サマーソルト!

     ここは通称『武人の町』……。獄魔覇獄に備え、日々アンブレイカブル達は修行に励む。
    「どうしたんだい? 早く来なよ」
     練習試合の最中だろうか、身を屈める若い女と屈強な男がリングの上で向き合っている。しかし、挑発の言葉を発したのは女の方。どうも膝を屈していたのではないようだ。
    「ったく、また『夏瑠待ち』かよ!」
    「分かってんなら間合い開けりゃいいだろうが」
    「したらサマーソニックなんだろ? なら、こっちも大技で行かせてもらうぜ!」
     男が拳にエナジーを溜め飛び出すが、女はその場を動かない。そして、男が間合い入ったその時、女が跳ね上がった。
     
    「そんなんじゃまだまだ。アタシの蹴りは特別なんだ。ちょっとやそっとじゃ破れないよ」
    「くそ~っ、また負けた! いつか破ってやるからな!」
     蹴りの一撃で倒された男が、悔しそうに帰っていく。
    「朝の鍛錬終了! またオバチャンの店でおにぎりでも買って帰るかな」
     そして、勝利した女は機嫌よく家路へと着いたのであった。
     
     
     シン・ライリーにより集められたアンブレイカブル達が集う町。そこでの稽古へ参加許可を学園が得たという話は、情報収集の好機として話題が高く知る者も多いだろう。
    「そして、お前達が情報収集の実行部隊というわけだ」
     ジャージ姿に『鬼軍曹』と書かれた腕章を付けた野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)が、手にした竹刀を灼滅者達に向ける。
    「だが、稽古と称し潜入する以上、模擬戦を行う必要がある」
     模擬戦のため殺されることは無いが、逆に相手を灼滅することもできない。そんなことをすれば自分達はおろか、同様に潜入する他の学園生達も危険だ。
    「その後は、一戦交えた相手と交流するも、民間人へ聞き込みをするもよしだ。この辺りはお前達の裁量に任されている」
     とはいえ相手はダークネス。何かの拍子で殺し合いに発展しかねないため、慎重な行動を取るべきだろう。
    「作戦時間は最大で24時間だ。それまでに集めた情報を持って帰還せよ」
     また、多勢力が同時に覇を競う場において、友好的な関係なら共闘の可能性も出てくる。行動の選択肢は広いが1人では限界がある。自分の担当は絞っておく方がいいだろう。
    「お前達ならミッションを成功させられるはずだ。ヒヨっ子でないことを証明してこい!」
     迷宵軍曹の激励を受け、灼滅者達は作戦へと赴く。


    参加者
    御幸・大輔(雷狼蒼華・d01452)
    普・通(正義を探求する凡人・d02987)
    姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)
    フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)
    ラックス・ノウン(どうみてもスレイヤー・d11624)
    栗元・良顕(拓く・d21094)
    未崎・巧(中学生人狼・d29742)

