きぐるみこわい

    作者:夏雨

     遊園地でカラフルな風船を配るファンシーな見た目の着ぐるみたち。
     ファンシーさを演出するための甲高い声色で、クマの着ぐるみを着たスタッフはピンク色の風船を女の子に手渡す。
    「はい、かわいい君にプレゼントだよ~」
    「わーい、ありがとうくまさん♪」
     他にも遊園地の各所で、ネコやリスなどの愛らしい着ぐるみが風船を配っている。偶然遊園地内のショップのそばにいたクマの着ぐるみスタッフは、悪ガキ3人組の標的にされてしまう。親は店内で土産物のお菓子を選ぶことに夢中になっている。
    「今だ! 背中のチャック開けてやれ!」
    「あれ? チャックないよ?」
    「じゃあ頭だ! 頭脱がそうぜ!」
     群がる悪ガキたちを制止しようと、クマは必死になる。
    「ちょ、やめて! 中の人なんていないよ! 頭叩かないで! あ、もげるもげる! 頭もげるぅ!」
     笑いながらクマの頭を奪った悪ガキたちは、一瞬で青ざめた。当然動く着ぐるみには中身、中の人が存在する。しかし、クマの中には誰もいない、空洞が広がっているだけであった。
     口を開けたまま呆然とする悪ガキたちの手から、クマはすんなり頭を取り返す。クマは何事もなかったかのように頭をはめ直すと、
    「見~~~~~~た~~~~~な~~~~~……」
     今までのクマの声とは違う、低く凄みの利いた声が響く。
     クマは悪ガキたちを見下ろすと、再び甲高い声で、
    「秘密を知られたからには、ここから生きて帰さないよっ」
     そのつぶらな瞳からクマが本気で言っているのかどうかは読み取れないが、クマはじりじりと悪ガキたちに近づき、そのモコモコした手を伸ばしてきた。
     悪ガキたちは悲鳴をあげてそれぞれの親の元まで走り去った。悪ガキたちが「クマに殺される!」と喚いても、親たちは相手にしようとしない。すぐに遊園地から出るようにせがまれ、親たちは悪ガキたちと一緒に店を出ていく。
     店を出るときも、クマはじっと悪ガキたちを見つめていた。そして出入り口のゲートを抜けるまで、悪ガキたちはクマの視線を感じていた。
     遊園地から出ていく悪ガキたちを見送ると、クマは大きく舌打ちした。
    「チッ!」

     かくして着ぐるみの都市伝説は3人の子どもに癒し難いトラウマを植え付けた。野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)は都市伝説に似せたクマのパペットを右手にはめ、ぴょこぴょことパペットを動かしながら、
    「みんなには、この遊園地に現れたクマの着ぐるみの都市伝説を退治してもらうよ」
     子ども向けの教育番組のマスコットキャラのような口調で説明を続ける。
    「この都市伝説は、普段は善良な着ぐるみさんとして、他の着ぐるみさんたちに紛れて遊園地を根城にしているよ。子どもたちに風船を配ったり、一緒に写真を撮ったり、モコモコの体でハグしてあげたり……遊園地のクマさんを見事に演じ切ってるね」
     一見子どもたちに害を与えるようには思えないが、その着ぐるみには恐ろしい秘密があった。
    「でも問題なのは、このクマさんは中に誰も入っていないのに動いている着ぐるみだってことだよ。クマさんは秘密を知った人間を生かしておくつもりはないみたい。故意でも事故でも、クマさんの正体を知ってしまうとまずいことになる」
     クマに悪戯をした3人は、親たちについて遊園地から出たために助かったらしい。都市伝説は無闇に人前で本性をさらすことはしないようだ。
    「一般人を戦闘に巻き込むのは危ないからね、クマさんをどうにかして人気のないところに誘導できないかな? 子どもたちには積極的に接してくるみたいだから、低学年の人ほど仲良くなれそう。クマさんは悪戯っ子には容赦しないけど、よい子には優しくしてくれるよ。頭を取らない限り、クマさんは遊園地の着ぐるみさんとして振る舞うからね。相手の出方次第では、無理矢理引っ張って行くことも考えた方がいいかもね」
     かわいい遊園地のマスコットの正体は、恐ろしい本性を隠す都市伝説だった。無差別に一般人を狙う訳ではないが、遊園地に潜む脅威として退治しなければならない。
     「モコモコの拳と侮ってはいけないよ!」と、迷宵は注意を促す。相手は『鋼鉄拳』、『オーラキャノン』、『閃光百烈拳』と同じ能力値、効果を持つ技を扱うという。
    「遊園地の楽しい思い出がトラウマにならないように、この都市伝説には退場してもらおう! それとせっかく遊園地に行くんだから、無事に終わったら少しくらい楽しまなきゃ損かもよ?」


