夕暮れの帰り道

    作者:奏蛍

    ●冬の夕暮れ、帰り道
     たくさんの声が溢れ出ていく。そしてそれぞれの帰り道に向かって、ばらばらに別れていく。
    「また明日ー!」
    「ばいばい!」
     繰り返される穏やかな日常。けれどその一日、一日はとても大切な時間だ。
     冬の夕暮れは、濃い青に溶け込んでどこか寂しそうでもあり人恋しくもさせる。まるでお互いの距離を縮めさせる効果でもあるようだ。
     思っていても、普段なかなか口に出来ない思いも自然と口に出来る。冬の夕暮れにはそんな魔力があった。
     いつもなら面と向かって言うのは少し恥ずかしい……。でも、言葉にしてみたい。
     そんな大切な気持ちを冬の夕暮れの魔力のせいにして、伝えてみたくなる。いつもと同じ、でも何だかいつもと少し違う帰り道。
    「あのね……」
    「あのさ……」
     大事な時間を共にする友人、恋人に伝えたい一言が溢れるのだった。


    ■リプレイ


    「今まで同じ校舎だったから問題なかったけれど……」
     約束がなくても陰条路・朔之助と一緒に帰るのが当然になっている。けれど来年は学部も違う。
     今度こそ距離があくかもしれない。そんな思いをしんみりと千喜良・史明が呟いた瞬間、朔之助が全速力ダッシュしていた。
    「石焼き芋2つくださぁーい!」
     差し出された焼き芋に、しんみりした空気を返せとも少し思う。しかし何か機嫌悪くないかと覗き込んでくる朔之助に、ふっと力が抜ける。
    「今度庭掃除がてら焼き芋焼こうよ」
     学校で離れたとしても、家は隣なのだ。

     十七夜・狭霧と片倉・純也の帰りが一緒になったのは偶然だった。
    「……センパイは空の色が何で変化するか知ってます?」
     狭霧の声に、純也が手帳から視線を向ける。空気層を抜ける光の距離が夕方は長い。
     距離が長い程エネルギーが空気層で分散して青が赤に変化する。
    「橙と青の空はとても綺麗で、なのに何故か寂しくなるとか可笑しいっすね」
     苦笑した狭霧の言葉に何が正当なのかと純也が問う。
     素直に綺麗に見惚れたりするのが正当か……。
    「……夕焼けにはノスタルジーに浸る効果が有るのかもね」

    「絢矢さん」
     宮廻・絢矢が闇堕ちしている間、失われていた日常。それが再び戻ってきてなぜかそわそわしてしまう久織・想司だ。
    「なんだよ想司くん」
     落ち着かないのを察しながら、絢矢は次の言葉をにやにやと待つ。
    「いえ。なんでもありません。呼んでみただけです」
     そう言いながら、想司が悪友である絢矢をとらえた。
    「いだだだ!」
     突然のヘッドロックに絢矢が声をあげる。でも逃れようとはしない。
     この痛みもここにいるという証だ。冬の寒空と絢矢の暖かさに少しだけ鼻がツンとなりそうな想司だった。

    「そういえばトールは進学先はどうするのかね」
     肉まんと餡饅を半分こした狸森・柚羽が八重樫・貫を見た。
    「進学……大学かー」
     もうそんな時期というか、遅いぐらいか……。
    「……何、決まってないのか」
     ならば好きな子を追うのはどうかと柚羽が聞く。実はこっちが本題なのだ。
    「好きな人は、追うっていうか……」
     貫が言いかけたところで、ナノナノのらいもんがダイブした。柚羽が笑って受け止める。変わらないこの日常が幸せ。
    「少し気が早いけど、来年もよろしくなー」
    「ああ、こちらこそ宜しく頼む」

     北斎院・既濁が神條・エルザにコーラを渡しながら、ふと聞いてみる。
    「何かあるのか、拘る理由とかが」
    「……拘る理由?」
     単に炭酸の刺激があるだけマシに思えるだけだ。
    「何を口にしても味がよく分からなくてな……」
     辛くても生きていることに意味があって、闇を滅ぼし人を救うことが償いになる。
     そう思っていたが、わからなくなってしまった。
    「肩を貸すくらいなら、するぜ」
     一人で背負うのは面倒だろうと既濁が呟く。
    「不味い飯も誰かと食えば格別なものになるしな」
     既濁の言葉が優しく夕暮れに溶け込むのだった。

