十月十日

    作者:佐伯都

     ……僕に、その絆を頂戴……。
    「――」
     夢だったのだろうか、昨夜宇宙服のような妙な格好をした少年と、その声を聞いた気がする。しかしそれ以外がどんな内容だったのか、何も覚えていなかった。
     佐倉・麻希(さくら・まき)はしきりに首をかたむけながら、先日病院で貰ったばかりのピンク色のキーホルダーと手帳を、テレビ台の引き出しへしまいこむ。
     もうすぐ夫の浩基(こうき)が二ヶ月の海外出張から、戻ってくる。
     心の底から帰りを待っていたはずなのに今はちっとも心が弾まない。
     大切な話があるのに。喜ぶのだろう、という想像は働くのだが、喜んでそれでどうした、という妙に冷めきった気分でいた。
    「おかしいな……」
     お土産は何がいいと訊かれて、そんなのいらないからちゃっちゃと切り上げて帰ってきて、と自分でも恥ずかしくなるくらい浮かれた気分でいたはずなのに。
     どうして、こんなに心が冷えているのだろう。
     みぞおちの少し下を撫でながら、麻希は夕飯の買い物を済ませようと財布を手に取った。
     
    ●十月十日
    「強力なシャドウ『絆のベヘリタス』に関係しているらしき人物が一般人から絆を奪い、卵を産み付けている事件の事は聞いていると思う」
     成宮・樹(高校生エクスブレイン・dn0159)はルーズリーフを開き、教室に集まった灼滅者達を見回した。
     今回標的とされたのは佐倉・麻希、20代の専業主婦だ。夫の浩基は二ヶ月の海外出張に出かけており不在だが、まもなく帰国する。
    「最も強い絆を持つ相手との絆を奪われた一般人は、同時に頭上へベヘリタスの卵を産みつけられる。絆を奪われた相手――今回は夫の浩基との絆、か。その浩基以外の人間との絆を養分にして卵は成長し、産みつけられてから一週間後に孵化するわけだけど」
     ところがその卵から孵るものは、あろうことか『絆のベヘリタスの新しい個体』。
     ただでさえ強力なシャドウであるベヘリタスが次々孵化するなど、これを悪夢と言わず何と表現すべきだろうか。
    「ただ、卵の養分になった絆の相手に限り攻撃力が減少し、被るダメージも増加してしまう欠点がある」
     灼滅者が麻希と絆を結ぶことができれば、そこをうまく利用して灼滅することは可能だ。
     しかし戦闘開始から10分経過すると、ベヘリタスはソウルボードを通じて逃走してしまう。孵化後は迅速な作戦行動が求められるだろう。
     ベヘリタスの卵はダークネスや灼滅者には目視できるものの、触ったり攻撃することはできない。当然産みつけられた麻希が卵に気付くわけもない。
    「もし絆を結べないまま戦うことになった場合、闇堕ちを複数出してようやく互角かどうかという程度にベヘリタスは強いから、そのつもりで」
     弱体化なしに勝利することは不可能、というあたりの意味だ。
    「今から向かえば、孵化当日の麻希と接触できる。なんでもいい、愛でも憎しみでも感謝でも侮蔑でも、麻希と何らかの絆を結べるよう努力してほしい」
     長い出張を終えて帰国する夫のため、麻希は午前中のうちに近所のスーパーで夕食の買い物をすませたあと、昼前にはマンションへ戻ってくる。
     午後1時半までゆっくり昼食をとってから、徒歩10分ほどの場所にある図書館で何かの調べ物。
    「図書館では育児体験談とかの本が並ぶ区画にいる。何について調べているかの予測が立てられれば、絆を結ぶためのヒントになるかもしれないね」
     4時半には図書館を出て自宅に向かうが、ちょうど自宅マンションの敷地内に入ったところでベヘリタスの卵が孵化する。
     接触する時間帯については、買い物中にスーパーの中で声をかけてもいいし、午後に図書館で調べ物をしている時に声をかけてもいい。不審がられない言い訳が思いつくなら、自宅にいる時間帯に訪問してもかまわない。
     卵が孵化する時間帯、マンション周囲に人目はないのが不幸中の幸いだろうか。前後10分間は車や人が通ることもないので、戦闘中の人払いについて考える必要はない。
     そして浩基が帰ってくるのはさらにその後、夕方5時半だ。彼が帰宅する頃には全てが終わっている、そう思いたい。
     孵化したベヘリタスはシャドウハンターのものに似たサイキックと、不定形の腕を異形化させての縛霊撃と除霊結界に似た能力を持っている。絆を結ぶことが出来れば弱点を突けるとは言え、油断するべきではないだろう。
    「ベヘリタスさえ倒せば、浩基との絆は戻ってくる。絆の結び方や種類によってはフォローが必要になったり、フォロー自体が難しくなるかもしれない。そこを踏まえて、作戦はよく考えてほしい」