    ■リプレイ

    ●夏瑠との出会い
     武人の町で模擬戦相手を探す灼滅者達が辿り着いたのは、いくつかのリングが設置された大型施設。自由に稽古してくださいということなのか、何人かのアンブレイカブルが試合を行っているのが見える。
     試合の様子を眺めながら誰か来ないか待っていると、そこに現れたのが夏瑠だ。模擬戦を申し込むと快く引き受けてくれた。
    「祓魔の騎士、ハルベルトの名に於いてお相手する。勝負!」
    「オレは未崎・巧! いざ尋常に勝負だぜ!」
    「名乗り上げとは雰囲気出してくれるね……。アタシは潮・夏瑠だ! さあ、どこからでもかかってきな!」
     名乗りを上げてフランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)が大上段から斬りかかり、未崎・巧(中学生人狼・d29742)は掬い上げるようにナイフで斬り付けると、夏瑠は斬られながらも蹴りを繰り出す。
    「その攻撃、私が受けて立ちます!」
     盾を構え突撃する普・通(正義を探求する凡人・d02987)が割り込むと、空中に弾き飛ばされリングへと叩き付けられる。受け身は取れたが中々のダメージだ。
    「さすがケツァールマスクさんが認めたヤツらだ。アタシの蹴りを受けても立ち上がるか」
    「蹴りが得意らしいね。奇遇だ。俺も蹴りの方が得意なんだ!」
     対抗して回し蹴りを繰り出すと、御幸・大輔(雷狼蒼華・d01452)はその勢いのままもう1回転し、バベルブレイカーを突き入れる。
    「面白いモン持ってるじゃないか。折角の稽古だ……。武蔵坂学園の戦い方とやら、見極めさせてもらうよ!」
    「ヘイヘイヘイ、ゴング鳴った後に余所見は危ないで」
     素早く回り込みラックス・ノウン(どうみてもスレイヤー・d11624)が斧をぶん回すと、受けを取ろうと構える夏瑠の懐へセトラスフィーノ・イアハート(夢想抄・d23371)が飛び込み正拳突きをぶちかます。
    「色々見極めちゃうのはわたし達も同じ! さあ、拳で語り合おう!」
    「時に言葉よりも、交わす拳が絆を育むこともある……。わたくし達の想い、届かせてみせましょうっ!」
     激励の声と共に、姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)が癒しの歌声を響かせる。
    「どうしたメガネボーイ? 眺めてるだけじゃ稽古にならないよ!」
    「えっと……栗元です。じゃあ、よろしくお願いします」
     相手の隙をうかがっていた栗元・良顕(拓く・d21094)だが、夏瑠はちゃんと全体を見て動いているらしい。メガネボーイと呼ばれ続けるのを防ぐため、名前を告げてから鋼の糸を振るう。
    「8対1じゃいつも通りとはいかないか……。でも、纏めて攻撃すれば問題ないね!」
     夏瑠が気合を込めて腕を交差するように振ると、サイキックエナジーが十数個の衝撃波となって襲い掛かり、前衛の灼滅者達を押し戻す。
     トドメは無いと分かっているが、真剣勝負と言って差し支え無い戦いが繰り広げられる。

    ●本日の稽古、終了!
     一進一退の攻防を続ける両者だったが、1人辺りの地力の差は如何ともしがたい。回避が絶望的で耐えるしかないため、ディフェンダーの消耗は特に激しいものとなっていた。
    「さぁて、そろそろ頭数を減らしていこうか!」
     夏瑠はおもむろに通の襟首を掴むとコーナーポストへ投げ飛ばす。後頭部からぶつかり、ずるりとリングに崩れ落ちる通。
    「……やっぱり、お強いですね」
    「当然さ。ま、しばらくそのまま休んでな」
     戦闘不能者へ言葉を向けるも、夏瑠が警戒を緩める様子は無い。
    「回復も追いつかなくなってきましたね……」
    「なんの! 押し切られる前に、こちらが押し切ればよいだけだ!」
     戦況を分析するセカイに対し、フランキスカは声を張り上げ夏瑠へと影を伸ばす。そして数回の攻防が過ぎた後、夏瑠が身を屈めると気を溜め始めた。
    「さて、アタシもそろそろ厳しいけど、もう1人くらいはKOさせてもらうよ」
    「ならば、蹴りには蹴りで対抗です!」
     ディフェンダーの自分なら攻撃を受けてもと跳び蹴りを繰り出すセトラスフィーノ。脚が交差した後、夏瑠はくるりと着地し、セトラスフィーノは背中からリングに沈み気絶する。
    「でも、これで次の攻撃まで時間が稼げたぜっ!」
    「見せるばっかじゃなくて、オレの蹴り技も見てーな」
     巧の銀爪とラックスの蹴りが突き刺さると、夏瑠の体が初めてぐらつく。
    「好機だな……。全力で行くぞ!」
     武器に魔力を漲らせ、大輔はパーティー最高火力の一撃を夏瑠の肩口へ叩き込む。続けて注射器を構えた良顕が駆け寄り最後の一撃を……寸止めする。
    「灼滅……しちゃ駄目だからね……」
    「ああ、ここでギブアップさせてもらうよ。灼滅者ってのも侮れないもんだ。もっと修行が必要だな!」
     模擬後の休憩を終え気絶していた灼滅者が復活すると、軽く挨拶を済ませて帰ろうとする夏瑠を、セカイとセトラスフィーノが引き留める。
    「良い戦いでした。よろしければなのですが、潮さんの強さに触れるため、今日一日御一緒させていただけないでしょうか?」
    「お弁当作って来たし一緒に食べません? 女子会ってことで一緒にお風呂もどうです?」
    「メシと風呂か……。いい、いいねぇ……」
     同性からの視線のはずだが、セカイは何故か別の方向で身の危険を感じる。しかし、もう引き返すことはできない。
    「でも運動後だし弁当だけじゃ足りねぇよ……。夏瑠姉ちゃんオススメの食い物とか教えてくんない?」
    「だったらいい店があるから紹介するよ。着いてきな」
     巧の希望でまずは食料調達と相成った一行は、訓練施設を後にする。