     寒いねえと司城・銀河がため息を吐いた。そんな姿に黛・藍花が唐突に口を開いた。
    「……ええと、常々思っていましたが、銀河お姉様はなにかこう……」
     ほっこりぽかぽかしてると思いませんかと。
    「え、そうかな?」
    「ん、そうだね。銀河さんは暖かいよ」
     照れ笑いをした銀河に同意する新城・七葉。
    「……密着したらもっと温かくなれるでしょうか?」
     藍花の言葉に、七葉が動いた。気づいたら二人に逃走経路を塞がれて抱きつかれる。
     一瞬戸惑った銀河ではあるが、二人の温もりが愛おしくて自然に抱き返す。
    「ほら、皆暖かくなったよ」
     幸せそうに呟いて七葉が瞳を閉じる。感謝と幸せをかみしめて暫くはこのままで……。


     夕暮れと河川敷は、逢坂・兎紀と二之瀬・夕姫にとって思い出が多い。どこか放っておけない夕姫に視線を向ける。
    「会えて良かった」
     嫌な思い出を消してくれた兎紀への思いが無意識に溢れて、夕姫の頬が染まる。
    「また迷子になったら困るからなー」
     ふわりと笑って手を差し出す兎紀に聞こえてしまっただろうか。夕日の暖かさと重ねた手の温もりに、兎紀が好きだと溢れてくる。
     でもまだそっと閉まって、握る手に少し力を入れる。なぜかそわそわしている兎紀だけが、いつも通りじゃないようだ。

    「オレンジジュースみたい!」
    「夕焼け見てオレンジジュースに例えたヒト……初めて」
     思わず高城・時兎の表情が緩んだ。逆光になっている王子・三ヅ星には見えただろうか……。
     こうしていると、灼滅者じゃなくて普通の友達みたいだと三ヅ星が呟く。そしてすぐに訂正を入れた。
    「ボクらは仲良しの友達、だよ」
     普通じゃ足りないと言うように笑って、歩き出す。
    「高城君、肉まん買って帰ろう!」
     三ヅ星が言うように、普通……仲良しの友達は時兎を不思議な気持ちにさせるのだった。

     寄り道した公園で伸びた影を見て、森田・依子はそっと手を八握脛・篠介の方に向ける。繋ぎたい、けれど怖い時がある。
    「たまにね、繋いでると熱で貴方を火傷させてしまうんじゃないかって思う時がある」
     ぽろりと溢れた本音を篠介の笑顔が包む。
    「ん? ちょうどいいと思うけどな」
     そして依子と同じように手を伸ばす。
    「俺も斬れそうなくらい冷たい時があるかもしれねぇしさ」
     触れた手をお互いに強く握った。ただ暖かいだけじゃない、その奥にある気持ちを込める。
     夕陽よもう少し、沈まんでおってくれ。帰り道の距離二倍になれ。

     袖を引いた咲宮・律花に気づいて、朝間・春翔が見下ろす。寒くなったし鍋はどうかと聞く律花に春翔が頷いた。
    「……水炊きはどうだ?」
    「じゃあ水炊きね」
     八百屋に向かう途中で、律花の視線がたい焼きに止まる。
    「少し寄り道しようか」
     見つめる先に気づいた春翔が思わずふっと吹き出しながら指さす。気づかれて照れる律花は本当に可愛い。
     他愛のない帰り路なのだが、それが凄く幸せな二人だった。

     寄り道した神社で、藤代・冴と柊・司は階段を使って遊んでいた。
    「僕ってなんか、センス悪いらしいんだけど」
     じゃんけんで勝った分、階段を登る司が口を開いた。真剣な顔に冴の背筋が伸びたが、六個目の肉まんを口にする司にジト目を送る。
    「それツッコミ待ち?」
    「え、ツッコミというか本気ですけど……」
     そして何だか冴が寒そうに見えて水玉模様のマフラーを巻いてあげる。
    「なんで二重マフラー?!」
     ツッコミが追いつかないよと肩を落とす。そしてふと冴があることに気づく。
     そう、ズルされていたことに……。


     晩御飯の買い物を終えた蒼間・舜と黄瀬川・花月が公園に寄った。一緒に買った焼き芋とお茶で一休みするつもりだ。
    「……食べ終わったら、帰って晩御飯一緒に作ろうか、カルナ」
     そう言った舜が花月にしか見せない笑顔をみせる。花月に言わせるとその笑顔は反則だ。
    「ああ、もう!」
     ……Ich brauche dich.Sei doch immer bei mir nahe zum Greifen.
     花月の言葉を聞こうとしたら、聞かなくていいと言われる。ひとまず恋人繋ぎをして帰りながら、後でドイツ人の知人に聞こうと思う舜だった。
     少しは舜も動揺したらいいと言うように、花月が腕を絡めるのだった。


