とばないペンギン

    作者:森下映

    「おっ、きたね! 今日の修行相手は君かあ!」
    「噂はきいてるぜ、『ペンギン』ちゃん」
     『ペンギン』と呼ばれたアンブレイカブルの少女は、ペンギンの顔と羽根を模した、耳あてつきの帽子をかぶっている。
    「へーどんな噂? まーいいや、どっからでもかかってきなよ!」
    「ペンギンちゃんはとべないって噂さ」
    「あは! それ間違ってる! あとそっちからこないならこっちからいくよ!」
    「え?」
    「とべないんじゃないよ! ……とばないんだよーーーーっ!」
    「!!!!!!!」
     ――数分後、自分よりはるかに体格のいいアンブレイカブルを気絶させた少女は、
    「明日はもっと手応えのあるヤツだといいなー……よっしハンバーガー食べにいこ♪」
     と言って、高架下を後にした。

    「獄魔大将シン・ライリーによって集められたアンブレイカブル達が集まっている町が発見されたことは聞いている?」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が言った。
    「その『武人の町』に潜入した灼滅者たちが、ケツァールマスクと接触して、自由に稽古に参加していいっていうお墨付きをもらったんだ」
     稽古は模擬戦の形になり、殺したり灼滅したりすることは不可となるが、戦闘自体は普通に行える。また稽古に来たことを伝えて模擬戦を行った後ならば、アンブレイカブルと交流する、町中で情報を集める、といったことができるだろう。
    「獄魔覇獄の戦いがどういう戦いになるかは不明だが、対戦相手の情報があれば、きっと有利になるよね」
     ただしシン・ライリーは町にいないようなので、接触することはできない。
    「アンブレイカブル達は悪人というわけではないようだけど、ダークネスであることには違いないから、些細なことで殺傷沙汰にならないとも限らない。行動は慎重にね。それから情報収集は町に入ってから24時間以内をめどに、それまでに得られた情報をもって戻ってくるようにしてね。情報を得ることも需要だけど、アンブレイカブル側にどんな印象を与えるかも重要だよ。友好的な関係を築ければ、獄魔覇獄である程度の共闘も可能になるかもしれないし」
     ちょっと変わった依頼だけど、成果を期待してるよ! とまりんは灼滅者たちを激励して送りだした。


    参加者
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    ユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)
    詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)
    四天王寺・大和(聖霊至帝サーカイザー・d03600)
    香坂・天音(遍く墓碑に・d07831)
    陽横・雛美(すごくおいしい・d26499)
    ベルベット・キス(見習い竜騎士・d30210)

