みんな、シチューまみれになってしまえばいいんだ

    作者:聖山葵

    「みんな……ま……に……てしま……いいんだ」
    「誰?」
     かすれた声が聞こえた気がして、少女は周囲を見回した。
    「誰なの? ……それにここはそもそもどこよ?」
     薄暗い闇の中、知覚できるのはブツブツと呟く先程の声のみ。
    「……なってしまえばいいんだ」
    「え? 何、聞こえないもっとはっきり――」
     抜け出すこともそこがどういう場所かを知りうることも出来ないのだろう少女は、声の主に呼びかけて。
    「みんな、シチューまみれになってしまえばいいんだ」
     今度ははっきりと聞き取れた言葉と、漂いだしたホワイトソースの良い香り。
    「なっ」
     はじかれた様に振り返ればそこには寸胴から手足を生やす様に着こんだ少女がお玉で寸胴の中のシチューをすくい、敵意の篭もった視線を向けていて。
    「うおおおおおおっ」
    「い、嫌ぁぁぁぁぁぁ」
     少女は寸胴鍋少女からシチューを体中にぶっかけられたのだった。
     
    「一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしているようなのだよ」
     座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は教卓にタッパーを積み上げながら、集まった灼滅者達にそう告げた。
    「通常ならば闇堕ちした時点でダークネスの意識が現れ人間の意識は消えてしまうものなのだが、今回のケースではまだ人の意識を残していてね」
     つまりダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない状況らしい。
    「とはいえ、猶予はあまり無い。放置しておけば完全なダークネスとなってしまうのは間違いない」
     故に「もし彼女が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しい」と言うのがはるひの依頼であった。
     それが叶わぬ時は、完全なダークネスになってしまう前に灼滅を。
    「もちろん前者の方が良いに決まっているのだがね」
     問題の少女の名は、御柱・舞花(みはしら・まいか)。
    「高校一年の女子生徒で、シチューをご飯にかけて食べるのを馬鹿にされたのが全ての始まりだったようなのだよ」
     舞花の味方は誰も居らず、闇堕ちしかけた少女は自分を馬鹿にした同級生達のソウルボードに侵入しては、よくわからない謎空間でただひたすらシチューまみれにされる悪夢的なモノを見せると言ったことを繰り返している。
    「嫌な夢を見せるに留まっているのは、人の意識を残しているからなのだろうがね、この悪夢に関しては私も理解に苦しむよ」
     ともあれ、はるひによると少女を馬鹿にした全員がこの悪夢を見せられる前に、一度だけバベルの鎖に引っかからず、舞花と接触出来るタイミングがあると言う。
    「舞花は夜は級友達に悪夢を見せつつも毎日ごく普通に高校に通っているのでね。接触場所は朝の通学路となる」
     時間帯を考えると人の目が気になりそうなところだが、休耕中の畑の側にある農道であれば人よけはいらないとのこと。
    「荒れて草が生え放題の畑なら、しゃがめば身を隠すことも出来る、待ち伏せにはうってつけだ」
     戦いになれば舞花は悪夢を見せていた時同様のシチューがいっぱい入った寸胴を着こんだような格好に変貌し、シャドウハンターのサイキックだけでなく、シチューを操って影業のサイキックに似た攻撃で応戦してくる。
    「舞花を救うには知っての通り戦闘は避けられないのでね」
     闇堕ちした一般人を救うには戦ってKOする必要があるのだ。
    「また、闇堕ちした一般人の……人間の心に呼びかけることで戦闘力を削ぐことも出来るのだが」
     今回のケースの場合、説得に言葉は不要とはるひは言う。
    「このタッパーだが、中身は白飯なのだよ」
     戦闘中に少女の操るシチューをこれにかけて食べること。それこそが何よりの説得であるとはるひは言った。
    「彼女を闇に堕とさんとしたのは、級友達の心ない言葉もだが、一番は味方の居ないという孤独だったようなのでね」
     仲間の存在が、己のダークネスに抵抗する力となると言うことなのだろう。
    「ちなみに具材についてリクエストした場合、舞花は応じてくれる」
     シーフードと言えば、攻撃がシーフードシチューに、肉派を名乗ったならば肉入りのシチューと言ったように。
    「色々言いたいこともあるかも知れないが、これも彼女を救う為だ」
     宜しく頼むよと頭を下げ、はるひはタッパー君達に託すと教室から送り出すのだった。
     