    参加者
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    月見里・无凱(深淵揺蕩う紅銀翼・d03837)
    銃沢・翼冷(深淵覗くアステルバイオレット・d10746)
    鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)
    南川・ことな(幻想の一輪花・d17993)
    セリス・ラルディル(澆薄蒼炎・d21830)
    九頭龍・雲母(赤い血の流れる人形・d29352)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)

    ■リプレイ

    ●午前9時48分
     カメラ付きのドアホンを鳴らし、結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)はひとつ深呼吸した。
     五階建ての角部屋、301号室。
    「こんにちは、はじめまして。ここの管理人の姪の静菜と言います」
     温泉旅行のお土産をお裾分けにきました、と端的に目的を告げると、すぐに麻希が出てくる。
     静菜は麻希の頭上に浮かぶ、奇妙で、そしておどろおどろしい配色のベヘリタスの卵を一瞬見やった。当然、麻希にそれが見えているはずがない。
    「すみませんちょっと手が塞がっていて……お好きな物を取って頂いてもいいですか」
     菓子折を差し出すと麻希は疑いもせず蓋を開け、……ぴよぴよと元気いっぱいのひよこがみっしり詰まった中身に、驚愕のあまり蓋を放り出した。
    「や、もー……あーびっくりした!」
    「驚かせてごめんなさい。生まれたばかりの楽しく元気な縁起ものも、お裾分けです」
     特に機嫌を害した様子もなく、麻希は静菜が別に取り分けておいた紙袋を受け取る。しかし、その上に載せられたピンク色のひよこぬいぐるみに心底不思議そうな顔をした。
     その反応に、もしかして、と静菜はある可能性に思い至り表情を強ばらせる。しかし麻希はそれ以上不審な顔はせず、可愛いですね、とすんなり一緒に受け取った。
     それじゃ、とドアを閉じた静菜は急いでマンションの階段を降りる。あの反応からすると、麻希はまだ誰にも妊娠の話をしていないのではないか。
     手帳を交付されたばかりでまだ体型の変化が現れる時期でもない以上、少々個々の作戦を変更する必要がありそうだ。

