火産霊バルカの Full Metal Chaos

■リプレイ

●Full-Metal-Fire
「先に行っておく、俺が買ったらデートしようぜ！」
「断わる！」
「なんでだあああああ！」
「年の差考えろボケがあああああ！」
　桃地・羅生丸（暴獣・d05045）と火産霊バルカの拳が交差した。
　タッパの差があるのでバルカの顔面にだけ羅生丸の拳がめり込み、彼女の拳は空中でびぃんと止まっただけ……に思えたが、あろうことか羅生丸の頭部が回ってはいけない角度にまで回転していた。拳の風圧だけで頭部をねじ切られたのである。
　あまりの衝撃に一瞬死にそうになった（というか現に死んだが）気合いで死を凌駕。羅生丸は頭の位置を戻しながらごろごろと地面を転がった。
「き、気をつけろ。彼女……メチャクチャ強いぜ」
　垂れた涎を手の甲でぬぐう羅生丸。
「それは最初から知ってたけどね」
　そんな彼の頭頂部に防護符をぺったりはりつけ、神薙・弥影（月喰み・d00714）は小さくため息をついた。
　弥影は回想する。
　バトルを始めるまえ、『口がきけないくらいボコボコにしちまうかもしれん』と言って、事前の質問会が行なわれた。
　バルカもバルカで灼滅者たち（もとい武蔵坂学園）が獄魔覇獄に関する情報集めをしたがっていることは分かっているようで、この辺は配慮のうちである。
　――あなたはなぜアンブレイカブルの組織化なんてことを？
　――そりゃオマエ、灼滅者八人でダークネスが倒せるなら、ダークネス八人で何ができるか想像つくだろ。
「っしゃ、もう一回行くぜ！　デートスポットも聞いとかな――ほがぁ！？」
　立ち上がり、再度殴りかかろうとした羅生丸がバルカのラリアットで昏倒した。
　――スリーサイズを……。
　――アァン？
　――じゃなくてだな、お前は獄魔覇獄でどう動きたいんだ？
　――基本観察だな。面倒な事態になったらすぐにでも身をひく構えだぜ？
　仰向けに伸びた羅生丸の胸の上に赤いサンダルを揃えて立ち、左腕を熟練の指揮者のように振り上げる。
　するとそこへM６１バルカン砲が発生。弥影の間近で水平に砲身を固定。発射レバーを引き絞った。
「ッ――かげろう！」
　両手を前に翳し、影業を特殊展開。弥影を中心にオーラが収束し、肉体にめり込んだ弾のいくつかを排出するが、できて五割。残り五割は弥影自身の身体で受けることになった。
　バルカがバトルではじめに約束したこと。
　それは『弥影たちを殺さない』ことである。逆に言えば、それ以外の全てにおいて一切の手を抜くつもりは無い、ということなのだ。
　全力のアンブレイカブルがいかほどのものか知るチャンスである。
　が、いくらなんでも。
「もう一丁ォ！」
　右腕にもバルカン砲が発生。弥影めがけて火を噴いた。
　肉体組織がサイコロステーキサイズまで分解されたかと思った。いや、常人なら間違いなくそうなっている場面である。
「メディック担当が分かった途端真っ先にか……えげつないなあ」
「うっわ、前と違ってヤるき満々じゃん」
　それぞれ身構える石見・鈴莉（融翼の炎・d18988）と空井・玉（野良猫・d03686）。
「クオリア、いい？」
　玉はライドキャリバー・クオリアにまたがり、背負っていた鍋の蓋を前方に構える。
　その後ろに立ち乗りする形で、鈴莉が彼の肩に手を置いた。
「突撃ね、タマさん！」
「タマさんいうなっ」
　アクセルをひねった途端クオリアはいきなりトップスピードで爆走。バルカの側面へと猛スピードで突っ込んだ。
　これが人間相手なら、いや灼滅者相手でもテレビゲームでしか見たことが無いほどの豪快な撥ね逃げが出来たところだが。
「――！」
　バルカは片手でクオリアの全面フレームを掴み、その上で指を無理矢理めり込ませ、タイヤを地面から浮かせていた。
　バルカン方を分解、再構築して右腕に装着。
　バルカは両目をカッと開き、鋼鉄の拳を叩き付けてきた。
　――他の種族と戦ったことはある？
　――バベルの鎖がバベるからなあ、そうそうねえけど。流氷で流れてきたロシア怪人の時くらいか。あんま楽しくはなかったよなあ。
　――じゃあこの町は？　ゴクマゴクが終わったら潰れちゃったりしそうとか、そういうのわかる？
　――さあ、普通じゃね？　一時的に外の人間が入ってるだけだから、コグマグマが終わったくらいでダメになるこたぁねえだろ。
「タマさん防御防御！」
「だからタマさんって――」
　玉は鍋ぶたで防御するが、乗っていたクオリアごと吹き飛ばされた。かなりの距離を地面と水平に飛び、積み上がった木箱を破壊し、工場の壁と破壊し、工場機械を粉砕しながらコンクリート駐車場を転がった。
　が、そこは強かなタマちゃんである。
　地面に手をつけ、影業を展開。バルカの足首にわらわらと小さな兵隊が密集。右足を地面に固定した。
