血を望む撲殺爺は、勧誘を受け

    作者:雪神あゆた

     公園のベンチに、二人の男が座っていた。
     一人は、紺のスーツを着た40代の男。もう一人は、白いシャツを着た老人。
     二人とも、体中から殺意の波動を滲みだしている。ともに六六六人衆だ。
     スーツの男が白シャツの老人に言う。
    「撲殺爺・三河鍋太郎さん。我が社の社員になれば、獄魔覇獄に参加でき、ぱぁぁっと華やかに殺せますよぉ?」
     白シャツの老人、鍋太郎はひげをさすり思案するそぶりを見せた。
    「よかろう。最近は大きな殺しもしておらぬ。ここらで、一つ花を咲かせるのも悪くはない」
    「ならっ」
     目を輝かせるスーツの男に、鍋太郎は強く頷いてみせる
    「お主らの下についてやろう、人事部長! 喜べ、ワシは大手コンビニのカリスマ店長以上に役に立つ」
    「それは心強い!」
     二人はがっちりと握手を交わし、――数分後、公園にはもはや二人の姿はなかった。
     
     教室で。ヤマトは灼滅者たちに説明を開始する。
    「就活中の者が闇堕ちする事件が多発しているが、その事件で新しい動きがあった。
     人事部長と呼ばれる強力な六六六人衆が、各地の六六六人衆をヘッドハンティングして、配下に加えようとしている。
     彼らは、獄魔覇獄に関係しているらしい。放置すれば、強力なダークネス組織となってしまう。
     それを阻止するため、ヘッドハンティングされようとする六六六人衆を灼滅してくれ」
     ヤマトによれば、ここにいる皆が灼滅するべき六六六人衆は、撲殺爺という異名を持つ、三河・鍋太郎。序列は、四五二番目。
    「まずは、愛知県名古屋市のとある公園に昼の12時に行ってくれ」
     灼滅者が現場に着いた時には、鍋太郎は人事部長の勧誘を受け入れ、握手をしているところだと言う。
     戦闘になれば、人事部長は「我が社の社員として灼滅者を蹴散らしてください」と言って消える。
     戦うのは、鍋太郎のみだ。
     戦闘では鍋太郎は、クラッシャーの位置に立つ。
     マテリアルロッドと殺人鬼の能力を駆使してくる。
     全体的に能力が高いが神秘の能力が特に高く、フォースブレイクを好んで使う。
     フォースブレイクの威力は高く、甘く見ていると一気に戦闘不能に追いやられてしまうだろう。
    「鍋太郎は強い。しかし、今回は勝利するまで撤退はしないようだ。さらに灼滅者達が撤退した場合は追いかけてこないらしい」
     この点は、灼滅者側に有利な条件と言える。
     そして、ヤマトは付け加える。
    「三河・鍋太郎は学園とも因縁のある相手だ」
     かつて鍋太郎が大量殺人を行おうとし、それを学園の皆が阻止した、という事件があった。
    「今回は人事部長と戦うことはできない。だが、因縁のある相手と決着をつける機会だ。また、彼の手駒となるべき六六六人衆を倒す事で、敵の戦力を下げられるはず。
     お前達ならきっとできると信じている。どうか頼んだぞ!」


    参加者
    ミゼ・レーレ(メタノイア・d02314)
    森田・依子(深緋・d02777)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    桜井・かごめ(つめたいよる・d12900)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)
    日向・一夜(雪花月光・d23354)
    月見・霊奈(うどん・d31097)