    ●ご飯とお風呂とそれからわたくし?
     夏瑠に連れてこられたのは一軒のおにぎり屋。店先では人の良さそうな小母さんが笑顔で出迎えてくれる。
    「あら夏瑠ちゃん、今日はお客さんが一杯ね」
    「まあね。東京から稽古しに来たってヤツらなんだ。あ、全種3個ずつと、から揚げはいまあるだけ全部ね」
     パッと見でおにぎりは10種類以上ある。何だか凄い量の注文な気がするが、小母さんは普通に対応を続けている。会計は夏瑠が自然と奢ってくれた。
    「あの、奢ってもらって何ですけど……。お金ってどうしてるんですか?」
    「金かい? ケツァールマスクさんから貰ってるけど?」
     通の質問に『それが何か?』という表情で答える夏瑠。経緯不明だがケツァールマスクはかなりの金持ちなようだ。
    (「とりあえず金銭面でのトラブルは無さそうだな」)
     僅かな接触からもフランキスカは考察を深める。金に困っていないなら、拳を向けるより金を払う方が効率的だろう。
     適当な宿をとって夏瑠を招いた灼滅者達は、おにぎりと弁当を広げランチタイムに入る。おにぎりは勧められただけあってそこらのコンビニや弁当屋より美味しく、弁当のおかずは和食中心で相性抜群。自然と雑談にも花が咲く。
    「1対8でギリとか夏瑠姉ちゃんってメチャクチャ強いけど、どうやって鍛えてんの?」
    「とにかく鍛錬だな。自分に不足ありと思う限り鍛え続ける。これだけさ」
     具体的な手法が聞けないかという巧の質問だったが、帰ってきたのはド根性論だった。
     食事も終わり次は風呂となったのだが、女湯ではとても楽しそうな会話が……。
    「ううむ……。でかい、でかすぎる!」
    「こりゃあ大層なモノ隠してるじゃないか。それに若い娘はハリツヤが違うねぇ……」
    「あの……あまり見つめられると……。って、手をワキワキさせないでください……っ!」
     訂正。聞こえてくるのはただのセクハラ発言だ。方や、女湯がそんな状態とは露も知らぬ男湯では、
    「ひとっ風呂浴びた後やけど、どないする?」
    「町を色々と見てみたいし、観光……かな? あ……、このシャンプー切れてる……」
    「ほら、こっち使いな。俺は飯屋辺りで聞き込みをしようかと思ってるぜ」
     良顕や大輔の答えに、同じく町を回る予定のラックスは、調査場所が被らないように回る場所の相談を始める。
     入浴後、フランキスカから残りの3人は長くかかりそうだと聞いた男性陣は、宿を後にし町へ情報収集に出かけた。

    ●町は今日も平和です
     町の路地裏を、やたら辺りをきょろきょろと見回す猫が歩いている。猫変身で不審人物を探す通だが、見かけるのは店舗関係者や本物の野良猫程度で、偵察する他勢力の姿は無い。
     いたとしてもそう簡単に見つかる相手ではないのか、あるいは本当にいないのか……。