　一方鈴莉はクオリアが吹き飛ばされる直前に離脱。ワイヤーでもって頭上のパイプに飛び移っていた。
　バルカへと降下し、手甲からエネルギーフィールドを展開。重力を乗せたパンチを叩き込む。
「『がんばりの先はどうすんだ』だっけ。そんなの知らないよ。しらなきゃがんばっちゃいけないの」
「いけねぇよ。意図のない努力は他人に利用される。目標のない成長はいたずらに周囲を破壊する。ンなことしたくて『そう』なったワケじゃねーだろ、ズスリぃ」
　対するバルカはアッパーカット。威力の差がモロに現われ、鈴莉は工場の天井を突き抜けた。
「……」
　志穂崎・藍（蒼天の瞳・d22880）の身体が本能的にぶるりと震えた。
　味方の頭数が的確に減らされていく。これが本当の『強すぎる個体』との戦いなのだ。戦争の正しい形態、とも言える。
　――アンブレイカブルの組織化ですか。何かヒントはつかめましたか？
　――ヒントっつうか……コグマグマ？　じゃねえやゴクマゴクには配下を作るパワーってのがあって、これは理屈抜きで呼びかけた奴を配下に出来るんだが、統率って意味じゃ無理があるんだよな。この町見りゃ分かるだろ。自主的に同一の目標を持たせるってのが、今んとこのテーマだな。「一手御指南、願います！」
　手刀を作り、構える。
　藍の周囲を吹雪の幻影が渦巻いた。
　大地を蹴って突撃。
　雷をはらんだ足刀がバルカへと繰り出される。
　腕でガードされる。だがまだだ。
　素早く抜き手にうつり、バルカの脇腹へと突き立てた。
　五指がみごとに肉体へと侵入……したが。
「いい距離だな。離れんなよ？」
　バルカは武装を一旦パージ。ランドセルから弾帯を引き抜き、手にぐるりを巻き付けメリケン変わりにすると、機関銃のような速度と頻度で藍の顔面を殴りまくった。
　パワー、スピード、スタミナ。あらゆる点で一対一ではまずかなわない。
　だがしかし。
「皆で戦うなら……っ」
「そうだよ。そのまま！」
　槍が飛んできた。細い和槍が、バルカの頭を右から左へ貫通した。
　直後、御納方・靱（茅野ノ雨・d23297）が高速で接近。構えた六角棍をバルカの頭部めがけてフルスイングした。
　首が外れて飛んでいく。
　そこまでやって、うっかり殺してしまったかと肝を冷やした靱だが……そこはダークネス。人間をあらゆる意味で辞めた闇の存在である。
　靱と藍の顔面を左右それぞれの手で鷲づかみにし、振り上げ、振り回し、振り回し振り回し、きわまった遠心力でもって二人を射出した。
　藍は工場から放り出されるレベルで飛ばされたが、靱は棍を地面にえぐり込ませることでブレーキ。
　その間バルカは自分の首をサッカーでもするようにつま先で蹴り上げ、元の位置へストンと落とした。
　そして深呼吸をひとつ。それだけで首は元の通りにつながった。
　――バルカさんはどうやってこの町に？
　――人づてに……えっとだな、ケツァールマスクと対戦したっていうアルパカマスクが一晩止まったって言う民宿のおっさんの息子がカードバトルでボロ負けしたっていうデュエリストの行きつけのホビーショップのバイトの女子高生の彼氏が通ってるクラブのＤＪからかなりもやっとした形で聞いたな。それで実際来てみたらこうなってたわけさ。
　――人づて過ぎる……。
　――ちなみにこの間にケツァール含め四人のアンブレイカブルが挟まってるからな。
　――連絡網！？
「ヒューウ、首が取れると流石に息苦しいぜ」
「す、すごいな……」
　靱の顔がわずかに引きつった。
　が、手を抜く必要が一切無いとわかればしめたもの。靱は今度は棍にドリル状のエネルギーを付与。バルカへと突撃した。
　再びバルカン砲を発生させ、機関銃射撃を仕掛けてくるバルカ。
　勢いで押される。そう感じた途端、彼の棍を横から掴んだ者が居た。
　朱屋・雄斗（黒犬・d17629）である。
「連携すんぞ。弾幕を貫く！」
「……いいね！」
　二人のドリルエネルギーが同調。無数の弾丸をはねのけながらバルカへと突撃。本来人に刺さるはずの無い棍がバルカの胸に突き刺さった。
　むろんこれまでに雄斗たちが無傷ということはない。はねのけきれなかった弾丸は全身にくまなくくらっている。
「つうぅ……」
　ぐらりと倒れる靱。
　が、既にここはインファイトの距離だ。倒れた仲間を抱きかかえる暇はない。
　雄斗は腕を異形化。殴りかかる。バルカも対抗して腕に武器を装着。殴りかかった。
　鬼と鋼の拳がぶつかり合う。
　――火産霊。バトルをしていない時はどうしてんだ。その、寝泊まりする場所もいるだろ。
　――時に決めてねえよ。ネカフェだったりシェアハウスだったり野宿だったりだ。こりゃアンブレイカブルあるあるなんだが、自然環境に対して無敵すぎて宿をとろうって気がおきねえんだよ。