    ■リプレイ


    「それは心強い!」
    「任せておけ! 都会にコンビニが乱立する以上の勢いで、屍の山を築いてみせよう!」
     公園のベンチで握手する老人とスーツの男。
     二人が顔の向きを変え、入口を見る。入口には立っているのは、灼滅者八人。
     日向・一夜(雪花月光・d23354)は殺気を放ちながら、歩み寄る。
    「やんちゃはダメだよ、おじいちゃん」
     老人――六六六人衆、三河・鍋太郎を見つめる一夜。
     森田・依子(深緋・d02777)も眼鏡越しに、スーツの、人事部長を見やる。
    「引き抜き、邪魔立てをしに来させていただきました」
     依子は、人事部長を観察する。仕立てのいいスーツをきた40代の男性。此方の言葉に眉を寄せているようだ。
     人事部長の隣で鍋太郎はベンチから立ち上がった。
    「ほう、お主らは……」
     ミゼ・レーレ(メタノイア・d02314)は依子の隣に立ち、一礼。
    「お久しぶりです。私のこの仮面、覚えておいででしょうか? 再開の歓喜を僅かでも感じ取って頂ければ、嬉しいのですが」
    「覚えておるし喜んでおるよ、かつて戦った戦士よ……他はその仲間達かの」
     目を細める鍋太郎。
     桜井・かごめ(つめたいよる・d12900)は呆れたように肩をすくめ、
    「僕達との再戦をコンビニの新商品より心待ちにしてる、って言ってたのに、得体の知れない会社の社員になっちゃうなんて……『撲殺爺』も落ちたもんだね」
     鍋太郎は己の額をぺしゃりと叩き、笑い声をあげる。
    「ははっ……じゃが殺しの腕は落ちておらぬ。試してみるかの?」
     かごめに応えつつ、鍋太郎はどこからか杖を取り出した。
     横にいた人事部長が鍋太郎に言う。
    「三河さん。早速、社員のお仕事です。お任せしますよ?」
    「無論。コンビニの握り飯を食うより早く――奴らを喰らい殺そう」
     人事部長は立ち上がって歩きだし――どこかに消えた。残ったのは、杖を構える鍋太郎。


     火土金水・明(総ての絵師様に感謝します・d16095)は鍋太郎を観察していた。
    「(分体ではなく、本物の六六人衆と対決………緊張します。でも――皆さんの為にもしっかりしないと……)」
     口の中で呟く明。明の黒の瞳の先、鍋太郎が動く。
     鍋太郎の足は速い。柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)との距離を一気に詰める。杖が唸る。高明の皮膚や防具に傷ができた。
     明は息を吸う。胸の前で両手を組み、声を響かせた。声が高明に活力を与える。
     高明は明に目礼する。
    「助かったぜ、明ちゃん。――さあ、ぶちかませ、ガゼル!」
     高明の声に応じ、ライドキャリバーのガゼルが疾走。鍋太郎に突撃。
     突撃は避けられるが――高明は隙をつき鍋太郎の懐に潜り込む。黒鋼の刃で黒死斬。鍋太郎の首の急所を狙い、傷つけた!
     攻め続ける灼滅者。が、鍋太郎はニィ、唇の端を釣り上げる。
     嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)は大げさに舌打ち。
    「……なんすか、その顔。年上の余裕? そーゆーの超腹たつんすけど」
     絹代は地を蹴る。相手の側面に回りしゃがむ。絹代は腕を振った。握った赤いスカーフを閃かせ、鍋太郎の足を裂き血を噴出させる。
     傷ついた脚で、しかし鍋太郎は跳ぶ。月見・霊奈(うどん・d31097)の後ろに着地。霊奈は足を杖で打たれ体勢を崩した。
     霊犬・狩が霊奈に駆け寄った。清らかな瞳で霊奈を見あげ回復させる。
     癒された霊奈は車輪状の満月刀を投擲する。大地に眠る力を宿す刃で、鍋太郎の肌を切り刻む! 霊奈は告げた。
    「強いけど! さつじんしょうばいしてるなら、ダークネス倒す商売のうちらとは、商売敵! まけないよ!」
    「商売敵か。なれば潰す!」
     覇気に満ちた言が返ってくる。
     僅かの時間が経過し、鍋太郎は杖を振りあげた。振り落とされるより早く、依子が足を前に踏み出す。なびく黒髪。依子は拳を老人の顔に叩きこむ!
     のけぞる鍋太郎の胸元に、かごめは槍の穂先を向けた。妖冷弾! かごめの氷が、鍋太郎を凍てつかせる。が、氷に覆われながら、鍋太郎は腕を強引に動かす。杖の先端がかごめへ――、
     ミゼがかごめを突き飛ばす。かごめへの一撃を体で受ける。
     轟音! その場に両膝を突くミゼ。
     鍋太郎は追い打ちをかけようとする。
     一夜は素早く意識を集中。ミゼの体の前に眩い光が現れた。
     それは一夜が作りだしたシールドリング。光がミゼを癒し、守る。
     ミゼは一夜の支援を受け、眼に光を戻す。両膝をついたまま、大鎌Initiumを横に振る。刃を敵の足に叩きつけ、傷を刻みこむ。