    ●午前10時24分
    「まったく、人の絆を踏みにじるような手口は到底受け入れられぬな」
    「確かに。しっかし分かんないよなァ……なんで絆結んだ相手には弱くなるんだろ」
     闇纏いで銃沢・翼冷(深淵覗くアステルバイオレット・d10746)のそばに立った鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)が、野菜売り場のほうから姿を現した麻希に気がつく。
     そのまま翼冷の傍を離れ、一般人に見咎められることもなく神羅はスーパーの中を進んだ。
     あえてストーカーを装う予定の月見里・无凱(深淵揺蕩う紅銀翼・d03837)はまる一日つけ回す勢いだったのだが、さすがに余計な騒ぎを起こしかねない。
     それに麻希へ過剰なストレスをかけて何かあったら本末転倒、ということで図書館からの帰路を狙ってもらうことになった。
    「……」
     マネキンの派遣アルバイト、という風情で育児用品のコーナーに立つ翼冷が麻希の動向を見守る。買い物カゴを持った南川・ことな(幻想の一輪花・d17993)が声を掛けるタイミングを伺いつつ、麻希のすこし後ろを歩いているのが見えた。
     スーパーの出入り口に置かれていた料理レシピのチラシを何枚か眺めながら考え込む顔をしている麻希に、ことなが声をかける。
    「献立、お悩みですか」
    「え……まぁ、はい」
     多少、心ここにあらずといった表情で麻希は曖昧に笑った。
    「私もちょっと悩んでるんですよね。参考にお聞きしてもいいですか?」
    「夫が出張から戻るので、好きなものをと思ったんですけど」
     外食も多かったでしょうしあまり栄養が偏るのもなと思いまして、と続いた声にことなは明るい声をあげる。
    「そうですよね、妊娠した親戚が、お腹の赤ちゃんにいい食べ物をってよく言います」
     麻希から妊娠の言葉を引き出すのではなく、あえてことなは自分から核心に触れた。
    「確かほうれん草とか黄卵、あとは鶏レバーとかでしたっけ。ほうれん草のおひたしとか、よく食べているようで」
    「ああ、そう……そう、ですね。久しぶりにほうれん草のキッシュでも焼こうかな」
     丁度『本日の特売品』の札がついていたほうれん草の束を手に取り、麻希はそのまま買い物カゴへ入れる。 
     そのままいくつか雑談を交わして、ことなは麻希と別れた。
     わかりやすい『妊婦』のサインが全くないので多少やりにくいが、手帳と一緒に自分にしかわからない場所へしまいこんでいるという事は、やはり絆を奪われてしまってはいても夫に一番に知らせたい、という気持ちはあるのかもしれない。
    「あ、どうぞそこの若い奥さん、お気軽にご覧くださーい」
     野菜売り場から精肉コーナーへ移動してきた麻希へ、フロアの中央に並んだ棚の横から翼冷が声をかけた。育児用品の棚に並んでいた、おしゃぶりやお尻拭きといったアイテムをにこやかに手に取ってみせる。
    「俺ベビーシッターのバイトも掛け持ちしてるんですけど、この商品、本当に良いんですよ」
     さすがに育児用品は近々必要になる事もあり興味を惹かれたのだろう、思わず翼冷が見せていたおしゃぶりを眺めていた麻希に、セリス・ラルディル(澆薄蒼炎・d21830)がすかさず声をかけた。
    「おや、もしかして新米妊婦さん、かな」
    「え? ええと、はい、そうです」
    「なるほど。実は、授業の一環でボランティア活動をしている。もし其方がよければ、後ほど荷物持ちをひきうけよう」
     いえまだそんな時期ではと慌てて申し出を固辞する麻希に、セリスは心配そうな顔を向けもうひと押ししてみる。
    「確かに早い時期とは思うが、同時に大切な時期だろう? お腹の中の子供も、体も大切にしなければ」
    「それは、そうですが」
    「ならば決まったな。こう見えて、腕力には自信がある、ぞ」
     何しろ灼滅者なので、という言葉をセリスは飲み込んだ。その場は翼冷に任せて、セリスはレジ付近で麻希を待っていることを告げいったん離れる。
     昨今人心が冷えたと思うような事件も多いが、思いがけない所で親切を示され、嬉しいと感じない層は流石に少ないはずだ。セリスの背中を眺めながら麻希が少し笑顔を浮かべたことに翼冷は少しほっとする。
    「まだ学生さんみたいですけど、ベビーシッターのアルバイトまでされているんですか?」
    「はい。預かってる赤ちゃんが気持ちよさそうにすやすや寝てるのを、帰ってきたご両親が本当に嬉しそうに見るんですよね……♪」
     ことなと合流した神羅は、世間話をまじえつつ意外に麻希と翼冷の会話が続いている様子を見て苦笑した。
    「意外と仲良さそうですね」
    「見かけによらない……かどうかはわからぬが、悪い事ではない」
     少なくとも、絆のベヘリタスに対抗するためには。