「うらァ！」
　衝撃でバルカのアームが分解。空いた隙間を埋めるかのように、サンダルでもって蹴りつけてくる。
　雄斗も対抗して回し蹴りを繰り出した。
　蹴りと蹴りが相殺……いや違う。あまりの衝撃に耐えきれず、雄斗の足が消し飛んだ。
　バルカの腕にバルカン砲が再構築。獰猛に笑うバルカ。
「下がれ！」
　そこへ戯・久遠（悠遠の求道者・d12214）が割り込んだ。雄斗や靱たちを突き飛ばす形で滑り込む。霊犬・風雪が雄斗を緊急開腹しながら背負って後退。
　一方でその場に残った久遠は紺青色の闘気を展開。
「我流・紅鏡地大！」
　自らに発射された弾丸を空中で強制固定。
　それらを球状にまとめ。
「間破光耀！」
　バルカへと逆に発射した。
　直撃。のけぞるバルカ。
　叩きどころだ。久遠は自らの神経が焼き切れんばかりに集中した。
「灰塵曲輪――」
　闘気を刃に変え、バルカの胸へと斬りかかる。
　それを。
「――鬼哭晦冥」
　無理矢理押し広げ、バルカの上半身をすっぽりと覆った。
「あれから俺も前に進んだ。そうそう遅れは取らん」
「ま、そうじゃねえとな」
　再分解したバルカン砲が腕に集合、再構築されていく。だがそれまでとは明らかに様相が違った。
　巨大な、それはそれは巨大な腕である。いつかみたあの大技を、久遠は思い出した。
　咄嗟に腕の封印を解除。
「薫風！」
「今更ァ！」
　薙ぎ払い。
　薙ぎ払いである。
　それだけで久遠の周囲にあったあらゆる機材やら壁やらパイプやらが粉砕され、まるで机の上のガラクタをまとめて払い落とそうとするような、強引かつ強制的な。
　それは薙ぎ払いであった。

　廃工場が一個無くなった。
　奇しくもそれは、前回灼滅者たちとバルカが戦ったときの被害に似ていたが、今回の違いは灼滅者たちにひとりの重傷者も出ていないことである。
「ダァム、強くなったじゃねーか。アタシも腕のふるいがいがあったってもんだ。今日の経験も相まって、また強くなれてんじゃねえのか？」
　にやにやと笑うバルカ。
　彼女に手当をしながら、弥影は肩をすくめた。
「それはいいんだけど、ずいぶんメチャクチャしたわね……」
「まあ一度は経験しときたいだろ？　ガチなやつがガチでつぶしにかかったら集団で囲んでも負ける時があんだよ。ゴクマゴクが兵隊増やして強い奴に挑んでも負けることがあるっていういい証拠だよな」
「まさか連携することを見越して一人ずつ確実に潰していくとはね」
　貰った缶コーヒーをもてあそびながら呟く玉。
　一方でブラックのコーヒーを一気に煽る雄斗。
「今までのダークネスには無かった発想、かもしれねぇな」
「『自分を倒す可能性があり、尚且つ自分より圧倒的に弱い敵』という存在ですものね。たしかに、逆の立場から見れば新鮮かもしれません」
　藍はまだ痛む身体をさすりながら目を瞑った。
「群れが弱いわけではない。かといって群れが増えれば強いわけではない。運用次第、ということですか」
「まあぶっちゃけ、このまま灼滅者が鍛えていったら普通にダークネスは全滅すると思うぜ？　どっかで考え方変える奴が出ない限りはな」
「……そ」
　ダークネス側の彼女が言っていいことでは……ない、のか？
　同じく瞑目する靱。
「その時は、俺たちが世界のありかたを考えなきゃいけないのかな」
「見えない未来の話だ。悩んでも仕方ない」
　一方で久遠は達観したようで、静かにコーヒーをすすっていた。
「……」
　手の中で缶をくるくる回す鈴莉。
　まだ何か。まだ何か必要だというのか。強くなって、頑張って、その先……いやもっと根本的な部分で、必要なものがあるとでも。
「あたし……」
「デートォ！」
　額にお札を貼り付けた羅生丸が叫びながら起き上がった。ちなみに今までは気絶していた。白目をむいて気絶していた。
「俺のデートはどうなった！？」
「なくなった」
「ガッデム！」
　羅生丸は頭を抱えて悶絶した。
　こうして夜は更け、久しぶりのバルカとの邂逅は終わった。
　彼女と次に会うのは一体いつになるだろう。
　時も場所もわからないが、きっとその時には、今より激しい戦いが起こるのだ。
　今日よりも、ずっと激しい戦いが。

作者：空白革命	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年11月25日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 10／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 3
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。