    参加者
    水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607)
    神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)
    桐城・詠子(逆位置の正義・d08312)
    水走・ハンナ(東大阪エヴォルヴド・d09975)
    霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)
    月叢・諒二(月魎・d20397)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    睦沢・文音(インターネットノドジマン・d30348)

    ■リプレイ

    ●張り込み中
    「う……」
     緑色の服に身を包み、お腹を押さえて蹲った水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607)は、お腹ぺこぺこなうと漏らした。どうやら朝食を食べていないらしい。
    「熱々ご飯にシチュー……これぞ至高で、日本のスタンダード!」
    「Yes、シチューオンザライス」
     テンション高く水走・ハンナ(東大阪エヴォルヴド・d09975)の声に呼応した月叢・諒二(月魎・d20397)は親指を上向きに立てて同意を示し。
    「食事って大事なんだ。モロに生き方が出る。好き嫌いもそうだし、食べ方も、場所も、時間も、他にも――」
    「……そう思ってた時期が私にもありました」
    「え?」
     語り始めた直後に起こったハンナの掌替えしに思わず動きを止めた。
    「今でも思ってるけどね! だって美味しいんだし」
    「ン、そんならよかった」
     まぁ、それもフェイクであった訳だが。
    「とにかく、後は問題の子がやって来るのを待つだけだわ」
    「そうですね」
     よく分からない掛け合いをやったハンナが周囲を見回せば、草むらに潜む睦沢・文音(インターネットノドジマン・d30348)は頷いて合羽姿のまま頷いて視線を農道の先へと戻した。エクスブレインの情報通りなら、これからやってくるはずなのだ、シチューがなみなみ入った歩く寸胴鍋じゃなくて闇堕ちしかけている少女が。
    「しかし、キッカケは些細な事ですが人との違い、孤独ですか……」
     それはきっと心を闇に傾けてしまう程の絶望なのでしょうねと桐城・詠子(逆位置の正義・d08312)は緑の布を纏いつつ、呟く。
    「……ご飯の上にホワイトソースって、ドリアも同じ事をしているのに……、意外と心の狭い同級生だったのですね……」
     仲間の言葉に説明された少女の闇堕ち理由を思い返しつつ神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)は持参したご飯の保温容器を抱えながら口を開き。
    「人影が見えたよ」
     声を上げたのは、仲間同様畑に屈んだ姿勢の黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)。
    (「そのようですわね」)
     草の影に身を隠す霞代・弥由姫(忌下憬月・d13152)からも、それは見えた。
    「ふわあぁ、いかんな。昨晩は夜更かしが過ぎたかもしれん」
     口を押さえてあくびしつつ農道をやって来る女子高生は、闇堕ちしかけているとはるひの言った御柱・舞花に間違いはなく。
    「ま、これも仕事だしね」
    「っ、何奴?!」
    「うん、まぁ、何にせよやることは変わらないけどね。僕が来た理由はシチューを食うのがメインじゃない」
     何かを割り切ったハンナが草むらから飛び出せば、これに倣った諒二は頷き、突然進路を塞いだ見知らぬ顔へ驚き身構える舞花へ告げる「君が人のままでいるために来たんだ」と。