    「私の視線より、夕焼けちょっと大きく見える気がする」
     二階堂・空と手をつなぎながら、縁石に上がった華槻・灯倭が声を上げた。そんな灯倭の頭を空が照れ笑いしながらポンポンする。
    「だけど、この高さだとちょっと頭が撫でにくいかもかな」
     言われてみると顔が近くてドキドキする。
    「公園の展望台まで行ってみようか」
     空の言葉に灯倭が嬉しそうに頷く。いつもバタバタしているせいか、平穏がとても愛おしく思える。
     一緒に過ごせるのが幸せと言われて灯倭の頬が染まる。
    「こちらこそ、ありがとう……大好きです」
    「俺も大好きだよ」

    「最近、本当に寒いねー」
     すぐ鼻の頭が真っ赤になっちゃうんよと、マフラーを口元にやって柚琉莉・雅耶(微笑みは平和の象徴・d23207)が言った。
    「あ、ほんとじゃ」
     言われて鼻を見た天御・藤姫がふふっと笑う。
    「藤姫ちゃん俺より寒そー」
     マフラーを外してふわりと藤姫に巻く。
    「香水の匂いするかもだけど、ごめんね?」
     突然のことでびっくりしながらも、マフラーにそっと手を触れる。恥ずかしそうに藤姫がぽつりと呟く。
    「……ありがとう」

    「兄さん、いきなりくっつかないで下さい」
     往来で寒いだろうからとくっつくベリザリオ・カストローに西院鬼・織久が口にする。出来れば繋いだ手も離したいと思うが、思いつめたような瞳に何も言えなくなる。
     こういう時に離れると織久の方が心配になってしまう。ベリザリオは幼い頃に離してしまった手を今度は離したくないと、微かに力を入れる。
    「一緒に帰るなら夕飯の材料を買って帰りませんか」
     そんな思いに気づいてか、織久が夕飯はベリザリオの所で食べると言うのだった。

     並んだ影が背中で揺れる。会話はなくとも時間を共有している心地に有栖川・真珠は悪くないと思う。
    「ここは、公園というものね」
     視界に入った景色に真珠が呟いた。
    「公園ははじめてかい?」
     愛宕・時雨が首を傾げた。頷いた真珠がブランコに手を伸ばす。
    「ブランコね」
     まあ、嫌いじゃないと時雨が漕ぎ始める。二人の景色が揺れて、光が角度を変えて瞳に差し込む。
    「ご一緒してくださって、ありがとう、時雨」
    「ふん。偶然さ」
     そして小さく受け取っておいてやるよと付け足した。

     草薙・結(安寧を抱く守人・d17306)は師匠である志那都・達人の手を引きながら楽しげだ。
    「師匠、たりないもの、ってなにかありましたっけ?」
    「えーっと、後足りないのは……」
     ふと結が見上げた先に、夕焼けが広がる。
    「うわぁ、きれいな夕焼け……」
     結の言葉に達人は瞳を伏せ、夕焼け空を心に描く。
    「明日、も、またいいことありますように、なのです!」
     にぱっと笑った結の頭を達人がぽふぽふと撫でる。
    「うん、明日もいいことあるといいね」

    「美味しいですよ?」
     ジャンボメロンパンを赤松・鶉がルチル・クォーツに差し出す。これはエネルギー補給とルチルが受け取る。
     横でルチルがはむはむと口を動かす。
    「うぅん、やっぱり可愛いですね……」
     その気になりそうなと呟いて、鶉がこほんと咳払いした。
    「また二人で帰りましょう」
     そっとルチルの髪を撫でて鶉が笑う。
    「……これからも色々と教えてくれると嬉しいな」
     真剣な表情でルチルが言った。

     コンビニで買った肉まんを食べながら柳・晴夜は隣を見た。はふはふ言いながら肉まんを口にしているフィオレンツィア・エマーソンに悔しいと思ってしまう。
     惚れた女より大きい体でありたいと思うのは、男の性なのだろう。でも大事なのは守りきることと、思考を止める。
     こういう他愛のない時間が好きで、フィオレンツィアは晴夜に微笑みかけた。
    「肉まん持ってない手が寒い?」
     んじゃ手でも繋ぐかと晴夜が手を差し出す。
    「まぁ、良いかな?」
     成り行きで手を繋いだ。ほんの少しの時間だけ……。


