルだが、その子供に罪はない。
叡智は意を決して、炎に包まれた家の中に飛び込んだ。
そこには都市伝説の姿もあり、奇妙な笑い声を響かせて、家の中を走り回っていた。
「ガハハ! 都市伝説! 貴様の好きにはさせないぞ!」
問答無用で背後から蹴りを放ち、ガム・モルダバイト(ジャスティスフォックス・d00060)が高笑いを響かせる。
その一撃を喰らった都市伝説が前のめりに倒れたが、ガムの靴も炎に包まれサンバ状態。
すぐさま仲間達が炎を消すため行動するが、都市伝説はそのチャンスを逃さず、脱兎の如く逃げていく。
「氷炎を統べる俺様に対し、火で対抗するとは愚かなヤツよ……。覚醒せし我に敵は無し! 雑魚共に俺様の名を覚えさせるよい機会だ」
含みのある笑みを浮かべ、百目鬼・はじめ(氷炎界を統べし魔王という設定・d06945)が行く手を阻む。
都市伝説は……、動けない。
まるで蛇に睨まれた蛙。
はじめの態度が虚勢である事にも気づかぬまま動揺している様子。
「てめぇの炎が勝るか、俺の炎が勝るか。勝負と行こうか……」
都市伝説と対峙しながら、銀嶺・炎斗(シルバーフレイム・d00329)がニヤリと笑う。
次の瞬間、都市伝説が『オーン、オーン』と低い唸り声を響かせ、炎斗達に突っ込んできた。
「うわっ、あちっ、あちち!」
都市伝説の炎が服に燃え移り、リーンハルト・リーチェル(魔砲使いの弟子・d07672)が激しく悲鳴をあげる。
その途端、2階から『誰か助けてぇー』と子供の声が響き、リーンハルトが我に返って階段を駆け上がっていった。
●燃え盛る炎の中で
「さて、狩ったり狩られたりしようか」
階段を守るようにして陣取り、清香がスレイヤーカードを発動させる。
その途端、防具が炎で出来た際どいレオタードっぽくなり、無敵斬艦刀が銀色に光った。
都市伝説は……動かない。
おそらく、戦う事よりも、家を炎に包む事を優先したいのだろう。
少しずつ間合いを取って、様子を窺っているようだった。
「疾風、迅雷」
スレイヤーカードの解除と同時に、叡智が両手に巻いた包帯がほどけて右手に無数の符と注連縄が巻かれた漆黒の縛霊手が装着される。
それと同時に都市伝説が走り出し、強引に階段を駆け上がって行こうとした。
「……させるか!」
すぐさま都市伝説に体当たりを浴びせ、炎斗が黒死斬を叩き込む。
その一撃を喰らった都市伝説が、奇妙な唸り声をあげて階段を転がり落ちていく。
「いただきます」
そこで待ち伏せしていた彦冶が、即座に影喰らい。
必要以上にダメージを受けた都市伝説が悲鳴を上げ、それに応えるようにして炎の勢いが増していくのであった。
一方、その頃……。
ガムは携帯電話で仲間達と連絡を取りつつ、ライドキャリバーに指示を出していた。
その指示は、子供を発見して、安全な場所に連れていく事。
だが、燃え盛る炎のせいで行く手を阻まれ、全身から流れ落ちる汗のせいで、視界を確保するのも困難であった。
その途端、何かに気づいたライトキャリバーが、炎の中を突っ切っていく。
「……そこか。今、助ける!」
ガムからの連絡を受けて合流し、晴彦がライトキャリバーの後を追う。
そこには子供が倒れており、晴彦がすぐさま不熱シートで覆う。
「助けに来たよっ! もう大丈夫だからねっ」
そのまま子供を抱きかかえ、リーンハルトが箒の後ろに乗せる。
子供は意識が朦朧としているようだが、何とかリーンハルトにしがみつく。
「ククク……、力無き一般人共よ。炎に愛されぬ貴様のために、消防と救急を呼んでやったぞ。有難く思うのだな」
やけに高飛車な態度で、はじめがフンと鼻を鳴らす。
何とか間に合った。
間に合った……はず。
とにかく、今は子供の避難を優先した方が良さそうである。
●紅蓮の炎
「はあはあ……。そろそろ限界のようだな、お互いに……」
荒く息を吐きながら、清香が流れ落ちる汗を拭う。
ようやく消防車が到着したのか、家の外からサイレンの音が聞こえてくる。
だが、都市伝説を倒すまでは、家から外には出られない。
「ガハハッ! 待たせたな!」
階段を滑るようにして飛び降り、ガムが都市伝説めがけてロケットスマッシュを叩き込む。
その途端、都市伝説が辺りに炎を撒き散らし、その場から必死に逃げようとした。
「これ以上、うろちょろしないでくれる?」
不機嫌な表情を浮かべ、叡智が黒死斬で都市伝説を、足止めしようとする。
しかし、都市伝説も必死!
素早い身のこなしで攻撃を避け、辺りに炎を撒き散らしつつ逃げていく。
「うわっち!? おおぉ、俺様に傷を負わせるだと……? 貴様まさか、邪炎使いか!?」
その拍子にはじめの両足が炎に包まれ、青ざめた表情を浮かべて尻餅をついた。
すぐさま仲間達が炎を消しに来たが、この状況ではいつ命を落としてもおかしくない。
「絶対に逃がさないんだからっ!」
その間にリーンハルトが距離を縮め、バスタービームを撃ち込んだ。
それでも、都市伝説は逃げようとする。
ある意味、命を懸けて……!
おそらく、都市伝説にとって、戦いは無意味な事。
その時間を割いて、家を燃やした方が、効率がいいという判断なのかも知れない。
「喰らわせてやるよ。もーちっと身が入った炎ってヤツを」
一気に間合いを詰めながら、晴彦がレーヴァテインを叩き込む。
次の瞬間、都市伝説の体が真っ二つに両断され、断末魔を上げて消し炭と化した。
「みんな、お疲れさん。さあ、早くここから脱出しよう」
険しい表情を浮かべ、彦冶が仲間達をつれて、家の外に出る。
既に外では消火活動が始まっているらしく、家に向かって消防車から水が放出されていた。
「炎を消す時に新しい炎を加えると消えるって本当かな……」
何気なくそんな事を考えながら、炎斗が先程助けられた子供に視線を送る。
家族のところに戻ったせいか、とても幸せそうな表情を浮かべていた。
両親は彼の事をどう思っているのか分からないが、これをキッカケにして考えを改めてくれれば、助けた甲斐があるというものである。
そして、炎斗達は彼らの幸せを願いつつ、その場を後にするのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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