    ●そして、はじまる
    「馬鹿にされて許せない気持ちになるのは私にも痛くわかる。でもその行為はシチューライスを貶める事になるわ」
    「何?」
    「そんな愚行に走る前に止めてみせる! 世の為人の為、そしてシチューライスの為!」
    「……そうか」
     灼滅者達によって形成された包囲陣の中、ハンナのかけた言葉に聞き返した少女は、ポツリと漏らすと姿を変え始める。学校の制服が消滅し白い太もも二の腕が露わとなり胴体のみを着込んだ寸胴鍋で隠す姿へと。
    「理由は知らぬが、こちらの事情をある程度知っていてなおかつ私を止めに来たか。面白い、止められるものなら止めてみると良い」
    (「ポテンシャルはご当地でしょうか」)
     文音にそんな感想を抱かせるほど、台詞のシリアスさに反しシュールな姿だった、ともあれ。
    「ソウルアクセスは不要だったようですわね」
    「ですね」
     まぁ、必須だったらシャドウハンターが参加しなかった時点で詰むので、是非もない。
    「運・命・浄・化!」
    「準備は済んだようだな。ならば、ゆ」
     空気の孕む緊張は高まり、スレイヤーカードの封印を解く灼滅者の前で元少女がどこからとも無く取り出したお玉を着込んだ寸胴に突っ込もうとした瞬間。
    「ヒャッハー! 孤立無縁な生活は今日で終わりだぁ! 俺らは手前の嗜好を拒絶しねぇ! だからとっとと倒されて元に戻れやぁ!!」
    「な」
     カモフラージュの枝や草を払い除けて登場した三成に、僅かだが舞花の動きが止まる。生まれたのは、誰の目にも明らかな隙。
    「ではそのふざけたシャドウをぶちのめしましょうか」
     そこから、攻撃は、始まった。
    「待ってましたー! お腹空いてたのよね」
    「参りますわよ」
     口元をつり上げた梢が純白を操り、炎を宿す断罪斧を振り上げた三成からの退路を遮断すれば、弥由姫はご飯のタッパーを片手に妖の槍を持つもう一方の手で穂先へ捻りを加えながら突きかかる。
    「っ、ご飯?」
     三成の動きにあわせた連係攻撃に遭った元少女は、声に弾かれたように弥由姫の方へと振り返ると手にしていたご飯入りのタッパーに目を留め、動きを止めた。
    「タッパーで足りぬ時のために炊飯器は用意してあるんだ」
    「何……だと? そなたらはいった――なはぶっ」
     ここぞとばかりに諒二が炊飯ジャーを掲げれば、驚きに目を見開き、棒立ちになった舞花は連係攻撃の一撃目がモロに入って吹っ飛んだ。
    「うぐっ、ぎぃっ」
    「そぉら、パスだぁ!」
    「がっ」
     吹っ飛んだ先で鋼糸に突っ込んで斬られ、よろけたところを次の一撃でボールか何かのように次の灼滅者へと。
    「ぬおっ、とっとっぐあっ」
    「注意散漫だね」
     死角からすれ違いざまに腱を斬り裂いて柘榴は呟き。
    「おのれっ、ご飯に一時目を奪われたが、ただで済むと思うなっ!」
     寸胴をちょっと凹ませながらも転倒は免れた斬撃の被害者は、自らの着込む鍋の中にお玉を突っ込むと一声吼えるなり掬い出したシチューを触手に変えて嗾けた。
    「仲間に攻撃を届かせるわけにはいかない、あのシチューは僕が受け……ちょっ押さないで!」
    「私にシチューを食わせろー!」
     それは、諒二からすれば自分や仲間の誰かを傷つけかねない危険なモノであったが、同時にシチューを待っていた者達には、ようやく振る舞われた最初の一杯でもあったのだ。
    「自分から攻撃に? 何故……」
    「あの、羊肉のシチューなんてあるのでしょうか?」
    「羊肉? 羊肉か、リクエストされたなら応えん訳にはい……リクエスト? まさか」
     真意を測りかねあっけにとられた元少女が灼滅者達の目的を理解したのは、詠子から白米のタッパーを見せつつ問われたのがきっかけだったと思われる。
    「そなたらシチューライスを食ばべっ」
     勿論、詠子も質問するだけではなく、影を宿した縛霊手を顔面に叩き込むついでであり、従えたライドキャリバーのヴァンキッシュも仰け反った舞花へきっちり突撃して勤めを果たしている。シチューを食べるのは言葉無き説得の為であって、主目的ではないのだ。
    「こんな、シチューで誰かを傷つけるようなことが本当にあなたのやりたかった事なんですか!?」
     ただ、結局に絡み付いたシチュー触手の一部を頂戴してご飯にかけながら、文音は敢えて呼びかける。
    「あなたのシチューが泣いています!」
     呼びかけ、はふはふ口からシチューの熱を逃していた。