     鍋太郎の動きは機敏。その後の灼滅者の攻撃のいくつかは外れてしまう。
    「遅い! その動きではコンビニ店員はつとまらぬ。ましてワシの相手は――」
     そういって鍋太郎は杖を振る。フォースブレイク!
     仲間を狙った打撃を、高明が己の腹で止めた。
     高明は吹き飛ばされ、地面に落ちる。
     高明はCatch.44の力で気を集め、己を癒し立ち上がった。痛みは残っているがそれでも、皮肉げな口調で、
    「すごい力だ。だがよ、爺さんはもう十分生きたろ? 後は身を引くモンだぜ?」
     ガゼルもその通りと言わんばかりに、機銃を発射する音を響かせた。
     鍋太郎は挑発に乗ったか、一分後に、顎が外れそうなほど口を開いた。大量の黒い気を吐く! 気は前衛の灼滅者たちを包み込み、消耗させていく。
    「安心してください。ダメージは私が頑張って治しますから」
     明は右手を上に、巨大な断罪輪を掲げる。目を閉じ集中。法陣を展開し前衛を癒した。
     明が仲間を癒し、高明、霊奈、ミゼが庇い、戦線を維持し続ける。
     絹代は仲間に援護されつつ、攻めたてる。
    「柳瀬さんの言う通り、年寄りは道を譲るべきっす。若者が譲らされちゃたまんねぇ」
     絹代は異形の巨腕――の形した縛霊手で殴りかかる。同時に糸状の霊力を放射。鍋太郎を絡め取る。
     一夜は、とん、ととん♪ と足でステップを刻んだ。跳ぶ。空中で足を突き出した。スターゲイザー。絹代の糸にもがく鍋太郎、彼の顔を蹴りつける!
    「がははははっ、やりおるのう」
     鍋太郎は快哉を叫ぶ。灼滅者の攻撃を耐え、また仕掛けてきた。杖を見えぬほど早く振りまわす。ティアーズリッパー!
     斬撃を霊奈はバックステップでかわす。
     空ぶりした鍋太郎の腕へ――霊奈は糸を閃かせた。畏れをこめた鋼の糸は鍋太郎に血を流させる。
    「狩ちゃん、ミゼちゃん、依子ちゃん、ガンガンいって!」
     その言葉に一匹と二人が応じた。
     狩は咥えた刀を斜め下に。鍋太郎の足の甲を刺す。
     さらに、ミゼが鍋太郎の左に、依子が右に回り込む。
     音もなく動くミゼ。荒く地を蹴る依子。
     鍋太郎の両脇腹に、ミゼの鎌と依子のバベルブレイカーが襲いかかる。
     鎌の刃先が鍋太郎の衣に穴をあける。杭は死の中心点を正確についた。
    「ぐああああ?!」
     三人と一匹の連携に鍋太郎の口から今日初めての悲鳴。
     三人を払いのけ、距離を取ろうとする鍋太郎。
     かごめは彼を追う。
    「あなたの得意が殴るのなら、僕は刺すのが得意だよ。さぁ……味わって?」
     ぷす、小さな音。かごめが注射器の針を鍋太郎の首筋に刺したのだ。針から毒を流し込む! 額に脂汗を浮かべつつ、鍋太郎は哄笑。
    「カカカッ! 強い、実に強いぞ、お主ら!」


     鍋太郎は楽しげに、けれど苛烈に反撃してくる。灼滅者は消耗していった。特に消耗しているのは、ディフェンダーの高明と霊奈。が、二人は怯んだ様子を見せない。
     高明はガゼルに親指を立て合図。ガゼルはエンジン音を鳴らし、機銃で狙撃。
     鍋太郎の動きが止まった。高明は影を立体化させる。影が鍋太郎の下半身を呑み込んだ。
     そして――霊奈が満月刀を投げつける。刀は回転し、鍋太郎の肌を激しく、斬る!
     霊奈の一撃の威力に、鍋太郎は顔をしかめた。追い打ちをかけるべく、高明は構える――が瞬間、鍋太郎の腕が動いた。
     高明の胴に杖がめり込む。巨大な力が注ぎ込まれる。
     高明は踏みとどまろうとするが――出来ない。前のめりに倒れた。
    「くっ……ここまでか。皆、後は頼む。爺さんに引導を渡してやれ!」
     高明は意識を失う直前そう吠えた。
     灼滅者は戦意を奮い立たせ、今まで以上の猛攻を加える。
     二分後には、鍋太郎は傷まみれになっていた。
    「……がはははははははっ。やりおるやりおるっ!」
     喜びの声。鍋太郎は飛びかかる。標的は依子。――避けれそうにない。
     霊奈は依子の前に体を滑り込ませた。鍋太郎のフォースブレイクを己の顔面で受ける。
     霊奈は悲鳴を上げない。代わりに、
    「うちにかまわず、仕掛けて! ――狩ちゃんは皆の支援頼んだよ!」
     言葉を残し倒れた。狩は吠え、仲間を癒すべく、戦場を移動する。
     依子も霊奈の言葉を聞き、拳を握り直す。
    「……恐ろしい老人で。でも、高明さんの為にも霊奈ちゃんの為にも、竦んで引ける訳、ないもので――」
     鍋太郎の顎へ右拳を叩きつける。さらに左拳で顔面を打つ。連打! 一撃一撃が重い拳の雨。
    「この威力は……一体っ!?」
     鍋太郎の膝が、がくん、揺れた。
     一方、明は悲しげに眉を寄せていた。戦闘不能者を出したことへの後悔か。
     けれど――明は口元を引き締める。
    「……後、少し……皆さん、もう少し頑張ってください……私も、全力でサポートしますから」
     明が見守る中、戦闘は続き、ミゼが杖で斬られ姿勢を崩した。
     すかさず明は歌う。額に汗を浮かべながら。ミゼの傷を癒すべく、喉から声を絞り出す。
     明の支援を受けたミゼは鍋太郎へ向き直る。
    「今までの攻撃も先程の一撃も、よくもここまで練り上げたもの……老いて益々壮健とは、まさにこの事」
     ミゼは走る。相手の横を通り抜けざま、鎌を一閃。相手の足を刃で抉る。
    「ぐぅ……その練り上げた攻撃に耐え反撃する、お主らこそ、真に素晴らしい」
     傷つきつつ賞賛を返す鍋太郎。