    ■リプレイ


    「おっ、きたね! 今日の修行相手は君たちかあ!」
     まりんの情報通り、武人の町の高架下にペンギンの帽子をかぶった少女はいた。
    「ま、気軽に全力でやろうや」
     四天王寺・大和(聖霊至帝サーカイザー・d03600)が言い、みなそれぞれに軽い挨拶を交わす。
    「うん、どっからでもかかってきなよ!」
    「あ、その前に1ついいですか?」
     と言って、詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)が模擬戦に自分たちが勝ったら彼女に食事をおごり、私たちが勝ったら食事につき合ってもらう、という賭けを持ちかけた。さらに香坂・天音(遍く墓碑に・d07831)が、自分たちが勝ったらという条件で質問に答えてほしいと提案したが、
    「うん、ごはんはのるよ! 負けたらつきあうだけなんだよね? 確かに8人分はあたしおごれないしね! でも質問ってなんだかよくわかんないし無理やりしゃべらなきゃいけないのはイヤかな! そっちはパス! いい?」
     ここは了承せざるをえない。
    「じゃ、始めよ?」
    「そんじゃ、『正装』に着替えんとな……灼装!」
     大和がスレイヤーカードを解放、
    「聖霊、至帝! サー、カイザー!! ……容赦はせんで」
     カードをベルトに挿し込み、変身する大和の身体を青い炎が包む。
    (「普段は灼滅するために容赦なく戦うけれど、今回は話が別。スポーツ的な感覚で暴れられるのは久しぶりよ」)
     生き生きとエアシューズの踵を鳴らし、真っ先に天音が駆け出た。
    (「たまには暴れたくなるときもあるわよね。模擬戦って事なら、死なない程度に遠慮なくやれるでしょうし、いい機会だわ」)
     エアシューズを走らせる天音の背中に炎の翼が顕現し、前衛へ不死鳥の加護が撒かれる。
     ゆらりとペンギンが右手を構えた。それを見てユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)が、愛用の龍砕斧『銀雷』を下げ気味にかまえて防御の体勢を取る。アンブレイカブルは倒すべきもの、と思っているユエファは少し複雑な気分でこの場に立っていた。しかし一方で、暴れて被害を出している訳ではないことから、無用の闘争がないよう努めるつもりでもある。
    (「それに……強い方との手合わせは、何よりもよい経験なるゆえ……この機会……私も、利用させてもらうする……よ」)
     ペンギンの手刀からの一閃は後衛を狙い、ユエファ、天音、ライドキャリバーのハンマークラヴィアが飛び込んだ。
     攻撃を炎を纏った両腕で受け流した天音は、その向こう、足裏で滑り抜けるペンギンを見極め、接近を狙う。
    (「女のコを殴りたいわけじゃないけど――ペンギンちゃんはアンブレイカブルだもん。仲良くなるにも、いートコ見せないとね!」)
     小柄な体格に似合わず長大な偃月刀様の槍を構え、いち早くペンギン飛びかかったのはベルベット・キス(見習い竜騎士・d30210)。
    「勝てなくてもいいケド、一度くらいはビックリさせてみせる!」
     滞空中に手元の槍へ、強烈な螺旋の捻りをかける。そしてペンギンの間合いには、
    (「ガイアチャージが先にできなかったのは残念だけど」)
    「ひよこ?!」
     とペンギンも言わずにはいられないピンクの2頭身。
    「アタシもペンギンと一緒で飛ばないけど、跳ねはするわよ」
     陽横・雛美(すごくおいしい・d26499)がペンギンの急所を斬りさき、すぐに跳ね退いた。
    「っ、」
     ペンギンが体側で滑り距離をとろうとする。その立ち上がりをベルベットの槍が貫き、さらにユエファが指輪から放った魔法弾がペンギンの動きを阻んだところを、沙月が生み出した風の刃が襲う。
    「滑ってくる姿は見た目可愛いけど、威力はハンパないわねぇ。まるでミサイルだわ」
     『M37フェザーライト・カスタム』を携えた明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)は、傷の残る前衛へ清めの風をふかせた。アスティミロディア・メリオネリアニムス(たべられません・d19928)の霊犬アヴィルネティオも回復を補助。沙月の風刃に切り裂かれながらも、ペンギンはアスティミロディアが振りかぶった縛霊手から逃れるために逆側の体側を高速で滑らせる。が、
    「たまには飛ぶのも悪ないで? 俺が飛ばせたるわ……!」
     前方から回り込んだ大和が拳をいれこんでのアッパーから、
    「オーシャン・ダイナミック!」
     そのままペンギンを殴り落とした。タフなことに、ペンギンは落下から両足を蹴りこみ、カイザーサイクルの攻撃を滑り抜けてかわす。しかしここでアスティミロディアの縛霊手が振り下ろされた。さらに霊力の網が放射され、動きの鈍ったペンギンの起き上がりを狙い、
    「痛くするわよ」
     走りこんでいた天音が、右のローからショートジャンプ、左のハイと、変則連環腿を叩き込む。
    「……うん、やっぱこれだけ人数揃うとすごいね!」
     ペンギンが、天音の蹴りでできた傷をぬぐいながら立ち上がった。そして、ぎゅんっ、と突っ張った両手をそれぞれ円を描くように1回転させると、傷が徐々に癒えていく。
    「でもめっちゃ楽しいよ! まだまだ行くよ!」