    ●午後2時4分
     無事麻希の買い物が終わったところを見計らってセリスが自宅マンションまで荷物持ちにつきあい、時刻は午後に移る。
     提示された情報通り2時少し前に図書館へやってきた麻希を、九頭龍・雲母(赤い血の流れる人形・d29352)と若桜・和弥(山桜花・d31076)は育児関連の書籍が並ぶ棚の付近で待っていた。
     雲母はトランプを散らかし、かつ特定のカードを麻希の足元へ滑り込ませてトランプ占いの話題を振るつもりだったが、さすがにここでトランプをばらまくのは相当顰蹙を買いそうなので断念する。
     本棚のわきへ置かれたスツールに腰掛けて、雲母はそっと彼女の様子を伺った。雲母が座った位置とは反対側の本棚の影から、せわしなく視線をさまよわせて和弥がやって来る。
     『新米妊婦の心構え』と表記された本を麻希が手に取ろうとした所へ、和弥はすかさず腕をのばした。
    「すみません。どうぞ」
    「いえ、私は姉の子供のための勉強なので。先にどうぞ」
     ひそひそと小声で譲りあいつつ、和弥は会話の糸口を探る。
     妊娠したものの夫への気持ちが冷えた、という何ともデリケートな話題を向こうから切りだしてもらうのは、想像してはいたもののやはり難しいようだ。気の置けない長年の友人ならばともかくとして。
     ESPで『初対面の赤の他人』よりかは幾分マシなはずだとにらみ、和弥は本を抱えた麻希と一緒に机やベンチが並ぶ閲覧スペースへ移動しながら、ことなやセリス同様自分から核心を切り出すことにする。
    「マタニティブルーとか言うんでしょうか、急に悩み事が増えたり、それまであった熱意みたいなものがスッと消えてしまう事があるみたいですけど」
    「……」
     一瞬麻希の表情が強ばったのを見逃さず、和弥は安心させるように柔らかく微笑んだ。しんと静まりかえった図書館の空気を乱さぬよう、小声になるよう努める。
    「テスト勉強してると部屋の片づけをしたくなる、みたいな。緊張が続くと、心が勝手にバランス取ろうとするらしいですね」
     そのうち戻りますよと請け負った和弥へ、麻希は困ったように笑った。何か和弥が一方的に話しかけている構図だが、時折小さく首肯したりするので、言葉はないもののきちんと聞いてくれているのはわかる。
     おそらく、場を考慮して声を発さないようにしているだけなのだろう。
    「気持ちがふわふわしていたら調べ物にも身が入らないでしょうし、前向きに前向きに」
     そうですね、と最後に麻希は小さく笑って和弥に頭を下げた。
     閲覧スペースは貸し出しカウンターや広いエントランス、絵本を読みあう子供の声が聞こえる児童書のスペースが近い場所にある。和弥が麻希と別れたのを見計らい、雲母は小走りに背後から近づいた。ここなら、迷惑行為には違いないが長居せずすぐ外に出てしまえばよいだろう。
     麻希を追い抜きかける所で雲母はわざと転倒する。
    「大丈夫ですか」
     すぐにしゃがみ込んで気遣う麻希に、平気、とだけ短く言って雲母は顔を上げる。
    「旦那さん……いるのですか」
    「は?」
    「旦那さん……いい人……なんですね」
     トランプは全部ばらまかずに、ハートのKとAだけを袖の中に仕込んであった。麻希の足元に落ちたカードを拾い上げ、雲母は淡々と続ける。
    「あなたの……足元に落ちた……ハートのKとAで……深い愛情を持つ男性……です」
     言うだけ言ってそのまま外へ出て行く雲母を、麻希がどんな表情で見ていたかは、誰も知らない。
     そのあと、太陽もずいぶん傾いてきた頃合い、无凱はフォロー役の神羅と共に麻希が図書館から出てくるのを待っていた。
    「最愛の恋人を失ったショックで精神病んじゃった僕が偶然見かけた恋人そっくりな別人に言い寄るとか、設定完璧でしょう!」
    「多少他の部分も完璧すぎる気がするがな」
     髪はぼさぼさ、長めの前髪と視線を遮る眼鏡のせいで顔が見えにくいうえ、色々とノリノリすぎて正直真性っぽくて怖い、とまさか口に出すわけにはいかず、神羅は无凱から見えない所で小さく溜息をついた。
     ともあれ、ここから先はベヘリタスの孵化までもうすぐだ。……戦闘後のフォローを无凱が他メンバーに押しつける気満々な所も気になるが、麻希との接触からその後の戦闘へ集中すべきだろう。
     本は借りずにきたのか、図書館を訪れたときと変わらぬ身軽な姿で麻希がエントランスから出てくる。
     无凱は極力邪魔が入りにくいタイミングを狙い、そのまま麻希の少し後ろを追う。長く、ゆるいカーブで道の両端からは見えにくくなる箇所にさしかかった所で、无凱は電柱の陰を離れた。
     突然背後から駆け寄られたあげく无凱に抱きつかれ、麻希が瞠目したまま固まる。
    「マキ? マキだね……生きていたんだね、やっぱり嘘だったんだ……よかった!」
    「は!? あ、貴方誰ですか……」
    「あんな事故、僕たちを陥れるための嘘だったんだ、マキ、さあ一緒に帰ろうね」
     ぼさぼさ頭の无凱に譫言めいた声で呟かれ、麻希は真っ青になったまま恐怖のあまり動けない。
     こっそり苦笑しつつも、ここらが潮時かと判断し、神羅が二人の間に割って入る。麻希に対してのインパクトは間違いなく絶大だ。
    「マキ、子供もつくろうね! ちゃんとお父さん出来るかな? 大丈夫、マキなら素敵なおかーさんになるよ!」
    「そこな方! 街の往来で、女性に対し余りに失礼な振る舞いでは無いか!」
    「きっとマキに似て可愛いんだろうなぁ! 今から待ち遠しいよ!」
     おかまいなしに妄想をぶちまける无凱から麻希を引きはがした神羅は、大丈夫か、と怯えきった麻希を背後に庇う。
    「見兼ねて横から口を出してしまった。もし無用の事であったなら、申し訳ない」
     しかしよほど恐ろしかったのだろう、麻希はそのまま自宅マンションがある方向へと駆けだしてしまった。
    「さて、感動のご対面ですかね」
    「そうだな。行こうか」
     一瞬で灼滅者の顔に戻った无凱になかば感心しつつ、神羅は彼と共に麻希を追う。