    ●何よりの説得とは
    「どういうことだ、私を止めに来て何故シチューライスを食べる?」
     動揺を隠せず口から呟きを漏らす寸胴鍋娘の疑問に、三成は決まってンだろと笑う。
    「シチューにご飯は何ら可笑しな事はねぇってことだ!」
    「っ」
     求めていた誰かからの肯定というモノを唐突に突きつけられた元少女は、言葉を失った。
    「そーそー、武蔵坂のみんなは舞花さんのこだわりを否定しないよ」
     補足する柘榴の手にもシンプルなクリームシチューのかけられたご飯入りのタッパーがある。
    「シチューぶっかけなんかに絶対、負けたりしない! かけてくるならかけてきなさい!」
     それは、シチューをかけられ、かわりに言葉をかける戦い。
    「では、遠慮なく」
    「アッー!!」
     ある意味シュール極まりなく。
    「うわぁ、べとべとぉ……おまけに、熱いぃ……。でも美味しい……クセになりそぉ……」
     律儀にリクエストへ応じる形になった舞花操るシチューにぶっかけるというか飲み込まれる形で全身シチューまみれになったハンナがお子様には見せちゃいけない姿にされ。
    「ちょ、ちょっと待て、何て格好してやがる」
     そのテのモノに耐性のない三成がパニックに陥りかけたりしたが、それはそれ。攻撃が最初からそう言う方面でも対応出来るラインナップになっていたのである。
    「まあこれだけ食べといてなんだけど人前でやるには躊躇するねこれ。そりゃ美味しいけどね?」
     と言うコメントの中で諒二が躊躇する理由はきっと、これではないと思いたい。
    「お腹はまだ減ってるけど、触手とか服破りは勘弁なんだぜ」
    「くっ」
     ともあれ、服のあちこちをはだけさせたシチューまみれの仲間から視線を逸らし、梢はビーフシチューをかけたご飯を口元に運ぶと冷気のつららを撃ち出して元少女を牽制する。
    「えぇ、そうですね。私もあれはちょっと……」
     そもそもが敵の矢面に立つディフェンダーの詠子としては他人事でない。であれば、解決方法は一つ。内なるダークネスをさっさと倒して戦闘を終わらせ、舞花を救い出すのみ。
    「たかだか学校の中の小さな枠の中で少数派だったからといって何だというのです。世の中は広く、食事の好みなどそれこそ千差万別。むしろ他人の食べ方を容認できない周囲の器量の狭さを嘲笑いながら、堂々とシチューをかければ良いのですわ」
    「狭量さを、笑う?」
     灼滅者達の言葉はシチューをご飯にかけて食べる姿と相乗効果を発揮し、確実に少女の心へ届いているようでもあった。
    「……あ、私はシーフードで……できれば帆立を多めに」
    「う、うむ。熱いので気をつけてな」
    「まぁ、ありがとうございますわ」
     自身の言葉を反芻する寸胴鍋娘へリクエストした弥由姫は、持参のタッパーにシチューをよそって貰うと礼の言葉を口にし。
    「はぁっ」
    「うおおおおっ」
     戦いを忘れたかの様なほのぼのとしたやりとりは次の瞬間、武器と武器のぶつかり合いへと姿を変える。振り上げたマテリアルロッドが、寸胴鍋に叩き込まれる直前でシチューの触手にいなされて空を切り。
    「やります、わねっ」
    「そなたも、な」
     下から打ち上げるように変化させた一撃と触手がぶつかりつばぜり合いの形を作り出す。ただ。
    「オラァ! こっちにもあっつあつのシチューを頼むぜぇ! まだまだ白米は沢山あるんだからよぉ!」
    「くっ」
     弥由姫は一人で戦っている訳ではない。舞花の動きが止まれば、それは仲間が攻撃を叩き込む隙に繋がるのだ。
    「その運命、浄化するわ!」
    「がっ」
    「誰かに馬鹿にされたって、シチューライスが美味しいと思ったあなたの気持ちは、間違いなんかじゃ無いと思います!」
     がら空きの背中へお子様には見せられない格好の誰かが出現させた逆十字に引き裂かれ、バランスを崩した元少女は、味方へ符を飛ばして傷を癒す文音の声を聞いた。もぐもぐ咀嚼しつつだった気もしたが、それは間違いなく、自分へのエールで。
    「煮溶かした玉葱と歯応えのある玉葱、鶏肉のシチュー一丁!」
     続いたのは、きっと新しいリクエスト。
    「私は……間違って、いたのか」
     蓄積したダメージからか、別の何かからか寸胴鍋娘の膝が折れる。
    「ちなみに、今回は食器が無いのでアレですが、個人的にはシチュー皿の方にご飯を入れるスタイルをお勧め致しますわ。ご飯茶碗が汚れない、シチューに浸す加減を調節できる、他におかずがある時には無傷の白米を確保しておける等々……色々とメリットがありましてよ」
    「つーかシチュー使ってリゾットというか雑炊というか、そんな感じの食べ物作ると超絶うまいんだぜー!」
    「こんな通りすがりの襲撃者さんですらシチューライスを愛し、各々の意見を持っているというのに、私は何を勝手に決めつけていたのだ……くっ」
     どことなくツッコミどころが散見されることを口にしつつ、元少女が己の過ちを認めた時その身体から発せられる威圧感は大幅に弱まり。
    「大丈夫、まだ引き返せるよ。だから、シチューは他人にかけるんじゃなくて、ご飯だけにしよ?」
     呼びかけを続けながら、柘榴は高速で舞花の死角へ回り込んだ。
    「守護を引き裂き蹂躙せよ! ティアーズリッパー!」
     ギャリギャリと音を立てて寸胴鍋は斬り裂かれ、切れ目から中身が零れ出すことで鍋の中、シチューに隠されていた豊かな双丘が露わになる。
    「っ、きゃぁぁぁ」
    「御柱さん! あなたは一人なんかじゃありません! 私達は、きっと分かり合えます! あ、おかわりお願いします!」
    「ちょ、ちょっと待ってくれ。今、そう言う場あ」
    「行きましょう、ヴァンキッシュ」
     思わず胸を隠し、それでもマイペースに説得がてら追加のシチューを要求した文音へ叫ぶところだった元少女にはライドキャリバーの機銃が向けられていて。
    「う……し、ちゅ……ぐふっ」
     との連係攻撃から始まった集中攻撃に畳みかけられた寸胴鍋娘は元の姿に戻るとポテッと畑の土の上に倒れ込んだのだった。