    (「やっぱり攻撃するほどの余裕はないわねぇ」)
     瑞穂が回復のための暖かな光を灯す。余裕があれば『M37フェザーライト・カスタム』での援護攻撃も考えていた瑞穂だが、後衛を狙ってくる列攻撃と、威力の高い単攻撃に、ここまで回復役としての役割に徹していた。
    「ホイール・ビーム!」
    「よっ!」
     大和が両肩の車輪から発射したリング状の光線を、ペンギンは腹で滑って回避。さらに雛美が仕掛けようとしたダイナミックもかわすと、そのまま手刀を振り上げ、白光の斬撃を放つ。
    (「よし!」)
     体格を生かした低い重心で槍を構え、ベルベットが斬撃を相殺した。が早いか、外周へエアシューズで駆け出る。同時、藍色の『凍花』の裾をさばいて飛び込んだ沙月が、ペンギンの目前、冷たく光る『雪夜』を抜いた。
    「あっ!」
     重い斬撃がペンギンの武器である手を傷つける。が、ペンギンには回復に手数をとられる余裕がない。命中率の低い攻撃は確実にかわしてくるペンギンだったが、攻撃数と連携に押されつつあった。
     それでも備わった敏捷性は見事なもの。ペンギンは外周へ片脚を開脚して滑り出る。しかしユエファの出現させた赤く滲む逆十字に斬り割かれ、スピードが緩んだ。そこへ駆けこんだベルベットの炎を纏ったエアシューズがペンギンを蹴りあげ、身体から噴出させた炎を足元に宿した天音も大きく片脚を振りかぶる。叩きつけられ、燃え上がった炎の上には、
    「あれ、君もペンギン? ……とんでるけど」
     手刀のガードの隙間からペンギンが言った。
    「跳躍式ペンギンコンバットってヤツだよ。南極では常識」
     アスティミロディアのエアシューズに載った流星の重力と煌きが、ペンギンを防御ごと蹴り潰す。帽子の耳がぽん、と1度はねあがり、ペンギンはその場に崩れ落ちた。
    「大丈夫?」
     瑞穂が駆け寄り、ペンギンの傷を回復する。
    「う……ありがと。あたしの負けだね……修行が足りないや」
     帽子をおさえ、ペンギンがため息をついた。
    「いや、俺らも危なかったで?」
     大和がペンギンの健闘を称える。
    「おもいっきりできて楽しかったよ!」
     ベルベットも笑顔で言った。
    「そっか……うん、あたしも楽しかった! えっと……ごはん、つきあえばいいんだっけ?」
    「おー、俺らこの町の事あんまり知らんから、美味い飯の店教えてや」
     大和が言う。
    「あたし修行の後はいっつもハンバーガー食べに行くんだけど、いいかな?」
    「もちろんです」
     沙月が言った。
    「……私は……町全体をお散歩してみる…よ」
     と、ユエファ。ここでユエファ、瑞穂、天音は先に町中の調査へ向かうことに。
    「あ、ペンギン……さん」
     歩き出そうとしたユエファが、ペンギンのほうを振り返る。
    「もしも……私が闇堕ちしたりしたら……」
    「え?」
    「あ……私でも、ここに住めたりするのだろ……か?」
    「君が? あたしにきかれてもこまるけど、」
     ペンギンは立ち上がると服のほこりをはたき、言った。
    「強くなりたいなら住めるんじゃないかな?」