     他の面々は人が集まる店などで住民に話を聞くのが主な調査方法で、ラックスは散髪屋に訪れていた。
    「なぁなぁ、最近ぎょーさん人集まってるけど、コイツは他と違う! ってのおらへん?」
    「最近移ってきた人達のことかい? 違うと言えば緑マスクの人だね。何でも、素顔を見た人は誰もいないって話じゃないか」
     恐らくケツァールマスクのことだろうが、髪を切る時は覆面を外すだろうと店主が来店を期待していた程度だった。

    「すまないが、少し時間をいただけるか?」
     商店街へ訪れたフランキスカはラブフェロモンまで使って聞き込むも、地元住民との間に目立ったトラブルは無く、どこまで譲れるかなどの話については、好意的な関係の住民側にその発想自体が無い様子だ。

     もう少し夏瑠と話したいと先に宿へ戻った巧だが、部屋の襖に手を掛けた時、中から声が聞こえてきた。
    「クックック……。1回やってみたかったんだよね……」
    「良いではないか、良いではないか~」
    「あ……、あ~れ~っ」
    (「うん。今は入っちゃダメなパターンだな」)
     中に入れば大変なことになると察した巧は、宿の人にでも話を聞こうと襖を離れる。

     時は過ぎ夕方。混み合う前にと開店直後の飲食店へ入った大輔は、獄魔覇獄の情報が得られないかと話を切り出した。
    「最近稽古に熱が入ってる人が多いみたいですけど、何か大会でもあるんですかね?」
    「あー、『どんな相手と戦えるか楽しみだ』みたいな話をしてるお客さんはよくいるねー。せっかくこの町に来てくれたんだ。本当に大会とかなら応援してやらないとな」
     アンブレイカブル達がベラベラと獄魔覇獄の話をしているにも関わらず、肝心のところを聞いたという住民は見当たらない。全てを知るのはシン・ライリーただ1人なのだろうか? それとも彼ですら知らない事柄があるのだろうか? 獄魔覇獄の謎は深まるばかりだ。

     同じ頃、町を歩きながら寒さに鼻をすする良顕の前に、一件のラーメン屋が現れた。体を温めようと店に入ると威勢のいい声が響く。
    「らっしゃい! 1名様カウンターへどうぞー!」
     メニューを眺めていると、新登場と銘打たれた品が1つ。
    「あの……。この『HDクラッシャー盛り』って何で……」
    「クラッシャー1丁いただきましたーっ!」
     内容を聞くだけが注文と勘違いされたらしい。忙しそうな厨房に訂正の機を逸し、諦めて本を読みつつ完成を待っていると、やがて天を突くほど具材が盛られた巨大ボウルが登場。学園でクラッシャーといえば攻撃力2倍だが、これは2倍どころではない。
     食べてみると美味しいのだがとても食べ切れず、通りすがりのアンブレイカブルに譲るともう宿に戻ろうと店を出る。

     宿へ戻った仲間達を居残り組が出迎える。夏瑠は下着姿で爆睡中だ。
    「おかえり~。こっちは微妙だったけど、町にはいい情報あった?」
     情報収集の成果を出し合う灼滅者達。セトラスフィーノは獄魔覇獄の勝利で得られる物やシン・ライリーの人柄などを聞くも、夏瑠の答えは『強いヤツらとたくさん戦えること』や『会ったこと無いけど大将だから強いんだろ? 早く見てみたいよ』などの、あまりこれといったものを感じられない内容だったという。
     情報交換を終えた灼滅者達は、時間が遅いこともあり疲れを癒すため眠りについた。

     翌朝、帰る前に挨拶をと夏瑠へ話す灼滅者達だが、そこでセカイが鉢巻を手渡す。
    「あの……。昨日は色々とありましたが、良い時を過ごすことが出来ました。わたくし達が出会えた縁にと、宜しければこれを……」
    「お、ありがとね。いつも付けてるアイツに自慢してやるかな。女から貰ったーって」
    「気に入っていただけましたら何よりです。では、貴女にご武運を……」
     こうして武人の町を後にした灼滅者達。得られた情報は多くなかったが、模擬戦と交流は非常に貴重な経験だと言えるだろう。
     願わくば、この町がこのまま平和であらんことを……。

    作者:チョコミント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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