    参加者
    洲宮・静流(蛟竜雲雨・d03096)
    千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)
    高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)
    アルマ・モーリエ(アルマース・d24024)
    永星・にあ(紫氷・d24441)
    胡蝶・雹(雪風の呼び声・d24843)
    陽横・雛美(すごくおいしい・d26499)
    暮菜・緋鳥(まだまだ雛鳥・d31589)

    ■リプレイ

    「やっほ~! 皆の友達、雛美ちゃんだよ♪」
     二頭身のピンクのヒヨコ姿の陽横・雛美(すごくおいしい・d26499)は、マスコットキャラらしく周囲の客にテンション高く愛嬌を振りまく。着ぐるみとは違う人造灼滅者なのだが、客たちはかわいいヒヨコの着ぐるみと思い込む。見たことのないキャラクターがいると、客たちは物珍しさに集まってくる。
    「ママ。あのヒヨコさん、カワイイ~」
    「すみませ~ん。一緒に写真撮ってくださ~い」
    「あの着ぐるみのクオリティ、なんかすごくない?」
     客たちが雛美の方に行ってしまい、着ぐるみのクマは風船を手にして1人ぽつんと観覧車の前に残された。どこかしょんぼりしているクマのところに、暮菜・緋鳥(まだまだ雛鳥・d31589)は駆け寄っていく。
    「おー! クマさんがいるっすよ!」
     アルマ・モーリエ(アルマース・d24024)と胡蝶・雹(雪風の呼び声・d24843)も緋鳥の後に続き、クマに記念撮影をお願いする。
    「あら、可愛いクマさんですね。良ければ私達と一緒に記念撮影して貰ってもいいですか?」
     アルマは礼儀正しくにこやかにクマに話しかける。
     そばに寄って来たアルマたちを見たクマは、とてもうれしそうに振る舞う。
    「こんにちは~、おとぎの遊園地にようこそ~♪ もちろん大歓迎だよー」
     クマのメルヘンチックなかわいらしい反応に、アルマは思わず抱きつきたい衝動に駆られるがぐっと堪える。
    「はーい、じゃあ撮りますよー」
     雹はカメラを構え、クマとの記念撮影を始めた。
     高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)と永星・にあ(紫氷・d24441)は、その間に移動を始める。
    「さっすが雛美さん! すごい集客力だ。俺たちも抜かりないようにしないとだね」
    「そうですね……」
     かわいい着ぐるみと触れ合えないのを惜しみながらも、にあは麦の後に続いていく。
     クマを誘導する場所は観覧車の裏側と決めている。裏側へと進んだ先は行き止まりで、表の道からは多少死角になる。クマをその場所に誘い込んだ後、麦とにあは一本道をいつでも封鎖できるように人通りを見張りながらその場に待機した。
     一般人に紛れる千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)と洲宮・静流(蛟竜雲雨・d03096)は、クマに接触する緋鳥、アルマ、雹の3人の様子を見守っていた。
     七緒は売店で買ったホットドッグを頬張りながら、遊園地のパンフレットに目を通す。
    「お! ここのお化け屋敷、面白そう♪ 『呪われた人形の館』だって」
     静流は何か言いたげに七緒を無言で見つめる。七緒は静流の視線に気づき、はっとして弁明する。
    「違うよ! これは自然に振舞う為なんだよ! 撮影班がんばれ! 陽横和む~♪」
    「そうか……」