     食事組は、ペンギンに連れられてハンバーガー店へ。食欲旺盛なアンブレイカブルたちで店内は賑わっている模様。
    (「難しいことにはあんまりキョーミないんだよね。ボク的にはペンギンちゃんと仲良くなれたらおっけ!」)
    「ペンギンちゃん、オススメのハンバーガー、なぁに?」
     ベルベットがたずねた。
    「『ハングリーファイヤースペシャル』かな! パティがトリプルで、あと目玉焼きが、」
    「目玉焼き……?」
     雛美の顔色が変わる。
    「セットにするとチキンナゲットもついて、」
    「チキン……?」
    「雛美おねーさん、とりじゃないのもいっぱいあるよ。ほら、コーンサラダとか好きなんじゃない?」
     多感なお年ごろの雛美を、フェミニストっぷりを発揮してベルベットがフォロー。
    (「武人の町のハンバーガー屋さんってアンブレイカブルのハンバーガー屋さんかアンブレイカブルを満足させるハンバーガー屋さんだよねって気になってたけど、」)
    「すごいボリューム」
     目の前のハンバーガーを見て、後者だなと納得するアスティミロディア。
    「帽子、とっても可愛いですね」
    「あは! ありがと!」
     沙月にほめられ、ペンギンが笑顔を見せた。
    「私もペンギン大好きなんです。他にもペンギンのアクセサリーやグッズ、お持ちなんですか?」
    「あるよ! えっとね……」
     模擬戦で負けたこともあり、対戦直後は若干落ち込み気味にも見えたペンギンだが、だいぶ気持ちは和らいでいる様子。
    (「ペンギンかー、南極に居た頃にはよく遊んだ気がする」)
     ペンギンが皆にみせているグッズや画像をみながら、アスティミロディアは懐かしく思い出す。彼女としては露骨に調査に見えることはしないほうがいいかなと考えているので、ペンギンが楽しそうなのはいいことだと思っている。
    「もしかして、これは手作り?」
     布製のキーホルダーをアスティミロディアが指差した。
    「うん! あんまりこういうの得意じゃないんだけど、」
    「上手にできてる。し、可愛い」
    「そうかな!」
     照れくさそうなペンギン。
    「そろそろ俺も行こ思うんやけど、」
     大和が言い、ペンギンに何か町の名所や名物、歴史資料が見られる場所を知らないかとたずねると、
    「名所とか名物ってしらないけど、たまにいくジューススタンドでスタミナ60ってやつが最近すっごい人気かな? 1杯に60個ニンニクが入ってるみたい」
    「うわ強烈う」
     ベルベットが目を丸くする。
    「まさかアレも入ってるんじゃ……」
     スタミナといえば連想される、『た』のつくもののことを気にする雛美。
     とりあえず待ち合わせ時間まで散策してみる、と大和が店を出た。
     いろいろと話がそれつつも、今度一緒に水族館に、なんて沙月の誘いにもうなずいてくれたりと、場の雰囲気は上々。なところで、沙月が質問にトライする。
    「今回は私たちが相手でしたけど、仲が良かったり、よく模擬戦をする仲間っているんですか?」
    「んー、いろいろ」
    「では……誰か戦ってみたいって思ってる方とかは」
    「そうだなあ……プロレスの団体とかに強いヤツらいるみたいだから戦ってみたいな!」
     レスラーたちも日々修行に励んでいるようだ。


    「ものすごく道場が多いわね……」
     町中を歩いて見て回っていた瑞穂が言った。
     あちらこちらで治療が必要な状況に出くわすような無秩序ではないものの、普通の町とは明らかに様子は違う。ユエファも大きな道場を中心に、あからさまに怪しくならないよう気をつけながらマッピングをしていく。
    「さすが仕入れ量も半端ないみたい」
     食材を運んでいるトラックの運転手に、話をきいていた天音が戻ってきた。
    「もともと普通の町だったわけだし、特別な場所から仕入れてるってことではなさそうだけど、飲食店はアンブレイカブルたちのおかげで景気いいようよ」
    「住民とアンブレイカブルはうまくやってる、って感じかしらね。ずいぶん賑やかそうではあるし、もちろんバベルの鎖の影響もあるのでしょうけど」
     瑞穂が言う。
     しばらくして大和が合流。手にしたドリンクからは何やらニンニクの臭いが漂っている。大和は町の歴史を調査していたが、天音が言ったように、もともと一般の人たちが暮らしていたところにアンブレイカブルが集まってきて暮らしているのがこの町。そのため歴史といっても、いつのまにか道場が増えていたという程度だったが、何にせよこれだけたくさんのアンブレイカブルたちがやってきて住んでいる以上、以前と変わったことはたくさんあるようだ。
    「あら、あれペンギンちゃんじゃない?」
    「みんないるわね」
     瑞穂と天音が手を振る。ペンギンは見送りについてきていた。
    「じゃあ、これ」
     沙月が連絡先を書いたメモをペンギンに渡す。
    「かわいい! ほんとにペンギン好きなんだね!」
     ペンギン柄のメモを見て、ペンギンがにっこり笑った。
    「また戦いたいと思ったり、何かあればいつでも連絡してください」
    「ボクも、ペンギンちゃんとまた戦ったり遊んだりしたいなっ!」
     沙月とベルベットが言う。
    「それじゃ……あたしももっとがんばって強くならなきゃね」
     ペンギンが答えた。
    「またね」
     アスティミロディアが片手を上げると、ペンギンも片手を上げる。同じ方向に少し身体を傾けた2人は、2匹のペンギンが挨拶しあっているようだった。
     ペンギンに見送られ、灼滅者たちは武人の町を後にする。
    「ガイアチャージ戦闘に使えへんかったの、心残りやな」
    「そうね。次来る時は試したいわ」
     大和と雛美が言う。
     ともあれ今回は、模擬戦相手のペンギンと良好な関係を築いた上で、何事もなく武人の町での滞在を終えることができた一行だった。

    作者:森下映 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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