    ●午後4時41分
     マンションの敷地内へ逃げ込んだ麻希が、もう无凱が追ってこないことを確かめようと背後を振り向く。
     その瞬間、麻希の頭上でぶくぶくと卵が泡立つように膨れあがった。当然彼女がその異変に気付くはずもない。
     金色の仮面と、その耳朶へ金環をかざったような異形が泡の中から湧きだしてくる。
    「麻希さん!」
     駐車場に並んだ車の影に身を潜めていた静菜が飛び出し、そのままマンションの塀の向こうへ連れ込み魂鎮めの風で眠らせた。
     広さは十分、しかも人目を気にせずともよい保証が与えられている。ならば残りの10分は灼滅者の独壇場だ。駐車場に身を潜めていたことなや翼冷らがカードを開放し、一瞬で包囲網は完成する。
    「やぁべへリタス。これで3度目かな、お前と顔を合わせるのは……相変わらず酷いことしますねぇ」
    「攻撃重視であるからこそ、守りが肝要となる!」
     雲母を守るように前へ出た神羅を黒い鉤爪が襲った。
     サイキックでの相殺を狙い振り上げた縛霊手に一瞬鉤爪が引っかかるが、はじき飛ばされたのはベヘリタスの方。
     セリスの足元、Azulから青い炎が上がりベヘリタスを包み込む。
    「蒼炎よ、走り駆けろっ!」
    「痛いの痛いの……飛んでけー!」
     次いで、ぶよぶよとした体躯を雲母の漆黒の弾丸が撃ちぬいた。
     卵の養分になった絆の相手に限り攻撃力が減少し、被るダメージも増加してしまう欠点。
     事情が事情ゆえに麻希の反応は少々わかりにくかったとは言え、多様な絆が結ばれていたことは、強敵であるはずのベヘリタスが確実に削られていく事実に見てとれる。
     だいたい、種の保存とか勢力の拡大とか。
     灼滅者の立場として色々な意味で言いたい事はあるものの、種の保存やら勢力拡大やら、それそのもの、に和弥はケチをつける気はないのだ。猛獣が草食動物を狩るのが自然の摂理であるのと同じで。
     ……ただ。
     方法が駄目だ。どうしようもなく駄目だ。
     8対1という数、そして絆の強さによってダメージも増加する不利に従いベヘリタスは追い詰められる。
    「返せ。それは、アナタのモノじゃない」
     その呟きはその場の灼滅者たちの心情を代弁していただろう。低い声と共に放たれた和弥のティアーズリッパーが、金色の仮面を両断した。
     リミットの10分を待たず敗れ去ったベヘリタスの残滓は、風にさらわれ跡形も残らない。
     これで何もかも元通り。1つの家族を守り通せた安堵に神羅はほっと肩の力を抜くも、……麻希のフォローに少し頭痛を覚えたのだった。

    作者:佐伯都 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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