     何度か撮影係を入れ替えて撮影した後、緋鳥はクマに切り出す。
    「クマさん、お願いがあるんすけど……緋鳥たち、もっと特別な場所で撮影したいので、一緒についてきてもらえないっすか?」
    「特別な場所?」
    「はい、観覧車の裏の方とかいいなと思っていまして……」
     雹があげた撮影場所に対し、クマは首を傾げながら、
    「観覧車の裏? あっちには何もないよ。それより、メリーゴーランドの前で撮った方が華やかに見えると思う――」
     反対方向に踏み出すクマを、アルマは慌てて制止する。
    「いいえ! 私たちは観覧車の裏で撮りたいのです」
     クマがすんなりついてこないのを見越して、静流と雹は次の行動に出る。七緒はクマの背後に回り込むと、クマの頭をがっちりつかんで前後に揺らす。
    「おーい、クマさん元気ー? この中熱くないのー?」
    「わああああああああ!」
     突然の背後からの奇襲にクマは激しく動揺し、風船の束を手放してしまう。クマの頭の上まで浮き上がったところで、静流は風船の束をキャッチしてみせた。クマは風船がなくならずに一安心と思ったが、静流は極悪な笑みを浮かべて、
    「ほらほらー。返してほしかったらつかまえてごら~ん」
    「おっしゃ行こうぜ洲宮!」
     七緒と共に笑いながら風船を奪って走り去る。
    「た、大変っす! クマさんの風船があぁっ!」
    「なんてひどいことをするんだ! 追いかけましょう!」
     緋鳥も雹も他人のフリをしてクマを急かす。
    「こ、こらー! 待て待てー、待ちやがれええええええ!」
     クマはボスボスと風船を奪った2人を追いかけはじめる。それを見計らって、雛美もその場を後にした。
    「雛美ちゃんはこれから本当のお仕事があるから、また後でねみんな!」