    ●ご馳走様でした
    「もう無理、食べれない」
     救出した少女とは別に梢は畑へ横たわっていた。シチュー食べ過ぎなう、である。
    「とりあえず、ボクはハンナさん綺麗にしておくね」
     柘榴はモザイクが必要そうな状態の約一名を引っ張り丈の長い草の茂る方へと連行していった。ESPのクリーニングで綺麗にする為だ。
    「……世話をかけたようだな。得にさっきの彼女については何と言ったらいいか」
     そして、救出された少女は自分のやらかしたことをまざまざと見せつけられたからこそ、本当に済まないと灼滅者達へ頭を下げていて。
    「救ってくれたと言うことも、感謝にたえない。私は、どう」
    「我々と来ませんか? 武蔵坂学園に……」
     更に続けようとした言葉が遮られた少女の視界へ入ってきたのは、差し出された三成の右手。
    「っ」
    「感謝って言うけどね、君が人のままで居てくれたからそれで僕達には充分なんだよ」
     一緒に行かないかい、と諒二もまた少女へ声をかけて。
    「ふふっ。それで、報いることになると言うなら――」
     舞花は差し伸べられた手をとった、ただ。
    「これで一件落着ですね。あ、水走さんが綺麗になったらまたシチューライス食べましょうか?」
    「あぁ、申し訳ないのだが……今の私にはもうシチューを出すことは出来なくてな、その、何というか……」
     文音の提案へは申し訳なさそうに恐縮して謝罪の言葉を口にすることしか出来なかったのだけれど、食べ過ぎで倒れてる約一名にはむしろそれで良かったのかも知れない。
    「では、シチューライスはまた今度ですね」
    「ああ」
     こうして一人の少女が救い、一行は帰路につく。誰も居なくなった畑にほんのりホワイトソースの香りを残したままで。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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