     数分後、戦況は灼滅者有利に傾きつつあった。
     犠牲は確かにあった。しかしメディックとディフェンダーが戦線を維持し、他の者が鍋太郎を攻撃。その作戦が功を奏した。鍋太郎は今や大きく体勢を崩している。
     とはいえ鍋太郎はなお、強い。ガゼルも仲間を庇い倒れていた。
     絹代は今、後衛から前衛に移っている。守りを補うためだ。
     絹代はマッド・デイモンを高速回転させる。鍋太郎の手首を傷つけ流血させた。
     鍋太郎は、手首の傷からそして今まで灼滅者がつけた傷の多くから、血を垂らしつつ、黒の瞳をぎらぎらと光らせる。そして必殺の殴打! 標的は――一夜。
     が、絹代は突進する。仲間を狙う杖に肩をぶつけ、一夜を庇う。絹代は崩れ、うつ伏せになる。
    「……あと一撃か二撃……任せたっ……すっ!」
     檄を飛ばし目を閉じる絹代。
    「わかったよ、絹代。おじいちゃんはちゃんと灼滅するから。――じゃあ行こうか、かごめ」
     一夜は隣のかごめに視線を向けた。共に月色の瞳をした二人が視線を交わし合う。
     一夜は腕を異形化させる。その腕で鍋太郎の頭を掴んだ。そして持ち上げ、後頭部を地面に叩きつける。地面に仰向けになる鍋太郎。
     かごめは間髪いれず、注射針を振り落とす! その動きは早く、狙いは極めて正確。
     一夜の腕とかごめの針は、鍋太郎に致命傷を与えた。もはや鍋太郎は起き上がらない。
     倒れたまま鍋太郎は拍手。ぱち、ぱち……弱々しい音。
    「ワシの生きてきた中……二番目に楽しいのはコンビニ。……一番は……お主らとの、殺し合いじゃ」
     そして消えた。


     戦闘は終わった。
     戦闘不能になった者たちは重傷を受けてはいるが、しかし、命に別条はない。
     一夜とミゼは怪我をした仲間の具合を見ていたが、ふと鍋太郎の消えた場所を見た。
    「……おじいちゃん、楽しいっていってたけど、その言葉が本当だったら……いいな」
     遠くを見る目をする一夜。
    「冬の時節、共におでんの鍋でもつつけたら良かったのでしょうね。しかし、そうならなかった……残念です」
     息を吐き、首を振るミゼ。
     かごめと依子も言葉を交わし合う。
    「それにしても、あの人事部長のことは何もわからなかったね……」
    「そうですね。事前情報以外の何かがわかればよかったのですが……」
     かごめは息を吐き、依子は軽く眉を寄せた。
     明は二人の言葉を聞き、呟くように言う。
    「……色々と気になることはありますが……あの老人を倒せたことを、今は……喜びましょう……流石、六六六人衆です。強かった……」
     明に、仲間達は頷く。
     今回の強敵を倒せたことは、大きな成果に違いない、と語りながら、灼滅者は傷ついた仲間を連れ、学園への帰り道を歩いていく。

    作者:雪神あゆた 重傷:柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232) 嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475) 月見・霊奈(うどん・d31097) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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