     二人だけのお決まりの小さな儀式。葉新・百花が校門を出るか出ないかのタイミングでエアン・エルフォードの手を繋ぐ。
     テストの話に新発売のチョコの話。
    「新発売のチョコを全部買うつもり?」
     からかうようにエアンが笑う。
    「そろそろ、えあんさんのセーター出しておく?」
     首を傾げた百花にあると助かると返すと、握る手に力が込められた。エアンが指を絡めて握り返す。
     二人の頬が染まったのは夕日のせいかそれとも……。

     静かな公園のベンチに座ったリリー・アラーニェが耳を傾ける。勇気を振り絞った琴宮・総一が口を開く。
    「最初はただの憧れだったんです」
     それがもっとリリーを知りたくなって、自分のことも知って欲しくなった。
    「今は頼りないですけど強くなってみせますから……ぼ、僕とお付き合いしてください!」
    「……ありがと、総一」
     怖くても頑張って強さを見せてきた総一。それをいまリリーに向けている。
    「リリーも負けないくらい素敵な女性になるから……あなたの彼女にして」
     その言葉に総一が涙ぐんで、リリーが嬉し涙を見せる。そして総一の額にそっとキスをした。

    「初デートね!」
    「初デートと言えば初デートですね」
     その返しに居待月・三樹がよっしゃとガッツポーズを取る。宗像・九十九とただ並んで歩いて、他愛のない会話を楽しむ。
    「何か好きな食べ物ある?」
     グラタンとかシチューが好きと九十九が答えると、今度食べさせてあげると三樹がウィンクした。

     北海道との違いを話す糸木乃・仙の言葉に志水・小鳥の声に耳を傾ける。雪虫って何だろうと傾げた視線にお店が映る。
     ふと仙に視線を移すと瞳があった。意気投合して、どれにしようかと二人で迷う。
    「自分はやっぱり抹茶かな」
     そう言って仙がたい焼きを半分にして小鳥に渡す。小鳥も同じように仙に自分の分を渡す。
     今度はまた違う道で半分こしようと笑い合うのだった。

    「るーちゃん、これ、どうかなぁ」
     ショッピングセンターに寄り道した八千草・保が朝霧・瑠理香に真っ白なドレスを指さす。
    「可愛いね。着てみたいかもしれない」
     レースに刺繍にフリル。瑠理香が着たところを想像して保が微笑む。
    「もしかして僕が着てるところ想像したのかい?」
    「ようお似合いやと思うよ」
    「そう言って貰えてうれしいよ」
     じゃあこれ買っちゃおうかなと瑠理香が笑った。

    「宗一……私と……っ、と……、友達になってくれないか!」
     夕日を浴びて真剣に言った高梨・雪音の言葉に、吉弘・宗一は思わず真顔で首を傾げた。
     素麺流しに夜通し怪談をして……今更過ぎるという状態だ。
    「……そういえばお前バカだったな」
    「って……バカとはなんだ、バカとは!」
     不満を言い始めた雪音にたい焼きを奢ってやるからと宗一が歩き出す。
     食べるとついてくる雪音に、簡単に釣られすぎだろと思う宗一だった。

     シェアハウスまでの帰り路、たこ焼き屋へ木須賀・美希と芥生・優生が足を運ぶ。
    「熱いからやけどしないように気をつけて」
     あと、落とさないようにね? と優生が少しからかう。
    「零しませんよ」
     その言葉に美希が少し頬を膨らませる。ふと寒そうな美希の手を見て、こうしましょうかと笑って優生が握る。
     赤い顔を夕日が誤魔化してくれると思う優生だが、美希にはバレバレなのだった。

     日暮れには物悲しい雰囲気があると、紅羽・流希が思わず足を止めた。
    「さてと、寮母さんのお使いを済ませて帰りましょうかねぇ……」
     これ以上、寒くなる前にとスーパーに向かって歩き始める。その横を少女が通り過ぎる。
     袋の中でお菓子が音を立てた。夕飯は何かと想像しながら、帰路を進む江東・桜子だった。
    「あ、一番星みーっけ☆」
     何かいい事あるかしら? と桜子が空に手を伸ばした。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月2日
    難度:簡単
    参加:55人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 3
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