    「お、来たな!」
    「あ……」
     麦とにあは、クマと3人に追いかけられる静流と七緒を見つける。静流と七緒は計画通りに観覧車の裏側へと曲がり、クマもその後に続く。クマを誘い込み全員がそろったところで、麦は事前に用意していた『立ち入り禁止』の立て看板やパイロンを設置し、封鎖を終えた。
     行き止まりまで来たクマは、8人に囲まれている状況に気づく。
    「な……! 君たち、何がしたいの?」
     アルマは青い薬瓶を取り出しながら、
    「こんなに可愛らしい姿なのに残念ですね……。ですが、これ以上子どもたちにトラウマを植え付ける訳にはいきません」
     薬瓶の中身を飲み干したアルマの右目には結晶の仮面が現れ、銃士の目付きへと変わる。
    「悪いな、クマ……お前のような存在を見過ごす訳にはいかないんだ」
     静流がそう言って風船を手放した瞬間、七緒の『黒死斬』がクマの頭を狙う。クマの頭は胴体から離れ、頭上高く弾き飛ばされた。膝をついたクマの頭の下には、やはり空洞が見えるだけだった。
     クマは静流の鬼神変の拳で容赦なく突き飛ばされ、鉄柵を背に追い詰められる。麦は頭が外れた状態のままのクマに迫っていくが、クマの構える手に気づく。サイキックエナジーを集中させたクマの手から、麦に向けてエナジーの波動が放出される。波動を受けた麦は強い圧力にのけ反るが、なんとか踏み止まる。
    「やるな、クマさん……!」
     エアシューズを履いた麦は、アスファルトの上を滑りながら見事な跳躍を見せ、クマの体を大きくへこませて蹴り倒す。
    「かわい……くないですね。頭がない状態では」
     にあの視線はかわいいものを見る目から敵を見る鋭いものに変わる。にあの槍が倒れ込むクマの脇腹を大きく切り裂くと、着ぐるみの綿が切り口からこぼれた。
     クマは地面を転がりながらなんとか態勢を立て直そうとするが、すかさず雛美の攻撃にさらされる。
    「本当はお友達になりたいんだけど、しょうがないわね……ここで灼滅させて貰うわよ――!」
     発動したサイキックにより雛美の羽がギラリと光り、クマへの斬撃を狙う。クマはわずかな差で雛美の攻撃をかわすが、雹の『除霊結界』がクマを狙う。クマはアクロバットな動きを見せ、雹の縛霊手から展開される結界から次々と逃れ、なかなか結界内に納まろうとしない。
    「いたずらっ子たちにはお仕置きだよっ!」
     クマは反撃の構えを見せ、雹へと接近しようとするが、アルマの剣がクマの進路を阻む。
    「観念するっす、クマさん!」
     一瞬動きを止めるクマに、緋鳥はバイオレンスギターをかき鳴らして音波による攻撃を行う。音の見えない波動がまっすぐクマへと向かい、衝撃と共に爆風が巻き起こる。爆風と共に跳躍したクマは、体操選手のように体を捻りながらにあの背後に着地する。振り返ったにあに対し、クマはエナジーの波動を直撃させた。吹き飛んだにあは全身を強く打ちながらも地面に槍をついて跳ね起き、クマに反撃を仕掛ける。にあの槍は殺意を持って風を切るが、クマの丸い手にいなされた。
     クマはにあとの間合いを取りながら、
    「君たちみたいないたずらっ子ははじめてだよ! 僕の邪魔をしないでよっ!」
    「そうはいかないのよっ!」
     雛美はクマにつかみかかろうとするが、クマはそれを阻止しようと立ち回る。クマと雛美は互いの両手を押さえつけて睨み合う。
     クマは雛美に気を取られ、背後で振りかぶる静流に気づかない。静流が魔力を宿した杖である『鉄紺』でクマの背中を殴りつけると、中から破裂したように脇腹から綿が吹き出す。杖から流れ込む魔力がクマのダメージを蓄積させる。
    「わああああああ!」
     クマは慌てて広がった切り口を押さえ、雛美の手を放す。
    「クマさんこちら! あそびましょー……ふんっ!」
    「げふっ!」
     動揺したクマは麦の一撃を食らい、縛霊手の霊力によりまんまと両腕を縛られる。
    「着ぐるみなら、きっとよく燃えるんだろうねぇ」
     七緒はそう言うと、シューズのローラー部分に炎を宿し、クマの周りをぐるりと一周してクマを炎の海の中に閉じ込める。
    「うわわわわわわ!」
     灼熱の炎にいぶされるクマに、雹の氷の魔法が忍び寄る。炎までも凍りつく雹の『フリージングデス』は、クマの体にびっしり霜を生やした。
    「灼熱地獄と極寒地獄のダブルコンボとは……胡蝶、なんという鬼畜」
     クマが凍りつく様子を傍観していた七緒の発言に、雹は慌てふためきながら、
    「えぇっ! ぼ、僕はそんなつもりは……」
     凍りつくクマはぎこちない足取りで後退しようとするが、シューズのローラーで地面を滑走するアルマが迫る。足元から炎を巻き起こしながら、アルマはクマの腹の上を走るように宙返りしてクマを押し倒した。クマの体にはくっきりとローラーの跡が残った。
     緋鳥は先輩たちを援護しようと張り切り、サイキックエナジーの光輪を生み出す。
    「行ってください、そろそろ終わりにするっす!」
     分裂した光輪はにあを楯となるように覆い、あふれる光と共に負傷した傷を癒していく。 
    「では……終わりにしましょう」
     にあは槍を構え直すと、起き上がろうとするクマに飛びかかり、クマの胸に深々と槍を突き立てた。にあの一撃を受け、クマはぴたりと動きを止めた。クマに馬乗りになっていた状態からにあが立ち上がると、クマの体と頭は綿毛のように散り散りになり、形を失っていく。
     クマが完全に消えるのを見届けると、静流はため息をこぼしながら、
    「……演技とは言え、悪戯する悪ガキを装うのはちょっと心が痛んだな」
     静流の悪ガキっぷりを間近で見ていた緋鳥は、ノリノリに見えたのは気のせいだったんすかねぇ、という疑問を抱いた。
    「仕事熱心なクマさんだったなあ。とりあえず……やったー! 遊園地満喫しよー! みんなも行くよね?」
     麦はクマの消えた跡をしばらく見つめていたが、すぐに遊ぶ気満々の姿勢を見せる。麦の誘いに対し、アルマは笑顔で答える。
    「そうですね、自分へのご褒美に少し羽目を外してもいいかもしれませんね」
     緋鳥も手を挙げて賛同する。
    「賛成っす、思いっきり楽しまないと損っすよね♪」
     雛美も(見た目はヒヨコだが)女子高生らしく皆と遊ぶことを楽しみにしている。
    「いいわね、どのアトラクションから行く?」
    「まあ、このまま帰るのはもったいないですし……」
     にあはアトラクションに乗るついでに、かわいい着ぐるみたちと触れ合いたいと望んでいた。
    「遊園地は始めてですね、まさかこういう機会で訪れるとは思いもよりませんでした」
     雹の意外な言葉に、麦は目を丸くした。
    「へ~、そうなのか! じゃあ、やっぱりみんなで楽しむしかないよね……て、あれ? 千景くんは?」
     麦が七緒の姿が見当たらないことに気づくと、静流は七緒の居場所について答えた。
    「千景ならお化け屋敷に向かったぞ、1人で」
    「えぇ! 1人でお化け屋敷に行ったんすか?」
     緋鳥は信じられないという感じで静流の言った内容を繰り返す。緋鳥の反応に対し、静流は肩をすくめながら言った。
    「1人でお化け屋敷に行ってみたかったらしいぞ……」
    「そうなんだ~、千景くんなりの楽しみ方だね」
     麦はそう言うと、「まあ、いいか」と気を取り直し、
    「さーまずはジェットコースターから!」
     8人は一時の間戦いの日々を忘れ、遊園地を思う存分楽しんだ。

    作者:夏雨 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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